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■オープニング本文 ●試験ですって! 五行が青龍寮、五行王の架茂が訪れてから暫く‥‥平穏な時間だけただ過ぎていた。 がそれもまた側近引き連れる彼の突然の来訪によって打ち崩される訳で‥‥。 「時間がない、故に早いが今日から一週間以内に進級及び卒業試験を行う」 「そんな急に!」 果たして響いた第一声に寮生達の誰もがそんな理不尽な、と思ったのは当然で。 まぁ細かくは各寮毎に進級及び卒業試験は寮長に一任されてはいるが抜き打ちにも近い形は過去から今まで、行われたのは確か稀な筈で。 「何時如何なる時でも冷静に対応しろ、それも陰陽師に必要な要素だ」 「んな理不尽な‥‥んむぎゃー!」 それでも自身の言は変えるつもりない架茂はそれだけ言えば、引き下がらず反論する寮生の一人を砕魚符でフルボッコすれば 「馬鹿は放っておいて、話を続ける。例年はどう行っているかしらんし我の都合から調べていないが、今年の青龍寮の進級及び卒業試験は体力及び精神と、知識の面を見る。今回は体力及び精神の面を見る。知識の面については……またいずれ、通達する」 「えと、それで何をするんですかー」 話を戻してざっくりと説明する架茂へ、先のやり取りは見なかった事にした別の寮生の一人が腕掲げて率直に尋ねると 「お前は一年だったか……そうだな、一年は雪中行軍だ」 「‥‥は?」 「もう春なんですけど」 「五行でも未だ雪深い所はある、問題はない。その山に赴き、山頂に生える霊木の樹皮を剥いで持って来い。それが課題だ」 顔と学年は覚えている模様の架茂が珍しくその問い掛けそのままに回答すれば、間の抜けた返事は流して詳細の課題を告げる彼に 「真意はどこにあるんですか?」 「……特別に説明する。特にない、進級に際して合格した者へ配布する符の作成に使うだけだ」 果たして先日の一件からどうしても気になる事あった誰かがやはり率直に、彼へ腹の内を尋ねると‥‥やはり珍しく他意はないと応じれば。 「我も久々にかの地へ足を運びたくはあるが‥‥時間も限られているからな。側近の平蔵を付ける。有事には今回の状況、あいつの方が役に立つ‥‥とは言え、それ以外では手助けはするなと言うておくので頼りにはするな」 「まぁ適当に、宜しくな」 最後に側近の矢戸田 平蔵を紹介すると‥‥それが終わって後、手を掲げる侍はさて置いて寮生の一人から最後の質問が響く。 「所でその山には架茂様も、足を運んだ事があるんですか?」 「師に連れられてな‥‥ろくな思い出はないが。ともあれ以上だ、実施日については改めて平蔵から通達させる故にそれまで調子を整えて置け」 果たしてそれには簡単にだけ答えるとさっさと架茂は踵を返し、側近連れてその場を去るのだった。 ●架茂の思惑? 「‥‥なぁ」 「何だ」 それからそれから‥‥青龍寮の廊下を闊歩する二人、それぞれに思う所あってか雑談に興じる。 「暖かくなったとは言え、あの山は酷過ぎないか?」 「我の時に比べれば大分ましだ、ケモノの類はいないからな。排除するのにどれだけ手間と時間を割いたか‥‥」 「お前の師の命だったか?」 「‥‥‥思い出したくもないな」 がそれもさほどの時間はかからず、最後に渋面浮かべる架茂を見て平蔵が苦笑湛えながら話を変える。 「まぁいい。にしたって此処でも随分何時もと変わらん振る舞いだな。あれじゃあ好かれないぞ」 「慈善事業をしている訳ではない」 「にしたってなぁ」 「分かる者に分かればそれでいい」 だが次に響いた側近の苦言には何時もの様に動じず応じれば肩を竦める側近だったが 「規律を重んじた上で、自ら考え自ら動ける人材が欲しいのだよ」 「‥‥なぁ。お前が規律云々言うな」 だが、架茂が発した最後の言に間違いなく平蔵は突っ込むと、視線逸らした五行王は橙に染まる夕刻の空を見つめるのだった。 |
■参加者一覧 / カンタータ(ia0489) / 胡蝶(ia1199) / 露草(ia1350) / 御樹青嵐(ia1669) / 各務原 義視(ia4917) / 樹咲 未久(ia5571) / 鈴木 透子(ia5664) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 宿奈 芳純(ia9695) / 无(ib1198) / 成田 光紀(ib1846) / 晴雨萌楽(ib1999) / フレデリカ(ib2105) / galmd(ib6510) / 曹否(ib6511) |
■リプレイ本文 ●さぁ早速問題です! その日、青龍寮に属する一年生の一部である一行12名の団体は先導する架茂の側近、侍の矢戸田 平蔵の後をついて未だ凍て付いていると言う山を目指して文句言いながら街道を歩いていた。 「しかし進級試験が雪中行軍だなんて、相変わらず何を考えているんだか‥‥」 その先駆者は胡蝶(ia1199)で、凛としながらも可愛らしい見た目の割に辛らつな口調からは苛立たしさも感じて。 「まぁでも、まだまともな内容で良かったな。あいつの事だ、他にも色々あっただろうに」 「これで、なの‥‥全く、一度あの頭の中を覗いてみたいものです」 それを振り返らずに応じる平蔵の言を聞けばますます眉根を潜める彼女だったが 「平蔵さんは今回、宜しくお願いします〜」 「ん、あぁまぁ適当にな」 まだ出発して間もなく、平蔵がとっとと皆を連れ立ち出発したからこそ道中にて彼と初めてカンタータ(ia0489)が挨拶交わせば、それへ彼も応じると 「しっかし、皆が皆嫌っているかと思えば‥‥そうでもないのか?」 身を翻しては振り返り、集った面々に欠員ない事を改めて確認して一人ごちるが直後。 「中々趣のある試験でな。精々楽しまねば損と言うものであろう」 「以前の合宿を思い出しますね」 侍の疑問に成田 光紀(ib1846)が応じると樹咲 未久(ia5571)も普段と変わらぬゆるゆる笑顔のまま、頷くも 「架茂様の事を言っている訳ではないと思います」 果たして一つ、最後に補足したフレデリカ(ib2105)の言には皆微苦笑湛えると平蔵も複雑な面持ちで頬を掻きながら呟くのだった。 「‥‥まぁ、好かれていない様で良かった」 さて、朝早くに出立して当時はあくびをかみ殺していた面々だったが昼を前に目的の山を前にすれば、表情は否応なく引き締まる。 「さて、着いたか」 「冬山‥‥」 その白き山を見上げ无(ib1198)はポツリ漏らせば、漂う冷気に連れ立つケモノのナイを撫でるその傍ら、各地を放浪していたと言う鈴木 透子(ia5664)の心中には何が去来するか。 ともかく、山頂へ延びる白き道のりを前に一行は一様に厳しい表情を浮かべていたが 「雪山は細心の注意が必要だケド‥‥ふふふ、山はあたいの領域。負けるワケにゃいかないネ!」 モユラ(ib1999)だけはその限りでなく何処か楽しげに、高揚した調子で山の頂をねめつけていて。 「ほれ、それじゃあ配るぞ」 そんな彼女の様子に苦笑を浮かべながらも平蔵は道中、一人で抱えていた山登りに必要な道具詰まった人数分の袋を初めて下ろすとそれを配布すれば予め告げられていた事もあって一行、持つ疑惑を確認すべく袋の中身を早速弄る。 「さて、どうなっている事か」 「食料がすごく小さいとか酒が多いとか‥‥後は実は縄に切れ目が!」 「やりかねませんね、あのお方なら」 その最初にゼタル・マグスレード(ia9253)が丁寧に袋の中から物を取り出すと、友人の露草(ia1350)が響かせた予想には苦笑浮かべながら御樹青嵐(ia1669)は綱を引っ張り、その強度に問題がない事を確認する傍ら。 「何が出るかな、何が出るかなー‥‥あ」 何処か楽しげに、歌う様に言の葉紡いでいたカンタータは一つの『仕掛け』に気付く。 も『仕掛け』とは言え、そう大した物ではない。 子供のいたずらか、単純に失念していた事もあり得る程度の『仕掛け』とは単純に食料が一日分しか入っていなかったと言う、ただそれだけ。 「もうちょっと、凝った仕掛けをすれば良いものの」 と誰が呟いたかは知らないがその『仕掛け』のレベルは確かに低いものではあったが、下手をすればそれは死にも直結する可能性があるある意味では一番にたちの悪いもので。 「他の方が持つものも、でしょうか」 「一部だけそのまま、と言う間抜けな事はされないかと」 そして宿奈 芳純(ia9695)も自身の袋にその『仕掛け』が施されている事に気付けば皆へ尋ねると、彼へ頷き応じた各務原 義視(ia4917)の言は五行王の性格からすれば尤もで。 「まぁ‥‥想定の範囲ですね」 「本当にこれだけなんでしょうか? あの方の事ですから実は、とか言いかねません」 「でも、嘘をつくとも‥‥」 しかしやがて皆の荷物が同様の状況である事を間違いなく確認すると嘆息を漏らす芳純に、しかし胡蝶はまだ何かあるのではと言う疑惑に駆られていて、フレデリカに宥められてもどうにもしっくりこない彼女。 「‥‥何か腑に落ちませんね」 「これで一通り揃ったでしょうか」 更に細かく袋を弄り逆さにして、道具もそれぞれ綿密にチェックすれば他には何も異常ない事を改めて確認すると再び溜息を漏らすせばその間、足りなかったかんじきを芳純が即席でも巧みに拵え配り終えていて‥‥必要な準備は整っていた。 「さぁ、それでは参りましょう!」 すれば露草の号令を持って一行はいよいよ、白き峰へ挑むのだった。 ●登山 〜白い闇の中〜 と言う事で、それからそれから‥‥。 「‥‥登り始めて早々、これか!」 「思っていた以上に‥‥っぷ!」 先まで薄らでも見えていた日の光はもう一行に降り注がず、その代わりに白き礫が一行の来訪を歓迎する様に激しく叩き付ければ思わず叫ぶゼタルに、同意して露草も頷こうとするが‥‥地に蟠る雪が風に煽られ更に皆の顔面に叩き付けられると視界はただの白だけに染まる。 「疲れてきたら、前の人の脚を見て進んで下さい」 「‥‥とは言え、この吹雪ではただそれだけでも厳しく」 「そうですね‥‥」 そんな状況下だからこそ、大振りだが手頃な大きさの枝を杖代わりにして先頭を歩く透子が冷静な調子で皆へアドバイスするも‥‥義視が言う様に大して離れていないにも拘らずその足元すら霞んで見える酷い吹雪には思案して彼女。 「ともあれ前方の方の足元には常に気を払って下さい‥‥後は過度にならない範囲で綱の動きも」 「頼り過ぎると共倒れになりますので、気を付けて下さい〜」 「下手すると皆仲良く、崖から落ちるからなー!」 前言は変えず、補足も添えて皆へ注意喚起を促せば続くカンタータと平蔵が響かせた言葉には光紀。 「怖い事をさらっと言う‥‥」 「まぁ、そうならない様に俺もいる訳だからその点は少し安心してもいい‥‥と思うぞ」 「えぇと、断言して貰えると嬉しいのですが」 歩く事もままならない猛吹雪に晒されながら、それでもまだ多少は余裕あると言う様に応じるが‥‥尚も平蔵が漏らした言葉には未久がのんびり突っ込んで。 「そう言えばそろそろ交代しましょうか?」 「あっはーい、ついでにあたいからていあーん!」 次いで山に入ってから今まで変わらぬペースで先頭を歩く透子へ呼び掛けるとモユラも続いて口を開けば、皆へ何事か言うのだった。 「‥‥すんすん」 「偶然だから、余り気にするなよ」 雪の中、山道沿いに運良く適当な洞穴を見付けた一行は一時の休息を取っていた。 モユラは火炎獣を用いて雪を溶かして穴を掘ろうしたのだが、生憎とそれを行うに良い場所を見付けるより早く人魂を駆使して辺りの警戒をしていた无がここを見付け‥‥先を越されてしまったモユラが膝を丸めて鼻を鳴らせば、当の彼が慰めていたり。 閑話休題。 「しかし平蔵様、ここまででどれ位は登ったでしょうか」 「さてなぁ‥‥まぁ、半分来ていれば良い方だが‥‥どうだったかな、と。目印も何も見えんからな」 その雪洞の中、距離感も何も感じる事が出来なかったからこそ芳純がその問いを平蔵へ放れば、流石にそれは汲んで応じるもしかし彼でも漠然とした答えを返すのが精一杯。 「道順は合っているだろうか?」 「多分な」 次いで響いた光紀の問い掛けにもやはり漠然と応じるが、この疑問には確かな根拠も後に添える侍。 「道を逸れていりゃ、それなりに崖が多い山だし今頃皆仲良く落ちているだろうからまぁ問題はないと思うぞ」 「‥‥なら良いんだが」 「大よそ半分まで来たのなら、残すは半分‥‥もー少しですから頑張りましょ‥‥へくしっ」 それを聞いたからこそ後で後悔する光紀だったが納得もすれば、次いで気を取り直したモユラが響かせた激励には皆頷くと 「大丈夫ですか? もう少し休んでから再び、山頂を目指しましょう」 鼻をこするモユラを気遣ってフレデリカが声を掛ければ、未だ外で吹き荒ぶ白き礫を見て、溜息をもらすのだった。 それから吹き荒れる豪雪の中を再び登り始めた一行、陰陽術も上手く駆使してそれからは順調に歩を進めればやがて、徐々に風雪も弱まりまがらそれでも慌てず騒がず着実に山道を登り続け‥‥辺りが白から黒へ塗り替えられた頃、漸く山頂にまで至れば件の霊木を見付ける。 「ふむ、これですね」 「あぁ、間違いないな」 道具袋の中に入っていた松明を掲げ、中には夜光虫を周囲に漂わせる一行の中で断言した義視に光紀も頷けば他の皆もそれに同意して予め指示されていた量だけ、その表皮を削り取り。 「少しだけ、頂戴しますね」 中には露草の様に霊木に恭しく手を合わせて後に本当に必要な分だけを譲り受け、効果の有無が明確ではなくとも治癒符を張り付けて。 「まぁ何とか、全員いるか」 「でも、すっかり遅くなってしまいました」 「まぁ気にするな、命あっての物種だ」 その間、場にいる人数を数えて全員が健在である事を平蔵が確認すればその中で露草は項垂れるも、飄々と返す侍がいれば 「さあ、さっさと戻ってこの樹皮を架茂王に叩きつけるわよ」 「‥‥落ち着け。今日は一先ず、予定通りこの先にある小屋で休もう」 相変わらず強い語気で言葉紡ぐ胡蝶だったが、流石にそれは无が宥めれば地図を見て次いでそちらがある方を見れば、歩き出すのだった。 ●休息 〜姉さん、何か色々と大変です〜 と誰かが言った訳では決してないがともかく、漸く辿り着いた小屋を目前にした一行は唖然と、今になって覚えた疲労感をますます強まらせていて。 「‥‥この寒空の下で寝るよりは全然良い、けど」 「随分とくたびれていますね〜、壊れませんよね?」 それもその筈、外見だけなら随分とくたびれた感が否めない小屋だったからこそ胡蝶とカンタータが思わず漏らした呟きには他の皆も同意して何度も頷き。 「『あれ』から人が立ち入ってないとなると、かれこれ‥‥」 故にそんな一行をよそに平蔵、どれだけの時間が経っているか考えて‥‥やがてその答えに至るが 「嫌になるだろうから、言わないでおこう」 「そんなに!」 至ったからこそあえてそれは伏せると驚きの余りに大声発するモユラに平蔵は苦笑だけ返すと、木製の戸に手を掛けては皆を招くのだった。 「ほれまぁ休もうぜ、これでも今日一日は凌げるだろう。風雪は収まったし‥‥尤も、雪崩でもあれば話は別だが」 『‥‥‥‥』 最後の一言だけはどうにも洒落に聞こえず一行は一度だけ身を震わせた末、覚悟を決めて小屋の中へ入っていった。 それからカンタータの指揮で小屋内外の確認や整備を済ませれば、早くその中で夕餉を作るに至っていた未久や透子。 「戻ったぜ、そっちの調子はどうだ?」 「お疲れ様です。こちらは火の準備が出来たばかりで調理自体はこれからですよ‥‥さ、火力調整がどれ程出来るでしょうか」 いち早く小屋の中に入って来た光紀が身を震わせながらも問えば、応じて未久は小さな赤黒い山椒魚を呼んで先ず雪を溶かして水を作ろうと試みて。 「‥‥まぁ何とか、でしょうか?」 「大丈夫そうですね。とは言え食料の方は少ない事だけ、難ですが」 フレデリカが見る中、雪を詰めた竹を焦がさずに水を生成すると頷いた彼は小さく溜息こそ洩らしながらも手早く他の皆と分担、協力して夕餉の調理を始める。 「それでは夕飯を済ませたら以降は適宜休みつつ、予め分けた班毎に火の番を朝まで絶やさずに行いましょー」 「そうですね」 そしてその間、カンタータがそれから後の事について語ると頷くモユラではあったが 「所で‥‥その班分けってどうなっているんだっけ?」 「え?」 果たして誰が発したか、今更響いたその疑問を聞き止めたカンタータは思いもかけなかったからこそ、驚いてしまった。 と事前に適当な数で分けた筈の班を把握していない者が多いと言うアクシデントこそあったが、まぁその程度なら改めて決め直してしまえば大きな問題は生じる筈もなく‥‥それから夕餉も済ませれば時間は過ぎて火の番に先ず当たる、1班。 「‥‥うつらうつら」 「‥‥露草ー、寝るなー‥‥Zzzzz」 「そう言う青嵐もな‥‥すかー」 道中にて適宜、メディカルチェックこそ行っていて何事もなかったとは言え疲労だけは拭える筈もなく、むしろお腹も満腹だからこそ隙間風にて揺らぐ火を見つめながら露草と青嵐にゼタルは仲良く舟をこげば 「すみません、皆様共に寝ているかと思うのですが‥‥」 「はっ、寝てない寝てない‥‥!」 一人取り残された風の芳純、三人へ穏やかな調子で声を掛けると露草はがばちょと起きるが‥‥やはり程なくして再び舟をこぎ始める次第。 「Zzzzz‥‥」 そんな様子に苦笑を洩らし芳純は持った火箸で燃え尽きかける薪を崩しながら、新たな薪を投入しようと三人から視線を外した‥‥その時だった。 「寝るなー! 寝たら死ぬぞー!!」 「君もだー!」 何を切っ掛けにしてか三人、中途半端に覚醒しているからそれぞれ相変わらず舟をこいでいる様子にそれぞれの頬を張り始めた! 「‥‥えー。仲が良いお三方とは言え、止めた方が良いですよね?」 小気味よく、乾いた音が小屋の中に響き始めると躊躇いながらも芳純は覚悟を決めて三人のその輪の中に恐る恐る入るのだった。 ●下山と報告と 〜晴れ空の元〜 そして日は昇り翌朝‥‥ちょっとした珍事はあっても火を絶やさないまま、無事に朝日を拝んで一行は物足りない朝食も済ませれば小屋の外へ出るなり、空を見上げて胡蝶。 「‥‥この空の様子なら、暫く吹雪いたりはしないと思うわ」 「じゃあ下山は楽そうだな」 「とは言え山の天候はいつ崩れるか分かりませんから油断は禁物、ですね」 過去の経験から天候予測を立てると胸を撫でたのは果たして平蔵だったが、年長者であってもそれは青嵐が嗜めれば 「それでは、今の内に山を下りましょうか」 そのまま音頭も取れば今日は先ず、彼を先頭にして一行は山を下り始めた。 「ただ今戻りました〜」 あれからは特に天候が崩れる事もなく、行きとは対照的に何もないまま無事に下山すればその日の夕刻‥‥ようやっと青龍寮まで辿り着いた一行は架茂が待つ寮長室へと足を運び、帰還の旨を告げる。 「思ったより遅かったな」 「何時まで、とは聞いていませんので」 「まぁそうだな」 だが返って来た冷たい返事には无が穏やかに応じれば、頷いて五行王。 「それで霊木の樹皮は取って来たか」 「まぁ何とか全員、問題なくって所だな」 次いで課題の提示を促すと‥‥平蔵の言葉の後に全員が欠ける事なく机上にそれを置けば、間違いなく人数分ある樹皮を確認して架茂は後に皆を見回せば 「それならば以上だ、退室しろ」 最後には素っ気なくそれだけ言うと、大人しく踵を返す一行だったが 「平蔵‥‥変わりはなかったか?」 「まぁ、目に見えて変わりはなかったな」 「そうか‥‥」 ふと皆の耳にそんなやり取りが聞こえてくると、誰であれ歩が止まるのは当然と言えば当然か。 「戻っていいと言った筈だ」 「‥‥失礼します!」 そんな皆の様子に改めて瞳を眇めて架茂は言うと、声を荒げて応じた胡蝶が先ず部屋を出ようとしたその時だった。 「‥‥ご苦労だったな。だがまだ進級の為の試験は続く、気は抜かぬ様に」 簡単な物でもないだろうと思っていた労いの言葉が一行の背後から響いてきたのは。 尤も最後は以降の試験に触れ釘を刺すもので‥‥苦笑を洩らしながらも一行は漸く寮長室を後にするのだった。 「‥‥さて、次はどうするか」 果たしてそれを見送り架茂、未だ試案を重ねていた次に行う知識に関する試験をどうしようかと実は未だ、悩んでいたのはここだけの話。 |