守れ、秋の味覚!
マスター名:蘇芳 防斗
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/20 12:08



■オープニング本文

 神楽の都から程遠くある小さくも長閑な村で今、アヤカシ騒ぎが起きていた‥‥とは言え正確にはその村、ではなくその村の近くにある小さな山だった。
 小さな野兎等の小動物がいれば、これからの時期に掛けて美味しくなる栗の木を多く抱えた小さくとも恵みあるその山は村にとって大事な宝物とも言える。

 そんな今回のアヤカシ討伐となる依頼、良くある典型的なケースでこそあるが一人の開拓者が絡んだ事で何やら変な方向へ行きそうな気がするのは‥‥気のせいではない筈。


「えっ、栗の木が沢山生えている山にアヤカシが?」
「そうなんです、開拓者様‥‥」
 そのとある村の中、見た目は動きやすそうな服に主だった得物が見えない事から泰拳士だろう、まだ年若い少女の問いかけに村人の一人が応じると己が胸を叩いて彼女。
「よっし、そう言う事なら泰拳士である僕の出番だねっ。これからその山に行ってさくっとアヤカシを退治して来てあげるよ!」
「それは有難いのですが、いかんせん数が‥‥」
 果たして断言すると村人の青年が何事か言い掛けるが、それが言い終わるより早くも踵を返せば拳士は山がある方へと全速力で駆け出すのだった。
「まだ熟していない柿が生る樹を多く抱える山を今から押さえ、独占しようと目論んでいるアヤカシめ‥‥僕は絶対、許さないぞっ」
 確かな決意を呟きながら。
「あの‥‥栗です」
 とは言え風の乗って大きく響いたその決意は一部間違っており、密かに青年から突っ込まれるのだが無論、彼女は気付く筈もなかった。


 彼女が村を出てから大よそ5時間程が経っただろうか、高くあった太陽も橙に染まり夕暮れを告げる頃。
「‥‥数が多いよー!」
 山の方から、ほうほうの体で戻って来た泰拳士の彼女‥‥小奇麗だった服もすっかりボロボロに薄汚れ、しかも半分泣き掛けた表情で。
 恐らく、多勢に無勢の袋叩きの憂き目に遭ったと確信出来るその不憫な姿を見て、村人の青年。
「あの、だから数が多いと言おうとしたのですが‥‥」
「早く言ってよ!」
 言わなくても良かった余計な一言をおずおず言うと憤慨して彼女、甲高い声を全開にキーキーと喚くがしかしそれでも目前にいるのは困っている人。
 一頻り騒いでから後、落ち着いてからその事に思い至ると拳士は深く息を吐いてから言葉を紡ぐ。
「ともかく、このままにはしておけないよね‥‥松茸の為にも」
「あの、だから栗なんですが‥‥」
「よし決めたっ、あれだけの規模となると他にも開拓者さんを連れてきて排除しないとどうにもならないから、僕が連れてくるよ!」
 うんうんと自身だけ納得して頷きながら、やはり未だ間違っている事にしっかり突っ込む村人は置き去りにして彼女は一人、話を進める。
「一応、そのつもりだったんですけどね‥‥」
「あ、そうなの?」
「はい‥‥」
 しかしそれにも律儀に青年が応じれば、首を傾げる彼女にこっくりと村人は首を縦に振ると拳士は尋ねた後、彼の答えを聞けば同じ様に倣い首を縦に振って応じる。
「うんうん、そうだよね。それならこれから僕が開拓者ギルドへ行って有志を募ってくるから大船に乗ったつもりでもう少しだけ、待っていてねーっ!」
「あ、その‥‥」
 そして今日も日中に見た筈の光景を再び見せ付けるかの様、アヤカシにコテンパンにのされたのもさて置いて自信満々に断言するとやはり青年の話は最後まで聞かず、駆け出すのだった。
「報酬、どうするんだろう‥‥」
 その青年が抱えていた、依頼に対する報酬を置き去りにしたままで。


 そんな調子の仲介者がギルドへ依頼を持って来ても意外に成立するもので、こうして無事に開拓者ギルドに並ぶ依頼の中に何とか紛れる事となる‥‥それはそれで大丈夫か開拓者ギルド、と言う不安を覚えなくもない。
 そして置き去りにしてきた報酬はやはり不明なままで、どうにも不安は拭えない‥‥まぁきっと多分恐らくはあるだろうと考えても良いと思われる。
「秋刀魚は僕達のものだーっ!」
 いやごめん、もしかしたらないかも知れない。
 と言う事でこの依頼、色々な意味で勝利の鍵はきっと彼女が握っているだろう事は確かな気がする。


■参加者一覧
鷺ノ宮 朝陽(ia0083
14歳・男・志
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
華美羅(ia1119
18歳・女・巫
睡蓮(ia1156
22歳・女・サ
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫


■リプレイ本文

●不安は早々に
 近くの山に現れるアヤカシ退治の為、依頼を出した村へ到着した一行は一先ず、村人達挨拶を済ませ、安心する旨だけ告げれば早くも山へ向かう準備を整え始めていた。
 そんな中、準備を終えたからかパチパチと爆ぜる焚き火の前に屈んで黙々と何事かしている睡蓮(ia1156)を傍らに、一行はそれぞれに山がある方を見て想いを馳せる。
「もう少し経って収穫の季節を迎えたら美味しく頂きたいものです。その為にもお仕事をこなすとしましょう」
「困っている人がいるなら放っておけないから、殲滅あるのみ」
「そうね」
 かたや、山に蔓延るアヤカシの殲滅を決意する者達。
 華美羅(ia1119)の言葉に柚乃(ia0638)が穏やかに応じれば、次には揃い首を縦に振る巫女に陰陽師。
 理穴での騒動も知っているからこそ何時も以上にアヤカシの殲滅を強く意識する二人もいればそのかたや、何時もと変わらない調子で秋の味覚に思いを募らせる者達もいたりするのはお約束。
「秋の味覚は、梨が好きだよ」
「梨も良いなー」
「秋の味覚はどれも美味しくて楽しみだよな」
 果たして鷺ノ宮 朝陽(ia0083)が自身の好物を挙げれば、弖志峰 直羽(ia1884)と劉 天藍(ia0293)もそれぞれ頷きつつ応じるも
「栗と言えば栗ご飯だろー、栗きんとんだろー、栗羊羹とかー‥‥」
「一応言っておくが直羽、ここの栗はまだ熟してないから食べられないぞ?」
「え? まだ栗熟してねーの!?」
 指折り数える親友である巫女へ淡々と突っ込む陰陽師の言の葉を聞けば予め言っていた筈なのだが初めて聞いたとばかり、肩を落とす直羽‥‥しかし彼にとっての衝撃はそれだけでは終わらず、そこへ更なる追い打ちが文字通りに飛ぶ。
「へぶっ!」
 その、唐突に横合いから飛んできた衝撃を受け米神に痛みが走れば思わず叫ぶ彼に、先から焚き火の近くにいた睡蓮が初めて口を開く。
「これは、あれ。その‥‥けいさんどおり‥‥ごめんなさい」
 どうやらまだ熟していないとは言え焚き火の中で栗を炙っていたらしく、それが弾けた末の結果が先に直羽が被った衝撃の様で、睡蓮は反省して頭を下げる。
「しかし折角の栗山を‥‥小鬼の奴ら、許せんな!」
「全く、許せませんな!」
 しかしそれはあえて気にせずか志士が焔 龍牙(ia0904)は拳を握り怒りを露にすれば、彼に同調して村で一行と合流した泰拳士の風宮葵もやはり拳を硬く握ると
「志士の焔龍牙です。よろしく、お願いします」
「風宮さん、宜しくお願いしますね。くれぐれも無茶はなさらぬ様に‥‥」
「うんっ、こちらこそ宜しくねー」
 その調子に今度は苦笑を湛えながら龍牙に滋藤 御門(ia0167)が挨拶を交わし、柚乃もまた握手を交わすべく手を伸ばせば、彼女の手を握り返しながら笑顔で応じる葵。
「一人で突っ走るなよ! この前みたいになるぜ! そうならない為に俺達がいるのだからな!」
 だがそれでも、事前にギルドから話を聞いているからこそ銀髪の志士は彼女へ予め釘を刺すべく言葉連ねるが
「大丈夫っ、僕に任せておけば万事オッケーだからねっ!」
「えーと‥‥?」
(「‥‥やはり、不安です」)
 果たして葵から返ってきた答え‥‥とは言えない答えに柚乃と御門を筆頭に一行は、先ず彼女と上手く意思疎通が出来るかと言った不安が芽生えるのだった。

●山中にて
 それでも村に辿り着いてから暫く後に準備が整えば、件の山へ分け入る一行は程なくして二手に分かれる。
「‥‥こう言う場所で心眼はどうにも使い難いな」
 天気は良好、だが瞳を光らせながらも溜息を漏らしたのは龍牙だったか。
 心眼はその技の特性状、アヤカシをも捉えられるが普通の生物も見分けなく捉える為にアヤカシに他の生物が混在している場では、その判別が出来ないのがネックである。
「ですがそれは裏返し、山にいる他の動物達もまだ多くが無事と言う事ですよね?」
 とは言え多く反応が感じられる事から、御門が言う様に山内にいる小動物の類にはまだ目に見えた大きな被害が出ていない事も明らかでもある。
 ともあれ、栗の木が多く茂る山中に蔓延るアヤカシを駆逐すべく開拓者達の探索は開始される。

 二班の内が一つ、先に話が上がった龍牙がいる班では天藍が人魂を駆使したり、併用して華美羅の瘴索結界も用いてアヤカシの捜索を行っていた。
「そう言う点で、瘴索結界は便利っすね」
「消耗が激しいから、乱用は余り出来ないけれどね」
「でも便利だよねー、良いなぁ」
 そのアヤカシ捜索の肝が一つである瘴索結界を行使する事が出来る華美羅へ直羽は感心するも、それ故の欠点を彼女が挙げればしかし、葵から見てもそれはやはり羨ましい様で山内の散策は和やかな雰囲気のまま‥‥進む筈もない。
「いるな‥‥まだ微妙に遠い、数は五匹か」
 やがて小鳥を象らせた人魂と視覚に聴覚を共有する天藍、果たして視界の片隅に小鬼が群れを発見すると
「んっ、はっけーん! よっし、じゃあ早速行ってみよー!」
 それから暫し後、遅れて葵も自身の肉眼でアヤカシを捉えると大声を発しては肩を勢い良く回し、いの一番で早くも駆け出そうとする‥‥だが彼女の悪評は既に知っているからこそ、その動きを監視するお目付け役もいる訳で。
「まぁまぁ、少し落ち着きなさいな」
「ひゃん!」
 その一人が華美羅、上手く彼女の背後に忍び寄れば羽交い絞めとは一寸違う形で抱きしめれば、葵の胸元をまさぐると突然の出来事に当然ながら驚く彼女‥‥まぁそのなんだ、見た目清楚な割にその大胆な行動はもう一人のお目付け役である直羽がやや照れているので程々でお願いします。
「この程度の数なら‥‥押し通るっ!」
「準備運動には、丁度いいか?」
 それはともあれ、葵の動きが僅かだが止まればアヤカシにこちらの存在に気付いて騒ぎ始めた以上、先手を取るべく龍牙が躊躇わず駆け出せば符を用いて攻撃を始める天藍。
「ちょちょっ、ちょっと待ってよーっ! 僕も頑張るー!」
 すれば遅れてなるものかと葵、華美羅の顔が触れる程に近付くよりも早くその拘束からするりと逃れ駆け出すと漸く、龍牙の横合いから迫る小鬼目掛け勢い任せの蹴りを披露すればそれを機に漸く戦いらしい戦いが始まる。
「‥‥一先ずこの場、この調子なら大丈夫っすよね」
 その光景に直羽も一応は安堵すると前を駆ける彼女を対象にひらり舞う。
 最初こそ緊張感の欠片もない気の抜けたものでこそあったが、それぞれ本腰で戦いに臨みさえすれば、その力は確かなもので数こそ同数ながら単体での力量が劣る小鬼達では相手になろう筈もなく。
「これで終わりだっ! 焔の一閃、くらって消えな!」
 やがて龍牙が轟と叫び、片手に携える刀へ自身が姓の通りに焔を宿せば振るった紅の一閃は僅かも違えず、最後の一匹が小鬼の首と胴を永劫の別れへ誘うのだった。


 一方、もう片方の班でもやはり別働の班と同じく巫女である柚乃が瘴索結界に御門が人魂を用いた探索にてアヤカシを捜索していれば唐突に響いた、ギルドから拝借してきた呼子笛の音が三回鳴らされたのを聞き、警戒を厳にする。
「広い山ではありませんから皆さん、十分に気を付けて下さい」
「それはもちろん。ですがげきたいしたはずのふえのねにどこかげんきがなかったような‥‥?」
「きっと、気のせいですよ‥‥」
 そう呼びかける柚乃へこっくり、頷きながら常に饅頭を頬張っている睡蓮が応じつつも響いてきた笛の音が所々かすれていた事から何となく思った事を言うと、御門はそれを宥めつつも内心では不安を抱くが丁度その折、柚乃が再び口を開く。
「‥‥まだ遠いけど、沢山いますね」
「固まって動いている集団でしょうかね、それならそれで楽だけど‥‥」
「しずかに、しずかに‥‥」
 それは小さく場に響き、だからこそ詳細を言わずとも予め控えてきた山の地図に視線を落としていた朝陽は顔を上げながら仔細を察し、やがて遠目に見えた小鬼の群れを捉えつつ呟くと睡蓮の抜き足差し足に皆倣い近付けば‥‥どうやら小鬼以外に変わったアヤカシの姿こそない群れではあったが、ただいささか数が多い。
「‥‥まぁさすがにかいたくしゃでもよほどのひとでなければあれだけ、ひとりではたおせませんね」
「まぁ、厳しいですね。とは言え」
「‥‥せんてひっしょう、でいい?」
 その光景を前、泣かされて帰ってきた葵の話を思い出しながら一人納得すれば頷く朝陽の反応の後、改めて皆を見回し睡蓮は首を傾げ尋ねると首を縦に振って皆応じれば疾駆する志士にサムライ。
「わるいけど、もらうよ」
「これで‥‥!」
 躊躇わず切り込む朝陽に、それよりも早く小鬼の群れが蟠る場の近くにある栗の樹を睡蓮が何時も以上に気合を込めて蹴飛ばせば、盛大に頭上から振ってくる毬栗の雨に群れは一気に浮き足立つ。
「数は多くても、このまま場を制する事が出来れば」
「‥‥歪み、捻じ伏せなさい」
 それを機に、後方から御門に柚乃も二人を支援するべく斬撃符や力の歪みを放てば次々に数が削がれる小鬼達‥‥だがそれも暫くして収まればぎゃいぎゃい騒ぎながらも漸く全うに動き出すアヤカシだったが
「後ろには行かせないよ。それとも、僕がお目当てだったかな?」
 その行く手を阻む志士、交戦中と笛を鳴らしながらも自身の領域に踏み込んできた小鬼の一体より早く足を踏み出し、手にする刀を振るえばまた一体を屠る。
「‥‥流石に!」
 だが個々で力量が明らかに劣る小鬼でも数が揃えばそれは確かな力、四人の初撃で数こそ大分減じたがそれでもまだ二倍以上はいるその物量差に開拓者達は判断を誤らない。
「くり、たべたいから‥‥じゃま!」
「‥‥あちらは連戦になってしまいますが、呼びますね?」
「お願いします」
 咆哮を上げ、睡蓮が多く小鬼を引き付けているも二人の壁だけでは不測の事態も有り得る事を考慮して朝陽が尋ねれば、柚乃の返事のすぐ後に長く笛を鳴らすと
「先に笛の音が聞こえた方へ、後退しましょう」
 小鬼の群れと程好い距離を保ちながら後退を始める四人ではあったが‥‥がさり、直後に背後で鳴る草木が擦れた音に御門が僅かだけ眼前に迫る小鬼から視線を逸らし、そちらを見れば視界の中に兎の親子が群れを見止める。
(「この距離‥‥避ける事こそ出来ますが」)
 思考こそ巡らせ、しかし予め決めていた事故にその判断は早く視線を小鬼の方へ戻せば早く突貫してきたその一匹を前に、兎の親子を守るべく立ちはだかると甘んじて一撃だけはその身を持って受け止める御門。
「‥‥っ、ですが!」
 しかしそのままやられて終わる筈はなく、痛みに吐いた息と共に切り返しで雷閃を放てばその一撃にて小鬼を霧散させると慌てて別の方へ跳ねて逃げる兎の親子を見送りながら御門、微かにだけ笑んで後に先行する三人へ追い着くべく小走りで駆け出した。

●守られた、栗実る山
「終わったか!?」
「えぇ。結界では反応が感じられなかったし、終わりかと」
 初日こそ(葵の騒動含め)いささか苦労はしたが運も良かったと言えば良かったのだろう、特に変わったアヤカシとの遭遇戦もなく早めに退治を終われば、その確認を含めて要した日数はほぼ妥当な結果で依頼を終える事が出来た。
「だが、教訓もあったな」
 とは言え天藍の言う事も事実、笛があったとは言え場合によってはアヤカシに気付かれるだろう事から事前に鳴らすのが憚られる事もあり、また応援を要請する場合には動いている事が殆どで、この依頼では支障こそなかったがお互いの完全な位置把握まで至らない事もあった。
「よっし、これで秋には美味しい栗が食べられるぜ!」
「皆さん、本当にありがとうございます」
「いえいえっ、お礼には及ばないよっ」
『‥‥‥』
 だがそれでも、終わり良ければ全て良しと言う代わりに龍牙は至って明朗に喜びを表に出せば頭を垂れる村人だったが‥‥葵の応答には皆、押し黙る。
 それもその筈、何せ彼女と行動を共にしていた四人の身なりが出発前より明らかにボロボロのクタクタだったから、それ以上は言葉にせずとも他の皆さんは何があったかお察ししましたと言う事で。
「もうちょっと、鍛えないと駄目だよーっ?」
 無論、当の本人こそ至って元気だったが‥‥彼女と相反して直羽の惨状は特筆すべきまでに燦々たる物。
「その‥‥直羽さん、大丈夫ですか?」
「近頃の女の子は、激しいなぁ‥‥」
「お疲れ様です‥‥」
 他の三人とは比べ物にならない程あちこちが薄汚れ、髪もあちこちに跳ねていれば目の焦点も定まらずにふらふらし、あまつさえうふふあははと乾いた笑みを零している事から恐らく一番に彼女を制しようと行動した結果なのだろう。
「まぁ、今は詳しく聞いてやるな。果たして弁当で餌付け出来なかったら一体どんな事になっていたか‥‥」
 その仔細は当人の精神衛生を考慮すれば親友の天藍の言う通りであり、本人もまた口にしていなければこれ以上の話は詮索出来る筈もなく。
「‥‥ともあれ、また機会があればまた暫く後に来て貰えるなら今度は美味しい栗を振舞えるかと思いますので、縁があれば是非に」
「はい、その時があればこちらこそ宜しくお願いしますね」
 そんな彼に同情してか、慰める様に依頼人である村人の青年が苦笑いを浮かべながらもそれだけは言うと朝陽、穏やかな笑みを浮かべ応じれば
「まぁ、色々あったけど楽しかったよっ」
「だがもう少し、落ち着いて行動した方が良いと思うが?」
「うん、良く師匠に言われていたんだけどねー」
 葵もまた、含みを込めて‥‥はいないだろうがともかく皆へ感謝の言葉を告げるも、頷きを返しながら天藍の言葉には苦笑を持って応じる彼女。
「ともかく、今回はどうもありがとうねー」
「こちらこそ、楽しかったわよ?」
 しかしそれでも、皆へ一時の別れを告げるべく満面の笑顔を持って葵は皆の方へ手を差し出せば‥‥華美羅もほうほうの体ながら差し出された彼女の手を握り返すと一先ず円満に、この依頼は無事に幕を下ろすのだった。

 〜一時、終幕〜