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■オープニング本文 理穴での騒動を聞き及んだ石鏡が双子の国王はアヤカシが絡んだ、昨今見ない大規模な騒動である事も踏まえ積極的に協力する旨を認めた親書を先日、送る。 「とは言え、もしも軍を派遣する場合に肝心の当方が持つ軍備については‥‥」 しかし石鏡が上層部を一同に介しての会議にて老いた一人の男性が声を上げると素直に頷いたのは齢13歳で石鏡が国王となった、布刀玉。 「うん、話は聞いているよ。でも今後の事を考えれば手をこまねいて見ているだけじゃ駄目だと思う」 「そうね、何時かは石鏡にもアヤカシの脅威が及ぶかも知れない事を考えれば」 だがそれでも先の事を見据え、確かな発言をすればその妹でやはり国王の香香背もまた頷き応じると、それを機に各所で起こる話し合い。 「ともかく、部隊の編成についてはこちらで行います故に一先ずは静かにお願いする」 しかしそんな纏まりないまま始まった話し合いは長く続く筈もなく、それを諌めるべく香香背の側近が低くも良く通る声を発し場を制すれば、静まった場の中で布刀玉が再び口を開く。 「今はまだアヤカシの動向も伺っている状態ですぐに動くと言う事はない筈だから各々、今出来る事を全力で取り組んで下さい。軍備についてはどれだけ時間が割けるか分からないけど部隊として纏まりある行動を取る為、練度の向上を主眼に訓練に励んで貰えればと」 こうして、理穴にて起き始めた絶えぬアヤカシの発生に対する石鏡内部における対応を決める初めての会議は思いの他、あっさりと終わった。 尤もこの後にも会議は幾度となく行われ、日によっては数度も開かれた事は一応補足しておく。 ●ある日の安須神宮にて 「それで、軍備の強化は着々と?」 「はい。どれだけの成果が上がっているか、その報告はまだもう暫くだけ時間が掛かりそうですが」 「それなら良かった」 その内部、自室にて石鏡の街を見回しながら部屋の主で石鏡と言う候の主が一人でもある布刀玉は入口にてかしずく側近の女性が報告を受けながら一つ、頷いていた。 「‥‥でも、こんな事は何時まで続くんだろう」 「アヤカシを滅する時が来るまでか、若しくはその逆」 だが次に紡がれた溜息交じりの言の葉の後に彼は端正な面立ちを曇らせれば、しかし側近は明確にその解を口にするも‥‥ますます消沈した気配を察して彼女。 「大丈夫です、必ずや私達が御君をお守り致します」 「‥‥そう言う話だけじゃ」 更に深く主へ頭を垂れるが、布刀玉が思っていた事は彼女のそれとは違っていて‥‥晴れ渡る空が広がる窓の方へ王が視線を投げると次いで、兵達が訓練の場所として宛がわれている神宮内の一角へ視線を落とし話題を変える。 「ん、あの部隊も訓練に励んでいる様だね」 「‥‥どうなんでしょう」 「どうかしたの?」 果たして彼のその言葉に、隣に並んでは応じる側近から返って来た答えに布刀玉は首を傾げると軍備について、ある程度の権限を持つ彼女の口から簡単に説明がされる。 「年若い者達で編成された部隊の一つなのですが実戦について、今一つ考えが及んでいなくて」 その話を聞いて後、布刀玉は耳を澄ましてみると‥‥聞こえて来るのは真剣な裂帛等ではなく、何処か遊び半分の友達同士がじゃれ合っているかの様な和気藹々としたけたたましい嬌声のみ。 時には誰かが「ひっさーつ!」とか「食らえっ、最強流が壱の秘刃!」やら叫んでいるが、それは気のせいだろうと布刀玉が思い込む事にしたのは此処だけの話。 「あぁ、成程‥‥でも、その長は?」 「日々、口をすっぱくしては言っている様ですが‥‥」 「えー‥‥それじゃあ、戦に出すのは危険じゃ」 「その通りです。とは言えこの状況で兵の出し惜しみをする訳には行かず、むしろ若い兵程経験を積ませるべく出兵させた方が、今後の為にもなると」 「‥‥一理はあるけど」 「しかし石鏡とて何時、アヤカシの脅威に晒されるか分かりません。その時に有能な人材が多ければ多い程、有事が起きても脱する率は高くなります」 ともかく、そう言った事態に陥っている部隊を目前にすれば彼は側近へ尋ね、時には言葉こそ返すも、彼女から丁寧に返って来る筋道立った正論を聞けばやがて返す言葉はなくなる‥‥のだが。 「なら開拓者の皆様に一つ、手解きをして貰っては? それだけでも大分変わると思うし、ひいては部隊の練度向上にも繋がると思うけれど、どうかな」 「‥‥そうですね」 それならと先日、自身が告げた通知を逆手に取れば彼女は流石にそれを否定する事出来ず、首を縦に振ると 「では、その様に手配します。こちらの報告についても後日‥‥」 「その必要ないよ。僕が直接、見るから」 「それは」 早く行動に移るべく、主より先に窓際から身を剥がして先の命について復唱するが‥‥その途中、遮られては主にそう告げられれば危険のあるなしに関わらず、当然の様に逡巡する側近ではあったが 「僕だって、この行く先を見守りたいんだ‥‥その切っ掛けだけ放っておいて後は任せた、だなんて事は出来ない」 「‥‥分かりました、何かあれば我が命に賭けて」 「全く、沙耶は大袈裟なんだから」 我侭と聞こえなくもない、主が吐いた青臭い言葉にやはり惑いこそ隠せず‥‥しかし、瞳の奥には小さいながらも確かな信念の宿った光を見たからこそ、彼女はいよいよ折れると凛と踵を返せば布刀玉の苦笑が混じった言の葉を背中に受けながら開拓者ギルドへ急ぎ、向かうのだった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
辛島 雫(ia4284)
20歳・女・サ
花焔(ia5344)
25歳・女・シ
紫木 音嶺(ia5367)
33歳・男・シ
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ
花風院・時雨(ia5500)
13歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●石鏡、戦の前〜内情の一端 石鏡の国王が直々(とは言っても実際にはその側近が依頼として持ち込んだのだが)の依頼を請け負った八人、指定された場所である平原へと足を運べば年若い兵士達が揃い訓練に‥‥励んでいる筈はなかった。 「実戦とは何たるか‥‥か」 まぁ話の通りであるとは思いながら、その光景を改めて目前に朝比奈 空(ia0086)は秀麗な面立ちだけに明らかに見て分かる程、眉根を潜めては呟く。 「戦いを知らないのは悪い事では無いのですが、態度が些か目に余りますね。後で一番苦労するのは自分達だと言うのに‥‥」 そんな彼女の呟きなど知る筈もなく、若者達の嬌声が尚も響けばそれを受けて彼女は逆に今度、溜息を漏らすと 「戦に於いては、慢心こそ何者をも勝る弱点となり得ます」 空の後に続き、紫木 音嶺(ia5367)が普段とは違う仮面を被ったままに淡々と言葉紡げば改めて、辛島 雫(ia4284)が一切の表情を変えず今回の依頼が目的を告げては‥‥深い溜息を漏らした。 「新兵達の勘違い、此の是正。及び、戦場にての心構え、教示‥‥しかし、何と骨の折れそうな事か」 「まるで、お貴族の野遊びですな‥‥」 その一方、訓練には見えないその風景を遠くの樹上から眺めては遊びと揶揄する風鬼(ia5399)もまた、依頼こそ受けながら頭を抱える内の一人。 「でも私はこの子達、嫌いじゃないんだけどね‥‥このノリのまま使い物になると楽しいんだけど、今のままじゃそれは流石に難しいかな」 だがそれでも、はしゃいでいる彼らの姿を見て花焔(ia5344)だけは比較的、彼らの在り方を許容して艶のある笑みを零していた‥‥まぁ、見るべき所は過たずしっかり見てこそいるが。 「当然ですわな‥‥ふむ」 そんな彼女の反応を前に風鬼、言葉の最後だけを受けて首を縦に振ればその時‥‥その風景の片隅に暫くとは言え主となる人物が姿を現したのに目敏く気付いた。 それは丁度、後頭部で手を組みながらその風景を眺めていた花風院・時雨(ia5500)が言葉を発した時でもあった。 「碌に訓練にも参加しないって‥‥良くこんなの飼ってるよねー」 「そうですね、耳の痛い話です」 思った事を率直に吐いた彼女の言葉ではあったが、何時の間にか一行の近くにまで来ていた石鏡の国王で今回の依頼が主である布刀玉が聞いているとなれば話は変わってくる訳で 「だよねー‥‥っとぅえあっ!」 唐突な同意に頷く時雨だったがしかし、声が聞こえた方を見ては布刀玉の姿を確かに見止めれば言葉の後半には驚きも露に、そして文字通りに飛び跳ねる‥‥これは流石に、不味かったかと今更後悔するも 「ですが一部とは言え、これが今の石鏡の現状が一端です」 「王の代が代わり、それに伴い軍備の再編‥‥一部とは言えこの状況、自身の不徳がなす業で」 「まぁ今更、気にしてもしょうがないのかと」 布刀玉の反応は消沈としたもので、それを前に益々狼狽する彼女を傍目に深々と頭を垂れる沙耶だったが、それを宥めては滋藤 御門(ia0167)が口を開く。 「一先ずは初めまして、と挨拶を‥‥滋藤御門と申します。力の足りない所もあるかも知れませんが暫くの間、宜しくお願いします」 「朝比奈空と申します、尽力しますのでどうぞ良しなに」 「そんなに畏まらなくても、お願いしているのはこちらの方ですし‥‥どうぞ、宜しくお願いしますね」 すればと空も続けば、それぞれに応対こそ違ったが初めて目の当たりにした石鏡が国王に礼を払うと、布刀玉も皆へ穏やかに応じれば‥‥再びはしゃぐ若人達の方に視線を投げては変わらぬ光景を前に花脊 義忠(ia0776)は豪快に笑いながらそちらの方へ歩き出すのだった。 「さて、いっちょかますか!」 ●初日〜身の程を知ろう! 「おらおらぁっ! 俺最強ー! って勘違いしてるのはそこのガキ共かっ!」 果たしてそれから程なく、場に轟いた義忠の叫びに驚きを隠さず慌てて反応する若者だらけの兵士達。 「‥‥えーと、どちら様で?」 「てめぇらの(自主)は(規制)かぁっ!?」 開拓者も参加する、と言った話は聞いていなかった様で至極全うな反応を返す一人の兵士へしかし彼は唐突にも程があれば、公然では口にし難い単語を並べ兵士達を挑発する。 「言われて悔しいと思うんだったら、掛かって来いやぁっ!!」 その突然な出来事を前、反応こそ様々ではあったが若さ故に血気早い者もおり場の空気も一触即発の様相に。 「於於於於於於於嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚呼呼呼呼呼呼呼!!!!」 やがて、兵士の誰かが地を踏みしめ動き出す‥‥それと同時、ただの威嚇として腹の底に力を入れて鳴り響かせただけの裂帛を放ったのは雫。 「‥‥っひ」 その思惑、模擬とは言え実際の戦闘でも先の調子のままに振舞えるかと言う意味あっての行動に、しかし彼女の目には少なくともただのそれだけで怯んでいる者の方が多く目に映った。 だがそれでも、掛かって来る者がいた事には少なからず安堵を覚えるも 「その意気や良し、ですがそれだけでは‥‥」 しかし彼らの目を今に向けさせる為にも音嶺然り、開拓者達は揃い心を鬼にして臨む。 「おや、如何なされました。貴方達、味方同士で戦うのがお好みなのですか?」 そんな開拓者達の内心など知る筈もなく、刃がついていないとは言え当たればそれなりの痛手は被るだろう得物をそれぞれに振るう彼らではあったが、それは掠りすらしなければむしろ眼前のシノビが言う様に同士討ちの憂き目にも遭う。 「‥‥それでもっ、僕らは負ける訳には行かないんだぁーっ!」 「それだけの事を言うのですから、一当てする位は造作も無い事でしょう?」 ただの一度の交錯で見る者が見れば力量の差は歴然としたもので‥‥しかしそれでも尚、意気を吐く一人の兵士へ言葉を交わす前に衝突してしまった事に空は溜息を漏らしつつも、毅然とした態度は崩さず凛と声を響かせるのだった。 やがて義忠の挑発から十分が経っただろう頃になれば、最早動ける者等いる筈もなく。 「未熟者。どう言い繕っても私に負けたという事実は変わりません。私の手によって、貴方達は絶命したと言う事をお認めなさい」 開拓者の誰一人へ一当てすら出来ず倒れ伏す兵達へ辛辣に評価を下す音嶺に、しかし食い下がる者がいた。 「‥‥志体持ちなら僕らが負けて当然、むしろ卑怯だっ」 「ズル? 何言ってんの、そんな事を言ったらこれから対する事になるアヤカシはもっとズルよ」 「それに数ではそちらが勝っていた訳だしな!」 それ自体は驚きではあったが、しかし的を射た反論ではなくあっさりと花焔が正論で一蹴すれば豪快な笑い声を響かせながら忠義も続くと、流石にぐうの音は出ない。 「どうして真剣に、訓練へ励まないのですか?」 「え、だって僕達強いから」 そんな彼らへ今度は逆に優しく声を響かせ尋ねた空ではあったが‥‥それに対して返って来た答えは話に聞いていた内容と寸分変わらないもので、それを目の当たりに改めて揃い溜息を漏らす一行。 「‥‥冒険譚の主人公とて鍛錬を重ね困難を乗り越えて力をつけた、それは開拓者も同じ」 しかしそれでも、そんな彼らを諭す様に御門もまた丁寧な口調で彼らへ語りかける。 「持って生まれた素質の有無はあれど楽をして強くなる方法等なく、日々の積み重ねあるのみ。ましてや実戦は油断が怪我に繋がり、命すらも危うくする‥‥自分の身を守る大切な術を身につけるのが鍛錬。いざと言う時に体が動く様にしておかなくては」 「‥‥大事な事を、見落としていた」 その途中、果たして息を呑む音が聞こえたが一先ずそれは気にせず御門が話を最後まで紡ぐと‥‥何時の間にか兵達の全員が全員、真剣な面持ちで頭を抱えれば開拓者が皆は何事かと見守る中でやがて兵が一人はやおら立ち上がると拳もきつく握り締め、熱く叫んだ。 「英雄たるもの、仲間を守る為に自身の鍛錬を惜しんではいけない‥‥なんて大事な話を忘れていたんだ、僕らは!」 「‥‥えーと、どう言う事でしょう?」 「多分、恐らくは何かの冒険単に重なる所があったのではないのかと思いますが‥‥」 「んー‥‥切っ掛けは何であれ、先ずは幸先良いよねっ!」 すれば首を傾げる御門ではあったが、空の推測は正解か知れずとも時雨の纏めに皆、同意するが‥‥一人、木陰でその光景を見守る風鬼だけは瞳を眇めて厳しげな面持ちは崩していなかった。 (「とは言え、甘やかす気も毛頭はないんでさ。これから覚悟はして貰わんとね」) ●二日目〜既に訓練は始まっている 思いも寄らぬ事から風が良い方に吹き始めた初日だったが、既に訓練は始まっている‥‥早速二日目の朝、兵士達が一同は一つの切実な問題に直面していた。 「この落書きは‥‥っ、ではなく!」 「何時の間にか落書きされた人数の分だけ、糧食が減っているな‥‥」 兵達のざわめきも当然で、寝ている間に体のあちこちにされていた落書きは実害こそないが、その落書きを施されていた兵の分だけ戦時であれば尚の事に大事な糧食が減っていたのだ。 「うむ、全く持って知らん!」 そうなると無論、開拓者を疑う彼らではあったが義忠が断言に嘘が内包されているとは思えず、肩を落とす。 (「‥‥生温いでさ、それだけでは」) しかし実の所、それは当たりで風鬼が単身で行っていた事となれば忠義の様に開拓者でも知らない者がいるのも必然‥‥まぁ実際、知らなかったのは忠義だけの様だが。 それはさて置き結局兵士達は考えた末、まだ訓練に充てられている日がある事から今日は我慢する事に決め、少ない糧食を皆で噛み締めて食べる事にする。 これはこれでまた、彼らにとっては良い事なのかも知れないがそれでも士気は否応なく落ちる。 (「腹が減っては戦が出来ぬと言いますさ。さて‥‥何処まで持つでしょうかね?」) そんな様子を変わらず遠くから見守りながら、風鬼は呑気に樹上で茶を啜りながら自分の分の朝飯だけはしっかりと頂いていた。 「それでは、訓練を始めましょう」 やがて物足りない朝餉も終われば、それにも拘らず始まる訓練に‥‥兵達の瞳は輝いていた。 「はいっ!」 士気こそ確かに低いがそれでも昨日、偶然とは言えやる気を促す発言をした御門を前にすれば、それも当然か‥‥それとも若さ故か。 ともあれ、訓練は始まる。 「真面目にやらぬ事、故に、自信があると言う事‥‥?」 時には当人らからすれば真剣に行っているつもりでも、手を抜いている様に見える時があれば主には雫から、厳しい叱咤が飛んだりもしたがそれでも彼らなりに精一杯頑張っているのは誰の目から見ても明らかで、兵達と共に訓練に励む御門はその奮闘振りに目を細め微笑んだ。 無論、訓練は体力的な面だけではなく精神的な面や核となる実戦の教義へ及ぶ。 「個々人の能力の高さも大事だが、軍人なら、いや、軍人でなくても戦うのであれば連携が重要だーっ! 何故だと言うならそれは‥‥」 と熱い調子で連携の重要性について語る忠義の話は余りの長さに卒倒する兵がちらほらといる程で、此処に全文を記す事こそ出来ないからこそ彼らには確かに刻まれただろう‥‥良い意味でも悪い意味でも。 「最大の理解は、仲間が死ぬと言う事‥‥戦場で手加減はないですしな」 「命の為に名誉は捨てろ。仲間の為に命を懸けろ‥‥ってね」 ともあれ、話に聞いた通りであれば一行が訓練で重点に置いたのは『連携』に関する事で、ただ一度だけ兵達の前に姿を現した風鬼に続き時雨が話した最も大事な話には、揃いも揃って兵士の皆が涙した事は一応、書き残しておく。 ●閑話休題 三日目の昼下がり、今日もやはり朝には落書きされた兵の分だけ少なくなっていた糧食を皆で分け合い噛み締める兵達を見ながら、時雨はマイペースな発言。 「‥‥うーん、お風呂に入りたいなー。後ご飯もせめてもう少し美味しいと良いんだけどー」 「もう少し良い環境が整えられれば良かったのですが、兵の事も考えればと思いまして。皆様には我慢を強いる事となって申し訳なく」 「あわわっ、またー!?」 そんな折にまたしても現れた石鏡国王に、やはり驚きを隠せる筈はなく。 「ともあれ、他の皆様もお疲れ様です」 「いえ、布刀玉様こそご心労お察し致します」 「それは別段、気になさらずとも。今は彼らの方を気に掛けてあげて下さい」 時雨のその様子に笑みは湛えたまま、布刀玉は場に集う開拓者達を労うとお返しにと花焔も言葉を返し、頭を垂れればやはり笑顔で応じる石鏡国王に彼女。 「ただ‥‥恐れながら、憧れもまた戦い続ける為に必要と存じます」 「勿論ですよ。それに戦う為だけに兵がいるのではありませんし‥‥」 「何よりまだ、彼らは若い。夢を抱く事に何らおかしな事はないだろう」 頭は垂れたまま、彼らの意を汲んでいるからこそ進言すれば頷く彼に側近もまた同意すれば 「だからこそ、自身で判断した上で歩く道は違えて欲しくないですよね」 「はい、僕が言うのも可笑しいかもしれませんがその通りです」 昼食も早く終わって動き出す兵達を見つつ空、果たして本意を紡げば布刀玉もまた笑顔で彼女に応じるのだった。 ●最終日 限られた時間、開拓者として教えられる事、出来る事は成しながらも時には彼らと言葉を交わし、互いを理解してはその距離を近付ける事が出来た一行。 確かに思い込みや妄想癖が若干、強い感こそあったがそれさえ抜けば根本は年相応の若人と何ら変わる筈なく、初日の切っ掛けもあって皆の話が通じれば実戦についての理解も早かった。 ならば後はその結果を見るだけ、と言う事で初日と同じく布刀玉を前にして行われる模擬戦。 不安視していた脱走こそなかったが、故に朝から晩まで寝ずの番だった風鬼は「終わったら起こしてくれ」とだけ残し、不参加‥‥最終日まで持ったとは言え志体持ちでも人の子、それを明らかにしてくれる。 「覚悟は、いいな?」 とにかく、模擬戦の開始を前に改めての意気込みを尋ねる雫に果たして彼ら。 「‥‥訓練とは言え、今となれば怖いですね」 正直な今の心境を聞いて彼女、今までと変わらずに無表情ではあったが僅かにだけ口の端を緩めながらもやがて場に響き渡る法螺貝の音を合図に、開拓者に若き兵達はぶつかり合うのだった。 模擬戦の結果として、確かに最初と比べれば兵達の間で連携こそ取れており気遣いも見受けられたが二倍以上の数の差があってもやはり経験の差だけは埋めようがなく、良い所まで一行を追い詰めたが‥‥後一歩が届かなかった。 だがそれでも、兵達が清々しい顔を見れば布刀玉は果たして依頼として頼んで良かったと思った筈だ。 「よし、今度は合体秘奥義を編み出そうぜ!」 根本こそ変わっていない様だが、それでも頼んで良かったと思っている筈‥‥多分。 〜一時、終幕〜 |