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■オープニング本文 ジルベリアにある、小さな村のその中に周りの民家より一回りだけ大きな建物がある。 身寄りのない子供達を集め養う孤児院、特に名前はない。 今この時期、厳しい寒さと荒ぶふきっさらしに晒されるその孤児院の門扉を珍しい客人が叩けば、戸が開け放たれると同時に寒さに身を震わせながら孤児院の中へ飛び込むといきなりの珍客を前にその場に居合わせた子供達は一瞬だけ唖然とし、しかし見慣れた客人の顔から次の刹那には我先にとこぞって飛び掛る。 「やっほー皆ただいまー元気していたかね!」 そんな子供達を纏めて抱き止め潰されながら、風宮葵は皆の頭を次々に撫で回せば 「お姉ちゃんお帰りーっ」 「よしよし元気だったな偉いぞー」 「何時来たの何時帰るのー!」 「今日来て明日帰るよー、って嘘嘘!」 「プレゼントくれよプレゼントー」 「あはは、忘れちゃった!」 矢継ぎ早に繰り出される子供達の言葉にそれぞれ、勢いだけで応じていくとやがて天地逆転する彼女の視界が片隅に、この孤児院を主立って切り盛りしている老婆の姿が映る。 「全く、騒がしいと思えば‥‥久々に帰ってきたね」 「ん、ばっちゃ。ただいまー」 「律儀にこの時期だけは帰って来るんだねぇ」 「だってばっちゃのローストチキンは聖夜の夜にしか作らないでしょ、だから!」 「‥‥色気より食い気とは、何時まで経っても子供かね」 その『ばっちゃ』が漏らした嘆息に葵は屈託なく答えながら立ち上がると、首を傾げる老婆へ尚も彼女は笑顔を浮かべれば、自身の実家に帰ってきたその理由を明示すると呆れる『ばっちゃ』に不満げな表情を浮かべる子供達。 「ちぇー、僕達は食べ物の後かよー」 「あ、勿論皆にも逢いたかったよ?」 そんなぶー垂れる子供達を前、今更に取り繕う葵だったが‥‥果たして子供達よりローストチキンを先に取った彼女へ直後、罰が当たる。 「じゃが葵には悪いが、今年のローストチキンはなしじゃ」 「えーっ、何でどうしてー!」 「この村で鶏を養っておらんのは知っておるじゃろう。となると近くの街まで買いに行かねばならんのじゃが‥‥最近はその道中が物騒になって、わしらだけでは足が運べんのじゃよ」 すれば今度は彼女がぶー垂れる番だったが『ばっちゃ』の話を聞けば、仔細こそ明かしていないが納得せざるを得ない‥‥果たして『物騒』が何を指すか、何となく察したからこそ。 「‥‥んー、それなら僕が行って来ようか?」 「そうして貰えると助かるが‥‥主一人だけで行くと言うなら止めておけ。どうせ主の事じゃ、途中で道を外れてもそれに気付かず、勢い任せで歩いた末に遭難しましたーとかで春まで見付からんとか普通に有り得そうじゃからな」 「はうー‥‥でもやっぱり、食べたいなぁ」 だから葵は申し出る、『ばっちゃ』特製のローストチキンを食べる為に‥‥しかしその申し出に老婆は彼女の性格を良く知るからこそ、釘を刺せばうな垂れつつもしかし諦め切れない葵へ『ばっちゃ』。 「‥‥そこまで言うなら他の開拓者も連れた上で、近くの街まで鳥を買いに行って来てくれんか。まぁ、子供達にもやはりせがまれているしの」 「よし乗ったー!」 「では手配やら必要な負担やら全部任せたぞ、丁度余裕がなくて助かったわ」 「えー‥‥」 妥協点を提示すればそれには予想通り応じる彼女だったが、次いで響いた老婆の言葉には不満げな表情を浮かべるも、それは僅かだけ。 「ま、年に一度の事だしいっか!」 すぐに笑顔を浮かべれば急ぎ人手を集めるべく、孤児院の扉を勢い余って壊しながらその場を後にするのだった‥‥『ばっちゃ』の怒声を背に、それから逃げる様に。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
白河 聖(ia1145)
18歳・男・陰
若獅(ia5248)
17歳・女・泰
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
周十(ia8748)
25歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●開拓者ギルドにて ジルベリアにある孤児院にて聖夜の夜に必要となるローストチキンを作る為、必要となる鳥の買い付けに開拓者が八人とその道案内を勤める一人、ギルドへと集う‥‥ただ鳥の買いに行く為だけに八人もいるかと言われれば、甚だ疑問ではあるのだが。 「ったく、食い繋ぐにしたってこのクソ寒い中にお使いってのはな‥‥まァ、文句言っても仕方無ぇか。仕事は仕事だ」 「そう言う事っ、宜しくねー?」 それでも開拓者からしてみれば些細な内容の報酬に依頼でも生きる為、文句を言いながらも周十(ia8748)はやがて割り切り頷くとそんな彼に風宮 葵(iz0027)は宥める様、笑顔を向けると 「葵さんは久し振り‥‥相変わらず‥‥?」 「うんっ、元気元気だよ?」 「宜しくな、風宮」 「おう、宜しくされた!」 それを合図に響く、柚乃(ia0638)と御神村 茉織(ia5355)の挨拶にはそれぞれ表情を変えずにこやかに応じれば、次いで全力で握手も交わしてきた彼女に苦笑いだけ返す二人。 「‥‥それにしてもばっちゃのローストチキンっての、そんなにうめぇのか?」 そんな彼女の全力握手に返す様、今回の依頼の肝となる鳥の買い付けの先にあるローストチキンについて尋ねる茉織へ葵は強く何度も首を縦に振れば 「そいつぁ、楽しみだぜ」 「ローストチキン‥‥ってどんな料理なんだろう? ジルベリアの料理は知らないからなぁ‥‥」 「えーとね‥‥鳥料理!」 「‥‥それは分かるんですけどね」 気さくに笑む彼の傍ら、輝血(ia5431)ははてと首を傾げれば応じる葵の、余りにもそのまま過ぎる回答には誰も苦笑を返さずにはいられない。 「ともあれ、年に一度の事ですし無事に果たしたい物ですね。孤児院の子達も内心では楽しみにしているでしょうし」 「でも夜間は危険だから、鳥持ちの帰り道は日没前に着きたい‥‥ね」 「じゃあ早速レッツゴー!」 しかしその和やかな場、朝比奈 空(ia0086)は大した内容の依頼でこそないがそれでも普段と変わらず、これからやるべき事を見据え厳かに言葉紡げば、柚乃もまた頷くと果たして葵の掛け声と共に防寒着等、必要な準備を整えた一行はジルベリアへ向け、精霊門を潜るのだった。 ●雪降り積もる道を往く それからジルベリアに至れば一行、(仮処置ながらも扉は直されていた)孤児院を経由して後にすぐ、近くの街へと足を向ける。 「うーん‥‥とは言えやっぱり気になるなぁ」 今も雪降り積もる中、それを踏み締め固めながら歩く一行の列が中程で呟いたのは白河 聖(ia1145)‥‥葵が言う孤児院の『ばっちゃ』が本当の名前を確認しようとするも、当人はそれ以上もそれ以下もない『ばっちゃ』だ、と言う回答しか返さなかった事が気になってしょうがなかった。 「んー‥‥余り触れて欲しくないのかもよ?」 「まぁ過去はそれぞれにあるだろうしな」 「‥‥そうですね」 が聖とは逆にそれも気にせず若獅(ia5248)が宥める様に言えば、羅喉丸(ia0347)も続いて素っ気無くも確かな事を言葉にすると聖が漸く矛を収めれば 「そう言えば葵はよくジルベリアに来るのか。開拓者になったのも、孤児院を助ける為なのか?」 今度は若獅、葵の方へ顔を向ければ率直に思った事を尋ねてみる。 開拓者となる切っ掛けは人それぞれで、だからこそ自分以外のその切っ掛けは誰しもが気になる所であろう。 「うん、まぁー‥‥そうなのかなぁ?」 「曖昧な答え、なんですね」 その問い掛けに対して葵、頭を巡らして暫し思案した後にその解を言えば苦笑を浮かべながら空もその会話に混じると 「えへへー。でもやっぱり、改めて考えてみるとそんな立派な大義名分じゃないかも」 「それでは、どうして?」 「んー、強いて言うなら‥‥」 照れる所は何処にもない筈だが、もじもじと体を左右に揺する拳士はしかし早くも先の発言を翻すと肩を落とす一行だったが、空は動じず尋ね返してみれば葵。 「面白そうだったから?」 「面白そう‥‥開拓者が、ですか?」 「うん、そう」 今度は偉く抽象的な答えを返すと少しでも的を狭めようとしてか、聖もその会話に加わり口を開くとそれにこっくりと頷き、屈託のない笑みを浮かべながら葵は言うのだった。 「自分が子供の頃、開拓者の人にちょっとお世話になってねー。そう思う様になった切っ掛けが、それかなー」 と気こそ払いながら葵と他愛のない話を交わす内に一行、往路はケモノの襲撃もなく街に着けば一行は目的とする鳥に、聖が孤児院の状況を調べて補修に必要となるだろう最低限の資材等確保するとまだ日も高い事から休憩もそこそこにすぐ踵を返し、来た道を引き返す‥‥その復路。 「‥‥ん」 微かではあったが、別の方向から聞こえた雪踏み締める音を聞き止めて輝血が歩を止めれば、他の皆もそれを切っ掛けにその場に止まり周囲の気配を探る。 「いるな、数もそれなりには多いか」 雪は未だ降り、体毛が保護色だからか目で捉えるには難しいが、それでも耳を澄ませば踏み締め一行へ近付いて来る音が引き続き周囲から複数聞こえ、羅喉丸が呟くと 「葵さん、お願い‥‥ね。鳥を持ったまま無茶をしたら、ローストチキンは食べられなくなるからね?」 「ガキ共の大事な食料だから、任せたぜ」 「はっ、それは責任重大‥‥!」 徐々に迫る音を聞きつつ、柚乃は持っていた一羽の鳥を葵へ託すと周十も続き声を掛ければそれを受け取って葵は口調こそ変えないまま、しかし表情は引き締めて応じる。 果たして自重しない葵へ釘を刺すこの作戦は見事で、彼女の動きを抑止するのに成功すれば戦闘に対して集中して臨める様になった一行は鳥と葵を守る様に円陣を組み、近付いてくる軽い足音‥‥恐らくは狼なのだろうケモノを迎撃すべく、それぞれに得物を構えると 「戦うのは、俺達に任せておけよ!」 雪を蹴ったのだろう、乾いた音を立てケモノが接近に対すべく芙織が最後、鋭くそれだけ葵へ言うと同時に先手必勝と雷火手裏剣を放てば、それを端に戦闘が始まる。 「動きは速い様ですが、それでもこの程度なら‥‥」 先ず放られたその手裏剣に一匹の狼が地に伏せればしかし、それではまだ怯まない狼達は次々に飛翔すればその内の数匹、組み難しと見てか羅喉丸へ一斉に飛び掛かるも‥‥それを空、牽制にて手裏剣放って一匹を致命傷こそ与えられなかったが叩き落せば 「まぁ、大した事はないな!」 そのまま迫る三匹を泰拳士は持つ長槍「羅漢」振るいて叩き、突き、抉れば豪と吼えると、その彼を前に狼達は一瞬だったがたたら踏めばその機逃さず、聖が一匹の狼が動きを拘束すると柚乃は動き止めたそれの周囲を歪め捻じ曲げる。 「‥‥退いて貰えます、か?」 その連携には堪え切れず、雪に埋もれる狼を見つめたままに厳しい口調で彼女が言い捨てれば、言葉こそ理解出来る筈もないが一行から放たれる重圧に漸く開拓者達が格上と理解した狼達は判断も早く降る雪の中、溶け込む様に去って行った。 ●孤児院にて それからも数度、ケモノとの戦闘こそあったが買い付けた鳥を守りつつ一行は無事に孤児院へと戻る。 「‥‥後で狩りに来るか」 一度だけ熊を退治した折、本気で日々食べるのに困っているらしい周十が呟きに皆、苦笑を浮かべながら。 「ふむ、良く帰ってきたの‥‥と言うのは失礼か、開拓者殿ならば当然じゃの。むしろ葵のお守りやら、雑用を任せて申し訳なかったな」 そんな一行を出迎え、ばっちゃは笑みを浮かべつつも今更な詫びをしては頭を下げるが 「いえ、お気になさらず」 「中々に楽しかったしな」 「えとー‥‥私のお守りが楽しかったって事?」 空に羅喉丸がそれぞれ老婆を宥めると果たして隣で首を傾げる葵に、皆は肯定も否定もせずに笑い声だけ上げれば芙織。 「だが、まだ礼を言うには早くないか?」 「と言うと‥‥」 ばっちゃへ向け、それだけ言うと暗に何を指しているか察した老婆は言葉紡ぐがその途中。 「孤児院の簡易修理に、聖夜祭の準備とか? 隙間風とか寒いだろうし、簡単な修理しか出来ないけどそれでもするとしないとじゃ、雲泥の差でしょ」 「‥‥気持ちは有難いのじゃが」 輝血がその後を継ぐ様に言えば、何故か言い淀む老婆だったが 「遠慮するなって、働いた後のメシは旨いし体を暖めるのにも丁度良い。仕事ついでにやってやるよ」 「うんうん、じゃあ宜しく頼んだ‥‥ったー!」 それでも熱く周十が握り拳固め言うと、続く葵の発言の後にばっちゃは彼女の後頭部を平手で叩きつつも、一行の申し出には折れて頭を垂れるのだった。 「そこまで言われると、こちらとしては折れる他にないのぅ。こいつは適当に使って構わん故に‥‥宜しく頼む」 それからすぐ、子供も含めて場に居合わせた全員は動き出す。 「皆で囲めるし、身体の芯から温まると思って‥‥」 孤児院内にある、お世辞にも広くない厨房にて柚乃は別に入手しておいた鶏がらを出汁にした白菜と鶏肉の鍋を振舞うべく、腕を振るっていた。 「ふむ、悪くないのぅ。それに料理の品数が増えれば子供達は喜ぶじゃろうしな」 「折角の夜、ですからね」 その腕前に感心しつつばっちゃ、彼女が言葉に頷くと彼女が笑んだその時。 「‥‥ん、何やら向こうが騒がしいが?」 「‥‥あ、それは」 祭を前に賑やかだった子供達が尚も嬌声を上げる様子に老婆が振り返れば、柚乃は予め聞き及んでいた話をばっちゃへ説明するのだった。 その厨房の傍ら、孤児院の広間にて簡易的な修理に臨んでいた開拓者の横で遊ぶ子供達、赤い衣纏いて現れた若獅に輝血を見て先よりも更にはしゃぎ出した。 それが唐突にあがった子供達の嬌声の理由。 「サンタさんだー!」 そんな二人の登場に作業の手を止め、彼女らの装いを見てはポツリ漏らす聖。 「‥‥にしては、ちょっと格好が」 「輝血、やっぱりこの服‥‥丈が短いと思う」 「子供達、苦手って言ったのに‥‥」 彼が呟いた事自体、若獅も同じ事を思っていた様で今更に着ている衣装のスカートが丈の短さにいささか恥ずかしく頬を染めれば傍らにいる輝血を小さく小突くも、彼女は彼女で自身の演技が通じない相手を前にして若獅とは別に困惑を覚えるも‥‥二人共に子供達の前に出て来た以上、引ける筈もなく。 「‥‥ほら、お菓子だよー。皆にあげるからね?」 「わーい!」 一先ず自身、精一杯の笑顔を湛えて街で予め買っていたお菓子を子供達一人一人へ配り出せば、群がってくる子供達に尚も戸惑う輝血。 「聖、ぼけっとすんな。こっちはこっちで早く終わらせようぜ」 「え、えぇ。そうですね」 そんな彼女達の心中は知らず、二人の様子をぼんやり眺める聖だったが‥‥やがて周十に小突かれれば我に返り、慌て作業へと戻る。 「ほら、これで届くか?」 「うんっ」 そして孤児院の修復作業も着々と進むと、やがて屋内にへ飾るにはそこそこ立派な樅の木をばっちゃの指示で引っ張り出してきた芙織、一人の女の子とその飾り付けに挑む。 「出来たよー!」 「ほぉ、立派だな」 彼の肩を借りて精一杯にある飾り用い、やがて立派なツリーへと飾り付ければ彼女を下ろしながら、浮かべた満面の笑みに応じて人懐っこい笑顔を返すと少女の頭を撫でながら朗らかに言うのだった、 「こりゃ良い夜になりそうだな」 ●聖夜の夜に やがて準備が整えば始まる、聖夜の夜を祝う孤児院でのささやかな祭。 尤も例年とは違い子供達にばっちゃ、葵と開拓者がいれば頭数は多くまた柚乃や若獅が腕を振るい作った鍋にスープ等々もあり、卓に並ぶ料理も例年より多く子供達の笑顔はとても眩しいものになっていた。 「ああ、久々の肉〜。旨い、旨いですー。ばっちゃさん、ありがとうございますー」 「‥‥無邪気に喜ぶ姿を見るのは本当に良い物ですね」 「じゃの、年には関係なくな」 その光景の中、それなりに量もあったからこそ遠慮せずにローストチキンをがっつく聖はその美味しさに涙流し言うと、子供達の様子を優しく温かい表情で見守っていた空は彼の方も見てから口を開くと首肯するばっちゃに他の皆もまた聖と子供達を見比べて後、微苦笑を湛える。 「とは言え、気を遣って貰ったみたいで済まんな」 「何、料理の事だって街を見て回っている内に俺が食べたくなったからついでに買ってきただけだ」 「‥‥なら、そう言う事にしておくかのぅ」 そんな孤児院の賑々しい光景を見ながらばっちゃ、卓に並ぶ普段よりも豪勢な料理の品々を前に誰へ言う訳でもなくポツリ漏らせば、気にするなとは言わず羅喉丸が応じると‥‥暫しの間を置いて老婆、彼の内心こそ察しつつもそれ以上は何も言わず一人納得して頷けば 「それにパーティーの席で1人食べていても詰まらない、皆で騒ぐからこそ楽しいものだしな」 「加減はあるじゃろうが、年に一度の事であれば尚の事か」 続き響いた羅喉丸のその真意にはばっちゃ、肩を組んでは高らかに歌う葵と若獅の様子にこそ溜息こそ漏らしつつもしかし、笑んで応じた。 やがて宴もたけなわに至れば、子供達へ今まで体験した冒険譚を聞かせる者がいて、のんびり料理に舌鼓を打つ者もいれば、最初こそジルベリアに伝わる童謡を歌っていた筈の者らは今では何処の歌か、調子っぱずれな歌を披露する賑々しい光景が広がっていた。 「‥‥皆本当に楽しそうだね。あたしには何が楽しいのかさっぱりだけど。ある意味、羨ましいな。無邪気に笑えるのって。でも‥‥」 その中、笑顔が堪えない子供達の様子を見て先まで湛えていた笑顔を消し、場の片隅に空気と同化して無表情に呟くのは輝血。 本来の彼女であれば、こう言った場に溶け込み馴れ合うのもまた演技を持って応じるのだが 「折角の聖夜祭だし‥‥こう言う空気に浸るのも悪くないかも、ね」 今この時だけは呟いたそのままの気持ちを抱き、僅かとは言え心の奥底から沸いた感情のままに微笑んだ。 そして、年に一度の聖夜の夜は楽しくも穏やかに過ぎていくのだった。 |