|
■オープニング本文 五行のほぼ中央に位置する首都、結陣。 そのまた中央に位置する一際大きな建造物の中、王の為に宛がわれている部屋を訪れて王の側近が矢戸田平蔵(やとだ・へいぞう)は足を踏み入れるなり、溜息を漏らす。 「‥‥今日も、か」 「悪いか」 その側近が溜息にしかし、机上に置かれている一つの書類を見たまま顔を上げない五行の国王の架茂 天禅(iz0021)は素っ気無く応じれば、傍らに積まれている巻物やら紙片によって出来た山を指し示しては言う。 「これだけ紙の束があれば、纏めなければなるまい」 「とは言え、何も連日引き篭ってもなぁ」 「嫌いな訳じゃないからな」 王としての務め、と言えば確かにやらなければならない事ではあるがそれにしても度が過ぎると嗜める様に侍は言葉を吐くが、やはり顔を上げないままに応じる架茂からしてみれば別段苦にしていない様子で、取り付く島もない。 「たまには外へ出て来い、一国の王が世間を知らないのも問題だぞ」 「‥‥‥」 故に架茂王は世間に疎い、と言う話も各所でちらほらと聞いていたからこそ平蔵は折れずに今日こそはと旧友へ言うが‥‥果たして暫くの沈黙の後。 「そう言うものか?」 「‥‥そう言うものだ」 王から返ってきた、当人からすれば真剣な疑問にうな垂れながらも平蔵は首肯すると、ここで漸く書類から目を離しては頭上を見上げ思案する架茂。 「‥‥とは言え、な」 「まぁ、いきなり外へ放り出されてもあれか」 ぼそり呟けば、何に迷っているか平蔵も即座に察したからこそ今度は侍が思案する手番。 「じゃあ折角だし、酒でも買ってきてくれ。飛び切り美味い奴な」 「それを世間では使いっ走りと言うんじゃなかったか?」 「そう言うのは知っているんだな‥‥」 やがて掌を打ち鳴らして一つ、目的を架茂に与えるも‥‥直後の切り返しに今度は平蔵、肩を落とす。 「ま、理由は何であれたまには外に出て町の様子やら見ておいた方がいいぞ」 「‥‥余り気が乗らんが、そうするか」 がそれは何とか話題を逸らしてみると、溜息こそ漏らしつつも案外あっけなく立ち上がる架茂だった。 尤も、互いに気が知れている数少ない人物の一人だからこそだろう。 と言う事でそれから簡単に身支度を済ませ、かなり久々に自室を後にした架茂を見送ってから後に平蔵は不安に駆られる。 「‥‥やはり一人で行かせていいものか、不安だな」 それはそうだ、平蔵とて彼と揃い結陣の市街へ出向いたのは何年前になる事か思い出せない位で、さてそれから何時彼が市街へ出たのかも記憶に怪しかったのだから。 因みに一つ添えておくが、ここ数年架茂が全く外へ出なかったと言う訳ではない。 五行以外の王国へ会談等に出向いた事は無論にある、ただ民が集い語らう市街へ出向いたのが何時だったか、と言う話だ。 「ただのお使いに護衛、と言うのもあれだが‥‥念の為に打診しておくか」 と言う事でただの外出とは言え、王や街や人々に何事があっては流石に大事だろうと思い至れば幾ら大らかでざっくばらんな性格の平蔵とは言え気が気でなく、やがて近くの開拓者ギルドへ至急の案件として持ち込むのだった。 なんて迷惑な依頼なんだ、とか思っちゃいけません。 |
■参加者一覧
陽(ia0327)
26歳・男・陰
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
安達 圭介(ia5082)
27歳・男・巫
滋藤 柾鷹(ia9130)
27歳・男・サ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●初めてのお使いじゃありません 当人曰く幼少の頃、数度は街に出て食べ物やら衣服は買いに出た事がある、と言う五行の架茂王。 因みに三十五歳の独身、でも当人は至って気にしていない‥‥と言う話はさて置いて、実はその生い立ちについては余り知られていないし、自身も明言していない。 各国との対話には臨むが、それ以外で私的に外へ出る事も殆どなく故に民の殆どにも顔が割れていない彼。 「‥‥たまの気晴らし、と割り切るか」 春も近くなり、降り注ぐ眩しい陽光を見上げては青白い肌の彼はげんなりとしつつも側近に言われたまま、美味い酒を置いているだろう酒屋を探して結陣の街を気だるそうに歩き始めるのだった。 「‥‥何と言うか、噂のそれとは違いますね」 「普段、稀にもない事故に戸惑いがああ言う形で現れているのだろう」 「ちょっとだけ、安心しました‥‥」 その王の背後、偶然姿を見かけ建物の影から見守っていたのは安達 圭介(ia5082)と滋藤 柾鷹(ia9130)の二人で、しかし圭介が言う通りに気だるそうなその背中からは王の威厳は感じられず、柾鷹の推測もあれば安堵する彼だったが 「何を考えてるか分からない人って苦手なんです、実は‥‥いや、何で受けたとか言わないで下さい‥‥すいません、すいません‥‥」 「いや、拙者に頭を下げられてもな。ともあれ、行こうか」 続く言葉には本意が含まれていれば、遅れてその事に気付いた彼はぺこぺこと傍らの侍へ何度も頭を下げるが、人を食う程に良い人である事を察した柾鷹は別段言及もせず苦笑だけ浮かべ応じると遠ざかる架茂王の背中を見失うまいと、圭介を促し慎重に歩を進めた。 「何と言うか、話だけ聞く分には王らしからぬ印象を持つな」 「まぁ、それが特徴と言うか」 「面白そうではあるな‥‥さて、出るとするか。架茂王の話、忝い」 一方では開拓者ギルドに立ち寄り、肝心の架茂王についてギルド員から話を聞いていたのは生来から悪人顔で通る大蔵南洋(ia1246)で、しかし見た目の割にしっかり丁寧な言葉遣いにはギルド員も好感を持ったからこそ確かに応じれば、最後の礼も忘れずに踵を返す南洋だったが‥‥ギルドと街の境でふと足を止めれば、最後に一つだけ尋ねるのだった。 「‥‥そう言えば、結陣の地図はあるか?」 芝居には、相応の小道具も必要な訳で。 「いや、そのまま外に放り出した」 「‥‥はぁ。それでこの依頼、ですか?」 「‥‥それを言われると、まぁ痛いな」 とここで場面は結陣の中央へ‥‥果たして影ながらの護衛を請け負いつつもその容貌等から既に『影からの』の部分を割り切り、日傘を差しては堂々と自身の存在を誇示するフレイア(ib0257)の呼び出しに応じた架茂王が側近の矢戸田平蔵と暫し話を交わし、情報を交換するが最後の方では彼女は呆れると渋面を浮かべて侍。 「とりあえず特にこちらで予定を立てたり、それを投げたりはしていないな。それに架茂とて市街には慣れていない訳だし、予定等決められる筈もないし当てもないな」 一先ず彼女の問い合わせには明確に答えを返すと、頷くフレイアではあったが 「一国の王の扱いが果たしてそれで、良いのでしょうかね」 「‥‥まぁ、配慮が足りなかったのは認めよう。一先ずここから近場の酒屋は教えるから、それで今回は勘弁してくれ」 言うべき事はしっかり言うと、平蔵も自身の非を認めるからこそ彼の行動を察して行く確率が高いだろう酒屋を軒並み上げるその傍ら。 「結陣は小さい時に来たきりだから、よく分からない‥‥」 偶然、ギルドでほぼ同刻に同じ依頼を請け負った柚乃(ia0638)は市街を見回し戸惑い隠さず首を捻るばかりだったが 「そう言えば、鴨さんの護衛‥‥しないと。鴨さんがアヤカシに狙われているのかな‥‥大変ね、守らないと」 聡明そうな面立ちの割、素でボケる彼女に微妙なイントネーションの差異に気付いた平蔵は果たしてどう突っ込むべきか、暫くの間悩んだとか。 次いで場面は街中に戻り、陽(ia0327)はと言えば。 「うし、行ってこい」 符から小鳥の式を作り出してはまだ個人、捉えていない架茂王を見付けるべく奮闘していた。 「‥‥さぁ、架茂王の初めてのお使い。どう言った展開になるのでしょ〜か」 ちょっと小馬鹿にした言い草ではあるがその実、陰陽師でもある彼からすれば架茂王はどうしても気になる存在であり、それもお使いとなれば余計に興味津々な訳で。 「ま、何はともあれ見付けないと始まらないか」 頭を掻きながらも架茂とは一部、共通点もある事から好奇心を抑えずに笑みを浮かべては式の後を追い駆けた。 ともかく、こうして急遽組まれた架茂王護衛隊はそれぞれに彼を追い、中には探しながら影ながら護衛する任に就くべく奔走を始めるのだった。 ●一先ず酒屋へ さて、ここで改めて架茂の方へ視点を戻ると‥‥道のど真ん中で通行人の往来は気にせず、空を見上げては小鳥の存在に気付き鼻を鳴らしていた。 「‥‥ふん、もう少し上手く使え」 それは陽が放った人魂の式で、尤もそれを見て生物か式かを見切った訳ではなく単純に蒼穹をその一羽だけ羽ばたいていたのが不自然に映った様子。 (明らかに空気が変わった‥‥か?) (です、ね) そんな彼の様子を一行の中で一番近くにて見守っていた柾鷹と圭介はすぐにそれを察するが‥‥それから後、彼は気にする事無く歩き出すと漸く見付けた手近な酒屋の店頭へ至り、並ぶ酒を眺めるも 「敵意はないと感じるが、我の後を着けて来ているのは誰か?」 動かないままにボソリ、しかし良く通る低い声を響かせればそれから少し後‥‥相談の末、圭介と柾鷹は路地の影から現れると先ず圭介が一つ尋ねる。 「‥‥どうして、気付かれましたか」 「式だろう鳥が飛んでいたから、術者がそれなりに近くにいるだろうと踏んだのが一つと、しかし術者一人だけではないと思いカマを掛けてみただけだ‥‥で、何者か?」 「御無沙汰しております、架茂王。お変わりなき様子で恐悦至極。お散歩でございますかな?」 「挨拶は良い、先ずは俺の質問に答えろ」 すればそれに応じて後、架茂は二人を見つめて問い返すと柾鷹の礼は一蹴して再び先よりも語気を強め、彼らへ先の質問を繰り返す。 この辺りから意外と自己中心的である事を察しながら、しかし身分に立場を考えて圭介はおずおずと口を開いた。 「は‥‥実は」 それから暫く、二人の説明を掻い摘んで受けた後に一先ず架茂は彼らを側につけ酒屋の前で他に同じ依頼を請け負った者を腕組んで待てば、やがて揃う六人の開拓者。 「成程な、分からんでもないが平蔵め‥‥余計な事を」 そんな彼らを前、右親指の爪を噛みながら苛立たしさも露に架茂は呟くが 「まぁ平蔵様の意も察して下さいな」 「それに、何かあった時では遅いですからね」 「‥‥全く、良く分からん奴だ」 フレイアと陽が揃い宥めれば、溜息を漏らしつつも矛を収め改めて一行を見回すと‥‥一行の中で一つ以上頭の低い柚乃もまた、視線を彷徨わせている様に気付けば王は尋ねる。 「‥‥どうした」 「皆、背が大きい‥‥鴨さんの飼い主さんも‥‥むぐ」 (すいませんっ、後で説明しますが一先ず鴨とかその飼い主さんとかは忘れて下さいっ) すれば返すその答えの途中、先も発した『かも』の微妙なイントネーションの違いに今度は圭介がいち早く気付けば彼女へ詫びながらも口を塞げば、架茂の様子を伺うと‥‥今は陽や柾鷹と目的の酒を見繕っている所で、一先ず安堵して肩を落とす。 「そう言えば銘柄聞いてます? こっちで見繕いましょうか?」 「‥‥そうだな、俺が選んでも外れるだろうから任せる」 「酒は飲める口でしたか?」 「‥‥‥いや、口に合わんから飲まんな」 流石に鳥類のそれと間違えられたと分かれば、十分に激怒するだろう事は火を見るよりも明らかで‥‥そんな圭介の内心等知らず、陽の問いに首肯する架茂は柾鷹へも応じれば一先ず当座は穏やかに過ぎそうな雰囲気に、またしても安堵。 「そうだなぁ‥‥これなんてどうですかね?」 やがて、店内にある酒まで見て陽はやがて値が張りそうな一本の酒を手に取り、それを掲げれば架茂はすんなり頷くと店主の元へ歩み寄り王は会計を済ませようとするが‥‥果たして懐をまさぐって直後、皆の方を振り返ると一言だけ言うのだった。 「‥‥財布を落とした」 ●結陣、練り歩き 結局、その会計は陽が支払い一先ずの目的は達する。 「‥‥後日、平蔵を訪ねてくれ」 架茂が落とした財布には(本人曰く)大した額は入っていないと言う事ではあったが、捜索に必要な手続きだけはしっかり済ませて後、ばつ悪そうな表情で架茂が言って後。 「そう言えば架茂王は知識の収集に熱心な方だと聞き及んでおりますが、こう言った市井の実地調査等はお嫌いなのですか?」 不意に口を開いた圭介の質問に、架茂は彼の方へ顔を向ければ視線だけで『話を続けろ』と促すと首肯して圭介。 「アヤカシの研究や術の開発等も大変重要な事ですが、こう言った街に流れる情報も頭にあった方が純粋に楽しいんじゃないかと俺なんかは思ってしまうんですが」 「ふむ」 そして聞き終えて後、穏やかに思案する架茂王‥‥我が強いとは言え、筋の通った話に対しては耳を傾ける事に、圭介は当然ながら他の皆もまたそれぞれに聞き及んでいた話を書き換えれば直後。 「‥‥たまの機会だ、それも悪くはないのか」 そんな彼の応対から一行、もしかして酒だけ買って帰る気だったのかと今になって気付かされる。 (そう言えば、軽度の引き篭り‥‥でしたか。ならその思考もありえる訳で) その中で南洋、開拓者ギルドでそんな話も聞きましたねと思い出せば平蔵の説明不足もあったかと思うもとりあえず、その難を逃れた一行は五行王と揃い市街の方を見やるが 「誰か‥‥結陣に詳しい?」 「「「「「「‥‥‥‥」」」」」」 次に柚乃が言葉響かせるとやはり揃い、固まる。 「ま、まぁ私が地図を持っているし何とかなるだろう」 だが直後にもまた南洋、影ながら護衛する為の小道具として準備した筈の地図を掲げて言うが‥‥それでもやはり、不安だったのは誰かが口にするまでもなく。 と言う事でそれから暫し、結陣の街中を闊歩しては皆。 「これは何? ‥‥あれは?」 「‥‥何だ」 「いや、拙者に聞かれても結陣に足を運んだのは久し振りで‥‥それなりに町並みも変わっている様ですし」 あれこれに興味津々な柚乃の問い掛けに、更に誰かしらへ問い掛ける架茂へ今度は柾鷹が応じれば、護衛こそ忘れず周囲へ気を払う事こそ忘れないものの四苦八苦する一行。 それでも一行の舵を取る南洋の提案と導きで、結陣にある港へと辿り着く。 『結陣を潤すは諸国との交易に御座いますれば、この機会に港の現状を見て行かれるのは如何に御座ろう?』 それは尤もだ、と言う事で来るには来たのだが‥‥五行の要とは言えあくまで川沿いにある街、港こそあるがその規模は国内にある三陣と比較すれば月とすっぽん程の差がある。 それでも、良く整えられている現状を見れば顎を撫でる架茂の表情は果たして感心した物か、今ひとつ読み取れなかったがとりあえず怒っていないだけ良しと思う事にする一行。 「少し、何処かで‥‥休憩、しない?」 とここで一人、どちらかと言えば観光気分の方が強い柚乃が抱えたもふらのぬいぐるみを抱き締め言えば一行、近くにあった茶屋へ腰を下ろす事に‥‥そして皆の注文を纏めながら柾鷹、そのついでに今の流れに嵌まった質問をしてみたり。 「そう言えば架茂王、お好みの飲食は何かありましたか?」 「腹に収まる物なら、別段に何も」 「まぁ、好き嫌いがないと言う事は良い事ですわよね」 「食べ物は粗末にすると罰が当たるからな、好き嫌いはない」 その問いに対し最初こそ、予想通りと言えば予想通りな答えが返ってくるがそれに別段、気にした風も見せずフレイアは穏やかな表情を湛え頷けば、果たして次に首肯して架茂の口から紡がれた言葉には皆唖然とする。 何処の農家の人だ、と言うか迷信信じているんだとか突っ込んでもいけない。 「所でジルベリアの文化や風習はご存知で?」 「‥‥余り、知らんな」 だがやはりフレイアはそれも気にせず傍らに届いたお茶を一口啜って後、尋ねると首を傾げる架茂へにこり微笑めば一つの礼儀を教える。 「ジルベリアでは男性が女性をエスコートするのですよ」 「‥‥‥」 暗に『何処か連れて行って下さい』と含みある様にも聞こえる彼女の発言にしかし、五行の王は暫く沈黙を重ねて後に口を開く。 「だが、ここは天儀だ」 が漸く言葉を紡いだかと思えば『それが何か?』と言う感で応じる次第‥‥故に皆は思った、『あぁ、引き篭り以前にこれだから独身なんだな』と。 勿論、口に出しては言わなかった。 ●架茂の心中? それから相変わらず地図を凝視する南洋の案内で少し遅い昼食を傾きかけた怪しげな店で済ませ、それなりの満足を架茂から得れば相変わらず興味津々な柚乃によってあちこちを引き摺り回されながらも市街の様子を見て架茂、果たして何を思ったか。 だが時間は有限であり、何時の間にやら太陽が橙に染まる頃に。 「存外に悪くはなかったな」 「これからも週に一度位、僅かな時なりとも散策に出られてみるのも宜しいかと。根をつめても仕事がはかどらぬ時にお勧めでございます」 「‥‥まぁ、考えよう」 流石に時間も時間と言う事で架茂を居城へ送り届けるべく、そちらの方へ歩き出す一同の中でそれなりの満足を得たからこそだろう、率直な感想をボソリ架茂が呟けば柾鷹は微かに笑みつつもあくまで丁寧な物腰にて進言するが、それにはつっけんどんに応じるのみ。 (一国の王がそれでいいのかは兎も角として、私の興味をそそる方であるのは確かな様ですね) 「‥‥何だ」 「いえ、何でもございませんわ」 (‥‥苦手なタイプだな‥‥) そんな応対を見つつ、フレイアは内心で呟くが‥‥注がれる視線を敏感に察し尋ねる架茂ではあったが穏やかに笑むだけの彼女へ五行の王はそれだけ思う。 「‥‥だが、折角だから見せてやるか」 「何処を、ですか」 「知望院だ、尤も立ち入りの制限を課しているから幾ら開拓者でも外しか見る事は出来んがな」 ともあれ、少なからず自身の視野は広がったかと多からずとも感じたからこそ帰路の途中、架茂は口を開くと尋ねる陽へ答えれば早く踵を返して皆を先導する。 「その前に一つだけ言っておくが‥‥」 果たしてその途中、皆に背を向けたままの王は場にいる全員へ何を思ってか一言だけ告げるのだった。 「別に人付き合いが面倒だったりとか、そう言う理由で引き篭っている訳ではないからな」 |