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■オープニング本文 年が開けてから理穴の役人である羽柴杉明が開拓者崩れに狙われるという事件があった。 実際は養女である麻貴の命を狙う事が目的であった。 黒幕は判明し、現在は監察方にて監視下においている。 その者は武天の旧家の者であり、秋明という。 彼は妹を案じ、よき家に嫁がせたいという考えを持っていたが、その野心を知った者が秋明の妹‥‥一華を攫い、彼女の命と引き換えに羽柴麻貴の殺害を強要した。 開拓者崩れ等に杉明を狙わせて、麻貴に揺さぶりをかけた所で麻貴の命を狙う事になったが、全ては開拓者の活躍により、未遂に終わった。 杉明も麻貴も秋明の事情を全て知った上で理穴と武天の友好を考え今回の事は内々で済ます事に決めた。 だが、しくじった彼を狙う者がいる可能性を考慮し、監察方で一時預かりで監視する事にした。 一方、武天は妹の一華が攫われた話が表に出てきた。 それを知ったのは鷹来沙桐。 彼は武天有数の名家鷹来家の当主。どうやら、一華は彼の見合い相手の一人だったらしい。 沙桐当人も見合い相手から結婚相手を見つける気など全くなく、一華もまた、嫌がっていた。 鷹来家が統治する繚咲にほど近い山の中で一華を発見した。 彼女は随分丁重に扱われていたが、丁重に扱っていた者の情報は得られなかった。 一華の命に別状がない事はなによりの収穫でもあった。 現在、一華は天蓋でも警備が行き届いている場所におり、体調も回復している。 秋明と一華を会わせる為、秋明を繚咲は天蓋へ送り届ける事を杉明が決めた。 兄妹が持つ少しの情報も今ではなく、先の自分達には必要な事と感じたからというのと、家に戻り彼等が再び狙われるのは避けねばならないからもある。 一華が現在いる所は繚咲の中で一番安全な所だから秋明もそこに預けたいと考えている。 沙桐が奏生に入り、秋明と相見えた。 彼は今、羽柴家に預けられている。妹に会いに行くというのに夏の暑さに体調を崩してはならないという杉明の心遣いからだ。 秋明は沙桐と麻貴がとても似ている事に驚き、察して額を畳にこすり付けて謝罪した。 「申し訳ありません‥‥!」 妹と祝言を挙げさせたい男の姉を殺そうとしていた事を何も知らなかったとはいえ、罪悪に駆られる。 「‥‥麻貴は鷹来家に認められている者ではありません」 沙桐の言葉に秋明が顔を上げる。 「俺達双子は繚咲直系の父と理穴の羽柴家‥‥杉明様の妹である母の間に産まれました。繚咲当主は繚咲の先祖の血を引く者同士の結婚となります。俺は男なので戸籍を認められ、麻貴は殺されかけた所を杉明様が迎えに上がられました」 沙桐の言葉を秋明は静かに耳を傾ける。 「母も羽柴家からは追放されてまして、麻貴が羽柴の血を引く事は明かされておりません。ですが、杉明様とその娘であられる葉桜様は養女として籍を入れた麻貴をわが子、わが妹として大切に育てられてきました」 秋明は羽柴家に来て麻貴の話を侍女や葉桜、杉明から聞いていた。本当に彼女は愛されている事を知った。 「麻貴には心に決めた人がいます。祝言だっていつあげてもいいのですが、麻貴は願っているのです。鷹来麻貴と名乗り、相手の家に嫁ぐ事を。たかが苗字ですが、俺達にとっては結構大事なんですよ」 そう、沙桐は苦笑した。 「お相手様はどう思っているのですか」 「‥‥麻貴の願いを何より尊重してくれてます。あいつならいつでも祝言を挙げるように丸め込むのも簡単に出来るんですけどね。俺に麻貴を鷹来家に認めさせるようにさっさとやれって無言の圧力をかけてるんですよ」 肩を竦める沙桐に秋明は微笑ましそうに目を細める。 「‥‥私でよければ使ってください。羽柴家、鷹来家に助けられたこの身です。いくらでも」 「ありがとうございます」 穏やかに決意を口にする秋明に沙桐は礼を言った。 山道を歩いてひょっこり屋敷に足を踏み入れる。 誰もいない荒れた屋敷。 視線を彷徨わせれば戸が開いていた。 どうやら、食事は消えたようだ。 もと来た道を戻り食事を捜す。 食事なぞどこにでもあるのだから。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 羽柴家に預けられていた秋明が出る際は羽柴家に住まう女中や使用人全員が顔をそろえて見送りに立っていた。 「皆様、本当になんと申せば‥‥」 「私達に恩義を感じるならば、無事に一華殿と会いなされ。それが我々の願いだ」 胸いっぱいに言葉が出てこない秋明に杉明がそう言った。 「羽柴様、麻貴を宜しくお願いします」 沙桐が口に出してもその表情は寂しそうだ。鏡合わせのように似ている麻貴もまた同じように寂しそうだ。 双子をそろえて見た杉野九寿重(ib3226)は本当に似ていると思った。そして、心からお互いを思いあっているように見えた。 「沙桐、気をつけて‥‥秋明さんを頼む」 「うん、麻貴も早くよくなって」 もう大人と言っていい二人が離れ離れになる子供の様に別れを惜しみ、抱き合っている。 そんな二人を見てイラつきを拭えないのは輝血(ia5431)。 たかが名。 本当はどうでもいい事なのに、この二人は周囲を巻き込んで苦しんでいる。 何で一緒に笑い合えないのか。 だが、彼女とて理解しているのだ。 背に負う蛇が輝血を嗤い、疼く気が‥‥する。 黙って双子を見つめる輝血を御樹青嵐(ia1669)は横目で見ていた。 秋明は志体がないため、彼に合わせての行動となる。 「出来るだけ夜は宿にしたい」 「野宿になる可能性はありますか?」 休憩中は弖志峰直羽(ia1884)や輝血、九寿重、滋藤御門(ia0167)が沙桐と一緒に地図を確認しつつ、地図を見ている。 「秋明の兄ちゃん、大丈夫か」 叢雲怜(ib5488)が秋明に声をかける。 「はは、羽柴家では家事の真似事をさせて貰っていたが、いざ外に出ると使う筋肉が違うね」 客人の如くの扱いを受けていたようで、申しわけなく感じた秋明は洗濯や薪割りなんかをかって出ていたようだった。 「ともあれ、身体を動かす事は悪い事ではありません。少しでも体力維持に繋がる事と思いますよ」 青嵐が言えば、秋明はそうであってほしいと苦笑する。 「とりあえずは体力温存です」 珠々(ia5322)が秋明に水を渡すと、「ありがとう」と言って水を受け取る。 そろそろ動こうとした時に、御門が沙桐に声をかける。 「沙桐様、格別なる配慮感謝致します」 「それは杉明様に言って。あの方の一言で秋明さんの首だって飛ぶかもしれないんだ」 杉明は己の地位を明かさない。 一個人として開拓者と接したいと考えているのは理解できるが、彼がどの地位にいるかは想像するに容易い。全ては麻貴の為と彼の周囲は言っている。 「その‥‥麻貴様が鷹来の姓を名乗るにはどうすればいいのですか? 僕にも手伝える事があるんですか?」 御門が尋ねると、沙桐は少し困った表情を浮かべた。 「分からないんだ」 「え?」 「どういう事?」 きょとんとする御門に直羽が加わる。 「今、繚咲の実権を握っているのは俺の叔父に当たる人とばー様。条件は三領主を認めさせる事なんだけど‥‥三領主にそれぞれ何かあるみたいでね」 「何かとは」 「‥‥違法贈賄の可能性があったんだけど、なんか違うくて、ここ数年は火宵の件で手が止まっている」 がくりと肩を落とす沙桐に御門と直羽は顔を見合わせる。 「火宵が繚咲の三領主に関わっているという事でしょうか‥‥」 青嵐が呟くが、御門の気持ちはそれはないと考えている。 「僕は火宵が繚咲に危害を加えないという言葉を信じたいです」 彼は害を与える気はないと書いたのだ。御門はそれを信じたいと思っている。 「何はともあれ、まずは秋明さんを送り届ける事でしょう」 秋明に対し、思うところはまだあるものの、こうなれば彼が幸せにならなければと青嵐は考え始めた。それには彼を安全な所に連れて行くことが先決だ。 夜は宿に泊まる事もある。 二間続きの部屋を借りて男女に分かれる。 寝るまでは襖を開けて一つの部屋として護衛に入る。 「あのう、一華は元気だったでしょうか‥‥」 ぽつりと呟く秋明に九寿重が頷く。 「はい、以前お会いした時は元気でしたよ」 監禁され、保護した時は少々衰弱が見られたが、開拓者の皆の手厚い看護で一華はかなり回復していた。 若さゆえの早さもあるが、全ては開拓者達の的確さだ。 「よかった‥‥」 「一華ちゃんは天蓋の領主の庵にいる。俺が信じている人間の一人だし、彼の孫娘も度々顔を出しているから大丈夫だよ」 「なんと‥‥ならば私が案ずる事はありませんね」 ほっとしている秋明に怜が首を傾げる。 「天蓋って安全なのか?」 「天蓋は繚咲を護る警護組織の里というところかな。周囲で繚咲に悪さしようものなら跡形もなく片付けるのがお仕事。俺とばーさまの声かけでしか動けないし、里の殆どがばー様に心酔してるし、ばー様が一華ちゃんの事を心配してるから護ってと声かけしてるから心配はないよ。領主のじーさんは、ばーさまの耳のような人だしね」 肩を竦める沙桐の言葉にとにかく安全な場所にいるという事がわかり、全員が安心した。 理穴と武天、隣の国とはいえ、道のりは長い。 武天は天儀の三分の一をしめる面積を持つ国でもあるからだ。 仕方なく、野宿をする時もあるが、その際も警戒は怠らない。 「青嵐のごはんは皆がおいしいって言うよ」 そう秋明に教えたのは輝血だ。 「一華さんも青嵐さんの料理で笑顔を見せてくださったんですよ」 九寿重が言えば、秋明は安心したように微笑む。食事を取って笑顔を見せるという事がどれだけ安心できるか、秋明はほっとしていただきますと手を合わせた。 「たんと食べてくださいね。直羽も貴方にしては我慢したので少し大目です」 「わーい、青ちゃん大好きーー」 直羽にないはずの犬耳と犬尻尾がぱたぱた動いているようにも見えた。 そんな二人のやり取りを見ていた輝血が思い浮かべるのは緒水や麻貴だ。あの二人とはどういう関係なのか、青嵐や直羽の親友という関係なのか‥‥ 「輝血ちゃん、どうしたの」 「いや、仲いいなって‥‥あたしにはああいうのいないし」 沙桐に声をかけられて輝血はバツが悪そうに視線を逸らす。 「輝血ちゃん、緒水ちゃんと麻貴とか仲いいでしょ」 「‥‥そうなのかな」 「一度、言ってみたら? 好きだって。麻貴の事だから「私の方がもっと好きだ」とか自信満々に言うかもね」 麻貴の台詞だけ真似をする沙桐の言葉に御門と怜が似てると笑う。 「むかつく」 「痛ったー!」 間髪いれず、輝血が沙桐の頬を引っ張る。 「せ、青嵐君、何怒ってるの! おかわり言いづらいよ!」 「別に怒ってませんよ」 おかわりは御自分でと冷たく言い放つ青嵐に沙桐が慌てている。 「ほらほら、今は食事中ですよ。騒がずに」 騒がしくなる状況に九寿重が微笑を浮かべつつ注意をすると、皆が倣う。 ちなみに珠々の椀には人参が入らないように配慮されていた。戦力を失うのは大変だからという理由で。 珠々は無表情でも機嫌よく黙々と食べていた。 「タマ、そろそろ人参食べられるようになりなさいよ」 「無理ですーーー!」 先輩シノビに言われて珠々は即答で出来ないと答えた。 「人参、美味しいのにな」 青嵐の料理が美味しいのかと怜が納得する。 夜の見張りは交代だ。 今回は御門と珠々の番。 御門が人魂を飛ばして様子を見る。珠々もまた、超越聴覚で様子を確認する。 青嵐、九寿重、怜が天幕を持ってきており、秋明一人で天幕を使い、後の残りは上手く使いまわしている。 ちらりと珠々が様子を聞けば、皆寝息を立てているようで、珠々は一人ほっとする。 輝血は起きているだろうとは思うが。 「早く、天蓋につかないと」 小さな小さな御門の呟きに珠々は「そうですね」と呟いた。 朝起きたら朝食を済ませて再び歩く。 そろそろ繚咲に近くなってきた。 今日歩けば夜半には繚咲のすぐ近くにつけるだろう。 これまでに一度ケモノに襲われたが、難なく倒した。 一華のいた場所も繚咲とは程よく離れた所だが、アヤカシが近くにいた。 今回も山を越えねばならないので、その可能性だけは否めない。 昼間、遼咲に入る為の山に入ったときのことだ。 「あ、カブトムシ」 怜が声をかけると、秋明は笑顔で頷く。 「山だからやっぱりいるんだね」 暑さで少しバテ気味の秋名であったが、ほっとしたような表情を見せている。 定期的に瘴索結界を展開していた直羽がぴくりと反応した。 「直羽先輩?」 御門の呼びかけと同時に九寿重も心眼を発動させる。輝血と珠々が超越聴覚で周囲を確認する。 「上空です」 九寿重の言葉と同時に御門が上を向き、鳥に気づく。 瞬時に動いたのは輝血と珠々だ。苦無を投げて鳥の翼を狙う。 片翼となっても鳥は飛ぼうとする。その姿が麻貴と沙桐を重ね、きゅっと、表情を引き締めた。 召還した美しい白銀の毛並みの狐だ。鳥達を蹂躙するかの如く白狐は鳥アヤカシを踏みつぶし、噛みちぎっていく。 「それだけじゃない、気づかれたかもしれない」 直羽が言っているのは地上のアヤカシのようだ。 「‥‥いきましょう」 珠々が先を急がせる。まだ気づかれてはいない。 アヤカシ退治が名目ではないのだ。なんとしても秋明を天蓋へ送り届けるのが依頼なのだ。 「直羽さん、九寿重ちゃん、とりあえず交代でアヤカシの確認を頼むね。怜君は森の中を動くアヤカシがこっちの邪魔をするまで銃は使わないで。輝血ちゃんと珠々ちゃんも超越聴覚で確認してね。御門君と青嵐君は待機、」 沙桐が声をかけると、全員が頷いた。 秋明を囲むように動く。全員が壁となり、秋明を護る。 暫く歩いていると、輝血がぴたりと止まった。 「輝血さん?」 青嵐が声をかけると、輝血は苦無を手に持つ。珠々もまた同じく感じ取ったのだろう。 「来ます」 九寿重の言葉で緊張感が走る。 方向からして、自分達が向かう方向になる。 奴等を倒すしかない。 静かにスコープを覗いていた怜はじっと奴等が来るのを待つ。 軽やかだが、飢えた足音がスコープ越しに響いてきそうだ。 珠々と輝血は五感で感じ始めているだろう。 無風の中、怜は間合いに奴等が入るのを待つ。 先頭の一匹が人間を確認し、更にスピードを出す。 確実にしとめる事を優先した怜が術を発動した途端、剣狼の速度が落とした。だが、剣狼は気付かない。目の前の人間を喰らう事が大事だからだ。 怜が静かに引き金を引くと、綺麗に真直ぐ飛び、先頭の剣狼の眉間に弾丸を撃ち込む。 撃ち込まれた衝撃で倒れこむと、二匹巻き込ませて転倒した。 転倒に巻き込まれた剣狼が再び立ち上がろうとしたが、御門がすかさず白狐を発動させて立ち塞ぐようにする。 残りの二匹は仲間の剣狼を飛び越えてこちらに走ってくる。秋明と沙桐の前に立ち、護るのは九寿重、直羽、輝血だ。 当の沙桐は輝血が前に立つのにきょとんとしている。自分の身くらい護れるのは輝血だって知っているはずだ。 「沙桐、あんたに何かあれば麻貴がまたおかしくなるからね」 不思議がる沙桐の様子に気付いたのだろうか、輝血が言えば、沙桐は笑みを浮かべる。 「うん、そうだね」 麻貴の不安定さは話に聞いていたようだ。 後衛にいる青嵐が剣狼の機動力を削ぐ為に斬撃符で剣狼の前足をそぎ落とす。 剣狼は残った一本の足だけで踏み出し九寿重を喰らいに跳躍した。九寿重は慌てていない。 引き付けるだけ引き付け、刀身に赤い燐光を纏わせ、一歩踏み込んだ。両手で刀を構え、思い切り剣狼の頭から一刀両断に斬りつけた。 返り血で九寿重の視界が少しだけ悪くなったが、九寿重が倒した剣狼の後ろからもう一匹狙ってきている。 「大丈夫です」 静かに言い切ったのは珠々だ。真っ向から珠々が駆け出し、左腕を剣狼に差し出す。 このままでは食いちぎられると思ったが、直羽だけは様子が違っていた。 剣狼が珠々を噛むその瞬間、彼女から淡い光が発して一度だけの最強の盾が現われる。 逆手に持った刀で剣狼の首を刺し、そのまま彼女の体重をかけて刀を地面に突き刺すように剣狼の首を叩き付けた。地面についた瞬間、刀を降ろしてそのまま首を切り離した。 「急ぎましょう」 直羽と九寿重が確認したが、第三陣の様子はまだない。 全員が歩き出して、青嵐はちらりと秋明を見やる。 アヤカシの襲撃で表情が固く感じる。 「‥‥秋明さんは一華さんをどうお思いですか」 青嵐はこの旅で秋明に声をかけることはあまりなかった。 この旅で秋明が私利私欲に走るような人間ではなく、誠実で思いやりのある人物である事が窺がわれた。 だからこそ問いたいと思う。 「‥‥私達に両親はもういません。名家に嫁がせれば一華は幸せになれると思い込んでおりました。あの子はあまり欲がないとずっと思っておりました。だけど、羽柴様や皆様に一華の話を聞いてあの子はきっと、私に遠慮してたのではないかと思います」 「私は違うと思います」 話に入ってきたのは九寿重だ。 「一華さんは少しだけですが、自分のお気持ちを私達に言いました。お兄さんと一緒にいれればいいと。いつか離れる時はあれど、家族は一緒がいいですから」 愛しい家族と離れているのは秋明や沙桐だけではない。九寿重や怜も家族と離れている。 直羽も時折妹と会う事もあるだろうが、一時期は離れていたのもあったようで、今回の事は少し思いがなきにもあらずかも知れない。 「秋明の兄ちゃんは一華姉ちゃんと離れたいのか?」 首を傾げる怜に秋明は違うと答える。 「いつでも会えると安心していました。今、こうして皆さんに護られている状況でも命の危機は感じてます。だからこそ、一華に会いたいです。馬鹿な事をして謝りたいです」 「護るよ。一華も秋明に会いたいんだし」 きっぱり輝血が言えば、秋明は泣きそうに笑う。 もう少しで山を抜けそうになった頃だ。 「いる‥‥」 誰かが呟いた。 「地響き‥‥?」 珠々の声に輝血が違うと答えた。 左右の木々より振動が響いてきている。御門が両翼の小鳥を走らせ、何が近づいてきているのか 「熊‥‥!」 右と左と挟み撃ちをするように近づいてきている。 短時間に二度の襲撃に遭い緊張も限界だ。秋明が心配される。 それでも戦わねばならない。 瞬間、熊二頭が倒れた。瞬時に増えた気配に輝血と珠々は肩を震わせたが、すぐに気配は消えた。 右から現われた姿に何人かがほっとした。 「架蓮‥‥」 沙桐のシノビである架蓮が現われた。 「皆々様、長旅お疲れ様です。我々、天蓋が皆様をお守りします」 深々と頭を下げた架蓮に誰もがほっとする。 すぐに消えた気配は天蓋の者達だ。 秋明は架蓮に支えられ、開拓者達は天蓋領主の庵へと向かう。 そこには涙を流し、兄との再会を心から喜ぶ一華の姿があった。 誰もが二人の再会を喜び、安心と共に見守っていた。 |