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■オープニング本文 久しぶりに敦祁と会えた御幸だが、彼女の表情は浮かない。 「敦祁の道場ってさ‥‥」 「言うな、言わないでくれ」 敦祁も理解しているようで、彼もまた頭を抱えているのだ。彼もまた、御幸に会えて嬉しいのに、楽しめない。 それもそう、この二人が今日会うのは理由があるからだ。 その理由とは、今年に入って礼儀作法修行の一環として御幸が習い始めたお茶の稽古で同じ師匠のところに通う少女の事。 彼女は御幸と同じ頃に通い始めた同門であり、御幸とも仲がいい。 その少女に何があるかと言えば、彼女はジルベリア人だ。 元々ジルベリアと国交がそれなりにあったとはいえ、ジルベリア人はあまり馴染みがないのが実情かもしれないといったところ。 その少女の父親は鉱石の技術者であり、豊かな資源のある武天は此隅に家族とともに移住してきた。 家族は皆、郷に入れば郷に従えというように周囲にとけ込み、武天の生活を理解していった。 移住してきた家族は父、母、兄、妹という構成で、母方が騎士の家であり、子供達は剣を嗜んでおり、御幸の勧めで御幸が通っている正道館へも通ってもいる。 何に問題があるかといえば‥‥正道館とはライバル関係にある敦祁が通っていた道場に通う少年。 なかなかの悪ガキであり、金髪碧眼の少女を見るなり長い髪を引っ張り「鬼ッ子め」と言い出した。 少女も気が強く、反抗したが、まるで効果なし。 少年の師匠達も怒ったがかえって逆効果な模様。師匠達もちょっと手を焼いている事を少女が知れば、そういう子なのかと納得し、会っても相手にしなくなったのだ。 少女がどんなに馬鹿にされる言葉を投げかけられようと何も反応しない、会っても声も返してくれなくなり、面白くないと思った少年は練習以外はいつも少女が身につけている髪飾りを奪ったのだ。 それに少女は焦り、必死に返してと叫び、追いかける。 少年は少女の必死さが面白く、神社の竹林の方へ投げたそうだ。 「自分でとってこい」 更に少女に立ちふさがるように少年が立つと、少女は否応無く少年を突き飛ばして竹林へ駆けていった。 それが二日前の事だ。 翌日、お茶の稽古で少女の白い手に擦り傷だらけであることに気づいた御幸が様子に気づいて話を聞けば、そういう話で、敦祁の家まで押し掛け、事情を話してそっちの情報を教えるように言い、今日に至る。 敦祁としては、家に押し掛けてきた御幸を気にした親達が敦祁にも春がきたと喜び、御幸の他人を思いやる所や礼儀をわきまえ事情を話し、押し掛けたことの非礼を詫びるところやらなんとも愛らしいところが母親がとても気に入ったようだ。 今すぐにでも祝言を! と息まかれ、自分はどれだけ信用がないのかと頭を抱えたり、将来の嫁入りは安泰だとか色々と複雑なようでもあった。 御幸や母親に叱咤されて敦祁が話に行けば、その少年は落ち込んでいるようだった。 少女に対し好意を持っていて、どう接したらいいのか分からなかったようだ。 その髪飾りは男から貰ったような話もあり、少女がその男の話をする時は嬉しそうなので腹が立ったようだ。 髪飾りは少年の手元にあり、とっさに近くの石と摩り替えて石を投げたようだ。 夜遅くまで少女が探している話を知った少年はどうしようか悩んでおり、かえって敦祁にどうしようか助けを乞う始末。 敦祁としても「さっさと返して誠心誠意謝罪しろ」としか言いようがない。寧ろ、自分もそういう事があったので、早く忘れたいくらいだ。 敦祁と御幸が溜息を深くつくと、さっと人影が入る。 「あら、お二人さん、こんにちは」 「緒水さん!」 優しい声に御幸の声が明るくなる。 緒水は御幸の通っているお茶の稽古の先輩にあたる。 「どうしましたか? 神妙そうな顔をして」 緒水の言葉に御幸が事情を伝える。 「そういえば、彼女元気ありませんね」 心配そうに緒水が言えば、あっと、思い出す。 「開拓者の皆様にお願いしてみたらいかがでしょうか?」 鶴の一言に二人があっと目を見張る。 「きっと、よい手をやって下さるに違いありません」 にこやかに笑う緒水に二人は頷いた。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 「なるほど‥‥これが『男って奴は』なのですね」 勉強した事が実際に起き、カッと猫目を見開くのは珠々(ia5322)。 勤勉さと愛らしさに緒水がつい笑顔となってしまう。反対に敦祁は胃が痛くなりそうだ。 「人の心とは侭ならないものですね」 溜息をついたのは御簾丸鎬葵(ib9142) 。 「簡単に冷静になれるものではないからな」 肩を竦める音有兵真(ia0221)に「でも!」と声を上げるのは叢雲怜(ib5488)。 「男の子が女の子を悲しませちゃダメだって姉上達が言ってたのだぜ!!」 「確かにその通りだ」 こっくりと兵真が頷く。 「要は子どもって事だよね。悪い事でしか気をひく事ができない」 「仲直りをしてほしいですね」 呆れる輝血(ia5431)に白野威雪(ia0736)が呟く。 「とりあえず、ダリアの足止めに行って来る」 ひらひらと輝血が手を振る。 竹薮の中ではやはりダリアが髪飾りを探していた。 「ダリア!」 御幸が声をかけると、ダリアが振り向いた。 「御幸、緒水さん‥‥」 ほっとしたようなけれど、必死そうな表情でダリアが呟く。その後ろにいる輝血にきょとんと目を見張る。 「輝血様よ。開拓者様なの」 緒水が言えば、ダリアは輝血に向き直り、名を名乗って一礼する。 「随分探しているようだね。探し通しだと頭が煮えて見つかる物も見つからないよ」 ダリアの顔は汗まみれで、赤ら顔だ。鼻が赤いのは泣いていたのかもしれない。一休みを提案する輝血にダリアは首を振ろうとしたが、聞こえるのは腹の虫。 定食屋に入って、ダリアは簡単なものを頼み、三人はお茶を頼む。 出来上がった定食を食べるダリアの食欲は随分進んでいる。本当にお腹が空いているようだった。半分以上食べると、様子も落ち着いたようだ。 「ダリアは今まで男の子と喧嘩したり仲良くなった事はある?」 輝血の言葉にダリアは首を振る。 「家はよく移動をする家でした、親の仕事で各地を回ってましたので、あまり交友がありません」 「男は意地っ張りだから素直じゃなくてね、女の気を引こうとして意地悪をしたり、強がって大きく出たりする」 「そういう、ものですか‥‥」 まだ手をつけていない草餅に視線を落とすダリアが呟くと、はっと、顔を上げる。 「ですが、世の中の男が皆、よい人ばかりではないと思います! 悪い人だっているから、女性にだってそういう人がいるやも知れませんが、私は自ら弱者を護ろうとして剣を取っているのです!」 世間知らずと思われたくないのか、ダリアが慌てると、輝血は分かっているよと言いたげに頷く。ダリアはかぁっと赤面し顔を俯く。 一方、敦祁は兵真、怜、鎬葵、雪、珠々を連れて音江のいる道場へ。 大きな声を張り上げて稽古が行われている。 敦祁が師範代に声をかけて音江と話したい旨を伝えている。 師範代が頷くと、休憩を言い渡す。 門下生達が敦祁が連れて来た者達に好機の視線を投げつける。 「音江、碌に休ませずに悪いが、手合わせをしてもらう。こちらは開拓者の音有兵真殿、泰拳士をしている。相手に不足はないだろう」 敦祁の言葉に他の門下生もざわめく。 「はいっ」 開拓者という存在を見知ってても、手合わせをする事はあまりない。こんな好機、逃すわけには行かない。端にいた音江は道場の真中へと向かい、兵真もそれに従う。 木刀を構える音江は稽古の後で休んでもいないのに気合が入っており、好戦的な様子で兵真を見据えている。 審判は師範代がしてくれて始めの声をかけてくれた。 「はぁああああ!」 開始直後、音江が木刀を振り上げて兵真の脳天を狙う。 太刀筋が分かり易過ぎるのは若さだなと心の中で感想を持ち、兵真は綺麗に回避する。 「くっ!」 建て直しが早く、音江はすぐに次の攻撃を入れる。 「このっ!」 相手が回避し続ける事で見えてくるものがある。 まずは焦り、そこから手数が少ないと心の隙が出来る。 だがこの少年、中々に諦めない。好戦的過ぎて些か気になったが、中盤から集中力が出てくるのか辛抱強い。 相手を理解した兵真はガントレットで木刀を受け止める。 「了解した」 その言葉の一言で師範代が「止め」と言った。 他の門下生の視線を遠くに受けつつ、音江を交えて話が始まる。 「あの、どうして開拓者の皆さんが俺に‥‥」 開拓者と戦えたのは嬉しかったが、まず疑問はそこからだ。 「ダリア姉の髪飾りの事できたんだぜ」 同年代の怜に言われ、音江はあっとなると途端に申し訳なさそうに肩を落とす。 「返したらどうかと思うのだが」 単刀直入に言う兵真に音江は難色を示す。 素直に応じるのが恥ずかしいからだ。 「‥‥初対面で意地悪言った人を、普通に考えていい印象持てますか?」 ぽつりと呟くのは珠々だ。 その言葉に音江がはっとなる。 「それに、構ってもらえなくなったって事は、相手をする事すら苦痛だって事です。嫌いな人を相手するのってすーごく疲れるんですよ、やかましくてやめてほしいけど、相手する方が大変だから構わないんです」 更に言おうとする珠々を雪が「まあまあ」と宥めるのは音江の表情が青ざめているからだ。 「私はダリアさんの気持ち、とても分かります。私にも髪飾りを頂いた事がありますから」 そっと、雪が自身髪を纏める桐花の簪に触れる。その幸せそうな表情に音江はぐっと、拳を握り締める。 「本当に音江殿が見たいものは、彼女が悲しむ様ではなく、笑顔なのではないですか?」 鎬葵の言葉に音江は肩を落とす。 「謝る事ってすっごく勇気がいるのはわかるのだ。女の子にゴメンなさいってするのはかなり恥ずかしいけど‥‥将来、カッコ良くて勇敢な武士になる為には、女の子に謝れるくらいの勇気がなくてどうするのだ!!」 勢い込む怜に他の門下生の視線が向かうが雪が「落ち着いてください」と慌てつつ怜を宥める。 「ご、ごめんなさいなのだ」 はっとなる怜に雪が微笑む。 「正論ですよ」 雪の言葉に怜がへへっと笑う。 「ただ勇気を出して渡すのは壮絶なほど大変だ。ここで策を打とう」 正直に勇気を出して返す事が出来ないから音江が悩んでいるのだ。そこで兵真が話題を転じる。 「音江がダリアにゴメンなさいができるように切欠を作ろう大作戦☆ なんだぜ」 怜が言えば、音江がぽかーんと、彼を見た。 怜の考えた作戦は実際に髪飾りを隠すという事。 皆でも探し、音江に当ててその場でダリアに返すという筋書き。 音江はその話を聞いて飛びついた。 皆が味方してくれるならやり過ごす事が可能だと。 だが、その目論見は甘い事が分かり愕然となる。 髪飾りを隠すのは珠々だからだ。 先ほどの様子で自分の味方ではない。本気で自力で探せという事だ。 「世の中はそう甘くない。だが、切っ掛けをお膳立てするから後は自分で返せ」 兵真に言われて音江は観念した。 悪い事をしたらその分のツケは必ず回ってくる。 髪飾りを渡された珠々はその美しい銀の細工に目を丸くした。珠々だって女の子、綺麗なものには興味がある。 「とても綺麗なのです」 花の形になっており、花弁の部分には石がはめ込まれているとても繊細なもの。更にピカピカしているのは音江が綺麗に磨いているからだろう。 珠々が大事そうに髪飾りを受け取り、その場を辞した。シノビの素早さを生かして颯爽と駆けた。 「音江殿が到着する頃には珠々殿も作業を終えられているかと。御武運を祈り申します」 更に鎬葵が席を立った。 中性的な美しさを持つ女剣士の所作は他の門下生の視線を奪う。 「えと、着替えてきます‥‥」 そそくさと音江が着替えに行った。 先に席を立った鎬葵が向かったのは輝血達がいるだろう定食屋。 ダリアは凛とした剣士の鎬葵に興味があるのかちらちら見ては恥ずかしそうにしている。 自己紹介を交え、ダリアと剣術の話している鎬葵は頃合を見てダリアの髪飾りの話へ移そうとする。 「件の髪飾りは頂き物と聞きましたが」 髪飾りの話をすると、心細さからかダリアの表情が悲しそうに歪まれる。 「あれはアルフレッドからの贈り物で‥‥」 「殿方から頂いたのですか」 「ええ。とても仲がよくて」 鎬葵との話で輝血が矛盾点に気付く。 「待って、男の子とは仲良くした事がないって」 話に割って入る輝血の言葉にダリアは頷く。 「成人の殿方なのですか?」 緒水の言葉にダリアは頷く。 「母方の祖父なんです」 「え」 きょとんとなる四人。 「何で、おじいさんの事を名前で?」 御幸の質問にダリアは困ったように笑う。 「自分はそこまで老けた覚えがないと言って、名前で呼ばせるのです。女性が大好きで祖母の雷がしょっちゅう落ちてました。騎士としては立派な方で優しくて私も兄も父も祖父が大好きでした」 因みに髪飾りは祖母の為に作った髪飾りの型を使ってお揃いを作らせたらしい。 「‥‥そういう事ね‥‥」 多分、アルフレッドの存在が祖父である事を知っていれば音江は髪飾りを隠すという事はなかったではなかろうか‥‥ 「珠々、聞いてたね」 輝血が言えば、珠々がこくりと頷いた。 「裏づけが足りません」 冷静に音江を斬り捨てた。 少し時間を巻き戻して‥‥音江が着替えて敦祁や開拓者と共に竹薮へと向かう。 自分の手を離れた髪飾りがないとこうもそわそわするものなのかと音江は焦燥感に駆られる。 見つけられなかったらどうしよう、でも、他の皆もいるし‥‥でも、自分が見つけたい等頭の中でぐるぐると回る。 「音江さん」 「は、はい!」 雪に声をかけられて思案している音江が驚いている。 「考え事中に話しかけてすみません。あの、その場では言いづらい事もあると思います。後日、手紙で気持ちを込めてみては?」 手紙の言葉に音江はこくりと頷く。 「‥‥ですが、せめて謝りたいとは思います」 これだけはしっかり決まっているようだった。 「勇気はとても持つのが大変なものです。私も御武運を祈っております」 「はい‥‥」 視界に入ってきたのは件の竹薮‥‥ ごくりと音江は生唾を飲み込んだ。 その姿を髪飾りを隠した黒猫が確認し、気付かれないようにその場を去った。 珠々が来た事で始まっていると判断した鎬葵と輝血がダリア達に竹薮の方へと行こうかと誘う。 「一緒に探しますからね」 鎬葵の言葉にダリアは申し訳なさと嬉しさで一杯だ。でも、誰かといるのはやはり心強いもの。 竹薮へと戻ると葉を掻き分ける音と話し声が聞こえる。 「そっち、探したんだぜ」 「そ、そうでしたか!」 「あっちはまだだぞ」 「行きます」 四人の男女の声。その中の声にダリアが足を止めた。 「音江殿も話を聞きつけ、参加して下さっているようですよ」 襷がけをし、懸命に探す音江の姿にダリアは込上げる感情を言葉には出来ない。 音江としてはもう必死だ。ダリアが後ろにいる事すら気付いていない。 見つからなかったら本当に嫌われてしまう、開拓者よりも先に見つけなければと‥‥ 「珠々、どんな風に隠した?」 「頭が煮えているでしょうから、頭を冷やせば分かる所に」 この手の状況の人間の心理を理解しているシノビならではの答えだ。 いち早く気付いたのは兵真だ。 「そっち探したか」 「はい」 兵真が探した方向は一度音江が探した方向だ。 「そこは草が生い茂っていただろう、もう一度探して左側へと進め」 「はい」 兵真の言葉に頷き、もう一度音江が探す。だが、石が近くに転がってあり、髪飾りの石が緑色という事もあり、草の緑と同化して焦っては分からない模様。 「石が灰色なんだぜ、気をつけてみなよ」 兵真の言葉に気付いた怜が更にヒントを与える。それでも煮えた頭では分からない。 そろそろ日も暮れてくる。 日差しも碌に入らない場所だからすぐに足元が見えなくなる。 ダリアはこんな時間まで探していたのだろうか‥‥ 段差に音江が滑ってしまい、尻餅をついてしまう。 ‥‥早く探さねば‥‥ その一心で 雪も気がついたようで更にヒントを与える。 「音江さん、ダリアさんの髪飾りの石の色は何色でしたか」 「緑で‥‥あっ」 はっとした音江が更に石の辺りを丁寧に探す。 そっと石のすぐ近くに立てかけて草叢に隠すように髪飾りがあった。 「あった!」 髪飾りを掲げて喜ぶ音江に皆もわっと喜ぶ。 「よくやったな」 「よかったですね」 「早く、ダリア姉に!」 一緒に探してくれた開拓者達の言葉を受けて勢いよく音江が頷くが皆の様子が何かおかしい事に気付き、自分の背後で歩く音がした。 「‥‥っ」 声にならない悲鳴を上げた音江が見たのは同じく言葉を失っている。 久々に目を合わすのはどれくらいだ。 音江の中で珠々の声が響く。 構ってもらえなくなったって事は、相手をする事すら苦痛だって事です。 「ごめん!」 髪飾りを差し出してそれしか言えなかった。 「返してくれてありがとう」 か細い声と共に碧眼から涙が零れた。 翌日、市原家でお茶会が行われた。 お茶菓子は緒水のお手製。 「お茶会はお行儀よくするって聞いたんだぜ」 きちんと正座する怜に緒水が足を崩して下さいと微笑む。 「そうか」 早速足を崩す兵真に緒水がたてたお茶を渡す。 お茶なら自信がある鎬葵がお茶をたてている。綺麗な手捌きで御幸もダリアもじっくり見ている。その見事なお茶はダリアへと渡される。 口へ飲み込まれる泡は細やかでほんのり甘さを感じ、お茶独特の苦味を一瞬含むもさっと爽やかに消えていく。 「美味しいです」 ふわりと嬉しそうに微笑むダリアの髪は綺麗に梳かれて、横髪を留めている。珠々がやったものだ。珠々がちらりと音江の方を向けば、複雑そうな顔をしている。 笑顔が見れて嬉しいはずなのに、自分に向けられていないのが。 これで少しはダリアを笑顔にしようと努力してくれるだろうと珠々は安心する。 「ところで、御幸、敦祁。進展は?」 ずばっと輝血が切り込むと、敦祁が交際していると答えた。 「‥‥敦祁のお母様にはこの度よくして下さって‥‥」 頬染める二人に輝血の中で何かほわっとする何かが広まった。 「よかったですね」 雪の言葉に二人は頷く。 「緒水、あいつら、ちゃーんと見ててよ、何かあったらお茶飲みついでに解決するし‥‥緒水ならいつでも行くよ」 少しだけ目をそらして輝血が言えば、緒水は「嬉しいです」と満面の笑顔で返した。 男子達は四人で女の子の仲良く仕方で話しているようだ。 「ほえ、女の子と仲良くなる方法かぁ‥‥」 特に意識した事はない怜が音江と一緒に考える。 いつでも相手を思いやるという事からはじまるものであるが、つい、身構えてしまうのが性というもか。 「構えずに自然と接するのが一番だと思うのだ」 「それは理想だな」 怜の答えはいつも彼が実践している事。きっぱりとツッコミを入れたのは兵真だ。怜の行動はやはり、親と姉に寄るものなのだろう。 因みに音江がアルフレッドの正体を知り、脱力するのはまた別の話‥‥ |