【燻蕾】結びの薄火
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/05 19:58



■オープニング本文

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 開拓者達の調査を聞いた沙桐は皐月の元に姿を現していた。
 皐月は領主の突然の訪問に驚きを隠せなかった。
「領主様がこのような所に‥‥っ」
 沙桐は普段は此隅に住んでいるが、正月の時期は繚咲に戻っており、領地に住む民達に姿を現しており、繚咲の民達は沙桐の顔を知っている。
「気にしないでほしいし、どうか顔を上げて」
 困ったように笑いつつ、沙桐は手をついて畳に額を押し付けるようにしている皐月に声をかけるが、皐月は緊張で硬直してしまっている。
「お父上の死については残念でした。これからの店の件は大変だろうが、どうか店を守ってほしい」
「は、はいっ」
「一応はこちらでの仕事は終わりなのかな」
「はい、父の葬儀もありますし、早々に発ちます」
 優しく沙桐が声をかけると、皐月はそのままの状態で言葉を返す。
「そうか‥‥一人では何かと大変だろう。俺も付き合うよ」
「ええええ! そ、そんなわけには参りません!!」
 ぎょっとする皐月の頭の中はもはや真っ白。流石に領主と共に動くわけには行かない。目を白黒させる皐月に沙桐はにっこり微笑む。
「先日、君の所に開拓者が来ただろう」
「はい‥‥」
 ようやく顔を上げて皐月が頷く。
「彼らは俺が依頼した開拓者だ。彼らにも同行を願う」
 皐月の記憶にも新しいさの三人の姿を思い出す。確かに彼らならよいと心の中で思う。
「布に関する産業は繚咲にとって大事な産業の一つ。その大店が潰れるのは一大事だからね。俺のわがままに付き合って」
 のほほんと言ってしまう沙桐に皐月は「はぁ‥‥」と生返事をした。

 皐月の所を出た沙桐は街を歩いている。
「沙桐様」
 裏路地に入った時に背後から声をかけられた。
「何かいたようだね」
「はい、開拓者の方々が確認した者が皐月様を見ておりました」
 沙桐は立ち止まったまま、振り向かずにふうんと呟いて頷いている。
「しかし、あんなに大胆不敵に殺したのに次は随分と慎重だね」
「佇まいからして、相当な手練と認識しておりますが、あの遺体を見る限り、尋常ならざるものとしか思いようがありません」
 女は片膝をついたまま報告をしている。
「力に魅入ったか、絶望したか、なんにせよ、あの親子から埃はでなさそうだな」
「魔の森の件で貌佳の領主と手紙のやり取りがあったようですが‥‥」
 話を転じる女の言葉に沙桐は溜息をつく。
「もう、いっそ火宵に焼き討ちお願いしたいなぁ‥‥」
「沙桐様‥‥」
 呆れる声に沙桐はウソウソと明るく笑う。
「繚咲に明らかに外部だろう者達の犯罪はないんでしょ」
「はい、どこに居るかは殆ど断定しておりますが、確証がまだ‥‥」
「いいよ、それは。火宵がちゃんと纏めてるって事だし。引き続き監視宜しくね」
「はっ」
 そう答えて影は消えた。
 影を背で見送った沙桐が空を見上げると、真昼の月が見えた。
 うっすらと雲のような月。
 沙桐はそっと目を細めて睨み付けた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142
18歳・女・志


■リプレイ本文

 月は太陽なくして輝くことはない。

 ふと、溟霆(ib0504)は目を細めて太陽を見た。
「太陽といえば旭さんだよね」
 ぽつりと隣に立っていた沙桐が呟いた。
 火宵に英才教育で仕込んで自身の里を破滅へと追い込んだ者に復讐をさせようとした美しい女。
「今回は火宵の手の者というよりは一華さんを狙ったシノビのようにも思えます‥‥」
 滋藤御門(ia0167)が今まで関わっていた火宵の手の者は皆、心にしっかりと意志を持っていた。
 何より火宵は実際は敵となろう柊真に繚咲の管財人である折梅に迷惑をかけないと手紙に明記していた。
 繚咲の産業において重要な地位にいるだろう人間を手にかけるのだろうか‥‥
 違和感を感じたならないようだ。
「色々と気に掛かる事は多いですが、今は目の前の出来る事からはじめましょう」
 ため息をつきつつ御樹青嵐(ia1669)が御門に声をかける。
「宜しくお願いします」
 緊張した面持ちで皐月が頭を下げる。
「異常な事態ではありますが、そんなに気を張っては余計に疲れてしまいます」
 優しい微笑みを浮かべ、フレイア(ib0257)が声をかける。
 天儀では見慣れたジルベリア人も珍しくて会うのが二度目の皐月は戸惑っているようだ。
「繚咲はあまりジルベリアの人が来ることはないんだよね」
「そうなのですか」
 意外そうにフレイアが目を瞬く。
「観光するところはないからね」
 苦く笑う沙桐に輝血(ia5431)が視線を向けたがすぐに視線を背けた。
 こういう時、動かない表情筋が便利だと珠々(ia5322)は思う。
 じっと気づかれないように皐月を見つめて様子を見やる。
 繚咲の古い因習の考えを持つ父親を持つ息子がどういう人物なのかとりあえず見極めねばならない。
「あの、これから渡る山に捕らわれていた方がいた庵に行ってみたいのですが‥‥」
 御簾丸鎬葵(ib9142)が言えば数名が反応した。
 そこはアヤカシが住まう山であり、今回は麓あたりの道を通る予定だ。
 庵がある場所は随分と山の奥‥‥山頂にも近いところ。
「アヤカシが棲む山に庵を結ぶという事はアヤカシを退ける程の手練が出入りしていた可能性がある事。実際に捕らわれていたのですから実力は明白と思います」
 人よけの為にその場所を選んだというのは確定と誰もが頷く。
「虎穴に飛び込むに等しい事やもしれません。ですが、危険を冒さねば得られぬ虎児もありましょう」
 無理は理解しているのか、鎬葵の表情は硬く、白い。
「無理だけはしないでね」
 沙桐が言えば「無理をするのは同じ顔の人です」と真面目に返し、皐月以外のその場にいた全員が頷いた。


 どうやら皐月はシノビに対して侮蔑の情念はないようで、繚咲古来の考え方‥‥シノビや傭兵を人として扱わない父親の考え方がとても嫌いだったようだ。
「洛苑さんは何か隠し事などしてませんでしたか?」
 フレイアが尋ねると、皐月は思案するも首を振った。
「いいえ、僕が知る限りそんなことはありませんでした」
 皐月の言葉は嘘をついているような素振りはなく、しっかりと答えた。
 ふむと思案したフレイアは祖父の事を尋ねた。
「祖父ですか‥‥五年前に亡くなりましたが、僕は苦手でした。天蓋の者達は汚れた存在であり、繚咲の為に泥を被り、命を投げ出すのが当たり前だとよく言ってました」
 どうやら、思い出すのも嫌なようで、顔をしかめていた。
「繚咲の領主はおじいさまとはどのような関係で?」
「領主にとって大叔父にあたると聞いてます。最近は身体が弱っていると聞いてます」
「そうですか」
「嫌なことを無理して長く話す事はないよ。道中は長いからさ、ゆっくりでもいいんじゃない」
 輝血が言えば礼を言って皐月は頷いた。


 山が近い宿で泊まることになった。
 一華が滞在していた宿だ。
 それとなく鎬葵が一華と一緒にいた者達の様子や人相を確認する。
 明日、彼女が立ち会うかもしれないのだ。
「沙桐様の顔を御存じていたのなら折梅様とは?」
「遠くから見たことがある程度です。繚咲改革の女傑、僕なんかに声をかけて頂くだなんて」
 質問をした御門にふるふると首を振る皐月は畏れ多いとばかりだ。
「あの方の存在なくして今の自由はありませんでした。いくら好き合っていても天蓋出身者であれば気軽に話をすることすら許されませんでした」
 普段から近しい場所にいるからイマイチ感じ取れないが繚咲では折梅は絶大な存在感があるようだ。
「志体をお持ちでなく、大体的に変えられた香雪の方は繚咲にとって至宝の存在です」
 確かにと御門も頷くとあれっと、珠々が思い出す。
「香雪の方って折梅さんの事ですよね」
「そう、名前そのままでは小枝を表すからという事で敬意を込めて呼んでるんだよ」
 皐月が説明すると沙桐が補足をする。
「折梅は華道の手法の一つとも言われているんだ。梅は折った枝でも元からある養分を使って花を咲かせることが出来る。枝を指すのではなく、大事を成したから花自体を示す香雪を口にしたのがきっかけ」
「木から離れて枝となっても花を咲かすことが出来る‥‥なるほど、折梅の名にふさわしい人だね」
 くつくつと溟霆が笑う。
 一般人が志体なく改革を成したのは天蓋の武力を手中に収めたからと類希なる胆力からくるものだろう。
「‥‥志体持ちじゃないのですか?」
 きょとんとする鎬葵に「残念ながら」と青嵐が答える。
「あってもおかしくはないのですが‥‥」
 頷くフレイアも残念そうだ。
「あったら手に負えない。あの人に二物も三物もいらない」
 真顔で沙桐が言い切った。
「折梅に言いつけとこ」
 ぼそりと呟いた輝血に沙桐は情けなく「内緒だよ!」と慌てて取り繕う。輝血も麻貴と同じ顔におねだりされて意地悪く「どうしよっかね」等と言っているその様子はまんざらでもない。
 勿論、沙桐はこの後、青嵐に冷たくされていた。


 山越え当日、途中まで猟師が道案内をしてくれる。
 道すがら、猟師から山での話を聞きつつ歩く。
 猟師は山の深い所までは入ったことがなく、自分が歩く所まではアヤカシは降りてこない。
 アヤカシとは人の肉を喰らうもの。食料がなければ飢えて求めるだろう。それなのに麓まで降りてこない。
「お嬢ちゃん、すまねぇ、俺はここまでだ」
 猟師を見送った鎬葵は山の方へ見返した。
 山は葉が緑から黄や紅へ色を変えつつある。趣ある山ではあるが、その中では魑魅魍魎たるアヤカシがいる。
 もしかしたら、そこに鎬葵が思案している人物がいるやもしれない。
 話だけではなく、自身の目で確かめる為、鎬葵はアヤカシが棲み居る山へ踏み込んで行った。
 草木をかき分けて一匹の狼アヤカシが現れたがまともにやり合うつもりはない。受け流しでやり過ごし、庵へ向かう。
 先ほどまでの未開の土地はどこへやら、整った庭が目の前にあった。玄関を見つけて一度心眼を使ったが気配はない。
 向かったのは台所だ。生鮮食品は見あたらなかったが、米があった。
 更に勝手口に出ると野菜くずなんかを肥料にしている所があった。漁ると変色した葉が見えたが、鎬葵が知っている人間が捕らわれた時期を考えれば形があるのに疑問を残す。
 次に向かったのは茶室のような別室だ。
 小さな入り口を開けると誰もいなかったが、甘い香の匂いの残り香を感じた。
「‥‥これは‥‥血?」
 更に探すが血の染みはそれだけだ。
 入念に探したが、特に何もなかったので彼女は庵を跡にした。
 その後が問題だった。
 仲間のアヤカシに気づかれたようで、彼女は一人で六匹の狼アヤカシに囲まれていた。
「く‥‥」
 美しい顔をしかめて鎬葵が刀を構える。
 六匹の内、二匹は何とか倒した。受け流しでかわしていたが、練力が尽きそうだ。
 ここまでか‥‥
 心の中で諦めかけた瞬間、閃くのは話をしてくれた兄の顔だ。
 頼むね‥‥
 あの優しい顔を思い出し、鎬葵の金の瞳を瞬かせて燃えるように輝かせる。
「このような場所で朽ち果てるわけにはいかないのです!」
 アヤカシの血に塗れ、嵐の如くの波紋が煌めく刃を構え、鎬葵が叫ぶ。
「その気概、しかと受け止めた」
 朗々な声が響き、狼アヤカシ二匹が吹き飛んだ。
「馬上より失礼仕る!」
 鎧を着た男は黒い大きな馬に跨って鎬葵を見下ろしていた。
「貴殿は‥‥」
 鎬葵の質問に男は答えず、馬を駆け出させ、軽々と鎬葵を抱きあげて馬に乗せる。
 馬が狼アヤカシをけちらかして走り去る。
「失礼、私は‥‥」
 男が名乗ろうとした瞬間、鎬葵は男の腕の中で気を失っていた。


 鎬葵と分かれた後、シノビ達はそれぞれの役目の為、皐月から離れた。
 確実に女シノビはついてきている。
 自分達が皐月を殺すならば山道で狙う。
 その前に彼女の目的を聞き出さねばならない。
 前夜に輝血が先行して確認したが、山道には特に何もなかったし、あったとしても狩猟用の罠であり、猟師が言っていた場所にあった。
 洛苑殺害時、特に何もせずに身一つで殺しに行ったのだから洛苑の犯人はまた身一つで殺しにくるだろう。
 複数犯を考える御門の考えも考慮したがそのような形跡はなかった。
 あくまでも親子殺害は単独犯だ。
 溟霆と珠々は女シノビを待ちかまえる。
 こそこそする理由はない。
「やあ」
 女シノビの姿を見つけると、にこやかな笑顔で溟霆が声をかける。
 声をかけられた女シノビは無邪気に笑む。
「あら、この間の黒猫ちゃん」
 どうも。とだけ珠々は答える。女の様子は何か違う気がした。
 余裕というわけではなく、無邪気なんだろうが何か違う。
 自分のようなタイプでも溟霆のような全てを楽しむようなタイプでもない。
 元から無い輝血とも違う。
「街にいたのにこんなところでどうしたのかな?」
「おしごとよ」
 溟霆の問いかけに女はにこやかに言う。
「うーん、美人のお仕事って気になるな」
「あら、ご同業ならわかるでしょ」
「戦いたくはないな。この辺、アヤカシが出るし」
 肩を竦める溟霆に女は確かにね。と笑う。
「仕事熱心なの?」
 溟霆が話を変えると、女は首を振る。
「気が向いただけ。息子の方はどうしよっかなーって。護衛がいるし、放置してもいいかなって」
「是非、そうしてくれると助かるよ」
 溟霆も珠々も正直戦いたくない何かをヒシヒシ感じる。
「あれ、依頼人がいるのですか?」
 ふと気づいた珠々が言えば女は頷く。
「でも、やらなくても気にしないひとだから」
 どんな依頼人だと二人は首を傾げる。
「依頼人はどんなひとですか」
「三日月かな夏の三日月」
 抽象的な表現に二人は顔を見合わせる。
「そうだ、名前は? 僕は溟霆だよ。彼女は珠々君」
 思い出したようなそぶりを見せて溟霆が自己紹介をすると女は初めて言葉を詰まらせた。
「破月」
「君も月なんだね」
 溟霆が言えば、破月は初めて眉を下げた。けどちっとも困ってない。
「もう、満ちないから」
 踵を返す破月に珠々が声をかける。
「あの街に住んでいるんですか」
「会ったあの辺にいるわ。木の影に居るあなたもまたね」
 女の方角には確かに輝血が居る。何か興が冷めたのか、破月は去って行った。
「あのタイプは逃げも隠れもしないね」
 隠れて全てを聞いていた輝血が二人に言った。


 山道では主に御門が皐月の話相手になっていた。
 似たような年齢であり、皐月は随分と安心しているようだった。
「父は基本的には誰にでも優しい人ですが、天蓋の者とわかると途端に冷たくします。見る目もまるで汚らわしいものを見るような目で‥‥僕はそんな父が嫌でした」
 皐月は父親の天蓋の者への反応はとても嫌なようだった。
「すみません、このような事を聞いてしまって‥‥」
 父親の嫌な所‥‥ましてや死んだ者の悪い所を口にさせる事を心苦しくて御門は謝った。皐月は両手を挙げて勢いよく首を振る。
「いえ! 気にしないでくださいっ」
 勢いよく皐月が言えば、声が大きすぎたと少しだけばつが悪いような表情を見せた。
「‥‥その‥‥家では、このような事を言えるような状況ではなかったのです。言えてすっきりしました‥‥」
「皐月さん‥‥」
「本当なら、父と衝突してでも自分の意見を言うべきだったかもしれません‥‥今更ですが‥‥」
 寂しそうに言う皐月に御門は目を細める。
「これからはお店を護っていかなければなりません。お父上ではなく、店を護るために自分の意見をはっきり言えるようになってください。皐月さんなら大丈夫です」
 穏やかに話しかける御門に皐月はこっくりと頷いた。
 二人の話を聞きつつ、青嵐とフレイアは後ろの方を見つめる。
「上手くいったでしょうかね」
「ムスタシュィルではひっかかりませんでしたからね。爆音も特に聞こえませんし」
 後ろの方は特に戦闘音は聞こえてなかった。
 会話は成立しているのだろうかと思案していると、後ろから葉ずれの音が聞こえた。
「お帰りなさい」
 青嵐が言ったのはシノビ達だった。
「随分と出来るシノビだったよ。気付かれた」
 輝血があっさり言えば二人ははっと目を見開く。輝血ほどの手練が気付かれた。
「‥‥戦闘にならなくて何よりです」
 ほっとしている青嵐に輝血は「大丈夫だって‥‥」と呟いても胸の中の温かみは気付かない振りをした。
 気付いたら青嵐はもっと心配しそうだから。


 その後、無事に貌佳に着いた皐月は店に戻り、奥方や他の店員が温かく迎えてくれた。
「皆様、この度は皐月を護ってくださり、ありがとうございます‥‥」
 夫の死を知り、憔悴しきった奥方は息子の生還に心から安堵し、開拓者に頭を下げた。
「いえ、当然の事をしたまでです」
 青嵐が言えば、今夜は一晩泊まるよう勧められ、繚咲の様子を見たいが為に開拓者は頷いた。
 だが、溟霆だけは辞した。
 彼は天蓋へ行く事にしているからだ。


 溟霆が天蓋に向かう時、沙桐と待ち合わせていた。沙桐は自分が領地に入ると何かと面倒だと言っていたからだ。
「天蓋ってどんな所?」
「貌佳よりは鄙びた所だよ。そうだ。一華ちゃん達に会ってあげてよ」
「元気だった?」
「うん、元気元気」
 二人がのんびり話しながら貌佳に向かっていると、早駆の音に溟霆が気付いた。
「沙桐様、溟霆様! 御簾丸様がアヤカシにやられました!」
 駆ける架蓮の叫ぶ声に溟霆が駆け出した。
 一番騒がしい音を聞き分けて溟霆が目指したのは小高い丘の上。
「溟霆さん!」
「秋明君、鎬葵君は」
「今、巫女の方の治療を受けております。私はお湯を沸かしますので失礼!」
 走り去る秋明を見送り、溟霆は奥へと入る。
 鎬葵は布団の上で治療を受けていた。
「鎬葵君」
 溟霆の声に鎬葵は唇を戦慄かせる。

 あの いおり には  だれか とらわれていました

 そう、一華とはまた別の者があの庵に居た。
 他の開拓者が話を聞きつけ天蓋へ入っていった。