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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 洛苑を殺したシノビは破月と名乗った。 開拓者達の話の様子を聞けば、なんだか偽名のような気がすると沙桐は思う。 「沙桐様、先日の開拓者の方が依頼した凶器の件で鍛冶屋の予測が断定できたそうです」 天蓋領主が沙桐に話しかけると、今行くと答えた。 鍛冶屋と言っても、今は現役を退いた爺様だ。 「あれ、とっつあんじゃないか。息子に頼んだって聞いたよ」 首を傾げる沙桐に鍛冶屋の爺さんが笑う。 「折梅様の友人の方よりの頼みとあっちゃ、俺がでなきゃ、折梅様に殺さるわ」 「色男だし、とっつぁんよくわかってる」 声を上げて笑う爺さんに頷いてくすくす笑う沙桐。 「あと、開拓者のお嬢ちゃんがアヤカシにやられたんだって?」 「怪我自体結構派手だけど傷は癒えれば大丈夫。蓮誠が機転を利かせてくれてよかったよ」 「娘さんだからな、傷が残ったら大変だ」 「そうだね。凶器の種類と流派は?」 開拓者が知りたがっていた事だ。その手がかりが分かればある程度は手がかりが掴める。 「四大流派どころか、場所がすぐにわかりましたよ」 ため息混じりに言う爺さんに沙桐は首を傾げたが、その地名を聞いた瞬間、目を見開いた。 「待って、まだ生き残りがいたという事か!」 鋭く叫ぶ沙桐に鍛冶屋の爺さんは困ったようにうなだれる。 「確かにシノビの犯行やもしれません、ですがあの状況下、火事場泥棒だっている。苦無の一本や二本闇に流れてもおかしくはありませんぜ」 「闇に流れるほど状態がよいものがまだあるとは思えませんね」 お茶を持ってきた天蓋領主が口を挟んだ。 「どういうこと?」 「あの惨状は言いがたいものです。誰もがあれは惨いと口にするほどに。私もそう思いました」 天蓋領主の言葉に沙桐は目を見張る。 沙桐が知る中で彼が一番凄惨な光景を目にして、作った者だ。 折梅が天蓋のために立ち上がったのも天蓋領主が鷹来家と三領主達の命のため、手を汚し、体を張り続け、傷つき血まみれになってなお命令を与えられた姿を見たからだ。 「焦土と化して、刀や手裏剣は強い熱で溶け爛れ、打ち直しも出来ないほどにぼろぼろになっておりました。人は喰いちぎられて肉片や骨が散乱しておりました。アヤカシの仕業とみて間違いない程に、領主の館も人だけは喰われており、どれが領主かも判別できないほどでした」 静かに語る天蓋領主の言葉を沙桐は静かに聞いていた。 「奇跡の一本かまたは模造品‥‥あとはそうだな‥‥」 その領主の息子を最期まで守った奇跡の生き残りが理穴にいる事を沙桐は知っている。 互いの生存を知り、喜び合っている二人を沙桐は思い出していた。 大きく息を吐くと白い息が見えた。 もう、こんな時期だ。 小さなアヤカシ退治を随分と続けている。通常のアヤカシより強いアヤカシだったから連中は戦いを楽しんでいるようで助かっている。 部下の定期報告では抜け出して悪さをしていないというもので安堵する。 小さい揉め事は後々首の根を掻き切られるものである事を知っている。 「冷えるな」 左こめかみの傷が痛くしみる。 「香雪の方には本当に感謝しても足りない」 もうすぐ見つけられる。 全てを終わらせる。 満月が見られなくなってもいい。 上弦の月を見あげ、男は瞳を閉じる。 満月は見たくない。 自分の弱さを見せつけられたようで。 けど、まだ愛しい。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 沙桐の召集に開拓者が集った場所は天蓋。 「鎬葵ちゃん、大丈夫?」 心配そうに問う沙桐に御簾丸鎬葵(ib9142)はしおらしく肩を落とす。 「皆様には御心配、迷惑をかけてしまいました‥‥」 「無事で何よりだよ」 微笑む沙桐に鎬葵ははっと、顔を上げる。 「私を助けて下さった騎馬の御仁は天蓋の方でしょうか‥‥」 「蓮誠の事? ウチの警護隊長だよ」 架蓮に声をかけると、程なく鎬葵を助けた男が現れた。厳つい印象の男であり、よく見れば架蓮と同じ銀髪と紫の瞳の色だ。 御樹青嵐(ia1669)が指摘すると、兄妹だと架蓮が言った。 「この度は助けて頂き、ありがとうございました」 頭を下げる鎬葵は蓮誠と呼ばれた男は慌てるように両手を上げる。 「わ、私はあくまで御簾丸殿の生への想いに感銘を受けたまで。感謝するべきは諦めようとしなかった過去の自身にかと‥‥」 早口で喋る蓮誠に鎬葵はあの時思い出した人物を思い浮かべて少しだけ微笑む。 「そう、致します」 恩人にそう言われては仕方ないと鎬葵は一度引き下がる。胸に恩は必ず返すと秘めて。 「一方では密やかに飼われる人間、もう一方では亡くなったシノビの生き残りがいるやもしれないのか‥‥」 面白いといわんばかりに誰に聞かせる事無く溟霆(ib0504)が薄く微笑む。 三度皐月に会う事になった輝血(ia5431)、フレイア(ib0257)、青嵐は皐月に事情を伝えると、彼は快く了承してくれた。 「助かるよ。何故殺されなくてはならなかったのかを調べないとね」 「僕ができるのは情報を皆さんに託す事です。どうかお願いします」 皐月が恭しく頭を下げると、三人は頷いた。 「人払いはしております。何かあれば店の方までお願いします」 「助かります」 フレイアが皐月の気遣いに礼を告げる。ではと言って皐月は店に戻った。 父を亡くし、葬儀は恙無く終了し、店には日常が待っている。 輝血は店の賑やかしさを超越聴覚で聞きつつ遺品整理の作業に入ろうとしていた。書物というよりも証文や手紙ばかりだった。 「これでは最初から読んだ方が早いですね‥‥」 諦めたようにフレイアが手紙を開く。輝血や青嵐もそれに倣う。 証文を確認していくと、輝血は「へぇ」と呟く。 「森で蚕を養蚕してるのか‥‥」 「養蚕の家と契約をしているのですね」 輝血の呟きに反応した青嵐が呟く。 「ここのお店は問屋との契約の他に自分の店で養蚕から布を作っているのですよね」 それからも仕分け作業は続いていく。青嵐が貌佳領主の手紙を見つけた。 「日付は今から一年前ですね」 内容は魔の森の焼き討ちの事について。 この時期、アヤカシの動きが多かったのかもしれない。 貌佳をはじめ、繚咲にアヤカシが入り込まないように兵を回してもらっているということだった。 次はどうやら人間の被害がでているようだ。 アヤカシの養蚕工房への被害は押さえられたのだが、人が浚われる話。しかも、繚咲の者ではなく、繚咲近隣の村の話のようだった。 鷹来家には進言をするようであった。 「次は‥‥」 青嵐が次の手紙を探し出す。 内容が何であるかはいまいちわからなかっったが、どうにも洛苑が領主に対して何かを問いつめたようだった。 領主は知らないと答えていた。 魔の森近辺の事で洛苑が苦情をたてていたようだった。 「この感じだと、洛苑の養蚕工房近隣で何かあったようですね」 「皐月さんはあまり知らなかったようですが」 推測する青嵐にフレイアが声をかける。 「皐月は店に関する大抵の事は洛苑から聞いていると思う。この件を知らなかったら間接的に何かあったんだと思う」 部屋に入った皐月に領主の手紙を見せた。 「領主との手紙は知ってましたか?」 フレイアの質問に皐月は内容は知らなかったと首を振ったが、ふと彼の動きが止まる。 「そういや、その頃、従業員数名を呼び出して部屋で話していた気がします」 「何の為に?」 記憶から思い出して呟く皐月にフレイアが次を促す。 「わかりません。ですが、確か故郷が近いと聞いてます」 「その故郷はどこに」 「ウチの養蚕工房の近くの村ときいてます」 皐月はそう言った。 折梅に会いたいと言い出したのは鎬葵。 「年明け頃より繚咲では失踪事件が起きたとの事。その件で折梅様は繚咲に戻られていると聞いております」 「うん、まだその被害者は戻っていないんだけどね。場所は主に貌佳の魔の森に近い所の村だったりしたよ」 「折梅様にお会い出来なければ蓮誠殿に話を聞きたいのですが」 蓮誠は天蓋の警備隊長のはず。何か話が聞ければと思っていたが沙桐が蓮誠に二人を庵まで送るように言いつけた。 仏頂面の蓮誠が返事をすれば、すぐに馬の手配をしてくれた。 山道までは馬を使って移動。出来るだけ馬の数を減らしたいという事で鎬葵と珠々(ia5322)が一緒に乗って、蓮誠が一人馬に乗って先導していた。 「失踪事件があったと聞いたのですが‥‥」 鎬葵が尋ねると、蓮誠はああと頷く。 「行方不明者は現時点で十名。全て女で年齢も壮年よりは若い女ばかりでした。攫われた時間帯は無差別。一人の時もあれば、乳飲み子ごと攫われた時もあった」 手がかりすら分からないらしい。 「一つだけ共通点があるとすれば、殆どが美しい女だったという話だ」 「美しさですか‥‥時期は一緒だったのですか?」 「同時期である時や外れている時もある」 ふと、珠々はある違和感に気付く。 「現時点で十人ですか? 今も現在進行形なんですか?」 「残念ながらな」 溜息混じりに蓮誠が呟いた。 馬から降りて三人は山を登る。 獣アヤカシは蓮誠が蹴散らかしつつ、三人は再び庵に着いた。 超越聴覚を使って珠々が音を聞き分け、鎬葵が心眼で気配を確認する。 「誰もいませんね」 珠々が確認するように言えば、鎬葵も頷く。蓮誠は外で待つと言い、二人は中に入った。 まず、鎬葵が確認したのは血痕があった部屋。 特に何も変わった所はないように思えた。 「血痕があったところって?」 珠々が尋ねると、鎬葵はその方向を向いて指を誘うとした瞬間‥‥ 「消えてる‥‥」 呆然と呟く鎬葵に珠々は鎬葵が指を差そうとした方向に向かって壁や柱を入念に調べると、鎬葵が見た血痕に気付く。 「掃除してあります」 珠々が屋根裏部屋へ飛び上がる。埃っぽいが、珠々にはわかる。微かな足跡が‥‥ 「監視が入ってるようですね。最近は来てないようですが」 「畳は捲ったか」 外から蓮誠が入ってきた。二人が足元を見れば、畳の上に赤い布の敷物があった。敷物をはがして蓮誠が畳返しをすると、底の板には血が染み付いていた。 「畳は多分染みた部分を取り替えていますね」 珠々が呟くと、鎬葵も頷く。 「‥‥血痕は他にもありそうですが、誰の血かはわかりませんね‥‥」 そっと鎬葵が俯いた。 我らが愛しの北條のお頭の土産話にはちょうどいいなとくつりと微笑みを浮かべて溟霆は美冬と旭の故郷へ目指した。 繚咲とは近い場所にあり、話を聞けば、中間地点に村とかは無いとの事。 天蓋の老婆達に話を聞きつつ、溟霆はそっかぁとのんびり相槌を打つ。 老婆達によく生きた証の体中の皺の中にシミとなった古傷を見かけた。 激しい戦いの中駆けくぐってきただろうと推測されるが、老婆達は笑顔だ。 一華達に生活の仕方や料理を教えたのが彼女達らしい。 溟霆が察するに、この老婆達はきっとまだ現役なのだろう。そうでなければ、一華達を守れないからだ。 「あの領地は急なアヤカシの軍団に襲われたそうよ」 「アヤカシ?」 話を大人しく聞く溟霆に老婆達はこくこく頷く。 「領地すべて焦土と化されて、火事場泥棒のようにアヤカシが食える人間がいないか漁っていたもの」 どうやら、話した老婆は現場に駆けつけたらしい。 「ふぅん、天蓋の人達はそのアヤカシ達の討伐をしたのかい?」 溟霆の言葉に老婆達はそうだと言った。 人がアヤカシに食い散らかされた話も聞くに、その領地はアヤカシに襲撃された事が判明する。 もしかしたら、美冬と旭が守っていた次期領主をアヤカシ達は追っていたのだろうと溟霆は思案する。 色男との会話に満足した老婆達に礼を言って溟霆はその領地へと向かった。 「溟霆君、馬貸そうか」 沙桐が声をかけると溟霆はその誘いに乗った。馬を駆けさせて溟霆がその場所へと向かう。 馬上から見たそれは三十年という時間を忘れそうになる。 風化はされているが、その当時のままだ。 荒野と化したままのその土地には草は生えてなかった。 土が死んでいる。 人間の酷な所も知ってはいるが、人間に‥‥志体持ちにそこまでの力はあるだろうか。 ともすればアヤカシの所行である事は間違いない。 「人間からの秘密裏の滅亡じゃなくて急なアヤカシの侵攻か‥‥」 アヤカシ退治は開拓者の本分ではあるけどねと溟霆は呟いた。 滋藤御門(ia0167)は破月がいる街に先に来ていた。 ぼんやりと考え事をしつつ、街を眺めていた。 考え事とは破月の事。 ただの殺人者ではなく、雇われ者で、本来殺すはずの皐月を殺さなかった。 そして、使用した凶器‥‥ まさか美冬と旭の里と同じものと知り、御門は胸騒ぎを覚える。依頼人の言葉と同時に浮かび上がる顔に御門は首を振った。 「あら、どうしたの」 素っ頓狂な声音であるが艶やかな声は聞いたことがある。 目の前には着物を着た未明がいた。 「貴女こそ」 火宵の側にいるはずなのに。 「あたしは情報収集だよ。悲しそうな顔をしてどうしたのさ」 御門は思案し、意を決した。 「お願いがあります。話を聞いて下さい」 溺れる者は藁も掴む。必死そうな御門の声に未明はこくんと頷いた。 人気のない神社に二人が向かい、御門は話し始めた。 貌佳の大店の店主が殺された事。 彼は天蓋出身者には冷たかった事。 恨まれてもおかしくない彼が殺される理由にはならない。はっきりとした何かがまだ見つかっていないからなのはわかるが。 「あたしもその話聞いたよ。あんたの言う通り、偽装だと思う」 「僕は疑ってしまいます‥‥依頼人が火宵ではないかと‥‥」 「何でだい、あの方は繚咲に迷惑かけないようにしているんだよ」 むっとなった未明が声を低くすると、御門は辛そうな表情で未明を見た。 「使われた凶器は美冬様、旭さんの故郷のシノビが使っていた苦無と天蓋の鍛冶屋が断定したんです!」 悲痛な御門の声に未明は呆然となった。 「‥‥沙桐様は生き残りか火事場泥棒が闇に流したかを考えてます‥‥」 うなだれる御門に未明は顔を青くしたまま口を開いた。 「あたしがその苦無を持っている事を知る人物は一人だ。旭様が唯一残した苦無を火宵様に託した後、火宵様が渡し、今も火宵様は愛していらっしゃる」 「その方は今も火宵と共に?」 未明は首を振った。 「名は満散。十年以上前にアヤカシに襲われた火宵様をかばって行方不明となった」 火宵は今回の戦は満散の行方を探すのも目的にしていると未明は告白した。 それぞれの情報を手にした開拓者達は集まった。 これから破月に会いに行くのだ。 場所は架蓮が知っているので、彼女に道案内を頼むことにした。 「小細工必要なさそうだし、真正面から行くしかないね」 溜息をつきつつ、輝血が呟いた。 簡単なのか面倒なのかわからない破月の扱いに頭を悩ませているようでもあった。 破月がいる家は表通りから随分離れた所にあるあばら家のような場所。 人通りも随分少ない。 「‥‥行くしかありません」 御門が言えば、珠々が頷く。 「こんばんは、いますか?」 超越聴覚を使って、いるのはわかっているが、挨拶だ。 「入れば良いのに」 家の中から声が聞こえた。 柔らかな声であるが、感情が窺がえない。歓迎してるわけでもないし、嫌がっているわけではなさそうだ。 遠慮なく入るとやはり荒れていた。 破月が掃除しているようには思えないが奇妙に綺麗な印象を受けた。 夜ともあり、暗かった。 破月は窓を開けており、繊月の微かな月光が差し込んでいた。 「いらっしゃい。何もない家だけど」 窓に凭れるように破月は開拓者を迎え入れた。 「いいよ、話をしに来たんだから」 輝血が言えば、破月は「そう」とだけ微笑んだ。 家屋の様子を見ていた珠々は視界の端にあるものに気付く。苦無が窓の桟に無造作に置かれていた。血脂が固まって刃にこびりついている。 珠々の視線に破月もその視線に気付く。 「使えるんですか?」 「刺す事はできるから」 あっさりと言い切る破月 「どうして、手入れしないのですか?」 シノビに関わらず、手入れは欠かせないものだ。 「‥‥なんでだろうね」 ようやく破月の中に出てきた感情は優しくも寂しそうでもあった。 「持っているなら大事にしてあげてください」 御門が言えば「そうね」と言うだけだった。 「洛苑を殺したのは依頼人から頼まれたんだよね」 本題に持っていったのは輝血だ。破月はあっさり頷いた。 「何故、洛苑を殺めるように貴女に頼んだのですか?」 鎬葵の真摯な瞳と破月の感情を伴わない瞳がぶつかるが、破月はあっさりと首を振った。 「知らないわ。私は聞かないし、あいつも用件だけ言うだけだから」 そう答える破月に嘘はないと思う。 「でも‥‥洛苑‥‥だっけ、あの人は何かを探っていたようでもあったわ」 「洛苑さんの事を調べていたのですか?」 青嵐の問いかけに破月は頷く。 「殺す相手がどんな行動を取るか調べて段取りを取らなきゃ」 破月が被害を最小にしたのはその意味もあるようだった。 「外から雇ったシノビに何かを調べさせていたみたい。何を調べていたのかはわからないけど」 「依頼人は何をしている人ですか?」 御門が尋ねると、破月は首を傾げる。 「誰かに仕えているようよ。それが誰かは分からないけど。私に住処を与えたのもあいつだし」 「夏の月のような人と聞きましたがあなたの大事な人ですか?」 更に問う御門の言葉に破月は首を振った。 「住む所も仕事もくれたけど、元は知らない人」 あっさり言う葉月に御門はどんどん胸の内で不安が膨らんでいく。未明から聞いた言葉が離れない。 「夏の熱気にそこにしっかりあるんだけどぼやけて手が届かないような感じの人ね。陰陽師だったわ」 ほっと、御門が息をつくと、破月は首を傾げるが、御門は知り合いが依頼人じゃなくてほっとしたとだけ言った。 「ねぇ、皐月以外で狙うように言われた?」 輝血がこれで最後だと前置きをして尋ねると破月は先ほど右に傾げた首を左に傾げた。 「依頼人に興味があるの?」 「あります。このシノビにも」 鎬葵が素直に言って、仲間達より教えて貰った人相書きを見せる。 秋明を唆したシノビの一人だ。 「見た事あるわ。あいつを見張っていたのか護衛していたのかは分からないけど。そんなに知りたいなら今度満月の辺りにウチに来るから来なさいな」 あっさり言った破月に全員が絶句した。 |