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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 鷹来沙桐は一人溜息をついていた。 開拓者達が持ってきた情報。その中の一つに苦無の持ち主の情報があった。 旭が所有していた苦無は火宵にとって大事な人の手に渡っている可能性。 破月が依頼人と関りだした時期までは分からないが、随分と気になるのは確かだ。 「でも、何で行方不明なんだろ?」 首を傾げると、架蓮が部屋に入ってきた。 「アヤカシとの戦闘で火宵とはぐれたのでは?」 お茶を差し出す架蓮が言えばその可能性もあったかと納得した。 「名前が満散か。読みで言えば満月みたいだな」 「そいえば、前に柊真様が火宵は満月が嫌いでその日は用事がない限りは不貞寝するって言ってました」 「ふぅん」 熱いほうじ茶を啜りつつ、沙桐は相槌を打つ。 「洛苑の大事にしていた所は行ってみたんでしょ。彼女と一緒に」 留守番役の沙桐は貌佳に踏み込めないので架蓮にお願いしたのだ。 秘密の場所は分からなかったが、大事にしている場所ならという事で開拓者の一人が皐月に養蚕工房へ案内してもらったようだった。 「私は御一緒できないので影ながら見守りました。異変があるとすればアヤカシが近くをうろついているようですが‥‥」 「何か気配は?」 「一応はありました。敵意はなく、ジルベリアの方ゆえ、好奇の眼差しを受けていたようです」 「嫌な思いをしてなければいいんだけど」 心配する沙桐が一つため息をついた。 「そいや、蓮誠の姿が見えないんだけどどこ行ったの?」 「沙桐様にからかわれるのが嫌だから馬で警邏に行きました」 思いだした沙桐が言えば架蓮がすかさず答えた。 「ええー、架蓮が先にからかったんじゃないの?」 「沙桐様を差し置いてそんな事できませんよ」 子供のように拗ねる沙桐に架蓮はクスクス笑う。 「まあ。蓮誠にはいい修行です。この機に慣れてもらわないと」 「厳しいなぁ」 二人が笑いあっていると、笑い声に気づいた一華がひょっこり顔を出す。 大事なお話なのかは分からないが、気になったようだ。 「一華ちゃん、どうしたの?」 首を傾げる沙桐に一華はおずおずとさつま芋が入ったきんつばを差し出した。 「今日はさつま芋を貰ったので、きんつばを習いましたの。沙桐様達にも食べていただきたいなと‥‥」 「そうだったんだ。頂くよ」 おいでと沙桐が手招きすると、一華は嬉しそうに中に入ってきんつばを載せた皿を出す。 沙桐が一口食べると、荒く潰した芋の食感が程よく甘みもちょうどいい。 「美味しいよ」 沙桐がほめると一華は兄に褒めて貰った子供のように嬉しそうにはしゃぐ。 「開拓者の皆さんにも食べてほしいのです」 一華の言葉に沙桐はそうだねと微笑む。 ひとしきり一華と話をして一華は食事の用意をしに場を辞した。 「架蓮、そろそろ満月が近いね」 「大丈夫でしょうか‥‥」 「皆が行かなかったら俺が行くよ」 「‥‥そういう問題ではありません」 じとりと架蓮が沙桐を嗜める。 「問題の陰陽師ですよ」 「依頼人か‥‥破月の感性で行けばただ単に会わせるという事であまり何も考えてないんじゃないかな。色々と見えては来ているけど、問題が山積みだな」 ふぅと、沙桐はため息をついた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 疑心暗鬼。 そんな言葉がよく似合う雰囲気の中、開拓者達は沙桐の元に集まった。 何を疑っているのか。 破月の目的だ。 あっさりと彼女は依頼人に会わせると言い出したのだ。 「御門君は破月が未明の言っていた満散と思うんだね」 お茶を啜って沙桐が言えば滋藤御門(ia0167)はこっくりと頷いた。 「破月は自分に満ちる事はないと言ってました。だから欠けた月である破月を名乗っていると思うんです」 「なるほどね。彼女にはどうしたいの?」 「確かめたいです‥‥その‥‥」 言葉に詰まる御門が思い出したのは美冬と旭の事。 「悪い糸は‥‥断ち切りたいのです」 きっぱり言い切った御門に沙桐は「そうだね」と微笑んだ。 御簾丸鎬葵(ib9142)は自分が知っているシノビとは違う‥‥否、そもそも暗殺業、諜報業において依頼人の情報を口にするのは法度。依頼人に会わせるなんて破月の命の保障も出来ないだろう。 思案にくれる鎬葵の前を珠々(ia5322)が横切る。 ちょこんと、沙桐の前に座った珠々が真直ぐ沙桐を見つめる。 「目標は依頼人と破月の捕縛です。出来る限り騒ぎを起こしたくありません」 「確かに、破月さんは捕縛した方かよいですね」 きっぱり言い切った珠々とフレイア(ib0257)が言えば、沙桐が前に養蚕工房に行った際フレイアが好奇の視線に晒された事心配すれば気にしてないと言った。 「とにかく皆、頼むよ」 沙桐が言えば全員が頷いた。 輝血(ia5431)と御樹青嵐(ia1669)は養蚕工房に向かう前に皐月に会った。 皐月に洛苑が集めたて話をしていた従業員に話ができないか聞いてみたところ、一人の従業員を紹介してくれた。 大人しそうな風貌の娘だ。 「本題入るよ。洛苑に一度呼び出されたことがあるそうだね。どんな話をされたの?」 さっくりと輝血が言えば娘は少しだけ表情を歪ませた。 「私は繚咲近隣の村の育ちです。村の近くには旦那様が所有する養蚕工房があります。村の半数はそこに雇って貰っているのです」 娘の話によると、小さな村が繚咲のまわりに多々あって、繚咲の事業主に雇ってもらい、大きな農村であるなら買って貰っているらしい。 娘の村は農業、養蚕工房に働きに行くものと半々だったようだ。元は娘も兄弟と共に養蚕工房に働いており、視察にきた洛苑の奥方に気に入られて店の看板娘として住み込みで働きにきているらしい。 「旦那様から聞いたのは、私の姉が誰かに拐かしに遭ったという話です。ほかの従業員も私と同じように繚咲以外の村から奉公に来ている者ばかりでした」 「性別は?」 青嵐が尋ねると娘はすべて女と答えた。ただし、壮年ではなく、二十代までの女だという。 瞬時に輝血と青嵐は折梅が此隅に戻れない理由である失踪事件の事と気づいた。 「あ、すみません‥‥辛い事を訊いてしまって‥‥」 青嵐が即座に謝ると娘は首を振った。気丈に振る舞っていた娘だったが、血の繋がった姉の失踪と恩人である洛苑の死は精神的に応えていたようで、最後は涙を浮かべていた。 「見つけるよ。必ず」 きっぱり言い切った輝血に娘は何度も頷いた。 養蚕工房に着くと、養蚕工房の責任者が二人に応じてくれた。 「アヤカシの被害ってどんな感じ?」 輝血が尋ねると、責任者はまだ直接の被害はありませんと答えた。 「ここから向こうは森となってますが、猟師達が罠にかかっただろう獣を食いちぎっていった跡があったそうです。 「洛苑や領主の対応は?」 輝血が訪ねると、責任者は表情を曇らせた。 「旦那様は従業員の家族に謝って回りました。領主にも何度も手紙を出したのですが、なしのつぶてのようでして‥‥」 「この向こうって、魔の森?」 森を眺めていた輝血が訪ねた。 「ええ、人間が立ち入るような場所までは浸食されてません。魔の森もそんなに激しく広がっていないとのことで領主はさせていないようです」 ふと、青嵐が首を傾げた。 「折梅さんに嘆願いたしましたか?」 繚咲を守護する傭兵部隊である天蓋ならばアヤカシを一掃できるだろう。その天蓋に直に命じることができるのは繚咲を統括する鷹来家管財人である折梅と領主の沙桐。 だが、責任者は困ったように首を振った。 「旦那様も領主も折梅様に頼むのは嫌だそうで、貌佳に天蓋の介入ができないのはそのせいです」 ふと、輝血が顔を上げれば、黒ツグミが飛んでいた。 「‥‥めんどくさいね」 吐き捨てるように輝血が呟くと、責任者は全くですと苦く笑った。 この後、実際に輝血と青嵐は森の中に入って確認をしたが、確かに森の奥深くにアヤカシはいた。随分と森の獣達を食っていたようだった。 「人里まで来ないのですね」 ぽつりと青嵐が呟くと、輝血は柳眉を顰める。 森から出た輝血は見た事がある山を見つけた。 「あれ、一華が監禁されてた山?」 輝血が言えば青嵐も頷いた。 破月の家の近くに隠れていた天蓋のシノビを見つけた珠々はそっと寄り付き、声をかけた。 「お手伝いします」 声をかけられたシノビは珠々より年上の娘。シノビは笑んで畏まる。 「ありがとうございます、珠々様。架蓮様よりお話は聞いております。珠々様をはじめ、開拓者の皆様の守護も兼ねております」 シノビの言葉に珠々は首を傾げる。 「私達も?」 「え、珠々様は香雪の方のひ孫と‥‥」 着々と根回しが進んでいるようで珠々は説明したくても脱力してしまった。 そんな珠々達のやり取りを耳にした溟霆(ib0504)はくすりと笑みだけ浮かべた。 「ね、繚咲にジルベリアのお菓子はないかな、いつも頑張ってる彼女にご馳走したくて」 傍にいたシノビに声をかけると、彼女はないと答えたが何かを思い出した。 繚咲の中にある小領地の高砂は米の産地でもあり、主食の米、酒米、粳米も栽培しているという。 「その米の粉でカステラを作ってるお店を知ってます。ご用意しておきます」 「へぇ、そんなのがあるんだ」 ここの所、探す機会を潰されていたが思わぬ収穫に溟霆は来る依頼人を待ち、監視する。 「しかし、満月の夜に待ち合わせが綺麗な女性だったらいいのに」 待つのは女の白粉の香りよりも血腥い匂いだろうというのは溟霆も解っていた。 破月の家と通りの間にムスタシュィルを仕込んだフレイアは開いてるあばら家の一角に入り、望遠鏡を使って監視を行う。 人通りは殆どなかった。 まだ時間があるのはわかるが、どうにも焦るのは人間の所以。 落ち着いていかなくてはならない。 一方、身を潜めている鎬葵は珠々と見張りを交代したシノビに見張り中、誰か破月の家を訪れたのか尋ねたが、シノビは首を振った。 「いいえ、全くもって。もしかしたら彼奴等は我々に気付いている可能性もありますが‥‥なんとも‥‥」 「そうですか‥‥彼女の様子は?」 「殆ど出かけません。食事は裏路地の飲み屋で済ませているようです。飲み屋の方も殆ど客も来ず、客を装って入るのもどうかと思うような店でした」 「それは何故」 鎬葵が尋ねると、シノビは従業員が依頼人の仲間である可能性を示唆した。 「その可能性が真実としたら‥‥まるで、籠の中の鳥のようですね‥‥」 尚更、ここから連れ出さねばと鎬葵は気を引き締めた。 御門はどうしてもこらえきれなくてもう一度破月に会う事にした。 「満月はまだあとよ?」 「‥‥聞きたい事がありまして」 破月は無邪気に「なあに?」と返した。 「あなたはその苦無が大事な人から貰ったと仰ってましたよね」 ゆっくり確認するように御門が言えば破月はこっくりと頷いた。 「その人の事をどう思ってますか?」 単刀直入に言う御門に破月は目を瞬かせたが、そっと目を伏せた。 「‥‥私にはあの人を好きと思う資格が無いの」 「そこまで使い続けているのはその人への想いがあるからではないのですか」 切り込む御門の言葉に破月は表情を固くした。 「僕はその苦無の持ち主に心当たりがあります。その人は何があっても貴女を捜し出すと思います」 「そうかしら」 「貴女を失って変わったと思います」 目を逸らした破月に御門は言い切った。今まで目を見て話した破月は目をそらした事に御門が口を開いた。 「逃げたいですか」 「‥‥会うのは怖いわ‥‥」 「匿い先を紹介します。ただ、罪を償う事になりますが」 御門の提案に破月は寂しく微笑む。 「償っていいの?」 「償って下さい」 破月の言葉に次は御門が目を瞬かせたがすぐに力強く頷いた。 満月の夜となり、澄み渡った満月が夜の帳に煌く。 物陰に潜む御門は満月を見上げる。彼は『満散』を想い、満月から目を逸らしているのだろうか。 彼女はここにいるのに。 フレイアは夜の闇に顔を顰めながら監視を続けていたが何者かにムスタシュィルが反応した事を悟った。 「皆様、来ました」 フレイアが呟けばシノビ達の耳に届いた。彼女も望遠鏡を覗き込み、依頼人の顔を覚えようとした瞬間、目が合った気がした。 まさかと思ったが、しっかり依頼人はフレイアを見た。 全員が依頼人を視界に入れた。 夜の闇で細部までは分からないが、男であり、後ろ髪が長い。狩衣を着ていた。その腰には小太刀が差されていた。 男は何食わぬ顔をして中に入った。 シノビ達は超越聴覚で音を拾っていた。 いくつものの聞こえぬ足音。道を通らず、音を立てずに襤褸の屋根や塀を伝う。粉塵すら立てずに‥‥ 何を意味するのか全員理解する。 「やぁ、破月」 「いらっしゃい」 破月は依頼人に対しても開拓者達と同じ態度を取っているようだ。 「今日は随分と顔の色が違うね」 男の声は穏やかな声だった。 「そうかしら」 「感情を思い出したのか」 首を傾げる破月に依頼人はくつりと薄い唇を笑みに引く。 「彼等のお陰で」 くるりと振り向いた男が月光に晒される。 「出てきたらどうかな。開拓者諸君」 張上げた声は心地よくよく響く低音。最初に出てきたのは溟霆だ。 「僕としてはとりあえず話がしたいんだけど」 両手を挙げて溟霆が話し合いを提案する。 「私にはないな」 「つれないなぁ」 腹の探りあい宜しく二人が顔を見合わせる。 「大勢で来ておいてそれはないだろう」 苦笑する依頼人に溟霆は「お互い様」と笑う。 「破月を殺しに来たわけじゃない」 「嘘かどうかは直接尋ねるよ」 輝血が姿を現すと、依頼人は満足そうに笑む。 「やっぱりきたんだね」 「人魂使って偵察されていたんじゃわかんないよね。天蓋に巫女は少数みたいだし。この間はどうも黒つぐみ」 輝血が真っ向から依頼人を見据えると彼は満足そうに微笑む。 「気付いていたんだね」 「聞いたよ。この辺で黒つぐみは飛ばないって」 もっと勉強するべきと勤勉な輝血は言った。 「貴方には洛苑さん殺害の理由を教えてもらわないとなりません」 符を構える青嵐に依頼人は「そうだね」と呟く。男は懐より符を取り出し、即座に術を発動させた。 月光に煌く白銀の毛並みに鋭い爪。それがなんなのか誰もが即座に理解する。 白銀の獣へ駆け出したのは溟霆。伸ばされる爪めがけて溟霆が腕を振れば細い矢が白狐の爪を掠めた。 途端に白狐は奇声を上げてのたうった。その隙を見て青嵐が呪縛符を発動させて、輝血が動けなくなった白狐の首を落とした。 「!」 輝血が斬る動作を終えた瞬間、依頼人が小太刀を抜いて輝血に迫ってきた。 すぐさま刀を合わせるだけでもと動くが、依頼人は速かった。不安定な体勢であったが、何とか間に合って輝血は依頼人の刃を受けた。 少しずつ、輝血が力で押し返し、間合いを取った瞬間、男は斬撃符を輝血に飛ばした。練力の刃は輝血の横腹を切り裂いたが、輝血は怯まない。 「あんたには聞きたい事がある!」 気合一閃、輝血が依頼人の頭めがけて回し蹴りをした。男も即座に腕を上げて防御したが、輝血の脚絆と依頼人の小手では脚絆の高度が勝ち、余裕そうな男の表情に一瞬歪みが生じた。 腕にダメージが入ったようだが、男はそれでも輝血と溟霆と応戦するも、シノビが介入してきた。 他の者達はほぼ乱戦と化していた。 依頼人のシノビと残った開拓者達と戦っていた。 シノビと珠々が応戦していると、天蓋のシノビも介入してくれたが、相手も増えている。 相手は珠々達と交戦するのは本意ではないようで、あしらっているようにも見えた。 影縛りを発動させると、シノビは三角跳で軽やかに飛び上がり、空中より手裏剣を三枚珠々に投げつけた。はっとなった珠々だが、天蓋のシノビが前に出て自身の頭を護るように腕を交差し、盾となった。 目を見開き、驚いた珠々だが、術を発動させ続ける。 相手もシノビ、術を理解している為、影を見て路地を挟む塀や屋根を伝う。 「珠々ちゃん、後ろ!」 御門が叫んで斬撃符を投げつけた。珠々を背後から狙うシノビがいたのだ。御門の斬撃符はシノビに命中し、シノビはがくりと上体を折ったが、斬撃符が命中したその場所は忍装束と威力で解れた鎖帷子が見えた。 シノビは即座に御門を狙いに走ったが、そこでシノビの刀を受け止めたのは架蓮だ。 架蓮に気付いたシノビはすぐに間合いをとり、指笛を吹いた。 「そうはいきません!」 フレイアが出てきてブリザーストームを連続で発動させた。 瞬時に辺り一面に激しい吹雪がその場を凍てつかせる。 急な風と雪の攻め立てで全員が立ちつくしてしまったが、依頼人はすぐさま再び白狐を呼び出して、輝血と溟霆を襲わせる。 はっとなった二人だったが、何とか回避し青嵐がまた呪縛符で白狐を動けなくしたがその間に依頼人達は走り出した。 最後の壁は二人いた。 「破月に何もしていかなかったとはいえ、帰させる訳には行きません」 そう言って立ちはだかるのは鎬葵と沙桐。シノビ四人が先に前を出て、鎬葵と沙桐に斬りつけようとする。 紅蓮紅葉で刃に紅の燐光を煌かせた鎬葵の長巻直しはこの場所では少し振り難そうだった。 しかし、鎬葵は振る為ではなく、突く事を念頭に置く。 突きの構えでシノビを狙ったがシノビの鎖帷子を切り裂くに留まった。 鎬葵が振りかぶり、シノビの軌道を追い、刀を振るうも、シノビは鎬葵の懐に飛び込んできた。 はっと気付いた鎬葵が体勢を整えようとした瞬間、横から底冷えした声が聞こえた。 「その娘に触れるな」 沙桐は上段に刀を振り、鎖帷子のつなぎ目らしき場所を検討つけて腕ごと切り落とした。 「刀はその辺の作り。別の奴が投げた手裏剣も流派バラバラだし、証拠は残さないというわけか」 シノビが間合いをとったが沙桐は冷静に状況を分析している。 更に別のシノビが沙桐を狙おうとした瞬間、架蓮が盾となり、シノビの動きを牽制させようとフレイアのブリザーストームが襲う。 沙桐が素早く鎬葵を庇うと、猛烈な吹雪が襲った。 「破月の感情を戻してくださり、助かりましたよ」 そう言って依頼人はシノビと共に去って行った。 残ったのは破月と雪にまみれたあばら家とその周辺だけ。 |