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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 沙桐が開拓者達と共に火宵と遭遇した。 実際に沙桐が火宵と会ったのはこれが初めてだった。 「機会が悪いなぁ」 「こっちも急いでるからな」 なじみのシノビ開拓者と火宵が言葉を交わしている姿を沙桐はじっと見ていた。 話だけしか聞いてなかったので実際に会ったのは今回が初めてだった。 冷静に物事を判断し、己の目的の為ならば冷酷な事もする。 その半面、仲間と思った者、弱者には手を差し伸べる。 悪人かと思えば善人の面がある。 前に柊真からそんな話を聞き、「どっちだよ」と毒づいたら「程度の差はあれど、お前にだってあるだろ」と叱られた事があった。「そもそも、悪人、善人と仕分けする前に人間だろ」とも言われた。 誰しも善と悪を持っている。 個人の意向で善人悪人を決めるのはその人の勝手であり責任。 沙桐はぼんやりとそんな事を思い出していた。 「で、その麻貴と同じ顔は繚咲領主か」 火宵は沙桐の前に立つと一礼をした。 「此度の申し入れを受けた事を深く感謝する」 「こちらこそ、俺にではなく祖母に頼んでくれて助かったよ。おかげで自由に動ける。あと、ちゃんと統率してくれて助かってるし、用事終わったらばあ様の所に顔出して」 沙桐が答えると、火宵は珍しく困った顔をした。 「彼の香雪の方の前じゃ型を繕うにも無理だ」 「流石の火宵もばあ様の前じゃダメかい?」 沙桐が言えば、火宵は「ああ、彼の女傑相手ではな」と笑う。 「お尋ね者という意識はなさそうですね」 魔術師の開拓者が呆れると火宵はいつもの表情へ戻る。 「生きて戻れたらな」 いつもの不敵な笑みを浮かべて火宵が言った。 「それはどういうことかな」 酩酊が尋ねると更に沙桐が口を開く。 「失礼だけど、あの土地を滅ぼしたアヤカシが討伐された形跡がどこにもない件と関係あるのかな」 火宵は誰もいない方向を向いた。 「そろそろ来るんじゃないか?」 振り向けば開拓者達が現れた。 火宵が行ってから、沙桐は破月が食事をしに行っていた店に行っていた開拓者へ話を聞いた。 「もぬけの空でしたよ。周囲に店はありませんし、一番近い店や民家に行けば、そんな店があったのかと言われる始末でした」 ため息交じりに言う開拓者に沙桐は笑いかける。 「無駄足なんか思っちゃダメだよ。店主が奴等の仲間で破月を監視してた可能性が出てきたんだから」 「麻貴様に似てますね」 沙桐の双子の姉である麻貴と縁が深い開拓者が言えば、沙桐は嬉しそうに「ありがとう」と笑った。 開拓者を見送った沙桐は「ただいま」と声をあげて戻ってきた。 「おかえり」 通りすがった小袖姿の破月が返してくれた。 「もう帰ったの?」 「まぁね」 「会えたの?」 「いいや‥‥あのさ、陰陽師とはどう出会ったんだっけ?」 沙桐が尋ねると破月は少し黙った。 「行きずりにしては随分繋がりが長そうだし、開拓者の皆も確認したけど、受け流したでしょ」 沙桐の声は強い声音だ。 「‥‥ここではなんだから後で部屋に行くわ」 破月の言葉の後に一華が現れた。 「沙桐様、おかえりなさいませ」 なるほどと、沙桐は納得した。 その夜、沙桐は破月と話をした。 破月はアヤカシに殺されそうになり、崖から落ちて逃げ伸びた事。 重症を負い、小さな渓流に浸かっていた時に陰陽師に拾われた。治療も陰陽師がして火傷を誤魔化す百合文様の刺青も彼が施したようだった。 それから彼女は死ぬのも惜しく、陰陽師に言われるまま暗殺業をしていたとの事だった。 「繚咲の民を殺めたのは何人目?」 「今回が初めて」 「‥‥そっか、て、彼なら兎も角、よく俺に話したね」 思い出したように沙桐が言うと破月は「彼には甘えちゃうから」と答えた。 「‥‥元気‥‥だった‥‥?」 ぽつりと呟く破月に沙桐は頷いた。 「ばあ様が怖いって」 「‥‥そう‥‥」 その日の話はそこで終わりにした。 以来、破月の様子は落ち着かなくなっていた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 花魁の下に開拓者が来る旨を伝えたのは架蓮。 「花魁ですか‥‥」 ぽつりと呟いたのは御簾丸鎬葵(ib9142)だ。 花魁とは遊女の中でも群を抜いた美しさを持つがそれだけではない。舞、筝、長唄、俳句、茶道、囲碁等の習い事、読み書き、果ては政治の事まで仕込まれ、更に良客を旦那に持たねばならない。 「蓮誠殿も遊ばれるのですか?」 無垢な瞳に見つめられた蓮誠はゴフッと噎せた。 「い‥‥いや! 私はそのような遊びはいたしません!! 常に繚咲の警護とその鍛錬で忙しい故っ」 顔を鎬葵の赤の瞳より赤くして慌てて答える蓮誠に鎬葵は少しだけ首を傾げる。 「そうでしたか‥‥殿方は皆しているのかと」 「っそそそそのようなふしだ‥‥いや、そのっ 私はそのような事はいたしませんっ!」 絶叫のような蓮誠の言葉に、鎬葵は「そうですか」と咲きかけの花のつぼみのような微笑みを見せ、以前は表情を崩さない凛とした鎬葵とは打って変わった表情を見た蓮誠は首まで赤くなっていた。 その近くで沙桐がこっそり腹を抱える。 「‥‥蓮誠君て、もしかして」 「天蓋以外の女性に耐性なっしーん。蓮誠にとって天蓋の女性は皆家族なんだよ」 沙桐がそう言えば溟霆(ib0504)がほほうと蓮誠を見やる。 「折梅さんのいいオモチャになりそうですね」 「今、必死に逃げてるらしい」 御樹青嵐(ia1669)も話に加わり、沙桐が笑う。 「無理と思います」 きっぱりと珠々(ia5322)が言い切り、フレイア(ib0257)がくすっと笑う。 滋藤御門(ia0167)は破月と縁側で話していた。 「沙桐様からお話は聞きました。貴女と陰陽師の事を‥‥」 御門が静かに言えば、破月は「そう」と微笑んだ。 「今の貴女は陰陽師と火宵、どちらを選びますか」 強い口調で問う御門に破月は目を見開いたが、すぐに御門に目を細めた。 「君達に危害を加えるならば斬って捨てるわ」 「火宵と比べてほしいです」 逃がさないと言わんばかりに御門が言えば、破月はくすくす笑いだした。 「逃げたいから彼の言われるままにしてたの。今まで隠れられていたのだもの」 きょとんとなる御門が可愛らしいのか、破月からどんどん笑顔がこぼれる。 「いい子ね」 無邪気に笑う破月の顔が麻貴と重なって御門は不安にかられた。 あの陰陽師が言った言葉が脳裏に甦る。 破月の感情を戻してくださり、助かりましたよ 「破月さん‥‥ここにいてください‥‥」 御門が呟けば破月は笑顔を消した。 彼がとても、とても辛そうだったから。 御門が危惧しているのは陰陽師の狙いが繚咲外で火宵と破月が会う事でないかという事。 そして、その条件が整った後の二人の命の保障‥‥ 架蓮の手引きで花魁に会うのは溟霆と青嵐だ。 会う前に二人は菓子屋でカステラの味見をしていた。 「美味しいですね」 「君のお墨付があるなら我等が黒猫も喜ぶだろうね」 納得の味に二人は満足し、花魁へ会いに行く。 「カステラはこちらの方で引き取っておきます」 「何から何までありがとう」 裏から入った二人に架蓮が声をかける。 「花魁は柳枝と申します」 「わかりました」 気難しいという話を聞き、青嵐は失礼のないようにと心に決める。 和やかな楼主に案内されて昼見世の裏を歩く。 花魁とて昼見世の仕事はあり、その時間を割いたことに青嵐が気づいた。 「架蓮様の名指しとなれば見揚がりくらいするとの事ですよ」 この楼主も天蓋のシノビなのだろうと溟霆は楼主を見る。 座敷に案内されると上座に禿を後ろに従えた花魁‥‥柳枝が座っていた。 夜見世の艶やかかつ華やかな着物に身を包み、鴉の濡れ羽色もかくやの鬢も綺麗に椿油で纏め上げられ、百花の如く簪で留められている。化粧を施したその顔は正しく傾城の美しさ。 「これは太夫を待たせて申し訳ない」 物怖じせず挨拶をしたのは溟霆だ。 「わっちが楽しみで待っていんした。気にしないでおくんなんし」 紅を引かれた唇か紡いだ艶やかな声音。柳枝がくいっと顎を上げると、匂いを感じ取るような仕草を見せた。 「米の匂いがしんすね」 「米粉の菓子屋にいましたので」 青嵐が答えると、彼女はちろりと二人が手ぶらである事を確認する。 「わっちにはないのでありんすか?」 「黒猫さんに贈る物ですので‥‥」 「黒猫?」 柳眉を上げる柳枝に溟霆はすっくと立ち上がり、太夫の奥にいる片方の禿の前に片膝を突く。 「まだ慣れてないのかな?」 禿はこくりと緊張した面持ちで頷いた。 「失礼、黒猫直伝のおまじないだよ」 溟霆は禿のあまりの緊張振りが気になったようで、むにむにと禿の頬を揉む。 「面白い黒猫がいるんでありんすね」 くすっと、笑む柳枝に青嵐が「頑張り屋さんなんです」と答えた。 「納得しんした。御褒美にはよい菓子でありんすよ」 成程と納得した柳枝太夫は本題に入ろうかと声を上げたが、下座に戻った溟霆が人差し指を立てた。 「ここは一つ、遊びをしようか」 全員がきょとんと溟霆を見つめた。 山組は女性陣で向かう。 沙桐も沙芽として向かう事に。 「麻貴様に似てますね」 沙桐の女装姿を見た鎬葵がしみじみ感想を呟く。不機嫌な顔の沙桐であったが、麻貴に似てるという言葉で笑顔になる。 「相変わらずですね」 沙桐の麻貴の想いはいつもながらの事であり、フレイアも苦笑いを浮かべる。 「しかし、犠牲となった方がいたのはバラバラでありますね」 簡易地図を広げる鎬葵に珠々も覗き込む。 「食べられただろう時期は半年から数ヶ月。その間なら服の原型を留めているはず。アヤカシにむしゃぶりつかれたら破れちゃうけど」 思案しつつ頭を掻く沙桐に珠々が見上げる。 「‥‥隻腕のシノビと同じ処置をしたと」 珠々が声を抑えて沙桐に問えば彼を口にしたのは鎬葵だ。 「問題は一人二人ではなく、十人単位。衣服を剥いでその身だけを放置。その衣服はいかがなさったのでしょう」 「少なくともおかねにはなります」 珠々が言えば、フレイアが気付く。 「質に流れている可能性がありますね」 「しかし、所謂盗品ゆえ‥‥正規の古物流通には乗っていない可能性がありましょうね。もしくは焼却か」 こちらに来る前に女物の着物や装飾品を売りに来た者はいないか鎬葵は聞きまわったが、特になく、近隣で売っては足がつきかねないと判断した。 「こっちで探しておくよ」 沙桐が言えば、珠々がピクリと立ち止まった。 「珠々殿?」 鎬葵が珠々の様子を窺がうと、彼女も気付き、心眼を発動させた。 心眼で気付くか否かのところで気配がある。 「誰か‥‥複数の気配があります」 フレイアと沙桐にも緊張が走る。 火宵か、陰陽師か‥‥ 思案している場合ではない、珠々の耳を頼りに四人は走り出した。 険しい山を駆け抜ける四人の耳にどんどん入ってきたのは戦う音だ。 一人に対し、狼アヤカシが六体。 ここのアヤカシは普段戦うアヤカシよりも強く感じている者も多いのにその一人は軽々と狼アヤカシの胴体を斬った。 仲間を斬られ、果敢にも飛び掛るアヤカシの口の中に刀を突き、動けなくなった所で上に持ち上げ、近くにいたアヤカシにぶつけつつ、そのまま力で斬り倒した。 「あ、あんなやり方では刀が潰れます!」 悲鳴のように鎬葵が声を上げるも、その刀は刃こぼれ一つもなかった。 アヤカシの死体を見れば、その刀が鋭い切れ味を持つものではない事を伺えられる。だがその刀は血に塗れても脂を拭えばまた斬れた。 「杜叶刻御‥‥」 もう二年になる。 火宵が金に困った娘やだまされて誘拐された娘達で踏鞴場で働かせて鉄を作らせ、その鉄を甘言で集めさせた武器職人に与えて武器を作らせていた。 その中の一人の刀匠だ。 フレイアも縁のある刀匠だった。 彼はとりたて凄い刀を作れるわけではない。 頑丈で同じ強度、切れ味の刀を作れるという特徴がある。 その名前に気づいたのは沙桐だ。 「やはり、彼の所にありましたのね‥‥」 フレイアが呟くと、火宵の耳に届いていた。 「よう、最近会うな」 アヤカシを片づけて火宵が明るく声をかける。 火宵には微塵にも疲労の色は見せない。 鎬葵はかつて潜入捜査をしていた理穴の役人を殺すために開拓者達と熾烈な戦いをした事を聞いた事があった。 珠々とフレイアがそれに該当する。珠々が重傷を負い、結局取り逃がした。 旭の時は利害が一致して味方のような立場だったが実際はいつかは戦わねばならない可能性がある。 彼は罪を犯しているのだから。 鎬葵はぞくりとした何かを背筋に走らせる。 戦ったら‥‥勝てるのか‥‥ 「‥‥この間会った時もちゃんとした戦装束なんですね」 珠々が火宵に問いた。 火宵は大抵着流し姿だった。 前にここで会った時も火宵は戦装束姿だった。 「探しものがあってな」 火宵はくすりと笑う。 「アヤカシ、掃いても掃いても出てくるよね」 ふーっと溜息をつきつつ沙桐が言えば、火宵は仕方ないだろと答える。 この近くには魔の森があるのだから。 「‥‥主がこの辺にいるのでしょうか」 怜悧な氷の瞳が火宵に突き刺さる。 「手伝おうか」 はぐらかそうとする火宵に沙桐が声をかける。 「正気か」 いつもの余裕気な表情はどこへやら、火宵は表情を硬くした。 「正気だよ。だけど、天蓋は動かさない」 「まさか」 「俺だよ」 ケロッと言う沙桐に火宵が紫の瞳を見開く。 「そんな事をして命を落としてみろ、麻貴が壊れるぞ」 厳しい口調の火宵に珠々は自分が子供になりたい人の面影を垣間見た。 「だって、大将自ら動くだなんておかしいよ。歴戦の開拓者と対等に戦える部下を何人も抱えてるのに。それって、本戦で他の兵が怪我をしたりするのを恐れているって事でしょ」 言い切った沙桐に火宵は言葉を失った。 こんな火宵、見た事がないとフレイアと珠々は彼を見つめる。 はっと、珠々が思い出した。 「御門さんが前に野趣祭で警備をしてくれる武侠集団がいなくなっているって聞きました」 「関係があるのですか」 フレイアが言っても火宵は答えようとしない。 「‥‥何者と戦をなさるのですか‥‥繚咲への火の粉を護らせる為に天蓋を動かせて」 鎬葵が言えば、火宵は口を開いた。 「あの庵で「食事」をしている奴をこの手で倒す為だ」 それは旭の悲願だ。 悲願の為、旭は理穴の地方豪商の有明の妾となり、火宵を産み落としたのだ。 柳枝の座敷では賑やかな三味線や太鼓の音がする。 禿や新造達が楽しく歌を唄って場を盛り上げている。 柳枝対溟霆、青嵐で対決をしているのだ。 溟霆がなんだか申し訳ないから投扇興で勝ったら情報を教えるという提案。 面白いと乗った柳枝は手の空いた新造や天蓋のシノビの三味線弾き太鼓持ちを連れてきて囃子立て、踊れや歌えやの大騒ぎになってしまった。 投扇興に関して色々と決まり事がある為、面倒は省いて一回ずつ投げて点数が高い方に情報を教えるもしくは言われた通りにするという事になった。 今、必死に投げているのは青嵐だ。 青嵐は負けて女物の着物を着させられている。因みにこれで負けると髪を簪で結われる。 扇は残念ながら掠れず、花散里。 がっくりする青嵐を新造達がずるずると奥に連れて新造達が青嵐の髪を結っていく。 「お花は何にするんでありんすか?」 因みにこのまま負けていくと花魁の格好にされてしまう。 近い過去に似たような事があった気がしたと、いつかの御主人様を青嵐は気が遠くなりそうな意識の中、思い出していた。 「簪は鬼灯にしてあげて」 「何故でありんすか?」 溟霆が言えば、遊女の一人が首を傾げる。 「彼の心に秘める人がいるんだよ」 片目を瞑る溟霆に遊女達がはしゃぎ出す。 「姉様〜〜」 「太夫〜」 「任せなさい」 どんと、拳を自身の胸に響かせて柳枝が妹分達のおねだりを快諾した。溟霆が負けると、青嵐の好きな人について語る事になりそうだった。 「溟霆、勝ってくださいよ!」 悲鳴のように叫ぶ青嵐の言葉を溟霆はさらっと流した。 残念ながら、朝顔を出した溟霆が勝った。 「‥‥残念だったよ」 「語りたかったのですか!」 肩を竦める溟霆に青嵐がツッコミを入れた。 「さて、三領主が個人的に所有している志体持ちについて聞こうかな」 本題に入る溟霆に柳枝が笑顔で頷く。 「現時点では三領主とも常時二十人と聞いているでありんす」 「入れ替わりが発生するの?」 「状況次第で入れ替わりや命を落とすこともありましょう」 「待遇とかは」 「好待遇でありんすが、家族を持とうとなれば‥‥基本使い捨てですので」 「ふぅん‥‥独り身の方が都合いいから仕方ないよね」 頷く溟霆の呟きの後に青嵐が「志体持ちの種類は‥‥」と言えば、溟霆と柳枝に「自分が勝ってから」と異口同音で言われた。 情報を粗方聞き出した青嵐と溟霆はお暇することに。 「今日は本当に無粋につきあってくれて感謝するよ」 女装を解いてる青嵐待ちの溟霆が言えば、柳枝は微笑む。 「香雪の方、沙桐様の御名を出せばわっちは何でも答えるしかござんせん。 溟霆殿、青嵐殿は私にも禿達にも誠意を優しさを下さり、誠に感服したでありんす」 「当然の事ですよ。私達が聞きたいのですから、お二人は関係ありません」 元に戻った青嵐が言えば、柳枝は二人に三つ指をついた。それに倣い、遊女達や禿、楽器弾き達も三つ指をつく。 「どうか、繚咲を‥‥香雪の方、沙桐様をお支え下さますよう、なにとぞ‥‥!」 花魁とはそう簡単に頭を下げない。 接してこの花魁は気難しくも、気風のよく、人を見る目のある者と二人は理解した。 繚咲を憂い、変えようとしている折梅、沙桐を心から敬愛しているのだ。 その二人の為、生まれ育った地の為に花魁が頭を下げた。 二人は他の開拓者にその心意気を伝えようと心に決めて楼を去った。 破月を見守る為に留守番を選んだ御門は破月、一華、秋明と庵の家事の手伝いをしていた。 彼女から色々と話を聞いていた。 開拓者達が戻ってきて、御門が迎えると、溟霆、青嵐組はなんだか溟霆はほくほくしてて青嵐は精気を失っていた。 「その簪‥‥」 御門の言葉に青嵐は答えなかった。 鎬葵、珠々、フレイア、沙桐組は沙桐が生き生きしており、珠々とフレイアはいつも通りだが、鎬葵が少しお疲れかもしれなかった。 そして、溟霆が珠々に箱を差し出した。 「あけてごらん」 珠々が蓋を開けると、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。 まん丸おめめの珠々が箱の中と溟霆を交互に見やる。 「いつも頑張ってる君に」 「あ、この米粉のカステラ、すーごく美味しいんですよ」 一華が言えば、溟霆が更に笑顔になる。 「高砂一の花魁のお墨付きのカステラだよ。召し上がれ、あ、一華君。これでお茶煎れてね」 溟霆が差し出したのは柳枝から貰ったお茶だった。 「あ、ありがとうございます!」 珠々が元気よく言えば、溟霆が笑む。 その日、沙桐が開拓者に火宵の手伝いをすると言い出した。 |