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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 開拓者達が花魁から聞いた話は三領主はそれぞれ志体持ちは二十人程度でシノビを集団的には持っていないそうだ。 いたとしても、天蓋の監視が必ずついている。 陰陽師もそれぞれ数名抱えているが、開拓者達が追っている陰陽師は該当しなかった。 山組が他の拠点があるのではと思ったが、それらしいものはなかった。 あるとすれば、あの庵の小さな小屋くらいしかなったが、殆ど休憩程度、人が寛げるのは捕らわれただろう一華が生活していたあの部屋のみ。 水場にムスタシュィルを設置した時、何も反応がなかった事から今はいない事が窺がえる。 他にも拠点があると目を付けた開拓者は一人、山の上から見える魔の森を見てごくりと生唾を飲み込んだ。 武具を纏った火宵が見つめるのは彼が集めた強者達‥‥ 「そろそろだな‥‥野郎共、行くぞ!」 火宵がかけ声を上げると、全員が声を上げた。 「火宵様、繚咲当主に声をかけなくてよろしいのですか」 進軍する中、未明が声をかける。 「ああ‥‥麻貴そっくりな格好であんな事言われてみろ、そのまま連れていったらカタナシに殺されるさ」 困ったように笑う火宵に未明は悲しそうな顔をする。 「あいつは多分、繚咲にいるんだろ」 火宵の言葉に未明ははっとなる。 「会いに参られるのですか」 あの強固な檻に彼のもう一つの目的がいる。 火宵の記憶の中にあるのは満ちた月のように笑うあの少女‥‥ この進軍は母、旭の悲願だけではない。 自身の弱さを越える事。 その為に無数の他人の人生を狂わせ、死に至らせた。 どれだけ取り繕おうとも火宵がしてきた事は自己中心的で決して許されない罪人だ。 だが火宵は全てを擲って戦おうとしている。 そう、全身全霊を賭して。 勝った暁には必ずや‥‥ 時間を巻き戻して、破月は自分に生きてほしいと言ってくれた開拓者に「彼」の事を話した。 破月は「彼」の父親の正妻が統治している土地を守るシノビの一族の生まれで、父親が破月を気に入り、自身のシノビにした。 当時はまだ八歳の子供であったが、シノビとしての能力値は高く将来の有望さから欲したらしい。 妾との間にもうけた「彼」とは幼なじみの関係にある。 時が経つにつれ、破月は「彼」の想いに気づく。 だが、その時点で破月は父親の愛人の一人でもあった。 破月自身も「彼」に惹かれている。 そして、彼の父親より命ぜられたのは「彼」の暗殺。 成長した「彼」は才覚を発揮し、父親以上の働きを見せている。 父親はその息子に嫉妬したのだ。 愛人である破月に思いを寄せているのも知っている。破月の想いも‥‥ 早く手を打とうと父親は動いたのだ。 破月は従うしかなかった。 父親は主だから。 破月は「彼」と共に向かったのは武天だ。 「彼」は以前から武天に向かっては何かを探しているようだった。 彼はこの道中に母親の願いを教えてくれた。 母親は武天のとある領地の領主を守るシノビで、次期領主の青年に恋をしていた。 突然のアヤカシの襲来に地を追われ、焼かれ、母親とその親友を残して焦土と化された。 一緒に逃げた次期領主も追ってきたアヤカシに殺されたとも言った。 彼の母親はこの恨みを決して忘れず生きてきた。そしてその執念を息子である「彼」に託した。 彼女はもう戦う身体ではないからだ。 確実にアヤカシを倒してほしいから息子に自分の力を知恵を自分が与えられる全て与えた。 そして山道でアヤカシと遭った。 焔の百合にまみれたアヤカシ‥‥ とっさに「彼」を庇って破月は左半身を捧げた。 彼は左のこめかみにかすり傷だけで済み、自身はアヤカシを引きつけて燃える皮膚の臭いが嫌で、こんな身体見られたくなくて、怖くて逃げて、逃げて、怖くて、逃げて‥‥ 気がついたら川に落ちてて陰陽師に拾われた‥‥ 「怖がらせたらごめんね?」 破月の謝罪に開拓者は首を振った。なんだか子供のようで可愛らしかった。 「火宵に、会いたいですか」 破月は‥‥満散は涙をこぼした。 黒鶫が天蓋を舞う。 「いいですね。いいですよ」 くつりと笑う声がした。 その笑い声はあの庵へと向かっていた。 時を戻して‥‥ 火宵が進軍し始めた話を聞いた沙桐は開拓者達にもう一度問いた。 「急な話でごめん、君達は火宵の手伝いする?」 沙桐はもう戦支度をしている。 手伝ってもいいし、傍観もいいだろう。 そして、一華の悲鳴が響く。 「破月さんがいません!!」 その言葉に全員が凍った。 高砂は中心‥‥鷹来家の屋敷では天蓋領主を傍らにつけた鷹来折梅が窓辺に立ち、問題の山を向く。 「始まりますのね」 凛として折梅が言えば、天蓋領主は「全ては香雪様の意のままに」とだけ言った。 「お願いします」 開拓者と孫を想い、折梅は無事を祈る‥‥ 山と魔の森の境目‥‥ アヤカシ達がざわついている。 その奥‥‥中心で愉しそうに美しい「花弁」が揺らぐ‥‥ |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志 |
■リプレイ本文 ゆらりゆらりと蠢く焔。 焔は愉しそうにゆらりと花弁を揺らせば他の花弁が合図のように振り上げられた。 振り上げられた焔は火の粉となり、上空へと舞い上げられた。 黒い何かが蠢き、雄叫びのように地を響かせていた。 開拓者と沙桐達に響いた一華の悲鳴は全員を凍りつかすのに十分なもの。 最悪の状態を阻止したいが為に話した事なのに裏目になり悔やむ滋藤御門(ia0167)に沙桐が首を振る。 「責めちゃダメだよ」 沙桐の言葉に輝血(ia5431)が珍しい舌打ちをした。 「皆揃ってなんで言いたい事を言わないんだ!」 癇癪のような声に全員が驚いた。 「火宵も破月も麻貴も沙桐も皆、ちゃんと声に出せばいいのに何でしないんだ。あたし達がやるのに」 その声音に誰もが言葉を失い、一人だけ、彼女の成長に笑むのは溟霆だ。 「火宵や破月とかはいいとして、俺は声に出してるでしょ!」 否定の声を叫ぶのは沙桐だ。 ぎろりと輝血が沙桐に睨みつけるが、沙桐は怯まない。 「俺の望みは麻貴を鷹来の姓を名乗らせる事、俺の好きな人を俺のお嫁さんにする事だよ! その為には三領主と鷹来家当主代行の叔父の承認を得る事! その為に皆に手伝って貰おうって言ってるでしょ!」 「言ってたっけ?」 輝血が他の開拓者達に聞けば、一華に事情を聞いていた御樹青嵐(ia1669)が振り向いた。 「はっきり聞いたのは今し方ですが」 触らぬ輝血に祟りなしと言わんばかりに全員が頷いた。 粗方話を聞いた青嵐が頷き、輝血と共に赴く。 「僕も陰陽師と破月君の捜索に赴くよ」 溟霆(ib0504)が言えば沙桐がおやっと目を見張る。 ちらっと、溟霆が視線をよこせば沙桐はくすっと笑う。 「素直な君も好きだけど、君という闇霧がいる事で俺らが動きやすくなっている。好きに動いてよ。君も他の開拓者も俺達の望む事をしてくれてきたから」 一刻を争う事態なのに霧と桐が笑う。 「行って来るよ、何が起こるか解らないけど」 溟霆が言えば沙桐が「行ってらっしゃい」と言った。溟霆には御簾丸鎬葵(ib9142)も同行する。その際にばたばたと秋明が二人に駆け寄った。秋明の案内で連れて行かれた厩舎にいた馬は蓮誠の馬だ。 「お言葉に甘えてお借りいたします」 鎬葵は馬に声をかけると「お任せを」と言わんばかりに嘶いた。 青嵐と輝血は破月探しに専念する事にした。 一華から話を聞けば、破月がいなくなったのは架蓮が沙桐達に火宵が軍を動かした直後だった。 何か言っていたかと聞けば、彼女は随分落ち着かない様子で魔の森の方を見ていたとか。 呆然と呟いていたのは「今度こそは‥‥」というものだけだった。一華が振り向いて何事かを尋ねようとしたらもういなくなっていたようだった。 「直前まで破月さんは小袖姿だったそうです。この短時間ではそう遠くには行ってないかと‥‥」 辺りを見回す輝血に青嵐が言えば彼女はそうだねとだけ言う。また駆け出そうとした瞬間、彼女は目を見開く。 二人を見ていたのは黒鶫だ。自分達が探していた陰陽師の人魂。 「近くにいますね」 無意識に構えるが自分達の目的は破月だ。 「役者は揃いつつあるという事ですね」 ため息混じりに青嵐が言えば輝血は嫌そうな顔をした。 「どうしてそっちが引っかかるのかな‥‥」 「私を捜していたのでは?」 くすくすと山の奥の木々より声が聞こえる。 「物事は随時動き、臨機応変に変わって行くもんじゃないの?」 じろりと輝血が声の方向を見極めて言葉を返す。 「正しく」 くすりと陰陽師が笑う。 「貴方の目的は破月さんの感情を戻した後、何をしようとしているのですか」 陰陽師の声音で感情を伺うように青嵐が尋ねる。 「君達の仲間も見たはずと思うけど」 意外そうに陰陽師は声音を明るくさせる。 「この山が何の山かわかっているかい?」 「火宵は餌場って言ってたけど」 輝血が答えると彼は愉しそうに笑い声を上げた。 「そこまで解っているなら答えをあげる必要などないさ。行くといい、君達が立っている場所から北西に火宵がいる」 踊らされるという事を理解している輝血はぎりっと歯を軋ませた。 「君は美しい、これから更に美しくなるだろう。心の平安という果実を実らせた本当に美しくなるその日を楽しみに待とう」 愉しそうに嘲笑う陰陽師に青嵐が輝血を庇う様に立つ。 「私の事より破月の方に行ったらいかがですか?」 「次は貴方ですよ」 厳しい口調の青嵐に陰陽師はくつくつと笑う。 「改めて会いましょう」 輝血は音を把握したが今は破月だ。 溟霆と鎬葵は火宵が庵を燃やす前に庵へと走った。 まだ‥‥まだ何かが出てくると確信して。 二人が到着すると、まだ火の手は来ていなかった。 鎬葵は何度か心眼を使用しているが、周囲はアヤカシだらけで逃げるのもやっとだ。 ふと、近づく何かが心眼に引っかかった。 「溟霆殿!」 鎬葵が叫ぶと、溟霆も気付いているようで黒閃を構える。 「あれ」 緊迫する二人の雰囲気にそぐわない声が響いた。 二人の目の前にいるのは子供だ。 白い髪に水色の瞳、どこか儚げで愛くるしい顔であるが、耳が兎のようだ。 「きれいなにんげん」 子供がじっと見つめるのは鎬葵。 「咲主様のごはん?」 瞬間、子供ははっとなり、即座に逃げ出した。 「止まるんだ」 投降を呼びかけたが聞きやしない。仕方ないと溟霆が早駆で駆け出すも子供は早かった。 子供ではない、子供の姿を借りたアヤカシだ。 沙桐との約束で捕縛を優先したのだ。まずは呼びかけからだが‥‥ 「ぴえ!」 追って来る溟霆に驚いた子供は速度を上げて逃げ去られた。 「咲主のごはんと申してましたね」 「主‥‥ね、つまり、ここで咲主という者が『食事』をしていたんだね」 庵を見上げた溟霆が呟いた。 「沙桐殿の話では攫われた者達の追加情報はなく、誘拐情報もなかったようですね‥‥」 「美女を喰らい、花を咲かす‥‥どんな花なんだか」 鎬葵の言わんとする事を肯定するように溟霆は穏やかに細められる瞳の奥は闇霧のようにゆらめいた。 急いで火宵達と合流した沙桐達は焼き討ちに備える。 「何故来た」 「有言実行するためだよ」 呆れる火宵に沙桐はあっさりと言い切った。 「つか、それも連れてきて」 火宵の視線の先には珠々(ia5322)がいた。 「お、おと‥‥」 言い返そうにも珠々の言葉が詰まり、そのまま一時停止する。 大人達が見守る中、珠々が動きを再開する。 「柊真さんが困るから手を貸すんですよ!」 気合いを入れて「ふんす」と鼻息を荒くしてもあまり締まらなくとても可愛い。 「カタナシめ‥‥」 「やっぱ、ウチの子に‥‥」 悔しがる大人達を見てフレイア(ib0257)が苦笑する。 「未明‥‥すみません‥‥満散さんに火宵のことを話してしまいました‥‥」 神妙な表情で御門が謝ると、未明はため息をつく。 「‥‥この世なんて最終的にどうなるか本当にわからないもんなんだよ」 本当にバカでいい子だね。と未明は御門に優しく言った。 「火宵は知っていたのですか」 「報告するのが主への筋だろ」 御門の問いに未明はしっかり答えと彼は火宵の方へ向き直る。 「火宵、満散さんを探して下さい! 助けたいんです」 御門の提案に火宵は目を見張る。 「僕がここを手伝います」 きっぱり言う御門に火宵は笑い飛ばした。 「火宵!」 責めるように御門が火宵を呼べば彼は鋭い眼光を御門に向けた。 「あいつが弱いと思うか」 弱くはない。確実に強いだろうと御門も思う。 「それでも僕は心配なんです」 「じゃあ、俺を守れ」 きっぱりと火宵が言えば、次は御門が目を見張る。 「火宵‥‥?」 「あいつならきっと俺を守りに来る」 言い切る火宵に側に控える曙がため息をつく。 「‥‥振られたらどうするんですか」 確信をつく曙に火宵はじとりと彼を睨む。どこまでも自信に満ちあふれる火宵を見てフレイアが笑う。 「闇雲に火宵さんに動き回られるよりはいいですけどね。アヤカシにいいようにされるよりはマシです」 艶やかに笑みを浮かべているが、しっかりとした口調のフレイアに火宵はおっかねぇなぁと笑う。 「陰陽師の狙いがどういうものかまだ明瞭ではありません。合理を狙うとすれば、火宵さんと破月さんとで殺し合いと考えます」 フレイアが自分の考えを述べると、火宵は確かにと頷く。 「でも、あの陰陽師はやたら余計な事ばっかりしてたと思います」 「‥‥そういえば、満散って陰陽師に百合文様の入れ墨をされたんだよね」 ふと、未明が御門が道中話してくれた事を思い出す。 木々の向こうから現れたのは輝血と青嵐だ。因みに輝血の不機嫌度は今までで最高値だろう。 「陰陽師は破月をアヤカシに食わせようとしているみたいだよ」 「破月さんの感情を戻させた事を喜んでいたのも、アヤカシの為の可能性があります」 陰陽師として学問を修める立場である青嵐が言えば、火宵が顔を上げる。 「お前等が追ってる陰陽師がアヤカシと手を組んでいると」 「火宵、そのアヤカシに知性を感じましたか」 はっとなった御門が火宵に言えば、火宵は頷いた。 「もし、人に近い知性を持つアヤカシとすれば‥‥」 火宵と相当一緒にいたくないのだろうか輝血は青嵐と共に一度いなくなった。 「変わったな。いい意味で」 火宵が楽しそうに輝血を見つめると、御門は黙って二人の背を見送った。 木々の中、アヤカシを蹴散らかして馬を走らせるのは溟霆だ。 「君が火宵を邪魔と思うのなら今回の件、どうすると思う」 「火宵は焼き討ちを考えておりまする。アヤカシはどうにも強力ですが、皆様の話を聞けば、彼は用心、執念深く用意も周到。ですが、人というものは必ずや隙がありましょう」 「達成を成す瞬間とか」 言葉を差し込む溟霆の言葉に鎬葵は肯定した。 「今回の軍勢、火宵の采配で統括しておりまする。鋭角的に火宵のみを狙うものがおるやもしれませぬ」 「‥‥やだなぁ」 嫌というのは火宵を守りたくないという事だ。 「私達は破月殿を守りたいが為に在ればよいかと」 溟霆と火宵の間を察した鎬葵が言えば、彼はくすくす笑う。 「君は両方守りたいんでしょ」 見透かされて鎬葵は溟霆に見られていないことに少しだけ甘えて拗ねた表情をした。 「変わるというのは面白いよね」 「は?」 小さな変化に気づいた溟霆が言えば、鎬葵がきょとんと目を見張った。 はっと、溟霆が顔をあげた。 遠くから聞こえる燃えた木がはぜる音。 走らせる馬を止めて溟霆と鎬葵が振り返る。 「始まりましたか」 鎬葵が言えば、溟霆は再び馬を走らせた。 庵についた火宵達であったが、珠々が先に飛び出して確認していく。 「御簾丸さん達は一度確認してたみたいですね」 足跡に気づいた珠々は足跡に気づいた。 「‥‥子供?」 珠々の呟きに火宵はふむと屈み込む。 「‥‥人型をとれるアヤカシがいるということでしょうか」 御門が言えば火宵は静かにうなずく。 「俺が遭遇したアヤカシとお袋の故郷を襲ったアヤカシも人型をとっていた奴が中心となっていたそうだ」 「そう言えば、焦土と化していると聞いておりますが、今回のアヤカシも焔‥‥同一と考えてよいでしょうね」 フレイアが言えば、火宵はそうだなと頷いた。 「さて、始めようか」 火宵が言えば、火がどんどん点っていった。 火の手は激しく早く山を焼き付くす。 山の周辺には天蓋の傭兵、シノビ達が各地に配備されており、火の手が広がらないように手を加えている。 各領地にいる火消し達も話は聞いているようで、各自、飛んでくるやもしれぬ火の粉に備えている。 「母上、ここにいては危険です」 鷹来家屋敷の天守閣から動かない折梅を案じた声が後ろから響く。 「そろそろ、貴方も腹を括っては?」 「母上?」 「私が知らぬと思いましたか」 折梅の問いに男は黙り込んだ。 「今日の事が確定すれば、提示は奴にだってわかるでしょう」 ため息混じりに男が言えば、折梅はそうねと振り向いた。 「あと、一年‥‥かしらね。貴方も本当に頑張りましたよ」 微笑む折梅に男は「まだです」と言った。 魔の森の奥からどんどん闇が蠢き、山へと向かう。 餌場を奪う愚かなる餌どもを喰らう為。 ぴょんこぴょんこと焔の百合の膝元で兎がはねる。大降りの襟がゆらゆら揺れてまるで牡丹のようだ。 「美しい人間が居ったか。うまそうであればいいのぅ」 くつりくつりと花弁の奥が楽しげに揺れた。 輝血が血の匂いに気づいた同刻、鎬葵と溟霆は死体を見つけた。 鎬葵の予測する火宵を狙う者が待機していよう場所に辿り着いたら絶命している人間がいた。 以前、陰陽師が使えなくなったシノビを始末したような状態ではなく、着の身着のまま。 はっとなった鎬葵が溟霆を見れば、シノビの傷口を見ていた彼も頷く。 「破月君の仕業だろうね。鎬葵君の想像通りに火宵を狙う輩がいた」 火宵の執念深さは陰陽師も考慮していたのだろう。 もう二度とこんな損害を出さぬよう、念には念を徹底的に用意していたのだろう。 「破月殿も同じ事を考慮して先に潰していった‥‥」 「そうだろうね」 ふむと、溟霆が辺りを見て、殺した者がどちらへ行ったか目星をつけている。 「鎬葵君、行くよ」 溟霆が言えば、鎬葵は遺体を簡易埋葬でもしたいと思ったが、事態がそうはさせない。 歯がゆく、鎬葵は俯いてしまったが、遺体の前に膝を突いてさっと手を合わせた。 勢いよく駆け出した輝血に驚いた青嵐はあわてて彼女を追った。 「青嵐、こっち」 輝血の声を聞き、ほっとした青嵐が向かえば、輝血の足下に死体があった。 そして、輝血の手は血に濡れていた。 「あたしが来た時にはもう死んでいたけど、まだ血は温かかったよ」 輝血があたりを伺っている時に青嵐は遺体の目を閉ざした。 超越聴覚を使って輝血が様子を窺う。 音を絞り込んだ輝血は別の方向を向いた。 「蹄の音が行こうとした方向を向かっている」 進んでいけば行くほど輝血の耳に響く馬の音は近い。 「輝血君、青嵐君」 声をかけたのは早駆を使う溟霆だ。 「御樹殿、乗ってくだされ!」 体力を考慮し、一人馬に乗っていた鎬葵が声をかける。 「陰陽師に会いましたよ」 「なんと!」 青嵐の言葉に鎬葵が驚く。 「声のみでしたけどね。お二人は何故こちらに」 「自分が火宵の敵と見立てて動いたところ、シノビの者の遺体を発見いたしました。破月殿の仕事と確信し、追跡しておりました」 「なるほど‥‥破月さんは御簾丸さんと同じ事を考えていた可能性がありますね」 「‥‥陰陽師の目的が見えませぬ」 鎬葵が言えば、青嵐は先ほどの事を思い出していた。 「あの庵は特別なアヤカシに喰わせる為にあるもののようです」 「特別?」 首を傾げる鎬葵に青嵐が頷く。 「どういう意図があるかはわかりませんが、陰陽師は破月さんをアヤカシに喰わせようとしている可能性があります」 「それが感情を戻す事と火宵と会う事と関係がありましょうか」 鎬葵の問いに青嵐は重々しく口を開く。 「知能の高いアヤカシは人の感情を理解します。喜び、恐怖を。破月さんの感情を取り戻した上で火宵に会わせようとするのは生きたいと思わせる為ではないかと」 「生きようとする者にとって、死は最大の恐怖という事でありまするか」 「それを美味とするのでしょう、アヤカシにとって」 ただ、陰陽師は何も恐れていないような気もする。とても手馴れているという意識を感じ取っているし、同じような事をしてきたのではないかと思った。 今はわからずとも、きっと‥‥ 「いずれは‥‥」 静かに意志を秘める鎬葵は先を走る二人が何かを見つけたのに気付いた。 火宵達が灯した炎は一気に山を燃やそうとしている。 全てはここから終わり、始まるのかもしれない。 そう、炎は自分達を追うのだ。 炎にアヤカシが燃やされる前に自分達でアヤカシを斃すのだ。 「行くぞ、飲み込まれるなよ」 火宵が声をかけると、御門は頷いた。 自分達は先頭に居り、後ろには火宵が連れて来た武侠集団がいる。 彼等もまた、激しい戦闘に飢えているのだ。 今までのアヤカシよりも強いとはいえ、更に強いアヤカシがいるだろう場所に血が滾っているのだ。 速度を上げる後続に呑まれないように先頭が走り出した。 火宵の動きを警戒していた珠々は呆然とこの状況を見ていた。 「まるで、合戦のようです」 そう、合戦なのだ。 勢いだけで統率は火宵の人間性と、より強いアヤカシを倒す事という共通意識の元の事。 火宵の本来の目的を考慮している者は多分、火宵と同じ里の者くらいなのだろうと珠々は認識している。 今まで火宵は武侠集団にも定期的に山に出させてアヤカシと戦わせてきたのかもしれない。 手ごたえという味を噛み締めさせて、山に現われるアヤカシより更に強いアヤカシがいるという甘い餌をぶら下げて今という時を待たせ続けてきたのだろうと珠々は分析した。 夜までに終わるのだろうと珠々は予測している。 火宵は本当にそれだけで終わるのだろうか。 珠々は火宵の監視を緩めたりしない。 逃がしてはならない。そう、逃がしては。 ぽたりと落ちるのは血だ。 細い手から流れ落ちる血は足元に横たわる死体から。 「探したよ」 輝血が言えば、破月が四人を見た。 「同じ事を考えていたようね。連れ戻しにきたのかしら」 くすっと、破月が微笑む。 「手伝いに来た」 輝血の言い切りに破月が目を丸くした。 「僕も同じ考えだよ。女性のお願いの方が気持ちもいいしね」 溟霆も言えば、破月は困ったように嬉しそうに泣きそうな顔をした。 彼女は火宵のために動いていた。 愛しい者の為に。 青嵐はじっと破月を見つめた。 感情はほぼ戻っている。短期間で戻ったというのも考慮し、彼女が何をしでかすのか全く読めない。 守るしかない。 「あいつが火宵を狙っているわ。もしかしてと確認したら、この間の連中もいるようだったわ」 鎬葵が振り返れば、火宵達が放った火は木々を飲み込んで行っている。時々、発動されただろう術の光が見え隠れしているのでもう交戦しているのだろう。 「‥‥もう、向こう側に回っている暇がありませぬ、参りましょう!」 鎬葵が言えば、輝血が嫌そうな顔をしたが、従った。 向かっている時に見えた闇の中で蠢きながらもどこか優雅さを交えた焔が見えた。 蠢く闇は合戦でよく見るものだ。 最後まで戦うのではなく、道を拓くのが戦陣の役目。 ゆっくり息をついた珠々は走り出した。 飛び込んで斬っていく。道を開かせるのだ。 まだ見えぬアヤカシの闇の中に蠢く百合の焔をしとめる為に。 狼アヤカシが珠々を見て飛び込んできた。 奔刃術で速度を速めて珠々は狼アヤカシをすり抜けていき、利き手より振られる両刃の剣はアヤカシ達を切り捨てていく。 赤い光が走る黄色の刀身の剣は正しく、アヤカシという暗雲の中を走る雷の様だ。 先行を走る獣型アヤカシから植物型アヤカシ特有の蔓が珠々を襲う。 だが、彼女は悪い足場に着地せず、切り倒していくアヤカシを足場にして次々と斬っていく。 「着いてこいよ」 「誰に言ってるんですか」 珠々の隣に軽口を言うのは火宵だ。むっとなった珠々が言い返す。 「上原柊真の娘だ」 「おだてても、ぜったい捕まえるんですからね!」 次は硬直せずに珠々が言い返した。顔は真っ赤にして。 「植物型ならば燃やすのもいいですがこちらも利きますよ」 フレイアが掲げたのはここから遠い場所にある砂漠色のバラを意匠した杖。バラから発動されたのはブリザーストームだ。 無色透明であった氷の粒は無数の粒が集められると透明ではなく、光を乱反射させて白くさせた。 白くなる視界にアヤカシ達は距離感覚を失い、同士討ちを始めた。 植物のアヤカシは氷ついていき、動きが鈍っている。 戦場には些か不釣り合いな鳥が飛んでいる。 まだ大人になったばかりのような鷹だ。 ふと、御門が瞳を開いた。 陰陽師の事だから、人魂を通じて高見の見物でもしているのだろうと思ったからだ。 「‥‥ですが、どこかにいるのでしょう」 鋭い瞳で御門はどこかにいるだろう陰陽師を見据える。 植物アヤカシの中にはフレイアのブリザーストームすら受けきり、動かせる無数の蔦を持つアヤカシも多い。 「こちらではどうですか」 御門が人魂から術を切り替えて一転して発動させたのは氷柱だ。 中心めがけて術を発動させる。 氷の槍のごとく、氷柱はアヤカシを突き刺すと、御門の横をすり抜けたのは曙だ。 彼は居合い一閃でアヤカシを切り倒した。 「曙、未明! 伝えてください、奥の半里もない所に焔を纏ったアヤカシがいます!」 御門の言葉を拾ったのは未明だ。 「任せな!」 鋭く未明が言えば、早駆で伝えに行った。御門が振り向くと、後続達に怪我人がいるのを見つけ、彼は走り出した。 彼らはもしかしたら死に来たものもいるやもしれない。だが、それを許してはならない。 行きずりだろうとあの魔の森の向こうにいるだろうかの女傑は悲しむだろう。 人は駒ではない。 それをあの領地に実現させた人だから。 半里よりも短い距離の向こう、肉眼で珠々は捉えた。 壮麗なる百合の如く咲き誇る焔の華。焔自体ではない高熱の焔が白くなり、着物と化しているのだ。 「焔の白無垢‥‥」 その焔の奥に潜む狂気に珠々は警戒を強めるしかなかった。 火宵が殺気と怒気に満たされている。 余裕を感じられなかった。 自分達と戦っていた時は余裕だったのに‥‥ 動いたのは傍らの人型アヤカシだ。 軽装な鎧姿に長い髪を芍薬の髪飾りで纏めている娘。刀を抜いており、その殺気は火宵達へ向けている。 「そうはさせません」 珠々が動き出して芍薬のアヤカシと対峙する。 人型をとれるということは確実に強力なアヤカシと思われる。 芍薬のアヤカシが珠々と対峙すると、珠々が更に影を発動させた。俊敏さをあげた珠々が芍薬のアヤカシに一太刀振りあげる。芍薬のアヤカシも見切っており、珠々の刀を軽々と受け止めた。 珠々は視界の端から揺らめく何かを感じて珠々がもう一本の刀を使ってアヤカシから間合いを取った。 地に落ちたのは植物の葉。だがその先端は刃のように鋭かった。 「ほぉ、戎から間合いを取ったか」 百合のアヤカシが愉しそうに笑う。 「笑っている暇はねえよ」 火宵が声をかけると百合のアヤカシは愉しそうに笑う。 「かの時の小わっぱが聞いた口を話おって」 くつくつと百合のアヤカシが笑う。 「あの娘も喰い損ねたな、美しい顔に恐怖が滲むと一層うまそうでのう」 「おまえの餌場は燃やした」 火宵がそう言って刀を振りおろせば、百合アヤカシは横から炎が伸びて火宵の刀を振り払った。更に火宵が連撃で刀を振るうが、全て見極められている。 「そんな‥‥」 追いついた御門が呆然とその様を見ていた。 あのアヤカシはいともたやすく火宵の剣を見極め、払っている。 後続達が百合のアヤカシを見つけて奇声を上げながら駆けだした。 百合のアヤカシに向かって数十の刃が振り降ろされる瞬間、赤く目映く光が放たれていち早く防御と間合いを取った火宵以外は全員炎に燃やされた。 フレイアが急いでブリザーストームを発動してもその炎は止まらない。 「久方ぶりだな」 愉しそうに百合の綿帽子が揺れる。 「遊んでやろう。我が名の由来、とくと見よ」 はははと軽やかな笑い声と共に生成されていくのは焔の華々‥‥ 炎の百合がいくつも形成されていき、鈴なりのように響き揺らめく。 百の華の合わさる焔‥‥ 「我が名は百響(ももゆら)、その名とくと身に刻むといい」 御門とフレイアが急いで氷柱とブリザーストームの冷気で対抗する。 「くっ」 珠々が即座にその場から離れ、御門の方へ走る。 だが、間に合わない! 轟音の中、静寂が走る。 この子は守らなくてはならない。 己の写し身の愛し子となる者。 だから‥‥返さなくてはならない。 「なんて‥‥」 御門が呆然と呟く。 百合のアヤカシが放ったそれは後続の兵達を燃やしたのだ。 たった一瞬‥‥その一瞬で人の命を奪った。 「食らいたければ食らうがよい!」 高らかに笑う百響は百合の綿帽子より口元が見えた。 百響の後ろにいたアヤカシ達が狂喜にのたうち回るかのように動き出した。 侵攻を止めさせようとフレイアがブリザードストームを発動させても数が多すぎて防ぎ切れていない。 「火宵‥‥」 珠々が何とか難を逃れたのは火宵が夜を使ったから。 「大丈夫か」 珠々が頷くと火宵がもう一度百響に向かって走り出した。真っ正面から火宵が走り出し、再び百響と対峙する。 「楽しませてくれるか」 百響が炎で刀のようなものを生成しだした。 「殺してやる!」 火宵が叫ぶと、斬り合いが始まった。 殆どが火宵が攻勢で百響が受けるというものだ。 火宵の威力は強く、いつアヤカシに隙が出来るかわからないくらいだった。 瞬間、百響が笑った。火宵もまた気づく。 自身を狙う者を! 百響に気を取られて気づかなかった。 そして横から突風が吹き、雑魚のアヤカシが吹き飛んでいった。 「破月のお願いだから」 冷たい蛇の声が響いた。 その声と火宵を狙う者の距離は遠かった。だが、十分だ。 苦無を投げれば。 時が動いた瞬間と共に火宵を狙う無粋者は喉から血を流して倒れた。 更に破月が前に出て来た。 「もう、あんたの好きにさせない!」 破月が叫ぶと、百響は破月を見て嗤った。 「我が食事が自ら喰らわれに来たか」 「やはり‥‥」 青嵐が呟けば、百響は炎の綿帽子を揺らした。 「庵で娘を喰らっていたのは貴様か‥‥」 鎬葵が剣を構えると、百響はゆっくり焔の花を揺らす。 「左様であるが、何を不審そうにしている」 「アヤカシが人を喰うのは当然の事だけどね」 溟霆が呆れたように肩を竦めた。 「人間は食うものを美しくして食らうのではないか? 我もやってみたいと思うたら、させてくれた者がおっての」 百響はまるで子供のように呟きだした。 「見目良い部屋に美しい着物を着せた娘が我に食われる事を悟るなり、その顔がとてもとても美味しそうでな」 その事を思い出しているのか、百響は愉しそうに笑っている。 「破月は食わせないよ」 「何を言うている。その顔の墨が証であろう? 喰ろうてやろう」 前に出ようとする百響に開拓者達が破月を護ろうと立ち塞がる。百響は焔を生成し、開拓者達に焔の衝撃波を放つ。 フレイアと御門がそれぞれの冷気で焔を塞ぎ、一斉に攻撃しようと試みる。 輝血と溟霆が前に出て、盾となる。 溟霆が蜘蛛蠱纏を発動させる為に、焔の熱と戦いながら接近し掠める事に成功したが燃やされた。 「くっ」 顔を顰めて溟霆が間合いを取る。 再び静寂が訪れる。 至近距離でなら何とか痛手を食らわせられるかもしれないと信じ、蛇が百合に噛み付こうをする。 この一太刀だ。 手ごたえを感じた瞬間、再び時が動き出した。 熱さに痛みすら覚えた輝血は眼前にいる綿帽子が裂けた百響に目を見張った。 「麻貴‥‥」 否。 輝血は顔から熱気を護るために腕で庇うと、後ろへと重力を感じた。 破月が輝血を百響から引き離した。 「そのように力んでは肉が固くなるが、腑は柔いまま。好きに昂ぶれ、人間よ」 百響が謳うように笑い、焔の刀で破月と戦う。百響が破月の隙をぬい、斬ろうとした瞬間、鎬葵が駆け出した。 「くっ」 鎬葵の刀が百響の刀を受けると火宵と沙桐が駆け出す。鎬葵を庇うように百響との間に立ち、次に剣を振るう。 百響は瞬の剣の火宵と剛の剣の沙桐の二振りの剣をいなしている。更に輝血が入ろうとすると、百響は焔を輝血に放った。 「輝血さん!」 青嵐が斬撃符で百響の手元を狙うが、それでも百響の焔は消えない。何とか輝血が回避すれど、美しい水帝の外套が少しこげかけている。 それでも輝血は戦うことをやめない。珠々もまた飛び出し戦う。 周囲はもう火の海だ。もう、逃げ場もない。 「中々やりおるな人間ども」 くすくすと百響が笑う。 「だが、我は飽きた」 あっさり言い切る百響に珠々がカッとなる。 「逃がしません!」 珠々の言葉に百響は鼻で笑った。 「では、これから逃げられるのであれば付き合おうぞ」 再び焔の百合の花束が形成される。先ほどの倍の焔の華だ。 早駆で前に出たのは破月。 「満散!」 火宵が無意識で満散を腕の中に閉じ込める。 「火宵、破月さん!」 悲鳴を上げる御門に二人は御門に、開拓者に微笑む。 「さぁ、運試しと参ろう!」 高らかに百響が焔を放ち、火宵と満散が立ち向かった。 フレイアがブリザーストームを放ったが、それはもはや壁にもならなかった‥‥ ●終焉と提示 その後の記憶が殆どなかった。 山火事は天蓋と各火消し達の仕事のおかげで周囲に何も被害はなかった。 陰陽師は再び姿を消した。 百響の最後の攻撃の時、一部の開拓者を庇った曙、未明は死亡が確認された。 他、火宵の部下も死亡しており、彼のアヤカシ討伐に参加して生き残った武侠集団の一部はそれぞれの場所へと戻らされる事になった。 アヤカシの焔の影響で落盤がおきていた。 火宵と破月はまだ見つかっていない。 年が開け、怪我をした沙桐は近日、繚咲当主代行の叔父と管財人折梅の謁見が言い渡された。 一華が肩掛けを持って外にいる沙桐を咎める。 沙桐が戻ろうとすると、先を行く一華の髪が山の風で大きく弄ばされた。ちょうど項の真ん中に破月が施されていたのと同じ小さな百合の墨があった。 「沙桐様?」 呆然とする沙桐に一華が声をかけると「今行く」と答えた。 まだ、奴への糸は途切れてないと確信した沙桐は腹を括った。 皆、また頼むよ‥‥ 沙桐は遠い神楽の都にいる開拓者達に心の中で言葉をかけた。 |