秋の幸せ
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 22人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/27 23:06



■オープニング本文

 武天のとある山間部にある温泉郷。
 紅葉が色めき、美しい紅葉が見られる。
 山の中ともあり、山の幸がよく取れる豊かな土地。
 そのとある温泉宿にいたのは此隅在住の武家、市原家一家。
 家族で温泉旅行に行っていたようだった。

 知る人ぞ知る温泉街であり、この時期は紅葉を見に来る客もいる。
 野趣祭もやっているので、そのついでにやってくる客も多い為、更に賑やかな事になっているようだった。
 街は出店なんかもあり、意外と賑わっているし、最近はめっきり冷えてきたので温泉で体を温めて旅行を満喫していた。
 そんな時の事、市原家の一人娘である緒水は従業員達の嘆きに気づいてしまった。
「ええ、そうなの?」
「困ったわ‥‥」
 ひそひそ話している仲居さん達に緒水はどうしたらいいものかまごまごしてしまい、そのまま話を聞く事になった。
 どうにも、数日後に団体さんの予約があったのだが、とある事情で来れないとの事。
 大きな一族の家族旅行だったようだが、来れなくなったという話だ。
 申し訳ないという事で団体さんからはお詫びのお金を渡されたらしい。
 食材も発注したからありがたいが‥‥問題はその食材。
 他の宿だって食材発注の予定もあるから渡した所で迷惑になりかねない。
 困ったと呟いていた所に緒水は話に加わった。
「あの、もしよろしければ、開拓者ギルドに依頼を出してみては?」
 緒水の言葉に仲居さん達は顔を見合わせる。
「依頼料なくとも応じる開拓者さんはいらっしゃると聞いてます。もし、よければ御参考に」
 微笑を浮かべる緒水に仲居さん達は「それだ!」と叫び、緒水に礼を言って女将さんに進言しに行った。


 すぐさま開拓者ギルドに温泉で一泊旅行の依頼が出てきた。
「いいなぁ、温泉」
 ぽつりと受付嬢の北花真魚がしょんぼりと呟いた。


■参加者一覧
/ 滋藤 御門(ia0167) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 珠々(ia5322) / 輝血(ia5431) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / シルフィリア・オーク(ib0350) / 白藤(ib2527) / 宮鷺 カヅキ(ib4230) / 高崎・朱音(ib5430) / 叢雲 怜(ib5488) / 緋那岐(ib5664) / スレダ(ib6629) / ルシフェル=アルトロ(ib6763) / 玖雀(ib6816) / 月・芙舞(ib6885) / 棕櫚(ib7915) / 鴻池 青霞(ic0073) / 鴻池 紫桜(ic0074


■リプレイ本文

 次々と温泉参加者が名乗りを上げている中、真魚は笑顔で応対しながらもしょんぼり顔。
 次に現れたのは緋那岐(ib5664)と柚乃(ia0638)。
「俺達も温泉依頼参加する」
 緋那岐が言えば、真魚はわかりましたと言って筆を滑らせた。
「あの‥‥」
 おずおずと声を出したのは柚乃。真魚が返事をすると、柚乃はなんだかとても寂しそうな表情だ。
「真魚さん、お休み貰えませんか?」
「え?」
「だって、なんだか寂しそうです。依頼の案内人とかで行けませんか?」
 柚乃の提案に真魚はきょとんとしてしまう。
「そうだな、旅は道連れって言葉があるからな」
 緋那岐も頷けば、真魚は目を潤ませてその場で上司に申告して了解を貰った。
「緋那岐さん、柚乃さんありがとーー!」
 こうして案内人も出来上がり、旅は始まった。


 今回の旅で礼野真夢紀(ia1144)は色々な知り合いに会えてまずはご挨拶と回っていた。
「ご挨拶周りは終わった?」
 シルフィリア・オーク(ib0350)が声をかけると、真夢紀は「はいっ」と元気よく頷いた。
 宿について少し一休みをしてから温泉へ。
 夕食まで時間があるので、早速温泉に入ったり出かけたりして皆それぞれで動いている。
 その中で一泊のお礼にと従業員達に豆乳を主成分とした美容液の作り方と実践をシルフィリアが始めた。
 これには他の開拓者達も興味津々で見ていく者も多い。
「豆乳でお肌がきれいになるんですか?」
 無表情でありながら瞳だけは興味の視線を向けているのは珠々(ia5322)だ。
「ええ、豆乳には肌を滑らかにする成分が入っているのよ」
「男性にも効きますか?」
「大丈夫よ」
 御樹青嵐(ia1669)が更に質問するとはっきりとシルフィリアが答えた。
 結構しっとりしたつけ心地に女将をはじめとする仲居さん達は満足そうだった。

「くー様、くー様! 出店見に行こうよ!」
「おお、いいぞ」
 宿について落ち着く暇もなく、弖志峰直羽(ia1884)が窓から見たのは出店の提灯。
 今は昼なのでまだ灯りは点ってないが、夜になればきっと綺麗なぼんぼりが見える事だろう。玖雀(ib6816)はお茶を飲みつつ頷いた。
 昼の内からも出店は賑やかだ。
 からす(ia6525)を見つけた真魚は同行を申し出ると彼女はいつも通り幼女らしからぬ落ち着きで快諾してくれた。
「からすさん、栗の甘煮ですよ!」
「ほう、餡とカステラ挟めるのか美味しそうだな」
 はしゃぐ真魚にからすが言えば、反応が正反対だけど喜ぶ姿の二人が面白かったのか、店のおばさんが味見で一口分分けてくれた。
「美味しい! 一つください!」
 笑顔の真魚を見つけたのは直羽だ。
「あ、真魚ちゃんだ。くー様、なんだか美味しそうだよ!」
 直羽が玖雀に声をかけると彼は「そうだな」と苦笑する。
 先ほどから直羽は色々と買っては二人で分けて食べている。夕食まで消化できるのかと思うがきっと夕食もぺろりと食べられるだろう。
「真魚ちゃん、からすちゃん、何食べてるの」
 直羽が少し離れた所で声をかけると、真魚はすれ違った男とぶつかってしまった。瞬間、玖雀はゆったり歩いていた足を少しだけ早め、真魚とぶつかった男の手を捻り上げる。
「‥‥懐の中のモンは返して貰おうか?」
 瞳に好戦的な色を混じらせて玖雀が男に言えば男は懐に手を入れて握りしめた物を玖雀に投げつけた。
「っと!」
 シノビ特有の反射神経で玖雀は投げつけられた物を受け止めた。男は玖雀の隙を狙っていたが、あっという間に御用となる。
「くー様、かっこいー!」
「お見事だ」
 囃したてる直羽とからすに玖雀ははいはいと返し、真魚に財布を返した。
「気をつけなよ」
「くー様、ありがとうございます‥‥」
 頬を赤く染めて真魚が礼を言う。
「‥‥お前さんまで呼ばなくていい‥‥」
 がくりと玖雀は肩を落とした。


 宿の庭園が見える縁側では緒水と滋藤御門(ia0167)がのんびり話していた。
「なんだか申し訳ないような気がします」
「お気になさらず‥‥って、私が言う台詞じゃありませんよね」
 照れたように笑う緒水に御門もつられてくすくすと笑う。
「折梅様とは手紙のやりとりはなさっているので?」
 緒水に最後に会ったのは水商売をしている緒水を救出する依頼だった。
「はい、まだ戻ってこれないようですが、お手紙を貰えるだけ嬉しいです」
 嬉しそうに笑う緒水はきっと、今回の事も手紙に認める事だろう。
 温泉宿では珠々が探検をしていた。
 調度品や仲居さんの様子、これから温泉も夕食もとるから気は抜けられない。
「珠々ちゃん」
 御門が声をかけると、珠々も一緒になる。
「何をしてたのですか?」
 緒水が尋ねると確認をしていたと珠々は答えた。
「何のですか?」
 首を傾げる御門に珠々はぐっと拳を握る。
「も、もし‥‥か、家族旅行なるものをする事になったら下調べは必須じゃないですか!」
「珠々ちゃん、大アヤカシでも討つ気なんでしょうか‥‥」
 勢い込む珠々に御門がぽつりと呟いた。

 スレダ(ib6629)は今回で二度目の温泉となる。
 あまりゆっくりできなかったら今回はのんびりしたいようだったが‥‥
「温泉ーー!」
 スレダの隣ではしゃいでいるのは棕櫚(ib7915)。広々とした風呂場に目を輝かせている。
「棕櫚は温泉、初めてですか? 入り方も調べたですから、教えてやるです」
「おぉ? まだ入っちゃ駄目なのかー?」
 いきなり入ろうとする棕櫚の肩をがっしと掴んでスレダの温泉講座が始まる。
 とりあえず体を洗う事から始める。
 石鹸をもこもこ泡立てる棕櫚は洗いっこしようと誘う。
「綺麗に洗うのはいい事です」
 スレダも棕櫚と一緒に洗いっこ。石鹸が大量にもこもふしてて幼い二人の体にまとわりつく。
「まるでもふらですね」
「もっふふー♪」
 冷静に分析するスレダに対し、棕櫚はとても楽しそうにもふらの真似をして笑った。


 鴻池青霞(ic0073)と鴻池紫桜(ic0074)は一緒のお風呂に入ろうとし、女湯に入ろうとしたが仲居さんに止められた。
 幼いとはいえ、後二年で青霞は成人となるし、十歳の紫桜も男湯に入らせるのは問題だ。
「おにいちゃんと入れそうとおもったのに‥‥」
 しょんぼりしている紫桜に通りすがりの女将さんは一つ提案をした。
「今日は離れの部屋を使う人がいません。そこには大浴場とは別に家族風呂があります。内緒で使ってください」
 内緒と人差し指を立てる女将に紫桜は嬉しそうにこくこくと頷いた。
 家族風呂はやはりこじんまりしているが、紫桜は大好きなお兄ちゃんと一緒に入れてご満悦。
 青霞がしっかりと紫桜の体を洗う。紫桜はお兄ちゃんに洗って貰えるのが嬉しくて尻尾をパタパタ揺らしては泡を払ってしまう。
「シオ‥‥」
 じとりと青霞に窘められるが、嬉しいものは嬉しい。
「おにいちゃん、体洗うね!」
 気を取り直して紫桜が青霞の体を洗う。
 くすぐったいけど、妹の愛情からくるものならば我慢するしかなかった。
 青霞達のやり取りを見ていた珠々が女将さんに家族風呂があるのかと尋ねた。
「ええ、大浴場よりは狭いですが、よい御身分の方は使う事があります」
「ふむふむ。ありがとうございます」
 珠々がメモをすると、女将さんにお礼を言ってその場を去った。

 一方大浴場でも温泉を楽しむ人達がいる。 女湯では薔薇石鹸を持ち込んでよい香りを演出しているのは月・芙舞(ib6885)。
 白く艶やかな肌や鴉の濡れ羽色の黒髪をしっかり洗っている。
 花の香りに誘われて温泉の中で思案するのは宮鷺カヅキ(ib4230)。
 ルシフェルと共にここに訪れた。その際に彼から贈られた桃色の花びらの菊の簪を刺して行ったら嬉しそうに「似合っているね」と喜んでくれた。
 その笑顔を思い出して彼女は一人頬を染める。
 薔薇の香りにあずかっているのは白藤(ib2527)も同じ。
 大浴場から見える紅葉を見つつ、花の香りをおすそ分けしてもらっている。
「いい匂い」
「お気に入りですの」
 白藤の呟きに芙舞が微笑む。
「他の花の香りの石鹸があってもいいわよね」
「そうですね」
 のんびり白藤と話している芙舞達の向こうでは真夢紀がシルフィリアの為に氷霊結で少量の葡萄酒を凍らせて杯に入っている葡萄酒に浮かせていた。
「ありがとう、頂くわ」
 美味しそうに飲むシルフィリアに真夢紀はよかったと微笑む。
 薔薇の香りに気づき、真夢紀はきょろきょろすると芙舞の姿に気づく。
「月さん」
「あら、お二人とも温泉楽しんでるかしら?」
 芙舞が声をかけると、二人は笑顔で頷く。
「温泉あがったら出店見物に行こうと思うのです。月さんもご一緒しませんか?」
 真夢紀が言えば、芙舞は笑顔で快諾した。


 先に上がっていたルシフェル=アルトロ(ib6763)は浴衣を少し着崩してカヅキを待っていた。
 自分が贈った簪をしてくれてとても嬉しかった。
 見立てどおり、桃の花弁はカヅキの髪に似合っていた。
 ぱたぱたと足音がしたからその方向を向けばカヅキが自分の方に駆けてくれている。その姿を見てルシフェルは微笑む。

 先に温泉に入っていた青嵐は輝血(ia5431)の入浴姿を思い浮かべて逆上せかけていた。
 先に上がって輝血を待ち、紅葉を見に行こうと誘う。
「‥‥逆上せてない?」
 輝血の声に青嵐は大丈夫ですとだけ答えて腕を組みだした。
 珍しいと輝血は青嵐を見上げる。積極的な青嵐を他人事のように積極的になったのは良い事と思案しているが、腕を組まれて違和感を感じていなかった事を輝血は気づいていなかった。

 紅葉の散策に出かけていた和奏(ia8807)は徒にさっと駆け抜ける風に目を細めた。
 風に前髪をかき上げられてつい、顔を上げると、空の青が視界に飛び込み、その端々に紅葉の朱が差し込んでいる。
 よく見れば朱だけではなく、朱にさしかかる黄や緑もまだある。
 葉も落ちてきており、冬の足音もそろそろ聞こえそうだ。
「もう、冬なのですね」
 落ちた葉が風に踊らされてくるくる回っていた。


 色々と屋台で食べて直羽は満足そうだった。
 そんな直羽を見た玖雀は「ちょっと付き合え」とだけ言った。
「いーよー」
 親鳥に付き添う雛鳥のように直羽が後ろを歩く。
 風に揺られ、葉擦れの音が聞こえる。
「わー、綺麗な紅葉だね」
 眩しそうに直羽が言えば玖雀は遊歩道の端にある腰掛けるのに丁度いい大きな石を見つけた。
「たまには付き合え」
 玖雀が宿から持ってきていた瓶を掲げた。
「お酒♪ いいね」
 栓を抜けば軽やかな音がなる。ふわりと直羽の鼻を掠めるのは度数の高そうな日本酒の香り。
「香りが凄いね」
「楼港の名物。俺の愛飲する酒だ」
 懐から杯を取り出して酒でサッと杯を濯ぐ。直羽に杯が渡され手にした途端、容赦なく玖雀が酒を注ぐ。
「わわわ‥‥ありがたく頂くよ」
 くいっと、直羽が飲み込めば鼻に抜ける日本酒の香り。刺激が強くもあったが、敬慕する相手からの酒はとても美味く感じる。
「はい、くー様も」
 杯を返して直羽が酒を注ぐ。
 酒の肴は今まで二人が関わってきた話。辛気臭い話や馬鹿臭い話を笑いながら飲み込む。
 一刻後、酒に強い玖雀が酔いつぶれた直羽を宿に連れて行った。


 少し遅れて街に繰り出した真夢紀、シルフィリア、芙舞は屋台の美味しいものを眺めに出ていた。
 見目美しいだけではなく、浴衣を着崩したシルフィリアと芙舞という種類の違う美しい二人に男達の視線は釘付けだ。その間にいる真夢紀も可愛らしくてほのぼの空間を作っている。
 だが、三人が目指すのは美味しいもの。
「美味しそうな鶏皮」
 ひょっこり覗いた屋台にでは鶏皮を焼いており、ほんのり狐色の焼き目に細かい脂の泡が見える。
「豚足の醤油煮もあります」
 芙舞が言えば、こっくり飴色の豚足の醤油煮がくつくつ鍋の中で煮込まれている。
「これは肌によさそうね」
 美女二人が屋台に釘づけ。
「くださいなー」
 真夢紀が勢いよく言えば、おじさんはサービスだよと豚足をくれた。

 宿に戻ったからすは南西の方によい場所は無いかと探していたら、緒水がいた場所がよくて茶席を設けていた。
「お茶ですか」
 緒水が言えば、からすがお茶を淹れてくれた。
「如何かな?」
 温かいお茶は緑茶の「陽香」だ。ふんわりと桜の香りがする。
「美味しいです。今は秋ですから小春日和って事ですか?」
「それは君次第だよ」
 くすりと微笑むからすは紙と黒檀のペンを取り出した。
 さらさらと描かれる絵に緒水も興味津々で時折覗く。まだまだ出来てないよと言わんばかりにからすが「お菓子もどうぞ」と買って来たお菓子を緒水に渡す。
 ある程度形が出来ると、緒水はあっと、声を上げる。
「あの通りですよね。瓢箪の提灯は香辛料を売ってるお店ですよね」
 嬉しそうに緒水が言えばからすは「ご名答」と答えた。
「絵‥‥ですか」
 戻って来た和奏が言えば、からすは頷く。
「芸術は好きでね」
 そう言ってからすは絵を仕上げた。
「紅葉は如何でしたか?」
 緒水が尋ねると、穏やかに和奏が頷いた。
「とても綺麗でした。吹く風が葉を擦らせてて、その音がとてもよかったです」
「冷えただろう、お茶を淹れようか」
 からすが声をかけると和奏はその言葉に甘えた。


 食事となり、皆が一同に会する賑やかな食卓となる。
 温泉を堪能した高崎朱音(ib5430)は料理も楽しみのようだ。
「寒い日にはお鍋なのです♪」
 朱音姉と美味しいご飯ならいいやと叢雲怜(ib5488)が嬉しそうに鍋の出来を待つ。
「しかし、なかなかいい温泉じゃったの。汝と入れなかったは残念じゃが」
 朱音が言えば、またの機会なんだぜと怜が笑う。
 くつくつと鍋が心地よい音を立ててきて食べごろの状態になってきた。
 朱音が怜に鍋の中身を腕によそう。
「美味しいっ。ありがとうなんだぜ。お返しに「あーん」♪」
 一口食べてから怜が思いついて朱音に食べさせようとする。
 きょとんと目を見張る朱音に怜は首を傾げる。
「んゆ? ママ上や姉ちゃん達にやってあげると喜んでくれるから、朱音姉にもって思って」
「そういう事か。喜んで受けるぞ」
 仕切直して食べさせて貰うと、朱音もお返しに返す。

 真魚が白藤に声をかけて一緒に食事をとる。
「すっごく贅沢ーー」
 キラキラと目を輝かせる白藤に真魚も頷く。
「天ぷら美味しいです」
「んー、お鍋も美味しいっ」
 二人で舌鼓を打っていると、白藤の脳裏に思い浮かべるのは弟たち。
 連れていきたかったなと思案してしまうのは姉ながらの考えだ。
「白藤さん、ここの散歩道、夜は提灯で歩きやすくしているので散歩にいいそうですよ」
 真魚が言えば、白藤は後で行こうと決意する。


 緋那岐は出店で仕込んだ食材を持ってこっそりと仲居さんに厨房をちょっと使わせてと強請った。
 柚乃は出店で兄に薬草を買ってもらいご満悦。
 温泉で美肌効能の話を聞いて喜んで入りに行っていた。
 食事の時は緋那岐はもはや全種類制覇するが如く食べていた。
「柚乃、食ってみるか?」
 緋那岐が出したのは三種類のきのことあぶり肉の汁物。香り高い茸がふんわりと鼻腔をくすぐる。
「頂きます♪」
 美味しそうに食べる柚乃を横目に見て、緋那岐が嬉しそうに目を細めた。
「薬草は使えそうなのか?」
「はいっ、これから寒くなるので冷えにちょうどいいのです♪」
 柚乃が薬草の話をしつつ、緋那岐が食べながら相槌を打っていた。


 戻ってきた輝血と青嵐が食事の席に着いたときに緒水も誘って三人で食べていた。
「で、男も色々いるみたいだけど、緒水を口説いてくるようなのはいたの?」
 輝血が言えば緒水はまぁっと、声を上げた。
「このような場で口説かれるような私ではありませんわ。折梅様のように自分から見つけに行きたく思います」
 ぐっと、拳を握って力強く言い切る緒水に輝血はふふんと、笑みを浮かべる。
「ま、どんな奴かはあたしがきちんと審査するけどね」
 自信を持って言う輝血に青嵐は微笑むと、言葉の違和感に気づく。
「折梅さんはお見合いと聞いたのですが?」
「ええ、お見合いする前は自分からよく素敵な殿方を見つけに行ったそうですよ。この間の親分さんがお詫びに会った時に内緒で教えて貰いました」
 笑顔で言う緒水に輝血はしょうがないなと目を細める。
「こうやって三人で食べるの、いいね。また食べたいよ」
 今抱えている事を思い浮かべながら輝血が呟いた。
「食べましょう」
 頷く二人に輝血の心の中がぽかぽかしてきてそれが心地よくてくすぐったかった。
「輝血さん」
 青嵐が改めて輝血を呼ぶと、輝血は真正面から彼を見る。
「ありがとうございます」
「何、改まって」
「言いたかったんです」
 首を傾げる輝血にくすりと微笑みつつ、青嵐は輝血に酌をした。


 ごはんを沢山食べて目をこするのは紫桜だ。
「眠いか?」
 青霞が尋ねても紫桜は黙ったまま。
 眠いんだなと判断した青霞は「部屋でゆっくりしよう」と声をかけた。
 紫桜をつれて部屋へと戻る。
 布団が敷いて貰えたのはありがたく青霞は思う。
 引き連れていた紫桜はもう瞼が重いようだ。
 このままでは足が縺れてしまいそうだと思って青霞は紫桜を抱きかかえる。
 布団の中に寝かせると、紫桜はふかふかの布団が気持ちよかったのか、丸まって幸せそうな顔で寝息を立てる。
 青霞はそっと紫桜の頭を撫でて幸せそうな寝顔を見つめる。
「おやすみ、俺の‥‥」
 最後の呟きは青霞のみ知る。


 真魚と料理を舌鼓打っていた白藤は夜の紅葉狩りに出かけていた。
 遊歩道には歩きやすいように提灯が吊るしており、紅葉が灯りに照らされる。他にも歩いている人は多い。
 昼間も見たが、夜の彩りもまた綺麗に感じる。
「何枚か持って帰ろう」
 栞にして弟達にあげようと、白藤は綺麗な形の紅葉を探し出した。


 温かい鍋を食べてしっかり温まった怜はしぱしぱ瞼を瞬かせる。
 宴会場では粗方食べつくした他の開拓者達が余興にと楽器を持ち込んで更に賑やかになっているのだが、怜はそのままおねむな感じ。
「おや、眠くなったのかの?」
 声をかけられたらいつもハキハキ答える怜であるが、殆ど生返事。
 怜の様子に気付いた朱音が口元を緩ませて自身の膝を軽く。
「ほれ、我の膝に頭を乗せるといい。感謝するのじゃぞ」
 朱音が言えば、怜は一度頷き、「ありがと」とたどたどしくお礼を言ってぽふんと、膝に頭を乗せる。
 おやすみなさいの声は小さかったが、朱音の耳にはきちんと届いていた。


 先に食事を終えたルシフェルとカヅキは部屋に戻っていた。
 一歩先歩くルシフェルの背を見つつカヅキは不安の色を瞳に混じらせた。
 カヅキが思うに、彼は最近寝ていなさそうだったから。
 部屋に入ると、ルシフェルは畳に座ってカヅキに向かい手を広げる。
「カヅキ、おいで〜」
 のんびりと笑いかけるルシフェルにカヅキは大人しく従う。
 ちょこんとルシフェルの膝の上に腰掛けるカヅキが可愛らしくてルシフェルはカヅキの肩に顎を乗せて嬉しそうに目を細めるが、ちょっと心の中に思うことがある。
「‥‥ん〜‥‥カヅキ、ちょっと‥‥お願いが‥‥」
 少しだけ遠慮気味にルシフェルがお願いを言えば、カヅキは少し躊躇いつつも頷いた。
「今日は嫌な夢は見ない気がするよ」
 カヅキの了承にルシフェルは嬉しそうに微笑む。
 膝枕に緊張しててカヅキにとって大事な目的を見失いそうになる。膝枕をする事に緊張するのではなく、その目的を果たす事が緊張するのだろうか‥‥
「ルーさん」
 窓の外は上弦の月。これから満月となる月だ。
「んー?」
「‥‥実は「カヅキ」って、本名じゃないんです‥‥」
 カヅキは懐紙に文字を書いてルシフェルに渡す。
 その名を見たルシフェルが声に出さずに唇だけで読む。カヅキは彼の唇が名を紡いだのを読み取り、静かに彼を見つめる。
「‥‥ん、綺麗な名前。俺は好きだな〜」
 彼女の一つを知り、ルシフェルは目を細めた。


 美味しい料理に満足したスレダと棕櫚は部屋に戻る。
 宴会会場では楽器を持ち込んだ者もおり、歌えや舞えやと騒がしかった。なんだか楽しそうと棕櫚も混ざって真魚と踊っていた。
「楽しかったー」
 満足顔の棕櫚にスレダはやれやれとした表情であるが、棕櫚が楽しげなのでとりあえずよしとしていた。
 部屋にはもう布団が敷いており、見るからにフカフカそうな布団に棕櫚は目を輝かせる。
 潜り込んですぐさま寝てしまう棕櫚にスレダはやれやれと思いつつ、明るい月光を頼りに本を読み始める。
 暫く読んでいると、音がしてスレダが顔を上げると「やっぱり」と呟く。棕櫚はとても寝相が悪い為、棕櫚は布団を蹴飛ばしてしまった。
 スレダは本を置いて、布団をかけなおす。
 温もりに気付いた棕櫚は思いのまま掴んで引っ張った。
「わ‥‥!」
 驚いたスレダが布団の中に縺れ込み、そのまま抱き枕にされた。
「んい‥‥ぬくぬく‥‥」
 無邪気な棕櫚の寝顔。
「やれやれ‥‥」
 小さくスレダが笑った。


 山菜おこわに猪鍋、鴨の焼肉と色々食べた御門は柚乃と共に音を奏でていた。
 どこからか、真魚に踊ってと声がかかり、真魚が踊らされていると、棕櫚が飛び入り参加で楽しげに踊りだした。
 賑やかな宴が終わると、御門は一人庭の方に向かった。
 そろそろ満ちる月を不安げに見上げる。
 あまり考えないようにしているが、やはり心が騒ぐ。
 提灯に照らされた紅葉が炎のように見えてそっと目を閉じる。
 祈りをこめて御門は笛を奏でる。


「何だか切ないのです‥‥」
 ぽつりと呟く真魚が耳にしたのは御門の笛の音。
「‥‥珠々ちゃんも早く家族旅行できるようになるといいですね」
 下を俯けば珠々が真魚の膝の上で気絶していた。
 未来の家族を見つけた珠々が真剣に家族旅行の為にこの宿を色々と見て回ったのは真魚も気付いている。
 頑張っている珠々の話を聞けば未来の家族達はきっと喜ぶだろう。
 その当人は 紅葉の天ぷらと間違えて人参に当たってしまったようだ。


 開拓者が出た後、仲居さんが入口近くにあった花の近くにとても上手く描かれている夕べ出された料理の絵と「美味であった」という添え書きが書いてある紙を見つけた。