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■オープニング本文 ひょっこり開拓者ギルドに顔を出したのは鷹来沙桐。迷う事無く受付嬢の前へと歩く。 「どうも、こんちは」 「あ、はぁ。こんにちは」 にっこり微笑む沙桐は育ちのよさそうな優男のようだった。 「依頼をお願いしたいんだけど、いいかな」 首を傾げる沙桐に受付嬢は椅子を勧める。 「依頼はどのような?」 「アヤカシ退治だよ。誰も住まなくなった家に棲み付いた。後は捕縛を手伝ってほしい」 「捕縛‥‥という事は、お役人ですか?」 驚いたように顔を上げる受付嬢に沙桐は柔らかく微笑む。 「見えないでしょ、よく言われるよ。捕縛対象者はその家に逃げ込んでね。アヤカシ討伐は開拓者が適当だと思ったからね」 「家に逃げこんだって‥‥普通ならありえないでしょう?」 一般人にとって、アヤカシとは本能的に恐怖心を持たせるものだ。アヤカシがいるという事を理解して飛び込むなどまずはありえない。 「よほどの何かをしたのでしょうか?」 「捕縛したい者は盗賊一家を裏切ったやつなんだ」 「裏切った?」 「金関連とかじゃないかという話らしいけど、わからないから話を聞こうと思ってね。まぁ、相当大きい金を掴まされているのか、仲間内に捕まって痛い目を見るよりはアヤカシに喰われた方がマシとでも思ったのか」 沙桐の声は穏やかでありながらその瞳は氷の刃のような鋭さを感じる。受付嬢の表情もまた険しくなる。 彼女は一般人ではあるが、開拓者ギルドの関係者としてアヤカシがどういったものかは知っている。 奴等にとって人間の恐れを好む。それがあって肉を喰らう事が至上の美味なのだ。精神も肉体も苦痛に悶えながら死ぬ事が仲間に捕まって殴られる事よりマシとは思えはしない。 そう、知っているならば。 その者はアヤカシがどのようなものかは理解していないのかもしれない。 例え罪を犯したものであろうとも、否、罪を犯した者だからこそ生きて罪を償うべきだ。 「信頼を裏切るなんて許せない。理由があってもやっぱり腹立つ」 「‥‥あの‥‥?」 歯を噛締め、沙桐が低く唸れば、受付嬢がきょとんと見つめている。少し驚いたように目を見張って、沙桐は先ほどと変わらない笑顔を見せる。 「依頼書、頼むね」 「はい」 しっかりと受付嬢が頷くと沙桐はにっこりと微笑んだ。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
早乙女梓馬(ia5627)
21歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●罪とは 開拓者ギルドで顔を合わせた依頼人と開拓者。 依頼に応じた一人である輝血(ia5431)を見た沙桐がにこっと笑って軽く片手を挙げる。 「さて、集まってくれてありがとう。俺は鷹来沙桐、役人をやっている。宜しく」 細身で中性的な容姿をして、にこやかな表情の沙桐は役人というのには少し似つかわしくなかった。 「依頼は盗賊を裏切った男の保護と捕縛だったな」 衛島雫(ia1241)が確認を取ると沙桐は頷いた。 「男の名前は佐治という。アヤカシが棲まう家に逃げ込んだ。誰も住んでいないから、かなり荒れててね。家を囲う外壁も所々砕けててぼろぼろになっていたから、その隙間を縫って入り込んだんじゃないかな」 話しながら沙桐が紙に家の建物の予想図を書き記す。 「佐治って奴が裏切るよりひどいな」 子供が書いた方がまだマシと思えざるを得ない沙桐の図面に樹邑鴻(ia0483)がさらっと言えば、何人かがこっそり吹いてしまう。 「もー、そこはツッコミいれないでよ」 自覚があるのか、沙桐が笑いながら答える。 「‥‥どうして、佐治って人は‥‥その家に逃げ込んだのかな‥‥」 沙桐の図面を見ながら白蛇(ia5337)が呟いた。白蛇の言葉に沙桐は得意げな笑みを白蛇に向けた。 「いい所をついている。その家の近くには小さな集落があってね。そこは佐治の出身地だったんだ」 「地の利があるという事か」 考え込むためか、図面が見るに耐えなかったのか、早乙女梓馬(ia5627)は腕を組んで目を伏せた。 「どうにしろ、迅速な対応が必要という事ですね」 図面から顔を上げた珠々(ia5322)が沙桐を見る。シノビらしく、感情を殺した珠々の瞳は磨かれていない原石のようだ。 「そゆこと」 「ともかく、男を捕らえ、アヤカシを倒せばいいのですね」 雪斗(ia5470)が言えば、隣にいた巴渓(ia1334)も頷く。輝血はそっと目を伏せた。 「罪は罪なんだけどね」 輝血が言えば、全員がはっと彼女を見る。 「うん、そうだね。人は弱いから償うという事を決めたんだ。揺らがない指針があるから人は生きている。それの是非ってのは個人によって違うけどね」 吐き捨てた輝血の言葉を優しく受け取るのは沙桐だ。 「俺は償う云々はそいつの主観だからいいんだけど、どうして佐治が賊を裏切ったのか知りたいから捕らえてほしいと依頼したんだ。だから、出来るだけ普通に話せる程度に連れて来て」 お願いというように、手を合わせて小首を傾げてポーズをとる沙桐。男がやっても可愛くない。 「ともかく、行こうか」 沙桐の茶目っ気をスルーするようにさりげなく雫が声をかけた。 ●滴る程に欲する 目的の場所は小さな集落を通り過ぎた薄暗い竹林の中だ。 小さな集落にはもう、佐治の両親はいなかった。佐治は両親が死んだと同時に集落を出奔したようだった。以来、誰も佐治を見た者はないという。 「‥‥抜け道があるのかな‥‥」 白蛇が呟くと雫が辺りを見回す。 「そうかもしれんな」 「あ、あの荒れ屋敷がそうか?」 遠くを見るように右手でひさしを作り、鴻は遠くを見るように屋敷を眺めている。鴻が荒れ屋敷と称したのに値する荒れ屋敷。家を囲う外壁は崩れていて、一部の穴は大人一人が抜けられる大きさもあった。 佐治は素早い身のこなしであり、アヤカシに手間取っていると、逃げられる可能性もある。 「行ってくる」 殿を務める梓馬が声をかける。 「後は任せろ」 渓が頷くと、探索班は中へと入る。 母屋へ行くのは囮班であり、探索班は屋敷の外を回り、離れへと向かう。白蛇は裏から退路を塞ぐという事で裏側から回る。離れの近くだろうその場所には人が一人ようやく潜れそうな穴があり、少し潜れば、離れらしき建物があった。中を潜り、白蛇はその周囲に撒菱を巻いた。 正面から入った残りの三人はそっと母屋の脇を通り、中の音に耳を済ませつつ、余計な物音を立てないように細心の注意を払っていた。 母屋の建物を回り、納屋や離れらしき建物が見え、その向こうから白蛇の姿を見つけた時、離れらしき戸の前に体当たりをしている黒い大型犬のようなものがあった。 アヤカシだと誰もが確信した。きっと、アヤカシはその戸の向こうから発する恐怖を味わい、更なる美味を身体全体を持って欲している。体当たりにより、戸は軋み、元からの痛みを考えれば、次体当たりをされたら確実に踏み込まれるに違いない。 最初に動いたのは輝血だ。手裏剣を投げてアヤカシの気を引けば、アヤカシは輝血の方を向いた。戸の向こうにある匂いは確かに美味なるものがあると本能が訴えているが、やはり、目の前の肉には本能が向かう。 目の前の肉に気を向けたアヤカシは締まりない口からだらだらと涎がたれ落ち、ゆっくり歩み寄る。その裏をかくように輝血は早足を使ってアヤカシとすれ違い、中へと入る。アヤカシは一度、輝血の方を見たが、走り抜けた彼女を守るように梓馬の弓がアヤカシの鼻を掠め、アヤカシは身じろぎをする。 「相手はこっちだ」 静かに梓馬が言えば、アヤカシの視界を遮るように背後から手裏剣を投げる白蛇は戸を守るように立っていた。 刀を携え、珠々がアヤカシを見据える。 中の音に気づいた外の五人はその方向へ顔を向けた。 「鷹来はここにいるようにしてくれ」 雫が沙桐に言えば、沙桐は両手を挙げてにこりと笑う。 「了解。後は頼む、それと、五体満足に帰ってきてね」 「当たり前だ。アヤカシにやられるもんか」 渓がそう言って、中へと入り、雪斗もそれに続く。好戦的に目を輝かせた鴻や刀を抜いた雫も中に入る。 「そんじゃ、いっちょ蹴りに行くかーー!!」 囮班と銘打ってるので、こちらの四人は母屋の方へと走って行った。 母屋の中へ入ったが、中は何もなく、襖なども朽ちてはいたが、床はまだしっかりしていた。 「ようし、これなら暴れられるな」 にやっと、渓が笑うと、薄暗い向こうから微かに禍々しい悪しき光が見えた。 「ふん、来たな化け物」 剣を構え、雫が怜悧な瞳を向けている。 「好きなだけ暴れられそうだね。どれだけ踊れるのかな?」 静かに戦いへの意欲を沸かしているのは雪斗だ。アヤカシへの戦闘意欲を誰よりも静かに抑えていたが、戦闘の直面にある今はその押さえを少しずつはずしていっているようだ。 それぞれの方向から黒い大型犬のようなアヤカシが四匹現れた。 「戦闘開始だな」 鴻が言えば、全員がばらばらに間合いを取った。 先に走り出したのは渓だ。アヤカシは渓を獲物と見定めて、頭を少し低く屈め、前足を上げている。そんな様子を見ている渓は目を細め、動きの呼吸を合わせている。 雫は四人の中で一番奥の方に入っていた。奥にまだ未確認のアヤカシがいないか確認するためだ。 「さぁ、かかってこい!」 刀をアヤカシに向かせ、咆哮を使う。 アヤカシと十分な間合いを取っているのは雪斗だ。こちらのアヤカシは間合いを考えずに突っ込んできた。 「‥‥っ!」 鉄傘でアヤカシの攻撃をかわすが、すぐさま、間合いを取る。 「なかなかやるね」 雪斗は鉄傘を手放し、刀をアヤカシに向けた。 鴻は離れにいる探索班を感づかれないように立ち回っていた。探索班もアヤカシの対応は大丈夫ではあるが、保護捕縛対象者が混乱への脱走を考慮すれば、余計な一因をここで逃がすわけには行かないからだ。 低く身体を沈め、鴻がアヤカシに足払いをかける。思い切り足を引っ掛けてしまったアヤカシは床の上で蠢いて、母屋の外へ逃げようとする。 「逃がさねえよ」 ぽつりと鴻が呟けば、アヤカシへの間合いを詰めて腹を蹴り、母屋の中へ戻した。 探索班の方ではアヤカシの横をすり抜けた輝血が佐治の方へと走る。当人は離れの部屋の隅で膝を抱えて震えていた。 目は思い切り見開き、恐慌状態からか、息が浅かった。他の壁隅や天井に意識を走らせても何も感じなかった。 溜息まじりに輝血は戸口の方を振り向いた。 離れの前ではまだ戦闘が行われていた。 三対一であったが、このアヤカシは随分とすばしっこかった。 梓馬の弓を交わして飛び上がったアヤカシの着地地点を予想して撒菱を撒いた。アヤカシの着地は撒菱の上にあって、アヤカシは足の痛みに堪えきれず、肩から落ちた。その隙を逃さず、珠々が刀をアヤカシの首に静かに速く振り下ろした。 戦闘が終わると、珠々が早速中に入る。 男はまだ膝を抱えていたが、珠々は男の前に片膝をついた。男にアヤカシが憑かれていないか探っている。 「特に憑かれている所はなさそうだな」 梓馬が言えば、白蛇も頷く。珠々は干飯と岩清水を男の前に置いた。 「食べてもかまいません」 佐治が珠々の言葉を理解するまで少しかかったが、佐治がのろのろと干飯に手を伸ばす。恐る恐る干飯を口に入れ、ゆっくりを噛み、飲み込むが、水分が足りないのか、岩清水を口につける。 こくりと、佐治が水を嚥下すれば、正気が戻ったのか、急いで干飯を口につけ、岩清水で流し込む。 珠々が差し出した食料を食べ終えた佐治は、自分の前にいる珠々達を見ていた。 「あ、あんたら一体‥‥」 佐治が苦しく吐き出すように訊ねた。 「開拓者だよ‥‥」 白蛇が言えば、佐治は驚いたように目を見張った。 「だ、誰の依頼だ! まさか、卓人の手先か! それともあいつらか!」 佐治は慌てて懐から巾着を出した。ずっしり重そうなそれは、金である事が推測できた。 「頼む、これで暫くは贅沢できるくらいはある! だから俺を売らないでくれ!」 必死に巾着を差し出して喚く佐治に珠々は目を細め、立ち上がった。尚も追い縋ろうとする佐治の手を振り払ったのは梓馬だった。 雫が刀でアヤカシの牙を受け流し、すぐさま体勢を立て直す。 「踏み込みが甘いな」 やり合っている時も雫は辺りを見回していたが、奥の方にアヤカシが他にいるとは思えなかった。 探索班も早く安心させたいと思い、雫は強力でもって力を増強させ、アヤカシに斬りかかった。見事に真っ二つになったアヤカシを確認し、雫は他の三人の方を振り向いた。 確実にアヤカシに攻撃を加えているのは渓だ。アヤカシの体力は減っていて、ふらついていた。渓は遊ぶ事無く、確実にアヤカシの頭を蹴り砕いた。 「ん?」 視線を感じ、鴻が向いたのは雫の方だ。どうやら彼女はもう仕留めたらしい。これ以上遊んでいるわけには行かない。他に大事な仕事があるのだから。前足一本を折られたアヤカシは逃げ出そうとしているが、鴻の手によって逃げられないでいた。 「じゃぁ、迎えに行くか」 そう言って、鴻はアヤカシの頭を踏み抜いた。 雪斗も少々苦戦していたが、くるりと風を切り、遠心力を使って踏み込み、袈裟懸けに斬った。 最後の一匹が倒れると、四人は辺りを改めて見回した。もう敵がいないと確信すると、鴻が呼子笛を吹いた。 笛に気付いた探索班の四人は顔をあげた。 「アヤカシを倒したみたいだな。行くか」 梓馬がそう言えば、佐治は喚きだした。 「本当に頼む! 死にたくない!」 そっと溜息をついた輝血が佐治の目の前に顔を近づける。その表情は穏やかな笑み。だが、その瞳から見えるのは凄惨なる色。 「依頼人は喋れる程度であればどうしたっていいんだって。人数もいるし、余計な事をしないようにどうこう出来るんだけど」 睦言めいたように輝血が呟けば、佐治は言葉を失った。 「今の内に引き渡しましょう」 珠々と梓馬が佐治を立ち上がらせると、五人は外に出た。 丁度出た時に囮班と合流した。 情報をやり取りすれば、最初の情報どおり、アヤカシは五匹だった。 ●追われる業 沙桐がにこやかに開拓者達を出迎えてくれた。 「お疲れ様。どうもありがとう」 引渡しに応じた沙桐に白蛇が一歩前に出る。 「‥‥あまり酷い事しないでね‥‥」 ぽつりと言えば、沙桐は目を何度か瞬きをして白蛇を見て、ああと、苦笑した。 「了解したよ」 ふふと、笑う沙桐を見て、白蛇はこくりと頷いた。 「その者に話を聞くのだろう? 俺も聞きたいのだが‥‥役人じゃないから無理か?」 「私も聞きたいな」 梓馬と雫が申し出る。 「あ、おいでよ」 意外なほどあっさりとした沙桐の言葉に皆が呆気に取られる。 「別に知りたいんならいいじゃん」 そう言った沙桐に梓馬と雫は甘える事にした。 話を聞きたいと言っていた二人と残りの面子は引き渡すまでが仕事だからという事で、その場で解散となった。 佐治の腕を後ろにやり、沙桐が歩かせている。向かっているのは人がいる方ではなく、ぽつんと佇む寺だ。 「寺? 町方ではないのか?」 不審そうに雫が言えば、沙桐は困ったように笑う。 「ちゃんと連れて行くよ。その前に会わせたい人がいるんだ」 思わせぶりな沙桐の言葉に佐治がじたばたとしているが、梓馬も押さえに入る。 本堂へ連れて行くと、一人の老人がいるのを確認できた。沙桐は雫達の背を押す仕草を取る。 「いいのか? 二人きりにして」 雫が言えば、沙桐はにっこりと笑って頷く。 「大丈夫だよ」 外で少し待っていると、老人が音もなく現れた。 「ありがとうございました」 老人の姿ではあったが、足取りは強くしっかりしたものだった。三人を通りすがろうとする老人は三人に頭を下げた。 「宜しくお願いいたしやす」 沙桐はおちゃらけた様子を消して、静かに頭を垂れた。雫が中に入ると、佐治は肩を震わせていた。鼻をすする音がし、頬から顎にかけて伝う雫を見逃さなかった。 梓馬もまた、あの老人が誰なのか感づいていた。二人の気配に気づいた佐治は目を擦り、沙桐が入ってきたのを見て、居ずまいを正し、正座した。 「あっしは、佐治といいやす」 腹を括ったのか、佐治は話した。 先代が引退し、新たに頭になったのは自分ではなく、自分の下にあたる男だった。 自分より下に命じられる悔しさは相当なもので、自分自身も腐っていった。 「ある男が俺に近づいてきたんです」 その男は、言葉巧みに佐治の心に付け入り、男は佐治達の賊の次の仕込みを聞き出し、佐治は答えてしまった。 「それで‥‥仲間に命を狙われているのか‥‥」 「それもあるんですが、そいつ等にも追われているんで‥‥」 雫が顔を顰めると、佐治が言葉を繋ぐ。 「え?」 きょとんとする雫と梓馬だが、沙桐は静かに口を開いた。 「そいつ等のやり方だ。用が済んだらすぐ殺す。急に殺しにやってくるんだ」 「知っているのか」 「全然情報がないんだけどな」 雫の言葉に沙桐が溜息をつく。 「‥‥どうして知ったんだ?」 梓馬が沙桐の方を向けば、彼は困った顔をした。 「佐治に声をかけている奴が誰なのか気づいたんだ。すぐさま追ったんだけど、逃げられてさ」 沙桐が指したのは上だ。 「シノビか‥‥」 梓馬が低く唸った。 「そんなわけで、もしかしたら、協力を仰ぐと思う。縁があったら宜しく」 にっこり笑顔だが、沙桐の瞳は酷く冷えていた。 |