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■オープニング本文 年末、とある場所で薄くて高い本を買った北花真魚は大掃除もそこそこに片付けて戦利品を読み耽っていた。 元々は妄想癖があったのだが、視覚でカタチがはっきりすると何か彼女の中で色々とパーンとなったようで、今回は色々と買い漁ったようだ。 基本、恋愛本が好きなようで、男同士、ノーマル、女同士‥‥女装系、女体化系がお気に入りでもあったらしい。 実際に会う開拓者もいるのだが、妄想は妄想で薄くて高い本にぶつけられて会ったとしても普通どおり接することが出来るので真魚としてはありがたい存在なのかもしれない。 「はー、よかったわー」 読み終えた本を抱きしめて真魚はうっとりと至福の溜息をついた。 「さーって、ちょっとお餅焼こうっと♪」 火鉢に網をかけて小さな丸餅を焼く。 御節も突きつつ食事に。 ふと、思い返せば、もう年が明けている。 殆ど引きこもり生活だったから日にち感覚がズレかけているようであった。 「‥‥そういや、着たきりすずめだったような‥‥」 折角の年始、着替えようと真魚が服を着替える。 今日の小袖は赤紫と白の市松地に百合を豪華に咲かせて、梅を散らして組紐を遊ばせた着物に黄色地に麻葉と柊の帯を合わせる。 この帯には変わり文庫結びをした際に結び目に桐の花と雪の結晶が見えるようになっている。 「‥‥あれ、あれ‥‥」 鏡を見つつ、真魚が結び目を確認すると、そこには柄が見切れている。 自分の得意の結びであり、この帯は彼女の体型に合わせて実家が作ってくれたもの。 結べないって事は‥‥ だらだらと真魚に汗が落ちる。 認めたくない真実に真魚は沈黙しかない。 どうやら、腹のお肉が増殖したらしい。 それもそのはずだ。 とある催し物以降、真魚は五日間ほど薄くて高い本を読んでだらだら食っちゃ寝食っちゃ寝していたのだから。 食べた分だけ動く。食べた分より動くからこそ体型が維持される。 それがなっていないのだから維持もできない。 痩せよう! 即座に真魚が向かったのは開拓者ギルド。 そう、彼女の勤め先。 普段は受付嬢としているが、いざとなれば開拓者として戦いにも赴く。 きちんと食べるものを節制すれば結構な重労働。 せっせと戦いに赴き、毎日こまめに動けば多分、一週間で元に戻れる算段。 まぁ、家にはまだ読んでない薄くて高い本があるが。 ギルドは基本、年中無休だ。深夜だってやっている。 事件はいつ起こるかわからないから。休みも交替制。 「あら‥‥」 ふと、歩いている先に男が蹲っていた。 「いかがされましたか‥‥怪我!」 慌てて真魚がそっと男に駆け寄れば、男は腕から血を流していた。すぐに神風恩寵を発動させる。 「開拓者の方で‥‥」 「正式には開拓者ギルド受付員です。新年からこんな怪我をされて‥‥大丈夫ですか?」 真魚が男の顔を見ると、真魚は目をぱちくりと瞬かせた。 中々のイケメンであった。 「これから、ギルドに行こうとした時に奴等に‥‥」 「何か、御座いましたか?」 男が言うには、男は友人と小さな小料理屋で店を開いており、中々商売は繁盛していた。 だが、やくざものから数ヶ月前からいちゃもんを付けられていた。 いちゃもんですむどころか、嫌がらせも受けていたそうだ。 はっと、真魚は随分前にイケメン二人がやっている小料理屋の話を思い出していた。 某催しにつられて、今度行こうと思っていたところだ。 更には料理担当の友人が腕を怪我させられてしまったが、怪我がなんとか治って正月を明けた頃には店を再開できるめどになった。 「今、奴等に店の金を盗まれて‥‥」 更に引き起こす悲劇に真魚は目を怒りの色を灯す。 「なんて連中‥‥」 よくある話であるのだが、二人の邪魔をするやくざ者の嫌がらせにも屈しない二人に真魚はぐっと、拳を握り締める。 「私がこの依頼引き受けます。まずはギルドへ!」 真魚の頭の中では男と友人が愛し合っている(むしろ新婚?)設定で二人の中を邪魔しようとしている大将の図が出来上がっていたようだった。 「ありがとうございます! お願いします!」 「任せてください!」 年明けから無粋な男と脂肪をやっつけるなんて景気がいいと真魚は勝手に思い込んでいた。 |
■参加者一覧
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
ニノン(ia9578)
16歳・女・巫
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志 |
■リプレイ本文 真魚と顔合わせした開拓者の一人である御樹青嵐(ia1669)は彼女と顔を合わせるなり反射的に顔を背けた。 なんというか、真魚の熱視線に己の何かを責め立ってられたようであった模様で真魚の熱視線の先に気付いたニノン・サジュマン(ia9578)が青嵐に気付いて「あの時のか」と納得した。 「す‥‥全ては精神修行です。人の欲望に打ち勝ってこそ、式をですね‥‥」 「中々の見ごたえじゃった」 にこやかに微笑むニノンを見て、催しに参加してなかったルンルン・パムポップン(ib0234)は何があったのだろうかと興味津々。 「それはですね!」 目を輝かせる真魚は青嵐の勇姿を話したい模様。 気になったとある王様の名をぼんやり口に出して恥ずかしがるルンルンに真魚はうーんと困った顔をした。 「鷹羽さん、王様本はあまり出す気がないようなんです。聞いたら、「そんな事がバレたら切腹するしかないです!」とか言い出したんです」 しょぼんとする真魚にルンルンも残念そうだ。 「他の本はあるんですよね」 「はいっ。好みのカップリングがあるといいのですが」 「是非、見せて貰いたいのう」 きゃいきゃい話をする女子達に「はいはい」と手を叩き仕切るのは緋神那蝣竪(ib0462)だ。 「怪我をさせるだの、お店のお金を取るだの、全く許されないわね。男前だから嫉妬したのかしら」 肩をすくめて那蝣竪が同じく琥珀も頷く。 「全くだよな。兄ちゃんもいい迷惑被ったもんだよな」 羽喰琥珀(ib3263)から人数や容姿なんかを聞かれていた依頼人の是松は宜しくお願いしますと頭を下げた。 「真魚殿」 ニノンが声をかけると、真魚がくるりと振り返る。 「これを足袋の中に仕込むとよいぞ」 渡したのは唐辛子を砕いた小袋だった。唐辛子の成分には内から外からも身体を温める成分が入っている。適度に身体を温めるには有効な手段だ。 「つまりは寝正月をしてたんですよね」 ずばり言い切ったのは珠々(ia5322)だ。 「はい、その通りです」 肩を落として真魚が懺悔する。 「わかりました。任せてください」 「そうそう! 私達のニンジャダイエットなら理想のプロポーションもキープできますよ☆」 きらりと目を光らせる珠々と明るく声をかけるルンルンに真魚は胸の前で両手を組んで拝む。 「とりあえずは塒を探し出しましょうか」 青嵐が言えば、琥珀が周囲の聞き込みを終えて戻って来た。 「こっちだぜ」 琥珀が言えば、青嵐が人魂を呼び起こす。 黒い羽に紫の瞳の小鳥が飛び立った。 「じゃ、私達も行くわ」 那蝣竪と珠々とルンルンも周囲を捜索しに行った。 周囲は殆ど空き家かあばら屋なので、超越聴覚を使えば即座に現場がわかった。 琥珀が心眼「集」を使って確認すると、六人いたようだった。 「ばっちり、全員いる」 小声で琥珀が確認すると全員が頷き合う。 正面突破は青嵐と琥珀が行う。 他の女子は裏面から。 「よっと!」 戸を蹴り倒し、轟音を立てると同時に外気を送り込んだのは琥珀だ。 ひょっこりと琥珀が顔を出せば、男達は金が入っているだろう巾着を放っては受け止めて遊んでいたらしく、音に驚いて巾着を落としていた。 「人様のお金で遊ぶとは許されませんね」 琥珀の後ろから現われて呆れた青嵐が言い放つ。 「お前等なんだ!」 巾着を持った男の一人が言えば、後ろからの外気に気付き、後ろを振り向いた瞬間、旋風のように下から襟を締められた。 「お金を返すのです!」 ぎりぎりと男の襟で首を絞めるのは珠々だ。 「こ、子供に優男だ、やっちまえ!」 「そうは行かないわよ」 他の男が言えば、凛とした艶やかな声が響く。その方向を見やれば、そこにいたのは忍者鎧姿の美しい女‥‥那蝣竪の姿だ。 艶かしく流し見られるのはやくざ者。 「私の掛け算的には意外と萌が少なかったわね‥‥」 そっと溜息をついた那蝣竪が口を開くが、その瞳は獲物を狙うケモノ。その獲物の意図がわからず、やくざ者には悪寒しか流れてこない。 「是松達が雇った開拓者か!」 男達がはっとなった。 「野郎、汚ねぇ真似しやがって‥‥」 「汚さで言えばそっちの方でしょ!」 厳しい口調で言うのはルンルンだ。 「ニンジャマジックでやっつけるんですから!」 びしっと、ルンルンがやくざ者達を指差して断言した。 ゆっくり中に入ってきたニノンがじろりとやくざ者達を睨みつける。 「全く‥‥小汚い手で横恋慕なぞしおって‥‥あの二人を誰も引き裂きはできぬぞ! のう、真魚殿!」 「その通りです!」 なんか超盛り上がった人がキター! とばかりにやくざ者達がニノンと真魚の様子に後ずさる。 開拓者とはいえ、相手は女子供優男だ。自分達とは体格が違う、勝てると男達が確信した。 「いける、やっちまえ!」 男達が戦闘態勢となる前に前に出たのは琥珀だ。 居合の構えから一気に刀を抜いてやくざ者を吹っ飛ばす。 「ったく、新年そーそー、人の金盗んでふてえ奴らだな、いっちょ厄払いしてやるぜ!」 威勢よく見得を切る琥珀に他の男が殴りかかるがこれまた素早い動きの琥珀になぎ倒される。 「痩せるのに一番有効なのは筋肉を使うこと! 行けい、真魚殿!」 ニノンが真魚に神楽舞「進」を付与しだした。その声と同時に締めていた襟を放して動き出したのは珠々。真魚に近いやくざ者に近づき、視界に入らないように足首を蹴り飛ばした。 瞬間、身体が軽くなったかのような感覚に少し戸惑った真魚であるが、目の前によろけたやくざ者が現われて即座に真魚は相手の手をとり、呼吸を見て投げ飛ばした。 「やりますね」 真魚の動きを見ていた青嵐が呪縛符でやくざ者を呪縛する。 そんな騒ぎの中、よたよたと四つんばいで巾着を持った男が逃げ出そうとしていた。 「逃がしませんよ」 顔を上げたら、そこには先回りをしたルンルンがいた。はっと、男が後ろを振り向けば那蝣竪がいる。 「引き際を間違えないように」 にっこりと微笑む那蝣竪に男は引きつった表情を見せたが、ルンルンを人質にとれば活路もと思い、懐より匕首を取り出せば、ルンルンが一歩踏み出して匕首を持った手を蹴り付けた。 衝撃と共に地を滑った男は後方の那蝣竪に取り押さえられお金の巾着はルンルンが確保した。 開拓者達の活躍あって、お金は是松の元に戻り、他の犠牲者の方も判明した。 もう一つの問題がまだある。 そう、真魚の問題。 彼女が住む長屋へと場所が移る。 部屋の中をきょろきょろ見ていた琥珀があれっと、とある絵巻を手に取る。 「なーなー、なんで男同士が裸で抱き合ってるんだ?」 きょとんと、琥珀が首を傾げると、真魚ははっとなって琥珀から絵巻を取り上げる。 「き、気のせいじゃない?! い、今片付けるわね!」 あわてて真魚が絵巻を後ろ手に隠して誤魔化している。 「本当に適当にやってたんだなー」 琥珀が見ているのは台所や天井の隅だ。一見、綺麗にしているが、大掃除にしかやらないような埃が結構見え隠れしている。 「まずは掃除しようぜ、掃除なら体使うし、部屋も綺麗になるから一石二鳥だろ!」 「はい!」 というわけで、琥珀と真魚は台所の掃除から始めている。 他の女子組はとりあえず部屋を綺麗にする事から始める事に賛成なので、真魚より勝手に読んでもいいよと声をかけられたので真魚の戦利品を物色中。 「結構色々とありますねー。あ、もしかして団長本? あ、ノーマルですね」 「真魚殿は普通の恋愛物も好きだったようじゃったな。普通ではないが、この間入手した任侠女体化本は面白かったのう」 「わ、それ次貸して下さい」 「どんな話?」 ルンルンと那蝣竪がニノンの本に興味がわいた模様でひそひととあらすじを話している。 「そのシチュエーションはいいわ!」 「きゃー、ドキドキですっ」 ぐっと拳を握る那蝣竪に対し、ルンルンは両手で顔を挟んで照れている。 「ほう、この作家は本職開拓者よりも開拓者と地方に住まう依頼人との本が多いのじゃな。これは理穴の役人が潜入捜査の時に敵の地方豪商の妾の息子と恋に落ちる話か。読み応えがありそうじゃの」 「あ、そういえばこの本、噂に寄れば限定十部の簡易書物じゃない。地方豪商の妾の息子と料理好き陰陽師開拓者の悲恋もの」 「真魚さん、ハンターですねっ」 まだこういった事がわからない珠々は頭の上で投げられるお姉さん達の話をぼんやりと聞きつつ、真魚の戦利品を絵巻と書物に分けていた。 というか、どこかで聞いたことがあるような人達ばかりだ。 その中の絵巻で気になるものを見つけた。 絵巻の中で黒猫擬人化の少女と茶猫擬人化の少年と柴犬擬人化の少年のほのぼのとした話が描かれていた。というか、その黒猫がやたらと自分に似ている。 「これ、何だか私に似てます。あとキ‥‥」 真魚に見せるように珠々が言えば、神楽舞「進」の効力がもう切れているはずの真魚が珠々の誰かの名前を言わせる前に絵巻を奪い取った。人間、やれば出来る。 健全本であるが、流石に珠々には見せたくないようだった。目ざとくその五年後本(成人本)も那蝣竪に託す。 「そっか、こういう未来もあるのねー」 うふふと、那蝣竪が珠々に含みを入れた視線をよこしていて、何だか珠々はとても気になるようだった。 「おとなになればよめますか!」 「うむ、大人は十四歳からじゃ。退屈と思うじゃろうが、今は辛抱の時期じゃ」 ニノンの言葉に珠々は早く大人になりたいとちょっと思った。 部屋の片づけが終わり、那蝣竪とルンルンが講師となり、柔軟体操を真魚に教える。 「まずは身体を柔らかくする事からよ」 「身体を柔らかくするには動かすことです。体温が温かいと痩せやすい身体になりますよ」 那蝣竪が真魚に手ほどきをしつつ柔軟を教えているのだが、中々に身体が固い。 「‥‥舞の時、大変じゃない?」 控えめに那蝣竪が尋ねると、真魚はこくこくと頷いた。結構必死だったようだ。 「で、でも、少しずつ柔らかくしていきましょうねっ!」 ルンルンがフォローする。 「痩せるのは一朝一夕じゃなく、ゆっくりとね」 那蝣竪の言葉に真魚は「はい、お姉様!」と返事をした。 「ニノンさんも寝正月だったのですよね」 青嵐から最近の生活あれこれと聞かれ真魚はニノンに声をかける。彼女も同じような生活だったようだ。 「読む方に熱意が行ってたものでな。寝食を忘れてしまい、目方が減ってしもての」 ふーっと、ニノンが溜息をつけば、真魚が「熱意が足りなかったのですね」とちょっと後悔している様だった。 「でも、ちゃーんと食べなきゃダメですよ!」 ルンルンが人差し指を立てて真魚に注意をするが、その逆の手には開拓者絵巻がある。 「ルンルンさんの言う通りですよ、真魚さん」 静かに口を開いたのは青嵐だった。いつの間にか、執事服に着替えている。 「貴女がここのところ、何を食べたか書き出しさせて頂きましたが、主食となる餅や甘い餡子、みたらしの醤油、御節しか食べてなく、殆ど野菜を摂っていませんね」 「御餅ってなんだかあっさりしてるし、食べ足りなく感じるんですよ」 真魚の言葉にきらりと、青嵐の瞳が光る。 「餅は柔らかく、あまり噛まずに飲み込んでしまいます。人は噛む事で満足感を得て、空腹や疲れを癒すのです」 「そっか、ヤケ食いとかするとすっきりするんだよな」 納得した琥珀に青嵐はその通りと頷く。 「ヤケ食いはあまり噛まずに次から次へと食べ物を食べる為、消化によくありませんし、いつも食べるより多い量なので代謝が追いつきません」 「御節は保存の為に糖分塩分が多いものね」 「そもそも、餅や醤油は身体に水分を溜めるものですので出来る限り野菜を摂るのをお勧めします。野菜には体内に必要のない塩分や水分を排出しますので。緑茶を飲むのもよいですが、食事の際に海藻類を食べるとよいです。出来る限り味付けは薄めに」 那蝣竪の合いの手に青嵐が更に付け足す。 「暫くは体の浄化の為、温野菜を一品つける事をお勧めします。寧ろ、今時期ですと、夕食は毎回中身を変えて鍋にでもするべきかと。後ほど、是松さん達にお手本を作ってもらいます」 「先生、肉じゃがとかはどうなんですか?」 生徒その二となった珠々が挙手すると青嵐はいい質問とばかりに頷く。 「芋や南瓜は白米と変わらない成分ですので、正直、現時点の真魚さんにはお勧めしません」 「つまり、お芋とごはんを一緒に食べるとお替りするのと同じ事なんですね」 ルンルンが答えを言うと、青嵐が頷いた。 「では、実践と参りましょう」 青嵐が促すと全員が是松の店へと向かった。 ● まだ暖簾の出ていない是松の店から美味しそうな匂いがしている。 戸には「本日貸切」と書いてあり、店を横切る者達は「そろそろ復帰か」と楽しみにしていた。 「うっめーーー!」 美味しそうに色んな料理をかき込んでいるのは琥珀だ。その隣で人参がない料理を取っている珠々がいた。今年も橙の恐怖に怯える模様。 「お野菜美味しい‥‥」 葉物と大根と茸類を中心として野菜が沢山入った水炊き鍋を食べているのは真魚をはじめとする女性陣。 「葉物と茸、大根は沢山食べても大丈夫ですよ。鍋じゃない日は味噌汁を飲みましょう。あと、お水をちゃんと摂って下さいね。冬は白湯を飲むといいですよ」 「はい、先生っ」 いつかの時を思い出させられる青嵐であったが、思い出さない振りをした。 「そういえば、皆はどんな本が好き? 私は関係性を重視しているけど」 ふと、那蝣竪が男性陣と珠々以外の女性陣に尋ねる。 「ああいうの、いいですよね」 ぽそっと、真魚が言った先には調理場に立つ是松とその相棒、竹成がいた。 二人ともタイプが違う美形同士。話に寄れば、村をアヤカシに襲われてしまい、二人で神楽の都に来て苦楽を共にした幼馴染だという。 「いいのうっ。そういった道もあって、今の幸せがあるのじゃ」 ぐっと、箸ごと手を握り締めるのはニノンだ。 「ホント、幸せになって欲しいです!」 うんうんと、ルンルンも頷いた。 「悪い人もいなくなったからきっと大丈夫です」 どういう幸せかよく分かってない珠々も頷く。味の染みた大根は正義だ。そして、幸せなのはよいことだ。 「真魚殿は男前を見ている時はあまり箸が進まないのう」 「え、ああ、見てる方に集中しちゃうんです。受付の時も魅入っちゃうんです」 うっとりと是松と竹成を見ていた真魚にニノンが話しかけると、こっそりと真魚が教える。 「小腹が空いた時はギルドに行って人間観察をするとよい。男前を肴に妄想すれば食事の時まで気が紛れるじゃろう」 「あ、そうですね! そうします!」 ぱっと明るくなった真魚に皆が笑顔になる。 それから真魚はこまめに掃除をしたり仕事の合間、風呂上りに柔軟したり、青嵐特製レシピで自炊し妄想したおかげで健康的に(?)元の体型に戻ったようだ。 |