かまくらの中で
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/19 21:02



■オープニング本文

 武天が領地、繚咲は現在、豪雪にみまわれている。
 今年もまた、雪が領地を覆いつくしていた。
 大抵は天蓋の者達が除雪作業に借り出される。勿論、今年も例に漏れず、夜明け前から除雪作業に追われていた。
 雪を除けても融けたわけではないのでそのまま雪は残る。
 その雪がまた膨大。
 毎年その雪をどうしようか悩む事になる。
「そういえば、最近開拓者がこちらに来ておりますわね」
 穏やかに言ったのは繚咲の管財人、鷹貴折梅。
「まぁ、確かに」
 彼女の呟きに頷いたのは当主代行の次男。
「折角ですから、かまくらを作ってちょっとした催しなんか如何かしら?」
「催し?」
 眉をひそめる次男に折梅はにっこり微笑む。
「かまくらを何基か作り、その中でお茶でもお酒でも持ち込んでゆっくりすごして頂こうかと」
「交流会という事ですか」
 次男が言えば、折梅は頷く。
「高砂の広場があったでしょう? 近隣の甘味屋や定食屋に声をかけて屋台を出してもらうのですよ」
「‥‥降りるつもりですか?」
 じろりと、次男が折梅を見やれば彼女は「いけませんか?」などといけしゃぁしゃぁと言い出した。
「とりあえず、天蓋には協力要請をしておきます‥‥」
「そういえば、最近だとちょこれーとなるものが流行りだそうですよ」
「ジルベリアの菓子でしたか」
 繚咲に詰めっぱなしの次男もそれは知ってたようだ。
「中々美味しいお菓子でしたわ。最近だとかすてら屋がちょこれーとを仕入れて、ちょこれーとがけかすてらを売り出そうとしてるとか」
「食べたいんですね」
 素直な折梅の欲望に次男が非難を浴びせるように念を押すと彼女はにっこりと頷いた。
 当然のことながら、折梅の本来の目的がなんなのか次男は理解していた。


■参加者一覧
珠々(ia5322
10歳・女・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
シータル・ラートリー(ib4533
13歳・女・サ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
セフィール・アズブラウ(ib6196
16歳・女・砲
フレス(ib6696
11歳・女・ジ
雨傘 伝質郎(ib7543
28歳・男・吟


■リプレイ本文

 埋め尽くされた白は陽の光を反射して無数に煌いていた。
 祖国にとって貴重にして憧れの水の揺らめきから見える煌きとはまた違うもの。
 圧倒されるその雪の多さに言葉を詰まらせているのはシータル・ラートリー(ib4533)だった。
「もし、開拓者の方で?」
 後ろから歳を重ねただろう女性の声に振り向いたシータルは目を見張る。
 従者が傍らに控え、防寒具に身を包んだ老女にシータルは彼女が依頼人と気付く。
「お招きにあずかりまして、ありがとうございます。今回はよろしくお願いしますわね♪」
「ふふ、気付かれましたか。私は鷹来折梅と申します。今回は来て下さり、嬉しく思います」
 悪戯っぽく微笑む折梅にシータルもつられて笑う。
「他の皆さんは中で待ってます」
「そうですか、どんな出会いがあるか楽しみです」
 折梅が待ち合わせた茶店の方を向けば、折梅を待ち構えていたセフィール・アズブラウ(ib6196)が入口の前に立っていた。
「ご無沙汰しております」
「お久しぶりね」
 中に入れば更に新しい出会いと嬉しい再会が待っていた。

 警護役にと現われた一人であるフェンリエッタ(ib0018)は折梅と顔を合わせるなり瞳を瞬かせた。
 初めて会うのに‥‥と少しだけ戸惑いの色を深緑の森のような緑の瞳に浮かべた。
「如何されましたか」
 対して折梅は新緑の瞳を細めて優美に微笑む。
 記憶の靄の向こうの自信たっぷりの微笑とは少し違うとフェンリエッタは思う。
「私は鷹来折梅。この度はきて頂いて嬉しく思います。本日はごゆるりと楽しんでくださいね」
 折梅はそう言ってにこやかに微笑んだ。
「こんにちは、お‥‥折梅さん」
 顔は鉄面皮である珠々(ia5322)だが、首から下は緊張で赤い。幼少期に徹底されたそれに折梅は仕方ないと微笑む。
「お久しぶりです、珠々さん。そちらの方は一度お会いしてますね」
 折梅が見たのはフレス(ib6696)の方。
「永和さんと蜜莉さんの祝言の時に可愛らしい舞を見せて頂いた方ですね」
「あの時は楽しかったです。えっと、折梅姉さまって呼んだ方がいいのかなっ」
 老婆の年齢であるが、微塵にも思えない折梅の姿におばさまと言おうとしたフレスが言い直す。
「ちょっと沙桐さん、ウチの‥‥」
「ばあ様、人攫いみたいな事はやめてください」
 珠々すら狙っているのに何を言い出すかと沙桐がツッコミを入れた。当人のフレスは「どうしたのかな?」と首を傾げるばかり。
 一方、一華とキズナの再会を喜んでいるのは叢雲怜(ib5488)。
「いっぱい遊ぶんだぜ!」
 キズナも楽しそうに頷いている。
 晴れているが、ちらちらと粉雪が降っている。
「降って来たわ」
 フェンリエッタが外を見やればシータルとフレスが反応する。
 砂漠の国に身を置いていた者にすれば不思議な光景だろう。
「雪だるまをつくるのです!」
 ぐっと、握りこぶしで意気込む珠々。
「そうね、折角の雪ですもの」
「雪って固まるのですか?」
 シータルの言葉にフェンリエッタが頷くき、フレスが首を傾げる。
「固まるわよ、百聞は一見にしかず。作りましょう」
「そうだね!」
 フレスは実際にけも耳があるが、何となくフェンリエッタにも見える気が‥‥する。


 高砂内にて子供の泣き声が響き渡る。
 鬼の面に刃の無い包丁、首桶姿‥‥そして‥‥
「悪い子はいねがー!」
 濁点多く訛った声音で子供を追廻して叫ぶのは雨傘伝質郎(ib7543)。
 臨時の手伝いにいた。
「わーん!」
「ごめんなさいー!」
 泣き叫ぶ子供の声は怯えている。因みにこの子供、他所の子供を泣かしていた。丁度よく伝質郎が見つけて泣かせていた。
「もうしねぇがーー!」
「しません、なかよくするー!」
 わぁわぁ泣き喚く子供に他の子供もつられ泣き、大人達はもう「しょうがないねぇ」と笑っている。
「ありがとうねぇ」
 子供を泣かされた親は伝質郎に一礼した。伝質郎は声を上げる代わりに包丁を振り上げて他の子供の方へ向かった。

 伝質郎が大暴れしていたのを見ていた怜はちょっと驚いていた。
「災いを祓い、祝福を与える鬼よ」
 怜に教えたのは一華だ。
 救出時に見た心の闇に捕らわれかけた弱弱しい姿ではなく、溌剌とした笑顔を見せている。そんな一華を見て怜も安堵し、笑顔を見せる。
「あっちに天蓋の皆が作った滑り台があるわよ」
 一華が指を差せば、「おおー!」と怜とキズナが声を上げる。因みにキズナは女装中だ。
「おろ? どうしてキズナは女の子の格好をしてるんだ?」
「身元が割れないように変装しておきなさいって柊真さんに言われたんだ」
 ふと、怜が素直な疑問をキズナに投げると、キズナは素直に答えた。
「隠密なのか、それは重要なことなんだぜ」
「うん、そうみたい。でも、珠々に綺麗に変装して貰ったから大丈夫! 今日も袴を着せて貰ったからそりで遊べるよ!」
「珠々姉ちゃんは凄いシノビだから、きちんと欺けてるんだぜ♪」
 キズナが嬉しそうに言えば怜も頷いてそりを借りに走って行った。

 折梅の挨拶を済ませたセフィールは屋台を見て歩いていた。
 酒は避けているが、甘酒は一杯頂いていた。きちんと漉しているとろりとした舌触りで蜂蜜の甘味が身体を温めて心地よい。生姜が隠し味だとセフィールは理解した。
 米粉を使ったカステラ屋が屋台を出していた。
「お姉さん、どうだい?」
 屋台に出ていた店員がセフィールに声をかけると彼女は足を止めた。
 繚咲の民にとって旅人は珍しいし、慎ましく貞淑なる立ち居振る舞いでジルベリア出身と解る容貌のセフィールは繚咲の民の視線を集めていた。
「カステラですか」
「そうだよ。カステラもチョコレートはそちらの菓子だよね」
 にっこり笑いかける店員にセフィールは穏やかな瞳の色を見せる。
「チョコレートを練りこむのも手だと思いますが、しかし、綺麗にかけておりますね。練りましたか」
「お、流石! 練らないと表面がでこぼこになってねぇ」
 察したセフィールに気を良くした店員が「一口どうだい」と一切れ渡してセフィールが味見をすると「美味しい」と頷いた。
 瞬間、周囲の人達が買おうか決めだして店に近づいてくる。
 店の売り上げを邪魔してはいけないと思ったセフィールは店員に挨拶をして彼女はその場を後にした。

 最初は珠々の手の平に収まる雪だまが雪面に触れてころころと転がされるうちにどんどん大きくなっていく。
「珠姉さますごいんだよーーっ」
「これくらい朝飯前なのです」
 最初は姉さま呼びされる度に固まっていた珠々だが今は雪だるま作りが楽しくてあまり気にしていなかった。
 珠々がいる広場は怜達が遊んでいる滑り台と同じ場所。
「怜! 珠々だよ。大きな雪だるま作ってる!」
「珠々ねえちゃーん!」
 ソリに乗って二人が大きな声で話しているが珠々はみかんを埋め込む為の穴を開けている。
 一方、シータルは雪だるま作りではなく、雪を踏みしめる音を楽しんでいた。
 ぎゅ ぎゅ ぎゅ ぎゅ
 自分の体重で踏み慣らされる雪の音が面白くてついつい歩き回ってしまう。
 ほぅと、頬をへこませて息を吐き出せば、普段は見えることのない白い息が見える。風が少しあるのか、息が丸まるような形を見せて風に浚われる。
 それが見目鮮やかで面白く右手で口元を隠してて笑顔を見せる。
「繚咲の冬は面白いですか」
「はい」
 折梅が隣に立つと、シータルが笑顔で返事をする。
「ふふ、ここには四季折々の見所が沢山あります。次の見所はここから南西にある深見という小領地がありまして、そちらには桜霞と呼ばれる桜の名所があります」
「桜、聞いた事がありますわ」
 冬を越えた天儀の春に咲く花。その美しさに魅了される者もいれば怖れる者もいる。
「機会があれば来て下さいね。私はかまくらの中におりますよ」
 折梅の言葉にシータルはにっこりと返事をして再び雪を楽しむ為に指で雪を掬った。
 かまくらの方に向かった折梅は入口前に可愛らしい雪だるまを見つけた。
「あら、可愛いですね」
 明るい声を出す折梅に振り向いたのはフェンリエッタ。
「雪だるまの精霊が宿ると私が幼い頃から信じてるおまじないです」
 もう一つ出来たので彼女は雪だるまをもう片方の入口に置く。
「ジルベリアは雪に閉ざされた国と聞いております。雪と共に生きる方ならではですね」
 折梅が言えば、フェンリエッタは少し照れた笑みを見せる。何かを思いついた折梅が従者を呼んで何かを言いつけている。従者は近くの屋台から何かを分けてもらって苦無で器用に細かく切っている。
「精霊にもお顔をなければどなたかわかりませんから」
 そう言った従者が割った墨を雪だるまの顔につけると、フェンリエッタは成程と頷いた。

 男の子組と合流した珠々とフレスは四人で力を合わせて大きな雪玉を土台の雪玉に載せていた。
「できたのです!」
 四人で万歳をして完成を祝う。
「珠姉さま、折梅姉さまとあと柊真兄様呼んでこないと!」
 フレスが言えば、怜が「ちょっと待って」とフレスを静止する。
「先にカステラを買って来てもいいと思うんだぜ」
「チョコレートがかかってるカステラですね!」
 珠々は以前、先輩シノビよりご褒美にもらった事がある。ふんわりしっとりとしてて少しもちっとした甘いカステラだ。今回は期間限定でチョコレートがかかっているカステラがあるので珠々の瞳は獲物を狙う猫のものだ。
「じゃぁ、買いに行こう!」
 いざ合戦に走るかのように四人はカステラ屋へと走った。
 屋台を見ていたら飴屋に飴細工を貰ったセフィールはどたばた駆ける年少組を見つけた。
「おや、如何されましたか」
 セフィールが尋ねると、怜が「カステラを買いに行くのです!」と元気よく返す。
「私も折梅様や皆様に買いに行くところです」
「じゃぁ、皆で買うと喜ぶんだよ!」
 フレスの提案に全員が頷いた。
 カステラ屋は繁盛しており、声高に今日の分は売り切れ寸前と言っていた。
「わわわわ、危ないんだよっ」
 ハラハラするフレスにセフィールは「大丈夫です」とキラリと空色の瞳を光らせる。
「いい所に来たね!」
 さっとセフィールに店員が出したのは人数分のカステラ。
「取り置きをお願いしておきました」
 きりっとセフィールが言えば子供達は大喜びをした。


 かまくらで休憩していた折梅とフェンリエッタはバレンタインの風習の話をしていた。
 天儀でもそれなりに普及しているバレンタイン。繚咲でも少しずつ浸透しつつあるらしい。
「フェンリエッタさんにはいらっしゃいますの?」
 突如回ってきたお鉢にフェンリエッタはきょとんと、目を見張る。
「私‥‥?」
 どう言ったらいいのか悩んだ彼女はどんどん表情が不貞腐れたようにも見えてくる。
「三年も想っていたのに、見てたのに、彼の事を本当は何も知らないんだって気付いたのね」
 彼女が責めていた事は彼を見ていたのは一部の面で、他の面での彼に気付けなかった自分。彼が何を思っていたのか気付けなかった自分が許せないのかもしれない。
 宙ぶらりんの心はまだ下ろす根の場所がなかった。
「だから今、種を撒きに行ったわ。咲く為に」
「きっと咲きますよ」
 ふふと、折梅が微笑んで杯を空けた。
「ここは繚咲、無数の花が咲き乱れる名の下。ここではない場所かもしれませんが、きっと咲きますよ」
 自信に満ち溢れた折梅の言葉と笑みにフェンリエッタはこう思った。
 前言撤回。
 ばちばちと脳裏に記憶の靄の向こうの不敵な笑みと一致したようだ。
「私的には自分の幸せを願うのは不本意なのですが‥‥」
 不貞腐れたようなフェンリエッタに折梅はくすりと微笑む。
「私がフェンリエッタさんの幸福を望んでいるのですけど」
 少し意地の悪い言葉にフェンリエッタは無言で抵抗した。酒を呑んでいる折梅であるが、絶対に酔っていないとフェンリエッタは確信した。
 大人はずるい。自分も大人だけど。
 この状況を打破したのは年少組の声。
「折梅さん、こっちー!」
 子供達が折梅の手を引っ張ってかまくらから出る。
 折梅がいたかまくらの近くには大きな雪だるまがいた。フェンリエッタを連れて入った時はいなかった。
「凍り蜜柑は折梅さんとおと、‥‥柊真さんにあげます」
 まだ言えない珠々に柊真は悔しそうな顔をして沙桐はこっそりガッツポーズを作る。
「これ、君たちで作ったの?」
 素直に感心するフェンリエッタに珠々は得意げそうに頷いた。
「珠々さん、ありがとうございます」
 笑顔の折梅に珠々は照れて俯いた。
「凄いですね」
 かまくらに戻って来たシータルが声をかける。
「珠々がすごく頑張ったんだぜ♪」
「皆さん、顔が赤いですね。お蕎麦をご用意して頂きました。皆さんで頂きませんか?」
 シータルの言葉に全員がお腹が空いた事を思い出した。


 せっせと臨時仕事に勤しむ伝質郎。
 ちょっと怖い人に睨まれてしまったが、どうやら依頼人である折梅と縁が深い人物に助けられていた。
「いやー、すんませんねぇ」
「いえいえ、ご伝言を伝えに参っただけですので」
「へぇ?」
 きょとんとなる伝質郎。やりすぎて依頼人に怒られるのかと思ったが内容は違っていた。
「とても精を出し、民達から喜ばれておりましたので‥‥」
 伝質郎が連れて行かれた場所は結構な茶屋。
 何事だと思いながら入っていけば、そこには数人の芸者やら遊女がいた。
「美味しい物を食べて飲んで疲れを癒してくださいね」
 勿論、花代は折梅持ちとの事。
「遊女の仕事の時間が来たら仕事優先ですから」
 美味しい食事と酒にはありがたく伝質郎は頂いていった。当然、美女の注いでくれる酒は美味かった。
「中々の味でごぜぇますな」
 座敷にいた皆と共にチョコレートがけのカステラを食べる伝質郎。
 セフィールから差し入れであるのを知るのは後の事。


 それぞれのかまくらの中で温かいお蕎麦を頂く。
 繚咲は鶏だしの蕎麦が主流。鰹だしは入手経路の事もあり、高いそうだ。
「シータルさんは香辛料が得意なのですね」
「ええ、美味しいですよね」
 折梅が言えば、彼女は笑顔で一味をまた振りかけた。
「お蕎麦が赤いんだぜ‥‥」
 ごくりと怜が呟く。
「お蕎麦の後にはカステラがあります」
 セフィールがもう切り分けていた。
 しょっぱい物を食べた後の甘い物は格別。中々に好評のようで、皆よく食べていた。
「珠姉さま、柊真兄さまにあーんしたらきっと喜ぶんだよ♪」
 フレスが言えば、珠々は固まってしまった。
「珠々、してくれないのか?」
 柊真に聞こえていたらしく、にっこり微笑む。照れやら何やら珠々の動きが強張っていく。
 ぷすんという音が聞こえて珠々がへたれ込んでしまった。
「わーーー! 大丈夫かーー!」
 ひょっこり隣のかまくらに遊びに来た怜が慌てて珠々を支えた。
 怜の叫び声を聞いたシータルが大変と一緒に珠々を支える。
「まだまだ修行が必要って事でしょうか?」
 首を傾げるセフィールに「そうかも」とフェンリエッタが呟いた。