鉤花の爪跡
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/26 22:45



■オープニング本文

 夜の帳が下りた。

 理穴南部のとある村にいくつかの影が落ちた。
 村の者達は眠りに入っているので奴らには気づいていなかった。

 影達に食料はなかった。
 山中で昼で尽きてしまった。
 金はあるが買う店がない。だが、彼らにそのような常識の欠片はなかった。


「奪え」


 低い一言に影達が走り出す。
 番犬が吠えると、手慣らしのように一太刀で殺してしまった。
 犬の声は眠っていた村人にも聞こえ、起き出して顔を出す。
「おめぇら‥‥」
 何者だと続けたかったのか、男は開いた口の中に刀を差し込まれて絶命してしまった。
「あんた、どうし‥‥きゃああああああ!」
 男の妻だろうか、女が男の死を確信し、悲鳴を上げる。影は煩いと言わんばかりに男から刀を抜いてそのままの体勢で女の喉を掻き斬った。
 女の金切り声になんだなんだと他の村人達が鍬や棒を持って家から出てくる。
 それが合図といわんばかりに他の影達が動き出した。
 小さな村に用心棒などはいない。
 アヤカシの出没も見た事も聞いた事もなかったからだ。
 影達にとって村人など先程殺した犬と大差ないのだろう。
 次々と斬りゆき、刃が汚れれば切り殺した人間の寝巻きで拭う影があれば刺していく影もあった。
 影のどれかに斬られたが、命をとりとめて這い蹲って逃げようとする村人がいた。

 なんとか、あの茂みに隠れれば‥‥

 村人が茂みに手を伸ばした瞬間、自分を斬った影と同じ格好をした者がいた。
 だらりと力が抜けた立ち姿であったが、抜き身の鉤爪が細い月光を反射している。
「あ‥‥」
 声も侭ならない状態の村人の顔に花弁のような爪痕と鮮血が迸る。
 最後に村人が見たものは月の光が見せてくれた菫色の瞳‥‥




 仕事を終えた羽柴麻貴は帰宅しようと立ち上がった。
 現在、理穴監察方四組主幹の上原柊真は前の事件の参考人として保護している少年、キズナと共に武天に赴いている。
 暫くの間、主幹がいないということで、麻貴が再び主幹代理として業務についていた。前にも主幹の仕事は行っており、然程困ってもいなかった。

 役所を出て空を見上げると日は傾いており、黄昏時だった。
 羽柴家に戻る前に上原家に顔を出そうかと思い、麻貴は道を変えようと足の向きを変えた。
 視界の隅をくすぐったのは民家の壁の隙間から顔を出した菫の花。
 菫は春の花。
 もう梅は散り、桜が蕾をこさえ始めている。麻貴はそっと目を細めてそれを見つめた。
 

 上原家に着いた麻貴は奥方である美冬に「殿様より伝言があります」と言われた。
「鉤花が理穴は南部に咲いたと」
 端的な伝言であるが、麻貴には即座に理解した。
 特に主を持たない暗殺集団。火宵とも関わりのあった集団だ。過去を調べれば小さな村を狙って食料を盗り、目に付いた人間は全て殺している。他にも暗殺の方で動いていたが、ここ数年、動きが分からなかった。
 だが、動きがあったという話を聞いた。
 火宵が故郷の仇を討とうと百響に戦いを挑んだ時、いたと天蓋の諜報部隊の隊長である架蓮が報告してくれた。
 戦いのいざこざでその姿を失ったそうだ。
 火宵の件は何も知らない可能性が高い。負け戦を理解し、勝手に撤退したのだろう。
 理穴に戻る際に村を蹂躙したりしながら‥‥
「鉤花は頭領を交代した可能性があると殿様が仰ってました」
 静かに美冬が告げると、麻貴は表情を固くした。
 暗殺集団、鉤花はもう三十年前から存在している。当時の頭領が代わっても驚く事はない。
「畏まりました」
 麻貴はそう言って踵を返した。美しい顔はもう理穴監察方遊軍、四組主幹のもの。
 向かった先は開拓者ギルド。
 かなりの手練と聞いているし、何より人員が足りない。
 藁も縋る勢いで麻貴はギルドに飛び込んだ。


■参加者一覧
珠々(ia5322
10歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔
玖雀(ib6816
29歳・男・シ
楠木(ib9224
22歳・女・シ
エリアス・スヴァルド(ib9891
48歳・男・騎
角宿(ib9964
15歳・男・シ


■リプレイ本文

「すまない」
 鉤花が通るであろう村の付近に急いで現れたのは依頼人の羽柴麻貴だ。
「どうしました?」
 バロネーシュ・ロンコワ(ib6645)がきょとんとして麻貴を見やる。
「ああ、今回仕事が立て込んでてな‥‥鉤花を連行する役人の手配も侭ならなくて」
「なんだ、俺達はお白州まで連れてく予定だったけど」
 ぱちくりと目を瞬かせる麻貴とにっかり笑う羽喰琥珀(ib3263)。
「あんまり気張るな」
 からりと笑ったのは玖雀(ib6816)だ。
「私達がいますから、お‥‥」
 麻貴を見上げて珠々(ia5322)が言いかけると、顔は変わらないが、首が赤い。シノビ達には「照れてる」と一発で見抜いた。
「いや、珠々ちゃん、是非続きをだな!」
「それは後ででしょう」
 角宿(ib9964)がツッコミを入れれば、一連の様子を見ていたエリアス・スヴァルド(ib9891)が言葉を差し込んだ。
「行こうか」
 そう言えば彼らは頷いた。
 一人、浮かない顔をしているのは楠木(ib9224)だ。
「楠木」
 玖雀が声をかけると彼女は反射的に顔をあげた。
「行くぞ」
「はいっ」
 先を行く玖雀を楠木が追いかけた。



 通り道にも村があり、その村より向こうで鉤花を待ち受ける事を決めた。
「開拓者だ」
 村人に声をかけたのはエリアスだ。その隣に屈託ない様子の琥珀がいたので村人は更に納得した。
「この辺で熊が出るって聞いたんだ。ちょーっと凶暴だから、あまり出歩かないでくれよ」
 琥珀の言葉に村人は納得し、了承した。
「すまない、木の廃材は余ってないか?」
 エリアスが村人に言えば、近づかないように立看板を作りたいと理由を話した。うっかり近づく者もいるかもしれないので、村人は喜んで了承した。

 粗方の準備を終えた頃、角宿は表情を固くしていた。
 戦いの経験はある。
 だが、心の奥底にある靄は消えない。理由はわかっている。この靄は燻りだ。
「いかがされましたか」
 角宿に声をかけたのはバロネーシュだ。玲瓏とした容貌であるが、その佇まいに優しさがにじみ出ている。
「許せなくて」
 心の本音は口にする事はなかったが、鉤花を許せないのは事実だ。彼女は「そうですね」と言って奴らが来るだろう方向を見据えた。
 珠々は麻貴に頭を撫でられていた。
「思いっきりやってこい」
 無理するなと言えないのは麻貴ならではの言葉だ。珠々はこくんと頷いて応えた。
「なんだか、親子みたいだね」
 くすっと笑うのは楠木。その声はしっかりと珠々に聞こえて、顔より下が真っ赤になっていた。
「そう見えるかい?」
「とても♪」
 そうかいと麻貴は笑顔で返せば楠木はにっこり頷いた。
「そろそろじゃないのか?」
 エリアスが言えば珠々が耳を澄ます。
「行動開始だな」
 そっと玖雀が呟けばすぅっと彼は姿を森の中に消えた。


 木々のざわめきの向こうに動く音が珠々の鼓膜に振動として与えていく。奴らの食料はつきたのだろうか?
 次着く村の前で奴らを止めねばならない。
 近づいてきている。
 バロネーシュは奴らが通るであろう場所にムスタシュイルをあらかじめ施していた。
 誰かが踏み込んだ瞬間、バロネーシュがぴくりと頭を揺らした。
 ハンドサインでバロネーシュが敵襲を伝えると即座に唱えだしたのはアイヴィーバインド。
 彼女の詠唱に応えるように伸びだしたそれは侵入者の足に絡めてきた。
 超越聴覚を使っている者がいたのだろうか、足音は真っ直ぐバロネーシュの方へ向かっていた。
 急に伸びた草に違和感を感じたのだ。

 気づかれた。

 エリアスがバロネーシュを護るように立つと同時に他の開拓者達が遠距離射撃を行った。
 一部負傷した者もいたが、奴らにとっては気にもとめない傷だ。
 珠々が放った戦輪は更に奥へと伸びる。
 不快な金属音がした。
 からりからりと戦輪が何かに引っかかったと珠々は確信した。不穏な静寂に珠々は聴覚を澄まし、木の前へ移動する。
 今宵は闇夜ではない。上弦の月。
 空気を切って戻ってくる。
 森の中に微かにこぼれる月光が助けだ。珠々は寸でにかわして戦輪を木に受け止めさせた。
 当主は殿にいる。
 ひやりと冷たい何かが珠々の戦闘心を煽る。
 一番前にいたシノビがバロネーシュの方へと歩いていくと、飛び出してきたのは琥珀だ。
「これ以上殺させやしねえよ」
 少年らしい快活さと外道を許さない感情が入り交じった琥珀の声は迫力がある。
 シノビにそんな声音に屈することなどなかった。
「止めてみろ」
 じろりとシノビが刀を抜くと、琥珀も背負っていた刀で応戦する。
 ひらりと軽々と刀を返した琥珀はシノビの手首を狙うが、向こうも初手を警戒していたのか琥珀の深雪を流した。
 その声は玖雀にも届いていたのか、己を鼓舞するようにガツンと小手を鳴らし、腕に飼う龍の瞳が微かな月光に反映した。
 他のシノビにも届いており、一人、玖雀に向かった。

 シノビ達は魔術師の動きを理解しているのか、先にバロネーシュをしとめる為に更に他のシノビが彼女を襲う。
 シノビは早駆で駆けてエリアスの横をかすめるようにバロネーシュをしとめようとする。
 盾を動かしても間に合わず、エリアスは突き出した刀に自らの腕を差し出した。
 鍛えている体とはいえ、異物を差し込められる痛みはそう簡単に耐えれるものではない。
「く‥‥っ」
 痛みに耐えるエリアスだが今はそれどころではない。容赦なく敵はバロネーシュを狙い、彼女を傷つけていく。
 そして、多分開拓者という者を知っているかのような動きだとエリアスは感じた。
 ならば‥‥もはや正統など‥‥と心の中で嘲るエリアスは片手の黒鳥剣をシノビの刀を叩き割る勢いで上段から止めた。
 一度動きを止めたシノビの様子をエリアスは逃す事無く間合いを詰めているこの状況を好機と見てエリアスはそのままシノビに頭突きをした。
 シノビは頭巾で目以外を覆っており、額にも鉢金を巻いてあったがエリアスとてバシネットを装着している。狭い視界の代わりの防御力がある。
 幸い、鉢金より外れた所に的中した。シノビの頭巾は鉢金以外は布のみのようで、十分な打撃を与えていた。
 動きが鈍ったのを察したバロネーシュが交差するシノビの刀とエリアスの剣の間からシノビの鳩尾に杖を押し込んだ。
「う‥‥ぐ‥‥」
 騎士より力がない魔術師とはいえ、志体持ち渾身の一撃と杖という一点打撃にシノビは昏倒した。

「たぁ!」
 角宿が投げたのは焙烙玉。刀を持つシノビが対応していた。腕に自信があるのが、焙烙玉を二つに斬りおとした。
 超越聴覚を持っていたシノビは角宿の呼吸を判別していたようで、確実に角宿を狙っており、仕方なく角宿は姿を現す事になった。
「これで終わりか小僧」
 嘲るかのようにシノビが言えば、角宿はダガーで斬りかかる。
 小太刀とダガーがぶつかり、金属がぶつかる小さな音がせめぎ合う。
「終わりじゃない、終わらせるんだ!」
 この依頼を見た時、角宿の心の中に潜んでいた想いが声となる。
 仕事を請けて目的の人間を殺す職人のシノビではなく、必要なら無力な人間を殺し、金品や食料を強奪する畜生働の賊のような事をするのが暗殺集団などと呼ばせたくない。
 父にない殺意と獲物をいたぶる面白がるような奴等に‥‥
 だが、残念ながらこのシノビは強かった。
 威勢の良い角宿の気合もどこまでいけるかもわからない。勝てるかどうかも解らない。
 それでも、倒したい。
 父より強いなどと思いたくないからだ。
 気力を振り絞り、角宿は再びダガーを振り上げた。
 ダガーは刀に流されてしまったが、振り上げようとした刀の切っ先が角宿の太股を掠めた。
 痛みに顔を顰めるが角宿は攻撃の手をやめない。やめたらきっと、動けなくなる。
 角宿の頬に風が通った。
 眼前にはシノビの握る刀があり、すこし視線をずらせば。左手首に矢が突き刺さっていた。
 今だ。
 懐に飛び込んだ角宿であるが、シノビの刀が角宿の胸を切ったが、皮膚を掠めただけだ。
 思い切り角宿はシノビの肩にダガーを突き刺した。

 混戦と化した森の中、鮮血を流したのは玖雀。
 潔く戦う盾となり殿に飛び込んだのだ。
 拳と鉤爪の真剣‥‥いや、殺し合いに近いものがある。
 武を心得るシノビである玖雀と技を組み交わした頭領は命を投げ捨てるかのような戦い方をしていた。
 ちりちりと玖雀の戦闘を「悪化」させるような泥を被るような戦い方。
 頭領の鉢金が玖雀の鉢金を狙う。気を確り保たねば金気の振動で頭の芯が震えて戦う気力を持っていかれる。
「うぉおお!」
 玖雀もまた自身で頭突きするように足を踏ん張らせる。気合で声が出る戦い方に出た自分に気付いていなかった。形振り構っていられないと思わされる。
 鉢金がぶつかった瞬間に出来る隙も二人は逃さなかった。鉤爪と篭手が交差し、鋭い金属音が鳴る。

 楠木は頭領の傍にいたシノビと戦っていた。獲物は苦無であり、俊敏さで楠木を凌駕する勢いで力もまたあった。
 力任せに小太刀で受け止めるわけにはいかずになんとかかわしていた。
 得意の足技も足を斬られかねない。
 何より怖れているのは小太刀が傷つく事。誰がなんと言おうが、これだけは譲れないのだ。
 この小太刀は宝物だから。
 どうにか、どうにか切り抜けようと思案し、小太刀を力強く握り締めた瞬間、聞こえた。

「みどり!」

 小太刀が震えて楠木に伝えてるような気がした時には彼女はもう跳躍していた。
 跳べと言われた。
 そんな気がしたから。
 跳躍し、木に足をつけた時、楠木と対峙していたシノビは肩甲骨から矢が突き刺さって、鎖骨から出ていた。
 矢を扱えるのは麻貴だろうか、彼女は弓術士と言っていた気がする。
 自分が戦線離脱したことで玖雀や他の開拓者に危害が加えられないほどの怪我と確信した。楠木のクリスタルヒールが木に当たった音に気付いた頭領だがそれでも攻撃の手を止めない。玖雀は力任せに頭領を蹴りとばし、足元をよろめかせたが、鉤爪は玖雀の肩を引き裂いた。
「‥‥喰らえっ」
 玖雀の引付がうまくいき、楠木の踵落しが頭領の脳天に決まった。
 ぐらりと頭領が最後の一撃をと繰り出そうとするも玖雀の手に押さえられてしまった。
「よくやった」
 くしゃりと玖雀が楠木の頭を撫でる。
 不思議と先ほどの恐怖心がなくなった。まだ戦っているのに。

 どさりと大きな影が倒れた。
 殺してはいない‥‥筈。
 幼少の頃より表情を動かす事なかれと叩きこまれても生命ギリギリのやりとりの中で鼓動を抑えるのは難しい。
 相手は自分達開拓者を殺せばいいだけだが、開拓者は違う。
 生かさないとならない。
 奴等は罪を犯しているのだから。
 退却‥‥もしくは戦闘を回避をしているシノビもいた。
 横目で見れば頭領が玖雀と楠木の連携によって倒されていた。
 余計に逃がす事は許されない。
 珠々と琥珀はそれぞれ二人を担当していた。時折、麻貴が矢を射てくれていたのに気づいていた。
 それでもこの戦局は厳しかった。
 細い月光の中、珠々に振り下ろされる苦無に珠々は息をのんだ。
 消耗が酷かった。そんな事は珠々にとって言い訳だ。
 脳裏に浮かぶ姿に珠々は生の執念を燃やす。
 幼くとも強い理性が押し止めていた、幼いからこそ憧れていたものを手にしようとしているのだ。
 死ぬわけにいかない。
 珠々は腕を眼前で交差した。容赦なく突き刺さる苦無と痛み。それと同時に隙を見、間合いを詰めた。
 暗剣で力の限りシノビの鎖骨を割った。
 シノビは倒れたが、珠々の目は戦いを終えてない。
「珠々ちゃん! もう動けないから!」
 察した楠木が珠々を後ろから抱きしめるように止め、珠々は誰かを捜すようにようやく止まった。
 バロネーシュが駆け出して珠々の治療に当たった。珠々の傷は思ったより深かった。

 いつも威勢が良く、無尽蔵な体力の持ち主のような琥珀も体力を消耗していた。
 横目で珠々が二人を倒したのを確認した。
 ちょっと負けてられないなと荒い息の中、琥珀は思う。
 琥珀もまた、現時点で一人倒した。
 手持ちの技を頭の中で確認する。深雪はもう見せた。
 最初に刀を合わせたシノビの近くにいた奴で、琥珀が深雪を使うのはわかっているだろう。
 琥珀は秋水を発動させ、わざとかすれたように刀を振った。
 相当戦い慣れた連中だと琥珀は判断してのことだ。
 だからこそ、琥珀は荒い息を吐ききって、間合いを取るために後ろに跳躍した。
 軽い音を立ててうっすらと朱色に染まる刃を鞘に納めた。
 二の轍は踏まないと言わんばかりにシノビが走り出した。
「残念」
 不敵に笑う琥珀の瞳が一気に生気に輝いた。納刀状態のまま琥珀は秋水を発動させると、シノビがはっとなった。
 シノビもまた、体力を消耗しているのだ。気力が削れるシノビの足下を狙ったのはエリアスの短筒の弾丸だ。
「最後ですからね」
 淑やかなバロネーシュの強い声と共にシノビの足下の草が生えていく。
 足に生える草はいいめくらましだ。
 そのまま琥珀はシノビの足を掻き斬った。
 最後の一人を倒すと、琥珀は大きく息を吐いたと同時に少しよろめいた。
「大丈夫ですか」
 角宿が肩を貸して声をかけると、琥珀は「ありがとなっ」と笑う。
「お疲れさん」
 玖雀が琥珀に労ると、珠々を麻貴に手渡した楠木が強い衝撃を受けた。
「大丈夫だって」
 からっと笑う玖雀に楠木は口元を歪ませて黙り込み、小太刀を鞘ごと抱きしめる。

「さて、行くかね」
 エリアスが言えば、琥珀の気力は回復したようだった。
「おめーらの行くべき奏生まで連れてってやるぜ」
 開拓者と鉤花はその場から離れた。
 重傷者が出さなかったのは不幸中の幸いだろう。武器や防具の破壊も特に見当たらなかった。
 このまま行けば開拓者達が奏生のはずれに来る頃は回復の術が使える監察方の面々が迎えに来てくれるだろうと麻貴が言っていた。


 ばさりと、黒鶫が上弦の月の前を渡った。