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■オープニング本文 先日、武天に行っていた柊真とキズナが理穴に戻ってきた。 キズナは一応は納得したが、己の力不足を解消する為、修行に打ち込んでおり、美冬が相手をしている。 本来の理穴監察方四組主幹の柊真が戻ってきて麻貴は通常業務に戻っていたのだが、ここのところは監察方の仕事ではなく、護衛の仕事の手伝いに回されている。 基本的に護衛の仕事は嫌いじゃないが、養父を敵視している護衛対象に当たると精神的に参ることもある。その逆だととても楽であったが。 仕事が明いた麻貴は柊真に報告をしてから自宅に戻ろうとして監察方の役所へ戻ろうと歩いていた。 夏が近いとはいえ、夕暮れはやはり肌寒いと麻貴は西に傾いた太陽を見上げる。 「羽柴殿」 後ろから聞こえる声に聞き覚えがあり、麻貴が振り向けば護衛方の駒木という青年が麻貴に手を振っていた。 「駒木殿、久しぶりだな。義父上は元気か?」 「ええ」 駒木は麻貴の義父の直衛であり、麻貴とも友人である。 「最近、アヤカシの動きが活発のようだな」 「だから最近はお偉い方の護衛に回されるのか?」 ふーっと、ため息をついた麻貴に駒木が笑う。 「理穴の魔の森の調査もされているようで」 「‥‥東部か」 ふむと麻貴が考え込む。 「羽柴様も最近、あまり帰られてないようで」 「‥‥義姉上が寂しがっているな」 思い出せば義姉の葉桜の夫に当たる梢一も忙しいと聞いた事がある。 「今日は早く帰られて葉桜様に甘えるのもよいと思うが」 羽柴家の事を知る駒木が言えば麻貴はそうだなとくすりと笑った。 駒木と別れて上司である主幹に報告を終えた麻貴は久しぶりに黄昏時に羽柴家に戻った。 手土産のお菓子も買う時間があった。 「麻貴。お仕事お疲れ様」 仕事内容を知る葉桜は誰よりも麻貴を心配しており、義妹が帰るといつも笑顔で迎えてくれる。 「ただいま帰りました、義姉上。これ、お土産です。皆で食べましょう」 麻貴が包みを渡せば葉桜は一層嬉しそうな笑顔となる。皆というのは羽柴家の下働きの者達の分も含んでいる。 「ありがとう、皆喜ぶわ。夕餉の支度をするからお風呂入ってきなさい」 葉桜の言葉に麻貴は頷いて風呂場へと向かう。 昼間の汗を流して着流し姿の麻貴は葉桜と一緒に先に食事をする。やはり義父も義兄も遅いようだった。 葉桜は家族の誰かと食事が出来るのが嬉しいらしく沢山身の回りの話をしていて麻貴は聞き役に徹する。自分の話は仕事しかないので葉桜の話を聞いているのが楽しいのだ。 話も弾み、今日は少し飲もうかという話になった時、玄関の方から声がした。 「柊真だ! 麻貴はいるか!」 麻貴の上司である上原柊真の声に姉妹は顔を見合わせる。この姉妹と柊真の付き合いは長く、声音からして彼が焦っているのが分かる。 「柊真、どうかした?」 「三茶の雪原一家より連絡が入った。雪原一家の先代が隠居している所にアヤカシがうろついているようだ。数も多いし、今開拓者に依頼をかけた。お前も先代救出に行ってくれ」 雪原一家は理穴は奏生より一日歩いた所にある大きな街、三茶にある。 去年まで追っていた事件で関わった場所だ。 「先代は今どこに」 「三茶から更に東だ」 「わかった。支度をする」 「それと東部に行くんだから行く先の村や町を通るならざっとでいい様子を調べてきてくれ」 柊真が簡潔に行けば麻貴は頷いた。 |
■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072)
25歳・女・陰
龍牙・流陰(ia0556)
19歳・男・サ
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
薔薇冠(ib0828)
24歳・女・弓
エリアス・スヴァルド(ib9891)
48歳・男・騎
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ |
■リプレイ本文 精霊門の近くに現われた開拓者達はそれぞれ見知った者もいて言葉を交し合っていた。 「黯羽さん、ご無沙汰しております」 北條黯羽(ia0072)に頭を下げたのは龍牙流陰(ia0556)。 「成果は出たのかぃ?」 にやりと笑う黯羽に流陰は一巡思案し、顔を上げる。 「これから実感するものと思います」 楽しみにしていると希望をこめて笑む黯羽は一家の母の顔となっている。 「みなさーん、いきますよー!」 受付嬢の真魚が開拓者達を誘った。 開拓者達は理穴に到着するなり監察方から用意された馬に乗せられて移動した先は三茶。 数人は雪原一家の屋敷を知っており、迷うことなく屋敷の中へ入っていった。 家人達に案内されて広間へと案内された。 「やぁ、いらっしゃい」 にこやかに微笑む麻貴に流陰と薔薇冠(ib0828)が目を瞬かせる。 彼らの様子は麻貴はすぐに理解した。 「この顔は元気かな?」 「大変な事件に巻き込まれておるがのぅ」 薔薇冠の言葉に御樹青嵐(ia1669)と珠々(ia5322)が頷く。 緋神那蝣竪(ib0462) が珠々の肩を掴み、麻貴の隣に座らせる。恥ずかしそうな珠々であるが、まんざらではないようだった。 「そうしていると親子のようじゃないですかい?」 くつりと笑うのは源三郎(ic0735)だ。容姿や仕草がなにか雪原一家にとけ込んでいるようにも見える。 ほかの開拓者達も頷けば、珠々は恥ずかしいのか俯いてしまう。 「今回は先代の雪原の蛍石夫婦の救出だ」 麻貴が皆に改めて依頼内容を伝える。 「その老夫婦の住処周辺に多数のアヤカシの影があるという話だな」 エリアス・スヴァルド(ib9891)が言えば麻貴は頷く。 「老夫婦を捜しているとすればそいつ等を指揮している奴がいると思うが」 「目撃情報ではうろついているというだけだからな」 「奴らは人を食らう為にさすらうものさね。俺達はそいつらから先代達を助けるだけだ」 端的に黯羽が言えば麻貴は頷く。 「その通りだ」 「‥‥なんとしても助けなきゃね」 気丈な様子で那蝣竪が呟いた。 麻貴と開拓者達は三茶を出て、目的の場所に向かった。 三茶の街は大きな街道沿いにあり、人通りも多かったが、東部へ向かうと人がどんどん少なくなっていった。 魔の森が近づくという事でもあるからだ。 街道からそれて行けば閑散としてしまっている。 「‥‥鬱蒼としているのう‥‥」 「アヤカシの影響もありましょうや」 薔薇冠がそっと溜息をつくと、源三郎が合いの手をかけた。 「でも、早く行く事に越した事はありません」 空を見上げる青嵐が言えば、ふむとエリアスが薔薇冠に声をかける。 「鳴らしてみてくれ」 エリアスの言葉に薔薇冠は頷いて瑞雲に指をかけて集中した。他の開拓者達は薔薇冠を護るように周囲に注意を向ける。 神経を研ぎ澄ませた薔薇冠が弦を弾くと共鳴を感じその方向を向く。 「東じゃ‥‥」 「魔の森ね‥‥」 溜息をつく那蝣竪に珠々が先を進みましょうと声をかけた。 「しかし、あの雪原一家を纏めた者という人柄には興味がありますね」 雪原一家と関わりのある青嵐は蛍石に興味があるようだ。 「そうか、青嵐君は初めて会うのか」 「いい人です」 こっくりと珠々が頷くと、麻貴はくすっと微笑む。 更に奥へ進んでいけば、奇妙に凹んでいる草むらを黯羽が見つけた。 「こりゃぁ、何かが踏んでいった跡かねぇ」 彼女は人魂を形成し、飛ばせる。林の木より高くならないように羽根が葉と擦れないように細心の注意を払い周囲の様子を伺う。 この辺に何かが通ったような様子がいくつかある。 「珠々、那蝣竪、音はどうだィ?」 意識を戻して黯羽が訊ねると二人は音を聞き、自分達以外の音を探る。 「まだ遠い所だけど動いている音が聞こえるわね」 「狼アヤカシもいますが多分、ケモノ系のアヤカシが‥‥多分‥‥十体と思われます」 シノビ二人の予測に開拓者達は緊張を高めざるを得ない。 一瞬の硬直の合間だったが、鳥の羽ばたきが聞こえた。羽と葉の擦れた音が大きかったのか、珠々と那蝣竪は顔を見合わせる。 「動きが変わったみたい」 素早く那蝣竪が伝えれば全員が急ぎだす。 こうなると開拓者達とアヤカシの追いかけっこだ。 どちらが蛍石夫婦の元にたどり着けるか‥‥ 急ぎだしてそろそろ庵が近いのだが、耳障りな音がシノビ以外にも聞こえてきた。 「もう少しなのに‥‥」 悔しそうに歯噛みする流陰を横目で見たエリアスが音の確認をする。 帰りは同じ道を引き返すだけ。 「旦那、迷ってるヒマはありゃしませんぜ」 源三郎は答えを出しつつあるようでエリアスは頷いた。 「麻貴、珠々、那蝣竪、流陰! 先代確保しに行くぞ!」 鋭く叫ぶエリアスに先代保護組に分けられた者達が動き出した。シノビの珠々や那蝣竪は早駆を使って先を駆ける。 保護組みが先を行った瞬間、薔薇冠が感じた方向から狼アヤカシが飛び出してきた。その背後にはいくつかの影が見えた。 察していたかのように先頭の狼アヤカシを噛み砕き、後続のアヤカシ達を薙ぎ払い、轢き倒していったのは凍れる龍だ。 「体力と練力の消耗だけは避けましょう」 氷龍の冷たさの如く、呼び出した当人である青嵐は冷静に告げ、保護組を追った。 保護組のシノビ達は颯爽と駆けて行く。 麻貴の話ではまもなく庵だと言っていた。その証拠に人が通っているだろう道を見つけ、それを辿っていけば庵に着ける。 「そろそろね」 「はい」 庵を見つけ、珠々と那蝣竪は戸から発せられる殺気に顔を見合わせた。 「蛍石さん、開拓者の者です」 早く安心させたくて那蝣竪が声をかけると中の緊張が柔らぎ、戸につっかえてあっただろう棒が外される音がする。 「緋束の差し金か杉明か?」 数年ぶりに珠々を見て蛍石はおやと目を瞬かせる。 「緋束さんの依頼です。奥方様は」 那蝣竪が声をかけると彼女はさっと身支度をしている。 「お待たせしました」 初老の女性であるが、その様子はまだしゃんとした背筋であり、若い頃はさぞかし迫力のある姉御である事が伺わせる。 「宜しくお願いします」 「かしこまりました」 シノビ二人で言えば四人は庵を出て後を追う流陰とエリアス、麻貴と合流する。 先代保護組より遅れて走る安全確保組はアヤカシを突破して走り出している。 だが、別のアヤカシが開拓者に気付き、走り出した。 「新手が来やがったか」 舌打ち交じりで苦く黯羽が目を細める。 「青嵐君!」 那蝣竪が声をかける。走っていった彼女等がいるとすれば‥‥ 軽やかに草を蹴る音が近づき、黯羽が音のする方向へ駆け出した。 「ふっ!」 気合と共に黯羽は金蛟剪の刃を狼アヤカシにを叩きつける。 「さぁ、来い!」 アヤカシが近づくにつれ、黯羽の高揚の沸点が高まってアヤカシの登場と共に高揚の迸りを狼アヤカシに叩き付けた模様。 「やれやれ、こっちの商売道具も使えやしない」 呆れて笑う源三郎に流陰が困ったように笑う。 「戦闘となると仕方ありません」 困った姐さんだと源三郎が笑うと、彼が向いた先は蛍石夫婦。一家を纏める頭領の席は退いたとはいえ、その風貌に衰えを源三郎は感じなかった。 「東房の源三郎という者でござんす。一刻の猶予はござんせん、挨拶は堪忍くだせぇ」 開拓者となった今でも渡世人としての礼節は忘れられない。蛍石は源三郎の言葉にふっと、目を細める。 「こんな老いぼれに仁義を切ろうとしてくれてありがとうな」 「ここは任せてくだせぇ」 頼もしく言い切る源三郎に蛍石は頷く。 「頼んだよ」 奥さんの言葉に「へぇっ」と目礼し、二人が行くのを見送る。 これから自分も早く合流しなければならない。眼前には前衛の位置にいる黯羽を目がけて計六体の狼アヤカシ、狒狒アヤカシが飛び出してきた。 小袖の裾を持ち上げ、源三郎が走り出した。 「てめえらの相手はこの俺だあ!」 強い意志と練力でアヤカシ達の動きを向けさせ、引き付けていると、青嵐の声が聞こえた。 「その場から避けてください!」 言われるままに源三郎がその場を離れるなりアヤカシ達の動きがおかしくなり、同士討ちを始めだした。 源三郎と黯羽がアヤカシ達を倒し、その隙を縫ってくるアヤカシ達を薔薇冠が矢を放ち、確実に仕留めていく。 「すみません、おか‥‥」 珠々がエリアスに話しかけようとし、身体ごと一時停止する。元から無表情の為、夜でも使われたのかとエリアスは一瞬考えてしまう。その後ろで緊急事態に関わらず麻貴が悔しがっているのには気付かない振り。 「麻貴さんと先代夫婦をお願いします」 「ああ」 頷くエリアスに珠々は何だか恥ずかしそうに走り出す。 先代夫婦護衛組が戻ろうとしていると、別のアヤカシが現われてきた。 「お願いします」 流陰がエリアスと那蝣竪、麻貴に声をかけると三人は頷く。 「こっちだ!」 鋭く流陰がアヤカシ達を誘導する。一体だけ流陰の咆哮に乗らなかったが、麻貴が素早く矢を打ち、狒狒アヤカシの頭部に命中させた。 残った狒狒や狼のアヤカシは流陰の方へと襲い掛かる。 刀を抜いて構える流陰は呼吸を整えてアヤカシの間合いを計る。 戦闘の緊張はあれど、心音は高鳴っていないと感じる。 脳裏によぎる声に流陰の感覚は明瞭となる。アヤカシへの復讐心は自身を探れば出てくるだろうと自分でも思う。 狒狒アヤカシが流陰に飛び掛れば、瞬時に斬られた。刀傷が黒く炭化している。 「来い」 明るい青の瞳が今や鋭く冷たい青となり、アヤカシ達を見据えていた。アヤカシ達は当たり前の如く、流陰に飛び掛った。 珠々は一人更に東へと走り出す。 情報収集なら麻貴より自分が的役。先代の奥さんの護衛も那蝣竪に任せた方がよいと判断し彼女に託している。 早駆で走ればアヤカシの痕跡が見えてきた。獣系だろうか、うろうろしていただろう痕跡が見えた。 道に出て行けば、荷車の痕があった。 「この向こうにも‥‥村が‥‥」 珠々はきゅっと、口元を引き締めて踵を返した。 多数のアヤカシを相手にしていた流陰は二体をまず倒した。 俊敏さを上げるために防御を考えていなく、傷も受けている。ここできちんと倒しておかなければ彼等が戻る時、再びアヤカシの恐怖に怯えるだろう。 もう一度剣を振るため、流陰は息を荒く吐き、剣を構える。 横からアヤカシへ鋭い二刃が突き立てられ、アヤカシは首を刎ねられた。 「もうへばったのかィ?」 にやりと流陰に笑いかけるのは黯羽だ。 「まだです」 仲間の合流に流陰は気力を振り絞る。 「まずは先代夫婦の下へ行っておくんなせぇ」 源三郎が言えば、流陰は頷いて駆け出した。流陰を追おうと新手の粘泥が木を伝い、追いかけてくる。 一歩踏み出した源三郎が思いっきり業物を振り、粘泥を斬ると続いて狼アヤカシが源三郎に襲い掛かった。 「相手してやるぜぇ!」 黯羽が斬撃符を飛ばしてアヤカシの前足の付け根から切り裂き、動きを阻害する。動きが止まったところを源三郎が刀を振り下ろした。 先を進む直衛組だが、此方もまたアヤカシに襲われていた。 前に出たのは那蝣竪だ。軽やかに地を蹴り、素早さを生かして狒狒アヤカシの動きを止める。遮二無二に狒狒アヤカシが腕を振り回して那蝣竪に攻撃を加えようとするが、彼女には遅すぎる動きだ。 「花を散らすなんて無粋‥‥ね」 風に揺られる花より可憐に那蝣竪は呟くも、彼女から繰り出される攻撃は重い一撃だ。 はっと、那蝣竪が後ろを振り向くと、粘泥が老夫婦を襲い掛かってきていた。エリアスが盾で夫婦を護り、麻貴が奥方を庇っている。 「くっ」 盾を構えて敵から夫婦を護っているエリアスは粘泥の動きを見て着実に倒している。那蝣竪が参戦し、武力となったが粘泥は更に増えている。 「少し我慢してください!」 青嵐の声が聞こえ、全員が身構えて奥方を庇うと、美しい冷たい光を放つ龍が現われる。 凍てつく息が一瞬皮膚に痛かったが、粘泥にはよく効いているようで、凍って動きが止まっている。これ幸いと粘泥を叩き壊して行く。 「しかし、随分とアヤカシ達は位置を把握しておるのぅ‥‥」 薔薇冠が呟けば、もう一度鏡弦を鳴らそうと集中しだす。その最中、草叢から狼アヤカシが飛び出してきた。 真直ぐ走っていくのはより弱い奥方の方。薔薇冠の鏡弦の邪魔をさせる訳にも行かない。麻貴が弓を構えてアヤカシの前足の付け根を射るもアヤカシはまだ進む。 「やれねぇよ」 静かにエリアスが言えば、狼アヤカシを一刀両断にする。 「指示をしているアヤカシがいるかもしれねぇな」 ぽつりと呟くエリアスの言葉に弦を鳴らした薔薇冠が即座に弓を構える。薔薇冠の射程に入らないように全員が身構えた。 「先日のような不覚は、二度とはごめんじゃ!」 矢を一本草叢の向こう、自身が感じた方向へ放った。 少し遠い所でか細い小動物の断末魔が聞こえた。 「‥‥兎型のアヤカシがいるかもしれない」 「シノビの超越聴覚と同等の能力ってとこかねぇ」 ぽつりと麻貴が呟くと黯羽が断末魔の方向を見やる。 兎の単語にぴくりと肩を震わせた薔薇冠に青嵐が気づく。 「次は仕留めましょう」 青嵐の言葉を薔薇冠は察し、「そうじゃのぅ」と呟いた。 「大丈夫ですか」 那蝣竪が奥方に声をかけると、夫の腕の中の奥方は力なく頷いた。 相手は人間ではなく、人を害する存在。流石の奥方も少々肝が冷えたようだった。 偵察に出た珠々も戻り、全員が三茶への道へ戻る。 アヤカシ達はその間も追ってきたが、大きな負傷もなく戻るが、疲労が激しいのは確かだ。奥方の事もあるが、開拓者も休みを取らなくてはならないほど疲弊している者もいる。 黯羽が時折人魂を飛ばしているが、一応はアヤカシは片付けたようだった。 「柊真さんは何故、調べるように言ったのでしょう」 青嵐が呟くと、麻貴は瞳を伏せる。 「理穴の方でアヤカシの動きが活発になっているのは気付いているか」 「ちょこちょこ、依頼は出てるさね」 アヤカシとなれば開拓者の出番。その異質さに気付いているものも多い。 「はっきりするまで何も言えないが、魔の森を何とかしなければならないのは確かだ」 顔を上げた麻貴見つめるのは理穴東部の魔の森‥‥ 何とか大きな街道に出て、先代夫婦は無事に雪原一家に送り届けられて、源三郎は改めて雪原一家とその先代夫婦に仁義を切る。 それを見届けた開拓者達は奏生へ戻る事にした。 「ありがとうございました」 先代夫婦に頭を下げられたエリアスは適当に返事をして歩き出す。 暗い感情がエリアスを蝕む。 騎士を続けている事‥‥心の中にある澱は今はまだ彼から離れようとしない。 「アヤカシの動きは道中もありましたね」 「ええ、まだありそうね‥‥」 流陰と那蝣竪が話しているのは道中の噂話やアヤカシの動き。 「何とかしてやりたいのぅ」 薔薇冠が言えば皆が頷く。 少しの間、開拓者は奏生を離れる。 誰もが怖れる事態がないよう祈って‥‥ |