【繚咲】カミ対応求ム
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/31 20:53



■オープニング本文

 飲み屋街も営業を終えて一刻過ぎた頃、理穴ギルド内は少しだけ静かになる。
 夜勤だったギルド受付役も交代で仮眠に入っていく。
「白雪さんもお休みになっては?」
 受付役の白雪の手元にはまだ書類が残っており、それが終ってからと彼女は微笑んだ。
「すみません」
 入り口の方より男の声が聞こえた。
「依頼ですか?」
 白雪が声をかけると、三度笠を被った男は笠を取らずに白雪の案内する方へと向かう。
 男の様子はどこか落ち着かなく、しきりに周りを気にしているようだった。
「いかがされましたか?」
 白雪が麦茶を出すと、男は喉が渇いていたのか、一気に煽ったが慌てて笠を抑える。
「慌てなくても大丈夫ですよ」
「は、はぁ‥‥」
 どうやら、この男は笠の下は手ぬぐいでほっかむりをしている模様。昼に比べて比較的涼しい夜だが、暑いのは確か。
 暑くはないのだろうかと思うが、じっとりと汗をかいている。
「大丈夫ですか?」
 心配そうに白雪が訊ねると、男は大丈夫と言った。
「いやだ、かみがないわ」
「え!」
 ぎょっとする男に白雪は驚く。依頼人の言葉を書き留める紙がなかっただけだが。
「本当に大丈夫ですか‥‥」
「あの、とある子供に大事なものを盗まれまして‥‥」
 本題を切り出す男に白雪はまじめな顔で男を見やる。
 最近は理穴の国を挙げてアヤカシ討伐を行っている為、治安が少し悪くなってきているのが現状。
 治安関係の部署もきちんと動いてはいるが、防げないものも存在する。
「いつですか?」
「三日前です」
「何時ぐらい?」
「夜です」
「外で?」
「はい」
「品物は」
「‥‥」
 ここで男は黙り込んだ。
 白雪も待っており、男はおずおずと口を開く。
「言わなくてはだめですか」
「では、子供の人相は覚えてますか?」
「歳は十二歳くらい、薄茶の髪に短い髪、薄い青い目の子供です。すばしっこい子供でした」
「盗られた場所は」
 男が言うには繁華街に程近い大きな通りの裏路地。
 そこは理穴でも大手問屋が軒を連ねる通りだ。
「金はここに‥‥」
 男は決められた期日に指定の茶店にその大事なものを持ってくるようにと言い、そそくさとギルドを出た。
「‥‥キズナ君よね‥‥」
 ぽつりと白雪が呟いた。

 翌朝、夜勤明けの白雪は該当する少年キズナに会いに行った。
「キズナ、ここのところいないのよ」
 そう言ったのはキズナの保護先である上原家の奥方、美冬。
「実はね、最近は殿様のお使いで情報収集に行っているようなの」
「え、上原様のお使い?」
 暢気な美冬の言葉に白雪が驚く。彼が情報収集に人を使うのは彼女が現役時代から聞いたことがなかった。
「ほら、今は東部の方で戦があるでしょう? その件で色々と忙しいようで」
「そうですか。三日くらい前からいないのでしょうか?」
 白雪の言葉に美冬は頷く。
「なんでも、盗賊を見つけたのですよ。金品の被害は防いだようですが、逃げられてしまってて」
「盗賊ですか‥‥彼、監察方に入るのでしょうか?」
「それはキズナ次第ね」
 白雪が言えば美冬は微笑む。
「キズナがどうかしたの?」
 美冬の言葉に白雪が夕べのあらましを口にした。
「そうなれば、あの子に聞くしかないわね」
 彼女の言葉に白雪は頷くと、玄関の方から客人だろう声が聞こえた。美冬が顔を出せば、そこにいたのは沙桐だ。
「あら、まぁ、いかがされたのですか?」
「キズナ君に会いにきましたのですが」
「そうでしたの、今は出かけてて‥‥いかがされましたか?」
 美冬が沙桐の浮かない表情に気づく。
「ちょっと悩んでて‥‥」
 ここではなんだから‥‥と美冬は白雪がいる部屋に通す。
 沙桐の口から出てきたのは松頼のシノビの中に潜り込み、開拓者を狙ったシノビを殺した紫の瞳の男の事。
「確約が出来ない事を言うと後が辛いわよ」
 白雪の言葉に沙桐は「流石、麻貴の先輩」と力なく笑う。
「開拓者の皆さんにお任せするのもいいかもしれませんよ」
 美冬の言葉に沙桐は不思議そうに首を傾げると、笠を被った男の話を白雪がしてくれた。
「‥‥いや、あのさ‥‥」
 呆れる沙桐は「とりあえずキズナ君探しましょっか」とだけ言った。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
若獅(ia5248
17歳・女・泰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
白雪 沙羅(ic0498
12歳・女・陰


■リプレイ本文

 今回の依頼に応じてくれた開拓者達はキズナを知るものが大半だった。
 まさか、うちの子に限って‥‥といわんばかりにキズナの行動に疑問と衝撃を受けたのも少なからずある。
 キズナが私欲でほしいと思うことってあるんでしょうかと思案するのは珠々(ia5322)だ。
「とりあえずは身体的特徴がキズナに似ていたという事だけはよしとしようじゃないかい?」
 北條黯羽(ia0072)がそう言えば全員がそれは確かにと納得する。
「キズナはもう一人じゃない。帰る家も待ってくれる人もいる。何か、理由があるに違いない」
「皆さん、そう思ってますよ」
 若獅(ia5248)の言葉に御樹青嵐(ia1669)が肯定した。
「私、依頼人さんがキズナさんと会っただろう場所にいようと思います。キズナさんは知った顔の方には必ず挨拶をいたしますので」
「俺も一緒に居るよ、俺が理穴にいたら珍しいだろうし、きっと声をかけてくるよ」
 白野威雪(ia0736)の傍を離れないのは沙桐だ。
「そうだね、無理しないようにね。あんたに何かあったら沙桐どころかあそこの人間全員がキレるよ。あたしと違って大事な身の上なんだからね」
「そんな事ありません! 輝血様だって大事です。私は輝血様に何かあれば悲しいです‥‥」
 即言い返す雪に輝血(ia5431)は面食らったようでどう言っていいか言いよどんでいるようでり、照れているようであった。
「雪さんに何かあれば沙桐さんが盾になってくれますから大丈夫でしょう」
「何か青嵐君、怒ってない?! 青嵐君だって輝血ちゃんと一緒に居れば良いじゃない!」
 沙桐が叫ぶと青嵐は何か拗ねているようだった。
「さっさ、早く終わらせるよ。全く、キズナは甘いんだから」
 当の輝血はさくさく行ってしまった。
 それらを見ていた白雪沙羅(ic0498)はうーんと首を傾げる。
 キズナという少年が悪いように聞こえる依頼だが、他の開拓者の話を聞けば悪い人間とは思えない。
 一方、依頼人は身分もロクに話さず、大事な物が何なのかも話さない。
 正直な話、怪しすぎる。
 双方を見分し、どう解決するのかも開拓者の役目。
「沙羅、行くぞ」
「はいにゃー」
 考え事をしていて語尾が猫になった事を沙羅は気付いてなかった。



 若獅が顔を出したのは監察方。
 久々の若獅の訪問に四組は喜んで迎えてくれた。
「おいこら、人手が足りないからって使うなよ」
 現在、四組主幹の柊真が不在なので、副主幹の檜崎が主幹の仕事をしている。他の組員もてんやわんやのようだった。
「沙桐君は? 一緒じゃないのか?」
「ああ、今は雪と一緒にいる」
 若獅は檜崎に自分達の依頼と関連しているだろう盗みの話をすると、檜崎は知っていた。
「他の部署も忙しいようでな、こっちにお鉢が回ってきた所だ」
 檜崎が言えば盗賊のつとめだという。
 風の噂では理穴東部に流れていた事と引きこみ役の仕事が仕上がったのもあって、逃げてきた振りをしてつとめを行ったと思われる。
「店の話を聞けば、外で物音があって乱闘しているだろう音も聞こえたらしい」
「店の者に怪我はなかったんだな」
「ああ、ただ、鍵は開けられていた事と従業員が一人消えた事もあり、盗みが発覚した」
 檜崎の言葉に若獅はそうかと呟いて続きを聞いた。

 黯羽と青嵐は盗みに遭った店へ聞き込みに行った。
 店の女将さんが当時の話をしてくれた。
「皆が寝静まった頃にですかね。最近は何かと治安が悪くて不安であまり眠れなかったんだよ」
 どうやらこの女将は眠りが浅かったようで、彼女が物音に気付いたようだった。
「恐る恐る物音の方へ言ったら、おしばちゃんが外に出ててね」
「引きこみ役だったンかぃ?」
 黯羽の言葉に女将はしょんぼりと頷いた。
「おしばちゃんは本当に頑張り屋で気が利いた子でね‥‥」
 店の人気者でもあったようで、従業員にも衝撃が走っていたようだ。引き込み役とは店の者たちからの信頼を受けるのが仕事の一環でもある。誰もが盗賊の一味とは思われないようにするように気を使う。
「奴等はお勝手から入ろうとしたんだけど、塀の上から子供の声がしてね」
「子供ですか」
「満月近いこともあって、とても明るくてね。多分、薄い茶色の髪に水色の目をした女の子みたいに可愛い子だったよ」
 その姿は確かにキズナに酷似している。
「連中は男の子に気付かれて逃げようとしたんだけど、塀の向こうで乱闘しているような音が聞こえてね」
「刃物の音とか?」
「そんな音は聞こえなかったねぇ‥‥ただ、男の子が「待って!」ってなんだか驚いたように行ってたよ。多分、相手が逃げちゃったんだろうね。その後で「どうしよう」って困ったように言ったから心配になって表に出たんだよ」
 出たら出たらで誰もいなかったようだ。
「なんにせよ、被害がなかったんだからよしとすべきじゃねぇかい?」
 黯羽が言えば、女将さんは「そうだねぇ」と呟いた。

 青嵐と黯羽がいた近くを雪と沙桐は一緒に歩いていた。
 怪我をしてしまった美女を美丈夫が支えている様子はある種、目を惹いていた。
「今、陰殻で戦いがあるんだってね‥‥」
「ええ‥‥」
「ごめんね、一緒に行ってあげたら良かったね‥‥」
「大丈夫ですよ。甘味屋さんで一休みしたらすぐに良くなります」
 微笑む雪に沙桐は困ったように笑う。
「日差しも強くなったね。休もうか」
「はい」
 二人は仲むつまじく甘味屋へと入った。

 仲のよい沙桐たちを見ていた珠々は大きな店の屋根の上にいた。
 キズナも人を探しているとなれば、きっと超越聴覚を使用しているだろうと珠々は判断した。
 下の道を歩いているのだろうか、屋根を伝っているのかはまだ分からないがとりあえず珠々は小さな声で話しかけてみる。

「‥‥ますか、キズナ、聞こえますか‥‥今、あなたに話しかけて‥‥ます。キズナがもっている‥‥物を返してほしいと‥‥らい‥‥あり‥‥した」

 珠々が見下ろしていた大きな通りでぴくりと誰かが反応した。

「珠々‥‥屋根の上‥‥?」
 シノビでなくては聞こえないくらいの声量でキズナが返してきた。
「あたしもいるよ」
 そっと輝血も話しに滑り込む。
「やはり、開拓者の皆さんがいたのですね。先ほど、麻貴さんそっくりの方と雪さんに似た方が一緒に居たという話を聞いて甘味屋に行こうとしたんです」
「それはおじ‥‥沙桐さんです」
「人通りも多いだろうけど、一人で喋ったら怪しまれる。東に二本奥に小さな食堂があるからそこで待ち合わせだ」
 輝血の言葉にキズナは短く返事をし、輝血は他の開拓者たちにキズナが見つかった事を伝えに向かった。



 てくてくと理穴の飲み屋街を歩いていた沙羅。
 視線を感じつつも気にしないで受付員が突き止めた飲み屋を見つけた。
 依頼人、綿助は店の隅で飲んでいた。人目を忍ぶように誰かと一緒ようで、沙羅は店の横路地の物陰に隠れ、そっと鼠型の人魂を飛ばす。
「そろそろお前も立つようにってお頭からのお達しだ」
「あと少し待ってくれ‥‥」
「二日以内だ」
「‥‥わかった」
 それで話は切れてしまい、男は綿助を残して出てしまった。
 沙羅は仲間だろう男が行ってしまった方角をよく覚えて綿助と接触を図る。
「こんにちは」
 沙羅が声をかけると、綿助は不審そうに沙羅を見たが、開拓者であることを察する。
「ああ、開拓者かい?」
「はい。私はまだ新参者で、先輩方に依頼主様をハゲますようにと言い付かってまして‥‥」
「えっ!」
 ガタッと音を立てて綿助が立ち上がる。
「いかがされましたか?」
 勢いよく立ち上がる綿助に沙羅が声をかけると綿助は首を振った。
「逃げた子供のことについてもう少しお話を聞こうと思いまして」
「そ、そうかい。どんな事だ」
 何だか焦っているようで、綿助は沙羅に座るように勧める。沙羅は自分がいるところが上座にあたる場所だというのに気付く。
「大事な依頼主様ですからカミ‥‥ざは、えっと‥‥」
「え!」
「え?」
「‥‥」
 沙羅の様子は至って真面目。天然か確信なのかは全く分からない。


「今回のキズナさんは若侍さんなんですね」
 ちょっと寂しそうなのは雪だった。
「どんな格好が良かったの?」
 以前のご令嬢の格好が素敵でしたと答えると「今度」とキズナが答えた。
「で、キズナはどうするの」
 輝血が尋ねるとキズナは「持ち主に返したいし、盗賊を捕まえたい」と答える。
 だが、キズナ一人では到底無理だ。
「仕事なら手伝うよ」
 その分、報酬は払ってもらう。
「僕はあまりお金を持っていませんが、出来る限りの事をしますっ」
「格安にしておくよ」
 キズナの言葉に輝血が頷く。他の開拓者も同意見だ。
「そういえば、キズナが持っていったのは何だったのですか?」
 珠々が尋ねると、キズナは持っていた風呂敷の中から取り出す。
「‥‥まぁ、そうさね」
 ふーっと溜息をついた黯羽は予想した通りの物だった。
 依頼人の男との乱闘でせめて顔だけでもと脳天めがけて手を伸ばしたら大事なものごとすっぽ抜けてキズナの手元にいったようだった。
「ここの所、漢方薬のお店を回っていたのです」
「漢方薬‥‥」
 ぽつりと呟く珠々はまだピンときてないようだった。
「まだ諦めてなかったんですね」
 青嵐の言葉に珠々ははっと、脳裏に何かがよぎる。
「悪いが、そいつら捕まえるならこっちに渡してくれ」
「にゃーーーー!」
 檜崎の声に珠々が悲鳴を上げた。
「なんだィ、心的外傷でも起こしたかのように」
 黯羽が言えば、青嵐が以前、檜崎に気遣いすぎて毛生え薬を渡して怒られた経緯を話す。
「余計な世話ってぇのもあるもんさね」
「返して差し上げましょう‥‥」
 何とかの情けというように青嵐が呟いた。
「それに沙羅さんがちょっと心配です」
 雪も頷くとふと、黯羽は沙羅が依頼人の持ち物を改めてない事に気付き、青嵐はこの後の惨状に溜息をつくしかなかった。


 うどんをご馳走になっていた沙羅は嬉しそうにうどんを啜っていた。
「ツルツルしてますね」
 微笑む沙羅に綿助の体力はもうゼロに近そうに思える。
「依頼人‥‥綿助サン‥‥だな」
 はっと、綿助が後ろを振り向けばそこにいたのは開拓者。
 嗚呼、助けの女神とばかりに綿助は情けない表情だ。
「すっっごく大事なモノ、取り返して来たぜ?」
「あああああ、ありがたいいいい」
 すごくイイ笑顔の若獅の言葉に綿助が立ち上がる。
「何故、あなたは盗みにあったお店の近くで盗られたのですか」
 珠々が声をかけると、綿助はいいよどむ。しかし、いるのは女だけだ。これなら取り戻すだけなら何とかなると思った瞬間‥‥
 黯羽が風呂敷からモノを取り出し、ゆらゆら振る。
「にゃー!」
 反応したのは歓喜の雄たけびを上げた沙羅だ。
「毛虫にゃー!」
 沙羅はぴょんぴょん飛んで毛虫を取ろうと必死、長身の黯羽が沙羅の跳躍で取れそうで取れないように調節している。
「まぁ、なんと可愛らしい! 黯羽様、もう少し高さを上げてみてくださいっ」
「あああああ!」
 叫ぶ綿助だが、雪が沙羅の可愛らしさに黯羽にお願いをしている。
「盗賊団・片食の綿助ですね。役所まで来ていただきます」
「あの時の子供!」
 キズナの姿に綿助が身構える。
「毛虫じゃないにゃ」
 気付く沙羅に黯羽がそれを渡す。
「全然違うにゃ! 紛らわしいにゃ!」
 べしんと沙羅が綿助の顔に彼の命を打ち付ける。
「南無過ぎるな」
 あまりの酷さに出てきた檜崎は綿助に同情するしかなかった。


 輝血、青嵐、沙桐は先に盗賊の捕縛に入っていた。
 裏路地を走り、奏生の外れへ向かう男の前に影が現れる。
「片食の者だね」
 軽やかに着地した女に男は「何のことだ」としらを切ったが、その女は男にむかって駆け出す。肘を男の顎へと突き出し、男は寸でに避けたが女は肘を振りぬいた瞬間に男を蹴り上げた。
 悶絶している男の後ろの影に気付いた女は駆け出して隠れていた男の腕を掴み、投げ飛ばした。
「輝血御姉様、お見事です」
 女‥‥輝血に声援が入ったのは監察方の欅だ。一緒に捕縛に入っていたようだった。
「朝飯前だよ。さ、さっさと行くよ」
 輝血の呼びかけに欅がついて行った。
 監察方とキズナの情報を基に奏生を出ようとしていた盗賊達を捕まえに行っていた。

 青嵐が飛ばした幻影符に惑わされている盗賊達を沙桐が軽やかに仕留めて行く。
「‥‥青嵐君、輝血ちゃんと一緒でなくていいの?」
「できる事なら、何も考えずに一緒にいたいですよ」
 溜息混じりに呟く青嵐に沙桐がじっと彼を見つめる。
「色々と考えすぎてるとよくないよ。一番大事なのは輝血ちゃんが好きかどうかでしょ。俺は雪ちゃんと一緒にいたいって気持ちしかないんだから」
「恋敵に折梅さんがいらっしゃるんですからね」
 拗ねて青嵐が言えば、沙桐は酒でも奢るよと笑う。

 白雪が人魂でキズナを賊の方へと導く。
 人目を避けて手分けをして奏生を抜け出す賊を野放しにするつもりはない。
 結界呪符「黒」にて壁を作ったのは黯羽。
「さぁ、行くべき場所へ付き合ってやろうじゃないかい?」
 賊がよじ登ろうにも無理があり、強行突破を試みようとした時、若獅が前に立ち、一騎打ちを試みる。
 拳と拳を突き合わせてた硬直の一瞬、黒壁を三角飛びで勢いづかせて飛び、賊の脇腹をキズナが横から若獅を狙う男を蹴った。

 最後のこぼれがないか珠々が確認していると超越聴覚でようやっと聞こえる声が聞こえた。
「東の街外れに行ってごらん」
 低く少し柊真に似た優しく囁く声だ。珠々がその方向へ行けば賊が逃げ出そうとしていた。
 あっさり捕まえると「よくできました」と聞こえた。


 盗賊の捕縛後、口を割った鉤花の話を聞く為、監察方に現れたのは雪と沙桐。
 その盗賊の姿に雪は言葉を失った。
 激しい責めを受けただろうその傷は痛々しいが、的確に通常の人間ならば急所に当たるような場所にも責めの痕が垣間見た。
「‥‥もしかして?」
 同席してくれたのは監察方副主席、真神梢一。雪の様子を見て、早々に切り上げて自身の執務室に二人を呼ぶ。
「主席と羽柴様が臨場した」
「わざわざあの二人が? 仰々しいね」
「繚咲の戦いを離脱した後、理穴へ戻る際に松籟という男より依頼を受けたそうだ」
「内容は」
 雪の言葉に梢一は無意識に虚空を睨み付ける。
「麻貴の殺害だ。それをきっかけに調べたのだが、鉤花は火宵とも交流があったという事が分かった」
 その言葉に二人は反応する。しっかりとした確証はないが、葛を守ったあのシノビはやはり皆の心の中で信じてしまう。
「松籟とやらの目的は明確ではないが、考えられるのは繚咲の純血を保つ事」
 今までの事件で百響は繚咲の純血に拘っていたようだった事が窺える。
 繚咲の為に生き死にゆくのが繚咲の民の定めと。
「古き事を重んじるのは良い事と思いますが‥‥アヤカシの意のままにされたくありません」
 決意を新たにした雪に沙桐は優しく微笑んで見つめた。