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■オープニング本文 武天が統治する領地が一つ、その名は繚咲。 四つの小領地があり、それぞれに高砂、貌佳、深見、天蓋と名がある。 その小領地を纏め、繚咲を統治しているのが有力志族の鷹来家だ。 当主は若い為と此隅は巨勢王の下で働いていたが、現在、領地に巣食うアヤカシを討伐する為、当主代行として当主の叔父である緑萼に任せている。 この男の仕事は事務的、冷徹、誠実。 常に繚咲の為を思う。 ゆえに己の利を考える繚咲の有力者には嫌われている。 基本的に緑萼は昼間の八割が自身の執務室に篭っており、ひたすらに仕事をしている。 「緑萼様」 「なんだ」 どこからともなく聞こえた声に彼はそっけなく答える。その声は繚咲を護る護衛部隊、天蓋のシノビ、架蓮。 基本的には沙桐の護衛でもある為、あまり自分には用はない。あるとすればそれは‥‥ 「これを」 渡されたのはくしゃくしゃになった紙だ。 丁寧に広げると、ひらがなのみでようやっと読める文字がのたうっていた。 むらに ぞくがおそいました かねも こめも ありません どうか わけてください 繚咲の外、貌佳方面近くの村の者が貌佳の有力者に直訴をしたが、その有力者はそれを無視し、手紙も丸めて庭に捨てたそうだ。 丁度、貌佳を回っていた天蓋のシノビが気になって拝借したと架蓮は言った。 報告を聞いた緑萼は「そうか」と頷く。 「その者によくやったと伝えておけ」 さっと、立ち上がった緑萼はすたすたと向かったのは管財人、折梅の方だ。 緑萼は架蓮と共に折梅の部屋に赴き、事情を話した。 「して、貴方が来たのは?」 「米と新しく入ってきた野菜、そして種を分ける許可を」 折梅が尋ねると、彼は即座に自身の希望を言った。 「わかりました」 管財人不在ならば当主代行の緑萼一存で決められるが、管財人がいるのだから彼女の許可は要る。 「最近、高砂にて殲滅したアヤカシのおかげで動かせる人間がおりませんので、開拓者を呼ぼうと思います」 「護衛兼、運び人ですね。いいと思います。確か、あの村には秘湯がありましたわね。架蓮、ちょっとおねがいね」 「母上!?」 うきうきと折梅が言い出すと緑萼が止めるような声を上げる。 「あの場所にはまだ賊がいるやもしれませぬ!」 「開拓者の皆様ならば大丈夫ですよ。折角ですので、貴方もいらっしゃい」 旅行にでも行くかの気軽さで折梅はそう言う。彼女には逆らえない緑萼は肩を落としつつ、それに従った。 開拓者達を連れて米俵を乗せた荷を引くのは天蓋の傭兵部門の長である蓮誠だ。 因みに折梅も乗っている。 その傍らには緑萼も歩いていた。因みに、鷹来家の本屋敷にはそれぞれの影武者を残してきた。 目的の村に着くと、緑萼が手紙を掲げる。 「この手紙を書いたものはいるか!」 朗々とした緑萼の声に村人達はおずおずと顔を見合わせ、その誰かを視線で探していく。 誰もが見たのはまだ成人したばかりだろう少年。 「おれ‥‥です」 「もう、案ずるな。この米や野菜はお前達のものだ。また畑を耕し、冬の野菜を作るのだ」 緑萼の言葉に少年の目から涙がこぼれる。 「おさむらいさん‥‥ねえちゃんがさらわれた‥‥」 ぼろぼろと涙を零す少年に開拓者達に緊張が走る。 少年の話によると、一度村を荒らした賊たちは再び現れて、少年のお姉さんを攫ったとのこと。 方向は南東の方だという。 「開拓者殿達よ、この少年の願いを叶えてくれ。報酬はその分払う」 緑萼の言葉に開拓者達は頷いた。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
御簾丸 鎬葵(ib9142)
18歳・女・志
源三郎(ic0735)
38歳・男・サ
リーズ(ic0959)
15歳・女・ジ |
■リプレイ本文 再び村へ襲ってきた恐怖と更なる蹂躙の跡を見た開拓者達は言葉を失った。 「大丈夫!?」 一人の若者の額から血が流れている事に気づいてリーズ(ic0959)が支える。 よく見れば、他に数人、賊と戦ったのだろうか怪我をしているようだ。 「雪殿、術を」 「はい!」 御簾丸鎬葵(ib9142)が声をかけ白野威雪(ia0736)は呼びかけに応えるように雪の身体に淡い光が纏われ、その光が村人達へと放たれる。 柔らかく優しい光は理不尽で傷つけられた村人達を癒していく。 美しい光を見ながら輝血は目を細める。 「最近、こういうの増えたね‥‥」 輝血の呟きは折梅の耳にも聞こえており、彼女は普段見ることのない沈痛な硬い表情で頷いた。 「情けない話、最近よく見受けられます」 「そんな酷い事する人達ほかってはおけないんだよ!」 ぷんすかと怒っているのはフレス(ib6696)だ。出身は違えど、同じ獣人のリーズは首を傾げている。気づいた折梅が「放ってはおけないということですよ」と教えた。 「いつの世も、力の蹂躙に苦しむのは戦う術を持たぬ者達です‥‥」 「こういう手合にゃ‥‥一発キツいお仕置きが必要だね」 鎬葵の言葉をモユラ(ib1999)が繋ぐ。 「あっしが正面から喧嘩を売ります」 源三郎(ic0735)が囮になることを伝えれば全員が頷いた。 「折梅、酒、期待してる」 一足早く動いたのは輝血(ia5431)だ。 「ご安心を。季春屋より秋の新酒を用意しておりますよ」 季春屋は武天に店を構える酒屋だ。 「私達は村を護っています。どうか、よろしくお願いします」 折梅がそう見送った。 先を走るのはシノビの輝血と珠々(ia5322)だ。 周囲の様子を先に確認する為に駆ける。次第に二人の耳に入ってきた音は目標の声に違いないと確信する。 更に走って林の中に入る。繚咲の境目の林。ここを抜けると貌佳に出る。 あまり声が通らないところから、建物の中にいると二人は判断した。 程なくして蔦などが張り巡らされたあばらやが現れた。 木々があるので、隠れる所はなくはないが、場所によってはアヤカシがうろついている。 目で合図し合い、珠々が他の開拓者達に報告へと走る。 横目で輝血が珠々の背中を見送り、輝血はそっとため息をつく。 浚われたといえば思い出すのが緒水だ。葛も浚われたことがあった。 開拓者の依頼には人を助けることも一環となっているのはわかるが、過去の自分とは違ってきている事に少なからず意識しだしているのか、体と心の差が開いて自分でも混乱しているのがわかる。 「‥‥葛先生なら、どう言ってくれるだろ‥‥」 ぽつりと輝血が呟いた。 後続組と合流した珠々はことを伝えた。 「お姉さん、まだ無事だったんだ。よかった」 ほっとした声を上げるのはモユラだ。 「油断は出来ませぬが、機会を見て救出しやしょう」 源三郎が言えば、珠々を加えてあばら家へと向かう。 道中、リーズは珠々より隠れられそうなところがないか尋ねており、裏から逃げ出せられそうな場所を珠々が伝える。 あばら家の中では賊達が酒を飲みながら先ほどの事を思い出しては笑っていた。 自分達にただ蹂躙されるだけの村人達の弱さは滑稽なものであり、自分達の強さを誇示されたようで賊達には堪らなく面白いものだ。 「俺達に歯向かおうなんて馬鹿だよなぁ」 「大人しく殴られればいいんだ」 全くだと全員が馬鹿笑いをしている。 超越聴覚を使わなくても開拓者の耳ならば聞こえる。聞くに堪えない言葉を外で聞いていた輝血は「下衆め」と蛇の如く目を細め、あれっと、自分が今何を思っていたのか目を瞬かせる。 「輝血殿」 鎬葵が声をかけると、輝血は「まだ無事だよ」と耳打ちする。 こんなところで娘が連れ去られたのであれば、最悪の状態も考えられる。 「いこう」 モユラが言えば、全員が配置に動く。 裏から回るのは輝血、珠々、リーズだ。 回り込むのを念頭においてリーズが猫足を使って裏へと回る。枝、蔦があれど、戦闘体制をとっているわけではないので難なく配置についた。 残りの面々が正面と回る側。 「行きやす」 源三郎の言葉に鎬葵が頷いたのを横目で確認した源三郎は視線と意識をあばら家へと向ける。 小袖の裾をたくし上げ、思い切って戸を蹴破る。 志体持ちの力と立て付けが悪さで朽ちかけていた戸はあっさりと壊れてしまった。 いい気分で飲んでいた賊達は戸が壊れる音に害したのが、怪訝そうな顔をよこす。 「堅気をいじめるしか能のない三下どもが!」 咆哮を交えつつ、源三郎が叫ぶ。 「何だお前」 「てめぇらに切る仁義もねえよ!」 賊の一人が言えば、源三郎が怒りをこめて返す。 「物を返すんだよ!」 フレスも怒って宣告するも、可愛い過ぎる。 「ぷ」 「ははははは!」 「かわいーお嬢ちゃんだな」 賊たちがフレスの可愛らしい怒りに笑っていると、雪が厳しい表情へとなる。 「笑い事ではありません。娘さんをはじめ、奪った物すべて返しなさい」 凛とした雪の声に賊達が興味を向ける。 「じゃぁ、あんたが相手してくれるっての‥‥」 賊の一人が雪に手を伸ばそうと歩き出すと、眼前に刀が突きつかれて手を止めた。その刃は炎に護られていた。 「奪略者ども、大人しく縛につけ」 雪の隣に立つ鎬葵の金の瞳は刀に纏われている炎にも負けぬ怒りの炎を燃やしている。 他の開拓者達のやり取りを見ながら源三郎は頭目格を探すもいないように感じた。ただ、まとめている賊の目星はついた。 「覚悟しやがれ!」 剣気を含ませた怒号は目標の賊の肝を冷やすのに成功し、小さく「ひっ」と悲鳴をこぼす。瞬時の気の緩みに気づいた源三郎が駆け出して脛を打ち、転ばせる。 「兄貴!」 「やりやがったな!」 纏めている賊が転ばされて殺気が源三郎へと向けられた。賊達が動き出した瞬間、昼間の星が流れる。その星は賊の顔面へと叩きつけられて賊はそのまま仰向けに倒れた。 「天網恢恢疎而不失。お縄について、きっちり償いな!」 星は軽やかにモユラの元に戻る。 「や、やっちまえ!」 残るは四人。まとめ役が復活した。うち一人は中へと走り出す。金と娘をつれて逃げる魂胆だ。 「や‥‥」 か弱い力で抵抗しようとする娘に男が叩こうとして手を上げた瞬間‥‥ 背を大きく打つ蛇の回し蹴り、顎をえぐるわんこの喧嘩殺法頭突き、顎と挟み込む黒猫の踵落としが一斉に決まる。 「大丈夫?」 リーズが手を差し伸べて問うと、娘はその手をとり、ぽろぽろと涙をこぼして何度も頷いた。 娘の怪我に気づいた輝血が雪と鎬葵が対峙する賊の方へと向かう。 輝血がこちらに向かう理由を察して鎬葵が道を空ける為、賊の腕を払った。その隙間を雪が駆けて中へ入る。 賊と開拓者の力の差は歴然。 見事に賊を捕らえ、源三郎と輝血の詰問で頭目格数名は貌佳の中で用事を済ませており、ここ数ヶ月不在で下っ端たちは近隣の村を襲い、飢えを凌いでいたそうだ。 小屋の中でリーズはきょろきょろと探し物をしている。 「リーズ殿、いかがされましたか」 鎬葵が尋ねると、村のお母さんが大事にしていた簪を盗られた話を聞いてリーズは取り返したいと思っていたようだった。 「ともなれば」 話を聞いていたモユラが賊の懐に腕を突っ込めば、一人から出てきた簪を見つける。 「よかった」 ほっとしたようにリーズが笑顔となる。 村人達に娘と金と食料が戻ってきた。 一部は戻ってこないが、それは頭目格に弁償してもらうことにし、手配をかける。 不安が取り除くと、出てくる本能が食欲だ。 「腹が空いちゃ、始まりませんぜ」 源三郎が言えば雪も手伝うと声をかける。 リーズが思い出したように折梅の方へ向かう。 「ボク、ここの料理ってあまり知らないから教えて!」 「この折梅の味でよろしければ、一緒に作りましょう」 「ボク、天ぷら作れるようになりたいんだよ」 フレスが言えば折梅も一緒に作りましょうと頷く。 別の場所ではモユラと鎬葵が荒らされた場所を片付けていた。 「よかったね、畑とかは荒らされてなくて」 ほっとしたようにモユラが微笑む。 「荒らされた畑の野菜は収穫した後だったもので‥‥おかげで何とかなります」 「手伝える事はありまするか。力仕事なら手伝えますゆえ」 開拓者達の申し出はありがたく、村人達はここぞと甘える。 とはいえ、賊は重たい物を壊したりはしてなかったようで、本当に暴力をかざして恐怖を与えていたというのが理解できる。 「頭目格が早くつかまるといいね」 「今、蓮誠が手配をしておる。心配するな」 枯れ木を小脇に抱えた緑萼が通りすがる。彼も片付けていたようだった。鎬葵は目を瞬かせて緑萼が賊が散らかしただろう枝を拾っている姿を見る。 料理をしている方では源三郎が割烹着姿で下ごしらえをこなしていった。 「わ、里芋が六角形なんだよ」 「これは煮っ転がしに使う。ぬめりは塩で洗っとくれ」 フレスが感嘆の声を上げると、源三郎は面映い気持ちになり、フレスに里芋の下拵えを教える。 「筋がいいな」 「私だってお嫁さんになるんだよ。神楽の都に帰ったら旦那様になる人に作って、食べて貰うんだよ」 やる気満々のフレスに源三郎はきちんと教えねばと気合が入る。 リーズは折梅より金平を教わっていた。 丁寧な教えにリーズも真剣に聞いて一緒に作っている。 香ばしい醤油の香りがたち、鍋に醤油が蒸発して何ともおいしそうだった。 「おいしそう!」 はしゃぐリーズに折梅も笑顔がこぼれる。 「味見はいかが?」 ぱくりとリーズが食べると、牛蒡のしゃっきりとした食感と甘辛い味付けに笑顔になる。 「んー、おいしーっ。ボクも作って友達に食べてもらおう!」 「喜んで貰えるといいですね」 折梅が言えば、リーズが笑顔で頷く。 折梅の酒を貰い、温泉で先にまったりしているのは輝血と珠々。まだ珠々は酒は飲めない。 「あ、珠々ねえさま、先に入ってるなら言ってほしかったんだよ!」 フレスが声をかけて、他の女性陣も入ってくる。 「湯加減どう?」 長い髪を結い上げるモユラが尋ねると、先にたゆたっているというか、茹ってる珠々が「いい感じです」と答える。 「どれ」 少し熱めであるが、それがまた気持ちがいい。 「温泉いいねぇ」 手足を伸ばすモユラに珠々が「温泉は最高です」と答えた。 やっぱり珠々としては気になる悩み事がある。 皆結構、「成長」している。自分はまだまだ。 「やっぱり、人参食べないとダメなんでしょうか‥‥」 ポツリと呟く珠々にモユラはうーんと、首を傾げる。 「そればっかりは仕方ないんじゃないかな」 じっと見やるのは雪と談笑している鎬葵だ。 「いかがされましたか珠々殿、モユラ殿」 視線に気づいた鎬葵が首を傾げると、二人はなんでもないと首を振った。 宴が始まり、村人達も大いに食べ飲みしている。 源三郎が作ってくれた料理も美味しいと気に入ってくれており、彼も嬉しそうだ。 「兄さん、飲まねぇのかい?」 「いやいや、あっしより、皆さん飲んでくだせぇよ」 村人に誘われるが、源三郎はやんわり断りつつ温泉へと向かう。 人の笑顔はやはりいいものだ。 温泉に誰もいないことを確認し、源三郎は温泉に入る。 自分は長く渡世人であった。暗く、怒号が走る場所の用心棒は心が澱んでいっていた。 その頃、ふと見た自分の眼が濁っているようにも今は思える。 やくざ者との乱闘で受けた傷で刺青は入れられないが、人を恐れさせるには十分なものだと源三郎は思う。 湯で自分の過去や傷は洗い流せない。だが、自分が再び誰かを笑顔にさせるという今日は何ものにも変えられないものであると彼は夜に輝く月を見あげた。 珠々とフレスが二人揃って折梅の前に座る。 「おみやげです!」 渡されたのは神楽之茶屋のみたらし団子。とある開拓者贔屓の素朴で飽きのこない味がよいと有名だ。もう一つは肩たたき券。 「まぁ、嬉しいわ。早速お願いしてもいいかしら」 折梅が券を出すと、珠々とフレスが折梅の肩をたたく。 そんな微笑ましい光景を見ながら鎬葵は緑萼に挨拶をし、茶を立てる。 緑萼は茶を一口のみ、口を開く。 「以前、お主が会った大理だがな」 「はい」 「少し人が変わった」 彼がそう言うと、鎬葵は目を瞬かせる。 「あれは見た目ではよく分からない奴だが、確実に変わった。葛先生とも手紙をやり取りしているようだ」 鎬葵は目を伏せてそっと口元を笑みに変えた。 鎬葵と緑萼の様子を見ていた雪は輝血にお酌をしている。 「雪、成長してるね」 唐突に言われた輝血の言葉に雪は次の言葉を待つ。 「沙桐と結ばれたから? あたしはよくわかんないけど‥‥」 俯く輝血に雪は微笑む。 「私には私の成長はよくは分かりませんが、輝血様も成長されてますよ」 「そうかな‥‥」 自分はかわってないと輝血は思うが、雪はにっこり微笑む。 「だって、私と仲良くしてくださりますから」 どう言っていいのか分からず、輝血は「そうなのかな」と自問自答する。 「タマもいつかは雪みたく誰かと結ばれるのかな」 「‥‥麻貴様が許しますでしょうか」 「過保護」 折梅の肩をたたいている珠々を見て二人は彼女の未来を思い描く。 「二人とも飲んでる!?」 飲んでいるモユラも入ってきた。 「モユラも飲みな。遠慮すんなし」 輝血が銚子を差し出すと、モユラは自分の杯を出す。 「頂くわよ♪」 注がれた酒をモユラはすいっと飲み干す。 「いい飲みっぷりです。私はお茶を頂きます」 「はいはーい」 雪の要望にモユラがお茶が入っている急須を手に取る。 リーズは村人達と飲んでいた。 よく見れば、誘拐された娘もおり、声をかける。娘からまだ精神的疲労が取れていないのが見て取れる。 「大丈夫?」 「助けていただき、ありがとうございます」 「折角だから、天儀の話、聞かせてくれる?」 そう言うと、娘はこの辺の昔話を教えてくれた。 この近辺の地はもともと、小さな集落のあつまり。 アヤカシが人を喰う事もあった。それらを倒した一人の女剣士がいたという話だった。 「それよりも、ジルベリアの話を教えて!」 子供に言われてリーズは両親から聞いた話をしはじめる。 頭目格の手配を済ませ、戻ってきた蓮誠を出迎えたのは鎬葵だ。 「お帰りなさいませ」 「ただいま戻りました」 鎬葵が待ってくれていた事に蓮誠は驚きつつも、照れた様子で言葉を返す。 「折梅様と緑萼様はあちらに‥‥」 察してくれた鎬葵の気遣いに感謝しつつ、蓮誠は主たちに報告をする。 その間に鎬葵は蓮誠の分の料理を取る。 「お疲れ様でありまする」 酒は控えるだろうと思い、鎬葵はお茶で蓮誠を労わる。 「貴女に迎えてもらうのは、その‥‥嬉しいものです」 顔を茹蛸にして言う蓮誠に鎬葵は蕾から開く花のような笑顔を見せる。 彼女にとってもこの時間は大事なものだから‥‥ 薄雲が月を隠してもその宴は賑やかに過ぎていった。 |