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■オープニング本文 現在、泰国では王様絡みの大事件が起こっている。 国の危機から全く離れたところにある海辺の村。 そこに一つの依頼があった。 誰もが泰国の事件に目を向けている為、隅にこっそりと貼られてあった。 「泰国の依頼よ」 張り紙に目を向けたのは巫女装束の少女。隣を歩いていたサムライと思しき少年が少女の声に反応する。 「ふぅん、魚を奪うアヤカシか。人を喰らうんじゃないのか」 あまり興味のなさそうな少年だが、少女はじっと見つめるのは張り紙の一部分。 少年が何かに気づくと同時に少女が目を輝かせて少年の方を向き直る。 「緑葉、行こう!」 「ちょ‥‥おま、アヤカシだぞ」 「わかってるわよ! でも行きたい!」 少女はどこか気弱そうな印象を受けるが、目を輝かせて言い出すと梃子でも動かない。やると言ったらやる有言実行者。 「他の開拓者が居れ‥‥」 「すいませーーーん! この依頼、一緒に行ってくれませんかーーー!」 「菊ーー!!」 緑葉と呼ばれた少年が言い切る前に菊と呼ばれた少女が近くの開拓者に声をかけた。 なんとか依頼を果たしに現れた開拓者。 まずやったのは‥‥ 「釣りをしましょう!」 目撃者より、どんなアヤカシかは怖くてよく見えなかった、怖くて覚えていなかったと言われた。 ここはどんなアヤカシか確認する為に魚を釣って様子を見ることになった。 複数の小船に少数で乗り込んで魚を釣る。 かなり沖の方までこいでいく。 「島がとおくなってるー」 「折角だから沖まで行こうぜ」 本日は晴天、見事な秋空がひろがる小春日和なり。 ‥‥‥‥ 「きもちいいなぁ」 「おべんとうもってきました」 「きがきくねー」 「このままひるねしたい」 もう、アヤカシなんていいよねとか心によぎった際に緑葉が持っていた竿に反応があった。 「なんか、重‥‥!」 「でかいぞ!」 「離すな」 開拓者達が力を合わせて釣り上げたのは大きなマグロ。 何とか釣り上げると、漁師さん達も驚いてくれた。 「これはたまげた!」 「拓とろう!」 わたわた紙だの墨だの用意して拓をとっていると、地響きのような音が聞こえてきた。 この辺に山はない。竹林があるだけだ。 とりあえず振り向くと虎だ。白い虎が豪速で走ってくる! しかも、でかい。 全員、魚から離れていた。 「あ」 大きな大きな虎はぱくっと、魚を咥えた。虎は速度を落とさず、後ろ足を滑らせるように尻を振りながら竹林の方へと走っていった。 「アヤカシ‥‥あれか」 ぽつりと開拓者が呟いた。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
薔薇冠(ib0828)
24歳・女・弓
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
アーディル(ib9697)
23歳・男・砂
リーフ(ib9712)
16歳・女・砂 |
■リプレイ本文 「と‥‥虎まっしぐら‥‥!」 天河ふしぎ(ia1037)の言葉にほかの者達の視線が彼へと向けられる。 「べ、別にびっくりとかしてないんだからな!」 全員の視線を受けてふしぎが慌てて取り繕う。 「確かに、虎も飛びつくくらいに大きくて美味しそうなお魚だったけど!」 更に叢雲怜(ib5488)が被せてきたが、彼はアヤカシの怒りへと向けられている。 「俺は怒ったのだ! ぷんぷんなのだーー!」 両手の握り拳を天高く突き上げるように怜が怒りを露わにする。 「人間への被害がないのは結構なことだが、魚を奪われるのは許せん」 淡々と呟くのは狼の神威人であるリーフ(ib9712)だ。静かな言葉にはアヤカシへの怒りがあるが、それ以上に彼女のふさふさの尻尾は怒りの表現を雄弁に表現している。 「かなりおこだね。まぁ、あんな大物とられたら漁師にとっても大変だろうしね」 ふぅと、ため息をついてちらりと竹林の方へと見やるのは鞍馬雪斗(ia5470)だ。 「しかし、手強そうだ。気を引き締めていかないとな」 アーディル(ib9697)が言えば菊と緑葉が頷いた。 まずは漁師より魚を分けてもらうことになった。 この辺りの魚はどうやら豊漁のようで、大きい魚が結構でるようだった。 「本当は、お前さん方のお礼用の魚だったんだがなぁ」 漁師がそうぼやきつつ、魚を用意している。 「次こそはしとめる」 じっと、魚を見つめてリーフが断言した。 「新鮮なのはわかるけど、だからって飛びつくのは止めてくれよ‥‥?」 リーフの背後から声をかけたのは雪斗だ。 「これ、持って行きます」 緑葉が雪斗の指定する場所まで魚を持っていくと雪斗はフロストマインを魚の周囲にかけていった。 「菊ちゃんも近づかないようにね。猛烈な吹雪で風邪引いちゃうよ」 「は、はい!」 魚に釘付けの菊に雪斗が声をかけると、菊は心を読まれたように肩を竦ませる。 「とりあえず、治療頑張ります!」 「頑張って」 菊の抱負を聞きつつ、雪斗は自身も巫女であるのにと少々歯がゆく思った。 「菊ちゃんにはいい修行じゃないのかな」 二人のやり取りを見ていたふしぎが言えば、雪斗は目を伏せてふうと、ため息をついた。 「先輩開拓者の務めってやつ?」 「道は示さないとね」 雪斗の言葉にふしぎはにこっと笑顔で返した。 「さて、虎は見えるかな」 ふしぎが呼び出した人魂は竹林の方へと向かっていく。 緩やかに旋回して竹林へと入っていく。 「偵察?」 怜が尋ねるとふしぎはこくりと頷く。 「一匹とは限らないしね」 小鳥は竹林の中へと入っていき、ふしぎは更に小鳥の視覚へ集中する。 竹の生えている間隔は長剣を振り回すには些か不利とふしぎは判断した。 遠距離が難しいからやはり竹林から引きずり出す算段がいい。 更に奥へと向かえば、虎がいた。 はっと、目を見開いたふしぎだが、目を細めるように意識を集中する。 虎は一匹ではなく、二匹だが、小鳥の視界ではしっかりとらえられない端というか、魚を食べるアヤカシの陰で何かが動いているような気がする。 「うーううーーん」 これ以上近寄っては小鳥が見つかる可能性がある。 ぽんと、ふしぎの肩が叩かれて彼の意識は自然と戻ってきた。 「無理はするものじゃないな」 アーディルの言葉にふしぎはこくりと頷いた。 「とりあえずは待つか」 ゆらりとリーフの尻尾が揺れた。 待っている間、雪斗がアヤカシの位置を探っていた。 ふしぎが人魂を通して見損ねた何かを確認するためだ。 「‥‥アヤカシだね」 雪斗が断定すると、ふしぎはうーんと唸る。 「大きいのが二体いるのは確認できたんだけど‥‥子虎とかいるのかな」 「魚を奪うのは親虎の役目か」 「見た目の話だけどね」 ふむと呟くリーフに雪斗が答える。アヤカシに親子の定義は存在しない。 一刻は待つと思っていた開拓者達であったが、それはあっけなく訪れた。 バダドサイトで竹林を監視していたリーフが笹の揺れに気づいた。 「あんな大きな魚を食ったのにたりないのか」 「人間じゃないと満腹にはならなさそうだけど」 眉を顰めて竹林の中にいるだろう虎アヤカシを睨みつけるリーフにアーディルが呟いた。 「アヤカシだし、しょうがない」 そう呟いたのは雪斗だ。 竹林より出てきた虎アヤカシはやはり大きく、菊はのけぞってしまう。 「菊姉ちゃん、下がってるんだぜ!」 「俺達に任せろ」 怜と緑葉が菊の前に飛び出す。年少組の微笑ましいやり取りをアーディルは横目で見つつもすぐに虎アヤカシへと視線を向ける。 「まだ一匹だな。四体出てくるまで引きつけるか」 「逃げられないように回り込むよ」 魔槍砲を構えるアーディルの背後からふしぎが駆け出す。 「先手を取る!」 緑葉が飛び出した時の気合と共に咆哮を発動させる。 虎アヤカシはその咆哮に乗り、緑葉の方へと走り出す。緑葉は大きなアヤカシに少し怯みながらも、負けん気で剣を構える。 ちらりと雪斗がリーフの方を見やれば、彼女は走り出していた。その素早さに砂狼を発動した 「目を瞑れ」 注意を叫んだのはアーディルだ。魔槍砲が輝き、光が虎アヤカシへと向けられた。放たれた光は四方を発光する。 開拓者達は目を瞑ったのが功を成し、虎アヤカシは閃光弾が目に直撃しており、悶えている。 更に足に一閃、刃が走り、虎アヤカシは咆哮を上げる。懐に飛び、虎アヤカシの足を斬っていたリーフは即座に間合いをとるが、視界を奪われた虎アヤカシは前も見えずに暴れまわっている。 「うわっ」 前に出ていた緑葉が虎の爪に襲われる数瞬前に怜がマスケットで一発撃ち放った。その弾道はクイックカーブで直角に曲がり、アヤカシの顎を砕く。 続いて空より紫電が爆ぜり、雷へ生成して瞬きより早く虎に電撃を落とした。 ふと、怜が何かを察し、雪斗に声をかける。雪斗が即座に結界を発動させると瘴気に気づいたのだ。 「もう一体来る」 雪斗の断言と共にふしぎは挟み撃ちにならないように間合いを取り、ウィマラサースを発動させた。もう一体の虎アヤカシはリーフが撒いていった撒菱を容易に蹴散らかしていった。 ふしぎは短銃を構え、もう一匹の虎アヤカシへ銃弾を撃ち放つ。 「境界線は越えさせやしない」 そっと目を細めてリーフが言い放つ。自分達の後ろには美味しい魚があるからだ。 「えい!」 菊が放った白霊弾はアヤカシに対してではなく、撒菱を遠くへ飛ばす為。仲間の開拓者の動きが阻害されないようにという配慮だ。 「うかうかしてられないな」 くすっと、微笑むふしぎが新しく現れた虎の後ろに回り込む。 「これ以上は好きにさせやしない!」 雷剣を構えたふしぎが虎へ斬りかかる。虎もまた、大人しくやられる気はなく、飛びかかる。 アーディルとリーフも加勢し、一気に叩こうとする。 「にゃっ」 「にゃぁっ」 戦場には似合わない鳴き声が聞こえた。 「なんだ」 「何?」 虎と戦いながらも開拓者達の意識はそちらへと向けられる。 「あ!」 いち早く声を上げたのは怜だ。 「赤ちゃん虎ーーっ」 目を輝かせるのは菊。彼女の視界には撒菱を踏み、もだもだと地面に背中をこすりつけて手足をばたばたさせている子虎アヤカシ。 見た目も目つきが少々厳しいが、それ以外はただの子虎。むしろ猫のようだ。 しかも二匹なのだから、お互い撒菱を払いたいのだろう。一見すればじゃれあっているようにしか見えない。 「大きいのが戻ってこないから来たのか、人間に気づいたか‥‥」 リーフが冷静に判断を下していると、怜は表情を険しくなっている。 「どうした」 様子に気づいたリーフが問いかけると、怜は困惑しているようでもあった。 「すごく‥‥かわいいのだ‥‥」 魅了の能力は天然ものだろう。かわいい物好きなら勝手に一時的戦闘不能にしてしまう。 「だよね」 アーディルが見ているのは菊の方。彼女もまた子虎の魅力に負けてしまっている。 「すごくかわいい‥‥」 「惑わされるな菊!」 とてもめろめろになっている模様で緑葉が必死になって止めている。 「子虎でもアヤカシはアヤカシ。いつかは人をたべる」 冷静に真理を言ったのは雪斗。 「できないなら、こっちでやるよ。可愛いとはいえ、アヤカシはアヤカシ。開拓者のつとめはアヤカシを倒すことだから」 前に出たのは雪斗だ。 「だ、大丈夫なんだぜ‥‥! 戦場では心を惑わされたら駄目ってママ上が言ってたんだぜ!」 気を持ち直した怜が再びマスケット銃を構える。狙う先は子虎だ。 「えい!」 気合いと共に撃ち出された強弾撃は見事子虎を射抜いた。 「わ、私だって、惑わされましたがまけません!」 先輩方開拓者の言葉に菊も惑わされた心が吹き飛んだのか、怜に続いて白霊弾を放つ。 「あっ!」 子虎は菊の攻撃をよけて菊の方へと向かう。 「気合だけでもよし」 雪斗の言葉と共に子虎に止めのサンダーが下された。 「向こうは終わったようだな」 アーディルが言えばリーフが頷く。一気に決着をつけようとアーディルが魔槍砲を構え、大虎を見据える。 飛び掛る虎アヤカシの顎を狙い槍の穂先を振れば、虎はぐらりと巨体を揺らす。それでも虎は動きをやめない。 先ほど奪っていった魚同等の魚、それよりもアヤカシの本能が美味と感じる人間がいるのだから。 二振りの刀を抜いたリーフが駆け出した。虎もまたリーフへ鋭い爪を向け手にかけようとする。間合いに飛び込んだリーフの頬を虎の爪が掠めたが、彼女はそのまま突きの構えで進み刀を返して虎の肩から横腹を切り裂いた。 軽やかにリーフが間合いを取ると、次に前に出てきたのはふしぎ。 先ほどまでは雷剣が握られていたが、今は違う。 マグロだ。 先ほど虎アヤカシが咥えた魚と同じ見た目、同じ大きさ。囮とはいえ、上手くいったらみんなと食べる予定だったのだ。 「今まで食べられた魚の恨み、身を持って思い知るといいんだからな!」 思いっきりマグロ‥‥もとい、砕魚符の魚を振り上げ、力の限り虎へ改心の一撃を落とした。 ● アヤカシとの戦闘が終わりフロストマインの効果が切れるなり、漁師が魚を切って、加熱調理を始める。 菊も一緒に手伝っていると、他の漁師が現れた。 「船から見てたぞー」 「強かったなぁ」 「差し入れだぞ」 漁師達が今獲れたての魚を差し入れしてくれた。 「わ、大きい!」 「いいのか?」 顔を明るくさせてふしぎが魚を受け取る。その様子を見たリーフが尋ねると漁師達は笑顔で頷いた。 「あんなバケモノ、俺達にはどうにもできねぇからなぁ」 「感謝の気持ちだ。食ってくれ」 「そう言ってくれるのは嬉しいけどな」 アーディルは笑顔で答えた。 「お刺身がいいなー」 「おう、今捌いてやる」 怜の要望に答えて漁師達が手早く魚を捌く。 「早い‥‥」 「まぁ、本来台所仕事は男の役目だしね」 手際のいい漁師の仕事を見て呆然とする緑葉に雪斗が口を挟む。 「とりあえずは料理を楽しむか」 控えめに好意はありがたく受け取る事にしたリーフだが、尻尾は雄弁だ。 「みなさーん、お魚料理出来ましたよー」 菊が声をかけると刺身、焼き魚、煮魚が卓に並べられていた。あと、白いご飯も炊きたてだ。 「んー、うまいんだぜー♪」 新鮮な刺身に怜が舌鼓をする。新鮮な魚の刺身は味が濃く、身も弾力があるが噛んで行くうちにとろけていく。 「煮た魚も美味しいなぁ♪」 煮魚は味噌をメインとした濃い目の甘辛い味付けだ。少しだけ塩味がついた野菜炒めと一緒に食べると煮魚の味が中和され、野菜の甘みも一緒に味わえる。 「お魚は味噌と秦の調味料で炒め煮にしたものがあるので、それをおにぎりにしますので帰りのお弁当にしましょう」 「それも美味しそうだ。帰りが楽しみだな」 菊が言えば、煮魚を堪能していたふしぎがご飯のおかわりをする。 「私もだ」 ふしぎと同時にリーフもご飯のおかわりを所望する。黙々と食べており、その間も尻尾はぶんぶんと振られていた。 食事の後は帰る時間まで各々の時間ですごす。 「怜、そこ押さえて」 「わかった」 緑葉と怜が砂浜で砂遊びで城っぽい何かを作っている。 「ここ、ひび割れているから水で修復するといいんだぞ」 何か危なっかしい二人組を見かねてふしぎが海水を汲んできてひび割れ部分に水分を含ませて修復する。 「ここも補強するといいんだぞ」 てきぱきとふしぎがてこ入れを始めるとしっかりしたつくりになっていく。 「なんだか楽しみなんだぜ」 怜の言葉に緑葉が頷いた。 木陰では雪斗がタロットカードで菊に占いをしていた。 占いが出来ると聞いて菊が雪斗にごねたようだ。 「まぁいいよ。占ってあげるけど、結果見ても知らないよ」 因みに運気は上々でいい展開になってくる。 今まで自分磨きをしていた成果が表れそう。 恋愛運はすぐそこにある。 「えー。すぐそこにあるんですかーっ!」 「‥‥気づくかどうかは自分次第だよ」 聡い雪斗はしっかり気づいている。こちらをちらちら見ている緑葉に。 小船を出してもらって釣りをしているのはアーディルとリーフだ。 「‥‥アーディル、釣れてる?」 ゆっくりと尻尾を揺らして尋ねるリーフに釣竿を持っているアーディルは「まぁ‥‥な」と答えた。 くんっと、アーディルの竿の釣り糸が引っ張られた。 「よっと」 水面下の魚が水面を尾鰭で叩き、水飛沫をあげてまだ高い日の光が水飛沫と反射してキラキラと輝いている。釣り糸で釣り上げられた魚はまだ泳ぎ足りないと訴えたいように尾鰭を振っていた。 「結構、大きいね」 「だろ?」 リーフの褒め言葉にアーディルは満足げで笑顔で頷いた。 「合戦の最中‥‥というのを忘れるくらい‥‥なんだかのんびりだな」 「そうだな。こんな場所があってもいいんじゃないかな?」 空を見上げるリーフが見つめる先は今自分達がいる国の行く末‥‥ |