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■オープニング本文 武天が領地に繚咲という場所がある。 そこの北部に魔の森に侵食されていた。長い間、主は密やかに生息していた。 ここ数年、魔の森の主が姿を現すようになってきた。 そのアヤカシは繚咲を外敵より守ってきたと言っていたが、その素性は繚咲を攻撃しようとしていた領地から人間を駆逐し、食料としていた事が判明した。 何よりも繚咲を統治する鷹来家の血筋に拘っていたのはアヤカシの身体の元となった女が繚咲という領地を築き上げた人間の血縁とそのアヤカシは答えた。 アヤカシは討伐され、詳しい事は藪の中へとなった。 しかし、まだ遣り残したことがいくつかある。 その一つに貌佳領主が何故、アヤカシを匿っていたのか、貌佳領主が管理している屋敷の中にいた青年は何者なのか。 百響討伐直後、沙桐に通達されたのは屋敷の中に今まで行方不明になっていた天蓋のシノビが数名いるという報告。 行方不明になったシノビはどれも腕利きのシノビばかり。 拘束しようものなら牽制されてしまうという。 実力のあるシノビは百響討伐の露払い時に殆ど疲労と怪我で動けない。 話を聞きつけた倉橋医師夫婦が駆けつけてシノビ達の治療と看病に当たっている。 架蓮や蓮誠はまだ動けるが、そちらの方まで動くことができないと沙桐に申告した。 天蓋のシノビは折梅の護衛も兼ねており、現時点では天蓋領主の蓮司が行っている。彼一人で何とかなるが、彼の身は一つなので、疲労も溜まる。 だが、貌佳領主の屋敷の中でアヤカシが闊歩していたのは事実であり、貌佳領主を捕縛しようとした緑萼が貌佳領主の屋敷に向かえば、領主は娘と共に貌佳にある娘の母の実家へ行ったという報告もきた。 領主の妻はもう随分前に死んでいると聞いている。 「どうしようもないな‥‥麻貴、動ける?」 「ああ、行ける」 沙桐が麻貴に確認すれば、彼女は一度だけ頷いた。 「火宵と満散は天蓋で待機。逃げるなよ」 じとりと睨みつける沙桐に火宵は「逃げないさ」と笑う。 「それじゃ、ギルドに依頼だ。内容は屋敷のシノビと青年の捕縛。青年は生かすこと、シノビは出来る限り殺さないで。あと、貌佳領主の捕縛とその娘である泉の保護」 それだけを架蓮に言えば、再び架蓮はギルドへ赴く。 神楽の都で依頼書を貼った真魚に開拓者が声をかける。 シノビの生死の件だ。 「何でも、天蓋でも有数の腕利きシノビだそうですよ。一番気をつけてほしいのは壮年の年頃の夫婦ですって。体力はそれなりに落ちてますが、それでも気をつけてほしいと沙桐さんが言い付かっております。なんでも、天蓋の方が営んでいる遊郭の花魁のご両親だそうです」 最後に依頼人は開拓者の無事も考えてほしいと言ってたようですよ。と付け加えて真魚はその場を辞した。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
白雪 沙羅(ic0498)
12歳・女・陰 |
■リプレイ本文 シノビが姿を消すことは希にある。 今回見つかったシノビ達は総じて忠誠心の強い者達だった。 故に、彼らの失踪は不可解だった。 シノビ故に裏切り者の周囲‥‥家族に於いては殺すか、幽閉するかの選択がある。 なずなと春玉は親は亡くしていたが、二人同時期に失踪した千島と香陽には一人娘がいた。 本来は殺されるところだが、繚咲当主代行の力で高砂の遊郭に幽閉となった。 ■ 再びかの魔の森に足を踏み入れた開拓者達が向かったのは貌佳領主の別邸。 屋敷は百響の炎の影響で煤けていた。 高砂領主のシノビと傭兵の精鋭達が主に周囲のアヤカシ達のくい止めの監視に入っている。 集中しているが、全員の動きは把握している。 動き出した一歩を一本の苦無が遮る。その苦無の柄に足をかけて跳躍したのは珠々(ia5322)。 苦無の方向からしてシノビの位置を推察する。手近な木に手をかけて珠々は身体を回転させると木の幹に苦無二本目。 投射される苦無の隙に飛び出してきたのは刀を持った娘だ。情報が正しければ春玉だ。 その目に生気はないが、シノビ特有の早さがある。 真っ向から斬りかかる小太刀を真っ向から受けたのはフェンリエッタ(ib0018)のチェーンブレード。一尺ほどの湾曲した黒い刃だ。 小太刀を弾き返したフェンリエッタは次の春玉の一撃に備え、柄の宝玉を輝かせた。 宝珠の力で展開されたチェーンが伸びてワルツのターンのように春玉の腕をとった。 春玉が膝を肩を揺らす。フェンリエッタの術が発動しているのだ。 ベラドンナと蜘蛛は淑女と毒。 地に膝をつけた瞬間、動けなくなっていた。白雪沙羅(ic0498)が呪縛符を発動していた。戦闘になっても沙羅はいつもの猫テンションは落ちている。 「フェンリエッタさん、横にゃ!」 気づいた沙羅が叫ぶと、フェンリエッタは後ろへ飛びさがる。 フェンリエッタの横を狙い、斬りかかったのは壮年の男。 男の刀はフェンリエッタには届かず、彼女を傷つけようとした切っ先には黒い淑女の花の鎖が巻きつけてあった。 「任せて」 短く言ったのは溟霆(ib0504)。フェンリエッタは溟霆に任せて沙羅を連れて中へと走る。千島は力任せに溟霆ごと引き寄せたが、鎖を離して溟霆は間合いを取った。 溟霆が刀を振るうと近づいた女は咄嗟に後退する。目を見た時、女にそれなりの老化があったものの、彼女は母親似と脳裏のどこかで感想を持った。 遊郭という生き地獄の中にいた彼女が自由より欲した二人というのを溟霆は理解した。 連れて帰ろう。会いに行こう。 喜んでくれるのか、怒られるのかわからないけど、溟霆はそう思った。 なずなと思しき者と応戦していたのは珠々。 方向と位置は把握したので後は一気に間合いを詰める。 もう一度珠々へ手裏剣が投射される。術で速度を上げようとした瞬間、放たれた手裏剣が加速する。 颯‥‥! 投射された武器を加速する術だ。 避けきれないと同時に珠々は腕を眼前で交差し、手裏剣を受けからその手裏剣をなずなへと投げた。 忍耐力はシノビならではだが、超越聴覚でなずなのか細い悲鳴を聞いた珠々は加速してなずなの襟を掴んで引きずり出す。 「ゆめは‥‥終わりです」 もがくなずなに珠々はそっと安堵のため息をついた。 フェンリエッタと共に中に入った沙羅の印象としては手入れをしていない古い家屋だが、それなりに清潔感があった。 体内に急激に入り込もうとする甘い香り。 今戦っているシノビ達が最低限の身の回りの世話をしていたのだろう。 「百響‥‥」 呻くような男の声が聞こえる。 二人は顔を見合って頷く。 中にいる青年の情報はまるでないのでできる限り殺したくはない。 「百響‥‥どこだ‥‥」 どうやら探しているようであった。いつでも沙羅が呪縛符を使えるように準備をしている。 フェンリエッタがチェーンブレードを手にして前に出ると、青年はふらついたままであったが、見知らぬ女の姿を認めた。 「何奴‥‥」 ぎろりとフェンリエッタを見やる青年に彼女は応えないで次の様子を伺っている。 「繚咲が母、貌佳領主の屋敷内ぞ。立ち去れ」 殺気立つ青年はここがどこなのか理解していた。 「あなたは何者ですか」 「貌佳領主の息子‥‥慈姑だ」 相当頭痛がするのだろう。しゃべるのも億劫そうであった。正直、二人も甘い香りで息苦しく、気を抜くと眩暈を起こしそうだ。 「領主が何をしてたかわかりますか」 沙羅の問いかけに慈姑は目を細そめ、にらみつける。 「穢れた繚咲を再び戻すのだ」 「戻す‥‥」 「外で穢れきったあの次男の血を持ってきたあのくたばりぞこないの血を引くもの全てを殺し、再び純血を繚咲の主に流す。それが我が父の願いだ」 一気に喋り切った慈姑は苦しそうに右手で額を押さえる。 「そんな事させないわ」 きっぱりと言い切るフェンリエッタに慈姑は少しずつ歩み寄る。 「貴様らなど、百響の前では無力‥‥あの呪花冠も引き裂いてくれる‥‥!」 「私達は個人では無力かもしれません。思いを束ねれば強くなれます」 最後にそれだけ呟き沙羅は呪縛符を発動させた。 もう一歩で慈姑の手がフェンリエッタの腕に触れそうだったが沙羅の術の力で体の自由を奪われ、うずくまった。 外では溟霆と珠々が千島と香陽と戦っていた。 できる限り傷つけたくないと思ってる二人だが、それどころではない。十数年とここにいるのに動きが異常にいい。 珠々の脳裏に百響に操られたシノビが腹が割かれた状態でも動いていたというのを思い出した。 もし、魅了が解けたときを想像した瞬間、溟霆と珠々の肌が総毛立つ。 先に動いたのは香陽。軸足となる香陽の右足首を射たのは麻貴の矢。それでも香陽は溟霆めがけて細い鎖を放った。 狙う先は溟霆の死角だ。だが、溟霆にはもう覚悟がある。鎖の先の刃ごと溟霆は握りこみ、鎖を引っ張っると同時にチェーンブレードを展開させて香陽を傷つける。 「あ‥‥あああ‥‥!!!」 引きつったような悲鳴を上げる香陽を珠々が確保する。 千島は香陽の様子に構うことなく溟霆を斬り殺そうと刀を薙ぐも溟霆の刀が真正面から受け止める。 依頼なんだけど、どうして彼女の親と一騎打ちしているのか溟霆も縁の奇妙さに困りそうだ。 でも、気分が決まった。 「僕は‥‥太陽に会いに行く。貴方を生かして」 柄で腹を突き、千島の気を失わせた。 行こう。高砂へ。 ● 「いつでも行ける」 そう言い出したのは高砂領主の大理だ。精鋭のシノビや兵を連れて自ら来た。 半分は別邸組に行っている。 「ありがとうございます。大理様」 「お主達を護りたいと思ったからだ。手伝わなければ今度こそ葛に蹴られる」 白野威雪(ia0736)の言葉を返した後に大理がぼやく。どうやら、治療で動き回っている葛医師は興奮気味のようで手伝いに行けと言われたようだ。 「面倒だけど、やりますか」 ため息交じりに輝血(ia5431)が呟く。葛に怒られたくないは結構優先かもしれない。 「今回の件が上手く行けば大きい一手になりますでしょうが、そちらはどうされたいのですか」 御樹青嵐(ia1669)がちらりと見やれば、大理は不敵に笑う。 「俺は百響の討伐を考えていた。誰が倒しても構わない。あとは雪殿が沙桐の子供でも産めば万々歳だな」 「折梅様似の赤ちゃんがほしいです‥‥」 ぽっと頬を染める雪に数名が「折梅か‥‥」と心の中で呟き視線を逸らした。 折梅のやっていることは人によっては心的外傷並みの何かを受けるようだ。 「とりあえずはしっかりけじめをつけようか」 何ともいえない空気を無視して音有兵真(ia0221)が暢気に雪に声をかけ、やれやれと輝血は颯爽と中へと入る。 確実に生け捕るのは貌佳領主と泉。使用人も生かすこと。 輝血は頭の中で優先事項を確認する。 貌佳領主のシノビもいるはずだが、それには触れてない‥‥が脳裏に浮かぶのは雪や麻貴の姿‥‥ 先代含む代々の輝血にはない幅広い芸もあっていいよね。 声なき呟きは風に溶けていった。 出来る限り音を潜めていたが、相手もシノビ。輝血の音に気づいていた。 現時点、輝血が感じた気配は三人。更に警戒しているシノビがいるだろうと輝血は推察する。 小さく地を蹴る音に気づいた輝血はその方向を見やれば、更に鎖が伸びる音がする。暗器使いが輝血のすぐ傍に迫っていたから奔刃術を使ったのだろう。 輝血は鎖を甘んじて受けてそのまま引き寄せられる。輝血の死角を狙ってもう一人忍んでいたシノビが姿を現す。捕らわれた輝血を苦無で狙おうとしているが、彼女は気づいている。 死角より自身を狙おうとするシノビと自分の後を追うシノビを。 輝血の後を追ってきたシノビが輝血を守るようにシノビの攻撃を受けた。暗器使いのシノビの懐に飛び込んだ輝血は針短剣「ミセリコルディア」でシノビの脇を突いて動きを鈍らせる。 襲撃に気づいたシノビがこちらに近づく。 少し優しい蛇は動けないシノビを高砂のシノビに任せて向かった。 屋敷の正面に立ったのは沙桐だ。 沙桐は繚咲を統治する鷹来家の当主。今は嫁取りの時期で貌佳領主に会いに来るという自体に使用人たちは何事かとわたわたしたが、沙桐はあっさりと要件を告げた。 「貌佳領主、黒海を捕縛しに来た」 沙桐の言葉に戸の向こうで使用人が腰を抜かしたようだ。急を要する事を理解している兵真が前に出て、戸を確認して閂がされている事に気づくと兵真は正拳の構えで呼吸を整える。 「は!」 気合と共に突かれる正拳は戸を粉砕した。開拓者は意に介することなく中へ入っていく。 「土足で失礼する」 礼儀正しく、兵真が一声入れてから中へあがる。屋敷の作りなど大体同じだ。黒海がいそうな場所は見当がつき、直にたどり着く。 「鷹来の穢れ者め。生かされる恩も分からず他人の家に何をしにきた」 「泉さんはどこに」 貌佳領主黒海の問いに答えることなく、青嵐が問う。 「余所者に答えるものなどない」 「お前の伯母が幽閉されていた屋敷で見知らぬ男が住んで、行方不明になっていた天蓋のシノビを操ってアヤカシが我が物顔で闊歩している事を知らぬなぞ言わせるか」 黒海が知らないわけがない。黒海のシノビ達はその地の力を利用し、泉を追っていたのだから。 「貴様らにこれ以上繚咲を穢されてたまるか‥‥!」 座ったままの黒海が放ったのは座敷払だ。刃が沙桐を襲うが、滑るように前に出て、切っ先を流したのは兵真のガントレットだ。 雪は沙桐達と離れて駆けている。腰を抜かしていた使用人に声をかけて泉の居場所を聞き出していた。 泉は離れで幽閉されているようで、あまり食事もとらなく、衰弱しつつあるようだった。 貌佳領主やシノビは他の仲間が何とかしてくれる。 泉は自分の手で助けたい。その思いだけで雪は駆ける。 眼前にシノビが来た。自分が今できる攻撃は神楽舞「縛」だ。即座に舞って相手を鈍らせるが十分ではないのを承知し、雪は精霊の小刀を逆手に構える。 上段より錫杖「星詠」を振り下ろし、仲間の攻撃の見よう見真似であるが小刀で相手の方に一太刀浴びせる。 間合いを取ったシノビに雪は厳しく言い放つ。 「そこを退きなさい。貴方を倒してでも私は泉様を救います!」 白兵能力が低い巫女の雪であるが、その気迫はシノビにも負けない。 「よく言った」 雪と対峙しているシノビめがけて味方だろうシノビが投げつけられて慌てて飛び退る。その隙を縫って大理のシノビがシノビを取り押さえる。 「輝血様!」 ぱっと、顔を明るくした雪に輝血は「さっきの攻撃は巫女にしては頑張った」と素っ気なく評価しつつ、泉の救出に向かう。 人は常に成長するものだ。 少しやつれた顔の泉が雪に抱きつき、救出となった。 黒海の放った座敷払でシノビが現れて中は乱戦となった。 先に狙ったのは黒海だ。まず生け捕りにしなければならない。何がきっかけで生が途切れるか分からないからだ。青嵐が即座に呪縛符で黒海の動きを封じる。 相手は志体持ち。そのまま動こうとしているのでいっそ手足を拘束しようと術を重ね、呪縛符で威嚇攻撃をする。 「黒海、お前の妹はどうした。ここ二十年ほど話を聞かないな」 軽口と共に入って来たのは大理だ。高砂領主の登場に黒海は目を丸くする。 「沙桐や緑萼達を殺し、あの屋敷で隠していた息子でも繚咲に据えるのか。そりゃ、百響は喜ぶな」 「倒されたのにどこで喜ぶんだか」 手刀でシノビの気を失わせて兵真が呟いた。 ● 戦力も足りず、相手の戦力も不明のままであったが、取りあえず依頼は果たした。 雪と沙羅はそれぞれの負傷者に治療を施した後、葛の手伝いに行ってしまった。 貌佳の宿の一角で開拓者達は休息をとっている。 輝血は沙桐より高砂の酒を貰って飲んでおり、それを少し貰いながら兵真が青嵐が作った食事を飲むように食べている。 食後のお茶を飲みつつフェンリエッタが見やった先は怯える珠々の姿。 「人参、駄目だったの?」 小首をかしげるフェンリエッタに珠々はこくこくと頷く。もう、目に涙まで浮かんでいる。 「もう成人なんだから、人参くらい食べないと」 「人参食べるくらいなら蝉とかカエル食べます!」 先輩シノビである輝血の言葉に珠々が悲痛そうな悲鳴を上げている。 「はい食べる!」 夜を使って食べさせられた珠々は麻貴の膝の上で轟沈。 「ふふ、おかあさんに甘えてますね」 戻ってきた沙羅が笑いかける。なんかそれは違う。 賑やかな部屋の片隅で沙桐が不器用に雪に料理を取り分ける。 「雪ちゃん、お疲れ様。聞いたよ。凄かったね」 「私、臆病でした‥‥これからは自分のできる事をしようと思います」 「うん、俺も手伝うよ」 二人は微笑み合う。 一人溟霆は高砂に走っていった。 柳枝太夫の了解はあっさり貰えた。もしかしたら天蓋の人達が気を回したのかも知れない。 取りあえず気にしないで柳枝を待っていると、自分の名前の入った膳と箸を用意された。 ようやっと部屋に入って来た花魁は相も変わらず美しい。 無表情のまま、彼女は溟霆のすぐ近くに座る。 ああ、怒るかなと溟霆は思う。彼女は気位が高く、気難しいところがある。 細い手が溟霆の眼帯に触れ、頬を撫でる。 「あたたかい‥‥」 言葉が漏れると同時に彼女から涙が零れる。唇が歪み、表情が動く事で皺が起こる。 「生きてるから、会いに来たよ」 いつも通りの優しい溟霆の声音に柳枝は子供のようにすすり泣き、感謝の言葉を繰り返し呟いていた。 捕らわれた四人への罰としては半年、天蓋での後方待機のみ。千島、香陽に関しては半年の後方待機後、高砂の遊郭御用達の診療所の下働きに入るようにと任務が下された。 要するに異例の休暇が与えられた。 これには沙桐や開拓者の推しがあったが、領主代行の緑萼としては始末するつもりはなかったようだ。 |