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■オープニング本文 桜も散り過ぎた神楽の都の開拓者ギルドにて困り顔をしていたのは受付嬢の真魚。 来る予定の新人開拓者がまだ神楽の都に来ていないのだ。 志体もあり、腕利きの剣術使いであるので、何かあれば自力で逃げ切るだろう。 「どうかしたのかしら‥‥ご自身が一番楽しみにしていたのに‥‥」 ふぅと、真魚がため息をついた。 さて、その新人開拓者は途方にくれていた。 実は一人ではなく、お供も一緒だ。 その名は鷹来沙桐という男であり、つい先月に祝言を挙げたばかりの果報者。 何故、彼が開拓者にならないといけないのかといえば、彼の花嫁は開拓者であり、彼の叔父が来る日まで開拓者として花嫁と甘い蜜月でも過ごせというはなむけがあったという。 で、彼は護衛のシノビである架蓮と共に新居である神楽の都へ向かっていた。 「おねがいしますーー!!」 彼にしがみつくのは猫族の少女。 「いや、開拓者ギルドに行けば開拓者はいっぱいいるよ! すぐ依頼を出して連れて来るから! 離して!!!」 「奴は獰猛なんです! すぐに行かなくてはむらびとが!! 私はあの村人達に恩があるのですからーーー!!!」 「話聞けーーー!!」 その猫族の少女こと、恵蘭は開拓者として神楽の都にきた時、道に迷って空腹で途方にくれていたところにその村人が声をかけてくれて食事と道案内もしてくれた。 故郷である泰国を離れ、心細い中でそこの村人達の交流は救いであったと言う。 現在、その村の近くにはアヤカシが現れているという。 かなり獰猛なアヤカシで、その少女は一度敗れた。 早く倒さないとアヤカシの魔の手が村に向かうではないか! そんな時、現れた若侍の沙桐はとても立派に見えた。きっと彼なら倒してくれると思って現在声をかけていた。 偵察に向かった架蓮が戻ると彼女の顔色は悪い。 「確かに、恵蘭様には荷が重いかと‥‥」 「そんな危険なのが」 「ええ。今、私がひとっ走りで依頼を募ります。どうか、早まらぬよう‥‥っ」 「頼んだよ」 「はい」 事態を受け止めた沙桐が言えば架蓮は頷いて早駆で神楽の都へ向かった。 神楽の都のギルドで架蓮は真魚と何かをこらえるようなやり取りをしていた。 「アヤカシは植物系が六体、平均の高さは一畳強、長さは二畳程、穂先は各個四本」 「はい」 「確かに、大変な事態ですね」 「ええ、恵蘭様には‥‥」 しばしの沈黙の後、二人は恵蘭に悪いと思いつつ噴出してしまう。 「妄想すると可愛いです、可愛いです!」 「ぜひぜひ、美少女ですからね。可愛い恵蘭様を見ていただきたいです!」 うんうんと頷いた二人は依頼をさっさと出した。 |
■参加者一覧
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
白雪 沙羅(ic0498)
12歳・女・陰
リーズ(ic0959)
15歳・女・ジ
ヘイゼル(ic1547)
17歳・女・武 |
■リプレイ本文 「おや、沙桐君が危機なのかい?」 いつもの調子で受付嬢の真魚に声をかけたのは溟霆(ib0504)だ。 「ええ、ちょっと猫族の新人開拓者がアヤカシを倒せないと沙桐さんにせがんだそうです」 「やれやれ、新妻を待たせているのに」 くつくつと笑う溟霆に真魚もつられて笑う。 「全く大変なのですよ。恵蘭さんにとっては」 「それは大変なのです」 溟霆が感じた気配は予測どおり、珠々(ia5322)のものであった。 「早く倒さないとなりません」 「だけど、恵蘭姉さまの自信をつけるのも大事なんだよー!」 元気よくフレス(ib6696)がひょこっと現れる。 「確かに、一度失った自信は取り戻せないと、命取りとなるね」 頷く溟霆の近くで元気な少女の声が聞こえてきた。 「巨大植物!」 キラキラと目を輝かせるのはリーズ(ic0959)だ。 「真魚さん、まだ募集しているのかなっ!」 「はい、大丈夫ですよ」 尋ねられた真魚が確認をすると頷く。 「この前小説で読んだよっ! 未開の森で冒険者に襲い掛かる危険な障害を乗り越えられるのかっていう小説っ!」 「まぁ、そんな物語があるのですね。恵蘭さんと似た状況かもしれません。幸福な終焉になるよう、リーズさんもお手伝い願います」 にこやかに微笑む真魚にリーズは「任せて!」と全開笑顔で頷く。 「沙羅ちゃん、こっちです!」 手招くのは珠々だ。依頼を見に来ただろう白雪沙羅(ic0498)が珠々の声に気づく。 「何かあったのですか?」 「わぅ、開拓者の危機なんだよっ!」 首を傾げる沙羅にリーズの犬耳がぴこんっと立つ。 少女達の微笑ましい様子に何か気づいた溟霆が内心焦りつつ真魚の方を向くと彼女はなにやら書き付けているようだ。 「そうなんだよー。沙羅も行こうよ」 「はい! 力を合わせていきましょう! って、どんな敵ですか?」 ふと、自身が依頼書に目を通していなかった事に気づいた沙羅が同行者に質問をする。 「エノコログサとありますね」 ヘイゼル(ic1547)が声をかけると沙羅は自身の記憶を辿る。 「ま、真魚君。依頼募集は‥‥」 「はい、締め切りました。満員御礼申し上げます♪ 引率役お願いしますね」 「‥‥確かに引き受けたよ‥‥」 にっこり笑顔の真魚に溟霆は愛しい柳枝に癒してもらおうと心に決めた。 一方、記憶を掘り当てる事に成功した沙羅は一人修羅場を迎えていた。 「エノ、コロ‥‥グサ‥‥」 エノコログサとは 穂が犬の尻尾のようであり、細い茎では垂直を保てず、頭を垂れたようになっている植物。猫の前で振れば猫がじゃれ付く事から猫じゃらしという俗称がある。 猫の神威人である沙羅はその本能と戦わざるを得ない。そう、恵蘭と共に‥‥ ● 恵蘭を宥めつつ、沙桐が開拓者達が来るのを待っていると、彼は言葉を失った。 「め、溟霆君‥‥」 「女が三人寄らば‥‥」 「倍はいるよね」 溟霆が恐れていた事態が起こっており、平静を装っているが、中々見れない光景だ。 「まぁ、お疲れ様」 沙桐が溟霆の肩をぽんと叩く。 まだ依頼は始まったばかりなのだが。 「あっれー! 新郎さんだ」 きょとんと目を瞬いたのはリーズ。 「お嫁さんに会いに来たのかな?」 「祝言の時は来てくれてありがとう。ばあさまもまた会えて嬉しかったようだよ。俺は引越しの為に神楽の都に行こうとしてたんだ。これからは同じ開拓者として神楽の都で暮らすから宜しくね」 「そうだったんだ。早く終わらせて行かなきゃだね!」 ぐっと、リーズが拳を握り締める。 「お疲れ様です、皆さん!」 恵蘭がぺこりと頭を下げる。 「物事は成るように成るべく在ります。今出来る事を致しましょう」 「はいっ」 ヘイゼルの言葉に恵蘭が元気よく頷く。 「一緒に頑張りましょう」 「はいっ!」 沙羅の白い耳は正しく猫耳。彼女の必死さから恵蘭は理解して沙羅の両手をしっかり握りこむ。 「じゃー、行こうか」 「はーい」 引率のお兄さんその二である沙桐が女の子達を促す。 道すがら、フレスが恵蘭と話をしている。 「敵はどういうところが苦手なのかな」 「やはり、花穂です。風にゆっくり揺られている姿がどうにもくすぐったいような、むずむずするような感覚に襲われます」 神妙な様子で恵蘭が答える隣で沙羅も心当たりがあり、何度も頷く。 「花穂の揺れは何にも勝る誘惑となりますか」 ふむと、ヘイゼルが囁き、前へと視界を向ければそこにある植物に「ほう」と息をつく。 「う、ううぅ‥‥」 再び表れる恐怖に恵蘭は呻り、沙羅は言葉を失う。 アヤカシがそこにいた。 高さは大体一畳強であるが、茎と花穂の長さ等も考えれば二畳はある巨大猫じゃらし。 花穂から生える毛は通常より太く、針状になっている。 「あー‥‥これは‥‥‥確かに」 ちらりと沙羅を見やったのは珠々だ。 「珠々ちゃん、どーいう意味ですかーーーー!」 今から本能と戦っている沙羅であるが、珠々の視線に気づくのだからまだ余裕があるのだろう。 「いえ、頑張りましょう」 黒の猫耳とお面を被り直した珠々が気を引き締める。 「恵蘭君は頼んだよ」 「わかったんだよ!」 前衛に出ようとした溟霆が振り向いて恵蘭の心配をするとフレスが応えてくれた。 「取りあえず、畑の方面に向かわせないよう囮となります」 畑に面しているというわけではないのが救いだ。状況によっては瘴気汚染で畑が使えなくなる事案が発生しては村にとって大損害だ。 「そうだね。頼んだよ」 珠々の言葉に溟霆が頷く。 「ヘイゼル君、弱らせるまでの露払いを頼むよ」 「分りました」 ヘイゼルが構えるのは石突に十字架を模った装飾の精霊槍マルテだ。霊戟破を発動させて槍に精霊力を纏わせた。 「沙桐君はまぁ、程よく」 「酷いよ!」 一緒に戦っているからこその気安さの会話である。 先制攻撃をしたのは珠々だ。 奔刃術で俊敏さを上げていくと、花穂が大きく動き、珠々を狙いつける。 葉に足を掛けてそのまま跳躍した珠々が一本目へと向かった。手にしている剣で大きく振り上げた。剣の銘に違わず、電光石火そのものの如く茎を斬りおとす。 「わ、やった!」 「まだまだだよ!」 ぱぁっと、顔を明るくする恵蘭にフレスが声を上げる。 アヤカシ達は獲物たる開拓者達へ敵意を放ち、茎を揺らして開拓者達へ攻撃を仕向ける。 恵蘭の護衛を兼ねたフレスであるが、前衛としても立つ。 ジプシーならではの軽やかな足取りでアヤカシの動きを見極めて攻撃を回避する。フレスの動きに負けないように花穂がフレスを追う。 くるりと身体を反転し、花穂の付け根を狙ってナイフを振り落とす。 沙羅に動いたのは三本の花穂だ。前衛にいたヘイゼルが的となったが、彼女は動きを注視し、槍を薙ぐ。花穂の一つを払えば、隣の花穂へぶつかっていく。 攻撃を逃れたもう一本がヘイゼルへと向かっていくも穂先が沙羅の斬撃符によって斬られた。 「う、う‥‥」 沙羅がとった行動は只管斬撃符が届く範囲で攻撃。 ゆらゆら揺れる花穂に反応しないわけがない。だって今まで前科のある沙羅だもの。 見ないようにする。でも見ないと攻撃できない。 結界呪符「黒」でも使って隠れればいいんじゃないのかなと沙桐は思ったが口にはしなかった。 「早々に仕留めるとしようか」 散打を発動させた溟霆は飛苦無を飛ばした。 アヤカシに対しては小さな飛苦無であったが、効力は十分にあり、茎ごと地に落ちた。 的確に敵を討つ事を恵蘭に伝えるように溟霆は丁寧にアヤカシを仕留めていく。 花穂含めて半分以下になった時、動いたのはリーズだ。 「一気に行くよー!」 リーズが振り上げたのはウィップ「カラミティバイパー」。深緑の鞭であり、宝珠の力によって蛇の如くにうねり上げて花穂を払いのける。 「にゃっ!」 びっくぅと、肩を跳ね上げたのは恵蘭と沙羅。 「わぅ?」 猫二人にリーズは首を傾げてしまうが今は戦闘中。 「もう一回いっくよーー!」 軽快に揺れる鞭と花穂に猫二人は反応せざるを得ない。 「ですよね」 状況を理解している珠々が頷きつつ、更に花穂を狙う。須臾を発動させた珠々にある考えがよぎる。 花穂との交戦の果て、花穂が皮一枚残ったところでぷららーんと揺れる。 その方向たる猫二匹は硬直。花穂をじっと見る。いわゆるガン見。 知能が高いアヤカシであればこっち見んなと言いたいが、そんな大層な知能はない。 「はにゃ‥‥っ」 ぴくっと、沙羅が反応するも頑張ってる。超頑張ってる。 「にゃにゃ‥‥」 恵蘭も頑張っている。 時とは非道なり。 風が吹く。 ゆらゆらりと皮一枚で繋がった花穂が揺れる。 「‥‥すっごく‥‥やばいです」 表情は置いといて、棒読みな珠々の言葉。寧ろ、「たのしみです」というのが正解ではないだろうか。 ぷちん。 「あ」 その音を開拓者達が聞いた。 「ふにゃああああああああ!!」 周辺に沙羅の叫び声が響き渡る。 「我慢なんて出来る訳ないにゃー!!」 今まで我慢していたむずむずを払拭するように綺麗な白銀の髪をわしゃわしゃ掻き毟る沙羅。因みに恵蘭も緊張の糸が切れて威嚇してる猫のようだ。 「もう、アッタマ来たにゃーー! 沙羅様がフルボッコにしてやるにゃーーー!!」 「やるにゃーーー!!」 猫の本能丸出しの沙羅と恵蘭が花穂へ駆け出した。 目的の花穂は一番大きなものであり、小柄な二人が垂直飛びしても垂れた花穂の先にようやく届くぐらい。 ぎょっとした溟霆が恵蘭の護衛役であるフレスの方を向く。 「沙羅と恵蘭姉さまがじゃれ付く感じで立ち向かう姿はとても可愛くて、勇ましくて止められないんだよっ!」 止められなかった自身を責めるような姿を見せるフレスに溟霆はもはや言葉が出ない。 「可愛いからいいよね」 もう、諦めた感丸出しの沙桐が遠い目をして頭を抱える溟霆の肩を叩く。 視界の向こうにいる猫はまっしぐらに花穂にじゃれ付いている。 「諸行無常ですね」 南無と言わんばかりにヘイゼルが二人の猫を見つめた。垂直飛びをしていた恵蘭が着地に失敗して転がった。 「そろそろでしょうかね」 可愛らしさを堪能した珠々が「あふたーふぉろー」をする為に動き出した。 恵蘭にとっては二敗目ともあり、いい加減に自信を取り戻せないとならない。 おもちゃを片付けられて正気に戻った恵蘭に機会を与えるのも先輩開拓者の務め。 「さて、今のようになっては仕事が終わらないので‥‥珠々君」 「はい」 ぴょこんと、珠々がアヤカシの間合いより外に立つ。 「これから影縛りをします。恵蘭さん、沙羅さん、しっかり狙うんですよ」 「はい!」 二人の猫族が返事をすると、溟霆と珠々が動き出す。 「しっかり狙うんだよー!」 「がんばって!」 フレスとリーズが声をかける。 珠々と溟霆が影縛りを発動させてアヤカシの動きを止める。 運がいい事に風はない。 駆け出したのは恵蘭、納刀状態のまま、穂先に狙いを澄ませる。 「はぁ!」 恵蘭が抜刀し、花穂の付け根を狙って振り降ろした。一刀は花穂を見事に斬り落とした。 続いて沙羅が呪符に練力をこめてアヤカシの茎へと飛ばす。空気を裂いていく呪符は風の刃となって茎が地に落ちた。 「やった!」 「やりました!」 表情を綻ばせて猫二人が喜び合う。 ● アヤカシは特に村に対して被害が無かった。 「よかったー」 ほっとした様子のリーズだが、一転して神妙な顔となる。 「根っこからまた生えたりしないかな‥‥」 心配したのはアヤカシの蘇生だ。 「一番最初に倒したアヤカシはもう消えてしまっているからそのままでも大丈夫と思うんだよ!」 フレスが指差した場所にアヤカシがいたが、今は根っこがあっただろう空洞があるだけだ。 「恵蘭、大丈夫かい?」 「猫の叫び声が聞こえたから心配したよ。そっちの子も大丈夫かい?」 先ほどの沙羅の叫び声に村人達が心配して来たようだった。 当の沙羅は恥ずかしさと申し訳なさで只管謝って、心配りに感謝している。 「とりあえず、任務は遂行出来たのだから、甘味でもご馳走しようかな」 色々と疲れただろう溟霆が開拓者達に声をかける。 「あ、そうでした! 叔父さん!」 思い出した珠々が沙桐の方を見やる。 「どうかしたの?」 「待ってたんですよ! 遅いから」 「ああ、そうだったんだ」 「ほらほら、走りますよ! はりぃあっぷです!」 「はいはい」 「はいは一回です!」 ぐいぐいと珠々が沙桐の背を押して駆けていく。 「それでは、お先に失礼します!」 珠々が開拓者達に慰労の言葉をかけて沙桐を神楽の都まで走らせていった。 「新婦さん、待たせたらだめだよね」 お幸せに〜と、リーズが手を振って見送る。自分達もこの後戻るのだが。 神楽の都に戻った開拓者達が溟霆の奢りで甘味をご馳走になっていた。 「恵蘭さん、所詮猫は猫なのです。本能を隠そうと思っても難しいのです」 いつもの沙羅の元気さはどこへやら、完膚なきまで本能をさらけ出してへこまないわけがない。 「ここはそういうのとどう上手く付き合って行くかというところがポイントだと思うのですよ、私は!」 くわっと、目を見開いた沙羅が力説を始める。 「猫パンチ一撃で敵を屠ることが出来るようになれば問題ないと思いませんか!?」 「その通りです! 敵をやっつけられれば万事解決です!」 きらきら目を輝かせて恵蘭も頷く。 「間違いじゃないと思う!」 「可愛くて強いって最強なんだよ!」 うんうんとリーズとフレスも同意する。 猫二匹の今後の方向性が決まってきたようであり、解決したと言う事で沙羅と恵蘭は美味しい団子を頬張る。 それが解決の道かはまた別問題だろうと、沙桐の引越し準備に走っていった珠々に渡す団子を受け取りつつ溟霆は思案した。 神楽の都はこれから初夏へと向かいだす。 |