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■オープニング本文 上原家 理穴国の貴族であるが、地位が高いわけではなく、貴族の中では高くもなく、低くもない家柄。 ただ、優秀なシノビやサムライを排出している為、武官としての家柄では少し有名だ。 知る人ぞ知る者からすれば、上原家は特殊な家。 理穴の政治に表向きには出なく、理穴監察方に従事する家柄なのだから。 その家に望んで嫁入りを果たそうとする女がいた。 理穴国でも有数の名門家、羽柴家の令嬢、麻貴。 羽柴家当主が妻を亡くした際に拾ってきた娘と言っていたが、実は羽柴家当主の妹が武天有数の豪族である鷹来家の者との娘という出自を明かした。 かねてから恋仲だった上原家の時期当主である柊真と祝言を上げることになった。 祝言を前に、麻貴と柊真は二人で監察方の役所の中庭でぼんやりしていた。 「いよいよだな」 「ああ‥‥」 祝言を挙げても麻貴はそのまま監察方に残ることが確定されている。 人手不足もあるが、麻貴の引っ越しが終わるまでは基本的には羽柴家に逗留し、柊真も羽柴家に通う話になっていた。 遺される義父、杉明を心配しての事を柊真は理解している。 「まだ怒っているのか」 麻貴の表情は何となく不機嫌だ。 「梢一義兄上も義姉上もお前も隠すだなんて‥‥」 「最初から決まってたことだって。からかってなんかいないさ」 それでも麻貴は蚊帳の外が嫌だったのでふてくされている。 その内容とは、梢一と葉桜が羽柴家に入る‥‥つまり、梢一が羽柴家の婿養子になると言う話だ。 杉明を思い、麻貴が嫁入りに行かないのではないかという懸念を杉明が抱いたためであった。 麻貴が嫁入りするまで葉桜が真神家に嫁ぎ、麻貴が嫁入りしてから葉桜達が羽柴家に入るという話を内々にしていた。 祝言が決まり、その事を告げたとたん、麻貴はへそを曲げてしまった。 杉明や葉桜、梢一からも謝られたのでこれ以上怒れないので、柊真に怒りをぶつけている。 そういった甘えを麻貴が見せるのは柊真だけ。 分かっている柊真は理不尽と思いつつも麻貴のそばにいる。 ● 麻貴の祝言を間近に控えた頃、神楽の都にて開拓者をしている沙桐は開拓者ギルドの片隅で受付係の真魚が差し入れてくれたお茶を片手に開拓者仲間と話していた。 内容は勿論、麻貴の祝言の話。 一時は麻貴を想い、柊真の存在を知り、二人を慕うようになり、大切な人を自ら見つけた。 長く濃い時間を麻貴や監察方と過ごし、捕縛対象である火宵や満散に一目置かれた開拓者‥‥ 「君のおかげだよ」 「僕は何もしてませんよ」 謙虚な姿勢はいつも変わらない。微笑む姿は天女のよう。 そんな彼を双子は好きだ。 「俺達は勝手にそう思ってる」 「麻貴様みたいですね」 くすくす笑う彼の言葉に沙桐はうれしそうに笑っていた。 「じゃぁ、俺、行ってくるよ」 「祝言を挙げさせないとかわがまま言わないでくださいね」 「‥‥なんでわかったの!」 真顔で言う沙桐に彼は「わかりますよ」と笑った。 「また、お茶しようね。俺んところの子供産まれたら、嫁様と一緒に」 「はい」 開拓者・ミカドは嬉しそうに頷いた。 ● 麻貴の祝言にあわせ、武天より葛が現れた。 「私が取り上げた子だもの! 行くわよ!」 隣国とはいえ、そう簡単に来れるものではないと半ばあきらめかけたが、葛は旦那も連れて来た。 「葛先生」 「私じゃ、母親役にもなれないかもだけど、末席に置かせて」 「葛先生なら大歓迎だ」 「今回、開拓者のみんなは呼ぶの?」 「ああ、来てくれたらな」 「来るといいわね」 そう微笑んで葛は麻貴と微笑みあった。 |
■参加者一覧
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 「雅人さん!」 ギルド受付役の真魚に声をかけられた紫雲雅人(ia5150)は「おや」と応え振り向いた。 「ご無沙汰してます!」 丁寧に挨拶を返した雅人はある依頼書を見つめる。 「ようやくですか」 「ええ‥‥」 真魚もそれがなんなのか知っており、頷いた。 「麻貴ねえさまを知っているのかな」 雅人に声をかけたのはフレス(ib6696)。 「こちらは雅人さん。監察方の依頼に行かれる方は殆ど存じてますよ」 真魚が応えると雅人はフレスが監察方に関わる開拓者と察して、真魚は雅人にフレスの人となりを伝える。 「ああ、彼の奥方ですか」 「今でも照れるんだよ」 頬を染めるフレスに二人は微笑む。 「旦那様、とっても喜んでいたんだよ」 祝う気持ちは間違いはないが自分のどこかで針のような痛みが雅人の心を刺す。 それでも、会おうと思った。 先に理穴入りした輝血(ia5431)と御樹青嵐(ia1669)、珠々(ia5322)は先に入っていた葛に歓迎されたが、輝血は葛に連れ出された。 品のある小料理屋で個室も完備されていた。 「麻貴から言われてね」 「今度殴っておく」 「臑で」 「わかった」 物騒な会話の中で輝血は自身の変調を麻貴に見破られていたことに心の中で舌打ちをした。 葛なら話すだろうと見通されたことも。 「‥‥青嵐に愛してるって言われた」 「そう」 穏やかに答える葛に輝血は言葉を重ねようとも言葉が出てこない。 どう言ったらいいのか分からないくらいに輝血の中で色々と渦巻いてしまっている。 「青嵐は、まっすぐで‥‥どうしたらいいのか‥‥」 踏み出したら後には引けない。 物心ついた頃には合理的な算段を身体に染み付かせてきたのにそんなものが今この時点で何一つ役に立ってない。 時が経つにつれ、思い知らされていく。 「何も分かってない自分が、どうなっていくのか‥‥こわい」 未来は見えるようで見えないもの。 蛇の血の中にいた輝血にとって見ていたものは違うもの。何も知らない自分が怖い。 ● 時間を少し巻戻し、珠々と青嵐はは麻貴の下に行くと、そこには柊真や美冬、折梅もいた。 「お手伝いにきました」 「青嵐君は本当に助かるよ。台所番達が首を長くして待っていたぞ」 「そう言っていただければ嬉しいですよ」 輝血が葛に連れて行かれたのは察しているようであったので、とりあえずは伝えてから台所へと向かった。 「それはありがたいんだが、お前に話がある」 青嵐が席を立った後、柊真が珠々に声をかける。 「何ですか?」 改まったようであり、珠々は首を傾げつつ、正座する。 「お前の養女にする件だが、話は整って上原の戸籍も用意できている」 具体的な話に珠々は目を丸くする。 「上原家は理穴監察方に従事する家だ。表向きは理穴の要人の警護だが、諜報、血生臭い事にも発展する事もある。 それを踏まえた上で開拓者としてどうして行くかも考えて返事がほしい。開拓者業に関しては続けても構わない。後ろ暗い仕事をさせる気はない事をわかってほしい」 父となる男を珠々は見つめる。 「前にも言ったが、返事はいつでもいい。上原家がどういう家か伝えたかっただけ」 言葉を続けて言う母となる女を見やる。 「わかりました。今は、おとうさんとおかあさんのお祝いを頑張ります」 立ち上がる珠々は祝言を完全遂行する意欲に燃えていた。 溟霆(ib0504)夫妻が現れ、溟霆はいつもの様子であったが、紅霞は恐縮した様子であった。 「緊張しているのは、別の事かな?」 溟霆が柊真に問えば、彼は白旗を揚げるように両手を挙げる。 「娘に逃げられないか心配になってきた」 「上原家については僕達もあまり聞いていなかったけどね」 祝言前日なのに何故、その話をしたのかと溟霆は呆れつつ珍しく落ち込む柊真を観察する。 「さっきから柊真がウザいのなんのって、溟霆君、いらっしゃい。紅霞がやる気空回りしてるけどいいの?」 溟霆の分のお茶を貰いに行った沙桐が言えば、彼は笑顔で頷く。 「祝言の話を聞いてからあの調子だから大丈夫だよ」 やる気にから回ってる愛妻がとても可愛らしいという話が溟霆の耳に入るのは時間の問題だ。 「麻貴君の様子は大丈夫なのかい?」 嫁入り前とは何かと心が繊細となる時期であり、溟霆は麻貴を心配する。 「俺とあまりかわらん」 「親ばかだなぁ」 くすくす笑う溟霆に沙桐はご機嫌斜め。麻貴をとられるのが未だに嫌の模様。 そろそろ子供だってできるのに。 「沙桐君は麻貴君に関しては変わらないね」 「変わるのヤダ」 子供のような沙桐の言葉に溟霆は肩をすくめた。 台所近くで葉桜をはじめ、侍女達と祝言の打ち合わせをした後、仕込みなどをしている内に輝血が戻ってきた。 「手伝うことがあればやるよ」 「では、一緒に会場の設営をしましょうか」 会場となる大広間に行く際に障子が少し開けられた部屋があった。 部屋の中が冷えるし、閉めようと思った輝血がみたのは麻貴が着るだろう繚咲の白無垢。 一年中、いつまでも共にいるという意味があると誰かが言っていた。 輝血が一呼吸置いて戸を閉めて歩き出す。 「輝血さんにも似合いますよ」 「あたしはっ、着れないし‥‥っ」 苦虫を噛みつぶしたかのような輝血の言葉に青嵐はそれ以上追求しなかった。 準備は終わり、後は式を待つだけだ。 ● 当日、フレスが現れると、麻貴はもう支度をすませて繚咲の姫にふさわしい様子。 「フレス君でないか!」 顔を明るくした麻貴だが、つい、探してしまう。 彼の姿を。 「旦那様は何が何でもこの祝言に行こうとしてたんだけど、どうしても外せない用事があって、来れなかったんだよ」 だから、代わりなんだよと言うフレスに麻貴は首を振る。 「用事だから仕方ない。君は代わりなんかじゃない。来てくれてありがとう」 「おめでとうございますなんだよ」 弾けんばかりのフレスの笑顔に麻貴はとても嬉しく思う。 「そろそろ、式の時間だよね」 フレスが言えば、麻貴の表情が少し曇った。 「何か‥‥」 麻貴の表情に気づいたフレスが尋ねる。 「一人、まだ来てないんだ‥‥」 来てほしいのにと麻貴は手にしていた紙に少し力を込めてしまう。 手紙では祝ってくれてるのに‥‥ フレスがそっと、手紙を握っている麻貴の手を自身の両手で挟む。 「きっと、用事ができたんだよ」 「そうだな‥‥」 慰めてくれるフレスに麻貴はなんだか泣きそうになってしまう。 麻貴のわがままを受け止めてくれるのは雅人やフレスの旦那様をはじめ、開拓者のみんなだ。 参列者が集まり、杉明が挨拶を始める。 理穴の政務官が多い中、開拓者の華やかさは適度に注目を受ける。 新郎新婦がゆっくり会場に入ってきて式は静かに始まった。 繚咲の白無垢に身を包んだ麻貴はとても幸せそうな花嫁であり、柊真は凛々しかった。 けれど、開拓者たちは麻貴の曇りに気づく。 「美しい花嫁の煌めきを曇らせるとはね」 感動して泣いている紅霞の手を握りしめ、小さな小さな声で溟霆が呟くも、その相手は答えなかった。 彼なら聞こえているだろうと思ったが、だんまりされた。 溟霆の呟きが聞こえた輝血としては「ずるい」と心の中でその相手へ呟いた。 こっちだって白無垢が眩しすぎるんだからと抗議したいようであった。 聞こえているだろう珠々は待ちに待った両親の祝言にとても喜んで右から左へ過ぎ去ったようであった。 フレスは眩しそうに麻貴を見つめる。 愛しい旦那様よりずっと聞いていた麻貴のこと。 お付き合いする前から彼の胸中は察していた。 友人という立場となった旦那様がどんな思いだったのか‥‥ 嫉妬をした事がないと言えば嘘となる。 お互い話し合い、信頼を構築していった今なら笑顔で麻貴と対等に話せると思うから‥‥ 溟霆が囁いた相手は、麻貴に祝いの手紙を送った相手は末席で麻貴の晴れ姿を見ていた。 綺麗と思ったけど、声に出したくはなかった。 それは柊真のための白無垢だから‥‥ 麻貴の懐に自身が書いた手紙が差し込められていたことに気づかず、雅人は式が終わると同時に誰にも悟られずに姿を消した。 ● 宴会は式が終わると祝いの膳や料理が運ばれていく。 酒宴ではあるが、青嵐が提案した料理はとても好評だ。 「お、おかあさん! とってもきれいです!」 親族席にいた珠々が全開笑顔で麻貴を誉める。 「ありがとう、珠々の着物は私のお下がりだな」 「葉桜さんに着せてもらいました」 本当はメイド服姿で出ようと思ったが、キズナに発見されて葉桜と折梅に捕まり、着物を着せられて親族席に放り投げられた。 「私はおてつだいにいきます‥‥」 杉明と共に客人たちへ挨拶周りに行かされる事になったようで、成長した自分が試せる好機とばかりに珠々は心は勇ましく杉明の後ろを歩いていく。 「麻貴姉さま、柊真兄さま。御成婚おめでとうなんだよ」 フレスが声をかけると、二人は笑顔となる。 「麻貴姉さまにさっき伝えたんだけど、今回は旦那様の代理できたんだよ。本当に喜んでいたんだよ」 「彼のことは聞いた。来てくれてありがとう。彼にも宜しく伝えてくれ」 柊真がフレスに礼を伝えると、彼女は「分りましたなんだよ」と笑顔で了承してくれた。 「麻貴姉さま」 「なんだい?」 改まって麻貴を呼ぶフレスに麻貴が首を傾げる。 「今度はゆっくりお話したいな」 「いつだっておいで、仕事を手伝ってくれたらもっと早くゆっくりできるが」 「了解なんだよ♪」 こっそりと答える麻貴にフレスはくすくす笑いながら頷いた。 周囲を確認するフレスの耳には少しずつ宴会の賑やかな音が聞こえてくる。 「二人の祝いに一曲おどるんだよ」 フレスが立ち上がると、バラージドレスのレースがふわりと風に乗る。頭に巻きつけたクーフィーヤを解けば、フレスは一歩大きく踏み出し、丁度踊れそうな空間を見出してその場で舞いの構えを見せる。 天儀のものではないとわかるフレスの姿にその場にいた者が釘付けになってしまう。 つま先で床を打ち付けると演者達がフレスの舞いに合わせて音を奏でる。 異国情緒溢れるフレスの舞いは天儀の舞と違い、情熱を指の先まで真直ぐに伝えていく。 フレスが自身を寄代にするように『彼』の想いを舞で伝えていく。 見事なフレスの舞いに麻貴はこの場にいない『彼』の名を呼び、柊真が麻貴の手を握り締めると、ぽろりと涙を零した。 青嵐は輝血を探し、宴会場を出た。輝血は人気のないところで休んでいた。 「‥‥」 青嵐が名を呟こうとしたが、ここは羽柴家。 人の目もとい、耳が多い。 二人だけの時に呼んでと言われたのだった。 「どうかした?」 どこかバツが悪そうな、居心地が悪そうな輝血の様子に青嵐は彼女の手を取った。 「結婚してください」 青嵐の言葉に迷いなどはない。祝言の宴という雰囲気から来る衝動でもなさそうで‥‥そんなのは彼女は一番分っている。 「あたしに白無垢を着る‥‥」 「それを纏う資格ないとは思えません。いや、ないのなら私が与えます、貴女の所業で着る事が罪であれば、私がその罪が負います」 力なく振りほどこうとする彼女の手を青嵐は離さない。 「共に背負います。貴女ごと」 青嵐はとても真直ぐだ。 彼はとても穏やかで、初夏の流水のような人と例える者もいる。 今の彼はまるで、まだ青葉の鬼灯を揺する強い風のようだ。 揺すられているのは輝血と呼ばれる開拓者の娘‥‥ 「待って‥‥ほしい‥‥」 全身が揺さぶられるかのような衝撃に彼女は切れ切れに答えた。 場は宴会場に戻る。 新郎新婦の挨拶が少し落ち着いた頃、溟霆は赤い目の紅霞を連れて挨拶に向かう。 「‥‥既成事実作っているようだけど、いいの?」 溟霆夫婦が声をかけると、新郎新婦は曖昧な笑顔を見せる。 「いずれは娘に来てくれるといってたしな‥‥」 そっぽを向く柊真に溟霆は仕方ないなぁと笑う。 「珠々君、本当によかったね」 「一番の贈り物だ」 穏やかに溟霆と柊真が見つめるのは笑顔の珠々だ。 夜春を使わず笑顔になれるということは誰もが願っていたこと。 「彼女は本当に頑張っていたからね」 「ああ‥‥」 溟霆に誉められて麻貴と柊真は微笑みあう。 その後、杉明に将来有望な孫娘がいるということで、見合いを考える政務官が続出というのは、笑う事で顔面筋肉痛になった珠々には知らない話。 葛は輝血がいないことに気づき、青嵐に尋ねると、「彼女をお願いします」とだけ言った。 青嵐を問い詰めるよりは輝血の下に走った葛が見たのは自身が知る輝血はない、自身が感じる輝血の姿だ。 「ねぇ先生」 輝血ちゃん そう言えなかった。 「結婚してほしい、だってさ」 誰からなんて分ってる。 「そんなの、答えられないよ」 蛇の血闇の中で産まれ、代々の輝血として消え往く存在だったのだ。 「目が熱い、乾いて痛い‥‥」 彼女の紫の瞳から幾筋も流す涙。 葛には蛇の血闇の中で産声が聞こえた気がした。 生まれる赤子は抱きしめるもの。 葛は涙を流す輝血を抱きしめた。 宴も終わり、普段着に戻った麻貴は熱源のお茶を握り締め、縁側を見つめていた。 懐には手紙がある。 「麻貴さん、おめでとうございます」 どこからともなく聞こえる声に目を見開く。 彼はシノビだったのだ。 「遅刻とは、珍しいな」 ほっとする麻貴の表情に雅人は「すいませんね」と笑い、酒を渡す。 「来てくれてありがとう、読売屋」 「火宵、処刑されたそうですね」 二人は縁側に座り、麻貴が事の顛末を伝える。 火宵が手に染めた犯罪は母である旭の故郷を滅ぼし、愛した女を殺したアヤカシ討伐資金の為。 愛した女は生き延びていたが、殺人者となって極刑は免れなかった。 火宵達の里は火宵の父親の本妻の策によって焼かれ、現在は監察方の方で長期諜報任務に出たシノビ達の保護に当たっているそうだ。 火宵が引き取ったキズナは一切犯罪に関わっていなく、柊真の一存で戸籍を用意されて、今は理穴監察方で働いている。 アヤカシ‥‥百響は鷹来家の始祖となる者の妹、百合という娘が濃厚。 繚咲の純血にこだわる理由はまだ不明。 沙桐の結婚で繚咲は大きく変わると緑萼が言っていた。 限界に近い鷹来の血が薄められる事を願うのみとも。 「ちゃんと、隠すところは隠しますから」 「分ってるさ」 雅人の笑みはいつも安心できた。彼は麻貴にとって頼れる大人の一人だ。 「君の荒事は終わったのか?」 麻貴がどこか不安げに尋ねる。 「まぁ、ぼち‥‥ぼちです」 立ち上がった雅人はようやく麻貴が懐にしまっていた自身の手紙に気づく。 「‥‥お幸せに」 胸を刺す痛みが和らいだが、それでも、彼は口を割らなかった。 「ありがとう」 子供のように安心したかのように麻貴は微笑む。 その瞬間、雅人は決めた。 麻貴に惚れていた事は墓の中まで持って行く事を。 |