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■オープニング本文 武天は此隅の鷹来邸に戻った折梅はゆっくりと休んでいた。 ここの所、色々と出回っていたので、それなりに疲れが出ていた模様。 繚咲や孫達と一緒に過ごすのはとてもよいものでありつつも、生まれ育った此隅が落ち着くのは事実だ。 沙桐が繚咲に赴いてから鷹来家代表として武天に留まっているのは緑萼の息子である高篠。 二年は武天に滞在しており、此隅の生活も慣れて、顔なじみも増えてきた。 実を言うと、この高篠には好きな女がいる。 中級武官の市原家の娘、緒水だ。 高篠が此隅に来た当初に勤め先の先輩である橘夫妻にとてもよくしてもらい、その奥方の友人が緒水だった。 緒水の美しい容姿と優しさに一目惚れに近い状態で恋に落ちたようだ。 高篠は武芸はそれなりに出来るものの、性格は内向的。緒水が年上ともあり中々強気になれない模様。 そんな話は侍女達から折梅の方に筒抜けであり、折梅は自宅で骨休めをしつつ、季春屋の酒と共に美味しい肴を味わっていた。 思われ人である緒水は折梅と馬が合い、幼少の頃から友人付き合いがある。 折梅が此隅を離れた頃はとても寂しがっており、入れ替わりに現れた高篠が沙桐や折梅に似ていたこともあり、何だか弟のように世話をしてしまうという手紙を折梅と幾度が交わしたことがある。 緒水自体も適齢期も過ぎようとしている頃である。 しかし、以前に父親が不正の濡れ衣を着せられて、悪徳武官の嫁入りにされかけた事もあり、両親も強く結婚を勧める事はなかった。 そんな緒水の事を考えれば高篠にもそれなりに機会はありそうなのだが、暫くは進展はないだろうと折梅は踏んでいた。 折梅が此隅に戻って十日近くを過ぎようとした頃、緒水が折梅に会いにきた。 久々に会う緒水はより美しくなったような気がする。 「緒水さん、綺麗になったわね」 「まぁ、折梅様ったら、お上手です」 年は離れているものの、仲良く笑いあう姿はとても微笑ましい。 「今日は高篠様は?」 「仕事です。昨日は捕り物があったのですが、後処理もあるからとお仕事に」 「そうでしたの‥‥私、そんな事は知らずに‥‥お怪我は‥‥」 青ざめる緒水に折梅は優しく声をかける。 「大丈夫ですよ、怪我一つありませんでした」 折梅の言葉に緒水は安堵の表情を見せる。 「高篠様の一大事の時にお誘いに浮かれて、恥ずかしいです」 「お誘い?」 ピクリと、折梅が反応して問えば、緒水は頷く。 「明日、観劇に行きませんかと。流れの一座が今来てて、私楽しみにしてたのです」 花がしおれていくように緒水の表情も沈んでしまう。 「あらあら、そうでしたの。きっと、高篠さんは緒水さんを心配させたくなかったのですね」 折梅が慰めると、緒水は力なく頷く。 「明日、お会いした時に高篠さんを労わってあげてください。緒水さんが労われば、きっと疲れなど吹き飛びますよ」 「折梅様ったら、大げさです」 噴出してしまう緒水であったが、効果は絶大なのは火を見るより明らかである。 一方、高篠は役所にて先輩方と捕り物の後処理の事で話し合っていた。 調べに寄れば、昨日取り締まった賊にはまだ仲間がいるようで、先発隊がしくじった場合、状況により次第、後発隊が押し入るようであった。 この後発隊は強行隊であり、血が流れるのは必死。 狙われた商家の警備を強めれば、後発隊に逃げられるのが目に見える。 「後発隊を泳がす為に商家の警備は緩めようと思う」 「ならば、後発隊の棲家へ行って捕まえた方が商家にこれ以上、怖い思いをしないですむでしょう」 高篠が意見を述べると、それもそうだという空気が流れるが、止めたのは彼の先輩たる橘永和。 「向こうとて気が立っているし、日にちをずらしても動きは出ないだろう」 「それに、お前は明日、市原嬢と観劇に行くのであろう?」 確認するように一語区切って言う永和に高篠は何故知っているという声にならない悲鳴を上げる。 「おお、とうとうか」 「恋敵は折梅殿か」 「開拓者でいただろう。腕の立つあの美人」 「一番の恋敵だな」 他の先輩諸氏に囃し立てられて当人は顔を赤くして目を白黒させる。 「お前は今回よく働いた。今日は早く帰り、明日一日は骨休みをしてまたしっかり働け」 「‥‥はい」 永和の言葉に素直に頷いた高篠は早めに帰り、緒水との逢瀬に備えた。 さて、高篠が帰った後、永和含む先輩諸氏は密談を始める。 「高篠を囮にするのか」 「他数名も休みを取り、後発隊の裏をかく」 「しかし、人が足りぬぞ」 「開拓者を呼ぶように手配してある。開拓者と共に後発隊を討つ」 地図を広げ、役人達の打ち合わせが始まる。 |
■参加者一覧
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 開拓者達は依頼人と接触せず、それぞれで打ち合わせた方へと向かう。 その中で珠々(ia5322)は困ったような怯えたような様子を見せていた。 「珠々様、如何されましたか?」 夫の溟霆(ib0504)と共に参加した紅霞が尋ねると珠々は顔を上げて紅霞の気合に気づき、目を見開く。 「とっても‥‥気合が入ってます‥‥」 「ええ、高篠様は緑萼様の一人息子です。内向的な性格であるがゆえに、緑萼様も気にしていた話も聞いております」 紅霞にとっては父とも慕う緑萼の息子の恋路を応援しているようだった。 「溟霆様‥‥何卒、高篠様と緒水様をお守りください。そして、御無事で」 妻の信頼を一心に受ける溟霆は笑顔で受け止める。 「勿論だよ。紅霞」 いつも通りの仲良し夫婦に珠々の気持も落ち着く。 一方、珠々が怯えてしまう原因の可能性を秘める輝血(ia5431)は自分で依頼を受けたのに何故か納得がいってないような表情を浮かべていた。 依頼書に緒水の文字があったからそのまま受けてしまったのか。 視界に入らないようにしていても、自分の向かう意識は一つ。 どうしたシノビ、こんな状態で仕事が出来ると思うのかと叱咤しつつも、「このような仕事でトチるような自分じゃない」という自負が出てきてしまうというよくわからない葛藤を始めて輝血は頭痛すら覚える。 そんな輝血の様子を見ていた御樹青嵐(ia1669)はどうしていいものかと困惑しつつも輝血との時間を作ろうと考えているようだ。 「輝血さん」 「‥‥何」 青嵐が声をかけると、輝血は平然を取り繕うが、珍しい事にそれはどこかぎこちない。 「いずれ、高篠さん達が行く劇を一緒に見に行きませんか?」 「うん、いいよ」 目をあわせた振りをして了承する輝血は逃げるように仕事へと入る。 輝血を見送った後、青嵐は棲家の方へと向かう。 「青嵐君ならきっと大丈夫だよ」 様子を見てハラハラしていた珠々に溟霆が声をかけて彼も仕事へと向かう。 こくりと頷いて珠々も仕事に向かった。 尾行される三人のうち、輝血が担当したのは依頼人である永和だ。 現時点で永和は自宅にいた。 周囲を見ていると、尾行者らしい影を見つける。 情報通り、尾行者もシノビであり周囲には気をつけている様子。 しかし、輝血にしてみれば慢心もいいところだろう。実際に身を潜める輝血には気がついていない様子だった。 今の所は人気もないので早く仕留めるのが最良。 音もなく輝血はシノビとの距離を縮めて背後を取った。 シノビは自身の首筋に触れるか否かの距離で刃の気配を感じとる。 背後を取られたとて、シノビは負ける気はしないのは自信があるからだろう。 振り向きつつ、間合を取るために飛び退るが、自身に近付いた人物の目を見た瞬間、シノビは固まってしまう。 否、呼吸すらも上手くできてない。 蛇がいると本能が警鐘を鳴らす。 「蛇に睨まれた蛙の気持ちはそう味わえない。手練のシノビになればなるほど」 シノビに輝血の言葉を否定も肯定も出来ない。 あっさり捕縛されたシノビを近くに置き、永和に声をかけるために勝手口から入った輝血は永和の妻、蜜利と会う。 「まぁ、輝血様。ご無沙汰してます」 「久しぶり。子供出来たんだ」 「ええ、抱っこしてください。この子は開拓者の皆さまなくて存在することはありません」 「大仰な‥‥」 そうは言いつつも、輝血は子供を抱く。 葛と会った時、生まれたての赤子を抱いた事がある。 軽いのに凄く重かった。 この子もやはり重かった。 命の重さは腕に残る。 永和の同僚である天草は普段着だろう質がいい着流しを着て大通りを歩いていた。 姿を隠した珠々が天草に気を配りつつ、尾行者を確認する。 尾行者は程なく見つかり、珠々は追尾していくと、天草は尾行しやすい道を辿っていると珠々は気づく。 町を警邏する役人ならではの気遣いに珠々は内心唸っていると、超越聴覚が声を拾う。 どうやら、高篠を尾行する賊が超越聴覚を使って天草の尾行者に報告しているようだった。 現在、高篠は緒水の自宅へ迎えに行こうとしているようで、溟霆の事は報告になかったので、気づいていないと判断した。 会話を一度途切れると、うめく声が聞こえた。 尾行者にも聞こえていて、慌てたように声をかけても反応はない様子。 溟霆が動いたのだろう。 「悪い事をして、また悪い事をさせるのは許しません」 珠々も動くべく、尾行者に声をかけるとむき出しの敵意で尾行者は珠々を視界に入れた途端、子供の姿の珠々ににやりと口端を上げた。 尾行者は一気に駆け出して珠々の脇をすり抜けていく。 子供だと思って更に裏路地に入れば撒けると確信したのだろう。 「逃がしません」 静かな珠々の声は銀の鈴のように響く。 その言葉と共に駆けていた尾行者は足がもつれて転び、そのまま痺れと引き付けで動けなくなった。 鷹来家に着いた溟霆は尾行者を確認したが、ついでにその尾行者を監視している折梅護衛のシノビである架蓮と目が合う。 架蓮は溟霆に気づくと、目礼をして姿を消した。 彼女も尾行者がシノビであることを気づいているのだろう。 程なくして高篠が出てきた。 緒水との逢瀬もありとても緊張している。折梅に見送られて高篠は緒水の家へと向かっていく。 同時に尾行者も動き出したが、溟霆は動かずに門の方を向けば、折梅は中に入らずにじっと高篠が向かった方向を見つめていた。 溟霆はこれは姿を見せろという威圧かと察して尾行者に気をつけつつ姿を見せると、折梅はより笑顔となって溟霆に一度頭を下げた。 孫息子をお願いしますということなのだろうか。溟霆もまた、折梅に目礼をし、尾行を始めた。 大通りに入れば、尾行者は超越聴覚で会話を始めた。 永和は自宅と聞いている。ならば、天草の尾行者だろうか。 大通りを越えて別な区画の住宅街に入る。 旅人がここに紛れては人目に目立つ。早々に片付けるのがよいと判断した。 先回りをして、高篠が十字路を真直ぐに越えた時に溟霆はわき道から尾行者とすれ違うように歩き出す。 尾行者は俯きがちに溟霆から離れようと足を速めたが、外套の中で抜けられた溟霆の刀の柄が尾行者を狙う。 呻く声すら溟霆の手に遮られてしまい、高篠の耳には聞こえなかった。 溟霆は気を失った尾行者を介抱するように番屋へと引き渡した。その最中に珠々が尾行者を倒したのも超越聴覚で確認できた。 高篠の恋路を祈りつつ、棲家の方へと向かう。 青嵐は紅霞と共に棲家の方へと向かっていた。 棲家の近くに役人たちが監視している小屋があり、そこに入り込む。 中から出てきたのは尾行者役の三人が出たり入ったりしているようで、他の面子はあまり出てこないようだった。 「青嵐様、私が潜入しようにも、相手に志士がいるのでは感づかれる可能性が高いと思います」 「わかってます」 紅霞の言葉に頷いた青嵐は式神を生成して棲家の方へと走らせた。 小さな鼠の式神は容易く棲家の床下から入り込み、天井裏へと伝って行く。 幸い、小さな天井穴があり、そこから鼠の目を通して青嵐が視る。 中には七人がいた。 話している様子はなく、緊張感は感じられる。 服装でクラスが分かるわけではなく、それぞれの傍らにある武器で判別するしかなかったが、中にいる女二人が泰拳士と志士もしくはサムライだろうというのが察せられる。 巫女に術を発動させてはこの式神に感づかれる可能性を考慮し、青嵐は即座に撤退した。 意識を戻した青嵐が自身の瞳で見たのは永和を連れてきた何か複雑そうな顔をした輝血だった。 天草を連れた珠々と溟霆が棲家へと入っていく。 「溟霆様?」 「いや、気を引き締めないとね。高篠君に勘づかせない為に」 溟霆を迎えた紅霞が夫の様子に気づき、首を傾げるも、当人ははぐらかした。 「珠々殿」 「はい?」 先に入っていた永和が珠々に声をかける。 「御母堂の祝言、お慶び申し上げる」 「あ、ありがとうございます」 麻貴のことを言われて、珠々は無表情が解けて笑顔となる。 「これは沙桐が持ち帰りたかったというのも仕方ないな」 「鷹来の姪か」 「可愛いな」 役人達に頷かれて珠々はおろおろとしてしまうが、輝血はさっさと行こうと声をかける。 棲家へと襲撃を決めた開拓者と役人は電光石火という言葉がよく似合うほどに素早く周囲を囲み、中へと入り込む。 「一番強い奴は誰。相手してやる」 どこか苛つきを隠せない様子の輝血が声をかける。 「随分と自信があるんだね」 泰拳士の女が言えば、輝血は即座に術を発動させた。びくりと身体を竦ませ、浅い呼吸を繰り返して泰拳士はその場に崩れ落ちる。 「貴様‥‥!」 賊の一人が刀を構えた途端、青嵐が発動させた式神が雪の花びらが賊達へと花吹雪を送り込む。冷気に賊達は足を竦めてしまう。 一気に畳みかけようとした時、役人の一人が呻いて床に倒れこんだ。彼の周辺を見やれば、床が凹んで曲がっている。 「巫女か」 察した溟霆が巫女を捕縛しようと走り出していた。 巫女は自分が狙われることに気づいていたかのように浄炎を発動させる。溟霆は妻の動きを把握しており、彼女が炎に触れられないように炎を受けてそのまま術者へ突貫する。 「自身の炎に焼かれるがいい」 逃げようとした巫女を溟霆は許すことなく羽交い絞めにして背を焼いた。 「溟霆様っ」 「先に捕り物だよ」 穏やかに溟霆は心配する紅霞を促す。 志士と交戦中の珠々はシノビの跳躍力で志士が構える刀の切っ先に乗っていた。サムライが珠々の足を狙おうと刀を凪ぐと素早く切っ先から降りてサムライの足めがけて引っ掛ける。 足の衝撃から平衡感覚を失ったサムライは倒れこんでしまう。 「ちょろちょろと‥‥!」 志士が珠々を仕留めようと突きの構えを取ろうとした瞬間、志士は青嵐が発動した呪縛符で動けなくなった。 役所まで送り届けると、全員捕縛確認までやってのける開拓者達に役人達から心より礼を述べられた。 日も暮れかけており、開拓者達は散会する。 青嵐は輝血と共に酒を飲んでいた。 会話がないというか、何を話せば分らない。 気まずいが、一緒にいたい気持だけはある。 「高篠さん、上手くいったようですね」 「ヘマしてないようだったね。緒水も楽しそうだった」 そして再び沈黙。 食事も酒もいいものであったが、酒精すらも分らなくなっていると二人とも感じていた。 頼んだ食事もなくなった。 店の空気が悪いわけではなかったが、逃げるように二人は会計を済ませた。 此隅の繁華街の一角で溟霆、紅霞夫妻は鍋をつついていた。 半年ほど生活をしていると紅霞の好みも分ってきたようで、彼女は温かいものを好んでいるようだった。 今日の鍋もとても喜んでいる。 障子を少し開けてもらい、灯篭の明かりに映し出された庭が綺麗だった。 羽織と炬燵で冷気を凌いで温かい鍋を食べている。 「溟霆様、先ほどの炎は‥‥」 心配そうな紅霞に溟霆は「大丈夫」と微笑む。彼女もあの時、溟霆が自分を庇った事に気づいていた。 「僕はね、紅霞が傷つくのは嫌なんだ」 困り顔のまま紅霞が溟霆を見つめる。 「それにね、君が待ってくれるというのがとても嬉しいようなんだ。不謹慎な話だけど、その後に賊の棲家へ襲撃にかける前であろうとも」 溟霆が先ほどの紅霞の違和感のタネをバラした。 「‥‥私は待つのは嫌いでしたが、紅霞は溟霆様を待てます。いつも早めに帰ってきてくださるので」 咲き綻ぶ花のような妻の笑顔に溟霆は嬉しそうだった。 「でーとのこと、何も尋ねませんでしたね」 帰宅した高篠と挨拶をした珠々が折梅に問いかけると彼女は緒水から聞く気満々のようだった。 「それよりも、珠々さんは他に報告したい事がありそうに思えましたから」 「はい、溟霆さんと紅霞さんはとてもらぶらぶでした!」 先ほど捕り物の時に見せた溟霆の庇いっぷり等々を折梅に報告していた。 じっと、折梅に見つめられた珠々は曾祖母を見つめ返す。 「どうかしましたか?」 「最近、麻貴さん達に会えてますか?」 「はい。キズナの依頼を受けていた時に偶然会えました!」 麻貴の話を振られた珠々は嬉々と話し出して、折梅が噴出してしまう。 「おばあさま?」 「ご、ごめんなさいね‥‥何故か笑ってしまったの‥‥」 「はぁ」 「珠々さんはお母さんの事が大好きですのね」 「はい!」 折梅の様子に疑問符が頭の上に浮かぶ珠々には分ってないのかもしれない。 先ほどまではいつも通りの表情だったのに、麻貴の名前が出た途端可愛い笑顔になった事を。 青嵐と分かれた後、輝血は一人で歩いていた。 酒も料理の味も分らないなんて‥‥ 気がつけば、緒水の自宅近くを歩いていた。緒水に話を聞いてもらおうかと思い寄れば、困らせると考えて輝血はその思考を止めようとした。 「輝血様に会いたい‥‥」 風に流れて緒水の声が聞こえた瞬間、輝血の目の前には自宅の縁側に腰掛けて驚いて見上げる緒水の姿があった。 「輝血様!」 自分もそうだったとは言えなかったが、緒水は輝血に会えて嬉しそうだ。 二人は縁側に座って緒水の話を聞いていた。 「私、結婚したくなかったんです。殿方を信じられなくて」 緒水は自身の美しさ故に父が濡れ衣を着せられ、意図しない結婚を迫られた。 折梅の手の下、開拓者達に救出され、その一人に輝血も含まれる。 「‥‥高篠様の誠実さに惹かれているのかもしれません」 俯く緒水の表情は見えない。 「今は答えを出せませんが、きっと、放っておいても好きと分ると思い知らされると思います」 ぎゅっと拳を握る緒水は怖れているのだろう。 志体もない弱い身体一つで自身の未知と戦っている。 輝血は緒水の手を握った。 「あんたは、自分で決めれるようになった。大丈夫」 無意識に言って輝血は自分で驚く。 「はい」 輝血にそう言われたのが嬉しくて緒水は笑顔で頷く。 緒水と別れた後、輝血は急いで青嵐がいるだろう此隅開拓者ギルドへと走る。 道よりも屋根を伝った方が早い。 早駆で走って、跳んで、青嵐の下へ駆ける。 ギルドでお茶を貰ってぼんやりしていた青嵐の下に輝血が現れて青嵐は珍しく目を丸くした。 それもそのはず、輝血の息が上がっているように見えたから。いつもの輝血ではありえないし、それを指摘したら違うと否定するだろう。 「ちゃんと‥‥答えは出すから」 息が上がりそうになるのを堪えて、平然を装って輝血が青嵐の目を見てしっかりと伝えた。 「はい、お待ちしてます」 笑顔で頷く青嵐に輝血は難しそうな顔をしてそっぽを向いた。 |