無き姿を与えて
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/09 22:30



■オープニング本文

 依頼人を前にした受付嬢はどこかそわそわした気持ちでどうしようかと考えあぐねていた。
 目の前にいる男は強面の老人で、目つきもひどく鋭い。着ている着物が上等であることから、筋物系の御仁と思った。
「依頼でしょうか?」
「ああ、そのために来ておる」
 静かに一蹴され、受付嬢はぎゅっと目を瞑り、肩を竦ませる。それに気づいた老人はああと、ため息をついた。
「すまん、元がこうでな。気にするな」
 自制するように老人が言えば、受付嬢はしゃきっと背を伸ばした。
「いえ、こちらこそすみません。どのような依頼でしょうか」
 受付嬢が言えば、老人は困ったような顔をしていた。
「ワシは元は孤児でな。着る物も食う物も困っていた。生きる為に人を信じる事が怖かった。それ故に家族を作れんかった」
 静かに語る老人に受付嬢はじっと耳を傾けている。
「それで、一日でもいい、ワシに家族というものを演じてくれる者を遣わせてほしい。頼む」
 目を伏せる老人。
「分かりました。依頼を出させていただきます」
「すまないな。それと、ここを紹介してくれた奴がな、これをお前さんに渡せば分かると言ってきたのだが」
 渡されたのは折られた梅の枝を意匠した簪。

 そこに記された手紙に受付嬢は目を見張った。
 内容は彼の暗殺を企てるものがいるという話。
 人数は複数で志体持ちもいるかもしれないので注意してほしいとの事。
 この情報を持ってきたのは老人の店で長く番頭をしていた鉄という男。
 この事は老人には内密との事。
 
 受付嬢はその手紙の相手に気づき、頷いた。
 脳裏に映るのは、あの凛とした老婦人の姿――


■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
嘉島 燕 (ia8816
21歳・男・弓
夜光(ia9198
20歳・女・弓
鞘(ia9215
19歳・女・弓


■リプレイ本文

 十次の依頼に応じた開拓者の一人である楊夏蝶(ia5341)は今回の依頼の仲介人である鷹来折梅と会っていた。凛とした印象を持つ老婦人は穏やかに夏蝶を受け入れた。
「十次さんについて知りたいんだけど」
 折梅は夏蝶の後ろの方に手を差し伸べる。手の先を見れば、双樹堂と屋号が掲げている質素な髪結いの店。じっと店を見つめていたら、店から中年の男が一人出てきて、折梅に気づいた男は小走りで店の中に入る。
「どうも折梅さん、今日は随分な別嬪さんを連れてますねぇ」
 ちらりと、夏蝶を見て男は折梅に挨拶をし、夏蝶に鉄が名乗る。
「お二人も行きませんか? 折角の縁だし」
 夏蝶の申し出に鉄は難しそうな顔をし、折梅はくすりと微笑む。
「男の人は自分の格好を考えてしまうんですよ。友人の前でそんな様は格好悪いと思ってるんですよ。意気地がなくて可愛いでしょ」
 折梅は橘の柄の袖を口元に当てつつ微笑み、夏蝶は驚き、鉄は噴き出した。

「なるほど‥‥」
 夏蝶の話を聞き終え、静かに瞳を閉じる紬柳斎(ia1231)の隣で犬神彼方(ia0218)が溜息をつく。
「勿体ねぇなぁ‥‥家族ってぇのがどんなにいいもんか知らないだなんてぇなぁ‥‥」
 一家を護る家長である彼方は血縁、年齢関係なく自身の子として迎え入れている。賑やかで楽しいあの感覚をよく知っている。
 是が非でも十次にあの感じを味わってもらいたい。
 彼方の噛み締める言葉に天河ふしぎ(ia1037)も頷く。
「ああ、来ましたよ」
 嘉島燕(ia8816)が言うと、そこには十次が旅姿で現れていた。凄みと貫禄たっぷりの老人と聞いていたが、その表情はどこか不安そうなものだった。
「十次だ‥‥今回は宜しく頼む」
 一礼する十次の腕を引っ張るのは鞘(ia9215)だ。
「御爺様、何畏まってるの? 早く行こう」
 戸惑う十次に鞘はきょとんとしている。どうして十次が戸惑うのか分からないからだ。鞘にとって十次は家族と思っているからだ。
「ああ、行こう」
 困ったように言う十次にふしぎも空いた腕をとって引っ張る。
「今日はすっごく楽しみにしてたんだからなっ」
 にこっと笑うふしぎに十次は驚く。
「親父、今日の宿楽しみにしてるからぁなぁ」
 彼方が言えば十次は彼方を見上げる。
「ワシの友人が勧める宿だ。きっと気に入るだろう」
「それぁ楽しみだぁなぁ」
「楽しみですね」
 燕が微笑むと、一向は宿へと向かった。

●優しい一時
 宿に着き、客室としては一番広い部屋を取っていた。居間となる大きな卓がある部屋と襖で遮られた寝室用の二部屋。
 窓から見える景色は雪の色が見えており、山の景色と溶け込んでとても美しい。
 流石に窓を開けられては寒い。夏蝶が火鉢の傍で膝を抱えて丸まっている。
「はは、夏蝶は寒さが苦手か」
 十次に笑われる夏蝶であるが、寒いものは寒い。
「雪斗、窓を閉めてあげなさい」
「はい」
 素直に頷く雪斗(ia5470)が戸を閉める。彼が窓を開けていたのは、射撃されるような所はないか、見張られていないかの確認だった。敵は茶の髪に青い瞳の派手な着物を着た男だという。
「夏蝶、干し芋が焼けましたよ。少しは温まるでしょう」
 柳斎が夏蝶に火鉢で炙った干し芋を渡せば、ふんわりと芋の甘い香りがする。ぱくりと一口噛めば、香ばしさと柔らかい食感が口に広がる。
「美味しい」
 ほんわか広がる温かみで夏蝶に笑顔が戻る。
「それはよかった」
 笑む十次は初めて会った時の不安げの表情はなかった。後ろの方で転がっていた夜光(ia9198)であったが、干し芋の香りに誘われて起き上がり、十次の着物の袖を掴み、斜め後ろに座る。
「柳、夜光にも焼いてあげてくれ」
「はい」
 いつもは無頼の様子である柳斎だが、今回は昔の姿に戻って十次に接している。名を知った十次が柳と呼んでいる。
「あ、僕も食べたいな」
 燕も言えば、柳斎はくすくす微笑み、火鉢にかけられた網に干し芋を載せる。
「お茶淹れたよー」
 鞘がお盆に載せた湯飲みを持ってきた。湯のみの一つを持ったふしぎが十次に渡す。
「はい、十次おじいちゃん」
「ありがとう。ふしぎ」
 十次が礼を言えばふしぎはにこりと笑う。
「お茶を飲んだらお風呂に入りにいこうねっ。僕が背中を流してあげるよっ」
 不思議の誘いに十次はお茶を噴出してしまう。
「これ、年頃の娘がはしたないっ」
「僕は男なんだぞ!」
 十次が窘めると、ふしぎは不機嫌な表情となる。やはり恋人がいるという身では殊更その言葉は堪えてしまう。
「そ、そりゃぁすまなんだ」
「十次おじいちゃんは大好きだから許してあげるんだからなっ」
 素直に謝る十次であったが、ふしぎはぷいっと、顔を背けてしまった。その横で雪斗が宥めている。
「外ヅラぁが美しぃんのは困る時があるなぁ」
 煙管の煙草に火をつけて、ぷかりと輪っかの紫煙を吐き出す彼方がにやりと笑う。それが面白いのか、夜光は興味津々の視線を送る。
「夜光は輪っかが面白いのかぁ?」
 彼方が言えば、夜行が一つ頷く。承知したと言わんばかりに彼方は連続して煙の輪っかを三つ浮かべた。
「上手いものですね」
 燕もまた、紫煙の輪っか見るとは思わなかったのか、興味深そうに見つめている。
「ははっ、特に役にも立たねぇがな」
「そんな事はない、人を喜ばせるのは何よりも素晴らしい事だ」
 笑う彼方に十次が諭す。
「んな事言われるとぉ、くすぐってぇなぁ」
 肩を竦めて彼方が笑うと、柳斎は滅多に見れない子供の親父殿の表情にくすくす微笑んでいる。

 温泉は男女別。ここでまた驚きが。
「彼方、お前はこっちじゃないのか?」
「いやぁ、俺ぁ‥‥女なんだが‥‥」
 十次が指差したのは男湯。彼方が入ろうとしたのは女湯だ。どうやら高身長と伊達な格好で男と思っていた模様。
 温泉に入り、ふしぎに背中を流してもらって十次は満足気に広い湯に浸かっていた。
「叔父さん。お風呂上がったら肩でも揉みましょうか?」
「ああ、頼むぞ」
 燕が言えば、十次は頷く。
 ふしぎと雪斗は湯当たりを断念して先に上がっていた。勿論、心眼を使う為だ。温泉で温まったとはいえ、冬の冷えは甘く見てはいけない。さっさと服を着て皆を待っている。
「近くにはいないね」
 まだ姿が見えない敵にふしぎが少し苛立ちを隠せない。雪斗は心眼を止めてゆっくり溜息をつく。
「面倒は嫌なんだけどな」
「僕は嫌いじゃないよ。おじいちゃんの事」
 仕事はするけどと雪斗が続ける。戸の向こうで燕を話している十次の声を聞きつつふしぎが彼の身を案じる。
 一方、女湯では湯に浸かった彼方が人魂を使って宿内で怪しい人影がないか視ていた。ふぅと、彼方が目を啓けば湯煙に煙る仲間の姿があった。
「どう?」
 心配そうに夏蝶が顔を覗かせる。
「んー、今の所はいねえなぁ‥‥」
「そっか」
「でも、御爺様が楽しんでくれてるようで嬉しい」
 笑う鞘に柳斎が微笑む。
「‥‥でも、家族は‥‥一体、どのようなものでしょう‥‥」
 ぽつりと呟く夜光。彼女には家族というものがいまいち理解できない。家族を知らず、龍と共に生きていた。友との境目が分からない。
 言われてみて、家族とは何かと言われたら家族と言いようがないと思ったのは鞘と夏蝶。
 親と確執があるのは柳斎。
 桶の中の蒲鉾を一口食べ、熱燗を胃に流し込んだ彼方が夜光を見つめる。
「月や星みてぇなもんだなぁ」
「月や‥‥星ですか‥‥」
 更に分からないという表情をしている夜光に彼方はくつくつ笑い声を上げている。
「俺達はそれよりも大事なもので出来てぇいる。水や食いもんを摂取しねぇと生きていけねぇ。けど、家族ってもんはぁよ、なくっても生きようと思えやぁ生けれる。星や月は夜になれば当たり前にあるもんだがぁよ、隠れちまう時だってある。そん時に寂しいなぁっと思う時とよく似てるんだぁよ」
「‥‥よく‥‥わかりません‥‥」
 困ったように夜行が言えば、彼方は呵呵と笑う。
「今理解するもんじゃねえよ。俺だって若ぇ頃はそんな時もあったもんだぁ」
「親父殿は三日以上嫁殿に会えなかったら拗ねているでしょうからねぇ」
 くすりと一つ柳斎が微笑む。
「三日も我慢できる俺を褒めとくれよぉ」
 膨れる彼方を見て、皆が笑う。
「さて、親父もそろそろ上がってるだろぉなぁ」
「うん、上がろうか」
 そう言って、娘達は湯から上がった。
 近くの休憩所で燕が苦心して十次の肩を揉んでいた。どうやらかなり肩こりが酷いらしく、ほぐすのが大変な模様だった。

●蓋をするもの
 夕食は鴨鍋でそのほかにもその場で揚げる天ぷらや串揚げなんかも供された。最初、料理人が部屋に入るという事で少々緊張が走ったが、大丈夫らしく、そのまま皆は食事に入る。
「さ、お父様」
 柳斎が銚子を持って十次の隣に座る。
「ありがとう」
 十次が注がれるまま杯を飲み干し、柳斎の手から銚子を取り、彼女の杯にも酒を注ぐ。きゅっと、柳斎が酒を煽ると、いい飲みっぷりだと十次が喜ぶ。
「彼方っ、お前も飲め」
 酒が入り、機嫌がいい十次は彼方の杯に酒をなみなみと注ぎ、表面張力で保っている酒を口を窄めて温かい酒を口内に迎える。
「っかーっ。旨いなぁ。親父も飲めっ」
 彼方と柳斎も温泉で飲んでいたが、更に呑んでいた。
「‥‥一升はいってるよね‥‥」
「うん」
 ひそひそと鞘と夏蝶が話している。二人が確認している分ではそれくらいはいっているらしいが、それでも二人は素面のままだ。
「はい、お爺ちゃん。うずらの卵の串揚げだよ」
 ふしぎがうずらの卵の串揚げを載せた皿を十次に渡す。
「ふしぎはいいこだなぁ」
 呑む速度が速い二人につられて呑んでいた十次はほろ酔い。
 それでも影では敵の様子を探ったりしているが今のところもそのような気配はなかった。

 食事が終わり、料理人もいなくなった後、皆がゆっくりをしていると、戸を叩く音がした。十次が出ようとすると、彼方が制して彼女が戸の前に立ち、声をかけた。
「宿のものです」
 それは男の声だ。彼方の前に立ち、槍を携えるのは心眼で見破った雪斗だが、雪斗が声をかける前に戸が開いた。そこにいたのは刀を持った者達。雪斗が槍を振るい、進入を拒むが、二人が槍を止め、その下を潜り、中に入る。
 一瞬に壊れた団欒。
 開拓者達は即座に戦闘態勢に入る。志体持ちの可能性は捨て切れていない。
 夏蝶が一人を見た。茶の髪に青い瞳の男。服装は派手でないのは暗殺の為か。そしてこれが敵だと理解する。
「あんた達ね!」
 敵を見極める為、夏蝶が茶色い男に攻撃を仕掛ける。男は軽々と攻撃を受け止める。
 闘い慣れた開拓者の姿を見て青い瞳の男が嘲笑を上げる。
「流石は双樹屋の主。いい護衛を雇っているな」
「十次お爺ちゃんには指一本触れさせやしない!」
 ふしぎが声を上げ、柳斎が十次をかばうように立つ。
「お爺ちゃんなぁ、所詮は金で雇われたんだろうが。命に関わる事がありゃぁ、とっとと逃げ出すに違いねぇ!」
 せせら笑う男達は勝つ自身があるのだろう。
「そんな事はしない。お父様は私が護る」
 柳斎が言えば、十次は溜息をついた。
「‥‥お前ぇは、架蓮の客だな。お抱え髪結いのワシを随分気に入っていたかたなぁ。奴に振られた腹いせか」
 どっかり座る十次にはようやっと引き出された親の顔は潜めており、裸一貫から髪を梳かし結い続け、店を興し、育ててきた主人の顔だ。その様子を見て柳斎は苦々しく顔を歪める。
「うるせぇ!」
「確かに彼等は金で雇われた。俺が命を預ける奴等だ。さぁ、見事に彼奴らを払って見せろ!」
 十次が大きく声を張り上げた。その前に立つのは鞘と燕だ。いざとなれば自身が壁となるためだ。苛立ちを隠せないように彼方が溜息をついた。折角の家族気分を壊されてしまったからだ。
「‥‥殺しはしねえ。親父の前だからな!」
 彼方の言葉を合図にするようにびぃんと、夜光の矢が男の肩を射た。

 志体持ちは確かにいたが、それは一人であって、すぐに片付けられた。
 狙う理由は好きだった遊女に振られ、その振られ文句が、髪結いの十次の方がいいと言われたからとか。現在も髪結いをしている十次は遊女達にとって憧れの者らしい。
 慌ててきた宿の者には強盗だと言い張ったのは鞘だ。自警団に引き渡すよう伝えたのは雪斗だ。もう一度風呂に入り直そうと言ったのは燕だった。
 汗もロクにかかなかったが、嫌なものを洗い流すという点では誰もが同意した。

●朝霧の中の名
 朝早く起きた十次について行ったのは目が覚めていた彼方、柳斎、ふしぎ、鞘だ。五人で中庭へと出た。まだ冷えた空気に彼方が肩を竦める。だが、目の前に広がるのは色鮮やかな椿。
「いろんな種類があるんだ」
 鞘が椿を間近に見ている。
「ああ、赤や薄紅、白、斑と色々とな。ほれ、この白いのは鞘に似合うな」
 一重で芯を包むような白い椿を十次が指差す。演技を意識してなく、素の気持ちで十次を御爺様と慕うその姿は飾り気がなく、清らかなものだ。
「ふしぎはこれだな」
 指差したのは白で何重の花びらが重なった華やかな白い椿はふしぎの可愛らしい容姿に合っている。
「僕は男なんだぞっ、花なんて女みたいなもの似合わないんだからなっ」
「何を言う。花は女じゃないぞ? 男も女もある。そんなこだわりがなくなるといいな」
 そう切り返されると思っていなかったか、ふしぎは妙な表情をしている。
「確かに、おしべとめしべがあるなぁ。上手いな親父はよぉ」
 笑う彼方にと指したのは鮮やかな緋の色の椿だ。一重でほんのり花びらの先が反っていて、一般的な艶やかな椿だ。
「しっかりとした赤だろう。誰にも触れさせないような高潔なものであり、光の如くに在る」
「ああ、綺麗だなぁ。悪かぁねぇな」
 頷く彼方はその花が落ちぬよう、そぉっと、撫でる。
「お前さんはこれだな」
「綺麗ですね。お父様」
 柳斎を示す花は薄紅色の八重の椿。
「ありがとうな、ワシの為に会わせてくれたんだろう」
 はっとなる柳斎だが、十次の目に恐れ入ったと溜息をついて微笑んだ。それぞれに声をかけた十次は彼らに戻ろうと声をかけた。

●家族とは
 旅の終わり際に夏蝶は十次に土産を差し出す。
「お爺ちゃんには家族になってくれる人いると思うよ」
 燕も同じ意見といわんばかりの表情で頷く。その一言で十次は夢が覚めたように溜息をついた。
「‥‥お嬢ちゃん。確かにそうかもしれねぇ。あいつはいつも俺の右腕と懐刀としていてくれた‥‥言葉にするにはちぃっと難しいな」
 上手く言葉に出来ないことを歯痒く思う十次。
「なんとなぁく、分る気ぃするぜぇ」
 家族を持つ彼方が苦々しく笑う。仕事の相棒と家族は酷く似て異なる。歯痒いくらいに曖昧で言葉を多く知らない限り明瞭には出来ないだろう。
「今回は本当にありがとう」
 十次は家族として接するようではなく、一礼した。
「これからも家族ですよ。お父様」
「そう思うなら、次は今のままのお前でいてくれ」
 柳斎が言えば、十次はにやりと笑った。