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■オープニング本文 暦の上では春とくくられているが、まだまだ寒い。 武天開拓者ギルドの受付嬢は同僚が作った温かい汁粉を啜っていた。 とろりとした汁餡に餅が絡んで甘く身体を温める。 顔を赤くして受付嬢は汁粉を完食。口直しの沢庵がとても美味く感じる。 最後に茶を飲んでおやつは終了。 「いい?」 不機嫌な声が降ってきて受付嬢が顔を上げると、鷹来沙桐が不機嫌な表情を遠慮なく浮かべてそこにいた。 「あ、はい」 普段はにこやかな笑顔を絶やさない沙桐であるが、今日は随分とご機嫌が斜めのようだ。 「あらあら、沙桐さん。受付のお嬢さんが怖がってますよ」 沙桐の背から聞こえるのは鷹来折梅だ。 「別に怖がらせてるわけではないですよ」 ぷいっと、沙桐がそっぽを向く。折梅はぽかんとしている受付嬢に謝っている。 「もう、ちょっと拗ねててね。あまり気にしないでね」 楽しそうに笑う折梅に受付嬢は曖昧な返事しか出来ない。 「依頼を出してほしいのよ」 本題を切り出す折梅に受付嬢は背筋を伸ばした。 折梅の話は沙桐の友人の妹の話だった。体が弱く、あまり外に出られない武家の娘だが、練香の名手と評判との事。その友人はいつも妹が焚き染めた着物を着ていた。 妹が退屈しないように兄は妹に友人を紹介し、色々な話を聞かせていた。 そんな妹君から沙桐が聞いたのは兄の結婚の話だ。 普段はとても人見知りが激しく、兄の背に隠れてはいるが、皆の話は楽しいのできちんと聞いてるが、自ら声をかけるようなタイプではないので沙桐は随分と驚いたらしい。 先日よりちょっとスネ出した沙桐にとっては青天の霹靂のようなもの。 見合いであるが兄は相手を気に入り、好いている。家族になる人だから自分の事を知ってほしいという事で、自分の特技である練香を受け取って貰いたいというもの。 家同志が結ぶのにどうして開拓者が必要なのかというと、相手の家の娘にとっては父に当たる男だ。随分と娘には厳しく、兄もあまり合わせてくれない模様。 もし、出来る事なら、兄と相手に逢瀬の時間を与えてほしいとの事だったらしい。 「どうして折梅さんが?」 「恋のお話は若さの秘訣ですよ♪」 多分、答えになってない。 |
■参加者一覧
神凪 蒼司(ia0122)
19歳・男・志
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
天宮 蓮華(ia0992)
20歳・女・巫
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
リズ(ib0118)
16歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●蜜の匂い 今回の依頼に参加してくれた開拓者の多数が女性。 秘め事というものはどうして人の興味を惹き付けてやまないのだろうか。 顔合わせに折梅と沙桐が開拓者ギルドに現れた。沙桐の顔は不貞腐れたまま。楊夏蝶(ia5341)は沙桐の顔を見ると、驚いた表情を見せる。 「あら、この顔に反応いたしましたのね」 くすりと笑う折梅。 「え、あの‥‥」 尋ねようとするも夏蝶は少し言葉が止まってしまう。そんな夏蝶の様子を見て、沙桐が不貞腐れた顔を止めて、笑顔を見せる。 「そんなに似てるのかな、でも、嬉しいよ」 笑う沙桐の笑顔に夏蝶はきょとんとするばかり。 「秘密はね、全てを暴けない方がいいと思ってる。可愛い子に気にかけてもらえるからね」 にっこり微笑み、夏蝶の顔を覗く沙桐に夏蝶は顔を赤くする。様子を見た折梅は心の中で夏蝶に礼を言う。 「折梅様、ご無沙汰しております」 折梅に挨拶をしてきたのは白野威雪(ia0736)だ。折梅に覚えてもらえて、雪は嬉しそうに微笑む。 「今回は蓮華ちゃんと一緒なのです」 雪から紹介されるのは天宮蓮華(ia0992)だ。 「初めまして折梅様」 礼儀正しく蓮華が挨拶をする。 「まぁ、雪さんとご一緒だと対のようですのね」 微笑む折梅に蓮華と雪が顔を見合わせて微笑む。 「橘の家に話を通すのは沙桐さんでいいのかな」 和紗彼方(ia9767)が肩をさすっている沙桐に話かける。 「うん、話は通しているよ」 沙桐が言えば、場所を移動した。 此隅の街中を外れた閑静な住宅地に橘の家はあった。沙桐と折梅の姿に使用人が中へ通してくれる。 客室にて待っていると、一人の青年が現れた。年の頃は沙桐と変わらぬものであるが、女性的容姿の沙桐とは違う精悍な顔立ちでしっかり結ばれた唇は意志の強さを感じられる。 「橘永和と申します。この度は妹が我儘を言ったせいで皆様にご迷惑を‥‥申し訳ない」 頭を下げる永和に神凪蒼司(ia0122)が首を振る。 「気にする事はない。兄を想う気持ちは美しいものだ。その願いを叶える為に俺達は集まったのだからな」 その気持ちは全員が同じものを持っている。 「かたじけない」 静かに永和が頭を下げる。 「香遠ちゃんは?」 訊ねる沙桐に永和が戸の方を見つめる。 「そろそろ来るだろう」 廊下から衣擦れの音がする。障子に少女の影が浮かべば、そっと障子が開かれた。漆黒の長い髪に日に当たっていない白い肌の対比が眩しくも感じる。 沙桐の話曰く、香遠は人見知りする子で自分からはあまり行動を起こさない。証明付けるように香遠の顔は赤く、緊張している面持ちでもあった。 「あ‥‥あの、来てくださってありがとうございます‥‥橘、香遠と申します」 緊張して香遠の声はか細く、途切れ途切れだった。精一杯の挨拶をすると、香遠は足早に移動して永和の後ろに座った。 「話を聞いているなら早い。蜜莉との思い出なんかの共通の事はないか?」 単刀直入に言うリズ(ib0118)の言葉に橘兄妹は顔を見合わせ、困ったような表情をする。 「何か、いけない事でもあったのでしょうか?」 心配そうに蓮華が言えば、永和は申し訳なさそうに顔を俯かせている。 「いや‥‥沙桐から話を聞いているだろうが、私と蜜莉殿とは見合いでな‥‥父上が厳しい方で、会ったのは見合いをしてから二度程の少ない時間だけで‥‥」 驚きと呆れで彼方が目を瞬かせる。 「何度も家まで行って面会を申し出てもなしの礫で、手紙すら渡して貰えぬほどで‥‥だが、彼女もまた会いたいと‥‥自由に会わせる許しを与えないほど俺は信用されてないのか‥‥」 「お厳しいのは娘を取られたくない父親の心境。いつかは嫁に行かれるという気持ちから厳しさへ繋がるのでしょう」 肩を落とす永和に雪が優しく声をかける。 「薬師寺家の奥方は蜜莉さんが幼い頃にお亡くなりになられたのです。薬師寺様はとても奥様を愛されておりましてね、今でも後妻を迎えておりませんの」 「奥さんみたいに離れてほしくないからなのかな‥‥」 折梅が言えば、彼方がぽつりと呟く。 「故に、薬師寺様は蜜莉殿を大事にしておるのだ‥‥そういえば、蜜莉殿と俺を繋ぐと言えば家紋だな」 「家紋?」 首を傾げる彼方に永和は言葉を続ける。 「我が橘家と薬師寺家は同じ橘を使った紋なのだ」 「ならば、文を書いたらどうだ? 女性陣が連れ出す為に向かうとの事だから、一筆添えたのなら、彼女の勇気にも繋がるだろう」 助言を出してきたのは蒼司だ。その言葉に永和は戸惑う表情を見せる。 「折梅様の話術なら、蜜莉様のお父様を引き止めて下さると思いましたの」 雪の提案にいち早く反応したのは当の折梅。 「まぁ! 私も参加してもよろしいのですか?」 「折梅様の話術は中々のものと雪ちゃんから聞いております」 はしゃぐ折梅に蓮華が頷く。 「‥‥悪いクセにならないといいんだけど」 「何か仰いまして? 沙桐さん」 ぽつりと案じる沙桐に鋭い折梅の言葉が入った。 「いえ、何でもございません」 早急に返事をする沙桐は随分と教育されている模様だ。 「文だけど、紙に香を焚き染めるのはどうかしら? いつも永和さんが焚き染めている香りとか」 「ああ、それはいいかも知れん。香遠頼めるか」 「お安い御用です」 夏蝶の提案に永和が頷き、香遠が立ち上がって一度部屋へと戻った。 ●恋の講義 抗議? 「しかし、折梅さんは楽しそうだな」 皆がそれぞれの準備をしている間にリズが折梅に話しかける。 「あら、恋のお話は誰にとっても興味を惹かれるものではないでしょうか?」 ふふふ‥‥と、楽しそうに口元を袖で押さえて折梅が微笑む。 「無垢なる恋はいつでも人の心に残るものであるからな」 頷くリズも同じ気持ちのようだ。 「どのような恋物語が紡がれるか楽しみだ。私は恋人というものがいた事がないが‥‥やはり胸がないのが原因か」 真面目に考え込むリズは自分の胸をぺたぺた触る。 「恋人が出来るから恋じゃありませんよ?」 「え?」 折梅の言葉に反応したのは全員だ。素早い反応に折梅が楽しそうに笑う。 「想いが通じ合うのも恋と申しますけど、往来で行き交う素敵な殿方に目を奪われ、素敵だなと思うのも恋と思いますのよ」 「うーん? そういうものなのかな?」 首を傾げる彼方はあまりピンと来ていない模様だ。 「素敵な人を見て素敵だなって思う事はございましょう? 素敵と思う事によって胸がときめくのです。恋は色々と御座いますけどね」 「わっかんないよー」 じたばた手を動かして彼方が抗議するのをリズが宥め、その様子を見て折梅が更に楽しそうに笑う。 「女性は許されるが、男はあまり許されないと思うのだが‥‥」 困ったように呟く蒼司に折梅は笑う。 「女性とは自分を見てほしいもの。男性は相手を見ていたいと思うものですから、相容れないもの。そこの掛け合いもまた、楽しいのですけどね」 「答えになってないんじゃ‥‥」 リズが言っても折梅は聞きはしなかった。 夏蝶は薬師寺家の身辺調査を始めていた。夏蝶が薬師寺家近くに来た時に、門から一人の少女が出てきた。 長い黒髪の横髪を後ろに纏めて結い上げた清楚な少女。蜜莉と判断した。永和より蜜莉は花を習っていると聞き、門まで見送るのはお手伝いだろう。 「お話いいかしら?」 夏蝶がお手伝いに事情を打ち明けると、女性は溜息をついた。それは呆れの溜息ではなく、安堵の溜息。 「お嬢様は安心して嫁がれますね‥‥」 「手伝ってもらえるかな」 「‥‥旦那様を裏切るような行為はしたくありませんが‥‥了解しました」 家の中の気配に気づき、夏蝶は今、姿を見られると困るのでお手伝いには口止めし、その場を後にした。 ●逢瀬の誘い 薬師寺家に現れた六人の華やかなる女性陣。お手伝いは夏蝶の姿を見つけて中に通した。 「これ、松! 何事‥‥」 「いきなりの訪問、無礼をお許しくださいませ。私は鷹来折梅と申します」 怒鳴ろうとしている薬師寺に対し、折梅が素早く対応すると、鷹来の名に反応し、挙動が止まる。 「た‥‥鷹来家の‥‥?」 武天でも有数の豪族の一つである鷹来家の先代当主の奥方の名は彼も知っていたのか、何故、家に来たのか心当たりがないようだ。 「蜜莉さんが婚姻を結ぶと聞き、ご挨拶に参りました」 「私達、蜜莉さんとは最近お友達になったのです」 雪が声を差し出す。 「は、友達?」 「はいっ、蜜莉さんとお会いしたく参りました♪」 思いがけない存在だったのか、薬師寺の上ずった声に蓮華が肯定する。 「よければ、目通りを願いたいのですが」 リズが微笑むと、薬師寺はこくこく頷く。 「‥‥それならば断る理由はない‥‥」 「お邪魔します」 了承を得るなり、夏蝶が早速中に入ると、お手伝いの松が少女達を案内する。父親の方は折梅が相手をしている。 少女達が蜜莉の部屋に着くと、蜜莉は思いがけない来訪者に驚くばかり。夏蝶が手紙を差し出すと手紙より薫る香に気づく。 「永和様の香り‥‥」 「読んでみてくださいな」 蓮華が言えば、蜜莉が手紙を読む。書かれてあったのは永和の文。蒼司が永和に指南したものだ。文を読み終える頃には蜜莉の瞳は潤んでいた。 「永和様‥‥」 ぎゅっと、目を瞑る蜜莉を見て、全員が相思相愛である事にほっとする。 「外に出かけませんか?」 雪が言えば、蜜莉が顔を曇らせて悩む。これまで何度も出ようとしていたのだろうが、上手く出れていない事を物語る。 「聞香の会何かどお?」 「そうだなぁ‥‥」 「あの‥‥」 夏蝶が声をかけると、リズも頷きかけた時に、廊下で控えていた松がそっと声をかける。 「あの、お嬢様は近日、花の先生に頼まれて花を生ける事になってます‥‥その下見という名目はいかがでしょう‥‥」 「それで行きましょう。私達がついています」 蓮華が頷くと、蜜莉も頷く。 雪達が蜜莉に会っている時、彼方は折梅について蜜莉の父親と一緒にいた。武家の大人同士の話なんてつまらないんじゃないかと思っていた彼方であったが、折梅は緩急をつけて話を展開していた。 薬師寺にも知っているだろう話題を振り、彼方は聞き役に徹していた。 「彼方さんは蜜莉の習い事先の友人と聞きましたが、あの子は習い先ではどうですか?」 「ボク‥‥行儀習いで入ったんですけど、蜜莉さんに凄くよくしてもらってます」 おずおず言えば、薬師寺はそうですかと、ほっとするように頷く。 「どうして、永和さんと会わせるのを反対しているんですか?」 思い切って彼方が言えば、困ったように薬師寺は目を伏せた。 「蜜莉さんは永和さんの事が好きなのに。あまり押さえちゃうと気持ちが爆発しちゃうんじゃないかな。女の子って強いんです、だから信じてあげてください!」 彼方が尚も言おうとした時に、隣に座る折梅の手が彼方の手に触れた。廊下の方からぱたぱた歩く音が聞こえる。 「失礼します」 廊下に座り、蜜莉が障子を開く。 「お父様、蜜莉は出かけます。花を見に行く為と、私と仲良くしたいと思う方の見舞いの為に」 「駄目だ!」 反射で反対した薬師寺であったが、蜜莉は緊張と叱られるのではないかという無意識の反射と決めた意志の強さで顔が強張る。 「日暮れまでには戻ります。蜜莉は行きます」 薬師寺の声で蜜莉の言葉が震えている。今までは蜜莉が希望を言っても、駄目だの一言で折れたのに蜜莉は言い終わると頭を深く下げる。 「あ‥‥」 立ち上がり、行こうとする蜜莉に薬師寺が声を上げる。娘は怯えるだけの子じゃなくなりつつある。 「怪我をせぬようにな‥‥」 「はい」 許しの言葉を言う薬師寺に蜜莉は笑顔で答えた。籠から放れる小鳥の如く。夏蝶達と一緒に玄関へ向かう。 「‥‥薬師寺様、これをどうぞ」 蓮華が薬師寺に差し出したのは譲葉を模した練切。 「蜜莉様はわかっております。きっと‥‥」 それだけ言って蓮華も立ち上がる。折梅が彼方にも行くようにと頷く。どうやら後を引き受けた模様で、彼方も蓮華に続いて玄関へ向かった。 蓮華が薬師寺に渡したその譲葉の練切の花言葉は「父の愛」。 ●優しき逢瀬 外で待っていたのは男性陣。 「永和さまっ」 「蜜莉殿」 見つめ合う二人に皆が微笑む。 「永和様が考えたのですか?」 首を傾げる蜜莉に永和が困ったような顔をする。 「俺達は開拓者だ。本来の依頼人はお前に会いたがっている香遠でな、沙桐と折梅の仲介で集った」 「まぁ」 「そういう訳なの。待ってるから行こ」 夏蝶が言えば、蜜莉が頷く。 橘家に到着し、通された部屋には香遠が待っていた。緊張した面持ちの香遠と蜜莉であったが、香遠が蜜莉に練香を渡す。 「お兄様のと対の感じで柔らかい香りになるようにしました‥‥受け取って貰えますか‥‥」 そっと香遠が練香を包んだ布を渡すと、蜜莉は微笑んで受け取る。笑顔で微笑み合う二人に雪と蓮華が加わる。 「お茶にしませんか? 蓮華ちゃんのお菓子、美味しいのですよ♪」 「香遠様、私に合うお香を教えてはいただけませんか?」 「ボクも教えてほしいな」 興味津々に彼方も加わる。 「私もだけど、仕事に差し支えそうで‥‥」 悩む夏蝶だが、やはりお洒落物には弱いようだ。 橘の奥方が淹れてくれたお茶と蓮華の練切を楽しみながら香や華の話をしていた。 「蓮華様は荷葉なんかいかがでしょう。蓮の葉の意味でして、落ち着いた香りは良く似合うと思います」 どうやら数種持っているようで、香遠はその一つを蓮華に差し出した。 「私は?」 「彼方様は、丹霞はいかがでしょう。春の香りで華やかな彼方様に合うと思います」 楽しそうな女性陣に男性陣は少し離れた所にいる。 「何を離れた所に?」 入ってきた折梅に男性陣が驚く。呆れる折梅に女性陣が楽しそうにお帰りさないと声をかける。 「蜜莉さん、楽しいお時間を過ごされて何よりですね。折角ですから、永和様と庭に出てはいかが?」 顔を赤らめて二人は寄り添って外に出た。 「護衛しなくても大丈夫かしら‥‥」 心配する夏蝶であったが、沙桐より、志体持ちが複数じゃない限り守りきれると豪語したので、皆は少し心配しつつあった。 「馬に蹴られますから、信じて待ちましょう」 折梅に止めを刺され、皆が黙ったが、黙らなかったのはリズだ。笛を取り出し、音色を奏で始め、香遠が蜜莉に贈った香を焚く。蒼司が襖を少し開ける。二人に応援を奏でる香と音を届けたい為に。 「いいなぁ、恋愛。早くいい人こないかなー」 少し膝が痺れたのか、夏蝶が足を崩す。 「あんな風に祝福された恋愛って奇跡だよな」 ポツリと沙桐が呟いた。 「相手を思えばこそ、お互いの幸せを考える事が出来ると思います。想いが重なれば奇跡は起こると‥‥私は思います」 雪が言えば、沙桐は泣き笑いの表情を見せた。 「ありがとう」 礼を言われるとは思っていなく、雪は目を瞬かせた。 外の庭では二人を祝福する香と音に瞳を閉じて二人が寄り添っていた。 |