|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る ひょっこり開拓者ギルドに姿を現したのは鷹来沙桐。 「あ、こんにちは」 笑顔で受付嬢が沙桐に頭を下げる。 「今日は桜餡のお饅頭だよ」 「いつもすみません」 「いーのいーの。こっちこそ色々ありがとう」 にこにこ微笑み合う二人は仲のいいお茶飲み友達。 「依頼頼みたいんだけど」 「はい。美味しい煎茶を頂きましたから、それを飲みながら」 受付嬢が淹れてくれた茶を飲みつつ、沙桐は依頼内容を話した。 「この間、刀蒐集してる人の家を狙った強盗を追ってほしいって依頼出したでしょう」 「剛生館の師範代さんでしたよね‥‥」 受付嬢が言えば、はっと、手を口にやる。 「気にしなくていいよ。んで、杜叶さんの刀が見つかってね。どうにもちょっと良くない状況なんだ」 「え?」 沙桐の話によると、杜叶の刀があるのは大手木材問屋の筑紫屋の隠居。 「今刀を手放したとしても、狙われるのは必死だと思う。元から狙っていたみたい」 「元からというと、他の家を襲っているところからですか?」 眉根を顰める受付嬢に沙桐は頷いて肯定する。 「店の方からは開拓者が来るというのは了承済みだし、働いてくれるともっと助かるらしいよ」 「わかりました」 受付嬢が一つ頷くと、紙に筆を滑らせた。 |
■参加者一覧
南風原 薫(ia0258)
17歳・男・泰
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
龍牙・流陰(ia0556)
19歳・男・サ
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
蓮見 一片(ib0162)
13歳・女・魔
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 前回の依頼の事があってか、集まってくれた開拓者達はそれぞれの表情を見せていた。今回入った劉天藍(ia0293)はまた別な表情を見せていた。 「え? この依頼って‥‥」 驚いて沙桐を見ている天藍に輝血(ia5431)と御樹青嵐(ia1669)がうん、そうだよねと言わんばかりの表情を見せているが、当の沙桐は何度もそんな反応があったというのに、飽きもせずに微笑んでいる。 「違うから」 正しく男の声に天藍は戸惑っている。 「ねぇ、翠光さん捕まえて終わりじゃなかったの?」 蓮見一片(ib0162)が言えば、沙桐は苦笑する。 「あの場は終了って事だよ。複数だったから他の連中も捕まえないとね。あの人は奴等が何処にいるかはわからないらしくてね、いつもそれとなく一人の時に現れては情報交換していたらしい」 「そんな曖昧な事をしてたのか。よくボロがでなかったもんだな」 大仰に溜息をつくのは南風原薫(ia0258)だ。 「どうやら、いつもは翠光さんが人を斬ってから奴等は入ってきたみたい。乱戦は人数が多ければ多いほど怪我も証拠も出やすいから」 「揚げ足を取られたようだな」 肩を竦め、冷笑を浮かべる冥霆(ib0504)にオドゥノール(ib0479)がそっと目を伏せる。 「不手際で賊を逃がしたのは事実だろう」 「まだ機会があるなら捕まえるのみですよ」 龍牙流陰(ia0556)が言えば、沙桐は頷く。 「賊に心当たりは?」 沙桐がそっと静かに瞳を閉じる。言ってもいいか悩んでいるように見えるが、輝血を見て、諦めるように目を伏せた。 「‥‥ここ数年、ある連中が武天内で活動している盗賊一派か引抜きないし、足を洗った者から情報を買い、出し抜いて盗みを働く奴等がいる。開拓者の皆には依頼を出しては手伝ってもらった。手がかりを掴めたと思ったが、捕まえた男は仲間の斬撃符にて殺された」 「それって、佐治とか、風早の‥‥」 輝血が呟くと沙桐は頷く。 「今回も似たような事例と思っている。今更言われても困ると思う者もいるだろうが、気づかなくて当たり前の事だから気にしないように。目的は賊の捕縛、筑紫屋の人間の保護だ」 日和見した穏やかな表情が消え、厳しく言葉を発する沙桐に冥霆は心を読まれてた事に肩を竦め、鋭い緑の瞳を見た輝血と天藍は邪視感を拭えない。 ●影にある非日常 武天内でも大手材木問屋の一つである筑紫屋は沢山の従業員を抱えている。外の運搬作業については男が中心であるが、内の仕事では女も多い。事細かい帳面の整理なんかは女の方が一枚上手という事で女の従業員もしっかりいるのだ。 「ん? どうかしたのかい?」 筑紫屋主人が護衛の薫に声をかける。 「いや、昔は親に連れられてよく店回りをしたものだと。今は食い扶持の為に開拓者なんかやってますけどねぇ」 「人の人生とは人それぞれ、親に迷惑かけずに一人で食って元気でいるなら十分じゃないか」 穏やかに言う主人に薫は懐かしいくすぐったさに苦笑する。その素振りでも周囲の様子は見る。どうやら、店の様子を覗いているのが主で、外出時の尾行はないらしい。それでも油断するわけにはいかない。 一方、店では残った面子が店に出て、様子を探っていた。 材木問屋と言われていたから木材のみと思っていたが、大工達が使う細かな道具なんかも売ってたりして意外と商品は多い。 「おお、可愛い子を雇ったねぇ」 輝血が大工の作業着姿で客と思われる男を出迎えていた。番頭が輝血に茶を淹れるように伝える。 客と番頭が入用の商品について話し合っている間に茶を客に差し出すと、輝血は店から見える位置にいる男達の様子に気づく。 この辺は建築に関する店や大工の組があるので、強面の人間が多くいるが、その筋の人間はわかりやすい。 オドゥノールもまた、同じ男達の姿を見て確信した。 「あの人達、ここの所よく見かけるのよ。うちの子達に何かしてくるわけじゃないからその分怖くてね」 溜息をつく女将さんにオドゥノールは上手い言葉が見つからず、黙ってしまう。 「でも、開拓者ってこんな可愛らしいお嬢さんもいるのね」 「えっ」 にこりとオドゥノールに笑いかける女将さんに当人は頬を染めて困ったようにうろたえる。 「こうしていると普通に女の子なのにね」 普段から男のような振る舞いをしているオドゥノールに女将さんがくすくす笑う。 店の影から男達を監視していたのは一片。店の方から男が現れて耳打ちをしている。話を聞いた男はその場を離れ、耳打ちをした男は店に戻った。一片は様子を見て後をつけた。 男は食堂に入った。一片は一度止まり、店の外で様子を窺う。その男は優男風の容姿をした男だ。役人や剣士には見えず、学者ないし、文士といった風情だ。 暫く話をして、男は席を立ち、店の方へ戻った。優男の方も時間を置いて席を立つ。思い切って一片は優男の方を追った。 優男は大きな通りを歩き、入ったのは矢場の勝手口。自身がシノビではなく、まだ成人前で女であることを考慮し、一片はその場を辞した。 「危ない橋は渡るもんじゃないよね」 自分が倒れると全ては無駄になる。一片は引きを理解している。 時間を少し巻き戻り、流陰と冥霆と青嵐は離れの隠居の部屋に訪れていた。 「ほう、桜餅か」 「旬の物は旬の内に」 目を細める隠居に青嵐が茶と一緒に差し出す。少しのんびりしていると、輝血が現れた。 「件の刀匠と刀について聞きたいのですが」 流陰が本題を切り出すと隠居はそっと手にしている茶に視線を落とすと、徐に床の間に飾られている刀を差し出した。輝血がそれを受け取ると、無造作に刀を抜いた。 昼の光を輝きを持って反射しているが、刃の清廉なる鋭さであり、まだ人の血を吸っていない無垢なる刃。持ち手の手入れの良さもあり、磨きがかかっている。 「昼の雪原のようですね」 ぽつりと、流陰が呟く。 「そうさな‥‥真面目な男でしたよ。奥方は彼の性格を理解し、家の全てを取り仕切ってくれたが、亡くなってな‥‥刀を作る事しか出来ないから子供を養子に出した。自分の傍ではまともな人間に育てる自信がないと一度言っていた」 「死んだと息子が聞かされていたが、そんな話は聞いたか?」 冥霆が言えば、隠居は首を振る。 「病気をしていた話はなかった。最後に会ったのは去年だが元気だった」 「恨まれる所は?」 「あの刀をほしがっている者は多くいたが、殺すまではいないだろう」 隠居が茶を啜ると、三人はそれぞれ顔を見合わせた。静まる中、隠居が口を開く。 「刀というものは高価な物。一つ拵えるのには大金が要る事もある」 「手入れもかかりますが」 納得したように流陰が頷く。 「だが、奴の刀は頑丈でほぼ同じ誂えで手間賃が簡単で済む」 「‥‥何が言いたい?」 「とりあえずは賊を捕まえる事ですな」 冥霆の言葉に隠居が明確な提案をした。それは今回の目的だ。 「刀を偽物に変えるべきだね」 そう言って、輝血はオドゥノールから預かった刀を床に置いた。 裏の方では天藍が力仕事に精を出していた。細い身体の色男風の天藍だが、意外な力っぷりと持久力に男達は頼りにしている。 「そういや、店の者って、店近くの家に住んでて、店には店主の家族だけって本当か?」 「ああ、所帯持ちは長屋住みだけど、一人者は近くの寮で生活してるんだよ」 天藍が近くにいた男に言えば、愛想良く返してくれる。人数が少ないのは警護する分にはありがたい話だが、無用心のような気もしないでもない。 「おい、何処に行ってたんだよ」 「用足しだよ。これあっち運ぶんだろ」 店の出入り口の方から男が現れて、仲間に言葉をかけられたが、さっさと仕事に入る。なんとなく天藍はその様子が気になり、男の姿を記憶に留めた。 ●まどろむ月光 夜の警備前に開拓者達は沙桐を交えて情報の交換を行っていた。 気になった点を天藍が言えば、一片も反応した。それは店から出て行き、ごろつきに耳打ちをした男の事だ。店の外に気を配っていた輝血やオドゥノールも気づいていた模様。 「引き込み役か‥‥男は珍しいな」 「輝血ちゃん、そいつを連れてきてくれ」 丁度主人の護衛に出ていた薫はその場面を見ていなく、沙桐が即座に言えば、輝血が動く。 「先組、周囲の警備を頼む」 沙桐が言えば、先組の薫、流陰、冥霆、天藍が周囲の見張りに入った。 後組は筑紫屋の一家が集まっている部屋にいた。いつも休んでいる部屋ではなく、別の部屋に。 一片は妙な顔をして壁を背に預けて膝を抱えて座っていた。 「どうしたの?」 「何かよくわかんない」 沙桐が隣に座ると、一片は視線を畳の目へと落とす。 「どうして刀を狙ってるのか」 「名刀って言葉に踊らされちゃ駄目だよ。杜叶さんの目玉は手間がかからなくて頑丈ないい切れ味の刀。話を聞けばあの刀は確かに魅力的だけどね」 「汎用の刀にしたらその分、手間賃が浮くという事か」 オドゥノールが言葉を挟む。 「だから、どうして刀が複数になるの」 「複数の人間が刀を必要としているなら、その分、手間賃がかかる。安い手間賃で済むならその浮いた金は?」 一片の顔を覗き込む沙桐に当人は何を言おうとしたか言葉が止まる。 「鷹来さんの推測を考慮し、多人数を纏める集団であれば、その活動資金になるという事ですね。これは蓮見さんが以前推測した言葉を引用しましたが」 「何の為に?」 青嵐が推測をしっかり纏めると、障子を開き、輝血が戻った。手ぶらという事はもういなかったんだろう。 「それを確定となるまで調べるのが仕事だよ」 静かに沙桐は微笑む。 外では先組が周囲を見回っていた。今日は細い三日月で月明かりも少ない。 「お月さんも眠たそうだなぁ」 呆れ声で薫が呟いた。 「‥‥だから、悪さがし易いんだろう」 ふと、天藍が目を啓いて応えた。徐に上げている右手には巡回を終えた小鳥の式神が主の人差し指に止まろうとし、その姿を消した。 「違ぇねえな」 にやりと薫が笑う。 「勝手口の鍵が壊されていたようだよ」 シノビの身軽さを利用し、無駄な音を立てずに冥霆が天藍の隣に降りる。彼は想定外と思われるだろう箇所を考えて周囲を見回っていた。 「引き込み役の仕業でしょうか‥‥」 流陰が表情を翳らせる。 「大方そうだろうなぁ。俺達の仕事は人の命と家財の保護と捕縛だ。それ以上もそれ以下もない」 きっぱり言い切る薫に天藍が頷く。 「許せないって思うなら、結果を出そう。それが俺達の仕事だ」 「‥‥はい」 こくりと頷く流陰。それらを見て、冥霆がふと、嘲笑いの貌を見せた。 ●雲間の使い 交代時間の時に異常聴覚を使っていた輝血が勝手口から音がしたのに気づいた。 「来た」 静かに呟く輝血の言葉が全員に緊張が走る。 「‥‥離れに行っているけど、何人かはこっちに来た」 となれば奴等は家屋ではなく、庭だ。 「家の中よりそっちで仕留めてやるぜぇ!」 一番に飛び出したのは薫だった。それに何人かが続く。 細い月明かりの中、乱戦が始まる。今確認できる賊の人数は五人。 術稼動範囲に入った一片は急いでフローズをかける。急に動きが鈍くなった一人に驚いたが、オーラをかけた後に技の合わせで一人をオドゥノールが倒した。数人が影を使い、家屋へ逃げたのを視界に入れた。 天藍が走ったのは離れだ。暗闇に等しい状態ではよく見えない。逃げた後とは思いたくはない。天藍には勝機があった。障子を開けると、そこには地縛霊にかかった賊の姿があった。交代間際にここに寄って地縛霊をかけ直したのだから。勝機を見た天藍はにやりと笑い、呪縛符を投げた。 不意打ちに苦無を投げて、更に流陰が攻撃を加えて、怯んだ瞬間に薫が仕留める。 「ぐ‥‥」 殺しはせずに生かす事を重きにおく。それは青嵐と輝血も同じであり、輝血が賊の鳩尾に膝蹴りを食らわせた後、呪縛符にて相手を拘束してから輝血と共に家屋へ行った賊を追う。 「先行くよ」 早駆を使い、輝血が先に走る。 家の中では家具の壁前にいた冥霆と沙桐がいた。奴等はもう、家屋へ入り、家族の命を狙おうとしていた。賊は二名。 冥霆は即座に畳返しを使用し、相手を驚かせ、早駆で相手の横に入り、刀でその首を狙おうとした。賊も首にかかる殺気に気づいたが、首が畳に落ちる事はなかった。 「何故止める?」 ちろりと、冥霆が見るのは沙桐だ。沙桐が冥霆の刀を自身の刀で抑えた。 「快楽で他人の家を汚すな。玄人なら生かして捕まえろ」 「甘いな」 低く唸る沙桐に冥霆が嘲笑う。 「強欲は家系なんでね」 「面白い」 沙桐も口端を上げて応えると、冥霆の笑みも深くなる。 「ほら、生きて捕まえたよ」 二人の会話を聞いていたのか、輝血が昏倒しているもう一人の賊を転がした。頭に被っていただろう手拭いを外され、そこに転がっているのは沙桐が捕まえろと言った引き込み役。 「ありがとう」 笑顔で言う沙桐は先程の鋭い表情は無く、輝血は呆れるようにもう一人の手拭いを剥がして後ろ手に縛る。 「大丈夫ですか?!」 流陰と薫も家屋に流れ込む。 「筑紫屋さん一家も大丈夫のようですよ」 ほっと安堵の溜息とともに青嵐が言った。 ●差し込む月明かり 全員が捕まえると、近くの番屋に連れて行き、開拓者立会いによる首実検が行われた。 「お前とお前は店を窺っていた奴等だな」 薫が男達の前にしゃがみ込んでじっと見る。 「いない」 一片が考えているのは矢場に入っていった優男。その男がいないのだ。沙桐の話や翠光を唆した男をその優男に当て嵌めれば当りなのだ。 「自分はのうのうと待っているわけだ‥‥」 静かに輝血が吐き出し、男の一人の襟首を掴む。 「そいつの目的は何だ。金か、刀か」 「‥‥刀も金もだ」 気味悪く笑う男に目を細める輝血だが、そっと青嵐が輝血に手を翳し、静止を求めた。輝血は視線を逸らし、手を離した。 「捕らえられなかったか‥‥」 静かに唇を噛むオドゥノールに沙桐は首を振る。 「‥‥矢場近辺に包囲網を張ろう。緊急にまた呼ぶ事になるだろう。それまでに情報は吐かせておく。ややこしい事になるかもだけど、宜しく」 そっと沙桐が溜息をついてその場が終わった。 |