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■オープニング本文 この時期と言えば、桜が咲く。 とくれば、桜を愛で、酒や料理を食べ飲んで舞散る桜の花弁と戯れるように舞い、遊ぶ。 これを花見というのが一般的だ。 鷹来折梅もまた、桜を好み、この時期になれば此隅郊外の桜の名所へと桜を見に行く。昔は連れ添った夫や息子達と行った事はあったが、夫に先立たれ、子供達も成長して家を離れたり、別離した頃には頑張った使用人や友人を連れて行き、その後は孫を連れて一緒に歩いたりしたものであるが、最近の孫は仕事漬けで少々つれないし、使用人達は何かと忙しい。 早くに長男夫婦を亡くしたり身内と別れたりと、裕福ではあるが、ここ二十年程、家の事に関しては寂しい事然り。 だが、折梅は半年前に新たな楽しみを覚えた。 それは開拓者ギルド。 開拓者と呼ばれる者達はとても美しく格好よく、個性的で顔ぶれが違ったとしても楽しいは変わらず、また会った顔を見れば再会を喜ぶ楽しみもある。 以前は自分の依頼だが、任務を遂行する手伝いができた事をとても喜んでいた。 アヤカシと対峙するようなものではないが、自分のした事で誰かが笑顔になるのはやはり嬉しい事。 誰か、一緒に花見に行ってほしいと折梅は依頼を出した。 花見をするのは此隅郊外の櫻火屋という宿屋が有する敷地内の桜。 昼間も美しいが、月夜の晩に見る桜が月光を含んだ小枝に咲く花が灯篭のようであり、幽玄な趣があるとの事で、折梅はいたく気に入っている。 気に入っている開拓者達にもこのよさを共有したい‥‥ そう、思った。 折梅の依頼に集まった開拓者達はそれぞれの楽しみを旨に歩いて行った。 だが、時は無常なり。 従業員達総出で折梅に平謝りした。 「申し訳ありません、鷹来様!」 「何事ですか?」 驚いた折梅が首を傾げる。 「あ、アヤカシが‥‥鷹来様お気に入りの桜の下に骸骨のアヤカシが‥‥!」 折梅にとって思い出の桜。 今まさに踏みにじられようとしている。 「皆さん、申し訳ありませんが、殺っちゃって下さい」 くるりと振り向いた折梅はにこやかな笑顔ではあったが、醸し出す雰囲気は百戦錬磨の開拓者を怯ませるには十分なもの。 此隅でも有力志族の一つである鷹来家を数十年護り続けて生きた管財人はアヤカシと戦う開拓者とはまた別な殺気を出す事が可能のようだ。 アヤカシにやられるより折梅のオーラに心を折られるかもしれないと思ったのかもしれない。 |
■参加者一覧
玖堂 真影(ia0490)
22歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
羽流矢(ib0428)
19歳・男・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
モニカ・ヴァールハイト(ib0911)
17歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●守りたい故の強さ 「ば、ばぁちゃんがこえぇよ‥‥」 怯えているのは羽流矢(ib0428)だ。折梅がついさっきまで優しく穏やかに接していただけにこの変貌には驚いた模様。 「風情も詫び寂びも分からない無粋な乱入者ってホント困り者。即刻退場させて頂きましょ」 「全く、本当だよね!」 そっと溜息をつく緋神那蝣竪(ib0462)の隣でぷんすかと和紗彼方(ia9767)が可愛らしく怒りを顕にしている。 「任せて、おばあちゃま! すぐに片付けますからね!」 「ええ、折梅様達が大事にしている場所は私達が守ります」 折梅を安心させるように玖堂真影(ia0490)が明るく、白野威雪(ia0736)が優しくも力強くきっぱりと言えば、モニカ・ヴァールハイト(ib0911)が折梅に向き直る。 「鷹来殿、桜を傷つけたくはない為、近くに戦いに適した場所などはありますでしょうか?」 モニカが折梅に尋ねると彼女は桜より離れた広い庭を伝えた。 その姿、舞師よりも軽やかで巨人よりも力強い。 月の如く煌いて敵の姿を顕にし、太陽の如くの輝きを持って敵を焼き尽す。 宿の者達も遠巻きで開拓者達の戦いを見つめていた。 一般人である自分達から見て、あの武者の格好をした骸骨は本能的に危機を感じざるを得ないものだ。だが、開拓者達はまるで舞うかの如くに敵を誘導している。 「行きます」 袖を翻し、雪が一歩踏み出す。着物に風を孕ませて踊るのは神楽舞「攻」。 羽流矢と彼方、那蝣竪のシノビ達がアヤカシの動きを誘導している。羽流矢が木の葉隠れを使い、姿を隠すと、アヤカシは探すように向きを変える。 「こっちだよっ」 彼方がアヤカシの直ぐ前に現れると、アヤカシは無造作に彼方を掴もうと腕を伸ばすが、宙返りで後転し、彼方はアヤカシの手から逃れ、伸ばされた手を那蝣竪が弾く。 「女の子に気軽に触っちゃ駄目なのよ☆」 茶目っ気たっぷりの言葉であるが、那蝣竪の瞳は臨戦のものだ。アヤカシと那蝣竪の間を挟むようにアヤカシの攻撃を羽流矢が受け流している。 「那蝣竪さんだって、女の子でしょ」 「あら、嬉しいわね」 緊張した面持ちではあるが、羽流矢が頑張って軽口を叩くと、那蝣竪は嬉しそうに微笑む。その向こうでは雪が神楽舞「防」で羽流矢の援護をしている。 「いい、距離よね」 満足そうに頷いたのは真影だ。一歩前に出る。 「災い為さぬよう、我が鎖に括り付ける!」 発動されたのは泣き叫ぶ赤子の顔を鎖のように連なった式‥‥呪縛符だ。シノビ達は真影の声に反応し、飛び退く。 アヤカシは身体に鎖を巻きつかれ、思うように身動きが取れない。その隙にモニカが剣を振るい、アヤカシの胴を薙ぐ。上半身と下半身が真っ二つに別れ、上半身が地に倒れた。巻きつけられたのは上半身であり、下半身は動いている。 「まだ動くか」 きゅっと、顔を顰めるモニカであったが、すかさず那蝣竪と羽流矢が動かないように足に手裏剣を投げる。右足に那蝣竪の手裏剣が、左足に羽流矢の飛苦無が当り、脆くも崩れる。 モニカはそのまま、倒れている上半身にその剣を振り下ろした。まずは一体。その調子でもう一体倒していく。 最後の一撃は彼方だった。 「これは折梅様の分だよ!」 打剣を使い、彼方が刀を振るった。 暫く後にアヤカシは霧散するだろう。とりあえず、無粋な乱入者はいなくなった。後は花見を楽しむだけだが、今は少しの休養を。 準備が整う間、真影が持参した桜湯を堪能する事になった。 「まぁ、桜の実の砂糖漬けですの?」 「玖堂家の別邸の桜です。よく弟と一緒に登って怒られてたんです」 苦笑交じりに言う真影に折梅が微笑む。 「思い出が沢山おありになる桜を頂けるのは嬉しい事です。夜になれば、私の思い出の桜も見てくださいね」 折梅が言えば、真影は嬉しそうに頷いた。 ●桜の誘い 日が沈み、宿で休んでいた一行は女将より支度が出来たとの言葉により、移動する事にした。 「あ、夜は冷えるから一枚羽織るのを皆に渡してもらえませんか?」 羽流矢が女将に言えば、従業員達に一言添える。そんな小さな気配りに折梅が微笑んで見つめていた。 元の桜の場所に着けば、従業員達が用意を終える所だった。 「今夜は満月なのですね」 目を細める雪が見上げるのは皓々と輝く満月の姿。提灯の明かりなんかもないその庭の光源は月のみ。降り注ぐ月光が桜の花弁に反射して桜の花がぼんぼりのようだ。 宴が始まってもやはり最初に来るのは花より‥‥ 「筍ご飯ください!」 元気よく言うのは羽流矢だ。くすくす笑いながら取り分けるのは那蝣竪だ。 「桜を見る為にはまずは腹ごしらえだし」 茶碗に持ってもらった筍ご飯は温かい湯気をくゆらしている。ぱくりと一口食べると、味付けの醤油の香ばしい匂い。噛めば筍の歯ざわりと甘みがとてもご飯と合う。 「旨いっ」 がっつかずに行儀よく食べる羽流矢に折梅がおかずを少しずつ取り分けた皿を渡した。 「ゆっくり食べてくださいね。お料理は逃げませんから」 「はいっ」 元気よく羽流矢が頷く。 「うーん、おいしい♪」 根野菜の煮物を食べているのは彼方だ。少し薄めではあるが、出汁をしっかりとってあり、野菜の旨みが良く出ている。 「こちらのお野菜は美味しいのですよ」 「そうなんだ。ボクは料理とか苦手だからなぁ。出来る人は凄いって思う。あ、折梅様、お菓子持ってきたんだ。良かったら食べてください」 彼方が差し出した重箱には桜色の笹団子や桜外郎だ。 「まぁ、こちらにも綺麗な桜が。頂きますね」 桜外郎を摘み、折梅はぱくりと一口、頬張る。ほのかな甘みと桜の香りが口に広がる。 「美味しいですわ。 満足そうに折梅が言えば、彼方が笑顔で応える。 「何処のお店で買ったのか、帰り道に教えてくださいね」 「はいっ」 満足そうに折梅が言えば、彼方が嬉しそうに頷いた。 「さ、おばあちゃま、一献どうぞ」 酒に弱い真影は今回飲まずに酌役に回る事にしたらしい。折梅は礼を言って、杯を手にとって、真影に酒を注いでもらう。水を飲むようにこくりと飲み干す折梅の姿に羽流矢がぱちくりと目を瞬かせる。 「ふふ、皆さんが護って下さった桜の下で飲む酒はまこと美味しい事」 嬉しそうに折梅が言えば、開拓者は顔を綻ばせる。誰かを笑顔にする事が何よりもの報酬だ。 「緋神様もどうぞ」 雪が銚子を差し出すと、那蝣竪が笑顔で杯を差し出す。透き通る酒を飲めば、那蝣竪が目を見張る。 「‥‥これ、もしかして」 「以前、護って下さった事がありましたわね。桜が咲いたから、皆さんに振舞おうと思いましてね」 ふふり、と折梅が悪戯っぽく微笑むと、雪もそれに気づいた。 「どういう事?」 首を傾げる彼方と羽流矢だったが、那蝣竪が以前受けた依頼の話をした。アヤカシに流通の道を塞がれた酒屋の息子と待つ遊女の身請けの話。 「私はこれからの桜かな」 ポツリと呟く真影に折梅が向く。 「好きな人に振られちゃったんです。弟には恋人が出来ただけにちょっと悔しいなぁって」 「まぁ、そうでしたの」 「いつかは振り向いてもらえるようにしますけどねっ♪」 気丈に振舞う真影ではあったが、どこか影を纏うのは想い故にだ。 「その意気ですよ。真影さんの素敵さを気づいてくれる殿方にしなくては」 片目を瞑って言う折梅の言葉に真影は面食らってしまったが、噴き出して笑った。 「今回は沙桐様はお見えになられなかったのですね」 酌をする雪に折梅は苦笑して頷く。 「ええ、孫が大事な時に暢気なものと思いましょうけど、下手に気遣ってはあの子が嫌がりましてね」 「私じゃ、孫代わりにはなれませんが‥‥」 「あら、私では雪さんの友人は役不足かしら?」 折梅が残念そうに言えば、雪は慌てて手を振る。そんな雪の姿に折梅はくすくす笑う。 「こうして来ていただけただけでも嬉しいですのよ。孫が増えたみたいで楽しいですし。さ、私の酌も受けてくださいな。雪さんはお茶がよろしいのでしたか」 「はい」 酒はあまり得意ではない雪はお茶を頂いた。 ひらりと散り落ちる桜の花弁を見て、羽流矢が思い出したのは郷の爺様の姿。桜が咲く季節になれば外で酒を飲んでいた。 「ばぁちゃん、桜の花弁を酒の上に載せて飲むと乙なんだって」 「まぁ、羽流矢さんは物知りですのね」 初対面でばあちゃんと呼ばれても折梅は気にする事もなく、嬉しそうな表情を浮かべて孫のように接している。 「へへ。郷の爺様が言ってたんだ」 褒められて照れた羽流矢が言えば、折梅もつられて微笑む。 「酒に揺られる花弁はどうして愛らしく愛しく思えるのでしょうね」 話に加わる那蝣竪の杯には上手い事桜の花弁が乗せられていた。 「その一片にも春の息吹を感じざるをえないのでしょうね。春は命の息吹を感じられる時期ですから」 「強い草とかだったら、雪が解けかけた所で芽が出るからな」 ぼんやり思い出しつつ、羽流矢が言う。 「その通りです。日の光は命を作り出すものですから。ですが、月の光は女性を美しく見せるものなのですよ」 「うーん、俺はそういうのわかんないからなー。大人になれば分かってくるのかな」 首を傾げる羽流矢に那蝣竪がくすくす笑う。 「そうね。いつまでも分からないのも可愛いと思うけど」 「えっ。可愛いって何かやだな」 素直に複雑そうな顔をする羽流矢を見て、那蝣竪と折梅が楽しそうに笑った。 ひとしきり料理を楽しむと、いつの間にか巫女服に着替えた真影がすっくと立ち上がる。 「じゃぁ、余興に舞でもいかがですか?」 扇を持ち、真影は皆の前に立って腕を緩やかに伸ばすと、ブレスレッドベルが涼やかに響く。緩やかな動きは布を滑る音すら聞こえるようだ。 「まぁ」 活発な印象がある真影だが、その舞姿はとても淑やかだ。その姿に影が差したのは雪。真影を光とすれば、雪は影のように舞う。 折梅が伴奏をと思ったが、真影のベルが十分伴奏となっており、見る事に徹した。 真影が身体を捻り、扇がもう片方の手を隠した時にひらりと、桜色の羽根を持った蝶達が舞い上がる。 わっと声が上がると、一度、雪と真影が交差し、そして離れる。光の真影が止まると、影の雪が寸分遅れて止まる。 風が吹くと、桜の花弁が散り落ち、幕が下りた事を告げるようだった。 皆からの拍手を受けると、二人の舞姫は笑顔で笑いあう。 「二人とも、すっごく素敵よ!」 感激している那蝣竪は満面の笑顔で二人を迎える。 「何か照れちゃう」 「そうですわね」 くすぐったそうに雪と真影が言えば、折梅が座るようにと手を差し伸べる。 「いい舞でしたわ。目の保養ね」 折梅が言えば二人は嬉しそうに微笑む。 一人少し離れて宴を楽しんでいるのはモニカだった。 「こちら宜しいかしら」 折梅がモニカに声をかけると、彼女はこくりと頷く。折梅が座るとモニカが折梅に向き直る。 「アヤカシの所為で台無しになりかけましたが、改めてこの度はこのような素敵な宴へ招待して頂き、ありがとうございます」 「礼を言うのは私の方ですよ。この桜に会うのが楽しみなんですよ。守って下さって嬉しいです」 「‥‥桜にはどのような思い出が‥‥」 控えめに言うモニカに折梅はそっと微笑むだけだったが、その微笑みはどこか、影を顰めている。 「思い出すのが億劫と申したらいかがします?」 この切り返しには想像してなかったのか、面を食らったようにモニカは目を見張る。 「驚かないで下さい。本当にこの桜とは長いのですよ。一年に一度しか会えませんが、毎年一年分をこの桜に想いを伝えているんです。春にはこの桜、秋には親友と申すべき、かつての恋敵と昔と今を語り合ってますの。時に人を連れ、更に思い出を刻み‥‥もう、何十年も‥‥」 「何十年‥‥」 くすくす笑いながら折梅が上を見上げていう先にはその時を重ねた大木の桜‥‥ 「‥‥時の積み重ねですか‥‥」 「誰かと共にいる時の積み重ねは楽しいですわよ。時に離れて一人になりたい時もありますが。もっと、御自愛なさって」 折梅が言うと、モニカが困ったように微笑む。 「くあ‥‥」 宿の料理も仲間が持ってきたお菓子も食べて満腹顔の羽流矢があくびを堪えられず、桜を見上げている。 「んー、眠くなりそうだなぁ」 「折角持ってきたんだから、使わなきゃだよっ」 羽流矢の肩にかけられたのは自分が従業員に頼んだ単布。見上げると、にこっと笑う彼方の姿。 「そうだな‥‥って、桜柄かー」 男物ではあったが、華やかな柄で羽流矢は少々戸惑う。 「お客は私達だけらしい。気にする事はない」 モニカが言えば、羽流矢はそれもそうかと納得する。 「いい引きが出来ましたわね。そろそろ戻りましょう。話やお酒が足りないならお部屋で温かく頂きましょう」 単を羽織った折梅が言えば、皆がそれに習う。 「おばあちゃま、まだお話したりません。お部屋でお話しませんか?」 真影が折梅に話しかけると、折梅は嬉しそうに頷く。 「お酒が足りないなら燗でもつけましょうか」 更に雪が言えば、折梅は雪さんもと誘う。 皆が戻り始めると、那蝣竪は桜を見上げる。 「家族との思い出‥‥か」 那蝣竪には家族はいない。そんな記憶もないのだ。 「いかがしました?」 折梅が話しかけると、那蝣竪はにこっと微笑みかける。 「家族がいるっていいなって‥‥いつか、私もそんな人と出会いたいなって」 折梅が眩しいと言えば、言われた当人が感慨深げに桜を見つめる。 「そうですわね‥‥でも、家族の温もりはあると知れば深く望むもの。それは夏の日照りで喉が渇いてもなお、渇く。傾国の美姫が注ぐ酒を飲み干しても潤う事はない‥‥」 寂しく嘲笑う折梅に那蝣竪が言った言葉は強い風に吹かれ散り行く桜に閉ざされた。 風に気づいた羽流矢と彼方が振り向くと、二人に気づいた折梅が微笑む。 「ばぁちゃーん! 早くいこーぜー!」 「那蝣竪さんもだよー」 二人が声をかけると、先を歩いていた三人も振り返る。 「あ、今行くわよーー」 「さ、行きましょ」 先に歩き出した折梅に彼方が止まって待っている。 「折梅様、ボクにも桜の思い出教えて!」 「ええ、そうしましょう。まだ真影さんの桜湯があるでしょうから、また頂いてはいかがかしら」 「真影さーん! 桜湯まだあるかなー?」 前のやり取りを見て、慌てて那蝣竪が歩き出すが、もう一度桜を見上げた。 「意地悪なのね」 悪戯っぽく那蝣竪は桜に言う。 桜の枝が夜風に吹かれ、貴婦人の笑い声のように聞こえた。 |