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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 理穴監察方四組主幹、羽柴麻貴は一人執務室で帳面を眺めていた。 開拓者達に牢屋殺しの犯人について調べて貰った際に殺された宿屋の主である紋次郎の事を調べていた者達が見つけた帳面だ。 女の名前と思しき名前が書いており、それには赤い点を。男の名前には黒い点がそれぞれの名前の上に記してあった。 「主幹、手紙です」 まだ入って間もない新人が現れて麻貴に手紙を渡した。 「ああ、ありがとう」 受け取った麻貴は裏を見ると、沖村幸成とあった。先日会ったあの生真面目な役人だ 「どうしたんだろう」 手紙を広げると、当人の性格を現すようにきっちりとした文字で綴られていた。 内容は相談事があるから会ってほしいとの事。 麻貴はふむと、考えると、すぐに返事を書いて届けるように言った。 その夜、沖村は神妙な様子で麻貴が指定した場所に現れた。 場所は羽柴の別邸。 酒などはまだ用意せず、茶だけを用意させていた。 「こちらが話を持ちかけたのにも関わらず、場を提供してくださりかたじけない」 深々と頭を下げる沖村に麻貴は静かに首を振る。 「気にする事はありません。回りくどい話はなしで、本題へ」 「‥‥はい」 沖村の話とは自分の上司が不正をしているというものだった。 彼らの仕事とは、訴訟や訴えに関する下調べを主としている部署。 その訴えの中で最近ちらほら見かけるのが若い娘が消えたというので調べてくれというもの。その中に男であるが消息を調べてくれとの訴えもあった。 「上司はその類の訴えをすべて潰して捨ててしまっているのを見ました‥‥それに、羽柴殿が探しているとおぼしき男から金を受け取ったところも‥‥ 沖村が口を閉ざすと、麻貴はそっと息をついた。 「沖村殿はどうされたい。捕まえる事は容易い事だ。貴方からは迷いが見えるが」 「‥‥私は臆病です。不正を暴きたいのに同じ仕事を共にする人を攻める事が怖い‥‥」 悔しそうに俯く沖村に麻貴は優しく微笑む。 「人とはそんなものです」 ふと、思い出したように懐に入れた帳面を沖村に見せた。 「この名前に覚えはあるだろうか」 中身を見た沖村は顔を驚きの表情と変えた。 「‥‥姿を消した娘達の名前とよく似た名前が‥‥」 「ありがとう、後はこちらの仕事です」 麻貴が厳しい表情で言えば、沖村はもう一度頭を下げた。 沖村が別邸を去った後、麻貴も役所へ戻ろうとしたが、その前にこの間知り合ったお初の様子を見に行こうと彼女の家へと向かうことにした。 家の近くを通りすがろうとすると、視線を感じた。その方向へ顔を向けると、その視線は消えていた。 「見られているのか‥‥」 麻貴は役所へ戻らず、そのまま開拓者ギルドへ足を向けた。 |
■参加者一覧
柚月(ia0063)
15歳・男・巫
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
水波(ia1360)
18歳・女・巫
八嶋 双伍(ia2195)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ |
■リプレイ本文 「物調吟味役って、調味料を扱う部署かしら?」 楊夏蝶(ia5341)がボケをかますと、鋭い緑目の視線が飛んできた。 「やぁね、冗談よ冗談」 笑う夏蝶に麻貴はふーっと、溜息をつく。いつもは何かしら言葉をかけるが、今回は少し余裕がないらしく、静かに溜息をついた。 「らしくないよ、そんな風なの」 俳沢折々(ia0401)が言えば、麻貴は困ったように笑う。 「まぁ、沖村殿の気持ちを考えれば彼の決断が苦しいものだ。身内を責めるという事を容易に出来る者なんかそうそうにいてたまるか」 自ら先陣を切ってまで断罪を下しかねない仕事の鬼の麻貴がそう言うとは誰も思ってもいなかったのか、麻貴に視線を向けた。 「‥‥人を人でなしのように見るな」 溜息をつく麻貴は注意事項を上げた。 「依頼書にも書いていただろうが、今回は幾つかの仕事がある。優先事項としては茶髪紫目の男の捕縛。そして、物調吟味役組頭、森下重内の不正の証明、そして、茶髪紫目の男と関与されている妹をもつお初の護衛だ」 「結構仕事あるよね‥‥」 呟く柚月(ia0063)に麻貴が苦笑する。 「だからこそ、期待している。頼むな」 「うんっ」 笑顔で頷く柚月に麻貴は微笑んで皆にも伝えた。 「行方不明事件かぁ‥‥この間の刀匠の事を思い出すな‥‥」 「刀匠?」 溜息混じりに呟く夏蝶に麻貴が目を細めて言葉を返す。 「この間受けた依頼で、刀匠が行方不明になったって話があって、武天と理穴の国境に監禁されているって‥‥沙桐さん、大丈夫かな」 ちらりと、麻貴の顔を見ようとした夏蝶は少し驚いた顔を見せた。 「あ、いや‥‥今、檜崎さんが違法売買の事で武天に行っているから何かわかるかもしれない」 麻貴はうろたえた表情を見せつつ、笑みを見せていたが、夏蝶に表情を見せまいと目を伏せた。 「兎にも角にも今は紋次郎殺しの犯人を捕まえる事だよ。何か、隠すように色々と起きてるみたいで嫌だね」 溜息をつく輝血(ia5431)に水波(ia1360)も頷く。 「本当に、火種から煙がついたようですね」 「早く動きましょうか」 八嶋双伍(ia2195)が言えば、全員が動いた。 ● 仕事に入り、皆がそれぞれの場所に向かっている時、御門(ia0167)は麻貴と一緒に残っていた。 「物調吟味役組頭の不正の内容は行方不明者に関する訴えを秘密裏に処分していた事ですよね」 「ああ、そうだ」 御門は前回の依頼にて、宿屋から持ってきた帳面を見て、名前を抜き出して紙に書き写している。この後、娘の家を訪ね歩くためだ。 「麻貴様、今回の不正はやめさせるというだけで済ませる事は出来ないでしょうか‥‥」 ふと顔を上げた御門が麻貴に尋ねた。麻貴は自分の仕事の書面を眺めていたが、御門の声に顔を上げる。 「この私にそれを言うか」 何度も理穴監察方の依頼を受けているお前が。そんな目をした麻貴を見て、御門は誰に言っているのか気付いた。 「‥‥沖村殿の気持ちを汲み取ってくれたか」 一転して微笑む麻貴に御門はほっとしたような笑みを見せる。 「まぁ、この件は沙穂しか知らん。何か他に引っかかればそれは奴の失態」 「麻貴様‥‥」 くるりと言葉を返す麻貴に御門は溜息をついた。 前回同様に茶屋へ入った夏蝶は沙穂と一緒にまた仕事についている。 天真爛漫な夏蝶の性格は皆に気に入られ、中に溶け込んでいた。 「ね、ね、おたつさんはいい人がいるの?」 「へ、あたしぃ?」 にこっと人懐っこい笑顔で夏蝶が言えば、おたつは驚いたように目を見開く。 「あたし、知ってるよ。いい男だよねぇ」 一人が話に加わると、あっという間に休憩場は色恋話へと変わる。 「いーなー。私もいいひとがほしいなぁ」 ぶぅと膨れる夏蝶に女達が笑い飛ばす。 「アンタみたいな器量よしなら飛びついてでも来るでしょ」 「え、そ、そうかなっ」 照れる夏蝶に女達は頷く。 「でも、全然縁がないんだけどー」 「そりゃ、アンタがえり好みしてるか、その縁を蹴ってるからでしょ」 「そんな事ないのにー」 「じゃぁおたつ、アンタの男に誰か夏蝶ちゃんにいい男を紹介してやんなよ」 女がおたつに話を振ると、夏蝶が驚く。 「わ、私?!」 「あら、夏蝶ちゃん。引いてるなら、私が行くわよ」 休憩に入る所なのか、沙穂が声をかけた。 「えー‥‥」 残念なのか、敵を引きつける演技なのか分からない表情で夏蝶が声を上げる。 「今回は私にして、次は夏蝶ちゃんにして」 ハキハキ喋る沙穂は現在、仕事用の演技をしているようだ。 「その反応だとそうした方がいいみたいだね。沙穂ちゃん、あんた、明日は昼の仕事でいいんだよね」 「うん、夕方には終わるよ」 「じゃあ、今日伝えとく」 やったぁ、と喜ぶ沙穂に一抹の不安を覚える夏蝶がいた。 すこし働いた休憩後、御門が現れ、夏蝶は御門に紙をそっと渡し、甘味を食べた御門はすぐに店の外に出た。 ● 柚月はお初の家の工房へ顔を出していた。 「ああ、お客さんかい」 父親らしき人物が声をかけると、柚月が笑顔で挨拶をする。 「仕事があってね。あまり構ってられないけど、いいかい?」 「面白ソだから見てる」 簡素な丸椅子に座って柚月がのんびりする事にしたようだが、父親は染める材料を取りに近くの倉庫まで出た。 「ね、妹さんと茶髪紫目のヒトはどこで出会ったのカナ」 「あの子があの茶屋の甘味屋の方で声をかけられたらしいの」 「ふうん、お初はキレイだから、可愛い子なの?」 何気なく尋ねる柚月にお初はぎょっとして頬を染める。 「やっだ、もう、どっからそんなお世辞を覚えたんだい」 「えー、覚えてなんかいないよ」 至極素直な柚月の感想にお初は照れているようだ。 「まぁ、確かにあの子は可愛いね」 「普段は働きに出てたの? それとも、ここで?」 「ここで家族で働いているの。おっかさんが早くにおっ死んで、三人で食ってるのよ」 よいしょと、お初が布が入った篭を持とうとすると、柚月が代わりに持とうとする。 「そいや、その男の名前ってなんていうの?」 思い出したように柚月が言えば、お初はぴたりと止まって記憶を辿る。 「くれ‥‥なり‥‥そうだ、暮也だわ」 「思い出してくれてアリガト」 「どういたしまして」 笑顔で礼を言う柚月にお初も笑った。 家の外では死角になるような所で折々が見張り番をしていた。労働には糖分と程ほどの塩分という事で、塩大福を。夏に向けて日差しも強くなってきているのでお茶も必要だ。 だが、今の所は何も見当たらない。人魂を飛ばしても、麻貴が感じた視線は見当たらない。 「やっぱり、地道な努力だよね」 ゆっくりと自室で推理するよりも自分で歩いて証拠を見つけ出す方に折々は精を出すことにした。 ふと、顔を上げた折々は式紙と思しき姿を見た。 「もしかして」 「お疲れ様です」 書生の姿をした双伍がいた。 「聞き込みはどうなの?」 「あまり聞きなじみのない部署だったようですね」 空振りだったのか、双伍は首を振る。 「そっか、皆が皆、知ってるなんてないよね」 「ただ、茶屋の近くで組頭とよく似た人物がよく歩いては茶屋の中に入っているとの情報がありました」 「じゃぁ、茶屋に言って、夏蝶ちゃんや沙穂ちゃんに伝えてあげて」 双伍の情報に折々が言えば、彼は頷いて茶屋の方へと向かった。 ● 牧野清四郎の素性を調べる事にした輝血と水波は牧野の素性を調べる為に牧野が向かっている街へと向かった。 沖村から聞いた話は至極真面目な人物で、仕事も勤勉。悪い話などはない。沖村にとっては後輩に当る人物だという。 輝血は旅人として、水波は白拍子として牧野がいる街‥‥勝鬨へ入った。 舞をしながら情報収集をしている水波であったが、街人は役人がここにいるという話は聞いていなく、それよりも水波の舞が綺麗だからもっと見せろとせがむ。 沖村より居場所を聞いた輝血はその場所に向かっていた。茶葉問屋に関する訴えの下調べてしているらしい。 輝血が問屋に入ると、それらしき姿が直ぐ目に入った。番頭らしき男と帳面をにらめっこしながら話していた。 茶の長い髪に黒い瞳の勤勉さが伺えられる。店員の一人に輝血が何事かと牧野と番頭の姿に声をかけると、おろおろしたように店員が何やら言い訳をしているようで、超越聴覚にて盗み聞きしていると、この問屋、店員に対し、不当な扱いしているので訴えられているらしい。 仕事をしているならと、輝血は一度店を出た。 時間を過ぎて、水波は酒場の方へと情報収集をしていた。牧野との接触を避けての調査だったが、当人が彼女の前に出てきた。 「私を探しているのはお主か」 奏生ほど大きな街ではない為、話は結構広まっているようだった。 どうやら、物調吟味役とは表立った仕事ではなく、あくまで裏方らしいので、目立たずに動くのが好ましいらしい。調べる時に重要な証拠等の隠滅を防ぐ為らしい。 とりあえずは、彼は殺人犯ではない。今のうちは。 水波はそれを報告するため、奏生へと向かった。 ● 珠々(ia5322)は一人、物調吟味役の役宅へ忍び込んでいた。 監察方の大部屋より静かな大部屋では、役人達が資料に塗れて書き出しを行っていた。珠々が監視するのは壁一つ向こうの奥の部屋にいる組頭、森下。 茶髪紫目の男に牧野清四郎の名を与え、娘を探してほしいと訴える人々の声を潰していると仮定されている者。 それと一緒に沖村の護衛も考えていたが、麻貴が気を利かせ彼は暫し、とある場所で調べ物の手伝いをしていた。大丈夫なのかという心配をしたが、麻貴は自信ありげに頷いた。 紋次郎の死が目の前にチラつくが、今はそれどころではない。 呼ばれたらしい森下は部屋を出たが、それは大部屋の方だった。珠々が素早く組頭部屋に入ると、握りつぶされた書面の捜索を始めたが、処分されたのか、全く見当たらなかった。だが、小さな引き出しにあった乱暴に折り畳まれた紙を見つけた。 それを開くと、珠々は見覚えがあった。理穴と武天の国境にある印‥‥カタナシの依頼で見た地図とよく似ているが、一つ違うのは、カタナシの持っていった地図の印とは少しずれているような気がした。 顔を顰めた珠々は森下が戻ってくるのに気付き、そのまま屋根裏部屋へ戻った。 おたつの恋人の男の伝手で沙穂は男を紹介してもらう事になった。場所は茶屋から少し離れた竹林の入り口。夏蝶は気づかれないように監視していた。 男はやはり、茶髪に紫目の短髪の男。皆の感想通りのいい男だった。その隣の男もまた、いい男ではあったが、夏蝶の勘は堅気の人間とは思えなかった。 危険かもと、思った矢先、夏蝶の目の前で沙穂は腹を殴られた。シノビの志体持ちであるのに、まるで一般人のように身体を崩した。夏蝶が急いで阻止しようと思ったが、それは背後から伸びた手によって阻止された。 「あいつをよく見ろ」 耳元に聞こえる低い声に夏蝶は沙穂に視線を向けた。男に俵担ぎをされた沙穂は苦しげな表情であるが、夏蝶を見ていた。 「俺がついているから、お前は羽柴の所に行け」 口を男の手で塞がれていて夏蝶は微かに頷いた。振り向いた夏蝶は背後にいる男の顔を見た。 翠髪に深い海色の切れ長の瞳の男。不敵な笑みを浮かべているが、その雰囲気は安心を覚えさせる。 「俺は真神副主幹の使いだ。早く」 じゃぁな、と首にかけていた片翼の飾りに口付けをして男は動き、夏蝶はその片翼が記憶に引っかかり、自分の安心した気持ちを自信にし、監察方へと走った。 日が沈み、柚月が帰ろうとした時、お初とその父親に夕飯を食って行けとせがまれた。 困ったような顔をしたが、家族が消えて不安になっているだろうし、少しくらい護衛時間を長くしてもいいと思い、その誘いに応じた。 柚月が食事の手伝いをしていた時、外では折々が蚊と格闘し始めた時、姿が現れた。麻貴が言っていた視線は複数とは思えなかったと言っていたが、今、お初の家に近づいているのは三人。中々に物々しい。猫の目のような月が伝えてくれたのは男達が抜いた刀の煌き。 男の一人が家の中に踏み入ろうとした時、足元が滑るように身体を揺らし、そのまま地中へ引きずり込まれる。 折々が走り出すと、目突鴉を召喚し、敵に狙わせる。 目突鴉にも負けない速さで走る黒い影が鴉が狙った男の隣の男に蹴りを入れた。尚も立ち上がろうとする男達に双伍が呪縛符を当てた。 「大丈夫!?」 「捕まえたよ!」 戸の向こうで柚月が言えば、折々が叫ぶ。双伍が無事かどうか中を開けると、顔面蒼白のお初とその父親がいた。 「怪我がなくて何よりです」 「ボクは今晩、ここに泊まるよ。いた方がいいと思うし。麻貴への報告お願い」 柚月が言えば、三人は捕まえた三人を連れて帰った。その中には物調吟味役の組頭の姿があった。 ●箱入り姫さん 珠々達が監察方役宅に戻った時、麻貴の傍には御門と檜崎がいた。 麻貴は更に機嫌が転がり落ちているようだった。 「御門君、娘さん達の聞き込みはどうだった?」 折々が尋ねると、御門は首を傾げるだけ。容姿端麗な者を狙ったと思われたが、そうではないらしい。だが、一つだけ共通する点があった。 「全員が手先が器用?」 眉を顰めるのは双伍だけではない。 「それって、何かを作らされているって事ですか。夏蝶さんが言っていた刀匠達みたいに‥‥」 珠々が思い出したのはカタナシが持っていた地図と森下が持っていた地図と似ていた事。それを言葉に出すと、麻貴は目を見開いた。 「本当か珠々ちゃん!」 麻貴の剣幕に珠々は猫目で驚く。 「はい‥‥輝血さんに聞けばわかります」 珠々の答えに麻貴は怒りを静めるように目を閉じた。 「わかった‥‥その地図を持ってきてくれ‥‥」 目を開けた時は、自分の怒りで珠々を驚かせた謝罪の色を滲ませ、珠々の頭を撫でた。 「沙穂さんが連れて行かれたというか、ついていったわ」 夏蝶が飛び込んでくると、麻貴は頷いた。 「君は怪我はなかったかい」 麻貴が尋ねると、夏蝶は頷いて、思い出してその時の事を言った。 「真神副主幹の使いで翠髪の深海色の目の男‥‥?」 「すっごくカッコよかったの。沙桐さんが持っていた首飾りを持ってたの!」 夏蝶の言葉に麻貴が黙り、檜崎が溜息をつく。 「‥‥やっぱりか、逃げ回ってたわけだ」 「それって、タカナシじゃないの?」 面識がある折々は意外な登場に驚いているようだ。 「え、何、何なの?」 きょとんとする夏蝶に麻貴は肩を落としている。 「安心しろ、そいつは理穴監察方四組前主幹、上原柊真だ」 「‥‥あの人、何してんだか‥‥」 麻貴がカタナシと呼ばれている男の本名を言えば、檜崎は森下とその手先の事情聴取をしに麻貴の組頭部屋を出た。 もう少ししたら、水波が牧野の所在を伝えに来るだろう。 それと同時に森下の口から牧野は茶髪紫目の男に名前を貸す為に勝鬨へ向かわせたという証言が取れる事だろう。 |