【影目】暗き先
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/05 14:11



■オープニング本文

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 理穴監察方四組組頭部屋では、部屋の主である羽柴麻貴とその部下である檜崎が話し合っていた。
「あの人、今まで何やってたんだか‥‥」
 呆れている檜崎に麻貴は顔を顰めて茶を啜っている。
「父上や真神副主幹に頼んで隠れていたみたいだが、敵の懐に飛び込んでいたらしいな」
「あの二人が相手なら俺達の裏をかくのは当然か」
 ふーっと、檜崎が溜息をつく。
「組頭の話は何かありましたか?」
「ああ、どうやら、組頭はその茶髪紫目の男に頭が上がらないらしい。随分、奴の後ろで色々ときな臭い裏工作をしていたようだ」
 話によると、茶髪紫目の男は理穴と武天の国境にある山中にて、たたら場を作らせてたり、隔離された場所で焙烙玉を作らせているようだ。
 その人員は理穴にて攫った娘や旅人などらしい。行方不明になった娘達の家族をあたり、直接組頭と接触した女装して三味線引きになった開拓者の話と違いは無く、麻貴は頷いている。
 お初の家に向かったのもその開拓者が美しく、かなり酔わせていた為、勢いで行った模様。その開拓者は組頭を尾行していた開拓者達と暗黙に交代して麻貴の元へ駆けていった。
「お初さんの妹さんもそこにいるだろうなぁ」
「牧野清四郎は名前を貸しただけだから、もう監視しなくても大丈夫だろうが、沖村殿は安全な場所にいると言っていたが‥‥羽柴、お前どこにやった」
「義父上のところ」
 きっぱり言う麻貴に檜崎は半笑いで呆れたような顔をした。
「それなら鉄壁だ。つか、胃とか大丈夫なんだろうか」
「普段会わん人とかと会うからなー。ちょっと心細いとは思うが、義父上なら優しいから大丈夫だ」
「いや、違うと思う」
 冷静にツッコミを入れる檜崎だが、麻貴は聞いちゃいない。
「組頭は茶髪紫目の男の名前を聞いているんですかね」
「ああ、かよい‥‥だったな。火に宵で火宵。それよりも、沙穂は無事だろうか」
「大丈夫と思いますよ。たたら場で働かされているみたいだし、生きてはいるでしょう。それに、開拓者に長期に渡る仕事は無理でしょう。続く依頼でも色々と矛盾を出させるわけには行きませんし、ギルドの方も色々とあるみたいだし」
「それもそうだな。しかし、そこの村人をどうして使わなかったんだろうか。大量じゃないたって、たたら場なら人が必要だろ」
 素朴な疑問に麻貴は顔を顰める。
「武力を持つ、見せしめ‥‥紋次郎の時もその為に殺したんじゃないかって思う」
「その死体って、どうしたんだろうな‥‥たたら場の燃料とは思えんし」
「埋めたとか」
「人数にもよるが色々と何かありそうだが、それを調べるのはあいつの方だろうしな。ま、お前はこれから乗り込むんだろ」
「当たり前。檜崎さん、雪原の方の聞き込み宜しく」
「分かった。沙穂が傷ついていたって暴れすぎるなよ‥‥」
 釘を刺す檜崎に麻貴は軽く笑う。
「山火事になってもお前は死にはしないが、他の連中が巻き込まれる」
 檜崎が言えば、麻貴はあっさり納得した。


■参加者一覧
柚月(ia0063
15歳・男・巫
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
水波(ia1360
18歳・女・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志


■リプレイ本文

 その場にいた女達は誰もが諦めていた。
 ある女は好いた男と一緒に暮らす事を夢見ていた者。
 ある女は貧困に困り、金になる仕事先と信じていた者。
 色々な手口で女達はここに連れて来られていた。

 待っていたのは生き地獄と言うに相応しいのかもしれない。
 過酷な労働と気の遠くなるような手作業。
 最低限の衣食住を与えられるだけ。
 逃げようとしても武器を持った男達に捕まえられ、殴られる。

 見張りの男共は乱暴であり、時折、労働者の女に手を出す事もあったが、それを責任者が見つける度に見張りを殴る蹴るをしていた。
 責任者にとって、女はただの労働者、必要以上の労働をさせるなと釘を刺していた。
 この仕事の為にこの男はいるのではないと思う。
 あの男にとって必要なものはなんだろうか気になる。
「暮也‥‥」
 疲労に押しつぶされた声は誰にも届かない。


 開拓者達は麻貴を連れて山へと向かっていた。
 まずは先行隊であるシノビ達が中に忍び込んでいた。
 その中の一人である楊夏蝶(ia5341)は監察方のシノビである沙穂を探していた。
 洞穴のような所を見つけ、そこでは女達が寝ていた。敷き詰めるように茣蓙が敷かれており、女達はそこで毛布に包まって寝ていた。
 足音は聞こえてないから見張りはまだ来ないだろう。
 沙穂を見つけた夏蝶は彼女に謝り、話を聞いた。
 ここはたたら場とは言われているが、実際は他国から伝わった製鉄の実験場。造られた鉄は近くの工房へと運ばれていたようだ。
 女達は主に焙烙玉製作、鋳型に入れて撒菱を作っているらしい。
 最低限の生活しか守られていなく、女達はかなり疲弊している。人数は三十人から四十人。
 首都だけではなく、あちこちの村から旅人なんかを連れてきている模様だが、麓の村までは何とか歩けるだろうとの事。
 見張りは二十人だが、全てが見回りに行く事はなく、何人かは製鉄に関する技術者らしい。責任者は火宵。
「もう少し頑張って‥‥」
 夏蝶がそれだけ呟くと情報を伝えにその場から去った。

 時を同じくして輝血(ia5431)は作業場の方へと入っていった。
「‥‥鉄‥‥か」
 見上げるそれは高炉だ。異国からの技術という直感が働く。思い出すのはあの武器職人達。近くに彼女達がいる事を知らなかったのだろうか。輝血はその先を考える事が出来なく、炉から姿を消した。
 周囲を窺って輝血が進む先は資料や有力な証拠になりそうな書き付けがある部屋。その場所には中年の男がいた。荒事が得意そうな感じの男ではなく、技術者といったような風貌だった。
 男が振り向くと、若い娘の姿に怪訝そうな表情を見せ、つまみ出そうと見張りを呼びつけようとしたが、それは不可能となった。輝血の拳が男の鳩尾に入り、激痛に耐え切れなく、その場に崩れ落ちた。男を物陰に隠し、輝血は素早く資料を確認して持ち出した。今、余計な者と会う必要はないからだ。

 入り口を確認していたのは珠々(ia5322)だ。
 奴等にとっての抜け道を確認しつつ、見張り達を狙う。
 上から忍び込み、様子を窺うと、基本は二人一組で動いているようだ。広範囲との事で何かあれば片方が報告に走るといったところかと珠々は分析する。
 逃げる先の村に近い出入り口にいる見張りを見つけ、そっと木の陰から見下ろす。
 私語をしながらのんびりとしているようであまり警戒心はないようだ。珠々は会話のキリがつく前に片方の男の後ろに飛び降り、一人を沈黙させた。
「で、なぁ‥‥って、え‥‥」
 もう片方の男が振り向くと、相方は倒れており、少女がいるだけだ。手にしている刃の先端が重力に従い、赤い涙を垂らしている。
 悲鳴を上げる暇もなく、もう片方の男も倒れた。
 すぐさま珠々は移動する。途中、倒れた見張りの姿を見て、輝血か夏蝶の仕事と納得する。珠々の予想は火宵が船での逃亡。
 近くに川はあり、珠々は即座に船を捜し、破壊した。
 後は女達を助け出すだけだ。 
 

 近くの村で開放した娘達を一時的に受け入れてもらえるように交渉したが、二つ返事で了承してくれた。
「交渉が上手くいってよかった」
 ほっとした表情を見せるのは沢村楓(ia5437)だ。いつもは秀麗かつ涼しい表情をしている彼女ではあるが、今日は些かその涼しい表情を崩しているようでもあった。
「どうかしたか?」
 麻貴が心配そうに楓に言えば、柳眉が上げられる。
「女手がほしいなら売り飛ばせばいい。何故、あのような面倒な事をするのだ」
 苛立ちを隠せないのは女達の事だけではない。女達の結果がどこに行くか見当がついているからだ。騙された女の手で嫌々作られた鉄で彼等は好きな事をしていた。それを知らなかったからと言っても彼女の怒りは鎮まらない。
「確かに楽だな。だからこそ、問い質しに行こう」
 麻貴の緑の瞳が楓の黒曜の瞳とぶつかると、楓の瞳が不意に伏せられた。静かに頷く楓の横をすれ違うように麻貴が歩き出すと、楓の背を軽く叩く。叩かれた楓が麻貴の方を振り向くと、不敵な笑みの麻貴が視界に触れる。
「背中、任せたぞ」
「‥‥俺の心の眼と貴方の鷹の眼で無敵となろう」
 にやっと笑う麻貴はそのまま歩いて行った。

「麻貴様、受け入れ準備が整いました。後はシノビの方々や外回りを回っている方々の情報待ちです」
 歩いて行った麻貴の先にいたのは水波(ia1360)で、柚月(ia0063)と一緒に受け入れ態勢を整えていた。
「食料も毛布もばっちりダヨ。少なくなったら取りに行かなきゃダネ」
 柚月が言葉を補足すると、麻貴が微笑む。
「なんか、人間関係複雑ソ?」
 素直な感想を述べる柚月に麻貴は苦く笑う。
「そうだろうな。騙されて強制労働だったら心に傷が残るだろうな‥‥」
「あんな所から早く連れ出せるといいネ! お初さん、妹さんの事をすっごく心配してたシ」
 笑顔全開の柚月に麻貴と水波が頷く。

 外周周りを探っている俳沢折々(ia0401)と滋藤御門(ia0167)は人魂を使って探っていた。
 人魂を使っている最中はどうしても身体の方が手薄になるので木々に隠れての探索となる。
 二人は向かい合うように離れた場所で広範囲を探っていた。広い敷地で一部山の中まで入っている。
 お互いの式神はお互いの髪の色を地にして、羽根の先を瞳の色にするように他の鳥と区別をしている。見張り役がいそうな所や、抜け道がないか確認している。
(「大体は大丈夫かな。早く戻らないと、麻貴ちゃんが先走って大暴れしちゃうかもね」)
 お目付け役は自分の出番、麻貴と一緒にいれば安心でもあるので、折々が戻ろうとし、御門の式神を見やると、御門の鳥が消えていた。
 いつの間に術を解いたのだろうかと思いながら、折々も感覚を戻した。
 何の合図もなく姿を消すような人ではないと思わせられた御門はあるものを見て慌てて感覚を戻し、その方向へ走った。鳥の状態から見てもそうは遠くないと感じた。
 術者とはいえ、体力は開拓者としての素質がある。一般人よりも脚力はある方だ。
「見つけました‥‥!」
 御門が息をつくと、目の前にいた男が眼を見開いた。
「お前は、雪原の時にいた‥‥」
「カタナシ様‥‥いえ、上原柊真様とお見受け致しました。私は滋藤御門、開拓者です」
 急な運動に少し息があがったが今はそれ所ではない。
「そう丁寧に言われたのならば頷くしかあるまい」
 不敵に笑うその笑みが酷く似ていて無意識に御門の心を荒立てる。
「会っては頂けないのですか」
「嫌いだから避けてるわけじゃないさ、誰だって大事な奴に危ない思いをさせたくはないだろ」
「麻貴様にとって、貴方の代わりはいません」
「俺にとってもあいつの代わりはいない」
 きっぱり言い切る柊真に御門は言葉を止めてしまった。
「とりあえず、あいつの傍に戻れ」
「あ、カタナシ」
 御門を探しに走っていた折々が柊真の姿を見つけた。柊真は片手を挙げて笑顔で折々と挨拶をする。
「麻貴ちゃん、凄くやる気で困っちゃうんだけど」
「はは、お前さんがちゃんと見ててくれよ」
「もっちろんだよ」
 親指を立てて答える折々に柊真もつられて笑う。
「じゃぁ、宜しくな」
 手を振って姿を消す柊真に折々は手を振ったが、御門は黙ったまま見送るしかなかった。


 下調べから一番先に戻ってきたのは輝血だ。書付けや資料の類を麻貴に渡した。
「流石に身元が分かるようなものはありませんわね」
 書き付けを見ていた水波が溜息をつく。
「これは天儀の製法ではないようだな」
「実験か何かじゃない」
 ふむと考え込む楓に肩を竦める輝血。
「輝血ちゃん、おかえりー。中はどうだった」
 折々と御門が戻ってきて折々が明るく声をかける。
「相手はばっちり悪徳だね。乗り込むのも面白そうだし、折々が好きそう」
「う、でも私は今回、遊撃手だからね、影に徹するんだよ」
 勧善懲悪な芝居を好む折々にとってちょっと心が惹かれる模様だが、頑張って突っぱねている。
「御門君、どうした」
 麻貴が御門の表情が浮かない事に気付き、声をかけるが、御門はどう言っていいのか悩む。
「カタナシに会ったよ」
 さらっと言う折々に御門は驚いたが、麻貴はほんの少しだけ表情を曇らせたが、困ったように笑う。
「御門君と折々ちゃんは可愛いからな。軟派な言葉をかけられなかったかい?」
「カタナシは女好き?」
 首を傾げる柚月に麻貴が違うとは言えないと笑う。
「‥‥僕、男なんですが‥‥」
 御門のツッコミは全員からスルーされた。
 更に戻ってきた珠々と夏蝶の情報を合わせて中へ入る事にした。

 先に入るのはシノビ組でその後に他のメンバーが入る。折々は入り口にて人魂での監視役。
 先導役は夏蝶であり、交代時間を見計らっている。楓が心眼を使い、気配を探る。楓が方向を呟くと、麻貴が鷹の目を使って正確に射り、接近は輝血がしとめる。
「こっち」
 夏蝶が言えば、作業場から住居用の方へ戻る女達がいた。見張り役は四人。輝血と珠々が駆け出して内二人を倒す。
 女達が悲鳴を上げる暇もなく、御門と楓が残りの二人を倒す。
「皆さんをここから連れ出しに参りました!」
 水波が言えば、柚月が奥の方にいる女性達を促す為に走り出す。
「助けに来たヨ! 急がなくてもいいカラ!」
 奥の方には疲労と衰弱で動けない者も何人かいた。この人を先にと一番衰弱している女を他の女達が指差す。自分達も辛いだろうに思いやる人の気持ちに柚月は力強く頷く。
「絶対に来るカラ!」
 確かな決意を声に出し、柚月は外に出る。
「奥の方に動けない人がイル!」
 柚月が他の者達に叫ぶように言うと、輝血と楓、珠々が奥へ走り出す。逃げる道に二人の見張りが立ちはだかる。
「どいてください!」
 御門が大龍符を発動し、見張り二人を轢き倒す。
「ここにはアヤカシの類はいないようですね人間だけなら何とかできるでしょう」
 水波が御門に言えば、頷いて返す。見張りは他の仲間がやってくれる。自分達は女達を外に出すのが先とばかりに女達を促した。
 一方、人魂を使って全体的な監視を行っていた折々は中の賑やかさに気付く。鷹のような姿をした式神はまだ動ける見張りを探し出す。
 見張りと銘打った男達の中に技術者がいるらしく、実質の見張り役は後一組と見た折々は式神を急降下させて女達に近づく見張りの方へ飛ばす。見張り達は視界を遮る鷹に驚き、槍を振り回す。
「いい援護だ、折々ちゃん」
 にやりと笑った麻貴が鷹の目を使って見張りを射る。麻貴の声が通じたかのように折々の鷹はくるりと旋回した。
 そろそろ女達を迎えに行こうとした折々は式神を解除して茂みの中から姿を現した。
「お前は何だ!」
 逃げてきたらしい技術者の一人が折々と遭遇し、喚きながら刀を振り回す。折々が足を滑らせてしまったが、眼突鴉を発動させた時、折々の身体は重力に逆らい、技術者は肩を斬られ、両膝を地につけていた。恐る恐る折々が自分を重力から逆らわせている‥‥小脇に抱えている人物を見た。
「‥‥麻貴ちゃん?」
「ん?」
 穏やかな笑顔は現場にいる時の麻貴の表情にはなく、柊真がつけていた物と同じ首飾りをしていた。麻貴によく似た顔の青年はそっと折々を降ろす。
「折々ちゃん、大丈夫か!」
 麻貴が駆けてくると、その青年の姿に驚き、折々を通り越してその青年を殴ろうとしたが、胸倉を掴んで襟に顔を埋める。
「ごめん」
 青年が謝ると、夏蝶も追って走ってきた。
「沙桐さん‥‥やっぱりこの近くに‥‥」
「また、今度ね」
 手を振って沙桐が言うと、麻貴も手を離し、沙桐を振り向かずに折々の手を引っ張り、歩き出した。
「ねぇ、麻貴ちゃん、あの人‥‥」
「いつか、紹介する」
 折々の質問に麻貴が遮ると、彼女はふふと、笑う。
「楽しみに待ってるよ」
 麻貴の横顔は強い意志があり、折々の興味を増やせる。


 衰弱した女達を担いでいた楓、輝血、珠々は出口の近くまで来ていた。衰弱してない女が何人かも手伝っていた。
「おい」
 背後からかけられる声に即座に振り向くと、立っていたのは茶の髪に紫の瞳の男。
「火宵か‥‥?」
 楓が言えば、男はにやりと笑う。
「随分とやってくれたな。まぁ、安心しろ、技術者達は俺が仕留めてやったよ」
「口封じね。アンタの身の為にも捕まったら?」
 輝血が衰弱した女を離すと、得物を手にした。
「やめとけ、今は女どもの看病に徹しとけ。ちゃぁんとやり合おうぜ」
 男には戦闘する気力はない様で、興味がない模様。
「暮也‥‥」
 縋るような声を出した女の一人に火宵はにやりと笑い、早駆で姿を消した。
「‥‥もしかして、お初さんの妹ですか?」
 珠々が言えば、女は頷いた。

 衰弱していた女達も救出し、珠々や柚月の声かけで女達に見覚えのある人が全員いるか確認させたが、無事全員脱出させた模様。
「お初さん、凄く心配していたヨ。元気でヨカッタ」
 お初の妹の姿も確認できて柚月が一段楽したように笑顔を見せる。女達は久々の温かくまっとうな食事に涙して食べている。
 麻貴が衰弱した女性達の世話をしていた所、夏蝶が戻ってきた。
「もう、いなくなっていたわ」
「仕方ない、大勢の女性達を助け出すのが優先だったからな」
 労るように麻貴が言うと、夏蝶は一度溜息をついて気持ちを切り替える。
 麻貴に促されて外に出ると、食事を振舞う開拓者達の姿があった。
「もうひと頑張りをするか」
 やる気に満ちた麻貴の笑顔を横で見た夏蝶はもう一つの同じ顔を思い出していた。


 道なき道を降りている火宵は待ち構えている姿に気付いた。
「楽しめそうな奴等がわんさかいる。親父の夢なんざどうでもいいが、あいつ等と殺しあいてぇな」
 心底愉しそうに笑う火宵はそのまま突き進む。
「武天の方も色々とボロボロだろ。片付けてくれ」
「ああ」
 男が頷くと、火宵は男が首にかけている首飾りを手にしようとしたが、男に阻まれる。
「足元掬われるなよ。カタナシ」
 愉しそうに笑う火宵にカタナシは無表情のままだった。