|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 開拓者ギルドに足を踏み入れた鷹来沙桐はいつもの受付嬢の前に立つと、個室でお願いと早口に言って急かした。 沙桐から個室にて依頼を受けるのは初めての受付嬢は何が何だか分からないといった感じだった。 「双樹堂の親父さんから聞いたけど、俺の依頼記録見てった人がいたって?」 「‥‥い、言っちゃ駄目ですよっ」 慌てて小声で話す受付嬢に沙桐はごめんごめんと手を合わせる。 「つか、君が漏らしたわけじゃないじゃないか。鉄さんが樋崎さんの後を追って尾行してただけじゃないか」 「そ、それはそうですけど‥‥」 受付嬢から見て、その様子は何だか自分がいけない事をしているようだ。 「あの人が動いてるなら何とかしてくれるから大丈夫」 「はぁ‥‥」 おどけて沙桐が笑うと、受付嬢は肩を落とす。 「その話はおいといて、依頼だよ。前回の続きって事でね」 「はい」 沙桐はあの後、山賊を村から一番近い役所にて保護という名目で牢に入れた。 話を聞けば、随分前からそこで村の様子を探っている連中がいたらしい。 そこの村は、昔は鉄が採れたが現在は尽きてしまった鉱山があり、尽きたと同時に賑わっていた村も廃れてしまったようだ。 その鉱山を改築し、武器職人達を呼び寄せた可能性がある。 山賊達が雇われた頃には村に入る為の道が土で埋め立てられ、一定の場所から出入りするしかなくなったようで、村人も管理している志族の姿もなくなってしまい、村は変わり果てた姿になっていた。 「山賊達はどうしていたのでしょうか?」 「奴等は基本的に希少価値のある動物を狩って売ってるだけで、人から金品を強奪するような連中じゃないんだ。たまたま金に困ってたからやってたみたい」 肩を竦める沙桐に対し、肩を落とす受付嬢。 「今回は中に入ってほしい。流石に番犬がいなくなったから不審に思われると思うし」 「そう言えば、刀匠達は監禁されているんですよね」 今までの話からすると、刀匠杜叶刻御をはじめとする武器職人達は強制的に連行されて監禁されているという想像が生まれていた。 「架蓮の話だと、彼等は黙々と作業をしていたようだよ。一点の曇りもなく、真摯に黙々と」 沙桐の言葉に受付嬢は目を見張る。 「だって‥‥個人が持つ兵力の為に作らされているのに!?」 「別に、言わなくてもつれて来させられる。衣食住と武器を思う存分作れる環境を与えられる。武器を作るものがいれば切磋琢磨できるんじゃない。それに、武器を作るという事はそれなりに手間も金もかかる。何も気にする事無く作る事が出来る場所だったら‥‥?」 「‥‥それって‥‥」 呆然とする受付嬢に沙桐は目を伏せる。 「村を管理している志族は判明した。俺はちょっとその人と話がしたいと思ってる」 「大丈夫なんですか‥‥」 「大丈夫にしなきゃなんないだけだよ」 静かに言う沙桐の言葉に受付嬢はかける言葉を失った。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志
蓮見 一片(ib0162)
13歳・女・魔
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 依頼主である沙桐と別れた開拓者達は沙桐より託された地図を見つつ、刀匠達の下へ歩いていた。 「楓、いる?」 輝血(ia5431)が言えば、心眼を使っていた沢村楓(ia5437)は首を横に振る。 「まだだな、入口にも到達してないのだから、仕方ないだろう」 「まぁ、とりあえずは進むべきだね。楓君はまた近くなったらお願いするよ」 冥霆(ib0504)が肩を竦める。沙桐の言葉にあった目印はまだ先だ。殿の方を歩いていたオドゥノール(ib0479)は少し沈んだ面持ちであった。 「いかがしました?」 オドゥノールの様子に気付いた白野威雪(ia0736)が心配そうに声をかけた。 「‥‥いや、彼等は今、幸せなんだろうなと‥‥」 雪の視線から逃げるようにオドゥノールは目を伏せた。騎士たる者、人にそうそう弱い所を見せるべきではないからだ。 「そうですね。安定した環境というのはそうそうにあるものではありませんからね」 二人のやり取りを横目で見ていたフレイア(ib0257)が呟く。 「それでも、連れ出すべきです」 きっぱり言ったのは青嵐だ。 それが開拓者が出した答えだ。全員がそれに頷いたのだ。 「夢のような環境は簡単にあるものではない。故に、世の中は夢で夢で夢と思えるのだよ」 嘲笑うように嘯くように言ったのは冥霆の声。柔らかに優しい声はまるで夢のよう。 「夢、ねぇ‥‥あたしのにもあるんだろうか」 普段は仕事の為に夢を売る事がある輝血はそんな話を聞きながら言った。 「ありますよ」 優しく微笑んで輝血に言う御樹青嵐(ia1669)の顔を見て、輝血は目を伏せた。 最後尾にいる蓮見一片(ib0162)は大人達の話を流し聞きいていた。 「‥‥無事に助け出せられるといいな」 事情が何であれ、結局は刀匠達は悪い人達に連れてこられた。 その事実だけは揺らがないのだ。 ●刀が導く道 前回入った村に入る道や集落を通らずに山奥を進む。 「お地蔵さんの所で左に曲がる‥‥」 青嵐が地図と覚書を片手に進んでいく。最初から言われていたが、元から道がない道であるが、人が進んでいる形跡があるので足元はしっかりしている。 「台車とか引いているみたいだね」 草や地面の後を見ながら輝血が呟く。 「興味は少しずつ分かるだろう‥‥少し先に二人いる」 楓が呟くと、全員に緊張が走る。 刀匠達を連れ出す事を第一目的とした開拓者達に立ち向かうのは彼等に甘言にてここに監禁した者達。 「容赦する必要はないな」 剣を抜くオドゥノールの言葉が引き金。全員が走り出した。 先を走るのは輝血と冥霆だ。シノビの二人が道を開く。奥に進むにつれて木々は鬱々としたものなり、侵入す者を惑わすようだ。 「お前達何者だ!」 男二人が手にしていた槍を輝血達に向ける。真っ直ぐ走っていたシノビ二人はいきなり左右に別れ、見張りの男達の視界から消える。次に視界に現れたのは楓とオドゥノール。それぞれが握る刀と剣を振るえば、オドゥノールの剣が槍の先を弾き、楓の刀は鋭く槍の刃の根の木を切り落とした。 これには楓は驚いた。山賊が使用していて、ロクに手入れもされていなかっただろう刀を楓が最低限の手入れをしただけなのにその切り口は鋭い。 「‥‥正しく、名を冠するに相応しい刀職人の仕事だな」 楓の呟きに引きこまれた見張り役達はオドゥノールの一撃で気を失ってしまう。 「こっちだよっ」 杖を握った一片が奥から現れた五人の見張りに杖を向ける。杖より現れる吹雪に見張り達は驚き、視界を遮る白い風と皮膚に触れる時期外れの感覚に恐れを抱く。 「皆、先に行って!」 見張りは引き受けたとばかりに一片が叫ぶ。 「付き合うよ」 吹雪に身動きが取れない見張り達を気絶させたのは冥霆だ。 「外からの侵入をされては余計な仕事になるからね。僕はここにいよう」 「わかりました。‥‥ご無事で」 雪が言えば、冥霆と一片は頷いた。更に走り、一気に五人現れた。 「速やかにお眠りなさい」 フレイアがアムルリープを発動させると、三人がくらりと、目を回してその場に崩れ落ちた。いきなり仲間が倒れていくのを見た残りの二人は急に襲い掛かる不安で硬直したが、一人が喚きながら開拓者達を切りつけようと刀を振り上げた。 その見張りは刀の切っ先も開拓者に触れる事無く崩れ落ちた。青嵐が投げた呪縛符にかかったのだ。 「はい、お休み」 残った一人に輝血が腹に拳を当て、男はずるりと崩れ落ちた。 「沙桐様のお話によれば、人数は十二人。とりあえずは排除はできたと‥‥」 雪が確認するように言えば、全員が頷く。 「行こうか」 一歩、楓が踏み出した。 ●思いは届くか 見張り達を倒した開拓者達は更に奥の住居の方へと向かう。 どうやら、元あった村の家屋があり、そこから人が一人出てきた。 「おやぁ、珍しいねぇ。どうしたんだい?」 女が笑顔で開拓者に声をかけた。小さな赤子をおんぶ紐で背負って、手には蕪や三つ葉を乗せたざるを持っている。これから近くの井戸で野菜を洗うのだろうか、見るからにそこで生活している姿だ。 「私達は開拓者です。助けに来ました、刀匠の皆さんを全員集めてください」 青嵐が言えば、女は顔を顰めている。工房の方へ向かう女はどうやら旦那を呼んでいるようだ。 近くの家から別の女が出てきた。子供を背負った女が青嵐の台詞を伝えると、女も妙な顔をしていたが、他の家にも呼びかけた。 「‥‥どういう事だ」 「家族も連れて来て、ていのいい人質にでもするんじゃない」 戸惑うオドゥノールの言葉に輝血が静かに答える。 「おうおう、どうしたんだ」 工房の方から男達が出てきた。 「これで全員ですね」 見回した青嵐が頷くと、彼はここにいる武器職人達が捕らわれている事を伝えた。だが、彼等は事情を飲み込めていないのか渋い顔をするばかり。 ざわつく言葉は開拓者を信じようとはしないものだ。 「ならば問おう」 凛とした声で楓が武器職人達の前に立った。細く白い手から滑り落ちるのは槍の刃先や、手入れされていない刀達。 全て、見張りの者達、前回の山賊が持っていた武器。 「貴殿らが作られた武器だろう。どのような経緯があれど、ろくな手入れもされず、名も志もない野盗達が血雨へ野晒しにしている」 楓の言葉通り、刀や槍はここにいる武器職人達の手によって作られたものだ。心当たりのある職人達が愕然とした表情となった。 「武器に見合う主を出会わせる事をせずに親を騙るのか、それが貴殿らの本懐か‥‥っ」 志士として誇り高い楓にとって目の前にある武器は許されざる事だ。武器を扱う者は武器に対し、礼を尽くすべきだと思うからだ。激情を抑えようとしても簡単に止められるものではない。 「‥‥だが、なんでこんな事を‥‥!」 まだ自分達をここに連れてきた者達を信じている様子を見たオドゥノールが声を上げた。 「杜叶刻御殿はおられるか!」 武器職人達が一斉にある男を見た。初老に入った男で、その目は開拓者達を見据えている。 「俺だ」 静かに低い声が響く。 「翠光さんを覚えていますか」 「‥‥もう、奴は俺の息子ではない。俺のような刀しか見れん男ではなく、立派な侍の家に養子にやった」 ゆっくり歩いて開拓者の前に立った杜叶の目はしっかりとしたものだった。 他の者に聞こえないように配慮をして小声で伝えた。自分の息子が自分の事を思って人を殺め続けた事を。 杜叶は肩を落とし、言葉を失った。 「ここはいるべき場所ではない。分かってくれたか」 オドゥノールが言っても杜叶は答えない。 「けどよ、俺達は家を捨ててきた奴だっている、どうすればいんだ!」 一人が叫んだ。確かに、ここには家族の姿もある。一家総出でここに身を寄せたものも少なくはないようだ。 「金があるのなら、食いつなぐ事は可能では。自分達の欲望の為に他人を不幸にしてもよいと。それで貴方達は満足ですか」 「武器は人を傷つける。その覚悟なくして武器職人など出来るか!」 「おい、誰か武器持ってこい!」 青嵐の言葉が起爆剤となってしまったか、職人達に反抗心が出てきた。持ってきた武器を一瞥してフレイアが冷笑を浮かべる。 「こちらは刀匠杜叶さんの名刀と呼ばれるもの。持ってこられた武器は安定を約束された武器しょう、こちらの方が随分とよい出来かと」 フレイアが掲げた刀はとても澄みきった美しい刀身であり、彼等が持ってきた武器よりも抜きん出ていた。 「そりゃ土俵が違うぜ、お嬢ちゃん。俺にとってその刀は筑紫屋を意識したものだ。俺はただの刀しか作れねぇよ。同じ切れ味、同じ耐久性を持った刀を。そいつを越える為にここにいるわけがない」 杜叶が言えば、フレイアは意味深に笑う。 ●見つけてほしかった 見張り役を全員縛り上げた冥霆と一片は、一度息をついた。 「全員だね」 「そうだね、君は行かなくてよかったのかい?」 冥霆が尋ねると、一片は首を振った。 「上手く、伝える事が出来ないよ。好きに燃やしてもいいよって、言われても、それが人が住んでいる街とかだったら絶対やっちゃいけない事だし‥‥でも、惹かれる」 素直に言う一片に冥霆はくすくす笑う。 「その一線は僕達開拓者にはよくある事だね」 開拓者には常人とは違う能力を持つ。その力を持ってアヤカシを倒すのだ。だが、無作法にその力を振るっては周囲に迷惑をかける事になる。 開拓者はやってはいけない線を渡り歩かざるをえないのだ。 「強制的に連れて帰るのは嫌だな‥‥」 一片は面倒だしという言葉は流石には言えなかった。 「誰を?」 二人の話を聞きつけた沙桐が話に加わる。 「刀匠達を‥‥‥‥って、沙桐君、随分砂まみれじゃないか。地面で転がって遊んでたのかい?」 「転がされた。で、どういう事」 呆れた冥霆が視界に入っている沙桐は一応払ってはいるが、砂がまだ着物や髪についているようだ。 「沙桐さん、怪我してる」 「それは後だよ、連れ出すってどういう事だ」 睨み付ける沙桐に冥霆は気にもせずに今回の開拓者達の出した行動を口にした。 「‥‥あ、そう」 「そちらの方は確か‥‥」 冥霆が沙桐の後ろにいた男は前回、集落を出る際に開拓者達に頭を下げていた男だ。 「私の紹介も後ほど、今は彼等の状況確認です」 気弱そうな優男ではあるが、気合はあるようだ。どうやら、他の抜け道がないか男に聞いていたが、本当の抜け道を教えて貰ったらしく、通った際はここの所一切足跡は見つからなかった。聞こえてきたのは諍いの会話。 「では、罪状をつけましょうか、武器密造と犯罪行為への幇助、場合によれば重罪かと」 フレイアの言葉に全員がたじろいでいた。 「何役人みたいな事言ってるの」 剣呑とした沙桐の声があたりに響く。 「沙桐、何砂遊びしてたの」 やっぱり冥霆と同じ事を言う輝血に沙桐は答える余力はなさそうだ。 「沙桐様、お怪我を‥‥っ」 驚いた雪が言えば、沙桐は目に滴る額から流れる血を拭った。 「確かに俺は役人で、武器職人の人達を助け出せって言ったけど、助け出すのは連れ出すことだけじゃないって、俺は思う。家族総出で来た人達はどうするんだ。路頭に迷わせる気か」 いつもの穏やかな表情は消え失せて、厳しい表情の沙桐は役人ではなく、土地を守る志族の貫禄にも思えた。 「君達は開拓者だろう‥‥誘拐犯でもなければ役人でもないよ」 役人ではないから託した。 「では、どうしろと」 青嵐が棘を含んだ声を沙桐にぶつけると、沙桐の後ろにいた男が前に出た。 「私は代々ここを管理していた志族ですっ。ある日、ここは何者かに襲撃されました。家族も村人も次々と殺されていきました‥‥私はもう、訳が分からなくなり、逃げ出しました」 逃げた先は、あの集落。事情があり、逃げ疲れてこの土地に来た者達を男の父親‥‥当主が優しく匿ってくれた。 十分辛い思いをしたのだから、少しは休めと匿った。集落の者達は当主を心から恩義に感じていた。 だからこそ、その息子を匿おうと思ったのだ。 「村人達は全員殺されたでしょう‥‥鷹来様のお話だと、ここを取り纏めていただろう者は牢の中と仰ってました。誰一人住む事のない村を守るのは寂しい事‥‥虫のいい話とは思います。裁くなら、村を守れなかった私に! どうか、どうか、彼等をここに置いてやって下さい!!」 頭を下げる志族の男に全員が驚いたような動揺の表情を浮かべた。 「役人さん、俺はここに残る。こんな寂しい人を一人で置きたくはねぇよ。裁きが出たなら、この杜叶刻御、逃げも隠れもしねぇ」 「俺もだ!」 「俺も!」 「あたしも、旦那と家族とともにいるよ!」 誰もこの事態を想定したものはいなかっただろうか。 「‥‥沙桐、どうすんの」 輝血がぼうっと、尋ねた。こんな状況になって、一番戸惑っているのは彼女かもしれない。他人が他人同士を思いやる姿を輝血は理解できなかった。 「それを決めるのは志族の仕事。俺は彼に戦う舞台を用意しただけ」 事も無げに沙桐が言うと、全員の前にある男が投げ込まれた。腕を後ろ手に回され、縄をかけられている。 「アンタは!」 「そいつがここを纏めていた代理人」 なんでもないように言うのは翠髪に深い海色の切れ長の瞳の男。 「カタナシ殿」 楓が言えば、カタナシと呼ばれた男はにやっと笑い、片手を挙げる。 「苦戦してそうだから、手助けにと思ったが、遅かったか」 「うん、遅かった」 きっぱり言う輝血にカタナシは笑う。ふと、不機嫌な沙桐の様子を見て、カタナシは愉しそうに笑った。 「後は頼むぞ」 「言われなくても」 一方的な沙桐の敵意に介さず、カタナシはその場を去った。 「‥‥あの方は何者だったのでしょうか」 ぽかんとする雪に沙桐は不貞腐れて答えた。 「悪い虫」 ●生きる意味 一応は一人、ここを纏めている代理人を捕まえて、本来の纏め役が翠光を騙した男である事が判明した。 「沙桐さんは残るの?」 「うん、調査したい事もあるしね」 開拓者は帰る事になったが、沙桐はまだここに留まると言う。 「何はともあれ、油断召されぬよう」 フレイアの言葉に沙桐は頷く。 「ノールちゃんの御題にも答えてくれてよかったね。あの人ならいつか、答えを出すよ」 「‥‥そう、信じている」 こくりと頷くオドゥノールに沙桐は微笑む。 「人と物の差って、感情の差だよね。あたしは「道具」だけど」 ぽつりと呟く輝血の声を聞いた青嵐が顔を顰めた。 「沙桐様、お気をつけて‥‥」 「雪ちゃん達もお疲れ様」 開拓者がそろそろ出発しようとした際に沙桐が輝血を呼び止める。 「俺達の依頼を受けてる時に自分を道具とか言うな。そんなら、俺達の目や耳になれよ」 沙桐の言葉に輝血は立ち止まった。どう表現していいかわからないからだ。 「輝血さん?」 青嵐が呼ぶと、輝血は我に返ったように出発した。 そろそろ梅雨明け。夏が近い。 見送った沙桐は近くの山を睨むように見つめた。 |