幕の裏
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/22 19:40



■オープニング本文

 武天の居城に上がった鷹来沙桐は武天の王である巨勢王の謁見を許され、彼の前にて頭を垂れて報告をしていた。
 報告とは、理穴との国境に面する鉱山を有する続地の村人や管理している志族を殺害し、武天や理穴の刀、槍、弓等の武器職人達を騙して無人となった村にて武器製造をさせ、鉱山を隔てた場所に製鉄所を設けて攫った女や旅人達に無理矢理、鉄や焙烙玉なんかを作らせていた事。
 首謀者を捜索中との事。
「刀匠達は皆、騙されておりました。武器職人という者は色々と手間も時間も金もかかります。甘言に釣られたのは確か。ですが、嫌がる娘達が作った鉄で作らされ、個人の有する武器を作っているとは知らなかったのです。それを伝えた時、彼らはとても傷つき、悔やんでおりました。
 今は一人生き残った続地の志族と共に真っ当に生きる思いを抱いております。彼の志族はたった一人であの土地を守らねばなりません。誰も守るべき村人を居ずに村に戻るのは酷です。
 一時的に王の直轄地とし、彼らをお守りください。
 王よ。どうか、どうか、彼らに温情を与えください!」
 頭を下げる沙桐を見た巨勢王はふむと、黙り込む。
「好きな事だけができるというのはこの上もなく魅力的な事。だが、知らぬとはいえ、罪は罪」
 重たく口を開いた王の言葉に沙桐は頭を下げたままぎゅっと目を瞑る。
「職人達と志族に伝えるがいい。それぞれの武器百本作り、献上する事! その資材費用は志族が出す事!」
 ばっと、顔を上げた沙桐の瞳は少し赤く、潤んでいた。そんな顔の沙桐を見て巨勢王は笑う。
「辛い思いを共にし、この罰を乗り越えたら幸福を共にするがいい。手出しはさせん」
「ありがとうございました!!」
 再び頭を下げて沙桐は退出した後、巨勢王は沙桐がいた場所を見つめていた。
 守りたい者を守れなかった事を知り、今も悔やんでいる若き志族。
 守る人がいてこその土地。その孤独を知るからこそ、上申に来た事を王は察した。

●幕の前
「で、お前は開拓者の気持ちを無視して強引に進めようとしたのか」
「う‥‥」
 沙桐は謁見の後、ある男と会っていた。
 本来会いたくも無い男。だが、たった一人の為に情報を共有していた。
「お前があの志族に肩入れするのは分かるが、ちゃんと伝えてなかっただろう」
 その男がずけずけ言うと沙桐は口を尖らせて黙りこむ。
「悪い‥‥」
 素直に謝る沙桐に男は溜息をつく。
「まぁいいさ、で、架蓮と話はついているんだろ」
「ああ、奴が架蓮に会いにくるってさ」
「俺もあいつから始末を頼まれたしな、丁度いいからそっちに渡してしまおう」
 男が満足そうに頷く。
「じゃ、俺はギルドに行くから」
 立ち上がる沙桐に男はじっと沙桐を見つめる。
「お前、遊女の姿でもいけるんじゃねぇの」
「‥‥そっくりな奴にそこまでの事させるのかよ」
 ぎろりと見下ろす沙桐に男は笑う。
「それは無いな。やる前に俺がそいつを殺してる」
 沙桐の言葉に男はくつくつと笑う。
「‥‥柊真、てめぇの嫁にはやらねぇよ」
「ぶん取るさ」
 一瞬火花が散ったようだが、沙桐は即座に部屋を出た。柊真と呼ばれた男‥‥上原柊真は低く笑い、首にかけている銀細工を愛しそうに撫でた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437
17歳・女・志
蓮見 一片(ib0162
13歳・女・魔
猛神 沙良(ib3204
15歳・女・サ


■リプレイ本文

「実質お咎めなしか、でも、今度仕返しするから。反撃はなしだよ」
 淡々と事実を受け止めたのは輝血(ia5431)だったが、最後の言葉に沙桐はぎょっと目を見開いた。
「でも、俺、反撃した事ないよ!!」
 いつだって大人しくやられているじゃないかと情けない事を言い張っているが輝血は聞こえない振り。二人のやり取りを見てというか、沙桐を見て驚きを隠せないのは紫雲雅人(ia5150)と滋藤御門(ia0167)。
「ん? やっぱり似てる?」
 にこっと笑う沙桐は似ていると思った人物より人懐っこいが、やはり似ている。
「しっかし、あいつめ。こんな可愛い子と一緒に仕事してたのか。いや、俺も可愛い子達と一緒に仕事してたけどさ」
 御門を見て舌打ちする沙桐の様子に当人は声をかけた。
「僕、男なんですけど」
 訂正する御門の声に沙桐ががっくりと肩を落とす。
「そういう所まで似てるんですね」
 呆れる雅人が言うと、何気なく蓮見一片(ib0162)が沙桐を見る。
「今回もやるなら手伝うわよ」
 楊夏蝶(ia5341)がやる気を見せている。
「罪もなき女性達に強制労働をさせて自分は遊んでいる。全くいい気なものですね」
 いつになく饒舌に語る珠々(ia5322)の表情はいつも通りだが、声音の端々に怒気を織まぜているのは彼女の感情に他ならない。皆とは少し離れている沢村楓(ia5437)も同感だった。
「まずは有益な情報を拾ってきましょう」
 立ち上がる雅人を少し離れて座っていた猛神沙良(ib3204)が視線だけで見送る。開拓者となって日が浅い事を気にしているのか、緊張した面持ちだ。
 それぞれも立ち上がり、準備へと向かう。御門が出る際に一瞬だけ垣間見たカタナシの姿。彼は一言も話さなかった。


 石炭問屋へ向かった雅人は近くの料理屋へ入った。何件か入って聞き込みをした所、わき道にある人目につかない料理屋が用心棒がよく入る店だった。
 朴訥そうな男がやっている小さな店。雅人が入った時に男が一人冷酒を飲んでいた。質もボロではない程度の着物。表情も穏やかなものでなく、静かに酒を飲んでいる。刀の確認は出来なかった。
「兄さん、何を」
「ああ、冷酒で、後、適当に」
 こいつだと確信したが、店主の声に雅人は席に着く。男の方を見ないように店主と話をしていた。ほどなく男は出て行った。店の中には雅人一人となり、足音が聞こえなくなった頃に声をかける。
「あのお兄さんはよく来るのですか」
「ああ、あの人はよく来るよ。近くに大きな問屋があるだろう。石炭の問屋の用心棒ですよ」
 当りと思った雅人はほんの一瞬目を細めたが、すぐに平素の表情となる。
「あの問屋ですか。随分物々しいですね」
「店主はいい人だが、まぁ、石炭は燃料だし、狙われるものだからねぇ。最近は花街に遊びに行ってるとか聞きますが」
「らしいですねぇ。あたしも行ってみたいもんですよ」
「ああいった用心棒のような人はどんな女が好みでしょうかねぇ」
 酔った振りの戯言のように言えば、店主は思い当たり節があるのか、天井を向いていた。
「あまり喋らない方ですが、誘ってくれる女がいれば特に好みはないそうですよ」
「そうですか」
 もう用はないとばかりに雅人は代金を置いて店を後にした。

 花街に潜入した開拓者達は目的の店に着いていた。
 御門と沙良は店の店主へ挨拶に入っていた。神威人の沙良の姿は珍しいのか驚いていたが、開拓者ならば色んな人材がいると納得した。
「この度は協力してくださってありがとうございます」
 御門の声を聞いて店主は随分と驚いて肩を落とした。大方女と間違われたのだろう。
「部屋を二部屋お借りしたいのです」
 沙良の申し出に店主は二つ返事で頷いた。
「悪い奴等が出入りしているのは構わない事だが、鷹来が関わってるとあっちゃ仕方ない。架蓮も元は遊女ではないからね」
「え、知っているのですか?」
 きょとんと目を見張る沙良に店主は頷く。
「あの子が鷹来さんのお庭番である事を知って入れたんだ。折梅さんのお願いとあっちゃ、頷かないのは男じゃないさ」
「折梅様もご存知なのですか?」
 驚く御門であったが、男は笑った時、襖が開いた
「旦那さん‥‥あ、お客様がいんしたか‥‥」
 桃の簪を挿した娘が口元で袖口を当てて驚く。
「ああ、緋桃。ごめんよ、後でな」
「すみません、お暇しましょうか」
 沙良が店主に言えば、御門が頷いた。

 残ったメンバーは架蓮の部屋で着物を吟味していた。
 青みがかった髪を優雅に結い上げた美しい姿の架蓮は脇息に右肘を預けて着物を吟味する開拓者達を見守っていた。
「やっぱり、座敷に出るんだから綺麗な格好がいいわよね」
 仕事はきっちりを至上としている夏蝶であったが、やはり、お洒落と危険を楽しみたい模様。
「自分を着飾ることが出来れば別にいいけど‥‥架蓮、君はどんな着物で出るの?」
 輝血が思い出すように可憐に尋ねると、吉祥柄の着物だと答えた。ふむと考えた輝血は熨斗に花柄の着物を選んだ。
「タマと一片は?」
「私達はもう借りました」
「裏方だけど、まぁ、念の為にね」
 他のかむろから衣装を借りてしまっていたようだ。
「御門っちは何がいいかしら」
 真剣に考え込んで夏蝶が御門の着物を選んでいるようだ。
「三味線引きをやる気だったね」
 輝血が出してきたのは遊女を引き立てる華やかさを押さえた着物だ。丁度良く戻ってきた御門と沙良は着物の見立てに借り出されてしまう。
 その横では楓がぼんやりとした様子で着物を眺めていた。いつもならきびきびした様子で動く楓だが、随分気を抜けたような‥‥剣を取らず、花を手にした箱入りの娘の表情であった事を見抜いているのは架蓮だけだった。


 表に出るのは輝血、夏蝶、御門、珠々。この四人は架蓮と共に座敷に出ていた。
 それぞれ思い思いに着飾った遊女達は鶴次郎達に接客していた。
「架蓮、早よう、私のものになっておくれ」
 鼻の下を伸ばし、鶴次郎が架蓮の手を包み込むように握り締めている。
「その話はまた後で‥‥」
 輝血も夏蝶も男達を魅了するには十分な美しさであり、男達は上機嫌だ。
「お主はどのような男がいいのだ?」
「酒をたんと飲まれる方です」
 夏蝶を気に入った男が好みの男を尋ねると、深酒を煽るように夏蝶が答える。
「ならば飲もうぞ」
 杯を夏蝶に差し出せば、夏蝶はなみなみと酒を注ぐ。男はぐっと酒を飲み干す。
「見事な杯、見惚れるばかり」
 夏蝶が男の胸にしな垂れると男は気をよくして夏蝶の肩を抱こうとするが、夏蝶はひらりと、男の手をかわして立ち上がる。
「よき酒となるよう、舞を捧げましょう」
 右手には扇を手にしており、一度腕を振るえば、控えていた御門が三味線の弦を撥で叩く。
 淑やかな三味線の音に縋るように艶やかな舞を見せる夏蝶に男は天女を見るような眼差しだ。
 輝血を気に入った男も夏蝶の舞に見蕩れている。
「あら、あたしを気に入ったのは嘘かい?」
 男の喉元に指の先端で触れてゆっくりと鎖骨までなぞる。
「そんな事はない」
 男に触れていた輝血の手を取った男が言えば、輝血は鼻で笑う。
「じゃぁ、飲んで‥‥お互い忘れましょ」
 輝血が空いた手で杯を渡すと男はぐっと、酒を飲み干した。輝血もまた、酒を飲み干し、男は輝血の肩を抱く。
 何度か酒を飲ませると、男は厠に行くといって立ち上がると、丁度良く護衛の男も一人立ち上がり、連れ立っていく事にした模様。

 用を済ませた男の一人が先に歩いていると、沙良が近くに寄る。
「素敵なお方‥‥宜しければ、一緒に飲みません?」
「ほほう、銀の髪とは珍しい」
 武天にはあまりいない姿の沙良を気に入ったのか男は上機嫌に頷くが、いきなり白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「いっちょ上がりだね。早く運ぼう」
「はい」
 男を眠らせたのは一片のアムルリープで、一緒に隠れていた雅人も出てきてもう一つの部屋へ運ぶ。
 もう一人の男が出てきた時、連れ立った男がいない事に何等疑問はわかなかった。男の行く先で一人の遊女が困っていた。
「あの、お連れ様がお倒れになられて‥‥」
 声をかけると、そう返され、一緒に席を立った男と思い、その遊女によいところを見せてひと時の夢を貰おうと画策し、遊女についていこうとした。
 その遊女は屋内で持つには相応しくない傘があった。瞬間、男の腹に衝撃が走った。
「ぐ‥‥が‥‥」
「まず一人」
 呟いた遊女は楓だった。
「見事」
 雅人がひょっこり出てきて男を座敷へと引きずる。
「どうかしましたか?」
 楓の様子に気付いた沙良が声をかけると、当人はなんでもないとだけ言った。視界に入る所に自分の今の姿が分かる物がなくてほっとしていた。
 自分が一度捨てたはずの姿でいる事による動揺。
「楓君」
 名を呼んだのは沙桐だ。一緒にもう一つの座敷にいたのだ。はっと、弾かれるように楓が沙桐の方を向く。
「最後までやれるか」
 心配の表情でなかったのは楓にとって安心したところだ。余計な哀れみは必要ない。
「‥‥勿論だ」
 ぐっと、拳を握ったのは己への戒め。


 二人減り、まだ帰らない事に何人かは不思議に思ったが、遊女達の振る舞いに男達は忘れてしまったが、また一人厠に席を立ち、捕らえられた。
 三味線の演奏を終えた御門は一人の男に言い寄られ、酒を飲ませていた。
 男であるのだが、言いえぬ憂いを含んだ美しさが良いのか、男は御門に差し出されるままに酒を飲んでいた。
「まだ飲めと。はは、これはよい。あまり喋らぬ主を是非とも酔わせて啼かせよう」
 うっとりしたように微笑む御門に男は更に気をよくして酒を飲む。
 沙良が入ってきて禿の珠々に手紙を渡した。珠々が御門を相手にしていた男に手紙を渡すと、にこやかにおだてていた。男は随分機嫌がよくなり、席を立った。後ほど御門も頂く模様。
 手紙で遊女が待っているというものだ。合意の合図があれば気にすることは何もない。浮き立つ男の後姿を見て志体持ちの男が溜息をついた。
 宴の席に残ったのは志体持ち含めて三人。流石におかしいと思ったのか、志体持ちの男は立ち上がった。
「どこへ行くのですか?」
「連れを探しに」
 流石におかしいと思ったのだろう。遊女を宜しくやっているのが運び屋なら話は分かる。だが、消えた中には護衛もいた。主を置いて宜しくやるのはどうかと思ったからだ。
「邪魔立てするなら斬るぞ」
 止めた夏蝶が夜春を使おうと思ったが、相手は志体持ち、通じるかはわからない。
「もう頃合だね」
 輝血が言うより早く手近な男の腕を後ろ手に回し、自分も男の背に回り、男の背に膝を乗せる。同じく架蓮も鶴次郎を捕らえていた。
「観念して下さい」
 御門と珠々も立ち上がり、志体持ちの男は刀を抜いた。志体はあれど、相手にもあるかどうかは分からない。悩んだ刹那、奥の襖と出入り口の障子が同時に開いた。
 傘を持った楓と禿の格好をした一片、奥の襖からは裏方組がそれぞれ入り口を塞ぐ。奥の座敷には中間達が縄に縛られ、猿轡を噛まされていた。
 楓が見た男の刀の煌きに直感を感じた。
「一本たりと逃がさん」
 いつもの調子に戻った楓が右手に刀「澪」を左手を振って傘を開く。
「これ以上暴れたら痛い思いをするだけだよ」
 一片が忠告を入れると、用心棒が真っ先に走ったのは鶴次郎の方だ。刀を振り上げ、斬り殺すつもりだ。
 すぐに対応したのは御門だった。
 腕を閃かせ、架蓮の着物の袖より出してきたのは苦無。御門が放った大龍符が視界を遮った事もあり、ギリギリで架蓮が刀を受け止めたが、力の差と刀の差で苦無が弾かれたが、一撃目を防げたのだから十分だ。
 楓と沙桐、沙良が走り、沙桐と沙良が架蓮達を守り、楓が紅蓮紅葉を瞬時に発動させ、思い切り振り上げた「澪」が用心棒の刀目掛けて振り落とされた。
 紅き流水の残像を見た男は真っ二つに折れる刀を目の当たりにしたが、折れた片方で更に攻撃を続けようとしたが、一片のアムルリープと御門の呪縛符といった連続攻撃に男はなす術なく落ちた。


 残りも縛り上げ、雅人と沙桐が尋問を行っていた。
 切っ掛けは理穴への流通がほしかったところ、理穴の富豪の使いという優男が武天と理穴の国境近くで石炭が必要だからという事で売っていた模様。
 運び屋は優男が仲介した連中であり、随分ときな臭い商売をしていたらしい。
「その優男ってさ、長髪で書生風な男?」
「そ、そうだ‥‥」
 一片が尋ねた言葉に何人かが心当たりがあった。
「矢場で捕まえたあいつじゃない」
「矢場‥‥?」
「確か、そこは人身売買をやっていたんですよね」
 夏蝶が言えば、沙良が不安そうに聞き返すと、独自で調査していた雅人が呟くと、ギルドの記録にありますよと助言を付け加えると、沙良はこっくりと頷いた。
「武器はどうしたの」
 輝血が言えば、男はそんな事まで知っているのかと目を見開いた。
「‥‥運び屋が理穴に‥‥」
「火宵の所ですね」
 厳しい表情の御門が呟く。
 火宵とは他国の製鉄法を実験的に行い、火薬製造などに女を攫い、書生風の優男を使って武器職人達を甘言にておびき出して騙して武器を作らせた黒幕と思われる者。

 男達は役人へ引き渡される事になった。
「お腹すいたでしょう。他に部屋を用意いたしましたから、食事をどうぞ」
 店主が気を利かせると、開拓者達はそれに甘んじた。
「皆、ありがとう。じゃ、俺達はこれにて」
 帰ろうとする沙桐と架蓮を見送ろうとしていた開拓者だが、輝血がつかつかと歩み寄り、沙桐の襟首を掴む。
「もう、隠し事はないよね」
「ん?」
 きょとんとする沙桐に輝血は苛立ちを隠せないようだ。
「前にも言ったでしょ。信頼してって」
 感情的になる輝血に開拓者達は意外そうに目を見張った。あまり見ない感情的な輝血の姿に一番驚いたのは同じくあまり感情をはっきり見せない珠々かもしれない。
「うん、でも、俺はもう関われないんだ」
「え」
 きっぱり言う沙桐に輝血は弾かれるように目を見開いた。
「後は柊真と麻貴が動くだけ。武天はもう片付いたんだ、俺はいつも通りに護衛の仕事に入るだけ」
「そんなの聞いてないわよ」
 夏蝶が言えば、沙桐は困ったように笑う。
「また会えるさ、すぐに」
 はぐらかすように沙桐が言えば、輝血の手を離させた。
「あっけなかったね」
 意外そうに言う一片は武天の方に関わっていたからだろう。
「深い闇がまだあるのですね‥‥」
 どことなく気を落とす沙良。
「やれやれ、あの人が無茶しなければいいんですけどね」
 溜息をつく雅人に御門が微笑む。
「悪があるなら、斬るのみだ」
 楓が厳しく言うと、誰も声には出さないが、思いは同じだった。