【夢夜】海の夜
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/14 00:08



■オープニング本文

「山がいいと言ったのに‥‥」
 汗だくの状態で文句を言っているのは風紀委員長にして弓道部元部長の羽柴麻貴。
 夏の大会は全国大会は逃したが、よい成績を残し、引退。今は受験に向けて勉強中だが、成績や学校での活動を含めれば、推薦も視野に入れているので少しは余裕があり、後輩に指導をしている。
 同学年から後輩まで海がいいという事で殆ど引きずられるように麻貴は海に連れてこられた。
 日焼けを嫌がる麻貴はきっちりジャージを着込み。日焼け止めもばっちり。
「なんだよ、弓道部。元部長が情けないな」
 休憩中の麻貴に声をかけたのは男前だが少々強面の男。
「空手部か‥‥何でエプロンしてるんだ?」
 顔を顰める麻貴が見たのはTシャツに赤いエプロン。記憶上、弓道部と同じく海からすぐ近い民宿に泊まり、合宿を行っているハズなのに。
「三年は顧問の親戚がやってる海の家の手伝いだよ」
「雪原センセか。それって、公私混同って言わないか」
 空手部は厳しい顧問の雪原先生の下で一部では「雪原一家」と言われている。元部長の緋束は率先として海の家の手伝いに参加している。
「そういや、隅高も今回この辺で合宿してるって?」
 きょろきょろを辺りを見回す緋束に麻貴は頷く。
「剣道部と後いくつかの部活が来てるようだ」
「‥‥麻貴、何してんだよ」
 噂をしていた隅高剣道部元部長鷹来沙桐が姿を現す。
「休憩‥‥」
「諦めて焼けろよ」
 呆れている沙桐は日に焼けているというか、赤くなっている。
「二人がいるなら、ちょっと話聞いてくれないか?」
 沙桐が話したのはここの海で有志で毎年やるビアビーチの事。そこのスタッフの半数が来れなくなったらしい。理由は少し海から離れたカジュアルバーで大きなビアガーデンをやるようで、引き抜かれた模様。
 経営者はあまりタチがいい連中とはいえない模様。
「ああ、俺もその話を聞いたな」
 緋束が頷くと、麻貴は不機嫌をあらわにした。
「そりゃ、嫌な話だな」
「で、俺達もビアビーチの手伝いに行かないか? バイト代も出るみたいだし」
「多分、俺はやらされるな。羽柴は?」
 考え込んでいる麻貴は携帯電話を取り出した。
「手伝う。つか、なーんかヤな予感がするから、ちょっと声かける」
「俺もそうしよう」
 麻貴と沙桐がメールを送り、海の方に視線を向けると、ビアビーチのスタッフ達が準備を始めていた。

件名:バイトやらないか?
内容:近くの海でビアビーチするんだって。嫌な話を聞いたから、ちょっと手伝ってくれないか?
 バイト代は出るって。

※このシナリオはミッドナイトサマーシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
若獅(ia5248
17歳・女・泰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341
18歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ


■リプレイ本文

 夏といえば海。色んな人種が海へ向かうが、人目を引く三人の美女が電車から駅のホームに降り立った。
「何であたしがこんな所に‥‥」
 眼球の紫外線予防にサングラスをかけた水城輝(ia5431)が一言呟いた。襟ぐりの大きなカットソーにデニムのショートパンツは白く細い手足を更に長く見せる。持っている荷物は手伝いで使うだろうメイク道具や水着、着替え。
「こっちは夏期講習もやっているんですけどねぇ」
 肩を竦めるのは紫雲雅人(ia5150)。
 首を傾げているのは滋藤美香子(ia0167)。こちらは大人しめであるが可愛らしいサマーワンピースにキャプリーヌ姿だ。
「あら、奏高の皆さん?」
 声をかけてきたのは白野威雪(ia0736)だ。
「確か‥‥隅高の剣道部のマネージャーでしたよね」
 他の部活の成績や他校の情報収集に赴いている雅人は雪を知っていたようだ。
「ええ、沙桐さんのお誘いで来たんです」
 高校生ではないので、年齢に見合った露出少な目の上質なワンピースを着ていた。
「ああ、ならば一緒に行きましょう。きっと、鷹来君も同じ目的でしょう」
「そちらはどなたのお誘いで?」
「羽柴さんですよ。弓道部の主将だった人です」
「見た事ありますわ。あまりお話した事がありませんが」
 楽しそうに手を合わせる雪は三人と同行する事にした。


 現地組は緋束が手伝っている海の家にもう集合していたのだが、一人、事情を飲み込めないのが一人。
「なんで気がついたらバイトの契約書にサインを!?」
 驚き慄くのは双海珠々(ia5322)だ。最後の記憶はぶらりと来た海の家で波の音とはしゃぐ他の客達の声を聞きつつ、寝転がってそのまままどろんでいた‥‥はずなのに、学校の先輩が目の前にいて、契約をさせられていた。
「判子は拇印でいいらしい」
「‥‥‥‥わかりました」
 是非もなく麻貴が言えば、珠々は親指の腹を朱肉につける。何やら風紀委員としての何かを見逃してもらっているようで、弱みになっているようだ。
「開放的な海とはいえ、へそ天で寝るのはアウトだろう」
 苦笑するのは緋束だった。どうやら彼の目撃情報にて麻貴が捕獲・保護をした模様。その話を聞いた珠々は今は隠れているへそを隠す。
「私、アルバイトって初めてなんです! どきどきしますっ」
 一方、はしゃいているのは隅高一年の獅子皇院若菜(ia5248)。こちらはチアガール部の合宿にて海にいる。
「夏はこういうちょっとしたドラマがいいわよね!」
 若菜を誘ったのは先輩である楊夏蝶(ia5341)だ。沙桐とはクラスメイトなので、校内では高嶺の花達と名高いチアガール部の部員とも気軽に話せる。
「こっちに来た時にメールを受け取りましたが、面白い話ですね」
 隅高OBである御樹青嵐(ia1669)がゆったりと笑う。現役時代は礼節をわきまえる厳しい剣士と他校にも知れわたっていたが、スポーツ推薦を蹴り、大学進学と共に一線を引き、のんびりふらふらしている。今回も後輩達の顔を見に来ただけだったのだが、いい暇つぶしが出来ると細く笑む。
「羽柴麻貴さんはいますか?」
 入り口から雅人の声がする。
「奥へ入ってくれ!」
 麻貴が答えると、四人が入ってきた。
「あ、雪先輩、お久しぶりっす」
 沙桐が雪の姿を見つけ、頭を下げる。
「沙桐さん、御樹先輩も御無沙汰してます」
「久しぶりですね」
 隅高剣道部のOGも来たようだ。麻貴が見た視線の先にいたのは愕然としている美香子の姿。
「お、御姉様‥‥折角の素敵なプロポーションが勿体無いです!」
 言われたこっちもびっくりだわと言わんばかりに麻貴がどうツッコミを入れていいか戸惑ってしまう。
「いくら日焼けしたくないからって、そんな格好は許せないわよ」
「お前こそどこのセレブ女優だ」
 先述の服装プラス、十センチのピンヒールミュール姿の輝はセレブのようにも見えてしまう。ふんと、鼻を鳴らした輝血がサングラスを外して麻貴を見る。
「来てあげたんだから、ありがたいと思ってよ」
 素顔を晒した美少女の輝血を見て、青嵐が絶句した。
 御樹青嵐、一目惚れの瞬間をその場にいた九人が証人となった。


 ビアビーチのスタッフ達が現れ、メニューの話し合いに奏高隅高メンバーも参加した。
 相手はカジュアルバー。若い子の目線も必要だからだ。
 出てきたのは焼きそばとフライドポテト、枝豆、イカ焼き、焼き鳥。
「カキ氷だけど、シロップだけもいいけど、フルーツを沢山飾ったのもいいわよね」
「お花の砂糖漬けで飾ってもいいかもですね」
 夏蝶がハキハキ案を上げると、美香子もそれに合わせる。
「たこ焼きはフレーバーを変えてもいいかもしれませんわ」
 忘れてはいけないと若菜が言う。
「梅酒ベースのジュレはいいね。大人向きだけど、女性陣が喜ぶよ」
 色んなところにバイトしているのか、見た目よく実用的なメニューを輝が選別していく。
「口で言うよりは実際に作ってみるべきですね。雪さん、夏蝶さん、手伝ってください」
 青嵐が立ち上がって料理場へと向かうと、呼ばれた二人がついていく。

 別の輪の中ではチラシを作っている。
「正式名称はビアビーチじゃないのですか」
「ああ、ビアガーデンは高校生は雇えねぇだろ。海の家の横丁みたいなもんだ」
「なるほど」
 雅人が確認を取り、メモを取る。
「雅人、デジカメある?」
「ありますよ」
 輝血が声をかけると、その姿は水着姿に綺麗に着飾っていた。
「美香子と若菜のスリーショットの写真を入れたら?」
「それはいいですね。外で撮りましょう」
 若菜は輝血に化粧をしてもらって上機嫌だ。
「奏高にはこんな素敵な化粧をされる方がいらっしゃるんですね」
「輝先輩のメイクはその辺のギャルメイクとは一味違いますのよ」
 何度か輝にしてもらっているのか、美香子が簡単に説明している。美香子は白をベースにしたビキニで胸元には水色のレースフリルがついた水着で腰には三段ティアードのスカート姿だ。
「私達の大抵のお化粧ってアイラインが強調されるものですから、なんだか新鮮です」
 蒼のチャイナ風ビキニに着替えた若菜が笑っている姿を見た輝がまんざらでもなく、そっぽを向く。
「‥‥さっさと撮るわよ」
「はーい」
 美香子と若菜が仲良く返事をして外に出ると、輝も交えたスリーショットは通行人の視線を釘付けにした。
 びしばしと雅人に注がれる「美少女達の写真を取れるなんて羨ましい」という嫉妬視線。太陽光線より痛いと思いつつ写真を撮る。
「‥‥ペタン娘枠はないのですか‥‥」
 そんな撮影風景を見つつ、珠々が呟く。
 向こうでは麻貴と沙桐が青嵐達が作った試食品をデジカメで撮りつつ、食べている。
「やっぱ、青嵐先輩の料理美味いっす!」
 二人が懐かしみ、噂の味を食べられて満足気だ。
「あ、羽柴、俺の分も残せよ!」
 珠々を慰めていた緋束が即座に振り返り、試食会に入る。
「もう、試食なのよー」
 くすくす笑う夏蝶であったが、誉められてしまうと、顔が綻んでしまう。
「では、こんな感じでいいですかしら」
 その横では雪がスタッフ達とメニューを纏めていた。
 諦めて珠々が立ち上がろうとした時、輝達を見ている男達がいた。ナンパするには少し性質が悪すぎる。
 輝達の撮影の後、青嵐や沙桐の撮影をし、雅人がパソコンでチラシを作った。
「どうして紫雲先輩は写真に写らなかったのですか?」
「‥‥写真は苦手です」
 珠々の素朴な疑問に雅人が目線をそらして答えた。
 チラシ配りは上々で、行ってみようかという声もちらほら。
「楊さんと白野威さんがチラシ配りに出てくださって正解ですね。連中、こちらの動きを見張っているようですよ」
 雅人が麻貴に言うと、麻貴は満足そうに頷く。
「後は他の客の迷惑にならないようにするだけだな」
 時間も開始時間と押し迫り、麻貴も立ち上がって仕込みの手伝いに入った。雅人は客の様子を見に出かけた。


 接客担当が被る帽子や店の看板に飾り付けをしていた夏蝶だったか、何とか間に合った。
「開始時間だね」
 輝が時計を見ると、開始時間。客達が待ちきれないとばかりに待っていた。
「予想以上のお客さんですね」
 びっくりした若菜であったが、接客は客がいて本番、緊張をしているのか、高鳴る胸を両手で押さえる。
「さ、行きましょ」
 水着の上にTシャツを着て、裾を胸下で縛った夏蝶が接客係達に声をかけた。
「皆さん、お待たせしました!」
 雪の声と華やかな女性陣の登場に全員がわっと声を上げる。
「枝豆と焼き鳥を二セットよろしく!」
 輝血がテーブルナンバーを書いた伝票を調理役のメンバーに見える所に貼り付ける。
「焼きそばとイカ焼き、一つずつです!」
 続いて美香子も伝票を貼る。
「ビール入れた! ウーロン茶と同じ五番テーブル!」
 ホールに戻る美香子に緋束がお盆を渡す。
 女性陣ばかり前に出ていると、男性客ばかりかと思ったが、そうではなかった。
 女性客の大半が調理場に近い席に陣取っており、汗を掻きつつ、焼きそばを炒める鉄板と向かい合う青嵐や焼き鳥やイカ焼きを焼く緋束に熱い視線を送っている。
 接客にも雅人や沙桐、男装した麻貴が当っているので、女性客には中々好評である。
「こちら、焼き鳥とイカ焼きです」
「フライトポテトに枝豆ですね。かしこまりました。あ、はい、注文大丈夫ですよ」
 中でも輝と雅人はてきぱきとスムーズにオーダーを捌いていた。
 珠々は調理場と接客と両方入っており、今は調理場でフライドポテトを揚げているが、そのオーラは何かどんよりしていた。
「いかがしました?」
 青嵐が声をかけると、珠々は苦虫を噛み潰した顔を青嵐に向けた。
「どうして、誰も彼もがないすばでーなんでしょうか‥‥」
「そういえば、おじいさんにお小遣い‥‥」
 余計な一言を青嵐が言うと、更に珠々のオーラはどんよりとなった。
「‥‥成長期は人それぞれですから」
 青嵐の視線の先にいるのは、珠々と同じ年の美香子と若菜の見事なプロポーション。だが、自分には輝がいる事を思い出し、その方向を探す。

「あ、気をつけてくださいね」
 すれ違いざまに雅人が雪に声をかける。雅人が意味ありげに向けた視線は、チラシ配りの時に雪も見た若者達。
「わかりました」
 こくんと頷くと、雪は何事もなかったように客の注文を受けていた。
 その男達は最初は普通に注文を入れて食べ飲みしていたのだが、徐に立ち上がって、調理場近くの女性客のテーブルに近寄る。
「ねぇねぇ、この後、俺達の所に来ない?」
 急に声をかけられて、女性客が少し戸惑う。
「この近くでバーやってるんだ。本職DJとかつれてきたからさ、どうよ」
 男達は見た目がいいので、女性達が心を動かされる。
「こんなしょっぼい所よりも絶対いいからさ」
 男の声は思いのほか大きく、他のテーブルの客や調理場の青嵐達にも聞こえた。
「お客様、ご不満がありましたでしょうか」
 瞳を潤ませた不安顔の輝が男の方に声をかけた。
「横丁風味ってなんかダサくない? 君もこんなに可愛いんだからさ、俺達の所で働かない? バイト代だって弾むしさ」
 自信満々で言う男が輝の肩に腕を回す。
「きゃ‥‥っ」
 美香子が男の前でビールを零した。
「わっ」
「申し訳ありません、お客様」
 いきなりの美香子のミスに雪が美香子を庇うように立つ。
「お客様、こちらへ」
 色白美人の誘いに男達はにやりと笑い、裏へと向かう。そこにいたのはまるで用心棒のように眼光鋭く男達を睨み付けた青嵐の姿。
 逃げようとする男達であったが、怒りを顕にした雪に立ち止まってしまう。
「営利業務妨害ですよね。警察沙汰にしては、そちらの店の立場がございませんでしょう」
「速やかにお帰りください」
 美しい鬼と化した二人に男達は成す術がなかった。
 一方、女性客には輝からのサービスドリンクに大喜びをし、夏蝶、若菜、美香子の三人のチア風味のダンスに客達は大喜びだった。
 盛り上がる客と調理場は比例して忙しい。
「せ、青嵐さん、早く帰ってきてー!」
 目を回すほどの忙しさの珠々は調理場の中心で叫んでいた。


 二日目も晴天であり、バイト代をゲットした面々はそれぞれ海を満喫していた。
「御姉様っ、どうして水着姿にならないのですか!」
 ぷうと、頬を膨らました美香子が麻貴にごねる。普段からあまりおねだりをしない美香子であったが、大好きな御姉様がジャージ姿で日陰にいるのは嫌な模様。
「そうですよね。日陰にいるんですし、輝さんのUV用メイクだって施されていたんですから、少しくらいは」
 雪も美香子に賛成な模様。
「麻貴さん、色白いよね。私、日焼けしちゃってるから羨ましい」
 小麦色の肌が眩しい夏蝶が羨ましそうに呟く。
「美香子、夏蝶。麻貴の腕掴んで」
 ぱちんと、指を鳴らした輝が指示すると、二人が麻貴の腕を掴み、輝がジッパーを下げる。ジャージの中から出てきたのは鍛えた腹筋と、豊かなバストのビキニ。ついでに下も脱がして水着姿とする。
「麻貴様もお気になさらず、日焼けしてくださいませ♪」
 太陽の下から若菜が誘いをかける。
「輝、セクハラだぞ!」
 恥らう麻貴に輝が満足そうに笑う。色々と奢らせようかと思ったが、こんな麻貴を見るのは殆どないので、これでチャラにしようと思った。
「沙桐さん、ナンパしてきて下さい」
 先輩権限で青嵐が命じると、沙桐がぎょっとする。だが、先輩には逆らう事は出来なかったが、一縷の望みがいた。
「輝ちゃんがこっち見てますよ」
「何ですと」
 青嵐が振り向くと、確かに輝が白い目で見つめている。
「あのですね、これは‥‥」
 珍しく狼狽した青嵐が輝に弁解をしている。その隙に沙桐は緋束と一緒に海へ向かう。
「あ、沙桐君達と泳ぐんだ‥‥って、もういない!」
 夏蝶がばたばたと海へ走り、若菜も一緒に泳ぎに向かう。
 珠々が大きな浮き輪にはまり込んでぷかぷかと波を待っていた。大きな波に乗っかると、そのまま岸辺の方へと突撃し、沙桐と緋束にぶつかりかけたりと遊んでいた。
「皆さん、準備運動はしっかりとしてくださいませねー!」
 雪が声をかけると、夏蝶達がもうしたと叫んでいる。
「そういや、読売屋。君は行かないのか」
 一緒のパラソルにいてかき氷を食べていた雅人がぎくりと肩を跳ねる。
「‥‥か、カナヅチなので、海には入れない言い訳では無いですよっ」
「そうか‥‥」
 ぼそりと、麻貴が哀れみの台詞を呟いた。
「麻貴さんとお話しするのはあまりなかったですよね」
 雪が話しかけると、麻貴は頷く。
「いつも沙桐さんの試合には駆けつけてましたよね」
「あ、分かってました」
「仲がよろしいんですね」
「はいっ」
 いつもの余裕顔ではなく、どこか子供のような笑顔の麻貴に美香子も微笑ましくなる。
「御姉様は沙桐様の事になると、嬉しそうですわよね」
 大好きな御姉様を取られて拗ねた美香子だったが、麻貴は照れてしまう。そんな様子を見て、美香子と雪は笑うのだった。