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■オープニング本文 理穴首都より歩いて一日くらいの所に三茶という街がある。 大きな街道沿いにあり、流通がよい街。 そこには守護者たる雪原一家という任侠屋があった。 栄えている街だからこそ悪がのさばる。中からも外からも。雪原一家は外から来る悪をその勢力で護って来た。悪には悪を。その恐れ故に街を守ってきた。 街の者達からは畏怖と信用の念を抱いていたが、ここ数年、当代が重傷を負ったという事で、偽者の当代に一家を奪われてしまっていた。 それと同時に落とされてゆく信用。一家に巣食う者よりも更に来る外からの魔の手を守るために一家の看板に泥を被せるしかなかった。 街の人々の絶望が淵に辿り着いた頃、開拓者達が本物の当代を連れて雪原一家から偽者を追い出したのだ。 以来、当代の緋束が筆頭となり、街の復興、自警に東奔西走し、忙しい日々を送っている。 「ん?」 街の見回りを終え、帰路につこうとした緋束は裏路地にうずくまる何かを見つけた。 子犬かと思えば、子供二人だった。 どうやら、兄弟らしく、弟の方がおなかが空いたと泣いていた。兄は涙を零しながら弟を慰めていた。 「睦助、これでなんか買って来い」 ぽいと、懐の巾着を一緒に歩いていた睦助に渡す。睦助はそれを持って近くの食堂に飛び込んだ。少しすると、食べ物を包んだ竹の包みを持って出てきた。 「食え」 「いいの?」 緋束が子供達の視線に合わせて竹の包みを渡すと、子供達はきょとんとしてこぼれる涙を止めていた。 「ああ、食え」 子供達が恐る恐る包みを開けると、お握りと煮物が出てきた。二人が食べだすと、半分でやめた。 「もういいのか?」 睦助も声をかけると、子供達は親が帰ってきたら父親にもあげると言う。 「気をつけてな」 頷いた子供達は歩こうとするが、兄が立ち止まり、頭を下げる。 「おう」 緋束が手を振ると、子供達は行ってしまった。 「当代、流石っすねぇ」 「うるせぇよ」 少し照れた緋束が笑う。 それから十日後、知り合いの大工の手伝いをしていた睦助は弟の方が泣いている姿を見つけた。 「どうしたんだ」 仕事を抜け出して睦助が声をかけると、弟は睦助を覚えていたようだ。 「父ちゃんが帰ってこないんだ。兄ちゃんも探しに出たっきりで‥‥父ちゃんが働いていた所に言ったら、そんなやつしらないって‥‥うそついてるんだ! おいら、しってるんだ、父ちゃん、ちゃんとそこに働いていたの。かあちゃんが生きてたとき、いっしょにべんとうをわたしにいったんだ‥‥」 「そうかそうか、と、とりあえずだな‥‥」 おろおろして睦助は弟の方を雪原一家へ連れて行き、緋束は他の部下達に調べさせた。 調べた結果は、父親である佐門は確かに曲物屋で曲物師の仕事をしていたようだが、緋束達が兄弟と出会った時にはいなくなっていた模様。 「いなくなっただ?」 顔を顰める緋束に部下の一人は更に言葉を続ける。 「店の者達はこぞって知らんぷりでしたが、やたらとよそよそしくて、俺の勘ですが、何か裏があるようですぜ」 「そうか‥‥」 「当代、もう一つ妙な話を見つけやした」 別の部下が声をかけると、俯いていた緋束が顔を上げる。 「その店から少し離れた所の川で顔が潰れた死体が上がっていたようで。その首には、麻縄のような痕があったようで」 「怪しいな‥‥曲げ物にゃ、麻縄までいかなくとも木の皮は使うんだよな」 「へぇ‥‥それだけではないんですよ。ここ数日、子供の幽霊のようなのが見えるとか。ずっと、「とうちゃん」と呼んでいるとかで、人も殺されているようです」 部下の一人が言えば、何人かがぎょっとする。 「この世にゃ、アヤカシなんて化け物がうろちょろしてるんだ。幽霊くらいしかたねぇよ。だが、アヤカシには人の寂しさを漬け込むようなものもいるからな‥‥」 ちらりと弟の方‥‥赤垂は部屋の隅で泣き疲れて寝ていた。孤独となった赤垂を見つめ、ため息をつく緋束は即座に開拓者ギルドへ文を送った。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志
オラース・カノーヴァ(ib0141)
29歳・男・魔
日和(ib0532)
23歳・女・シ |
■リプレイ本文 三茶に現れた開拓者達は雪原一家の方へ向かった。 赤垂に会って父と兄の特徴を教えて貰っていた。 頼りがいのありそうな開拓者達を見た赤垂は二人が戻ってくるのかと尋ねた。 「それは、約束できぬ」 きっぱりと言い切ったのは沢村楓(ia5437)だった。 赤垂が悲しみに瞳を潤ますと、楓はそっと吐息をついた。 「悪戯に喜ばせたくない。だが、真実は必ず持ってくる」 誰もが言葉に詰まる事を彼女は言ったのは彼女ならではの厳しさと優しさ。 「本当の事、教えてくれるの‥‥?」 「ああ、約束だ。男として教える」 オラース・カノーヴァ(ib0141)が真摯に言えば、赤垂はこくんと、頷いた。 とりあえずは、幽霊退治と情報収集に楊夏蝶(ia5341)を残した開拓者と緋束が雪原一家の屋敷を出た。 「‥‥二人が無事と願うのは甘いでしょうか」 ぽつりと呟いた珠々(ia5322)が失言とばかりに両手で口を塞いだ。 「あ、あの‥‥」 冷静であれ、血をなくせと言われてきた珠々が漏らした言葉は里にいた頃においては許されない発言であったのだろう。無表情な表情が一瞬、恐怖に揺らいだ。 「そう願うのはぁ、俺達も同じさぁねぇ」 笑う犬神彼方(ia0218)に珠々は尚も両手を口から離さない。 「お前は役人でもなんでもない、開拓者だ。色々と欲張ってもいいじゃねぇか」 緋束がわしわしと珠々の頭を撫でると、反射で両手が口から離れてしまった。 「そういう事を言うやつは、甘いものでも食っていれば落ち着くだろう」 オーラスが不敵に笑いを浮かべるが、珠々は反論できない。甘い飴玉は嫌いじゃないと思った。 ●真実を彷徨い呼ぶ声 幽霊が出ると言われる場所に歩いている開拓者達と緋束は人通りの少ない影の所にかすかな呼び声を日和が耳にした。 「日和様?」 滋藤御門(ia0167)が声をかけると、彼もその声に気付き、日和(ib0532)は駆け出した。 走った先は裏路地の薄暗い場所。人気もなく、退治をするには十分なものだ。 「苞葉なのか‥‥」 呆然と呟くような日和の声にその子供は日和の方を向くと、日和は目を見開く。 「場所と違うのは赤垂を探しているのか‥‥」 舌打ちをしたオーラスが音もなく扇子を開くと、その子供は赤垂の名に反応した。 あか‥‥し、で‥‥ あ‥‥か‥‥しで‥‥ その名を呼びながらオーラスの方へとゆっくり歩み寄る。後ろへ下がるオーラスとすれ違うように珠々が前に出た。 「‥‥やっぱり、苞葉‥‥お前かぁ‥‥」 平素の不敵顔が消え、戦慄すら覚える真剣な眼差しの彼方は刀を抜いた。 「アヤカシに憑かれたものは戻る事はない‥‥」 寂しげに言う御門も臨戦態勢に入る。 「これ以上の被害を出すわけには行かない」 厳しく楓が言うと、輝血(ia5431)と珠々は影を発動させ走り出した。 「もう、痛みも感じないのですね」 淡々とした口調ではあるが、寂しさにも似た言葉を発した珠々がアヤカシの背を取った。二人のシノビが刀を突き立ててアヤカシの下半身を取った。 あとは一気に攻めるだけと思っていたが、アヤカシは隙に気付いた。 泣き続け、瞼を腫らして、必要以上の会話をする事も出来なくなった程疲れ果てた赤垂の姿。 アヤカシから取り除く事は不可能。あるのは死。 普段は隠している白い目を啓いて戦う日和がとっさに左目を庇う。見えているのは苞葉ではなく‥‥自身の過去‥‥ 動揺しているものの、その敵意に気付くと同時に日和はアヤカシの呪詛に狙われてしまう。 「くっ」 精神を取り込まれまいとし、日和が気を保つと、御門が式神を発動させた。 白く輝く白狐。 美しい姿とは裏腹にアヤカシの呪詛を食いちぎり、アヤカシの右腕を踏みつける。白狐を追うように緋束が更に左腕を刀で地に突き立てる。彼方が呪縛符を発動させて四肢を呪縛した。 「早く、終わらせるべきだな」 開いた扇子を頭上高く上げたオーラスが唱えたのはアークブラスト。 「‥‥すまない」 楓が白梅香でアヤカシ‥‥否、苞葉を送る。 斬った瞬間、楓が見せたその瞳は誰かに詫びるもの。それは誰へのものかは楓すら分からないだろう。 「‥‥兄ちゃん‥‥?」 周りを見回したのは雪原一家で保護されている赤垂。夏蝶は素早く縁側の障子を開けたが、そこには誰もいなかった。 安心した夏蝶であったが、振り向いた際に赤垂が首を傾げて夏蝶の隣にいた。 「大丈夫よ」 にこっと笑う夏蝶に赤垂はこくんと、頷いた。 「ごはんもちゃんと食べられたね。よかった」 「おいしかったよ」 夏蝶が作った食事は少なめではあったが、赤垂はちゃんと食べられた。 女っ気のない雪原一家にとって、美少女の作るご飯は郷里に置いて来た母のご飯にも劣らない。羨望の眼差しを受けては夏蝶も仕方ないとばかりに一家達の分も作る。赤垂の希望も含め、握り飯と味噌汁と卵焼きと胡瓜の塩もみだけであったが、一家達も大喜びで食べていた。 「夏蝶」 声をかけたのは楓だ。彼女が無事で戻ってきたという事は‥‥ 無念さを含めた憂い顔で楓が頷くように俯くと、夏蝶は察した。 首を傾げ、夏蝶を見上げる赤垂に夏蝶はしゃがみ込んで赤垂と目を合わせる。 「赤垂くんのお家教えてくれない?」 手を繋いで夏蝶が赤垂を連れて行き、楓は一度、頭を振って少し遅れて歩き出す。真実を話すと約束した。揺らいではいけない。 番屋に入った輝血と日和と御門は遺体と遺留品について尋ねた。 「引取り手が出てこなくて参ってね」 溜息をつく役人が見せてくれた遺体は見た目的にもよくない状態となっており、明日には無縁仏として埋葬されてしまう。 「‥‥探している人とは違うみたい」 粗方調べたが、赤垂が言っていた特徴とは違った人物だった。赤垂の話には左腕に大きな傷の話はなかった。 「曲物屋の職人までは分かってるんだけど、曲物屋が認めなくてね」 「え!」 役人の声は遺留品を見ていた御門達にも聞こえていた。 「どういう事?」 日和が尋ねると、役人は溜息をついた。 「暫く前に曲物屋の近くの飲み屋で喧嘩騒ぎがあってね」 「喧嘩の内容は?」 輝血が尋ねると、役人は連れが教えてくれなかったと首を振った。 曲物屋近くに来ていた彼方とオーラスは手分けをして情報収集に入った。 背が高すぎる彼方が戸を潜って店の中に入ると、店主は驚くが、彼方は気にせずに笑う。 入ったのは小さな小間物屋。 「そういや、近くの曲物屋に佐門とか言う曲物師がぁ、いなかったかねぇ」 「ああ‥‥最近見てないですね」 「最後に見たのは?」 「十日‥‥それ以上前ですね」 考え込む店主に彼方はふうんと、頷く。 「名前は忘れましたが、曲物師に何か言いがかりを付けられてましたよ」 「言いがかりだぁ?」 思い出したように話す店主に彼方が顔を顰めた。 「店の前で随分揉めましてねこの辺の人達ならよく覚えていますよ。佐門さんは奥さんを早くに亡くして、男で一つで育ててね‥‥」 痛ましそうに言う店主を彼方は視線を逸らした。 オーラスは飲み屋の方へ顔を出していた。少しくらい金を握らせばと思っていたが、どうやらそんな心配はなかったようだ。 「それでね、佐門さんがこうやって、広助さんの胸倉を掴んでねっ」 少しオーラスが話を振っただけで噂好きの女将さんが佐門と同じ曲物師の広助がこの店で揉めていた話をし出して、旦那である店主を使って再現までし始めた。 「それじゃぁ、佐門はその広助って奴と揉めていたのか」 「その場はね。元は千太って若い曲物師に広助さんが何かと文句つけてねぇ」 女将が溜息をつくと、オーラスが更に話を突付く。 「そう‥‥そういや、千太も見てないわよね」 女将と店主が言えば、オーラスは若い曲物師に何か特徴があったかと聞けば、左腕に大きな傷口があると言った。 珠々が曲物屋に忍びこんでいた。 術を使用していた為、感覚はいつもより鋭くなっていた。 屋根裏を出て、外に出ると、納屋の近くに出ていた。そこはまだ調べていなかったので、珠々はそこも調べようと忍び込んだ。 鼻につく異臭に気付くと、それが何なのか勘付いた。 「‥‥仕事が雑です」 それだけ言うと、帳簿の事も思い出し、恐れていた事と外れていた事に安堵した。 だが、この事態は深刻な話だ。 赤垂の家に着いた夏蝶と楓は家の中を見たが、質素な長屋住まいだった。 長屋の女達が開拓者達を物珍しそうに見ていて、その視線に気付いた楓が臆する事無く声をかける。 丁寧かつ、美形の侍に言われれば、女達は頬を赤らめて楓の質問に答える。 佐門の交友関係や何か揉め事はなかったかの質問に対し、女達は随分前からたまに若い曲物師を家に呼んで子供達と会わせていたり、若者の悩み事を聞いていてあげたようだ。 名前は知らないが、左腕の傷が随分と印象に残ったようだ。 「あと、この辺の子守唄はありませんか?」 熱心に伝えてくれる女達に楓はありがたいと素直に思った。自分の容姿に一因がある事は気付かなかった模様。 それぞれ情報を持ち寄った夕方。 情報を纏めると、確定したのは幾つかあった。 アヤカシは苞葉を取り込んでいた。 顔が潰れた死体は千太。 千太を庇って佐門が広助と揉めていた。 納屋に放り込まれた赤垂が言っていた父親の特徴が酷似していた事。 「これだけの情報があるなら、早く行こう」 「仕事が終わる時間だからな。頼むぞ」 日和が確信を得ると、オーラスが御門に声をかけて、御門は頷いた。 「全く‥‥悪はアヤカシだけぇでいいとはぁ、思うんだがぁ。こうなりゃぁ、あまり変わらんもんかねぇ」 溜息をついた彼方が言えば、珠々は俯く。 「早く、真実を話させに行こう」 輝血が急くように動けば、夏蝶が顔を上げる。 「捕物なら、手伝うわよ」 「いや、傍にいてやってくれ」 首を振る楓に夏蝶は頷いた。 ●真実を欲する 曲物の工房では仕事が終わり、曲物師達が帰りにつこうとしている。 りぃ‥‥ん 「うわぁ!」 一人が叫び声をあげ、誰もがその方向を向けば、最近見なくなった若い曲物師の姿があった。どこからともなく薄気味悪い鈴の音がする。 しっかりしたものではなく、どこかぼんやりしたそれは実体を伴っていなかった。 「せ、千太か‥‥」 誰かが呟いた。 「ば、化けて出てきた‥‥」 奥の一人が腰をを抜かして壁に背をぶつける。 「広助?!」 奥で腰を抜かしている男が声をかけられたが、広助と呼ばれた男はそれどころではない。 「ひろ‥‥すけ‥‥」 納屋から近い方から現れた男が立っていた。夕日の逆光でよく顔が見えない。 「ひ‥‥っ、佐門‥‥なんで、お前が、納屋に入れていたのに‥‥! だ、誰か!」 悲鳴を上げる広助に姿を現したのは緋束、彼方、御門。 「雪原一家!」 全員が緋束の姿に驚く。 「いやぁ、ちびっ子の為に一肌脱いだんだが、この先生がな、真実を明らかにする事によってこの魂達が浄化されるって聞いてな」 先生とは御門の事らしい。 「魂が穢れた嘘によってここに害をなそうとしております。この店の繁栄の為にもどうか真実を」 「店主は居らぬか」 朗々と楓が言えば、店主が慌てて姿を現す。この緊急事態に冷や汗をびっしり垂らしている。 「先生は縁のなきこの店を救おうとしている。御代はこの魂を救う真実。分かっておるな」 どうやら、助手役らしい楓が言えば、店主は焦点の合わない目で真実を並べ立てた。 広助は千太の実力がめきめき上げて自分より実力がある事に腹を立ち、随分と酷い事をしていた模様。千太はずっとそれに耐えていたが、ある日、佐門が広助にくってかかった。それがオーラスが聞いた酒場だ。 酒場で恥をかかされたと腹を立てた広助は佐門を別の日に納屋の前に呼びつけ、殴りつけた。気を失った広助は頭から血を流して死んでいた。動揺した広助は納屋の藁の中に佐門を隠した。 佐門の異変に気付いたのは千太だった。今まで大人しかった千太が広助に怒りを爆発した。工房の中での殴り合い。二十代の千太が有利と思ったが、千太の後ろから店主が殴りつけたのだ。 そして、店主がその場にいた全員に千太の顔が分からなくなるように傷つけるように命じた。もし、誰かに言うならお前達も道連れだと。 店主が殴ったのは、千太に取引している店との不正献金を見られていたからだ。 開拓者達は言葉を失った。二人の保身の為に三人の命が奪われた。 「本当なんだぁなぁ‥‥」 目を細める彼方に店主は必死に頷き、申し訳ないと何度も叫んだ。広助の方を向けば、その視線に怯えたが違うと何度も呟いている。 「俺ぇは心が腐った奴はぶっとばしたぁくなるんだ、殴られるかぁ、祟られるかぁ、素直にいうかぁ‥‥どれにするよ」 「そう言う事なら手伝うけど」 冷えた目の日和とオーラスが楓の脇を固めるように現れる。怒りを篭った視線を受け、広助は気を失った。 「役人を呼んでこよう」 オーラスが呆れて一度店を出た。 開拓者が出来る事は終わった。後は赤垂に真実を話す事。 誰が言うか決める事はなかった。全員が赤垂に伝える気だったから、皆で言えばいいという事になった。 赤垂は涙を零しながら、話を聞いていた。 「真実を伝えたいと場を整えてくれたのは緋束殿だ。この方の優しさを無にするな」 楓が厳しく言えば、赤垂はどうしたらいいかわからないと言う。 「あの、赤垂が悲しい思いをさせないようにどうか、支えてほしい!」 「僕からもお願いします!」 日和が頭を下げると、御門も倣う。緋束は答えず、赤垂の方を向く。 「俺達、雪原一家はもう、お前が家族と思っているんだが、お前はどうだ?」 「なっていいの‥‥?」 襖の向こうではハラハラ見守っている一家達の姿があった。 「お前次第だ」 「なりたい‥‥なるっ。みんなのやくにたちたい‥‥っ」 叫ぶ赤垂に緋束が笑うと、襖の向こうで喜ぶ声がした。 「堂々と喜べばいいのに」 夏蝶がそんな姿を見て苦笑を浮かべた。 「赤垂、笑っとけぇ…笑ってる男はぁ良い男だぁぜ?」 不敵に笑う彼方を見て、赤垂も泣きながら笑う。 夜、赤垂と寝る事になった輝血は戸惑いながらその温もりに自身の鼓動を感じていた。 自分も同じ音がする事を始めて確認できたのかもしれない。 廊下で見張る楓は自身の過去を思い出し、時の速さに苦笑した。 「夏とはいえ、夜は冷える」 オーラスと彼方、緋束が現れ、楓に冷酒を差し入れる。 「緋束殿は随分肩入れをなされてたな」 楓が酒を飲むと、緋束は自分もそうだったと笑った。 孤児だった緋束に飯を与え、家と家族と名を与えたのが先代の雪原だったらしい。 「家族は多ければ多いほどいいもんだぁ」 「お前さん家みたいに華やかではないがな」 「嫁はやらん」 「自分で何とかする」 一家を纏める当主同士の話を聞きつつ、オーラスが笑みを浮かべる。いつかは自分もそんな風に家族を持ちたいと思いながら。 |