|
■オープニング本文 武天の休みを終えた羽柴麻貴は武天の土産を持って理穴へ戻っている。 いつもの喧騒へ戻る為に。 実家へは戻らず、即座に監察方の役所へと向かう。 「麻貴殿」 監察方の門から出てきたのは麻貴の知り合いである小林春九。 「春九殿! その怪我はなんだ!」 麻貴が春九と呼んだ男は額に包帯をしている。 「‥‥下手を打った‥‥」 苦く笑う春九に麻貴は厳しい顔をする。 「確か、あなたは護衛方の役人。お偉方が襲われたのか」 「否、襲われたのは我々護衛方」 「こめかみと肩か」 麻貴の見立てに頷く春九。 「相手は弓を扱う志体持ちだろう。私は暫く戦線離脱する」 「そうか‥‥後は任せろ」 「真神様が君につかせると言っていた」 それだけ春九が言うと、麻貴は見送りをせずに中へ走った。 副主幹の部屋へ走り、戸を開けると、副主幹二人が麻貴を見て驚いていた。 「もう帰ったのか」 「はい。長らくの留守。申し訳ありません。先程、護衛方の春九殿より話を聞きました。仔細を教えてください」 休暇を楽しんだ姿はもうなく、麻貴は理穴監察方第四組主幹の貌を見せる。 一方、理穴首都より三日離れた山間の村にいたのはカタナシこと上原柊真。彼は武天の片づけが終わり、理穴へと戻っていた。 火宵が報告の場所に指定した場所がその村であり、小さな宿で火宵は酒を飲んでいた。 「そうか、あの石屋は捕まったか」 「ああ」 「何故、殺さなかった」 嘲笑った火宵がカタナシを見る。 「仕留め損ねた」 肩を竦めるカタナシが喉を鳴らしてくつくつと笑う。 「仕留め損ねた‥‥かぁ。それはねぇだろう‥‥なぁ、理穴監察方第四組前主幹、上原柊真」 「!‥‥っ!」 名を呼ばれ、ぎょっとした柊真の目に飛び込んできたのは太刀の刃。 とっさに避けようとしたが、その刃を完全に回避する事は出来ず、刃が容赦なく柊真の腹に飛び込んできた。 「ぐっ」 腹を斬られ、柊真は逃げ出し、山の中へ駆け込んだ。その際に見張り役を何人か殺した。 真っ暗な道なき道を柊真は走る。 それでも柊真を追う音がする。逃げに逃げて一軒の山小屋に転がり込む。 「あんた、大丈夫か!」 「静かにしてくれ、匿ってくれ‥‥」 猟師の男は柊真を押入れの中に入れた。もう一人の猟師は直に明かりを消し、寝たふりをする。 闇の中、柊真は猟師に自分がかけていた銀の首飾りを猟師に渡した。 「これを、開拓者ギルドへ‥‥」 それだけ言って、柊真は意識を手放した。 脳裏に映るのはいつも意地と虚勢を張り、己の片翼を案じる愛しい女の姿‥‥ 三日も立たずに飛脚の手によって首飾りは開拓者ギルドに渡された。 「何コレ」 「銀だね」 「血がついてるよ」 職員達が手紙も何もないただの銀の首飾りに不審気に首を傾げている。 「どうしたの?」 一人の女性職員がひょこっと顔を覗かせると、目を見開いた。 「これ、どこから!」 驚く女性職員に別の職員が送り先を告げる。 「そこにいるのね。ちょっと、出かけてくるわ」 「え、白雪さん?」 白雪と呼ばれた職員は急いで監察方へ走った。 監察の役所に入っても見張り番には何も咎められなかった。 「真神君!」 副主幹の部屋に入った白雪は親しそうに副主幹の名を呼ぶ。 「白雪さん」 「上原君が危険みたいよ。麻貴ちゃんは」 梢一の前に置かれたのは確かに、柊真がここ二年つけていた首飾りだ。 「白雪さんじゃないですか。お久しぶりです‥‥それは」 ふと、麻貴は首飾りに視線を移し、絶句した。 「麻貴‥‥お前のだな」 「‥‥見間違えません」 元は麻貴の物。二年前まで肌身離さずつけていたものだから間違いようもなかった。 「依頼を頼みます。依頼はカタナシこと、上原柊真の保護!」 「麻貴ちゃんも行くの?」 しかと頷いた白雪が言えば、麻貴は首を振る。 「私は仕事があります。あの人はそう簡単には死にません」 「わかったわ‥‥」 白雪がギルドへ戻ると、梢一が麻貴の方を見た。 「いいのか?」 「‥‥あんな所で死ぬ男は要りません」 麻貴の顔はよく見えなかったが、心配している事を悟られないように気丈にしているようであった。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 「そうか」 ギルド職員の白雪より事情を聞いた開拓者の一人である沢村楓(ia5437)はそっと黒曜の瞳を閉じた。 「果たして泳がされていたのはどっちだったのか」 艶麗に氷蒼の瞳を細め、黒絹の手袋で口元を奥ゆかしく隠すのはフレイア(ib0257)だ。彼女の言葉はもっともだ。素性を隠し、目的を追っていたのにも拘らず、返り討ちにされたのだから。 「‥‥それでも、絶対に助け出します」 辛辣ではあるが、正論を言うフレイアの言葉を耳にして珠々(ia5322)はぎゅっと拳を握る。 驚いたように目を見張ったのは紫雲雅人(ia5150)だ。 シノビが絶対などと言わない。教育を仕込まれたと思われる珠々が口にする事に驚き、そしてふと、唇を緩めた。 「あの人の虚を突ける相手なら仕方ないでしょう」 雅人が珠々に声をかける。 「我々は先に行くよ。白雪君、後発組の馬を頼む」 荷物を背負いながら冥霆(ib0504)が白雪に声をかけると、馬はもう用意してくれていたようだ。冥霆は自ら率先として荷物を引き受けた。 「輝血さん、道中お気をつけを」 御樹青嵐(ia1669)が輝血(ia5431)に声をかけると彼女はもう、先を見つめている怜悧な玄きシノビへと貌を変えていたが、青嵐の声に反応するように彼を見た。 「青嵐、麻貴に伝えておいて。絶対連れ帰るからって。麻貴を泣かしていいのはあたしだけなんだから」 輝血はあまり人を真正面から見ないような気がする。このように真剣に見る眼差しなんて‥‥ 「分かりました。必ず伝えます」 頷く青嵐を見て輝血は踵を返した。後姿を見送る青嵐の表情は少し困ったものだ。 「青嵐様?」 きょとんと滋藤御門(ia0167)が首を傾げると彼は苦く笑う。 「なんだか悔しいと思いましてね」 「‥‥人は成長するものだ」 青嵐の言葉を理解している楓が言ったのは輝血の事だけではない。加速しだす想いに違うと心の中で拗ねて、監察方へ向かった。 ●目的を果たす 理穴監察方の役所に着いた御門、青嵐、楓は四組主幹の部屋へと向かう。 「あら、いらっしゃい」 廊下で声をかけたのは沙穂だった。 「沙穂さん、お加減はよくなりましたか」 「ええ、この間は助かったわ。今回もお願い。麻貴は大部屋にいるわ」 抑揚のない沙穂の口調なのは生来のもの。特に気にしない三人はそのまま大部屋の方へ向かう。大部屋はいつも組員達が出払っていてあまり人はいないのだが、今日は珍しく賑わっていている。それほど今回の事に人員を入れている事だろうか。 目的の人物である麻貴は真ん中の大きな一枚板の机の上に地図を広げて他の組員達と話していた。手には海老の天ぷらをさつま揚げで巻いてその場でもりもり食べている。 「麻貴様」 御門が声をかけると、頬袋一杯に咀嚼する麻貴が三人に気付いた。 「リスか何かですか‥‥」 呆れる青嵐の言葉は尤も。良家の姫とは思えない。御門が気を利かせ、近くにあった麦茶を麻貴に渡す。 「いや、すまなんだ。食事を取る暇もなくてな」 「ちゃんと寝てくださいね。身体を壊しては輝血さんが困りますから」 青嵐が言えば、麻貴が不思議そうに首を捻る。 「貴女を泣かせていいのはカタナシさんでもなく、自分だと彼女が仰っていたので」 みるみる目を見開く麻貴だったが、ぶふっと、噴き出して爆笑しだす。 「あはははは! そう来たか! そうか! 私は幸せ者だな!」 一頻り笑い終わった麻貴が指で目尻に浮かぶ涙をふき取る。 他人にしてやるという事を知らぬはずの輝血が麻貴にそこまで言わせたのだ。 「輝血の目的は果たされたな」 麻貴の涙を見て楓が口元を緩めると、直に引き締める。 「仕事に入ろうか」 楓が言えば、麻貴は三人に地図を見せた。 ●二人の一つの死 ちゃんとかえってくるから‥‥! そう、心に秘めて輝血は進む。距離を縮める為に完徹と早駆を使って。 冥霆と珠々も同じように使い、道を急ぐ。そうでもしなければこの長い道を駆け抜けられない。どうにか一日で着かなければならない。 この依頼を受けた時、何人かは麻貴とは付き合いがある者達は二つの死を危惧していた。 一つはカタナシの死。これは命そのものの死。 もう一つは麻貴の死。彼を失った事への心の死。 防ぐ為に一つの死を留めに行かねばならない。 「少し休もう」 ほんの少しの休息は必要だが、三人は歩調を弱めるだけ。負担にならない程度の速度で歩き、水分補給をを行う。 急がなければならない。 目的の山まであと少しだ。 「さて、そろそろ目的の山が見えてきましたね」 馬に乗っている後発組ではあるが、シノビ達の脚力には敵わない。 「大事な証人ですからね。早く引き上げなくては」 あたりを警戒しながら言うフレイアは柊真を連れ出す算段を考え始めている。雅人は前を見据えている。 「そうですね」 雅人の脳裏に映るのは宴の席で見せるあの楽しげな麻貴の笑顔。柊真の代わりに四組を守る立場だからこそ、笑顔を見せなくなったのは容易く考えられる。 一方、監察方の方ではいつもと変わらず働く麻貴を見て、御門が柳眉を顰めていた。 「ん、どうした御門君。花の顔が台無しだぞ」 視線に気付いた麻貴は御門に声をかけると、御門は麻貴の手を取る。ひやり冷たい麻貴の手に御門は悲しそうな表情を見せる。 「僕達の前まで気を張らなくて良いんですよ」 確かに麻貴は組を守る立場だ。組員の前で弱い所を見せては組員達が戸惑うだろう。だが、御門達は役人ではない。だからこそ、仕事だけではなく、自分達を頼ってほしいと御門は麻貴を見つめる。 「君は本当に人の痛みを分かる子だな。故に、その心を守りたくなるのだ」 仕事場だというのに嬉しそうに笑う麻貴を見て楓と青嵐はそっと微笑む。麻貴の笑顔こそが、彼等への信頼だと分かったからだ。 「しかし、羽柴さんいつから寝てないのですか?」 青嵐が言えば、麻貴は指を折り始める。 「‥‥手刀でもかませば寝そうだな」 手刀の振りをする楓に危機感を感じ、麻貴は仮眠してくるとそそくさと部屋を出た。 「麻貴、仮眠に出たの?」 「ええ」 沙穂の問いかけに青嵐が頷く。 「そう、よかった。あの子、いつもあまり寝ないから」 ぽつりと呟く沙穂の声は少しだけ寂しげだった。 「次の通り魔の予測だけど」 「多分、この通りを歩く者だと思う」 楓が指差すと、御門が顔を上げる。 「沙穂さん、監視と追跡をお願いします」 「この茶店の二階なら死角になると思います。私ならそこを狙います」 とんと、青嵐の指がある店を指す。 「じゃ、その辺で。もう少ししたら麻貴起こしておいて」 沙穂はそういうと、大部屋を後にした。 ●追う死 先発のシノビ達が山へつくと、幾つかの違和感がある物に気付き、それを辿っていった。 「もしかして‥‥開拓者か」 通りすがった男が言えば、輝血が頷く。だが、柊真を追う追っ手かも知れず、三人は警戒を弱めない。男が辺りに気を使いながら三人を案内する。 小さな山小屋の中へ入ると、そこには布団の中で上体を起こし、苦無を持っている柊真がいた。三人が発していた殺気に気付いたのだろう。 「少々、過敏になっているようだけど、シノビだけあるね」 くすりと笑う冥霆であるが、見た事がある輝血や珠々を見た柊真はほっとした顔となる。 「冥霆、先に寝といて」 輝血が冥霆より荷物を受け取ると、彼は部屋の隅で休息を取る。 「タマ、さっさとやるよ」 珠々が柊真の傷口を確認する。腹を横に裂かれていたが、大事な臓器には傷つかないような斬り方であり、洗練されたその太刀傷が火宵の者である事を直感させられる。 一応は血は止まっているようだが、まだ血が滲んでいる。 傷口を綺麗にし、止血剤で血を止め、血で汚れた布を取る。向かう際に輝血が採った薬草をすりつぶしたものを湿布として患部に当てて白い包帯に巻く。 応急手当を終えた柊真はゆっくりと息を吐いた。 「あんたに死なれたら腹立つのよ」 手当てを終えた輝血が柊真を見下ろす。 「‥‥困るとかなら分かるが、怒られるのか‥‥俺は」 力なく笑う柊真に輝血はそっぽを向く。 「麻貴も沙桐も泣かすのはあたしだから」 「二人が聞いたら‥‥幸せ者だと笑うだろうな」 更にご機嫌を損ねた顔をした輝血は柊真の寝顔を見ていた。 「輝血さん、休んでください」 珠々が輝血に声をかける。輝血が起きる番になれば後発組の治癒を柊真は受ける事が出来るだろう。それまで輝血が冥霆の隣に座り、目を閉じた。 ふと、肌を撫でる優しい風に気付いた輝血が目を啓くと、視界に入ったのはフレイアと雅人だ。 「ああ、おはようございます」 輝血と目が合った雅人が目礼すると、柊真の前に膝立ちし、神風恩寵をかけていた。 「随分と手酷くやられていたのですね」 フレイアが言えば、輝血は頷く。 「斬った奴がどんな腕前か分かるよ。斬り慣れている。人がどうしたらギリギリ生きれるか全部計算して斬ったよ」 言い切った輝血を見たフレイアは視線をずらして雅人に治癒を受けている柊真を見つめた。 ●狙う影 襲撃はお偉い方の出かけ帰り中の護衛を人通りがあまりない場所を狙うというのが特徴。場所は全て違う場所であり、同じ場所はない。 怪我人はいるが、死者がいないのも特徴。 開拓者達は丁度いい場所を予測し、人魂や心眼でそれらしき人物を探している。監察方四組はそれぞれの場所で張り込みをし、襲撃に備えている。 先程青嵐が襲撃に使われるだろう茶屋を人魂で探りを入れるが、その場所はまだ誰もいなかった。 「まだ来ていないだろうから、待つべきだな」 心眼を使い終えた楓も同じ結果だった。御門は護衛の中に混じって、事態に備えている。 「まだ、時間はある」 麻貴が弦の調整をしている。いつもは刀を下げているので、少しだけ不思議な感じがある。 それから暫し時間が経つと、予測されている護衛官やお偉い方が現れるという印である御門の式神が見えた。 楓と青嵐が再び術を発動させる。 青嵐が予測した場所で悟られないように弓を構える男と姿があり、楓はその周辺に刀を抜こうとしている男達の姿を見た。 「羽柴さん!」 青嵐が叫び、楓が走り出す。呼ぶ声に反応し、麻貴は弓を引き、青嵐の式神のすぐ下を狙う。監察方の面々も、開拓者達の動きに反応し、麻貴の矢を追って沙穂が中に入り込んで確保する。 敵は分かっているのだ。何度もやれば役人が動き出す事を。 知らぬ前に尾行していたのだ。御門は先の騒ぎに気付くと、斬撃符にて背後の敵の肩を狙う。 「何事か!」 驚くお偉い方だが、御門はその美貌で優しく微笑み、なんでもないと言うと、こくりと頷いただけだった。御門達がその騒ぎの場所に着けば、何事もなく、人通りがあまりない道なだけだった。 物陰に隠れた麻貴が茶目っ気たっぷりに片目を瞑り、成功を報せる。監察方は影の部署。表には出ない役人達である事を御門は思い出していた。 道の奥では、澪を抜いている楓が男達を見据えていた。 「火宵め、話が違うではないか」 呟く楓の言葉に男達は何の事か分かっていないようだ。 「お前、仲間なのか!」 横から聞こえたのは麻貴に射られ、沙穂に拘束された弓使いだ。 「どうやら、火宵の名を知るのは、組織の中でもある程度の地位が必要なようだな」 刀を鞘に収める楓が言えば、男達は監察方の面々に連れて行かれた。 「事情は役所で聞いた方がいいですね」 溜息をついた青嵐ではあるが、麻貴が最後まで見送るというので、青嵐と楓は麻貴を追った。 ●忍び寄る 柊真のある程度の治療を終えた開拓者達は猟師にお礼を言って、山小屋を出た。 猟師達は笑顔だった。この土地柄、こういう事は多々ある。思い出せば、応急手当も荒っぽかったが、中々的確だったと珠々と輝血は思った。 そろそろ奴等は嗅ぎ付ける事だろう。 傷が塞がったとはいえ、体力がない者を馬に乗せるのは良策ではないので、柊真を担ぐのは冥霆。荷物の類は雅人の馬に括りつける。 ぴくりと、輝血の肩が震える。殺気と音が聞こえた。 「先に行って」 前衛であり、殿を守れるのは輝血だけだろう。 「タマ」 輝血が言えば、珠々は輝血の冴え光る瞳の瞬きを察知し、頷く。 フレイアが氷の魔法の地雷のルートを伝え、皆は先に行った。 「気をつけて」 少し離れて雅人が言うと、輝血は一つ頷いた。 輝血が猟師の家から離れ、迎撃する。猟師の彼等は何の罪もない。 敵はそろそろ来る。 早駆を使って来ている。超越聴覚を使っている輝血にとって、手に取るように分かる。 五つの音。 戦う気はない。殺すだけだ。右手にある針短剣は戦う為にあるものではない。 「絶対‥‥生かす」 輝血が待ちきれないように走り出した。奴等が散開しない内に倒すためだ。 黒い影達の一つを輝血は刺した。すぐさま輝血は体の向きを変えるが、影は輝血を交わしてその先を追った。 意外にもよく躾されているシノビだと輝血は心の中で思った。 目的以外には興味を示さず、例え、仲間が殺されても動きを止めなかった。 追う輝血がもう一人を倒すが、二度も同じ手を喰わないといわんばかりに輝血の手を払ったが、ただでは転ばない輝血は影を思い切り蹴飛ばす。 一気に冷気が立ちこめ、影が冷気に拘束される。フレイアが仕掛けた罠だ。教えてくれた場所に影が入っても発動しないのは時間が経っているからだ。 「ぅあ!」 更に食掛る輝血に影達が動き、輝血の肩に刀で斬った。 「絶対に行かせない」 静かに告げる輝血が影を睨みつける。 「その通りです」 艶やかな仲間の声と共に珠々が影の一つを斬り、フレイアがブリザーストームを発動させ、目くらましとする。その隙に開拓者達は逃げ出した。 「一人くらい捕まえたいですが‥‥残念ですね」 走るフレイアは新しくフロストマインを仕込み、最後の影の足止めをした。 ●休息 山を降りた開拓者と柊真は麓にいた人物に驚いた。 「檜崎さん」 雅人が言えば、檜崎は挨拶もそこそこに柊真に頭を下げると、すぐに六人を止めていた馬車の荷台の中に入れ、後発組がつれてきた馬を荷台と繋ぎ、すぐに出した。 「何故、私達の事を気付いたのですか?」 フレイアが尋ねると、檜崎は溜息をついた。 「四組全員の意向だ。さぁびすってやつだ」 「馬に乗せるよりは楽ですが」 珠々が柊真に毛布を被せている。冥霆は流石に人ひとり担いでいた為、体力の消耗が激しく、息を整えるのに大変そうだ。輝血は雅人に治療を施している。 「すぐには奏生へはいけないだろうから、療養も兼ねて近くの村で休ませる」 檜崎の言葉に誰も異を唱えなかった。 疲労で誰も口を開かなくなっていた。 「あたし、何してるんだろ。ばかみたい」 ぽつりと、輝血は呟いた。 |