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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 時は少し遡り、満月が過ぎ月が半分になった頃の事。 理穴監察方第四組組員である沙穂はその場を抜け出した。 抜け出して屋根の上に退避すると、屋根の上に座り込んで下の様子を眺めていた。 「きっと、小火騒ぎで終わってこの後、遊女の顔が潰れてる死体が上がるのよね‥‥」 ぼんやり眺める先にいるのは、繋ぎ役の遊女が脱走しているところ。 遊女には迎えが着ており、遊女は嬉しそうな様子だ。表情は無表情でも。その相手がどのような相手かは沙穂にははっきり分からないが、迎えは短髪に紫の目の男。店の正面からではなく、窓から侵入し、明かりを蹴り、逃げ出したのだ。 沙穂は立ち上がり、後を追う。二人が入った先は住宅街の一角。 忍び込んで様子を伺うと、気配は今の所は五人。 「戻ったか」 「ええ、火宵様がお迎えになるなんて驚いたわ」 声をかけたのは前回、沙穂達に気付いた男の声。 「あのままだとお前が危険だからな。駒は傍に取っておくに限るな」 学習したとばかりに火宵が伸びをしながら喋っているようだ。 「私は大丈夫ですっ」 反射的に女が言えば、火宵はその意図を汲んで違うと言った。 「お前の腕が心配じゃねぇよ。俺が困るからな。お前は傍にいておけ」 笑みを含む火宵の言葉は女を信じているようだった。 「‥‥はい」 「新月前にお前が戻ったし。とりあえず、身体休ませて襲撃に備えろ。ここにいる限り、監察方は手を出さないからな」 見え透かされたような気がした沙穂は抜け出した。 床下の気配が消えた事に気づいた火宵はふっと、笑う。 「火宵様?」 伺うように女が声をかけると、火宵は外を向く。 「お前が気付かないのは、第四組の沙穂だろうな」 「‥‥っ!!」 女が外へ飛び出そうとすると、火宵が止めた。 「いいじゃねぇか。カタナシの所でやりあおうってハラだ。楽しくなりそうだなぁ」 笑う火宵に一人の男が言葉なく頷く。 「月がいる所じゃ、逢瀬もおちおちできねぇよ。新月だからこそ、全てが闇に溶ける」 ああ、狂おしい 監察方に戻ってきた沙穂が見たのは若手に問い詰められている麻貴の姿。 「どうして、僕達も警護に回してくださらないのですか!」 「君には、上弦の宴の襲撃者の身元判明の調査を頼んだはずだ」 毅然と答える麻貴に若手青年は怯まない。 「確かにそうですが、僕だって実戦経験はあります!」 「経験云々の話ならば、君の調査能力を私は買っている。だからこそ頼んだのだ。何より、護衛方との連携が上手くいっているのは君が護衛方と掛け合ってくれるからと聞いた」 少し穏やかさを含んだ麻貴の言葉に若手は言葉を詰まらせた。 「主幹、戻りました」 沙穂の声に若手青年は二人に会釈だけして去った。 「お疲れ」 「あのままでいいのか悩んだわ」 麻貴が労うと、沙穂は肩を竦めた。 「あの住宅街じゃ何しでかすか分からん。あそこにいる限り何もしてないみたいじゃないか。下手な被害は避けなければな」 「奴らより、無粋な連中がまたやってきそうだけどね。上原さん所には行ったんだ」 沙穂が話を返ると、麻貴はぴたりと止まった。 「‥‥行ってないのね」 「忙しくてな。それに、この間倒れて休んでいただろう」 「一日で現場復帰したのに?」 冷ややかな沙穂の言葉に麻貴は痛そうな顔をする。 「さ、行くわよ」 善は急げとばかりに沙穂が麻貴の襟を引っ張って行く。 いつも誰とも関わらないようにしている沙穂が積極的に麻貴を引きずる様はかなり見物だったようだ。 理穴郊外の上原家別邸では柊真が身体を動かしていた。 開拓者の治癒と長い期間の休養で随分と身体を休ませていた。 二年間、ほぼ緊張を伴った生活をしていて随分身体が疲れていたようだ。 そんな折の怪我と治療で随分と身体が楽になったようだと柊真自身が感じている。 「随分と元気そうですね」 静かな声が柊真の鼓膜を響かせて瞬時に柊真はその方向を向いた。 「麻貴‥‥」 羽柴を狙った上弦の宴以来、今まで馴染みの組員達がこの屋敷に現れたが、麻貴が現れたのは今日が初めてだ。 「随分と手をかけてくださったようで」 「沙桐が根を上げたか」 くくっと、柊真が笑うが、麻貴の表情は崩れない。 「四組も随分人が増えました。もう、貴方が戻る場所はないですよ」 「お前の隣は空いてるだろう?」 なんて、愛おしい女。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 警護先の上原邸に行く前に滋藤御門(ia0167)は一人、理穴監察方の方に向かっていた。 肌を撫でる冷たい風は御門の心の隙間を突く。気持ちを紛れさせる為に指先に息を吹きかける。 目的の人物である羽柴麻貴は自分の執務室で部下の沙穂と一緒に鍋をつっついていた。 「お腹は空いてないか? 寒かっただろう、食ってけ」 「麻貴の味噌鍋は温まるわよ」 二人が問答無用に座れと言わんばかりに勧めている。 「あ、はい‥‥」 世間話をしながら三人で鍋をつつく。勤務中なのだから酒は飲んでないが、団欒のようで、御門は目的を忘れそうになる。 「あ、あの。麻貴様は上原様の護衛に参加されるのですか?」 御門の一言に麻貴は困ったような顔をした。 「入っていいのだろうか」 「勿論です。警備をしながら一緒にいてあげて下さい」 御門が言えば、麻貴は支度をすると言って、執務室を出て行った。 「君は、いい子だね」 麻貴が出て行った後、沙穂が御門に言った。 「‥‥麻貴様の笑顔が見たいだけです」 「そう」 沙穂はそれだけ言って空になった土鍋に取皿なんかを纏めて入れて部屋を出た。 上原邸に先についていた開拓者は上原邸で色々と見回っていた。 「なんだかまどろっこしい」 そう言い捨てたのは輝血(ia5431)だった。 「何がだ」 眉を潜める柊真に輝血がギロリと、紫の瞳を向ける。 「とっとと、麻貴と既成事実の一つや二つでも作ったら?」 紫の瞳に睨まれても柊真は気にする事無く笑っていると、庭の方から珠々が柊真を呼んでいた。 「その辺は、ご想像にお任せするさ」 立ち上がった柊真がのらりくらりと輝血の言葉と視線から逃げた。 「戸板を隠したいのですが」 珠々(ia5322)が柊真に言えば、適した場所をすぐに見繕ってくれた。 「ああ、この対角なら狙撃されにくいですね」 別働隊も危惧する雅人納得する。開拓者の提案に柊真が部屋を教えてくれた。 「何に乗じてくるか分からんからな」 国学書を手にした沢村楓(ia5437)が言えば、紫雲雅人(ia5150)が頷くが、その様子はちょっとうんざりしているようにも見える。柊真がそれを指摘すると、雅人は溜息をついた。 「‥‥最近、公平な目で見られるか、今まで以上に気にしている自分がいるんですよ」 「麻貴が原因か?」 「視野が広がっていく気分はしますけどね」 あえて雅人は原因を口にすることなく笑う。 「羽柴さんの性格はカタナシさんに一因あるそうですけどね」 「葉桜によく叱られたもんだ」 くくっと、喉で柊真が笑う。最近、柊真の呼び方を切り替えし辛いと思ってる雅人だが、柊真の方は大して気にしていないようだった。 「襲撃してくるとすれば、以前のようにシノビの者主体で来るでしょうね」 フレイア(ib0257)の予想に柊真が頷く。 「だろうな‥‥繋ぎを連れ出したとすれば、側近に近い手駒を連れてくるのは確定だ」 「随分と相手も危機管理意識が薄い事ですね」 側近を手放すという事にフレイアは柳眉を顰めた。 「まぁ、あの繋ぎのシノビ‥‥未明だったかな。後は沙穂に気付いた曙は確か心眼を使えるから志士のはずだ」 「その二人は火宵と来る事は確定って事でいいかな」 見回りを終えた冥霆(ib0504)がふわりと、地に降りる。 「後は見張りと思えるシノビ達でしょう。先ほど、人魂を飛ばしたらいませんでしたからね」 御樹青嵐(ia1669)が中から出てくれば、そろそろ中へ声をかける。警戒中とはいえ、外にいては体力を消耗する。 「しかし、噂を流さなくても大丈夫なのですか?」 「火宵の事だ、馬鹿正直に新月の夜に来る。あいつは黙っている事が多いが嘘だけはつかん」 「でも‥‥」 顔を曇らす珠々に柊真はひょいと珠々を片腕で抱き上げる。 「軽いなー、人参でも食わせればデカくなるんじゃないか?」 天敵の名前を出された珠々は抱き上げられた事もあり硬直してしまう。どうやら柊真は誰かから聞いたようだ。 「あんなものがなくても大きくなれます!」 「いや、食えよ」 玄関から繋がる縁側から姿を現し、冷静な一言を告げた麻貴が御門に連れられて来た。 「では、何か温かい物を作りましょう」 青嵐が台所へと向かった。 日が落ち、辺りが暗くなれば、全員が臨戦態勢となる‥‥が、珠々は硬直状態。前は麻貴の膝に座っていたが、今回は寒いと言う柊真の膝の上。 「まるで親子のようだな」 くすりと笑う麻貴に珠々は居心地悪い。 「麻貴さんだって、おとうさんにこうされていたじゃないですか!」 負けじと叫ぶ珠々に麻貴はうぐっと、言葉を詰まらせる。 「珠々君と変わんないくらいだったね」 警戒につく冥霆が御門と部屋を出る間際に言葉を放ると、麻貴はだんまりとなった。 「じゃぁ、俺の子供になるか」 柊真の言葉に珠々はびっくりしてしまう。 「いいんじゃない? 麻貴が母親になれば」 冷たく言葉を柊真に投げつけた輝血も青嵐と部屋を出る。町に出ればよく見る家族の情景を思い出し、珠々は困ってしまう。不謹慎にも早く火宵来ないかななどと珠々は思っていた。 「あいつは本当に友達思いだな」 微笑む柊真に珠々は泣かせる為に山椒をいっぱい入れるのが友達思いなのかと首を傾げる。 「まだまだわかんない事がたくさんです」 ぽつりと珠々は一人ごちる。 外の警戒に当たる楓とフレイアは組になり、一定時間にフレイアがフロストマインをかけなおし、その間、楓は心眼で警戒する。 フロストマインをかけなおし終えたフレイアが上を向くと、御門と青嵐の人魂が見回っていた。 「まだ、近くにはいなさそうだが‥‥」 シノビ達の耳はどうかはまだ分からない。 「輝血さん、くれぐれも無茶はしないでくださいね」 心配そうに言う青嵐に輝血は溜息をつく。 「青嵐は心配性なんだから‥‥あたしは麻貴とは違うんだから大丈夫だよ」 ぴくりと、輝血の身体が震え、何もない方向を見据える。その様子に青嵐が人魂を飛ばした。 別所にいる冥霆も気付いて御門の方へ声をかけようとすると、彼も冥霆の様子に気付き、人魂を飛ばす。 「珠々、明日の朝食は何を食べようか」 柊真が膝に乗せていた珠々をおろした。柊真自身も気付いていると珠々は悟り、人参が入っていなければなんでもいいと答え、近くにある筆を手にして紙に文字を滑らせ、雅人と麻貴に文字を見せた。 「仕方ありませんね。そろそろ食べられるようになってほしいのですが」 固まりかけた一瞬だが、雅人が笑った。 心眼を使っていた楓がはっと目を開けた。 「いかがされましたか」 フレイアが楓の方を向けば、だらりと下に降ろしていた疾風を徐に持ち上げる。 「しゃがめ」 静かに楓が言えば、フレイアはさっとしゃがみ込んだ瞬間、塀を越えて黒い影が動いた。 呼吸を止めるフレイアだが、楓は瞬時に息を吸い込み、手にした疾風に力を込めて思い切り振り回した。 疾風の鎌の切っ先より振動を感じたが、金属の振動は相手が間合いをとって飛び退る感覚を覚える。 「ははっ! 随分イイ歓迎だな!」 楽しそうな火宵の笑い声が上から降ってきた。今、奴は塀の上にいるのだろう。楓と間合いを取って着地した影が走り出した! 対峙する楓は即座に細く甲高い呼子笛で仲間に知らせる。 「出迎えは豪勢がいいんだけどなァ」 呼子笛の意図は一つとばかりに火宵が言うと、フレイアのアークブラストと御門の斬撃符が火宵目掛けて飛んできた。 「上原様には近づけませません」 麗しい顔を怒りに変え、御門がいうが、火宵はあっさりと二人の攻撃をよけた。 「前に出る、背中は任せたから」 呼子笛に気付いた輝血が飛び出し、青嵐にその言葉だけ置いて行った。 「‥‥っ! 輝血さん!」 驚く青嵐であったが、迫る敵は待ってくれない。目的の火宵はもう動いてしまっている。 火宵は柊真がいるだろう中へと走る。剥き身の刀はいつでも人を傷つけられる事が出来る。彼の前に影が動いた。暗闇に白鳥がぐるりと舞う。 刹那に刃が激しくぶつかり合う。 火宵がその手ごたえに笑みを大きくする。 「別に、カタナシがどうなろうといいんだけど、仕事だから守るよ」 静かに輝血が言えば、そのまま火宵の刃を弾き返した。 一瞬にして乱戦と化したその場所は闇夜の中では判別しづらい。 目を凝らし、御門が錆壊符を投げるタイミングを見計らっていると、目の前に気配がした。 「あら、可愛い顔をしているのね」 艶やかな声で女が笑うと、御門は一気に血が逆流するような寒気に襲われる。女の持っていた刃に錆壊符をぶつける。錆びゆく刃に女は驚くが、そのまま御門の腕に錆びた刃を突き立てようとする。 「‥‥くっ」 翻して御門が交わすが、数瞬遅く、御門の腕に赤い染みを作る。 即座に斬撃符を繰り出すが、腕の痛みで手元が狂い、女の肩に傷を与えるだけだ。尚も女は錆びた刀で御門に攻撃を繰り出そうとした時、御門の後ろから刀が伸びた。 「そこまでだ」 錆びた刀が弾いたのは麻貴だ。女は不利と感じたのかすぐさま間合いを取った。次来ると思ったが女ではなく、別の黒ずくめの影。麻貴が走り出し、影と刃を交える。 「麻貴様!」 御門が叫ぶと、麻貴は身体を伏せ、御門が斬撃符を影に投げつけると、影はよけきれる事ができず、そのまま攻撃を受け入れて倒れた。 「ご無事ですか!」 「ありがとう、助かった。女が柊真の方へ行った」 駆けつける御門に麻貴は頷き、御門を労わる。 楓は槍を持った男と対峙していた。 「曙と見受ける」 楓が言えば、寡黙な男は口元だけ緩ませたような気がした。 平正眼の構えをした二人は睨み合う。 刹那、楓の疾風に炎が走った。 黒い影に苛烈なまでに攻められ、冥霆は苦い表情の中に戦いにおける愉悦を感じ取る。 影は喋らず、邪魔者である冥霆を殺そうとしている。 「折角の愉しみなのにな‥‥」 間合いを取り、冥霆が後ろに飛ぼうとすると、影はぐんっと、早駆で間合いをつめて一気に苦無を振り上げる。 「冥霆さん!」 叫んだのは御門の声。冥霆の紅の瞳に映るのは一瞬にして錆びる苦無。 何とか肩を仰け反らせて避けたが、肩口から胸にかけて苦無が冥霆の肌を裂いた。 「ぐあ!」 「いけない!」 痛みを堪えきれず呻く冥霆を見た青嵐が走り、斬撃符を影に投げたが、影の太股をかするだけだった。冥霆はそのまま障子の向こう側‥‥柊真がいる部屋の隣室に吹っ飛んだ。影は尚も冥霆を追う。 体勢を立て直すように冥霆が少し後ろに退いた。 影が冥霆の心臓に刃をつき立てるためにもう一度苦無を振り上げたが、その苦無は冥霆には届かなかった。 「やっぱり、強欲には程遠いな」 闇霧の如く、冥霆が跳んだ。苦無は畳に突き刺さった。 一瞬の隙を跳躍した冥霆は逃さない。 「夢から、おはよう‥‥」 水の煌きは闇夜では消えてしまったが、刃は影に突き刺さった。 荒い息をした冥霆は影の状態を確信すると、そのまま膝をついた。 「なんという無茶を!」 叫ぶ青嵐が冥霆に治癒符をあてる。予想より深い傷に青嵐は苦い顔を見せた。 確実に火宵はこの影より強い。 ちらりと、青嵐が輝血の方を向いた。 当の輝血は火宵相手に剣を交えていた。相手が剣士ではなくシノビである事に感謝した。シノビなら手の内は見える。 刃の交じり合いは刀の毀れた欠片すら見えそうなほど激しすぎる。 火宵には余裕すら窺がえる。 ふいに、火宵が横から力を抜き、力んでいた輝血はがくんと、前のめりに空振りをした。火宵はその瞬間を逃さず、下から刀を振り上げた。 「‥‥!!」 声なき悲鳴を上げた輝血の脇腹から胸に傷が走るがそれほど酷い傷でもなく、輝血はすぐさま振り向くと火宵は奥の柊真の部屋へと走った。 「行かせません」 フレイアがアムルリープをかけると、火宵はくらり、と目を回すようであったが、奴は歯を食いしばるように隠し持っていた小刀を自身の太股に突き刺した。 「な!」 「無粋だぜ、淑女の癖に」 驚くフレイアを見て笑う火宵は更に奥へと走る。もう一つの影と共に。 「未明か」 目を細め、睨み付ける柊真に未明と呼ばれた女が目を見開いて隠し持っていた刀を抜いて振り上げる。 「火宵様に楯突く者は全て殺す!」 「誰に言ってるんですか」 愛らしく冷たい声と共に未明に苦無が飛ばされた。寸でで飛び退る未明が見たのは闇に溶かされた穢れなき繊月の瞳。 未明は鼻で笑うと、そのまま柊真の方へ走る。先に仕事を終わらす為に。珠々がはっとした瞬間、火宵が早駆で柊真と剣を合わせようとしている。雅人が手の平に集めた白霊弾を火宵に当てるが、火宵は怯まない。 珠々は走り、未明の振り上げられる刃を柊真と雅人の目の前で自身の身体で受けた。 「珠々!」 その叫びが誰の物かわからない。未明の刃は珠々に刺さったまま。 「よそ見するな!」 火宵が叫び、柊真がその刃を受ける。 「息の根を止めるまで止まるな。鉄則でしょう‥‥!」 睨み付けられる未明は珠々の存在意義に刻み付けられた言葉に一瞬怯み、刃を抜いた。 「読売屋! 珠々を助けろ!」 麻貴が叫んで未明と剣を交える。 だが、すぐそばに火宵が柊真と戦っている。 「いいから」 もう一度言ったのは輝血。火宵に追いつき、柊真と一緒に追い詰める。 「あたしのお気に入りをどれだけ手を出すんだ」 雅人は珠々に駆け寄り、閃癒を施す。 フレイアがもう一度火宵にアムルリープをかけようとした時、異変に気付き、振り向いた。 間合いを計り合い、汗を垂らした楓と曙もその異変に気付く。 焦れたのは曙だ。 「『灯車紅葉』っ!」 その隙を楓は見逃さなかった。一気に踏み込み、間合いを詰めて槍を突き出したが、曙は何とか避けて火宵の方へ走り出した。 「火宵様! 奴らです!」 楓は曙を追う事無く、異変の方へ走ると、フレイアが追って来た。 フレイアが仕掛けたフロストマインに嵌った者がいたのだ。 すぐさま楓が心眼を使用し、見つける。 塀を越えた木に弓手がいる。 「フレイア殿!」 「お任せを!」 フレイアがアークブラストを楓が叫ぶ方へ放った! 木が揺れ、どさりと人が落ちる音がした。 「火宵様!」 未明も気付いたようで、何とか麻貴から逃れ、塀の方へと走る。 「ちっ、やっぱり来やがったか」 火宵が忌々しそうに輝血の手をとり、そのまま柊真にぶつけるように投げ飛ばし、間合いを取った。 「愉しかった。次は四組主幹としてだな」 またなと言い、彼ら三人は行ってしまった。 誰も追わなかった。追えなかったかもしれない。 誰もがボロボロだった。 「ありがとう、君達のお陰だ」 柊真が開拓者達に心からの礼を言う。 「仕事だから」 柱に背を凭れ、青嵐より治療符を受けている輝血が言った。 ぐちゃぐちゃの心の中を無視して輝血は目を瞑る。 楓とフレイアが監察方の面子と一緒に捕らえた別働隊の事情聴取に参加していると、治療に借り出され、御門の治療をしている檜崎が言った。 分かるのはもう少し後‥‥ |