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■オープニング本文 理穴首都の閑静な住宅地に住まう羽柴家には二人の娘がいる。姉は葉桜といい、妹は麻貴という。 上の方は嫁に行ってしまったのだが、奥方を亡くしてから一度も後妻を迎えていない父と仕事で忙しい妹の麻貴を想い、旦那と共に実家に住んでいる。 葉桜は母が理穴でも豪族の娘であり、親戚からもよく思われていた。許婚と言われている者と両想いになり、幸せな結婚生活を送れているが、妹は違った。 武天の豪族の父と理穴出身の母が駆け落ちし、乳飲み子であった双子の姉弟は武天の親族の勝手な判断により、弟だけを生かし、麻貴は殺される所を理穴の親族‥‥葉桜の父が引き取ってくれた。 葉桜は当時、母を亡くしたばかりであり、義妹となった麻貴を姉として母として接していた。 出自はしっかりしている麻貴ではあるが、他国の者の娘となれば扱いは冷淡なものであり、羽柴本家の血をしっかり持つ麻貴を利用しようとするか、抹殺を試みる者も多くいた。 まだ力を持たない麻貴を守るのは自分と幼馴染の梢一と柊真と父だけ。 麻貴は自分の無力さを憎み、武器を取り、己を鍛えた。そんな麻貴を葉桜はとても心が痛んだ。少しでもあの子を守りたいという気持ちから、結婚の際に麻貴の結婚が決まるまで実家にいたいと夫となる梢一に頼んだ。 彼もまた、葉桜の想いと同じく、羽柴の家に住む事を葉桜の父に申し出た。 それから麻貴は梢一と柊真が勤める理穴監察方の役人となり、仕事漬けの毎日となる。 柊真が第四組主幹を務めている時は、過労にかねない所で柊真が文字通り、猫のように麻貴の襟を摘んで家に送り届けてくれていた。 柊真が潜入捜査に乗り出してから、主幹となった麻貴は更に無茶をするようになった。 副主席である梢一が何度窘めても全く言う事を聞かない。四組を纏めなければならないからだ。地位が上がっても麻貴は前線を張っている。 過労で倒れた事だってあり、葉桜の心配は尽きない。 「梢一さん、上原家の別宅、お掃除しておきました」 「ああ、助かる」 本日の業務を終えた梢一が羽柴の家に戻っていた。 「麻貴は‥‥?」 分かりきっている事だが、つい、訊いてしまう。 「‥‥やりかけの報告書を終わらせるといってきかなかった‥‥」 梢一が言えば、葉桜が溜息をついた。 麻貴が仕事を頑張るのはいいが、もう少し自分を大事にしてほしいと思うのは夫婦揃っての事。 すこしでも休んで、精のつくものを食べてほしいと思うが‥‥ 「あ、そうだわ。梢一さん、麻貴にお弁当を持って行ってもいいかしら?」 「弁当?」 首を傾げる梢一に葉桜は頷く。 「自分から食べなければ、食べさせに行けばいいと思うの」 「あー、それもそうだな。ついでに四組の連中にも作ってやるといい。お前の料理は美味いからな」 微笑む梢一に葉桜は頬を染める。 「量が多いから、開拓者の方々にもお願いしようと思うの。いいかしら」 「かまわん、どうせ、お前の事だ。いつかはやると思ってたさ」 くすくす笑う夫婦はいつ、持っていくか楽しそうに話し合っていた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
玖堂 羽郁(ia0862)
22歳・男・サ
若獅(ia5248)
17歳・女・泰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ |
■リプレイ本文 依頼に応じた開拓者達は依頼人が待つ羽柴家に迎えられていた。 開拓者という仕事柄、地位の高い人間と会うのはしばしばあったりするが、やはり、大きな家を見ると、若獅(ia5248)はぽかんと見上げてしまう。 現れた葉桜は見知った顔を見つけて更に笑顔になった。 「わたくしは真神葉桜。どうぞ宜しくお願いいたします」 淑女と言うに相応しい麗女の姿の葉桜がおっとりと開拓者達に挨拶した。 「葉桜様とは雛祭りの宴以来ですね」 滋藤御門(ia0167)が笑顔で挨拶を返す。 「ええ、あの時はこっそりと皆様の艶姿を拝見させて頂いてましたの」 内緒と言うように葉桜が奥ゆかしく指先を口元に当てる。何の話かと白野威雪(ia0736)と楊夏蝶(ia5341)も話に入ると、男性陣も女装して宴会をやっていたと俳沢折々(ia0401)が話す。 「なんだか楽しそうな事をしてたのね」 「本当は私も入れてほしかったのですけどね」 お洒落が大好きな夏蝶にとって、こういった話は好きなのだ。 「麻貴から聞きましたわ。玖堂様のお作りになった料理は大層美味だとか」 そこで玖堂羽郁(ia0862)があれっと、首を捻る。 「麻貴さんって、腹が膨れればいいって言ってなかったっけ?」 「申し訳ありません。あの子、仕事になると生活能力があまりなくなってしまうのです。仕事中でも食事の大事さをわかってもらえたらいいのですけどね」 困った顔の葉桜を見て、雪が心配そうな表情となる。 「確かにそうですね‥‥」 「まぁ、麻貴さんが無理するのって、仕方ない事よね」 ぽつりと、夏蝶が言えば察した御門が困ったように笑う。 「あの方から預かった大切な部署と地位ですからね」 「なんにせよ、美味しいお弁当を作らねばなりません」 ぐっと、珠々(ia5322)が拳を握ると、全員が頷いた。 約一名だけ、別の意味で作るべきだと頷いた。 ●美味しい下拵え 依頼参加者の殆どがそれなりの調理ができるが、御門は元は良家の出であり、料理というものには縁がないらしい。 「葉桜様にご指導お願いできませんか?」 控えめに御門が言えば、葉桜は微笑んで頷いた。 「わたくしでよければ。何をお作りになられるのですか?」 「麻貴様の好きな物と考えています。何が好きなのか分からなくて‥‥」 「あの子はおぼろ豆腐と揚げと海老が好物なのですよ。甘いものなら、金平糖と月餅です。先日の月見饅頭はとても喜んでいたのですよ」 困り顔の御門に葉桜がにこやかに教える。 「麻貴ちゃん、温泉に連れて行った時、お握りより稲荷寿司を食べていたよ」 果物の皮を剥いていた折々が言葉を挟む。 「海老天が好きだったよ」 折々の隣で栗を剥いている羽郁も話に加わる。御門の記憶の中で先日、麻貴がさつま揚げに海老天を包んで食べていたのを思い出し、それを葉桜に話した。 「さつま揚げの具に海老もいれましょう。大きめに刻んで入れたらきっと喜びますよ」 「それと、南瓜の茶巾を作りたいです」 「わかりました。では、さつま揚げの下拵えからはじめましょう」 葉桜がさつま揚げの材料を選び出した。 御門達の会話を聞いていた若獅は首を傾げていた。 「麻貴サンって、月とか星とかが好きなのか?」 「前に、金平糖と月餅を持って行った時、とても喜んでいましたよ」 干物を持っている珠々が答える。 「ちょっと、聞いてみようかな」 ふむと考える若獅は粉を合わせて生地を練りだした。 一方、もう一人の葉桜の生徒である輝血(ia5431)は黙々と作り方を教えてもらい、見事な手さばきで里芋の下拵えを進めていく。 「まぁ、里芋を綺麗に剥いていらっしゃるのですね」 「別にこれくらいは」 無邪気に誉める葉桜を見た輝血は麻貴が時折見せる無邪気な表情を思い出す。 「‥‥麻貴と似てるね」 似ているというなら、沙桐の方がより似ている。葉桜と双子の顔はあまり似てなかった。 「そうですか?」 きょとんとする葉桜に輝血は頷く。 「麻貴はたまに葉桜みたいな顔をするから」 「そうですか、嬉しいです」 自分にはなくて、麻貴にあるものが何なのか輝血は胸の疼きで分かったような気がした。 勝手口を出てすぐ横に珠々が七輪の前にしゃがみ込んでぱたぱたと干物を焼いていた。 子供の珠々は里では食べられなかった憧れのご馳走を作るため。こっそりと師匠が作っている所を盗み見ていたから作り方はわかっている。 焼き上がった干物はよく脂が乗っていて、食欲が湧いてきそうだ。 身を大きめに解して、軽くいり焼きにしてゴマをひとひねりしてぱらりとかける。 里の大人達が酒を飲む時の定番おつまみのできあがり。 ふんわりと焼けた魚の香りとゴマの香ばしさが更に珠々の食欲をそそる。食欲の後ろから悪い囁きが聞こえてきそうだ。 「珠々ちゃん、ちゃんと進んでる?」 ひょっこり顔を出したのは折々だ。びくっと、肩を竦める珠々は悪い囁きを奥底に沈める。 「折々さんは?」 「ボクはもう終わっちゃったよ。それに、ボクは理穴監察方毒見役だからね。皆の事は信用してるけど、監察方の皆に何かあったら大変でしょ」 それはそうだと珠々が真面目に頷く。どこからともなく箸を取り出した折々はぱくりと、つまみ食いという名の毒見をする。 「おいっしーね! ホラ、珠々ちゃんも」 折々はもう一口を箸で摘むと珠々の口に放り込む。 「‥‥ご飯が恋しくなりました」 酒の味を知らない子供にとってつまみはおやつかご飯のお供である。 満足した折々が行けば、珠々の前を横切る一匹の蜂。 もう一つのご馳走を思い出した。 「玖堂さん、肉の脂身もらえませんか?」 「ん? いいよ。はい」 羽郁から脂身を受け取ると、ちょっと行ってきますと珠々は飛び出していった。 「珠々さん、どうしたのですか?」 初めての魚の三枚卸に挑戦した御門は珠々の後姿を見かけて羽郁に尋ねた。 「何か、ちょっと行ってくるって。すぐ戻ってくるでしょ。あ、三枚卸に挑戦したんだ。皮剥ぎも上手くできてるね」 「ありがとうございます」 料理上手の羽郁に誉められて、御門は緊張で赤くなった顔を緩ませ、嬉しそうに言った。 これから魚肉を細かく叩いてからすり身にし、豆腐と合わせる。具になる人参、牛蒡、葱、海老はすでに細かく切っている。 材料と調味料を全て混ぜ合わせ、球型でじっくり揚げる。揚げる作業は葉桜が行った。ぷかぷかと狐色になっていく薩摩揚げが御門は葉桜の後ろから覗き込んで眺めている。 揚げ上がった薩摩揚げを冷やし終えると、待ってましたと言わんばかりに折々が現れ、御門から一つ貰う。タレは酢と醤油とごま油を混ぜたもの。羽郁が即席で作ってくれた。 まだ中はほんのり温かく、口当たりがとても良く。細かく刻んだ野菜と大きく刻んだ海老の異なる歯ざわりがとてもいい。 「御門君はいいお嫁さんになるね!」 「きっと、白無垢も似合うわね」 満面の笑みの折々の言葉に夏蝶が更に言えば、全員が頷く。 「僕なんかより、玖堂さんの方が‥‥」 「あら、羽郁様は白無垢が愛らしく似合うお方がいらっしゃいますからね」 逃げようとする御門に雪がささっと、言葉を差し出す。言われた羽郁は頬を染めてあやふやな言葉を言いつつ、きちんとあく抜きをした牛蒡を醤油で炊いている。 「白無垢ならやっぱり、御門の方が似合うと思う」 餡を練っている若獅が畳み込むと、御門は諦めたとばかりに肩を落とす。 「んーっ、雪ちゃんのほうれん草の胡麻和えが絶妙!」 毒見役は任務を遂行中である。 軽やかに地面に足を下ろした珠々は出て行った勝手口の方に向かう。大事なご馳走をしっかり両手に抱きしめて。 「珠々ちゃん、お帰りなさい。ずいぶん泥だらけですね」 出迎えた葉桜が見たのは泥だらけの珠々の姿。無表情ではあるが、その瞳は得意げに爛々と輝いていて両手を差し出した。 「っ‥‥! そ、それは‥‥っ」 絶句する葉桜であったが、貴族の娘にして妻であるが、知ってはいるようだった。 「え! それを取りに行ってたの?!」 何事かと羽郁が顔を出せば珠々は頷く。 「はい、蜂の子です」 御門と雪が勝手口の方を向かおうとすると、慌てた羽郁と気を回した夏蝶が二人を奥へと促す。確実にこの二人は卒倒するだろう。 「珠々ちゃん、醤油と蜂蜜で煮ましょうね〜」 良家の娘だが、シノビである故に慣れている夏蝶が声をかける。 「麻貴さん、食べれますか?」 首を傾げる珠々に葉桜は頭をなでる。 「小さい頃の麻貴そっくり」 諦めの色が混じっていたのは言うまでもない。達成感いっぱいの珠々は何か嬉しそうであった。無表情だが。 辺りに夏蝶と羽郁が作った炊き込みご飯のいい匂いが漂っている。 里芋を茹でている輝血は勝手口の騒動を聞きつつ、後で分けてもらおうと決めた。 輝血が作っているのは里芋の煮っ転がし。 シノビである輝血にとっていつも修行と実践の記憶しかない。山や森に生える食べられる草や蛇や虫を食べていた。与えられる仕事に余裕などない。素早く的確に完遂する。それがシノビ、それが輝血の名を与えられた者の定めと記憶している。 だが、繋がらない記憶の断片にこれを作ってもらって食べたという記憶の欠片があった。何故か作れるのだ。 「輝血さん、いかがですか?」 葉桜が声をかけると、順調と返した。 「料理って、何か薬の調合と似てる」 ぽつりと呟くと葉桜は頷く。 「輝血さんは要領を得るのがとてもお早いですね。手馴れた者だと自分だけの調合をする薬師がいるでしょう。それと同じです」 「そうなんだ。後は何とかなるよ」 納得した輝血に葉桜は一人奮闘している御門へと向かう。後姿を見つめて輝血はふと、思いつく。 「麻貴だけの特別製を作ろう」 皆の分から麻貴の分を分ける。皆の分は折々に味見をさせて食べられる事を確認してもらった。輝血の手にあるのは手の平サイズの山椒。 (「麻貴の泣き顔はあたしのものだもの‥‥ふふ」) 一人作業をしていた若獅だが、興味を示した葉桜がこれは何かと聞いてきた。 「俺の故郷の食べ物のパオズなんだ」 「はじめて聞く食べ物ですわ」 「秦国の出身なんだ」 「まぁ、異国の方。遠い所から来てくださったんですね」 驚く葉桜に大げさと若獅は苦笑する。 「この練っている餡を小さく小分けした生地に包むんだ。こっちは甘い餡子を包むだろ。秦国は肉と野菜を練ったものを包むんだ」 「わたくしにも教えて貰えます?」 やる気満々の葉桜に若獅はちょっと照れた顔で頷く。あまり料理をしない者と初めて作る者が作るパオズはちょっといびつだが、これもまた愛情だ。 「後は蒸篭で蒸かすだけだよね!」 毒見役の折々は目を光らせて待っている。 「そうだ、出かける時に服を着替えたいんだ。いいかな」 「お召し替えですか? どんな服ですか?」 若獅が服の形を言えば、葉桜はちょうどいいとばかりに手を叩く。 「わたくし、友人より良い物を頂いたのです。丁度珠々ちゃんが湯浴みをしてますから」 湯浴みから上がった珠々が人参を食べるよりも先に悲鳴をあげていた。 夏蝶と羽郁は今回参加した開拓者の中で料理に関して二強と言える。 この二人が組めば二十人分のお握りは少々時間がかかるが綺麗に出来上がる。流石に大変だからと、雪も参戦する。 監察方は多忙を極め、持って行ったとしても、不在の場合がある。 飯は温かいものが一番だが、握り飯にすると冷えても美味い魅力がある。 山菜が芳るもの、季節の茸の香り、甘い栗の香り。それぞれが三人の手によってお握りにされていく。 ここでも毒見役は活躍した。 「できました」 南瓜の茶巾だけは自分ひとりでと葉桜の手助けを我慢した御門は見事に完成した。 でも、一つだけ葉桜の助けを貰った。 麻貴は兎型にすると喜ぶと。麻貴は月が好きだ。それに因んだ兎が更に好きらしい。空の月を見れば、遠く離れる双子の弟も見てると思うから、勇気付けられると。 御門は二つの兎を作った。葉を丸く形作り、目の代わりにする。 羽郁が主導の下で重箱の飾り付けが始まる。因みに葉桜は皆が来る前に先に作っていたそうだ。茄子とインゲンの煮浸し。油揚げに卵を入れて巾着煮にしたもの。 「なんで、こんな格好を‥‥」 風呂から上がった珠々は困った様子でいた。 「朱藩の友人が、いつか開拓者が来たら着せたらって、作ってくれたの」 薄桃の着物を大胆に膝上で切り、ジルベリアのスカートを膨らませる下穿きの一種を中に穿かせ、可愛い前掛けで着飾った珠々の姿。 「混乱させかけた罰かも‥‥」 冷静に夏蝶が呟いた。 ●有難く頂く! 折々が選んだ藍色に白抜きの兎柄の風呂敷にお重をつめて監察方の方へ向かうと、可愛い、美人、格好いい開拓者達の弁当の差し入れに四組は沸きあがった。 珠々と若獅の和製メイドと中華メイドコンビの服装も好評だ。珠々がなんだか涙目になっているのは気にしない方向で。 「ああ、もう、そんなに騒がなくてもちゃんとあるから」 羽郁が言ったすぐに人影が降りてくる。沙穂が無表情で全種類自分の分だけを取って行ってさっさと食べている。 「‥‥沙穂、報告‥‥」 呆然とする麻貴に沙穂は食べるのに夢中。 「麻貴様、僕が作ったんです」 御門が薩摩揚げを麻貴に差し出すと、麻貴は一口齧った。 「海老が入っているな。うん、美味い!」 好物に気づいた麻貴がにっこりと笑顔になると、御門はほっとすると同時になれないことでの疲れも出てきた。 「仕事も大事だけど、もう少し食材の事も考えるようにしてね」 羽郁が声をかけると、麻貴は困ったように笑う。 「麻貴ちゃん、食べ終わったら季節の果物が待ってるからね。ボクが丹精をこめて切ったんだよ!」 「ははぁ。つまみ食いでもしてたか」 「ボクは監察方毒見役だからね! 皆の事を心配したんだよ!」 いけしゃぁしゃぁと折々が言うと、麻貴は笑う。 「ん! パオズすっごくおいしー」 幸せそうに食べているのは夏蝶だ。 「麻貴さん、蜂の子食べられますか?」 珠々が言えば、麻貴は一つ摘んで食べる。 「昔、義兄上達と山に行った時に沢山取れて義姉上に見せたら、義兄上達が義姉上に怒られていた。普通の人は食べないらしい」 「そうなんですか。ご馳走なのに」 まだ一般人のズレがよく分かってない珠々は首を傾げる。 「麻貴、あたし特製の食べてみてよ」 「里芋の煮っ転がしか!」 喜ぶ麻貴だったが、特別という言葉に折々と輝血に懐いている若獅が麻貴より先にパクリと食べる。 二つの絶叫が大部屋に響き渡り、麻貴が山椒の匂いを確認。輝血を説教しようとするが、麻貴を離れて珠々に人参を食べさせようとして捕まえていた。 「輝血ぃ! 食べ物を粗末にするな!」 舌打ちをした輝血は説教を聴いても馬の耳に念仏。 「心配していましたが、元気そうでよかったです」 雪が葉桜に言えば、そうねと笑いかけてくれた。 「ご飯は皆と一緒が一番元気になれますから」 葉桜が言えば、雪は笑顔で頷いた。 |