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■オープニング本文 武天は此隅の花街にて、一人の遊女が身請けされる事になった。 元は武天の樽屋の娘であったが、親の事業の失敗と心中によって一人遺された。全ての借金を娘が背負う事になり、花街に売られてきた。 彼女は紅を差してないのにとても赤い唇をしているのと、本名にちなんで緋桃と名付けた。 緋桃として働き出した彼女は随分と自身の稼いだ金で返していた。早く返す事が可能だったのは、彼女を思う嘉月という酒屋の若旦那の存在があった。 幼少の頃から少なからず想い合ってきた二人は緋桃が遊女になってからも嘉月の気持ちは変わらない。 楼内でも二人の中はよく思われており、楼主もまた、二人を応援していた。 ようやっと身請けされるだろう事になったが、楼主や彼女と仲がよかった遊女達は一抹の不安があった。一番の緋桃の客であったのは嘉月であったが、他にも彼女を入れあげていた客がいた。 開拓者崩れで、現在はやくざ者の用心棒をしている。 緋桃の身請けの件を知った際、無言で立ち去っていったが、この男、何度か嘉月に突っかかってきたという事があった。どこからか、緋桃との仲を聞いていたのだろう。 もしかしたら、あの二人に危害を加えるやもしれない。 そう思うと、楼主は心配になってきて、一時期、店に入っていた架蓮とその主である鷹来沙桐に事情を手紙で伝えた。 緋桃とも仲がよかった架蓮はその話を聞いて人知れず楼主の所へ忍び込んだ。 「本来は鷹来家のシノビであるお前さんに頼むのはどうかと思うが…」 「いいえ、折梅様も沙桐様もその件は存じ上げておりますし、手伝う事を快く許してくださいました」 きっぱり言う架蓮に楼主がそっとため息を着いた。 「ああ、助かるよ‥‥」 「あの客‥‥小豆沢はどうやら、嘉月さんのお店周りを人を使って張り込ませているようですね。あのままだと、お店の信用にも関わりますね」 「そうなんだ。季春屋さんは結構な大店だからね。あの店の繁栄は緋桃の父親の死が関係するだけに、季春屋さんはきっと、あの子を守るだろうね。だけど、あの男を撃退しても、どうあがいてもあの子が遊女であった事は消えない‥‥」 遊女という存在は世間一般では歓迎されないもの。大店の若旦那の嫁が遊女であったという事は言われなき事も言われ、信用が落ちる事が大半だ。 それを理解している架蓮は言葉なく、目を伏せる。 「‥‥親父様、開拓者をお呼びしましょう」 「開拓者か!」 はっとなる楼主は以前、店に来ていた美しくも強い開拓者達の姿を思い出していた。 「奴はきっと、祝言を壊すかと思われます。それに、二人の祝言を快く思わない人達に二人がどれだけ真剣かという事を分からせるように知恵をお借りしましょう」 「そうだな。頼む」 ぱっと笑顔になる楼主に架蓮は笑顔になり、依頼を出しに店を抜け出した。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔 |
■リプレイ本文 季春屋に集まった開拓者達が口にしたのは「粋じゃない」という言葉。 確かに、花街で遊ぶ者なら誰しも粋である事を心掛けてしまうのが人の常。 「この度の件は私にしては美談と思うのですが、頭の固い人達が多いものですね」 嘉月と緋桃‥‥否、仙花にお祝いの言葉を述べてから溜息混じりに言うのはディディエ・ベルトラン(ib3404)だ。 「開拓者の皆さんは一般の方々とは違う経験をされているので、色んな角度から感じられると思いますよ。一般の方々とは自分が見る景色以外は全て偏見に満ちた風評を耳にして経験と勘違いするものなのですから、正しくない事が正しい事となってしまうのですよ」 「尾ひれ、背びれって言う事か。本当に恐ろしい事だな。全く粋じゃねぇ」 珍しく毒づいた言葉を口にするのは折梅だ。その言葉を聴いた黎乃壬弥(ia3249)が肩を竦めた。 「無粋もよくないが、粋でありすぎるのもよくない」 何事も中庸がいいと言うのは音有兵真(ia0221)だ。 「あら、好きな女の為に粋を求めすぎて空回る殿方なんか野暮で可愛らしいじゃないですか」 「確かにそうですわね」 心当たりがあるのか、くすりと、笑って折梅に同意するのは緋神那蝣竪(ib0462)だ。 「野暮もいいのですか?」 無粋はいけない事と覚えている珠々(ia5322)は野暮がいいという言葉に顔を顰めている。 「洗練されていなくとも、その行動に誰かの為という真心があるのは例え、みっともなくても相手の心に響く事があるのですよ」 「真心が大事なのですね」 折梅が優しく諭すと、珠々は心得たように頷く。 「相手が粋に囚われ過ぎると通じないのですけどね」 「ばぁ様、話をややこしくしないで下さい」 黒い笑みを珠々や彼方には決して見せないように優雅に袖で隠して笑む折梅に沙桐が襖を開け、部屋に入る。 「あれ」 目を瞬いているのは壬弥だ。折梅の孫は沙桐という者であるのは知っているが、初見だと思い込んでいたが、一度会った事があるような気がした。 「‥‥一度会った事あるんだけど」 壬弥の心を見抜いたのか、沙桐が言う。 「そうだっけか。似た顔は会った事があるが」 「それは麻貴さんでしょ。こっちは沙桐さんよ」 窘める楊夏蝶(ia5341)に壬弥は頭を捻ってる。 「何だ、天南の事しか覚えてないのか」 「若い娘しか覚えてないのは仕方ないよ、助平親父だし」 さらっと、お茶を飲んでいる輝血(ia5431)がキツい一言を放れば、壬弥が随分と肩を落として、彼方がまぁまぁと、壬弥を宥めた。 「でも、好きな人同士が祝言できるってすっごい事だよね! ボク、絶対に成功させたい!」 ぱっと、顔を輝かせた和紗彼方(ia9767)が思った事を口にする。この世界、好きという感情だけで夫婦となるのは難しい。それをよく知る開拓者達だからこそ、成功させたいと願う。 「ですが、風評については私達にはどうする事もできませんね。こればかりは二人の地道な努力で報われるものと思いますから。はい」 厳しいディディエの言葉は確かにその通りだ。二人も分かっているようで、思いつめているかのように頷いた。 「でも、きっかけは必要と思うわ。少しでも‥‥そう、ハクをつけてもいいと思うの。ただの遊女じゃなくてちゃんと行儀見習いしてるとか」 そんな二人の表情に夏蝶が切なそうに眉を顰める。 「折梅様の知り合いの良家にそういう礼儀見習いをお願いしてみたらどうかなって」 夏蝶の真剣な言葉に折梅はきょとんと、夏蝶を見つめる。 「あら、ウチじゃいけないのかしら」 全員が折梅を見やる。 「俺は構わないよ。少しの間でも娘が増えたらばあ様も嬉しいだろうし。仙花ちゃんと架蓮は既知だから安心できるでしょ」 にこっと、笑う沙桐に夏蝶は笑顔で頷き、仙花もまた、笑顔を見せた。 「あたし、普段は逆側なんだけどなぁ」 季春屋の二階の片隅で不穏な事を呟くのは輝血だ。窓から顔を出して見張りがどこにいるか確認している。 「こらこら、そういう事を言うな」 じとっと、壬弥が咎めるが、当人は気にも留めてない。 「当の小豆沢って奴はどんな奴なんだ」 壬弥達と一緒にいた嘉月と仙花に尋ねる。 「昔、開拓者をしていたと聞きました。身につかなくて、伝手で知り合った一家の用心棒をする事になったようです。私には優しかったのですが‥‥」 「仙花以外の遊女には興味はなかったようです。遊郭で他の女に手を出すのは法度ですけど、俺以外の仙花の客にも言いがかりをつけた事はあるようでしたね」 言葉が切れた仙花の代わりに嘉月が言葉を繋げた。 「随分と執着されていたようだな」 ふむと、考える壬弥であったが、男と女の間には一本では答えに結びつく事ができない事象がいくつもある。 「仙花さん、行きましょ」 用意を終えた夏蝶が仙花を呼ぶ為、部屋に入った。頷いた仙花が部屋にいた開拓者に挨拶をし、嘉月と一言交わして部屋を出た。微笑み合う仲睦まじい姿を見てその場にいた開拓者達は「ご馳走様」と心中で思った。 外に出た珠々と彼方は街娘の姿を周辺と探索中といった風体をしている。 ぴくりと、反応した珠々が小さな声で彼方に教える。 「あの、季春屋さんの若旦那、廓の遊女を身請けしたって話よ」 「ええ、あの若旦那が? 意外と遊んでいるのねー」 「真面目でいい男と思ってたんだけど‥‥」 お喋り好きなおばさん達がひそひそと噂話をしていた。珠々が聞きつけていたのはそのおばさん達の会話。 「季春屋さんのおはなし?」 ひょっこり話に加わる珠々におばさん達は驚く。 「お嫁さんはおみせの借金を逃げずに肩代わりして返した人なんだよね」 「ええ、そうだね」 「すごいよね。おみせの借金って、たくさんあるんだよね。逃げずに返したってすごいね!」 無邪気にすごいと言う珠々の言葉におばさん達はまぁ、それはそうかもと思う。 「もし、自分がそうなったら、全部返すってできないな‥‥お嫁さん、すっごく優しい人なんだよ。可愛くて、若旦那とすっごくお似合いなんだよ!」 もし自分の身にと、重ね合わせて顔を伏せる彼方であったが、仙花の話をする時はその時の優しさが伝わるように明るい笑顔となる。 「あら、そうなのかい?」 「うん! 二人とも、すっごく優しくて幸せそうに笑うよね」 「ねーっ」 仲良し姉妹のように珠々と彼方が顔を見合わせる。二人の笑顔におばさん達も少し興味が湧いている模様。 「そういや、最近、季春屋さんの周りに性質の悪そうな男達がいるわよね。もしかしたら、遊郭の客じゃないのかい?」 「やだ、ちっちゃい子達の前で何を言うんだい」 おばさんの一人が不穏な話を思い出すと、もう一人が咎める。 「それは大丈夫だよ」 事も無げに彼方が言えば、おばさん達は彼方の方を向く。 「二人の祝言の為に開拓者がお祝いに来ているんだ」 「すっごく綺麗なお姉さん達と格好いいお兄さん達が来てるんだよね。優しくて、すっごく強いんだよ!」 意外な存在におばさん達が驚いた。 ディディエは架蓮に楼主に廓内でのお座敷話として小豆沢の野暮天振りを話してほしい旨を伝えるように言ったが、それは架蓮より断られてしまった。 「何故でしょうか?」 「それは、あの世界での禁忌に触ります」 「禁忌とは?」 静かに答える架蓮にディディエは首を傾げる。 「花街には身分の高い方が素性を隠し、忍んで参られる事が多々あります。その方々に安心して過ごせられるよう、決してお座敷に出る者はお客様の前で他のお客様の話をしてはならないとの暗黙の約束があるのです。それを破ってしまえば、花街の誇りは滅び、有象無象達が蔓延る闇の世界となるでしょう」 「どのような悪客であろうとも」 「はい」 しっかりと頷く架蓮にディディエは肩を竦めた。 「わかりました。これ以上言ってもこちらの方が無粋となってしまいますね。きっと、どんな悪客であろうとも守るその姿が花街の粋なんでしょうねぇ」 苦笑混じりに言うディディエはそれ以上言わずに外の見張りの方へと足を向けた。 外にいる見張りは大通りから反れる横道に隠れるように伺っている二人一組の男達が二組だ。 ふらっと街娘姿の輝血が男達の方へと歩いていく。輝血が持つ可愛らしい顔に着物の襟から仄かに薫る色気の違和感は男達の興味をそそるには十分なもの。 「ねぇ、あんた達、ちょっといいかしら?」 しな垂れるように輝血が男の一人に声をかけると、男二人は輝血を横道に連れて行った。 鼻の下を伸ばした男達が輝血に触れようとした瞬間、一人ががくりと、落ちた。仲間が気を失って驚いている男にも更に睡魔が襲う。 「おや〜、これはいけませんねぇ。急病人です。どなたか、お手を〜」 ディディエが昏倒した二人を見ていると、はいはいと、壬弥と那蝣竪が手を貸す。 意識を戻したとしても、男達は一般人。魔法をくらえば、体に残る虚脱感、靄のようなものが頭に残り、ぬぐえない。 「あらあら、お家はどこかしら」 心配そうに見つめる那蝣竪に男達は言われるままに塒を教える。 そこにいたのは呆れた顔の小豆沢だった。不細工ではなく、身体の線の細い神経質そうな目が印象的な男だった。 輝血はあの後、鷹来家へ向かっていた。 「‥‥行儀見習いは?」 呆れたと言わんばかりにそこにいた女性陣は仙花に色々と着物をとっかえひっかえ遊んでいた。 「あ、輝血ちゃん、お久〜」 呉服問屋の三京屋主人である天南と緒水が輝血に手を振る。 「いいじゃないですか。楽しいですもの」 ころころと笑う折梅に輝血はため息をつく。どうやら、可愛いおもちゃを手に入れた折梅は緒水や天南を呼んで着せ替え遊びをしていた模様。 「あのさ、仙花、君は小豆沢にちゃんとお別れ言ったの?」 ずばっと言う輝血に仙花は顔を曇らせる。 「言ったら、何も言わずに帰られてしまいまして‥‥」 「人伝じゃなかったんだね」 「人伝に嘉月の事を知っていたようで、今回の身請けもどこからか‥‥」 「どこに身請けするかは伝えてなかったんだね」 ため息をつく輝血に仙花は黙り込んでしまう。 「小豆沢って、怖かった?」 「私には優しかったです。ですが、他の人に‥‥嘉月に危害を加えるなら、怖いです」 目を伏せる仙花に輝血は一つ提案した。 「もう一度、小豆沢に会って話せば? 何かされる前にあたしが守る。絶対」 少し怯えの色を見せた仙花だが、そっと夏蝶が肩を支える。 「手紙でもいいの。はっきりと心の内を伝えてみたらどうかな」 二人の言葉に少し戸惑った仙花だが、意を決したように頷いた。 一方、嘉月の護衛をしていた兵真は嘉月の仕事ぶりを見ていた。 精悍な顔立ちに優しい笑顔で誠実さをもって客に対応する姿は好感が持てる。 「仙花とは付き合いが長いとか聞いたが」 「ああ、ちびの頃からの付き合いだよ」 仕事の合間に話し相手でもと、兵真が嘉月に話しかける。 「ガキの頃からあいつ以外興味がなくってな。あいつが廓に閉じ込められても絶対に俺が身請けるって決めたんだ。それから家で丁稚から働いて一から商売を学んでいった」 「小豆沢はどう思う」 これには嘉月は言葉に困ったようだった。 「‥‥正直、俺以外の男が仙花に触れるのは辛い。けど、あいつは自分の力で借金と向き合った。それしか手の施しようがないから俺は耐えるしかないさ。不思議に思う事があるんだ」 「何だ?」 ふと思い出したように嘉月が言ったのは、何故、開拓者に戻らなかった事。 「開拓者ってのは、一回の依頼料でそれなりに糊口を凌げるって聞いた。いくつか仕事を請けていれば、身請けなんか簡単にできるのに、奴はそうしなかった」 「危険の方が大きいからもあるが‥‥身請けする気はあったのかな」 ぽつりと提示された嘉月の言葉に兵真は考え込んだ。 次の日、小豆沢の塒の下に小さな女の子が文を持ってきた。 その女の子とは珠々の事であるが、珠々はすぐに帰った振りをして、床下で様子を伺っていた。 随分と怒りを殺しているようだったと珠々は仲間達に伝えた。 手紙の内容は仙花からの小豆沢への自分を大事にしてくれた事への感謝と嘉月への思いと別れの言葉。 何一つ彼への非礼等はなかった。 ひょっこり塒に現れた変装した那蝣竪と夏蝶と壬弥。プラス女装させられた沙桐。 「まぁまぁ、知り合ったついでに酒でもどうかね」 気さくに話しかける壬弥に鬱陶しそうな対応を取る小豆沢だったが、むしゃくしゃしていたのか、酒目当てか酒盛りに応じた。 「あら、あれはなんなの?」 塒の隅に放り投げられた紙を見た那蝣竪が声をかける。 「女に振られた」 それだけ言った小豆沢は酒を呷った。 「そう、どんな女だった?」 「‥‥他の男に見受けられた遊女だ。苦界に落ちて店に出されえた当初から知っている」 そうなれば、随分と前から仙花を知っている事になる。 「親の借金を肩代わりして苦界に落とされたらしい。その親も同業者に騙されて事業に失敗させられたらしい」 「そうだったの‥‥」 そっと、那蝣竪が小豆沢の杯に酒を注ぐ。 「身請けしようとは思わなかったのか?」 壬弥の言葉に小豆沢は首を振った。 「あいつの境遇と自分の境遇を重ねていたんだろう‥‥いつまでも苦界にいればいいと思った」 呟く小豆沢の言葉に沙桐が首を傾げた。 「俺も、仲間に騙されて大怪我を負ってな‥‥」 「仕事で?」 誘導するように言う沙桐の言葉に小豆沢が頷いた。 「完治はしているが、もう、あの仕事に戻る気がなくなってな‥‥」 小豆沢の言葉に全員が言葉を失った。 全ての開拓者が善人ではない。こういう事も起こるのだ。 「緋桃もまた、誰も信じようとはしなかった。だが、それを変えた奴がいた」 嘉月の事だ。 「緋桃を苦界から奪おうとする奴が許せなかった」 「なぁ兄弟、惚れ込んだ女の門出を祝うのも、男の甲斐性だぜ? 顔で笑って心で泣いて、ってな。 緋桃だってお前さんにも祝って欲しいと思ってんだ。だから、手紙を渡したんだ」 壬弥の言葉に小豆沢は力なく俯いていた。 それから小豆沢に酒を入れて見事酔い潰した。 「‥‥寂しかったのね」 切なげに呟くのは夏蝶だ。 「人に裏切られるのって、とても辛い事よね」 人との繋がりを何より大事に思う那蝣竪にとっても辛い事だと思う。 「それでも、人を傷つけるのは許されない行為だよ」 沙桐が言うと、壬弥が溜息をついた。 「姉ちゃんが結婚する時は笑えよ」 「麻貴の為に笑う」 きっぱり言う沙桐に壬弥は呆れ、那蝣竪と夏蝶はこっそり笑った。 祝言当日、小豆沢は一切姿を現さなかった。 此隅から姿を消したらしい。 夏蝶が舞を踊って嘉月と仙花の祝言を祝う。 開拓者達が二人のよい話を広めたおかげでほんの少しだけよい目で見られるようになったようだ。 あくまで今回はきっかけに過ぎない。 これから二人は嶮しい道を進む。今までも辛い道を辿っていった。 助けてくれる人達がいる事に二人は感謝し、夫婦の道を歩む。 |