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■オープニング本文 空気が乾燥し、冷たい風が吹き出した今日。武天は首都、此隅に住まう鷹来折梅は長年の悪友である髪結い屋の十次と酒を飲もうと彼が経営する双樹堂へ向かった。 先日、よき酒を頂いたので、その幸福をお裾分けする為だ。 「緋桃のやつ、嫁に行ったかぁ。いや、仙花だったな」 「ええ、素敵なお姿でしたよ」 注ぎ注がれる事はなく、互いの手酌で飲み合う。 「折角の晴れ舞台。俺が島田を結ってやったのによう」 「冗談。花嫁に艶は必要ないわ。世間の穢れた殿方の手ではなく、女達の手で清らかに仕上げて嘉月さんの元に渡すべきよ」 「くくくっ、相も変わらず手厳しい。その癖、女どもには優しいもんだから女にモテやがる」 愉しそうにぐい飲みに入っている酒を十次が飲み干す。 「そこが折梅姐さんのよい所でさぁ」 作ったつまみを二人の前に置いたのは双樹堂番頭の鉄。 「あらあら、そう言われると嬉しいわね」 笑う折梅が鉄も一献と誘うと、二人でやってくだせぇとだけ言って出ようとしたが、外の勝手口の戸を叩く音がし、鉄が見に行った。 「旦那、布団問屋の女将さんが来られやした。なんでも急ぎの用とかで」 鉄の言葉に折梅と十次は顔を見合わせた。 布団問屋の女将さんはいつもふっくらした身体つきのお上さんだったが、少しだけ痩せていた。 「なんだなんだ。いつものふかふかしたんじゃなくて煎餅布団みた‥‥いで!」 「女将さん、どのような事がありましたか?」 減らず口を叩く十次に折梅がこっそりと、胡坐をかく十次の足の小指を抓る。 「ああ‥‥ウチの主人がこの間、珍しい布団を手に入れまして‥‥」 「布団?」 確かに布団問屋なのだから布団は切っても切れない関係だとは思うが、つい、口に出してしまう。 「人形用の布団なのです」 女将の話によれば、主人は十日前にとある筋より、とても良い人形用の布団を教えてもらった。 今は没落した貴族の娘が大事にしていた人形。愛するあまり、人形の為の着替えや布団を用意させ、さも人間のように扱っていたとか。その娘は成人する事無くこの世を去り、家が没落するまで大事にされていたらしい。 布団は痛みは殆どなく、綺麗な刺繍はそのままであったが、人形は痛んでしまい、価値がなかった。 主人は布団と人形を手に入れると、人形を捨ててしまい、布団を店頭に飾った。 それからだ。 夜に唸り声、誰もいないのに物音がしたり‥‥ 住み込みの店員が見たのは主人が捨てた人形の姿‥‥ 「そりゃ、俺じゃなくて、ギルド行った方がいい」 呆れたように十次が言った。 「貴方の顔が怖いから人形がどこかへ行くと思ったのでしょう。ギルドへ行きましょう。きっと、何とかしてくださいます」 ニコニコ微笑みつつ、折梅が女将に言えば、こくこくと頷いた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 依頼に応じたのはいいが、人形に布団というのがとても理解しがたく、珠々(ia5322)の頭の上に疑問符が浮かんでいる。 人形というもののよさがよくわからないというのが実情なのかもしれない。 一般常識がまだ理解できない珠々にとって、とりあえずは様子見のようだ。 一方、叢雲怜(ib5488)は初めての依頼ともあり、どんな感じで依頼が進められていくのか見ているようだが、今回の内容が人形ではあるが、依頼の後のお菓子にも心を惹かれている模様。 「とても大事にされていたのですね‥‥」 そっと溜息をついたのは白野威雪(ia0736)だ。 「想い出は物だけじゃないものね‥‥人形は物ではあるけど、中に込められた思いは物ではないのよね」 雪の言葉を繋ぐように言葉を紡いだのは那蝣竪だ。 「いつも布団に入れて寝かせてもらったのなら、布団を取られてしまったら怒るのも道理ですね」 寒い夜、布団がなかったら眠れもしない。自身の気持ちに投影した御樹青嵐(ia1669)が言う。 「怒りを鎮めてもらえないとなりませんね」 目を伏せる滋藤御門(ia0167)に緋神那蝣竪(ib0462)がきっと大丈夫と笑いかける。 そんな話を一歩離れて聞いていた輝血(ia5431)は人形の方が随分と人間らしいと感じている。想いを持ちすぎて瘴気に目をつけられる。故に人は人と似る物を愛するのだろうか。 そんな事考えても分からないのにと、誰にも気付かれないように溜息をついた。 楊夏蝶(ia5341)は一人、布団問屋の店主の元に赴いていた。 「あのお人形は付喪神だと思うの。ちゃんと、悪いものを退治して、綺麗にしてあげて大事にしたらきっと、お店の守り神となると思うわ」 「確かに守り神となってくれるならいいのですが‥‥」 とりあえずは、今後の人形のお家が確保できて夏蝶は安心した。 青嵐、怜、輝血、御門、雪は人形が出たという場所にある家具や障子を持ち出していた。 「青嵐っ。これ、向こうの部屋でいい?」 怜が御門と一緒に箪笥を持っていた。 「はい、そちらの方に雪さんがいますよ」 青嵐が答えると、視界の端に布団問屋の店主の姿が見えた。 「あ、大丈夫なんでしょうか‥‥」 店主がおずおずと言うと、青嵐は澄ました顔で頷いた。 「ええ、物は大切に扱いませんとね」 流石に人形を捨てたという事実は隠しようがなく、店主は首を竦めてしまう。 そんな様子を見ていた輝血はそっと目を伏せた。 布団問屋の気持ちは分からないものではない。輝血もまた、不必要なものは切り離してきた。 そうしなかったら死を迎える事だってあった。 青嵐に言われていないのに何故、こんな風になるのかが一番分からない。 夏蝶が持っていた布団に気がついた怜が夏蝶の方へ向かう。 「これ、人形の布団?」 「そうよ。ふかふかでしょ」 ぽよんと、夏蝶が怜の頬に干したての布団を当てる。 「わ、ふかふかだ」 はしゃぐ怜に夏蝶がくすくすと微笑む。 「ただいまです」 「綺麗な着物地ゲットできたわよー」 珠々と那蝣竪が戻って来た。 「いい布地だね。三京屋にでも行ったの」 輝血がじっと見て布地の質の良さを窺がう。 そこからシノビたちが着物を作る。 ● 夜になり、開拓者は目撃された部屋の辺りにいた。 空は曇天で月の光が隠れてしまっている。 部屋の入口前に置かれたのは人形が使っていた布団。 かたり ことり ‥‥ こと かたん 遠くの方から何か固いものが床に当たっている。 ゆっくりと部屋の方へ近づいている。 それが何なのかは誰もがわかっていた。 悲鳴を飲み込みたい恐怖にかられた店主が近くの部屋で折梅と十次と一緒に開拓者の様子を窺がっていた。 雲が風に流され、ゆっくりと月の光が部屋の中に差し込んでいく。 障子に浮かんだのは小さな人形の影。 「鏡子ちゃん、鏡子ちゃん、あなたのお布団よ」 ささやく様に優しく夏蝶が人形を呼ぶ。 人形の名は鏡子というらしい。 持ち主だった少女が自分の妹のように自分と同じような着物を着せていた所からその名が呼ばれたらしい。 ぴたりと止まる鏡子に御門が話しかける。 「こっちにあなたの布団がありますよ」 くききき‥‥と、首が横に動き、開拓者の方を向いた。 「離れ離れにはもうしないから、ね」 那蝣竪が優しく言えば、人形は黙り込んだ。 どれくらい黙り込んだのだろうか。 どうなるか想像もつかない。 けど、答えは一つ‥‥ かくんと、一つ、人形の頭が動いた。 「鏡子ちゃん‥‥?」 雪がそっと手を伸ばして声をかけると、また二振り頭が動いた。 「あぶないよっ」 怜が雪の手を制する。 カタカタと早く頭を振り、この世のものと思えない不気味な声が部屋中に響き渡る。その声は確かに人形から発せられている。 御門が発動させた結界呪符のおかげで少しだけ和らいだ。 「残念だね」 立ち上がり、人形の方へ走ったのは輝血。同じく人形も飛び上がる。 「顔は狙わないよ」 怜がマスケット銃を取り出し、そのまま胴体を狙って撃った。軽い人形はそのまま庭の方へ吹っ飛ばされた。 本来の人形としての硬さではないが、至近距離で弾丸を喰らった人形の着物は見る影もなく、焦げ付いてしまっている。 青嵐がこれ以上動かせまいと呪縛符が人形を呪縛する。小刻みに震えているのは呪縛から逃れるためだろうが、捕らえられた人形はもう逃げ出す事はできない。 「きちんと乾かしますから」 ぽつんと呟いたのは珠々だ。小さい手から繰り出したのは人形の周囲に迸る水柱。 「‥‥そうね。もうこんな事させないようにするわ」 寂しげに言ったのは那蝣竪だ。 夏蝶と連携を組んで雷火手裏剣を人形に投射する。投げつけられた雷の刃は人形を貫き、がくりと、人形は糸が切れたように倒れた。 「人形が‥‥」 がくがくと怯える店主が廊下に出て、人形の姿を見つめていた。 その横を歩いていったのは雪だった。庭に降り、動かない人形にをそっと抱き上げる。 「直してあげましょう」 雪が言えば、開拓者達は人形を綺麗にする為に温かい湯や綺麗な布を用意した。 ぼろぼろとなった着物を脱がし、温かいお湯で絞った布で優しく埃や汚れを落とした。怜が当てた弾丸が少し罅が入っていたが、着物を着せれば隠れた。 新しい着物と帯を締めて、髪は十次に結って貰う事にした。 「手馴れてるね」 輝血が言えば、十次が笑う。 「こういう人形にも結ってほしいと言う遊女がいてな。何度かある」 「大人でも人形遊びをするのですか」 きょとんとする珠々に折梅は微笑む。 「いつになっても着せ替えるという事は楽しい物ですよ」 「ばあちゃんも?」 きょとんとする怜に折梅は笑顔で頷く。 「お人形さんも楽しいですが、私の年代ですと、孫を着せ替えるのが楽しいのですよ」 「確かにそうかもね」 ふむと、輝血が頷く。 夜も深くなった頃、開拓者達は鷹来家へと向かった。 双樹堂では十人泊める広さがないという事で自動的に鷹来家となる。 夏蝶の提案で一室に布団を敷き詰めて話さないかという事になった。青嵐が気を利かせてつまみを作る。女中も起きていたが、折梅の懇意で休むように言われ、女中達はその好意を素直に受け取った。 「わ、お菓子だ」 怜が喜んで折梅が用意してくれたお菓子を手に取る。 「ふかふかなのです」 ふかふかの布団で寝だしたのは最近の珠々であるが、鷹来家の上等な布団はとても柔らかくも、中の綿が逃げずにしっかりと受け止めるのがどうにも慣れない。 ころころと転がって怜の近くにあるお菓子の方へ向かう。 すぐ傍ではお人形遊びの話を大人達はしていた。 「俺、あまり人形遊びとかわかんないな」 「私もです」 子供同士で話し合う怜と珠々。あまり同年代の開拓者と一緒になる機会がない珠々にとって怜は久々に里の子供達と話をするようでもあり、少しだけ懐かしくも思える。 怜にしては初めての依頼ともあり、大人ばかりの中に同年代の珠々がいるのは少しだけ安心できる。 「珠々は人形遊びしてなかったのか?」 「はい。修行の方が大事でしたから」 子供達の会話を横目に折梅は上機嫌だ。雪にお酌をしてもらったからだ。 「折梅様、最近はとても寒くなってきましたので、どうか、風邪を召さぬように」 「雪さんにお酌をしてもらえただけで風邪なんかどこかへ行きそうですよ」 「まぁ、折梅様嬉しいです」 微笑み合う二人。 「美味しいお菓子やおつまみだから食べ過ぎちゃう」 太らないように気をつけなきゃと夏蝶が言えば、那蝣竪が困ったように笑う。 「夏蝶ちゃんのどこが太るのよ。もう少しお肉つけたっていいくらいよ」 「そんな事ないわよ」 他の女性が見たら羨む体型を持つ二人に十次は姦しいとばかりに苦笑している。 ちらりと、輝血が子供達の方を向けば、怜が近所のお姉さんの人形遊びについて思い出しながら話をしているところを珠々が熱心に聴いていた。 「ああしている所を見ますと、年齢相応に見えますね」 隣に座っていた御門が珠々の様子を輝血に話しかける。御門は年齢には合わず随分落ち着いた雰囲気だが、どうしてかこの女性陣ばかりの輪の中に自然と溶け込んでいる。 「御門は女装似合うのにあまりしてないよね」 「僕は慣れてますから」 「そうなんだ」 話を耳にした怜が加わると、御門は苦笑して頷く。誕生直後に寿命わずかという宣託を受けた御門は元服まで女として育てられて来た。そうする事で跡取りを生存させる事にしたのだ。 「今でも実家に戻れば、妹に着せ替え人形とばかりに遊ばれますけどね」 「やっぱり、そうですよね」 微笑む御門に珠々が猫の目のようにくわっと、見開かれる。 「鮭の味噌煮ができました」 これで最後ですと付け加えて可哀想な獲物こと、青嵐が入ってきた。 「人形より、人間ですよね」 オータムドレス片手に珠々がじりじりと青嵐に近づく。 「す、珠々さん‥‥何を‥‥は!」 異様な殺気を感じた青嵐は他の気配にも気付いた。 にっこりと艶笑を浮かべる那蝣竪と夏蝶も加わる。 「青嵐、夜中だから煩くしたらダメだよ」 トドメの輝血の一言で青嵐はがっくりと肩を落とした。 瞬く間に洋装姿になった青嵐は大人しく輝血にお酌をしていた。そんな様子を見て、怜が絶句していた。 「まるで、水を得た魚のように見事な手捌きですのね」 「嬉しいですわ、折梅様」 誉められた那蝣竪は嬉しそうに微笑む。 十次の化粧道具に随分と興味を示したのは夏蝶だ。どこで買ったのかとか随分熱心に十次に訊いている。 やいのやいのと夏蝶と那蝣竪が十次の商売道具である化粧品に興味を示している。 更にそこから派生するのは恋の話。 「夏蝶ちゃんは好きな人、いるの?」 「え。うーん、格好いい人はたくさんいるけど、中々恋に発展できないのよねぇ」 困ったように夏蝶が言えば、次は雪に回る。まさか指名されると思ってなかった雪は驚いている。 「私ですか?」 「私も気になりますね」 折梅も興味津々であり、雪は困ったようであったが、特にはと濁すように答えた。 「御門くんは!」 「僕ですか」 「男の子の意見はほしいわよね」 那蝣竪が言っても、全員イマイチピンと来ないようだ。 「‥‥憧れている人はいます。でも、その方には比翼のようにとても大切な方が居て…でも、笑顔を見られるだけで僕は十分幸せなんです」 健気に微笑む御門に那蝣竪と夏蝶はきゅんと、胸を締め付けられるような気持ちになった。 「御門君、切ないっ」 「かわいいっ」 美女二人に愛でられ抱きしめられ、御門は驚いている。 「なゆ姉は?」 「その情報は高いわよ?」 くすりと、余裕気に微笑む那蝣竪に、ずるいとばかりに夏蝶は那蝣竪の脇腹を擽る。 「きゃっ! くすぐった!」 夏蝶の擽りに耐えられず、那蝣竪が楽しそうに笑い、那蝣竪も仕返しとばかりに夏蝶に擽り返す。 「お布団の上でお話しするのは楽しいですね。若い頃を思い出しますわ」 折梅が言えば、那蝣竪が思い出したように言った。 「折梅様の恋のお話、していただけませんか?」 「あ、聞きたい」 「僕もです」 「私もです」 全員が折梅の方を向けば、折梅は仕方ないですねと笑う。 折梅の初恋は九つの頃。 箱入り娘であった折梅は時折、家が窮屈で堪らなく、外へ逃げ出していた。 子供ならではの塀の小さな抜け穴を潜って、膝あたりについた着物の汚れを払って走り出した。 いつも少しずつ足を伸ばす距離を増やしていった。 束の間の自由はとても楽しかった。 いつもより距離を伸ばして神社まで歩いていった。 社に挨拶をして周囲を見て回る。 葛の花がとても珍しく、手に取りたいと思って手を伸ばしても取れなかった。 困った折梅の頭上から手が伸び、折梅が届かなかった葛の花を手にした手があった。上を向けば、一人の青年が折梅にどうぞと言って渡してくれたのだ。 「その優しい笑顔が忘れられなくて、また会いたいと願ったものです」 わくわくしている那蝣竪と対照的に何かを思い出そうとしている雪。 「何度か会っていたのですが、彼はとある家のお嬢さんの勉学を教えていましてね。そのお嬢さんもまた、彼の事を慕っておりました」 「え! 三角関係! どっちになったのですか?」 きらきら目を輝かせる夏蝶。折梅の隣にいた雪はあっと、その結末を思い出した。 「彼には許婚が居りまして、その方と好きあって結婚されました」 さらっと結末を言う折梅だが、主に那蝣竪と夏蝶がはしゃぎ、御門は切なそうな顔をしている。 「そう言えば! 麻貴さんとカタナシさんって、結婚の話とかあるんですか?」 夏蝶が言えば、折梅は何事もないように頷いた。 「今のお仕事が終わったら杉明さんに正式に申し込むとか」 「やっぱり、そうなんですか!」 勢い込む女性陣に折梅は頷く。 酒が切れたと言った輝血は何故か青嵐と一緒に酒を取りに行っていた。 台所まで案内する青嵐の背を見て輝血は前回やその前の事を思い出していた。 「ねぇ、青嵐」 「はい?」 振り向く青嵐が視界に入れたのは自身の胸の中に飛び込む輝血の姿。 「え‥‥」 どきりと、胸が高鳴る青嵐に輝血は上目遣いで青嵐を見つめた。 「よく、助けてもらってるよね‥‥お礼、させてもいいかな‥‥」 「輝血さん‥‥?」 じっと、見つめ合う二人。 「青嵐がしたいこと、させてあげる‥‥」 ぐらりと、青嵐の視界が歪んだ。 「‥‥本当に気絶した」 溜息をついた輝血はぴんと、イイコトと書いて悪い事を思いついた。 「あら、もう眠ってしまわれましたね」 微笑む折梅の膝の上に怜の頭があった。 「やーん、ほっぺ真っ赤」 「可愛いですね」 女性陣にきゃわきゃわ言われても怜は夢の中。 「さ、今宵はもうお開きにしましょう」 折梅が言うと、それぞれ床についた。 「あれ、青嵐さんと輝血さんは?」 きょろきょろとする珠々だが、気にせず布団の中に潜り込んだ。 翌朝、濡れ衣を自ら被った青嵐がいたとか。 |