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■オープニング本文 理穴首都を三日ほど歩いた先に三茶という街がある。 大きな流通経路の拠点の一つとしてあるこの街はとても栄えていた。 それ故に悪に魅入られやすい。 悪を栄えさせないように悪をもって街を守る任侠一家が三茶には存在する。 その任侠一家、雪原一家に新しい家族ができた。 家族を亡くしたばかりの少年で、最初の頃は泣いてばかりだったが、この三ヶ月の間、随分と逞しくなっていたようだ。 今まで、兄にべったりの甘えん坊であり、いじめっこにはいつも兄に助けてもらっていたが、今ではいじめっ子をやり返すほどになっていた。 必死に家族と思ってくれている雪原一家の為に雑用をしていた。 そんな働きが皆に認められるともっと嬉しくなった。 雪原一家の皆の為にやる事が少年‥‥赤垂の生きがいだった。 「うーん、どーすっかなぁ‥‥」 悩んでいたのは雪原一家当代の緋束は手紙を見て悩みながら廊下を歩いていた。 「どうしたんですか?」 声をかけたのは雪原一家の幹部の一人だ。学者になろうと勉学に打ち込んでいたが、何故か雪原一家で勘定方をやっている。ついでに赤垂に勉強を教えている先生でもある。 「先代の友人がな、たまには遊びに来いと手紙が来てな‥‥今の状態で出るわけにもいななくてな‥‥」 困った当代が手にしている手紙を勘定方がひょっこり手紙を覗く。普通ならこういう事は失礼に当たるが、緋束は気に留めない。 「では、赤垂を向かわせてはどうでしょうか?」 「赤垂を? ああ、確かにそれはいいかもな。あそこの家は子供もいないし、赤垂を挨拶に向けるのも姐さんに喜ばれるだろう」 勘定方の提案に緋束は頷く。 「赤垂。俺の名代で行って来るか?」 「はいっ!」 緋束の言葉に赤垂は元気よく頷いた。 それから数日後、赤垂は一人、三茶から南へ一日歩いた村へと向かった。 一家の誰もが心配はしたが、大きい道で治安も悪くないので、赤垂を信じる事にした。 朝に出れば、夜になるまでには着くだろう。 その間に一つ町を通る事になる。 三茶ほど栄えた町ではないが、中々に活気がある。三茶を出た事がなかった赤垂にとっては興味を惹かれるものだったが、今日は雪原一家の名代として行くのだ。 先方に失礼があってはいけないと思い、赤垂は縁日にも気を取られず先に進む。 そろそろお腹が空いたと思い、近くの茶店で稲荷寿司を頼んで食べていた。 「俺を誰だと思っているんだ! 開拓者だぞ!」 怒鳴り声が近くの店から飛んできて、それと同時に老人が吹っ飛んできた。 「お願い申し上げますっ。あなた様達にしかできませんっ」 「そんなモン、てめーらで何とかしろよ!」 店から出てきた男が老人の腹に蹴りを入れて、肩を思いっきり踏んだ。 「おじーちゃん、痛そうだろ!」 かっとなった赤垂が飛び出て、鼻につくのは酒の匂い。男は飛び出した赤垂に一瞥するだけだ。 「開拓者様に指図しようとするから悪いんだよ!」 踏んでいた老人の肩を男は蹴り飛ばす。 「うぐぅ!」 砂にまみれ、痛みを堪える老人を見て男は甲高く笑い声を上げる。 赤垂の記憶にあるのは優しくて強い開拓者の姿。 目の前にいる力なき老人に一方的な暴行を加え、痛がる姿を笑っているのが開拓者なのか! 「おまえなんか‥‥お前なんか開拓者じゃない!!」 赤垂が叫ぶと、男は思いっきり赤垂を蹴り飛ばす。痛みに堪えきれず、赤垂も地に倒される。 「ガキ風情が偉そうに口を叩くな」 男は赤垂に唾を吐いて笑いながら店の中へ入って行った。 「うう‥‥」 「ご老人、ぼうや、大丈夫かい?」 痛みを堪える二人に中性的な声が降りてきた。 「だいじょうぶ‥‥ぜんぜん、いたくないもん‥‥」 「そうか、偉いな」 声をかけた来た者は随分と綺麗な顔をしているのだが、男物の着物を身に纏っているが、男のようにも女のようにも見える。老人を抱き起こす切れ長の瞳は澄んだ翠色。 「おぶけさま?」 「まぁ、そんな所だ。助けに間に合わず、すまなかった」 お武家様は二人に静かに謝り、話を聞こうと、近くの茶屋に誘った。 老人の話に寄ると、町から外れた南東に化け物が出て、知人が食い殺されたらしい。 開拓者は常人を遥かに越えた力を持つのは知っているからこそ、お願いしたが、聞いてくれないとの事。 その開拓者達は自分達が開拓者である事を笠に着て町でやりたい放題らしい。 「そうでしたか、分かりました。しかし、開拓者か‥‥」 稲荷寿司を食べ終わり、ふむと考え込むお武家様に赤垂は不機嫌そうに頬を膨らませる。 「あんな奴ら、開拓者なんかじゃない!」 「ん?」 「ぼくが知ってる開拓者はすっごく優しくてすっごく強いんだ。雪原のみんなが言ってたんだ。三茶の治安がよくなったのは開拓者のお陰だって、開拓者が本当の当代を助けてくれたから雪原一家も‥‥あっ、いっちゃった‥‥」 言うだけ言って赤垂はあっと、手で口を押さえる。 「君は、雪原一家の関係者なのか?」 「‥‥家族だよ」 赤垂が雪原一家の者だと言ってもあまり信じてくれないし、名前に頼っていたら強くもなれないと雪原一家の皆が言っていたから赤垂は自ら名乗らないようにしている。 もしかしたら、このお武家様も‥‥と思っていた赤垂だが、お武家様は優しく微笑んでいた。 「そうか、雪原はよい道へ進んでいるようでよかった」 赤垂は驚いて恥ずかしそうに俯いてしまったが、思い出したように顔を上げた。 「ぼくは、雪原一家の赤垂といいます。お武家様のお名前はなというのですか?」 「私は羽柴麻貴という者だ。ギルドへ使いを向かわせようか」 「ぎるど?」 首を傾げる赤垂に麻貴は説明すると、ぱっと、赤垂の顔が笑顔になる。 三人分の代金を置いた麻貴は赤垂をつれて行った。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
俳沢折々(ia0401)
18歳・女・陰
真亡・雫(ia0432)
16歳・男・志
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
紫雲雅人(ia5150)
32歳・男・シ
オドゥノール(ib0479)
15歳・女・騎
八十島・千景(ib5000)
14歳・女・サ
葛籠・遊生(ib5458)
23歳・女・砲 |
■リプレイ本文 依頼に応じた開拓者は街の状態に顔を顰めていた。 開拓者と名乗る者達からの恐怖なのか、活気ある街なのに沈んだ雰囲気を感じる。 「こういうやつらがおると俺らの評判までわるうなるから困ったもんや」 肩を竦めるのは天津疾也(ia0019)。視線の先の店の中では開拓者と名乗る連中が馬鹿騒ぎをしていた。 「開拓者なら、皆の為に、ですよね!」 ぐっっと、拳を握るのは葛籠遊生(ib5458)。 「全くですね。それよりもアヤカシを先に倒さねばなりませんね」 遊生の言葉に同意したのは真亡雫(ia0432)雫だ。 「まずは依頼人の所へ向かいましょう」 優雅な振る舞いと言葉と共に八十島千景(ib5000)が言った。 殿を歩いていたオドゥノール(ib0479)は白けた視線を店の中に投げた。 待ち合わせ場所は町の中の宿屋だ。そこに麻貴と赤垂とおじいさんがいるとの事。 二階の部屋に上がれば、奥の部屋にいるとの事だ。 「羽柴さん、俺です」 紫雲雅人(ia5150)が声をかけると、麻貴の明るい声が聞こえた。 「おお、読売屋か。それに折々ちゃんも」 顔馴染みの開拓者の姿に麻貴はにこりと笑う。 オドゥノールは妙な顔をして麻貴を見ていた。羽柴麻貴ではなく、別の名前の人間と思っている。 「あの依頼文、仲介者の名前が違うではないか」 「え?」 オドゥノールの呟きを耳に入れた千景が首を傾げる。 「お武家様‥‥この方々が開拓者店‥‥?」 きょとんとする老人に麻貴が笑顔で頷く。 老人が驚くのは無理もないだろう。気さくな笑顔を浮かべ、若い美男美女が揃っているのだ。 「ああ、ギルドを介して集まってくれた開拓者達だ。見た目は若いが、腕は立つ」 「はぁ‥‥」 中には千景のような年端のいってない少女もいるというのに、開拓者とは過酷なものだと老人は思う。 「麻貴ちゃんいるところに事件ありだね! しょうがないから、私が力になってあげるよっ」 明るく笑う俳沢折々(ia0401)に紬柳斎(ia1231)がくすりと笑う。 「おじいさんは依頼人だよね。このちびくんは?」 折々の興味は赤垂に移る。まだ子供というのに、しっかり正座して握った拳を膝の上に置いている。 「ま、まさか、奔放な旅だからと、麻貴ちゃん! こんな小さい子に手を出し‥‥」 瞬間、麻貴の目から薄闇の中から光線でも出すのではと誰もが疑ったほど、麻貴の視線は折々を射抜いた。 「そそそそ、そんなわけないよね!」 「雪原一家の新しい家人だ」 冷や汗をたらたら流した折々が否定すると、麻貴は溜息をついて赤垂を紹介した。 「雪原一家の赤垂です」 ほうと、目を丸くしたのは折々と雅人だ。久しく聞く名前と縁のある子供が珍しいと思った。 「雪原一家ってなんですか?」 遊生が首を傾げると、雅人が説明をした。 「ほう、まるでウチの親父殿のようだな」 「親父殿?」 赤垂が首を傾げると、柳斎が親父殿と慕う開拓者の話をした。その開拓者が赤垂が恩義に感じている開拓者の一人である事を今の時点では知る由もなかった。 「猪のような毛並みでしたか」 「でもって、体つきは虎ということかいな」 雫と疾也が老人からアヤカシや開拓者達の詳細を聞いていた。 「村の外れに行けば、遠吠えが聞こえます」 「吠えるのですか‥‥それなら聞き取りやすいですが」 千景が袖口を口元に当てて顔を顰める。 「南東にはちょっとした森があります。その遠吠えはかなり大きいので、分かりやすいかと‥‥」 「ほんじゃ、森の方へ行けば分かるってワケやな」 疾也が立ち上がると、他の面子も立ち上がる。 「必ずアヤカシを倒します。しばし、お待ちくだされ」 静かに柳斎が言えば、老人は惚けたように柳斎を見る。 「おじいちゃん、僕、行って来るね」 「‥‥大丈夫かい?」 赤垂が言えば、老人が困った顔で赤垂に尋ねると、羽柴様と開拓者の皆がいるから大丈夫と赤垂は笑う。 ● 南東の方を歩いていて、確かに老人の言う通りに森が現れた。 とは言っても、大きい森とは言えず、規模では林のようなものだ。 耳を澄ますことをしなくても腹を空かせ、飢えた遠吠えが聞こえる。 「分かりやすいですね‥‥」 呆れるように呟いたのは遊生だった。まだ臨戦態勢ではなく、耳が垂れて可愛らしい。 「うん、かなり近かったよ。今見たアヤカシは二匹だった」 人魂を飛ばしていた折々が意識を身体に戻す。 どこか不安そうな表情をする赤垂に折々が笑いかける。 「アヤカシの一匹や二匹、わたしたちでパパッと倒しちゃうから!」 明るい笑顔の折々の言葉は妙に信憑性があり、赤垂の不安が幾分が薄れていく。 「四匹いるが、大丈夫だよな」 「え」 にやっと笑う麻貴に折々はそうだったっけ? と顔を引き攣らせる。 「四匹だってだいじょうぶだよ!!」 半ば自棄のように言う折々の様子が面白くて赤垂がこっそり笑う。 「では、赤垂君の事、お願いします」 礼儀正しく雫が言えば、麻貴は頷いた。 不意に分かる開拓者達の臨戦態勢。 赤垂の表情が一瞬にして強張る。そんな様子に気付いたオドゥノールが赤垂の前に跪き、頭を優しく叩く。 「すぐ終わらせてくる」 困ったようなくすぐったそうな顔をしてオドゥノールが言えば、赤垂は何度も首を縦に振った。 「沙桐さん、赤垂くんをよろしく」 気の利かない言葉が言えない事にオドゥノールは歯痒く思いながら踵を返し、仲間達の後を追う。 沙桐と呼ばれた 「待ってるからっ」 赤垂が言うと、オドゥノールは一度頷いた。 「やっぱり、開拓者は僕のあこがれだ!」 オドゥノールの言葉に安心した赤垂が麻貴に言えば、彼女もまた、微笑んで頷いた。 「ん?」 首を傾げる赤垂から見て、麻貴は本当に嬉しそうな顔をしていた。 「大事な奴と間違われて嬉しいんだ」 くすくす笑う麻貴に赤垂は「そっか」とだけ言った。 ● 開拓者達は林の中を奥まで進まなくとも腹を空かせたアヤカシ達が出迎えてくれた。 「随分と手荒な歓迎やなぁ」 疾也が呆れるように秋水清光を構える。 「出迎える知能くらいはあるようですね」 ふふりと笑う千景も青葉朱雛を構えた。 アヤカシ四匹は固まっていたが、仲間と離れた疾也、千景組は千景の咆哮を使ってアヤカシの一匹を引き寄せる。 前に出たのは疾也だ。囮となって前に出てアヤカシの動きを誘う。 短く吠えたアヤカシが疾也に飛び掛る。虚心を使用したが、中々にアヤカシの動きは早く、疾也は顔をしかめ、刀を一度鞘に納めた。 疾也を交わしたアヤカシはそのまま千景へと飛び掛る。 千景は剣でアヤカシの前足を狙った。身体を翻し、アヤカシの方向を変える。アヤカシが見たのは刀を鞘に納め、構えている疾也の姿。それが最期にアヤカシが見た光景。 「お見事」 微笑む千景が見たのは疾也の秋水で抜いた刀がアヤカシを倒した光景。 「前は任せました」 雫より一歩下がるのは巫女の雅人。神楽舞・攻を舞い、雫に更なる攻撃力を与える。 「了解しました」 頷いた雫が水岸を振ると、数珠刃の波紋が揺れる。緩やかな振りは美しく、ふわりと、梅の芳しい香りと共に白く澄んだ気を武器に与える。 白梅の気に押されたアヤカシではあるが、その向こうにある人の肉への渇望が強まった。 雫が剣を振り、白梅の気でアヤカシを弱らせ、雅人の白霊弾が援護をする。 素早かったアヤカシの動きが鈍ったのを雫は逃さない。 「終わりです」 突きの構えをした雫はアヤカシの胴体に刀を突き刺し、刀を捻り、刀を返す。アヤカシより刀が離れると、一気に瘴気と血が噴出した。 禍々しい紅椿に雫は紅の瞳を細める。 オドゥノールの深い夜の蒼と同じオーラがオドゥノールを包む。オーラはただ纏うだけの物ではない。 「オドゥノールちゃん! 頼むねー!」 噛まれたら痛そうと思った折々が後衛にてオドゥノールにエールを送る。 「そちらの方まで来させないようにするのが騎士の役目だ」 その槍は宝珠の力を持ってオドゥノールの負担を軽減させ、疾風の名に相応しい速さをオドゥノールに実現させる。 走り出したオドゥノールは思いっきり槍を一匹のアヤカシに突きつける。 アヤカシの動きは予想より早く、大きく開けた口を狙ったが、避けられ、足の一本を傷つけるだけに留められた。 「結構やるね!」 折々が札より美しい幽霊の式を具現化させた。 長く乱れた髪が顔を隠しているが、呪符の文字と同じ紫色の唇が大きく開けられ、声無き声をアヤカシの脳内に響かせる。 瞬時にしてアヤカシの動きは止まり、その隙を逃さないオドゥノールは間合いを計り、低い姿勢をとり、ユニコーンヘッドと共に槍を突き上げた! 動きが鈍ったアヤカシは避けきれず、オドゥノールの槍を甘んじて受けた。 「負けていられないな。援護があるのは助かる。頼むぞ」 「はい!」 くすりと微笑むのは柳斎だ。ぴんと、耳が立った遊生に声をかけ、鍛え上げられた愛刀斬竜刀「天墜」を構える。 刀を振ると、アヤカシは横にずれて前へ進む。 「足止めします!」 遊生がアヤカシの足を狙って一発打った。素早いアヤカシであるのは理解している。一発目は囮、二発めこそが本命だ。アヤカシは計算されて撃たれた弾丸に足を止められた。 柳斎の腕前は一瞬振るった剣筋だけで分かった。自分の役目を理解した遊生は柳斎の剣を信じる。 通常ならば、このアヤカシは直に体勢を整えられるだろう。だが、柳斎が放つ柳生無明剣の前には転がっている石ころと変わりは無かった。 「見事だ」 少し離れた所で刀をぶら下げた麻貴が開拓者達に声をかけた。麻貴の外套の中で麻貴にしがみついている赤垂もいた。 「羽柴さん、危ないでしょう」 呆れた雅人が言えば麻貴は信じてるから大丈夫だと笑う。 「さて、もう一つの仕事もやっとこかー」 疾也が明るく言えば、全員が頷く。 ● 柳斎は一人だけ単独行動でギルドへと向かった。 年若いギルド員は柳斎が言った依頼の話を困った顔で聞いていた。 結局は先輩のギルド員が現れ、結果が分かり、柳斎は確証を手にし、微笑んでいた。 開拓者達は老人にアヤカシを倒した旨を伝えると、老人は手を合わせ、何度も開拓者達に礼を言った。 「すみません、街に居座る開拓者と名乗る人達の所に案内してくれませんか?」 にこっと笑う遊生に老人は此方ですと、歩き出した。 開拓者と名乗る者達はいつも通り、酒場で馬鹿騒ぎをしていた。 力を持たぬものは開拓者の名で震わせ、いざとなったら力を振るう。 見せ付けるための暴力はいい武器だ。 この開拓者達は暴力の利便さを理解しているのだ。 「どうも、開拓者さんですね」 穏やかに開拓者達に話しかけたのは雅人だ。 「あぁ? 何だ、てめえは」 「天儀新聞の記者です。それと同時に彼らと同じ開拓者をしております」 きょとんと、開拓者達はその彼らを見た。 千景が成人したばかりだが、まだ子供にも見られる。折々やオドゥノールも開拓者とは思えない。精々、疾也くらいだろう。 噴出した一人の開拓者につられて全員が笑い出した。 「おいおい! 面白れぇこと言うなぁ!」 「嘘だろ! こんな女子供が開拓者なわけないだろ!」 ゲラゲラ笑い出す開拓者達に折々は特に気にせずに話しかける。 「ねぇ、君達はどうしてアヤカシ退治に行かなかったの?」 「そんなもん、街の連中がやりゃぁいいじゃねえか!」 一人が嘲笑をして酒を飲んだ。 「アヤカシが出現したなら、近くにいる開拓者が倒す事になっているはずだよ」 「その通りです。いかなる理由があるか知りたいですわ」 折々の言葉にくすりと冷笑を浮かべる千景に開拓者の一人が顔を顰める。 「おい、嬢ちゃん。俺達は開拓者なんだぜ? そんな口を利いてもいいのか? 泣いたって知らねぇぞ」 千景の前に立ち、開拓者の一人が拳を振り上げようとすると、様子を見守っていた疾也と麻貴が千景の前に立ち、男の拳を止めた。 「開拓者っちゅぅもんは後から続くもん達の為に開拓していくものや。簡単に拳なんか上げるもんやない」 睨み付ける疾也の眼光に開拓者達が押されたが、それよりも警戒すべきはオドゥノールが繰り出した槍だ。千景に拳を上げた男を威圧しただけではなく、先の小さな鎌がその男の後ろで刀を抜こうとした男の眼前に止まった。 「己が利の為に女子供、老人に手を上げるなど許さん」 清楚な少女の物とは思えないオドゥノールの声はいくつの戦いを繰り広げた戦う者の声音。 「荒事にする気はありません。お店の方にも迷惑がかかりますから」 礼儀正しく雫が言っても、疾也達に窘められた男達には怒りを増させるだけだった。 「うるっせぇ! こんな奴らが開拓者なワケねぇだろ!」 言い聞かせるように言うのは誰の為だろうか、男が料理や酒が並べられた卓をひっくり返した。皿や徳利が割れる音に遊生が驚いたように困ったような顔をした。 「やっちまえ!」 男が叫ぶと、男たちが刀を抜こうとしたが、第二陣が来た。 べらぼうに長い刀が男達の間をすり抜ける。男の一人の頬に刃が当たり、一筋、血が流れる。 「酒を無駄にする奴は誰だ」 低い低いその声は柳斎のもの。酒を何よりも愛する柳斎にとって、今の狼藉は許されない。 「ギルドへ言って来た。貴様らのような依頼などはギルドは記録していないし、登録もされていないそうだ」 男達はよく口にするどこそこでアヤカシを倒しただの、悪漢を倒しただの言っていたが、全て作り話。開拓者ですらないのだ。 「知っているか、開拓者はその力に驕り、街に居座り、街に迷惑ばかりかける者もいる。街の者達はギルドに討伐依頼を出すそうだ」 「討伐‥‥」 呆然と一人が呟いた。 「そうですね、よくあります。恥ずべき事ですが、その泥を拭うのも開拓者の役目ですね」 静かに言う雫の言葉は納得がいった。 「近くにある、三茶の雪原一家もまた、偽の当代達が志体持ちでな。開拓者に討伐されていたな。そこの優男とそばかすっ娘に」 麻貴が薄笑いを浮かべると、男達は雪原一家を知っているのか、びくっと肩を竦める。 「どちらの言葉を街の人達が信じるかは明白」 愉しそうに千景が言えば、町の人達が開拓者と思っていた男達に非難の目を浴びせて来た。手には棒や椅子なんかも持っている。 刀を持ってるとはいえ、志体がなければ何とでもなる。 信用を地に落とした男達はへなへなとその場に崩れ落ちた。 開拓者を送り出す時、町の人々が何度も開拓者達に頭を下げた。 「また何かあれば呼んでくださいね、喜んで力になりますよっ」 笑顔で遊生が言えば、赤垂と共に依頼を出した老人が頭を下げた。どうやら、この町の長らしい。 初めての依頼が笑顔で終わって遊生は嬉しそうだ。 赤垂は安心したようにお使いへと向かった。 「やっぱり、開拓者はかっこいいな」 お使い先のご夫婦や雪原一家のみんなへのお土産話が出来て嬉しいようだ。 数日後、【開拓者を騙る無法者、真の開拓者に退治される】という瓦版が出ていた。 |