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■オープニング本文 ●クリスマス ジルベリア由来のこの祭りは冬至の季節に行われ、元々は神教会が主体の精霊へ祈りを奉げる祭りだった。 とはいえ、そんなお祭りも今では様変わりし、神教会の信者以外も広く関わるもっと大衆的な祭典となっている。 何でも「さんたくろうす」なる老人が良い子のところにお土産を持ってきてくれるであるとか、何故か恋人と過ごすものと相場が決まっているだとか‥‥今となってはその理由も定かではない。 それでも、小さな子供たちにとっては、クリスマスもサンタクロースの存在も既に当たり前のものだ。 薄暗がりの中、暖炉にはちろちろと炎が燃えている。 円卓を囲んだ数名の人影が、深刻な面持ちで顔を見合わせていた。 「‥‥やはり限界だな」 「今年は特に人手不足だ、止むを得まい」 暖炉を背にした白髪の老人が、大きく頷いた。 天儀の国でもクリスマスというものは浸透している。 年末に行われるお祭りの一環として見受けられている事も多々ある。 天儀の武天の国に古くから豪族として名を連ねて来た鷹来家にもこっそりあった。 「くりすます」というものは良い子に贈り物を上げることというのを知っている鷹来折梅は鷹来家専属シノビの架蓮に休日とその費用を与えた。ここ数年、休みもなく密偵として頑張ったからという事だ。 折梅はどのような使用人にも真直ぐに応対する。 豪族の頂点に立つ人ならば、使用人など使い捨てと思うことが多々ある。 シノビなどというのは卑しい身分と思う者だっている。だが、折梅と沙桐は誰にでも優しく、架蓮の事も娘や妹のように接してくれる。ただ、可愛がるだけじゃなく、仕事も信用してくれている。 里の爺様の話によれば、折梅が来るまで陰湿かつ、傲慢な家だという話だった。 使用人も酷い扱いようで、シノビも平気で危険な任務に放り、鷹来の家の者と分かりかねない事態になればすぐ切り捨てる。 よくある話だが、それが現実。 折梅はそんな家を変えていった。 現在は此隅に居を構えているが、鷹来の里にいる鷹来家の者の半数はそのままだという。管財人折梅の前では媚び諂ってはいるが。 里の者達は皆、折梅を敬い、沙桐を支えようとしている。 シノビとして架蓮も二人を敬っている。 架蓮にしてみれば悩みもの。二人の役に立ちたいからこそのシノビであり、休日を貰ってもいいのだろうか。 折梅は里の爺様と一緒に鷹来の里へ戻られ、沙桐は晦日まで仕事で、それが終わってから一緒に里に戻る予定だ。 友達の天南は三京屋の仕事で会えないのは必死。 このような時期に一人で過ごすのはちょっと寂しい。ちょっと細めの道に入れば恋仲だろう男女が行きかっている。 「‥‥心が寒い」 いっその事、理穴監察方のお手伝いにでも行こうか悩んでしまう。 だが、日にちも多くはないので無理だ。 どうしようか悩んでいると可愛らしい女性の声がした。 「架蓮お姉さん?」 声の主をよく知る架蓮が見たのはつい数ヶ月前まで遊女として仕事で入っていた時に仲が良かった遊女仲間の仙花だ。 現在は身請けされ、好きな男と夫婦となっている。 「仙花ちゃん! 元気?」 「はいっ!」 笑顔で頷く仙花だが、可愛らしい顔が少しだけ翳る。 「どうしたの?」 架蓮が仙花の顔を覗けば、仙花はこれから開拓者ギルドへ向かう旨を伝えた。 話によると、年末になると季春屋は遠くに住まう店主の妹夫婦に手伝いに来てもらう事になっていた。 今年は、妹の旦那さんが腰を痛め、妹はその看病で来れなくなった。 猫の手でも‥‥という事で、二人の子供を手伝いに送った。 姉を猩緋、弟を猩緑という。 頑張って初めての仕事をしていたが、猩緋が誤って商品を渡してしまったらしい。 お客さんは気にしてないとは言っていたが、両親の名代としてきていた姉弟としては大変な事だ。 猩緑が猩緋に酷く怒鳴り散らしたのだ。傷ついた猩緋は泣き出して走り出した。 気になった仙花が追ったが、走った先にあったのは街の外れの林だ。 最近、怪しげな叫び声や、人の死体も見られたという。 仙花が店に戻って、その事を伝えると、猩緑が走ってしまった。 その林の中にはアヤカシがいるかもしれない。 嘉月が仙花にギルドへ依頼を出すように言い、現在に至る。 「そっか‥‥分かったわ、私も手伝うわ」 「でも、お姉さんは‥‥」 「いいのよ、今は休みだし」 にこっと笑う架蓮に仙花が申し訳なさそうな顔をする。 「今、猩緋と猩緑とおっしゃいましたか」 とても上品な着物に身をつけた旅人風の男が二人の前に立った。 「二人のご両親より、贈り物を預かりましてね」 「はぁ」 「アヤカシが絡んでいるとなれば大変です。どうか、この二人の命と贈り物をお願いします」 慎み深く紳士が言えば、二人はしっかりと頷いた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 酒問屋季春屋に集まった開拓者の一人が仙花と嘉月を見つけて笑顔を見せた。 「祝言をあげられたと聞きました。おめでとうございます」 礼儀正しく滋藤御門(ia0167)が頭を下げると二人は笑顔でありがとうと言った。 「祝言かぁ。めでてぇ年末だぁなぁ」 祝言といえば家族が増えるという事。血の繋がらない者も家族として迎え入れれば可愛がる犬神彼方(ia0218)は他人事でも嬉しい事。 「‥‥家族がいるという事は大事な事です」 呟くのはシャンテ・ラインハルト(ib0069)だ。 「夜になれば寒くなる‥‥こんな素敵な日にアヤカシの襲撃だなんて許せないよ」 ぐっと、拳を握るのは天河ふしぎ(ia1037)だ。愛らしい顔立ちではあるが、その瞳には強い意志が込められている。 「そうよね、弟君だって心配だし、見つけなきゃね」 ふしぎの言葉に同意したのは楊夏蝶(ia5341)だ。 「早く見つけ出しましょう」 平素より硬い表情の珠々(ia5322)が呟いた。 「そうしよう。もう、寒いし」 外の方を見つつ、輝血(ia5431)が言った。夜になってしまえば冷え込みは更に強くなる。二人の為にも早い救出をしなくてはならない。 立ち上がった開拓者達は出る支度をした。 「そうだわ。思い出したように緋神那蝣竪(ib0462)が振り返り、仙花に耳打ちをする。 「はい、わかりました。どうか、二人をお願いします」 仙花が言えば那蝣竪が笑顔で頷いた。更に夏蝶とアイコンタクトをして笑みを交換し合う。 そんな二人を見て架蓮が首を傾げた。 ● 二班に分かれて林の他へと入った開拓者達と架蓮。 御門、ふしぎ、彼方、珠々、架蓮の組が歩いていく。風が吹き始めてきており、随分と寒気を感じてしまう。 「風が出てきたなぁ。早く迎えに行ってやらんとなぁ」 彼方が陣羽織の襟を立てて顔を顰める。 「御隠居さんのお話だと、猩緋ちゃんは古い神社の中にいるとの事で、まだ大丈夫とは思いますが、猩緑君は雨風が凌げる場所にいてくれたらいいのですが‥‥」 御門も心配そうに周囲を見回す。 「早く探そう、少しでも安心したいから」 ふしぎが言うと、御門も頷いた。 皆、安心がほしい。 二人が無事だという安心を‥‥ もう誰にも知られる事の無い神社の社殿の中で猩緋が蹲っていた。 激情に任せ、店を飛び出し、なりふりかまわず走ったこの林の中で気づいたのだ。 ここが人がいるべき場所ではない事を。 明らかに人ではない気配や物音がする。犬とは思えない唸り声を上げ、何かを追い求めているようにも思える。 引き返すのも怖くなり、錯乱状態にも近い状態で奥へと走り出す。 奥に入れば入るほど危険である事も知らず。 見えた先にはボロボロの神社の祠だった。飛び込んだ猩緋は狭い祠の中で悪寒がした。 祠の扉を閉め、奥の隅で蹲る。 もう、猩緑の怒鳴り声も記憶にない。 猩緋の全てを埋め尽くすのはアヤカシが人の肉を食らうにあたって最高の調味料だけだった。 御門が札を取り出し、術をかけると、緑の瞳に黒い片翼の小鳥が形成された。 「あれ、片っぽだけ?」 ふしぎがきょとんとすると、御門は微笑む。 「僕が風となって押し上げるのです」 御門が手を離すと片翼の小鳥は寒空を舞った。 「対になるように逆の羽が無い小鳥がいるんですよね」 架蓮が言えば、御門は「御明察」とだけ言って笑った。 ほほえましい話もそこそこで、上空から御門の人魂、地上からは珠々とふしぎと架蓮の超越聴覚で音を探している。 ぴくりと同時に反応したのはふしぎだと珠々。 「いたか」 ちらりと、彼方がシノビ達の方を向くと、珠々達の数瞬後に架蓮がしっかり頷いた。 「確かに女の子の泣き声が聞こえます。篭った感じがしたので多分、蹲ってると思います」 珠々がはっと、架蓮の方を向くと、架蓮は「鷹来家当主専属のシノビですので」と微笑んだ。 「まだ、上達されますよ」 架蓮の微笑みに珠々はこくんとだけ頷いた。 「こちらも神社を見つけました。方角はまっすぐ、社殿の周りにアヤシキらしきものが見えました。珠々ちゃん達は先に行って下さい!」 緊迫したように御門が言えば、先に走り出したのはシノビ達だ。 社殿の周りには白い亡霊がいた。 恐怖を本能で感じたそれは愉しそうに白い唇を細く引く。 意識を社殿の扉に向ければ、触れてもいないのに扉が開いた。 突き刺さるような風が猩緋を襲い、声にならない悲鳴を上げる。見開いた猩緋の瞳に映るのは白い幻のような煙のようなもの。 この状況では理性では考えられない。本能が告げる。 命の危機を。 「そうはさせない」 アヤカシの時が、止まった。 「近寄らせません」 その声は猩緋の声ではない。 アヤカシには負けないという意志と勇気が込められた声音。 奔刃術で距離を縮めたシノビ三人が同時にアヤカシに攻撃をする。 珠々が架蓮の傍を通る際に毛布を、架蓮が猩緋に毛布をかけ、驚かせる暇も与えず、外へ連れ出した。 「頼んだぜぇ!」 にやりと笑う彼方に架蓮は笑みを浮かべ「承知」とだけ告げ走り去る。 走り出した架蓮を確認し、珠々が呼子笛を咥えた。 「そこのアヤカシィ! この俺がぁ相手してやぁらぁ!」 彼方の咆哮と共に珠々が呼子笛を吹いた。 甲高い呼子笛と彼方の咆哮が林に響き渡る。 びくりと林を歩いていた少年が肩を振るわせた。 心配して薄着で飛び出したのはいいが、寒さもどんどん身体に沁みて感覚がもうなくなっている。 足が何かに引っかかって転んでしまった。 見上げた少年‥‥猩緑は恐怖に声を失った。 風の動きを無視するように葉が、花が動いている。 異形のもの、自身を害するものであるのは確実だと猩緑は思った。 植物のアヤカシは一体だけではない。気がついたら景色が移動している。植物に囲まれてしまった。 葉は刀のように鋭く、突き刺されただけで絶命しかねない。 「おねえちゃ‥‥」 ようやっと絞り出された声は恐怖でかき消された。 「後でちゃんと言えるから」 怜悧な声が聞こえると、道を拓くようにアヤカシ一体が真っ二つにされた。 真っ二つにされたアヤカシの中を潜るように猩緑の傍に滑り込んだのは輝血だ。 猩緑の有無も聞かず、輝血は来た道を戻る。輝血は抱えていた猩緑を夏蝶に渡す。 「ちょっと、かがっち!」 驚いた夏蝶に輝血は宜しくとばかりに敵の方を向く。 「援護‥‥いたします」 龍笛を構えたシャンテが言うが早いか、精霊の狂想曲を奏で出した。 メロディーに酔ったアヤカシ達が花や葉を大きく揺れだした。 その大きな揺れは自身の葉や仲間の葉を切り落としていく。輝血がその隙間を無駄なく斬って行っている。 「今の内に逃げて。もうお姉ちゃんは大丈夫。林の外へ行きましょ」 しっかりと夏蝶が言い聞かせると、猩緑は輝血の方を向く。 「彼女は大丈夫よ、ああ見えて腕利きだから」 那蝣竪が茶目っ気たっぷりに言うと、夏蝶が那蝣竪に預けた。那蝣竪達が行ったのを確認し、夏蝶が自分に敵をひきつけるように呼子笛を吹いた。 高い音に惹きつけられたのか、枯れ木を踏みしめて新しい気配が現れた。 「二人を傷つけたりはしないわ」 己が好きな危機を楽しむ気持ちを心の中に沈めた夏蝶が唇を引き締めて四頭の狂犬が姿を現した。 「熊二匹ですか。情報通りですね」 新たな敵を確認し、斬撃符を繰り出したのは御門だ。 幽霊のアヤカシに最期の一撃を与えた十字槍を一度振って瘴気を落とした彼方が頷く。御門の斬撃符を受けた熊は片腕をなくしても平気で動き回っている。 四人の耳に響いたのは甲高い呼子笛。 猩緑の無事が確認された音に彼方は不敵に笑う。 「滋藤、珠々! もう一組の加勢をして来いやぁ」 御門が頷くと、彼方とふしぎは二人の行く道をアヤカシより守る様に立ち塞がる。 「もう手加減なんかしないよ」 猩緑の無事が確認されるまで怒りを抑えていたふしぎが鮮やかな緑の瞳に怒りの色を混ぜた。 ふしぎが手にしている怒りの名を冠する剣が紅蓮の色に染まる。 「その通りだなぁ」 彼方が鋭すぎる刃を持つ十字槍を構え、その切れ味と同じ迫力を熊達に向ける。 「いくぜぇ」 その一言で一気に間合いを詰められた熊もまた、目の前にいるのが喰らえる物である事を理解し、しまりなく涎をたらしている口の中に彼方の槍が突かれ、動きを封じられた。 横から跳んできたのはふしぎだ。大振りの剣を水平にし、そのままアヤカシを胴体から真っ二つにした。 残った方は彼方、ふしぎの同時攻撃によって倒された。 林の入口まで猩緑を連れて戻ったのは那蝣竪だ。 気配に少し警戒したが、架蓮である事に気付くと、そっと息をついた。 「おねえちゃん!」 「しょう、りょく‥‥」 まだ、怯えているのか、猩緋は架蓮に抱きしめられていた。 「架蓮さん、二人をお願いするわ」 那蝣竪が言えば、架蓮が頷いた。 「え‥‥」 猩緑が言えば、那蝣竪が微笑む。自分もまた極限状態だというのに人を心配する心根に。 「大丈夫、仲直り、頑張って」 こっそりと那蝣竪が言うと、猩緑はゆっくりと頷いた。 大丈夫と確信した那蝣竪は踵を返し、戦場へと戻る。 「残りの二人は?」 夏蝶が別の班の御門と珠々を見つけ、声をかける。 「熊二頭出ました。幽霊は倒しました」 「情報通りではここだけのを倒して終わりです」 斬撃符を狂犬に当てた御門が言えば、輝血が鼻白んだ顔をする。 「まぁ、あの二人なら大丈夫でしょ」 珍しく輝血が軽口を叩く。 目の前の敵は狂犬二体、植物型一体だ。 「早く片付けましょう」 珠々が苦無を手にし、狂犬のアヤカシに投げる為に間合いを取る。 「では‥‥」 曲を変えたシャンテの龍笛が奏で出したのは重厚かつ、ファンファーレの様な力強い曲だ。 どんな敵にも負けない大事な人を守る騎士を讃え、強い心を持たすのに相応しい。 「いい曲! 早くやっつけちゃいましょ!」 高らかな夏蝶の声は勝利宣言となった。 混乱に陥っている植物型アヤカシは夏蝶が俊敏力で動きを困惑させ、同士討ちを狙い、的確に攻撃をしていく。 援護という形で御門が斬撃符で狂犬の足を狙って動きを止める。 何人も人がいるのに隙間を縫って狂犬の眉間に苦無を当てたのは那蝣竪の苦無。 「二人とも無事よ。架蓮さんに見て貰っているわ」 明るい知らせに加わって来たのは彼方とふしぎの無事。 「まぁだやってたか」 「今終わるよ」 彼方の軽口に輝血が最後の一匹の首を苦無で刎ねた。 静かになった林の中に気配は見当たらなかった。 開拓者達が林の入口へ降りると毛布に丸まっている姉弟と二人を守る架蓮の姿があった。 「大丈夫だったぁかい?」 彼方が子供達に目を合わせるように膝を突く。 「猩緋、だったな」 彼方の瞳は自身が愛し子に見せる瞳とよく似たもの。誰しもその瞳に安心感を持たされるだろう。 「怒鳴られたぁのは辛かったろうが…それでもちゃんとぉ話を聞いてやっておくれ。人間、何時だぁって何かしら失敗しちまう事はある。問題はそれからどうするか、だ。 …自分の過ちを認め、成長できるんなぁらそれは立派な事だぁよ」 優しい父を思い出す彼方の言葉に猩緋が涙を流して頷いた。猩緋の涙に心配する猩緑を見て彼方はふっと笑った。 「これをどうぞ」 珠々が二人に渡したのはクリスマスクッキーだ。 「‥‥お腹が空くとよく泣く子がいました。この日は泣いちゃ駄目な日と聞きました」 驚いた二人はクッキーを受け取り、口にした。 「美味しいね‥‥」 「‥‥うん」 先ほどの怖さや安心感が胸に押し寄せた姉弟は手を握り合いながら涙を流してクッキーを食べていた。 「仲直りは出来たようだね」 「早く帰りましょう。仙花さんも待ってるわ」 にこっと笑うふしぎに那蝣竪が更に言葉を付け足した。 季春屋に戻ると、怖い顔の嘉月が寒い中入口前で待っていてくれた。 「ご、ごめんなさいっ」 二人が頭を下げると、嘉月は肩を震わせながら溜息をついた。 「反省したなら入れ。寒かっただろう」 多分、寒いのは嘉月も同じだろう。ずっと、寒い中待っていたのを色を無くした唇が物語っていた。 温かい家の中では季春屋の店の者達がご馳走を用意して待っていてくれていた。 湯に入った後でそれを知った姉弟は目を丸くして驚いていた。 「さ、食べて」 仙花が言えば、二人は相当お腹を空かせていたのか、黙々とご飯を食べ始めた。 「皆さんもどうぞ」 季春屋の主人と女将さん‥‥嘉月の父親と母親が開拓者達に酒や料理を勧める。 「‥‥でも、よかったです。二人が仲直りをされてて」 静かに呟くのはシャンテだ。隣に座る猩緋がにこっと笑う。口元にそぼろ餡をつけて。微笑むシャンテが猩緋の唇を拭う。 「これからもお互いを大事にしてくださいね」 言葉に頼る事をしない自分にしては珍しい事かもしれないとシャンテ自身は心の中で思う。 「私は言葉よりも此方で語りたいと思います」 そっと取り出したのは愛笛である龍笛だ。 「僕も乗せてもらってもいいですか?」 御門が持参した横笛を取り出すと、シャンテは静かに微笑んで了解した。 二つの笛の音が響き渡ると、華やかなシノビ達の舞が始まった。 サンタクロースに聖夜に喧嘩した姉弟が仲直りをしたという報告の想いを風に乗せられるように‥‥ 宴もそこそこに終わり、眠そうに寝床へ向かうの猩緋と猩緑に声をかけたのは輝血だ。 「今日は良い子したからきっといいことあるよ」 「ありがとう、おねえちゃん」 猩緑が舌足らずに言うと、早く寝た寝たと輝血が手を振る。 そして、大人たちの酒盛りが始まる。 本来寝るはずの珠々は架蓮の膝の上にいた。もはや諦めの境地に近い。 「くりすますはやった事がないのですが、お正月は飴を一つだけ貰えました」 養成所のような所で育った珠々には娯楽というものにはまだ馴染めていない。最近、少しだけ楽しいが分かって来た。 「とても、待ち遠しくて、その飴はとても好きでした。きっと、美味しいんですよね」 まだ一般の感覚がはっきりと分からない珠々にとって、過去の事は手探りで当てはめていくしかないのだ。 「はい、美味しいんですよ。華夜楼でも飴を頂きましょう。色とりどりのたくさん」 そんな珠々の感覚に合わせ、御門が誘うと、珠々はこくんと、頷いた。飴の透き通ったあの色彩は嫌いじゃないから。 輝血、那蝣竪、夏蝶は各自のシノビの力量を使って猩緋達の部屋に忍び込んでいた。 非日常を味わった子供達にとって今日はとても疲れただろう。深い眠りについているのを呼吸が教えてくれている。 さっと子供達の枕元に輝血が降りて玩具を二人分置いた。 きっと、子供たちは喜ぶだろう。 依頼でも仕事でもないのにどうして自分がこれまでに一番の細心を払って忍んでいるのか分からなかった。だが、子供達が暢気に笑う顔を見るのは嫌じゃないと思った。 依頼を完遂した開拓者達を思って白い髭の紳士がどこかで微笑んだ。 |