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■オープニング本文 武天にて役人をやっている鷹来沙桐は上司のお使いを終え、家へ帰る所だった。 年末、思い切って、理穴に行ってみようと思い、色々と調整していたが、どこぞの記録係が泣く事になるし、目的の人物は人事異動の関係で忙しいとの連れないお言葉を頂いた。 せめて、ジルベリアのお祭りにのっとり、沙桐は道行を贈った。 色々な人に誰に贈ったかバレてしまったが、喜んでもらえたようなのでよしとした。 この間も、お返しに飾り用の羽織紐を貰ったものだから随分と嬉しいようだ。 今は仕事着だから、一度家に帰り、着物を着替えて飾り羽織紐をつけて出かけようと考えていた。 「えっ」 ふと、下を見たら、人差し指くらいの大きさのおっさん達が簪を神輿のように抱えて走っている。 「え!」 小さいおっさん達は人通りの多い所にも拘らず、見事に走っている。そして早い! 他の通行人は誰も気付かない。 なんで?と首を傾げていると、横の小道より出てきた影。 「待ちなさい! ちっさいおっさんども!」 どこかで聞いた声だが、何か違う。 見たのは自分と同じ顔。 「え?」 「へ?」 そのまま衝突してしまい、二人とも倒れてしまった。 「いたたた‥‥」 二人がぶつかった所を摩っていると、横から出てきた少女が沙桐を見て驚くが、それよりも沙桐の胸倉を掴む。 「‥‥ちっさいおっさんを見た事あります?」 「今、簪持って行ったよ」 「あー! 逃がした!!」 頭を抱える少女は本当に悔しそうだ。 「何か、アヤカシとは思えないんだけど‥‥うーん、良かったら、開拓者ギルドに依頼でも出さない?」 「かいたくしゃ?」 「うん、そこならきっと、簪が見つかると思う。俺は鷹来沙桐っていうんだ。君は?」 先に立ち上がった沙桐が少女に手を差し伸べると、少女は沙桐の名前を聞いて嫌そうな顔をする。 「鷹来‥‥もしかして、春告って知ってる?」 「知ってるけど」 鷹来春告は沙桐の祖父に当たる人物だ。自分が幼少の頃に死んでしまってあまり記憶にないが、妻である祖母を誰よりも大事にしていた人という印象がある。 「鷹来家の人間か‥‥やだな‥‥」 「何で?」 沙桐の手を借りて、少女は立ち上がり、裾の汚れを払う。 「‥‥今度、その人と見合いするの」 「嫌なの?」 「会った事ない。だって、いくら成人したって言っても、まだ遊びたい!」 意志の強い緑の瞳はどこかで見た事がある。というか、よく会っているし、暮らしている。 「‥‥名前、教えて貰っていい?」 柳眉を顰めてもう一度沙桐が言えば、少女ははっきりと告げた。 「前田折梅よ」 若い頃のばーちゃんが時空を越えてきました。 ※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません!! |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 開拓者ギルドに集まった開拓者達は全員、鷹来折梅を見知った者達ばかりだ。 若い折梅を見た開拓者達はどよめいていた。 「わー、折梅様がわかがえったー!」 驚く和紗彼方(ia9767)に呆然とする珠々(ia5322)。 「お、折梅さん? 本当なの」 「間違いなさそうだよ」 沙桐に尋ねた楊夏蝶(ia5341)が沙桐と折梅を見比べている。 「きゃーっ、沙桐君たちそっくり!」 「麻貴にも似てるね。どちらかといえば沙桐だけど」 驚きの展開に緋神那蝣竪(ib0462)が折梅を見てきゃーきゃーしている。沙桐の顔に少し驚いていた叢雲怜(ib5488)がぽつりと感想を言う。 「てっきり麻貴様だと思ったんだけど」 怜の感想に彼方も同意した。 「これが何十年もしたら、ああなるのか」 ふむと若い折梅を見て頷いているのは輝血(ia5431)だ。 「此方の折梅さんは可愛らしいですね。あちらの折梅様も十分お美しいですが」 微笑む美丈夫に誉められては若い折梅もちょっと頬を染めて照れてしまう。自分達の知る折梅は余裕たっぷりに受け止めて喜んでくれるのに。 普段は絶対に見られない折梅の様子が可愛らしく、雪がつい笑みを零してしまう。 「折梅様、初めまして白野威雪と申します。どうぞよしなに」 「はじめまして、前田折梅です」 淑やかな白野威雪(ia0736)の様子に折梅は絆されるように微笑む。 話は小さいおっさんの話になる。 「その話、聞いた事あるんですけど、本当にいるんですね‥‥」 てっきり、酔いどれ師匠だからと皆が「はいはい、お酒飲んでいたんでしょ」で終わっていたのにと珠々が言う。 「若い娘さんを困らせたいのですかね」 ふむと、御樹青嵐(ia1669)が考え込む。 「小さい麻貴ちゃんや沙桐君だったらいいのに」 がっかりしているのは那蝣竪だった。 「小さい怜君や珠々ちゃんでも嬉しそうよね」 「夏蝶ちゃんだっていいわよー☆」 夏蝶がからかって言うと、那蝣竪ものる。 「小さいおっさんって、何か…例えばキノコとか食べたら大きくなるのか?」 首を傾げる怜に沙桐が何か納得したような気がした。 「緑色のキノコ食べたら増えるかも」 懐かしい何かを言い出す二人。 「さて、おっさんということですからね。何が好きでしょうか‥‥」 考え込む雪に何人かが酒と挙げた。 那蝣竪がにっこりと微笑んで沙桐の前に立つ。 「沙桐君。若折梅さんの身代わりになってくれないかしら」 沙桐が嫌そうな表情となる。今回夏蝶は前回の沙桐の憔悴っぷりに自重中らしい。 「撹乱にもなるだろうしね」 更に輝血が効率の良さを推しても沙桐は苦い表情。沙桐の腰に回されるのは珠々の腕。 「逃がしません」 きらーんと目を光らせる珠々が逃亡阻止をすると、そのまま床に珠々諸共座り込んでしまう。 「にゃ!」 驚いた珠々がひょいと襟首をつまみあげられ、沙桐の膝に置かれ、抱きしめられている。 「女装しないとダメ?」 那蝣竪を見上げる沙桐は悲しそうな表情。 「麻貴から羽織紐を貰ったんだ‥‥俺、それをつけて出かけたかったんだ‥‥」 会話を聞かずに傍目から見れば、野良猫を拾ってきてお母さんに飼ってもいいかと強請る子供のやり取りだ。 どこか甘えた可愛らしい沙桐の様子に那蝣竪は動揺している。 「折角だし‥‥二人揃うと姉妹みたいだし‥‥」 「だめ‥‥?」 尚も強請る沙桐に那蝣竪は己の煩悩と良心が葛藤を続けて頭の中は真っ白。 「さっさと女装する」 沙桐を立たせたのは輝血。 「ちっ、もう少しでオトせたのに」 舌打ちをする沙桐に那蝣竪は葛藤を強制終了でき、ほっとしていた。 「凄く嫌だけどいいよー」 「ホント!」 ぱっと明るくなる那蝣竪に沙桐が条件を提案する。 「着替える場所は三京屋。あそこには色々と分かってくれる人も多いし、着せ替えしたいと女性陣に強請られた子がいてねぇ」 「誰なの?」 首を傾げる夏蝶に沙桐は自分が持っている任務成功の満足感に浸る黒猫をにやりと見落とす。珠々が見た沙桐は理穴の役人そっくりの悪い笑みだ。 びくっとする珠々だが沙桐は離す気は毛頭ない。 「いやぁ、三京屋のお姉さん達にいい贈り物ができたなぁ!」 「にゃーーーーーー!!」 颯爽と歩く自棄になった沙桐に担がれて珠々が悲鳴をあげた。 三京屋につくと、沙桐が店主の天南に事情を説明すると、天南は呆れつつも頷いてくれた。 「それ、お年賀でしょ」 手を差し出す天南が見るのは珠々だ。沙桐がぽいと渡すと、可愛くしてとだけ注文をつけた。 「にゃー!」 更に店員達に声をかけると、珠々はお姉様達に奥へと拉致された。 「珠々、大丈夫なのか?」 首を傾げる怜に天南が大丈夫よ、と微笑みかける。安心したがお姉さんに微笑まれて怜が照れる。 「じゃ、沙桐君を綺麗にしましょうね!」 ずるずると那蝣竪が沙桐を引きずる。その様子を見て折梅がおろおろとしている。 「大丈夫です。沙桐さんはきっと、綺麗になってきますよ」 「雪ちゃん、言う所はそこじゃないよ!!」 にっこり微笑む雪に沙桐が遠くからツッコミを入れる。 「じゃ、行こうか」 徐に青嵐の腕を取って輝血もまた歩き出す。 連行された珠々は置いといて、てきぱきと二人が女装させられる。 「折梅さん、沙桐さんと同じ着物に着替えてみない?」 夏蝶の誘いに折梅がきょとんとする。 「同じ格好ならきっと、おじさん達混乱すると思うから」 「ばあちゃん‥‥じゃなかった。姉ちゃん、もっと綺麗になるよ♪」 「ありがとう」 微笑む折梅に怜もつられて笑う。 「天南! 折梅姉ちゃんにも沙桐と同じ着物持って来て!」 怜が照れ隠しに元気よく言えば、天南はにこにこ微笑んで立ち上がる。沙桐はもう諦めたものとしてもやっぱり嫌なのか、憮然としている。 「もう、笑ってよーぅ」 「ムリムリ。諦めて仕上げたほうがいいよ」 那蝣竪が言っても聞きやしない。もう慣れてしまった青嵐は輝血の手によってさっさと仕上げられていた。 「俺、珠々を迎えに行ってくる」 ぱたぱたと怜が別室にて着替えさせられている珠々を迎えに行く。障子の前で声をかけると、店員の一人が怜に気づき、障子を開ける。 「出来上がりましたよ」 にっこり微笑む女性店員の言葉に怜が部屋の中に行くと、肩上で切り揃えられているの髪の毛が付け毛によって長くなっており、黒地に色とりどりの雪割草が所狭しと咲き誇る振袖を着せられた珠々がちょこんと部屋の中央で座っていた。 ぽかーんとする怜に珠々が涙ぐんでいる。 「お店の人の審美眼は凄いのです‥‥」 珠々を美しく着飾りたいと思う店員達の気迫は凄かった事を散らされた色とりどりの着物や帯が物語っている。 「普段、青嵐さんがそういう思いをしてるのはわかったかなー?」 皆のいる部屋に戻ると、珠々の様子に気付き、にっこり笑む女装姿の沙桐は酷く麻貴に似ていた。 「皆、思いっきり凄いのを選んできたわね」 あきれ返る天南に雪が首を傾げる。ぽそりと雪の耳元で天南が値段を呟くと、流石の雪も固まってしまった。 「結構ちょろちょろしてるみたいだよ」 ひょっこり戻ってきたのは彼方だった。着替えの時間、周囲を偵察していたらしい。 「罠でもつくりますか」 すちゃっと珠々が三京屋の人に必要な物を用意してもらう。 てきぱきと三京屋の二箇所に罠を用意させて、少し離れた所にそれぞれ折梅と沙桐を配置につかせる。 罠とはざるを木の棒で立てかけ、その下に酒を置く。ざるに結わえられた紐は物陰に隠れた珠々と怜が持っている。 現れたのは珠々の方であり、全部で六人。本当に小さいおっさん達だ。 驚いて雪が口を手でふさぐ。 見た目は本当にその辺にいそうなおっさんたち。可愛いというよりも何か癒される。 酒に興味を示した二人が中に入った瞬間、珠々が紐を引いた。 ぱたんと、見事に二人が閉じ込められた。 残りの四人があたふたと逃げ出す。沙桐の話通り早い。珠々が呼子笛を吹くと、向こうでもばたばた騒いでいる。 猫宜しく、珠々が走り出す。振袖姿ではなく忍び姿。 「つかまえるのだー!」 こちらも怜と彼方が先導してどたばたと向こうから走り出す。 可愛らしい黒猫達が小さいおっさん目掛けて突進。これにはおっさん達もびっくりし、スピードを上げるが流石の開拓者。怜が壁となり、おっさん達が後ろを振り向いたが珠々の姿はない。 何故だと思ったら、ふっと。上が暗くなった。 かぽん! といい音がして珠々が持っていたざるの中に閉じ込められてしまった。 彼方が素早くかごの中におっさん達を移し変える。 「まぁまぁ、とりあえずお酒でも」 夏蝶がおっさん達にお酒を振舞う。 「本当に小さいおっさんなのですね」 まじまじと見る雪におっさん達は美女達に気づき、上機嫌のようだ。 「どうして折梅さんの簪を取ったの?」 彼方の問いかけにおっさん達は黙り込む。 「若い娘を困らせたいのですか?」 青嵐が叱るように言えば、おっさん達は違うとばかりに首や手を振る。 「じゃぁどうして?」 那蝣竪が言うと、おっさん達は折梅の方を見ているがどうにも言えない模様。 「でも、折梅さんを帰してくれるんでしょ? お願いね」 夏蝶が言えば、おっさん達はこくこくと頷いた。 おっさん達を三京屋に預けて貰い、行く先は甘味屋。 一部がどたばた騒いでいたので、おなかが空いた模様。 「では、休憩しましょう」 青嵐が鶴の一声をあげた。 「んー、甘味屋かぁ」 「温かい善哉なんかどお? 小豆が美味しいお店があるんだ」 悩む彼方に沙桐が指を差す。女装ではなく、男物の着物を着ている。羽織を繋げているのは瑪瑙の石が連ねられた羽織紐。真中の石には桐花が彫られている。 ついた甘味屋の女将さんと沙桐は仲良しらしく、折梅の事は上手く言っている模様。 「沙桐様、その羽織紐お素敵ですね」 雪が言えば沙桐は子供のように笑む。 「麻貴様にはくりすますに何か贈られましたか?」 「道行を送ったんだ撫子色の。正月はその道行でお参りに行ってくれたんだ」 いつもどこか大人びた沙桐であるが、双子の姉である麻貴の事になると子供のように表情を変える。そんな沙桐を見て雪は微笑ましく思う。 「お正月に麻貴さんに会ったわよ」 夏蝶が話に入ると沙桐は大人しく話を聞いている。雪と彼方以外の面子がその場にいたので、色々と教えてくれた。 お年玉を貰った話や青嵐と葉桜が仕立てた鍋と珠々の人参の話、羽根突きのあられもない麻貴の爆弾発言の話を輝血がすると、沙桐は頭を抱える。 そんな話を折梅はただ聞いていた。どこか心が騒ぐ気がする。でも、分からなくて。 「折梅さんって、あまり外を歩いた事って無いの?」 彼方が言えば、折梅は視線を外に逸らしている。 「抜け出した事はありそうだね」 ずばっと言い切る輝血に折梅が「たはは‥‥」とごまかす。 「‥‥この辺にごろつきの十次って奴がいてね。高利貸しの用心棒とかしてて、志体持ちじゃないから一戦やらかしたってくらいよ」 「じゅーぶんだよ折梅姉ちゃん‥‥」 呆れる怜に折梅は内緒と人差し指を立てた。 「お見合いするのよね」 ぽつりと夏蝶が言えば折梅は難しい表情となる。 「まだ、嫌なの」 視線を両手で膝に置いた湯飲みに落とし折梅が言う。そんな姿を那蝣竪が見て、折梅の過去の恋を思い出す。きっと彼女はまだ心の清算を終えていないと。 「沙桐様、折梅様と祖父様は仲がよろしかったのですよね?」 雪が沙桐に小声で言うと頷く。 「なんつーか‥‥また、きっと話す機会があるからその時にゆっくり教えてあげる」 少し考えた沙桐が耳打ちし返すと、雪は楽しみにしていると微笑む。 「無理して会わなくていいんじゃない?」 輝血がお茶を啜る。 「きっと、縁は巡って来るって聞いた事あるよ。大丈夫」 笑いかける彼方に折梅はきょとんとする。 「今日は見合いの事を忘れて、ぱっと遊ぼうよ! 女の人はういんどーしょっぴんぐが好きなんだよな!」 手を引っ張る怜に折梅は嬉しそうに頷く。 輝血の勧めで入った小間物屋に入ると、色とりどりの簪や袋物がある。 「これなんかどお?」 「こっちもいいわね」 女性陣が楽しげに簪を合わせたりしている。 彼方がこれはどうかと差し出した簪は皆の目を引くもの。夜光貝を梅の花に彫り、真鍮で挟み、金の鎖に瑠璃球が揺れる簪。 「凄く似合うよ!」 うっとりする折梅に怜が頷く。沙桐がさっと代金を払う。 「沙桐君ったら男前♪」 片目を瞑る那蝣竪に沙桐は悪戯っ子のような笑みを見せる。代金を払って貰った事に折梅が申し訳なさそうにしていると、青嵐がにこやかに折梅の髪に簪を挿して貰って恐縮している。 「折梅もああだったんだ」 どこにでもいる感情の忙しない女の子の姿の折梅に輝血はじっと見ている。 「祝言を挙げてから色々な事があったんでしょうね」 輝血の様子に気付いた那蝣竪が言葉を拾った。 「嫌な人と見合いは辛かったでしょうけど、私はあの折梅様に魅せられた一人だしね‥‥」 「あたしは、ほっとした」 「いつも上手い事返されるからね」 くすくす笑う那蝣竪に輝血は何も答えなかった。 ふと、下を見た怜と珠々が小さいおっさんの姿に気付く。 「え、帰るんですか?」 珠々が言えば、おっさん達は頷く。 「帰るわ、凄く楽しかったわ」 おっさん達より簪を返してもらった折梅が笑う。 「もうなの?」 もう少しと思ってもおっさん達はかなり慌てている。 「また会えると思う。勘はいい方なの」 「また、お会いしましょう」 雪が見送りの言葉を言えば、折梅は微笑む。いつものあの余裕の微笑で。 おっさん達と一緒に折梅が駆けていった。 「帰りましょうか」 青嵐が言えば、皆が少し重い足取りで歩き出す。 あっけない幕引きだった。 鷹来家に行けば、いつもの折梅が家に帰っていた。 「まぁ、皆さん。いらっしゃい」 嬉しそうに微笑む折梅の顔には長い年を重ねた証がある。笑う折梅はとても輝いている。 「折梅様、お帰りなさいませ」 雪と那蝣竪が声を合わせる。いつもの彼女に会えて嬉しいから。 夏蝶がある事に気付く。 「その簪!」 折梅が簪に手をやると、まだ黒い髪を纏めている夜光貝の簪があった。時を重ねてはいるがまだその輝きは失っていない。 誰も気付かなかった。 いつも折梅がつけている簪なのに。 「昔に誰かに買ってもらった覚えがあるのですが、ちょっと覚えてないのですけどね」 驚いた彼方が少し涙ぐむ。驚いて折梅が涙を拭おうとすると、彼方は笑顔を作る。 「折梅様、すっごく似あってます!」 「そお?」 誉められて素直に嬉しいと笑顔を見せる折梅に青嵐が一言。 「折梅さんはやはり可愛らしいと思いますよ」 「こんなに誉められてはとっておきのご馳走をしなくてはなりませんね」 微笑む折梅の宣言に怜が喜ぶ。 「酒の肴、期待してる」 輝血がすかさず注文を入れる。 賑やかに夜は過ぎていった。 あの折梅はこの日を忘れるだろう。 だが、あの簪は忘れない。 |