|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る 異常。 それ以上の言葉が出なかった。 暗闇の隅で息を殺している。 「人を殺めてしまった‥‥意識が段々ぼやけてくるんだ‥‥」 一緒にいたい。 逃げてくれ。 何から? 暗闇の中で必死な言葉が反響していた。 仮眠から起きたというか、叩き起こされた沙桐は叩き起こした相手を睨み付ける。まだ寒いおかげで布団にしがみ付いている。 「さっさと起きろ、結局どうなんだ」 叩き起こしたのは幼馴染の永和だ。 「綸ちゃんと叔父さんは見つからなかった」 もぞもぞと布団に包まる沙桐はまだ睡眠が足りない模様。 「遺体もか」 「欠片も無かった」 「十中八九、逃げたって事か」 「連れて行かれたって可能性もある」 永和が火鉢を傍に持ってくると、沙桐が芋虫みたいににじり寄る。 「何故だ」 火鉢に網をかけ、永和が餅を焼く。 「実は、父親や祖父が死んでいた所には何か手紙のようなものがあったんだ」 「内容は?」 ちろりと、永和が布団に丸まっている沙桐を見下ろす。開拓者達には見せる事は無い姿だろう。 「アヤカシが血で汚してわかんなかったけど、かなりの確実で見合い話の手紙だよ」 「見合い? 蜜莉殿はそんな事言ってなかったぞ」 「迷っていたんじゃないか? 蜜莉ちゃんの話によると、随分才能がある子で、お師匠さんが養子にとるか本気で悩んだとか」 ふっくらと膨らみだす餅を沙桐が眺める。 「素晴らしい腕の持ち主らしいな」 「ああ、話が横道に逸れた。ついでに砂糖と醤油とってくれ」 沙桐が永和に言えば、不承不承といったように永和が皿に砂糖と醤油を入れる。 「近所に話を聞いたら、イイトコの見合いが来たって、お母さんが随分喜んでね」 「綸殿は叔父の事で悩んでいたのだろう。何故、見合いが関係する」 顔を顰める永和に沙桐は焼けた餅を摘まんで砂糖醤油につける。 「叔父は随分と綸ちゃんを可愛がっていたようだよ。近所の人達も、綸ちゃんがお嫁に行ったら、叔父が寂しがるとまで教えてくれた。まぁ。お前には分からん次元だ」 「なんだ、それは。お前は分かるというのか」 むっとなる永和に沙桐は目を伏せる。 「前の俺と同じだ。その種類が叔父さんと似てるとは思いたくないけど」 永和は沙桐が言いたい事に気付き、黙り込んだ。 親友だから、その場にいたからそれ以上言わなかった。 何を犯しても愛していた。 過ちを犯しても後悔はいまでもしていない。 自分が生きる事が彼女を愛する事だと信じているから。 |
■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 依頼人である沙桐と待ち合わせているのは開拓者ギルド。 先だって待ち合わせの個室に御樹青嵐(ia1669)が中に入ると、そこにはぼんやりと座って鳥の根付けと片翼を模した銀の首飾りを見つめている沙桐の姿。 「あれは‥‥」 呟いた和紗彼方(ia9767)には記憶にあるものだ。 半年ほど前に彼方が沙桐と麻貴に自身が選んで贈った根付けだ。片翼を模した銀の首飾りは沙桐の祖母が与えたもので、対になる片翼は理穴にある。 青嵐の後ろからひょこっと、珠々(ia5322)が抜け出して沙桐の前に立つ。 「あ、きたの‥‥」 目の前に立たれて沙桐がようやっと人の気配に気付くと、珠々はきてくれた事を労おうとする沙桐の言葉を遮って彼の頭を無言で撫でた。 まだ無表情しか出来ない珠々であるが、瞳の色までは訓練がまだ足りてなかったようだ。 どこか、動揺しているのだ。何故かそうしなくてはならないのか。珠々には理解する事が出来なく、心が揺れている。 「‥‥沙桐様、大丈夫ですか」 遠慮がちに白野威雪(ia0736)が声をかけると、沙桐が目をゆっくり見張り、心細そうな珠々に気付き、自分がどんな状態であったかやっと気付いた。 「ありがとう、ごめんね」 微笑む沙桐に雪はほっと安堵した。 「衝撃的な状況なのは分かるけど、仕事は仕事だよ」 じっと、輝血(ia5431)が沙桐を見つめると、沙桐はにこっといつもの笑みを浮かべた。 「そうだね。行こうか」 待ち合わせ場所に着いて早々になるが全員は現地へ行く気満々だった。 ●不満と疑惑 折角のほぼハーレムなのに‥‥と鉱山へ向かう道すがら不貞腐れていたのは村雨紫狼(ia9073)だった。 美人、美少女、美幼女が揃い、おまけにスタイルがいい者も多く、色々と観察を楽しみにしていたのだが、全員暗い表情をしていた。 それもそうだろう、深刻な状況であり、一刻を争うのだ。 「しっかし、恋人の家族を殺すなんて信じられねぇな」 どうも、紫狼の中では綸と伯父は恋人同士になっているらしい。 「どういう仲にしろ、殺す事はよくないよ」 沙桐が言えば、確かにと紫狼が頷いている。 手打ちや暗殺がよくあるこのこの世界でも人を殺すという事はしてはいけない事だ。 「愛ゆえにと言えば美しく感じますが、もし叔父が殺したとなれば、歪んでしまっているとも思えますね」 そっと、青嵐が目を伏せると、楊夏蝶(ia5341)が言葉を続けた。 「叔父さんが全員を殺したのかしら」 何人かがそれを考えていた。 確かに、遺体にはアヤカシが食い散らかした痕があった。だが、父親と祖父だけは刀の刺し傷が致命傷となった。 「‥‥明確な殺意が無ければ致命傷にはなりません」 きっぱりと言ったのは珠々だ。 「叔父さんが殺したとしても、何から逃げたかったのかしらね」 ぽつりと呟く緋神那蝣竪(ib0462)に全員が押し黙る。 「沙桐様の御見解はいかがでしょう‥‥」 雪が沙桐に声をかけると、沙桐は言葉を捜しながら声に出す。 「父親と祖父は間違いなく、十中八九叔父さんに殺されてる。気になるのは何でこの時機で殺人が起きたかのと、綸ちゃんがお見合いの事を何で口に出さなかったのか」 沙桐の問題提起に全員が怪訝な視線を沙桐に送る。 「そんなの、叔父さんの事で悩んでいたからでしょ」 那蝣竪が煙に巻くように言えば夏蝶が首を傾げる。 「でも、言われてみれば気にはなるけど、そこは関係ないんじゃないかしら」 「綸ちゃんは叔父さんの事をどう思っているんだろうね」 更に言葉を続ける沙桐に輝血が目を細める。 「両想いの可能性って事?」 全員、叔父が綸に対し、血縁者以上の愛情を持っているという事は予想していたが、綸が叔父をどう思っているか特に誰も考えていなかった。 「そうなんじゃねぇの?」 きょとんとする紫狼に沙桐は肩を竦める。 「まだ分からないさ。そもそも、特殊な土地でもない限り、あまり近親婚はないから。恋愛なんて人それぞれだよ」 話を一区切りした沙桐の背を見て彼方は心細い思いに駆られる。 愛なんて家族の温かい思いくらいしか思いつかない彼方にとって、今回の事は分からない事に不安を感じる。そっと、沙桐の着物の袖を摘む。 ひとりでいないで‥‥ 「一人になんかならないよ。大丈夫」 「私も皆様もいらっしゃいますわ」 思った事をどうして沙桐が分かったのだろうかと彼方は肝を冷やしたが、沙桐の隣を歩く雪にまで分かったのだから、口に出したのだろう。 慌てる彼方に沙桐が彼の祖母のように優しく微笑み、彼方は少しだけ不安が解れた。 ●彼の女の真意 鉱山に入る前に雪が一度瘴索結界を張った。 ふわりと、銀と赤の淡い光が雪の身体に纏われる。 「‥‥この辺にアヤカシはいないようです」 静かに雪が言えば、夏蝶が二手に分かれる為に地図の写しをもう一班に渡した。 「とりあえずは超越聴覚で会話しましょ。青嵐さん、人魂での探索をお願いね」 「分かりました」 こくりと頷く青嵐が地図を受け取った。 「しらみ潰しに探すしかないね」 溜息をつく輝血が先に歩き出した。 小さな鉱山であったが、いざ歩けば、暫く使われていなかったのか、道が少し荒れていた。 沙桐と分かれる際に年少組の珠々と彼方が心細げに沙桐を見送った。 「‥‥沙桐兄様、大丈夫かな‥‥」 「いくらあんた達が心配しても、状況は変わらないよ」 厳しい先輩である輝血が冷静に言った。 「そうですね。ですが、全てが終わったら、沙桐さんに笑いかければいいと思いますよ。笑顔は人を笑顔にさせる効力があります」 優しく諭す青嵐に二人はこっくりと頷く。 「ねぇ、沙桐君。愛って何なのかしら‥‥」 那蝣竪がぽそっと呟いた。 「相手を見る事じゃない? 俺も愛だ恋だって上手くは言えないけどさ、恋って自分で完結出来ちゃうんだって、素敵な人を思うだけで幸せになれる。でも、愛は相手を喜ばす事や幸せにさせる事だってばぁ様が言ってた」 「言葉遊びだけで恋とか愛とか分からないの‥‥」 いつもは愛らしく不敵な笑みを浮かべる那蝣竪だが、この時は心細げに俯いていた。 「那蝣竪ちゃんは今まで遊びだったの? 御幸の事とか、季春屋さんの時とか」 「そんな事無いわ!」 冷たく言い放つ沙桐に那蝣竪は顔を上げて声を荒げた。自分なりにもがいていた事だ。シノビの後ろ暗い世界で生きていた那蝣竪にとって、開拓者の仕事はある種未知だ。 憧れた世界に触れて自信が無いのだ。 「俺もばあ様も君の誠意をいつも嬉しく感じているよ。その誠意は愛といっても過言じゃない。愛は色々とあるんだ。一つの愛を那蝣竪ちゃんはできてるんだ。自信持って」 微笑む沙桐に雪も以前向けられた笑顔と言葉だ。 「愛って、周りが見えなくなる事があるのよね」 「省みる事が出来なくなるほどの愛って幸せなのかしら‥‥」 溜息をつく夏蝶に那蝣竪が首を傾げる。 「愛してる時って、幸せなんだって」 「沙桐さんもそうなの?」 答えた沙桐に夏蝶が素朴な疑問をぶつける。 「‥‥うん、そうだね。やっぱり、夢中になるよ」 懐かしそうに寂しそうに沙桐が微笑む。 沙桐の記憶に愛しい片翼の泣き叫ぶ声が甦る。 歩いていて、特にアヤカシはいなかった。 それだけは安堵する所だった。 綸も叔父も志体は持っていなかった。 例え、アヤカシにとり憑かれていたとしても、戦う術は持っていないと思われただけに。 ある一点で二班が合流した。 「随分と高い所まで登ったな」 紫狼が振り向くと、遠くの街並みが見えた。 「山越えでもする気だったのかな」 輝血が言えば、青嵐が夏蝶が渡してくれた地図を見て頷く。 「そうかもしれません。この道は反対側へ続く道です。このまま降りると他の町に出るでしょう」 「‥‥愛の逃避行も悪かねぇが、やりすぎだろ」 「進もう」 紫狼が苦々しく言うと、輝血が前を向く。 愛や恋は他人のを傍で見るだけ。何が愛かまだ分からない。 他人とは自分が効率よく動く為の道具だったはずなのにどこで間違えたのだろうかと時折、『輝血』としてのシノビが輝血を嘲笑う時がある。 周りから与えられる温かい何か。 それが何なのかは輝血は理解できていない。 妙に耳が遠くの音を拾っている。 足音が聞こえる。 複数だ。 「‥‥逃げてくれ‥‥」 言っても奥の闇で震えているままだった。 ずるりと、重い身体を引きずり、外へ動いた。 最後の休憩所という名の穴蔵の前に着いた開拓者達は佇むしかなかった。 暗視を使っていた那蝣竪は闇の中で動く影を見つけた。 「出てくるわ‥‥!」 身体を引きずるように影が出てきた。 食事を摂っているとは思えない痩せこけた頬は酷く血の気が悪い。呼吸が浅く、血走った目もぎょろっとしている。ここに逃げ込む前は優しげな美丈夫とも思えた。 「‥‥あ‥‥」 か細い悲鳴を上げたのは雪だった。 アヤカシの反応が彼からしているのを感じた。 「いいよ、分かってるから」 輝血がぐっと、忍刀を握り締める。昼の光を反射し、水面の輝きが刃より煌いた。 「分かる‥‥私達の事」 夏蝶が声に出すと、男は血走った目を夏蝶に向ける。どこか、苦しげだ。 「このまま、貴方がここにいたら疲弊するだけ。誰か、一緒にいるわね‥‥」 探るように夏蝶が言えば、男は穴の奥を守るように立ちふさがる。意識が持っていかれそうになるのか、気休めに頭を抱えている。 「その人の為にも‥‥その人を解放してあげて‥‥」 切なる那蝣竪の言葉に男は更に呼吸を荒くしている。 「聞きたい事があります。貴方が家族を全員殺したのですか」 青嵐が言えば、男は首を振った。 「‥‥確かに‥‥父と兄は殺した‥‥」 途切れ途切れに男は告白をした。 多分、男の瘴気に導かれて人の肉に気付いたのだろう。 「何でそんな事したんだよ! 身勝手じゃねーか!」 「私は、綸を愛しすぎてしまった‥‥彼女が祝言を挙げては手に入れることが出来ない。あの愛らしい笑顔も私を呼ぶ声も他の男のものになるなんて‥‥絶えられないからだ‥‥!!」 紫狼が叫ぶと、男は心の内を打ち明けきれば、苦しそうに両手で頭を押さえる。 人食衝動と戦っているのだ。 「もう、あいつはだめだ」 一歩前に出たのは紫狼だ。 両手には同じ型の刀があった。 瘴気に魅せられ、堕ちた人間に救う術はいまだ見つかっていない。もう、斬るしかないのだ。 「‥‥待って‥‥」 誰かが紫狼を止めようとしたが、彼は咆哮を発動させていた。 「やめて‥‥!」 叔父の後ろからに出てきた声が叔父を背に開拓者に立ちはだかる可憐な声。 恐怖と混乱で震えているのだろう。此方も呼吸は荒く、黒く豊かな髪は乱れ、汚れ、瞳には涙の痕が残っており、着物もよれよれの少女。 「‥‥綸‥‥」 「や、やめて‥‥」 もう、何が何だか分からないのだ。だが、目の前にいる開拓者は確かに、自分の家族を殺そうとしている。その家族が人ではない何かだというのを本能で感じ、恐怖に怯えているが、血が、家族を守りたいと思う血が綸を奮い立たせている。 「うう‥‥あああああああ!!!」 紫狼の咆哮に叔父が叫び声をあげる。手が変形している。爪が以上に伸び、血管が浮いている。とうとう、人としての意識が負けた。最後の良心として、叔父は綸を突き飛ばした。 ふと、雪が沙桐の横顔より何かを感じ、素早く加護結界を沙桐にかけた。 「よし!」 紫狼が歓喜の声を上げると、刀を握りなおした。それよりも早く、輝血が綸を空中で抱きとめ、珠々が綸を毛布で包み確保した。 「おおおおお!」 最早人としての理性は無いのか、叔父が開拓者達に向かって走ってきた! 那蝣竪と彼方が叔父を脇から動きを止めると、珠々に綸を託した輝血が体勢を直し、忍刀を逆手に持つ。抑えていたはずの彼方が振りほどかれ、青嵐の呪縛符が叔父を縛り付けるが、最期にと彼方に叔父の爪が襲い掛かる! 刹那、二つの刃が叔父を襲った。 背後から逆手に持った輝血の刃が胸に刺さる。 彼方を片手で抱き、叔父の爪を受けた沙桐が叔父の首を刎ねた。 「‥‥大丈夫ですから」 毛布に包まれ、視界を奪われた綸に珠々が耳元で何度も言った。綸は珠々にしがみついていた。 叔父の爪を受けた沙桐だったが、雪の加護結界で無事だった模様。 「沙桐、あたしだけでも大丈夫だったんだけど」 「こういうものは一人でやるもんじゃないよ」 お兄さんぶる沙桐が何だか腹がたち、輝血は沙桐の背を叩いた。 「輝血さん、ご無事ですか」 心配そうに駆け寄る青嵐に輝血は何気なく青嵐を見上げる。なんとなく、青嵐の心配する言葉に心の外側がじわっと、温かくなった気がした。 「女性陣は綸さんを連れて先に下りてください」 青嵐が言えば、夏蝶が頷いた。 「はじめましょうか」 珠々よりもう一枚毛布を受け取った青嵐が毛布を広げた。 そう、叔父の遺体を搬送するのだ。 一刻も早く、降ろして埋めてあげねばならない。 人として。 ●過去の狂い 男性陣が降りてくると、夏蝶が気を利かせ、前回家族を葬った場所の隣に叔父の分も穴を開けていた。 「助かるよ」 沙桐が言えば、夏蝶は黙って頷く。 叔父の遺体を埋め、四人は冥福を祈る。 綸の家に一番近い宿に綸を休ませていた。 夏蝶の説得に綸は淡々と受け入れていた。 「私は‥‥祝言を挙げる事を恐れてました‥‥」 ぽつりと、綸が呟いた。 「それを叔父に言ったら、叔父は想いの内を私に言いました‥‥」 「怖かったのです。父と祖父を殺すほどだったなんて‥‥ですが、叔父を拒絶も出来ません‥‥」 「家族ですもの‥‥愛してもおかしくないじゃないですか‥‥」 ぽろぽろと綸が泣いた。 多分、今回、初めて泣いたのだろう。 慌てて彼方が綸を抱きしめる。 家族を愛する気持ちとたった一人の女性を愛する気持ち。似ているが、異なるものだ。 泣き疲れて眠ってしまった綸は別室で寝かせた。 壁に寄りかかり、俯く沙桐に雪が傍らに座る。 「沙桐様は、後悔をしているのですか?」 雪の言葉に沙桐は眉を潜める。 「私、実はお誕生日の宴で手の平を見ておられた事が、気に掛かっております」 はっと、沙桐が顔を上げて雪の方を見つめる。青嵐と輝血がはっと思い出した。 「今回の事と繋がりがあるかは私には分かりません」 毅然とした瞳で言う雪はまるで、自身の祖母を思い出す。目を細め、雪の頭を撫でようと手を上げるが、自分の手で雪の頭を撫でるのを躊躇い、引っ込めようとした時、雪が沙桐の手を握る。 「お一人で悩まないでください。私も、皆様も沙桐様のお友達なのですから」 「ともだち‥‥」 毅然とした表情から柔らかく微笑む雪に沙桐は笑おうと思ったが、複雑に感情が入り乱れ、顔を歪ませるしかできなかった。 「雪の言うとおりだよ。それになるようにしかならないんだから、考えすぎないようにね」 「ありがとう」 輝血が呆れるように言えば、沙桐は皆に泣きそうな声で礼を言った。 |