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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 東家より戻って来た沙穂は上司になる柊真に報告をしていた。 陽光に毒を入れた犯人は家の中にいる者と断定した。毒が仕込まれた場所は現時点では箸だけで食事の度に仕込まれていた模様。 毒の種類は軽い痺れと眩暈を起こしやすくする類のごく弱い毒。だが、毒は毒。慢性的に摂取すると、体が弱るものだった。 「膳を持って行くのは決まった人間なのか?」 「話を聞いたら、三人で交代しているとの事です」 柊真が差し込んだ言葉に沙穂が淡々と答える。 「侍女に関して調べたか」 同席していた麻貴が尋ねると沙穂が頷く。一緒にいた開拓者が近隣にそれとなく尋ねていたようだ。 三人の女中の名前は弥久、粧子、里枝。粧子は他二人の女中とは遅く入り、美鈴の嫁入りより少し早いくらいに屋敷に入り、美鈴付きとなった。 夫婦とはいえ、四六時中一緒にいるわけではなく、顔を合わせない日だってある。寂しがった美鈴が粧子に陽光へ手紙を託したのが始まりだ。 それからというもの、粧子は美鈴と陽光の信頼を貰っている。 沙穂達が最初に美鈴に会った時に付き添い、お茶を持ってきた侍女だ。 勿論、食事の時も膳を持ってきていた。その時は美鈴の膳を持ってきていたが。陽光の膳を持ってきたのは里枝だった。 「ところで、陽光殿の毒の件は夫妻には話したのか?」 柊真が尋ねると、沙穂は頷いた。 「衝撃は受けたけど、覚悟はしていたようよ」 黙った後、沙穂が言うと、麻貴と柊真は目を合わせた。 「それと、判別は出来なかったけど、随分と悔しそうな声が聞こえたけど」 「ともなれば、志体持ちが来たという事は分かっていると思ってもいい。下手を打てば実力行使も厭わないだろう」 「シノビの可能性は考慮した方がいいな」 麻貴が溜息をついた。 「そっちはどうなの?」 沙穂が言えば、麻貴は特に変わらないとだけ言った。 現時点ではっきりしているのは普通の置屋ではないという事だ。 「火宵の手のものではないのだな」 麻貴が柊真に念を押すと、柊真は頷く。 「奏生で火宵の拠点はないのは確定だ。奴がここに来る時はいつも適当な宿をとっていた」 数ヶ月前まで火宵の側近の一人として潜入捜査をしていた柊真は奏生で火宵の手の者の拠点などを探していたが、火宵の拠点は奏生には存在しないというのがわかった。 「‥‥火宵の父親側の拠点の可能性は」 「そこまでは俺はわからん。火宵の方までしか出来なかったからな」 溜息をつく柊真を見て麻貴はそれ以上何も言わなかった。 「羽柴、お前はどうする」 「とりあえずは潜入か式神で内部調査の徹底をしてほしいけど、開拓者の動き次第かと。四組の人員は動かせるように出来ると檜崎さんも言ってました」 「とりあえず、人数には気をつけろ」 「承知」 麻貴が返事をすると、ギルドへ依頼を出しに部屋を出た。 「状況はあまり芳しいものではないのに随分と楽しそうですね」 ちろりと沙穂が柊真を見やる。 「ん? そう見えるか?」 柔らかく微笑む柊真に沙穂が頷く。 「この間の温泉で、沙桐が御婦人の手を握ったという話を架蓮から聞いてな」 「沙桐君、ああみえて硬派な所あるから」 「軽々しく女の手は握らないからな。成長したなぁ」 くすくす笑う柊真に沙穂は冷ややかな眼差しを向ける。 「半分でもアンタと血が繋がっているの嫌なんだけど」 「沙穂?!」 冷たい台詞を置いて沙穂も退出した。 |
■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
沢村楓(ia5437)
17歳・女・志
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ
エルネストワ(ib0509)
29歳・女・弓 |
■リプレイ本文 「あの‥‥情報の書き漏れは勘弁して下さいね」 おずおずと言うのは滋藤御門(ia0167)だ。 情報というものは多い方が良いに越した事はない。少しでも成功に導く為に必要なもの。 「この間、羽柴が一応シメたんだがな。足りなかったか?」 何でもないように柊真が言えば、御門は今回は大丈夫ですと言った。 「でも、どうして陽光さんだけなのかしら」 身分の高さから考えれば美鈴を狙ってもいい話だ。毒を仕込むなら‥‥と疑問を楊夏蝶(ia5341)が浮かべる。その後ろでは夏蝶から貰った差し入れに組員達が大喜びをする 「東家を狙ったのならば陽光殿のみでも構わないだろう。美鈴殿はあくまでも陽光殿の嫁。東家の繁栄を望まぬものの仕業と此方では判断している」 麻貴が監察方側の判断を口にすると、柊真が言葉を補足する。 「時間をかけたのは余計な火の粉をかぶる可能性があると犯人が考えた事と思う」 「杉明さんと陽光さんの件の関連性を調べてみたいんだけど」 「それは頼む」 エルネストワ(ib0509)の言葉に麻貴が頷く。 「火宵の関与は?」 微動だにしてなかった珠々(ia5322)が口を開く。里枝の様子を気にかけている模様。 「火宵自体が不透明でな。自分の部下が勝手に連れて行かれている事に対しては向こうも探りを入れているんだろうなという考えだ」 厄介だといわんばかりに溜息をつく柊真に沢村楓(ia5437)がきょとんと、柊真に視線を向ける。 「火宵の知らない所で部下を連れて行ったら何か起こるのか?」 「前に沙穂と夏蝶が見張っていた連絡役の遊女がいただろう。その後で放火をして逃げる手引きをしたのは火宵自らだ」 「仲間の為なら何でもやるという事ですか」 溜息混じりに御樹青嵐(ia1669)が言えば、柊真がその通りだという。 「今、出てきたとしても火宵の捕縛は現時点では最優先ではない。それだけは肝に銘じておけ」 静かに言い切る柊真に全員が頷いた。 「あ、珠々君」 それぞれが配置に付こうとした時に冥霆(ib0504)が珠々に声をかけた。 「なんでしょう?」 首を傾げる珠々に冥霆が渡したのは小さな箱。 「開けてみるといい」 言われるままに箱を開けると、そこには赤い大きな飴玉。 「いつも頑張ってくれているからね」 にこりと笑う冥霆に珠々は目を見張らせる。依頼は依頼料を貰うから、当たり前の事で、こんな風に誉めてもらえるものではないと思っていたからだ。 「良かったな。珠々ちゃん」 麻貴が笑うと、珠々は無表情のまま、頷いた。 よかったかの判断は出来ないが、飴玉を貰うという事は嬉しい事だから。 「麻貴様、どうかご無事で」 白野威雪(ia0736)が神妙に言うと、麻貴は微笑む。 「ありがとう、君もな。君に傷でもこさえたら、沙桐とばあ様にシメ殺される」 「まぁ、麻貴様ったら」 冗談と笑う雪に麻貴は本当なんだけどなと心中で冷や汗をかいた。 ●再び 夏蝶、珠々、雪、沙穂が東家に向かう途中、羽柴家で茜と合流する。 「宜しくお願いいたします」 頭を下げたのは茜。陽光や美鈴の体が弱くなっている原因が分かり、何よりほっとしている模様。 再び屋敷の中に入ると、女中頭であろう中年の女性が現れ、案内をしてくれた。 「若様夫婦は随分と体調が良くなられ、食欲も体力も出てきたのですよ」 「まぁ、そうでしたか‥‥」 茜と女中頭の話を聞く開拓者達は様子にほっとしつつも、心中では首を傾げていた。 陽光は毒で体力を削られていたはずだ。それなのに体調を回復して言ったという事はどういうことだろうか。 部屋に案内された部屋には美鈴と陽光がいて、問題の女中の一人がいた。 「下がってくれ」 陽光が女中に言えば、女中は頭を下げて部屋を出た。 「また来てくれて頂き、礼を申します」 優しく言う陽光の言葉に傍に仕える美鈴が頭を下げる。 「身体の調子はいかがでしょうか?」 雪が尋ねると、陽光は困ったような笑顔を見せた。 「体調が悪くなっていない所から、回復はしているのだと思います。毒が仕込まれていないという事は、病死を狙わなくなったという事もありえます」 陽光の言葉に全員が静まってしまう。 暗殺とは何をどう狙っていくかは分からない。 「でも、一つだけ安心しましたよ。狙うのは今の所私だけという話にね」 「そんな事はさせません」 きっぱりという珠々に陽光と美鈴は驚いたが、開拓者の在り方に陽光は微笑む。 「開拓者に子供も大人もないと聞いたが、こうまでも頼もしいのですね」 「そうよ。だから気を確り持ってくださいね」 笑顔で言う夏蝶に夫婦は頷いた。 「それでね、今回の件に関して、料理を運ぶ事が出来るように手筈を整えてほしいの」 「分かりました。厨房に出入りできるよう、手筈を整えさせていただきます」 相手はシノビの考慮をしている珠々は入り口付近に座り、超越聴覚を使用している。いつ、相手が動いてもいいように。 「珠々、動いてもいいよ。こっちで君の動きを補える事は補うから」 「はい」 沙穂が言うと、珠々は音もなく、屋根裏部屋へと動いた。 はっとなる夫妻や茜に夏蝶が大丈夫と笑いかける。 部屋の外に出た珠々はぐるっと、屋敷の間取りを確認する。 その際に見かけたのは里枝の姿。前回の調査時、里枝が誰かと密会していたという話がある。 以前の武器製作所の事から、男が里枝を誑かして毒を仕込ませたという可能性もある。 それを考慮し、珠々は物陰に隠れ、耳を澄ます。 「若様、元気だったのか、良かったな」 「うん、若奥様も随分元気になったんだよ。但馬家のお医師様が治してくれたんだよ」 嬉しそうに男と話し込む里枝に男も嬉しそうだったし、珠々が近くに隠れている事も気付かれていない様子だった。 「今度、休みが決まったら、一緒に簪を買いに行こうな」 「うん、楽しみにしているよ」 最後はぎゅっと抱き合い、ひと時の逢瀬が終わった。抱き合った瞬間、何かを渡されていないか珠々が目を凝らしたが、特に何もなかった。 一応、里枝は疑惑からは外れた模様。 お茶を貰いに台所まで行った夏蝶は持ち前の人懐っこさで情報収集をしていた。 「美鈴様、やっぱりお優しいのよね」 表向きは但馬家の女中として入ってきたので、美鈴を気遣う振りをしている。女中達にとって美鈴はとても優しい人だと笑顔だ。 「料理人ってどなたになるの?」 「源さんよ。今、あそこでお芋を剥いている人」 女中の一人が言えば、行った先で芋の皮を剥いている壮年の男の姿があった。その他にも作り手は二人いるらしい。大きな屋敷なので、盛り付け役は四人いるとの事。 「今回、貴女達がお膳を運ぶと聞いたわ。若夫婦様のお箸はここよ」 教えてくれたのは丁度通りかかった弥久だった。今回の容疑者の一人であり、注意すべき人間の一人だ。 「ありがとう」 夏蝶が礼を言うと、思い出したように尋ねる。 「美鈴様付きの粧子さんって、どんな人? とても気が利いて、物知りなのよね」 侍女達の評判は良くて、嫌いな人はいないと言わしめたほどだ。 「確か、陽光様の御友人からのご推薦って聞いたわ」 「そうなの。随分と気が利いた人だから、育ちがいいのね」 わいわいと若い女中達と夏蝶は情報を拾っていた。 「そう言えば、石楠花は葉に毒があるんですよね」 「ああ、即効性は無いが、身体に害はある」 雪が呟くと、陽光が頷く。 「石楠花の葉は花のすぐ側にありますね‥‥きっと考え過ぎですよね」 苦笑して話を振り切ろうとする雪に沙穂はそっと瞳を落とす。 「考えすぎかどうかを調べるものよ」 そっと口元に微笑を浮かべる沙穂に雪はこくりと、頷いた。 そう、花の傍に葉はあるものだから‥‥ 「戻りました」 夏蝶が言えば、お茶を持って中へ入ってきた。 お茶を沙穂に渡して夏蝶はたわいも無い事を話ながら筆で目的の言葉を書き出す。 その話に笑いながら返し、陽光がその隣に答えを書いた。 『粧子を推薦はどなたより?』 『東雲家嫡男。私の旧友にあたる。元は彼の父上の推薦だという』 詳しい事は別で調べようと夏蝶は話を切り上げる。 それと同時に珠々が戻ってきた。 「美鈴様、桜餅は二種類あるのは本当ですか?」 首を傾げる珠々に美鈴が微笑み、違いを説明する。 「どちらも美味しいものですよ」 美鈴とのんびり話しつつ、珠々の手は里枝がシロである事を伝えている。 弥久もそれほど目立った黒さは無かった。 残るは粧子だ。 ●策の宴 麻貴と柊真の友人である芙蓉の力を借り、目的の置屋の芸妓達を引っ張り出せる事に成功した。 問題は男衆の連中が数人いる事だ。その辺も、芙蓉が気を利かせ、手が足りないと引っ張り出してくれた。 「ま、柊真に借りができるのは気分が良いからね」 ふふと笑う芙蓉に柊真が表情を引きつらせたとか。 楓の提案で、芸妓達を拡散させる為に複数の揚屋や料亭で偽の宴を用意させていた。 宴の為の客は監察方の他の組の面子を用意させていた。 「華やかな事に関われないのは残念ではあるが、まずは入ろうか」 きゅっと、手袋を嵌めなおした冥霆が楓に言うと、楓は静かに頷いた。 表では精神的ショックより復活した椎那が人魂で巡回しており、一応は置屋の中は空らしい。冥霆が更に小石で戸を叩いたが、特に反応は無く、中が空である事が判明した。 二人が中に入り、奥の部屋へと向かった。 宴組であるエルネストワは芙蓉の懇意に甘え、麻貴の護衛となるべく、外の隠れやすい所にいた。 もう二つの宴には梢一や檜崎なんかも入っているらしい。 静々と店の者達が宴の用意をしていく。 他の場所から、麻貴が狙われていないか、尾行が無いか確認していたが、特には無かった。 少し、身体をずらすと、目的の芸妓達が料亭の主に挨拶をしている姿が視界に入った。 「どうなる事か‥‥」 ぽつりと呟くエルネストワの言葉は春の匂いを含んだ風に連れて行かれてしまった。 御門と青嵐は麻貴と一緒に宴に参加していた。 狙いの芸妓達も参加しており、舞を見ていたり、お酌をして貰ったりしていた。 「とても素晴らしい舞でしたね。僕も楽器を嗜んでおりますが、僕の音に合わせて貰えるなんて厚かましいですよね」 「いいえ、とんでもない。是非に」 微笑む芸妓に御門が笛を取り出して曲を奏でる。 その美しい音色に全員が溜息をついた。芸妓もうっとりと、その音色にあわせ、しっとりと踊った。 「見事な音に舞が加われば更に完成度が増しますね」 楽しそうに微笑む青嵐が麻貴に言えば、麻貴は杯を口につけてその通りだと笑う。 「とても綺麗な肌に髪。殿方なのに羨ましいですね」 芸妓の一人が青嵐に言えば、麻貴がニコニコと笑う。 「ああ、彼はとても綺麗な人でね。化粧をしたら女性と見間違うほどであるぞ」 「確かに、透き通るような肌に白粉をつけて、少し紅をつけるだけで絶世の美女でしょうねぇ」 うっとりとする芸妓に青嵐が試してみますか?と言えば、麻貴が綺麗にしてやってくれと笑う。 「まぁ! こんないい男を?」 「私もやりたいわ!」 きゃいきゃいと芸妓達が青嵐を別室に連れて行った。 御門もまた、自分の笛と合わせてくれた芸妓達と酌をしている。 外で見ていたエルネストワは警戒を怠っていない。ふと、気付けば、夏蝶がエルネストワの隣にいた。 「どんな感じ?」 「まだ見破られていないわ。他の班がどうなっているかは分からないけど。そっちは?」 首を振るエルネストワに夏蝶はほっとしたような表情となり、分かった情報を伝える。 「事態がどうなるかわからないわね‥‥」 「ま、お互い気をつけましょ」 溜息をつくエルネストワに夏蝶はウィンクして離れた。 彼女はこれから置屋に向かうらしい。 その一方、夫婦の膳の用意を珠々と沙穂と茜がしていた。 特に何も怪しい所はなく、すんなりと箸を用意して膳を持っていく事が出来た。 その後ろには粧子が控え、ついて来ている。 特に怪しい動きはなく、静かについて来ている。 部屋に着き、膳を揃えていると、粧子が一歩夫婦の前に出る。 「粧子‥‥?」 ふと、見上げる美鈴の言葉が口火となり、粧子が畳を蹴り、自身の懐に入れていた短刀を逆手に持った! はっとした珠々と沙穂が追うが間に合わない。 「‥‥っ! ああああああ!」 甲高い声をあげ、粧子の動きが止まった。 彼女を纏うのは一点の曇りなき炎だ。 「傷つけさせません!」 鋭く叫ぶ雪にはいつもの穏やかさはなくなっていた。 力なき者に暴力を振るう者への断罪の声。 「くっ!」 粧子が引き返そうとした瞬間、機転を利かせ沙穂が着物を脱ぎ、忍び姿になって脱いだ着物を粧子に被せ、珠々と一緒に取り押さえる。 珠々がとっさの判断で粧子の口の中に手拭いを突っ込む。 「ご無事ですか!」 茜と雪が夫婦を気遣う。 「大丈夫だ‥‥」 呆然とする陽光であったが、無意識で美鈴を抱きしめていた。 そんな夫婦を見て、雪がそっと微笑んだ。 ●疑惑の蕾 置屋を調査していた楓と冥霆が一番の目的は手紙だった。 もしかしたら、その相手が判明すれば何か分かる可能性があるからだ。 燃やされている可能性を考えており、冥霆は火鉢の方を確認した。見た所、何か、燃やされた形跡があったが、火箸で中をほじくると、中から紙の切れ端が出てきた。何かの判が分からなかったが、それだけを摘んで、後は何もなかったように戻した。 楓は小さな棚を探しており、奥の方に手紙があった。紙が新しいところから、数日前に届いた物だ。 だが、内容はさし辺りがないものであったが、冥霆が気付く。 「もしかしたら、暗号の可能性があるね」 「これは割り印だろうか」 楓が言えば、冥霆は目を細め、自分が持っていた紙をひっくり返し、楓の持っている手紙と合わせる。 「家紋のようだね‥‥覚えておこうか」 冥霆が言えば、楓は頷き、手紙を元の位置に戻した。 「‥‥夏蝶君が近くにいるようだよ」 冥霆が呟けば、夏蝶が屋根裏から降りてきた。 「何か分かった?」 「手紙の持ち主の手がかりがあったよ。まぁ、後で麻貴君にでも確認をするつもりだ」 「そう、私は東家へ戻るわ。またね」 夏蝶が言えば、二人は彼女を視線だけで見送った。 偽の宴を終えた宴組は監察方へと向かった。 エルネストワは少し離れて歩いている。 「時間を稼げられたならいいのですが」 御門が心配そうに言うと、麻貴は微笑む。 「大丈夫。あれだけ引っ張ったのだ。何もなければすぐに引くだろう」 「そうですね。あの芸妓達は随分としぶとかったですね」 化粧を綺麗に落としてもらった青嵐が呟く。 三人が時間を引き延ばしつつも言葉の罠を張っても何も反応がなかった。 「訓練されているという所から、シノビと判断していいだろう」 「体臭もありませんでしたね」 更に確定するように御門が呟いた。彼女達からは酒と白粉の匂いしかなかった。 「一度戻って確認するべきですね」 青嵐が言えば、監察方の役所が見えた。 |