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■オープニング本文 暦の上では春となっているのですが、武天の国の中のとある地方ではまだまだ雪が深い地方があります。 その地方に住まうとある着物絵師が工房を構えて住んでおりました。 完全防寒の姿で嬉しそうに歩いているのは武天は此隅の着物問屋三京屋の若き主の天南です。 手にはまるで日の光を弾いて輝く雪原のような美しい着物布地を両手で大事そうに持っています。 まるで、今歩いている雪原のようにまっさらであるが、細かく雪の結晶が光を反射しているようです。 そろそろ幼馴染が一目惚れした見合い相手との祝言があるのです。 仲良し四人組の一人が先に嫁を貰うのです。 幼馴染としては可愛いお嫁さんに贈り物をしたい。 流石に打掛を贈るのは親の役目だと思い、綿帽子を贈らせてくれと花嫁の父親に直談判を求めに行ったほどでした。 幼馴染自体は殿方なので、特に用意はしないようで、可愛いお嫁さんを更に素敵にしたい思いからきたそうです。 「喜んでくれるといいな」 嬉しそうに天南が言いますと、きらっと、何かが開拓者と天南の方へ急降下しました。 「きゃ!」 ばさっと、天南の前に翼が広げられ、天南は目を瞑ってしまいます。 次に目を開けた瞬間、天南の手に布がありません。 はっと、開拓者の一人が顔を上げたら鳥が持っていってしまったのです! 何とか鳥を追いかけ、遠距離威嚇攻撃に驚いた鳥は布を落としてしまいました。 ええ、雪の中に。 「拾わなきゃ!」 天南が駆け出してしまうと、開拓者の皆も駆け出します。 ひゅーるるるるるる‥‥ 冷たい風が一瞬吹いたと思ったら、雪がちらちら降り出しました。 「え、雪?」 驚く開拓者が前方を見れば、布が落ちた重みで雪に開いていた筈の穴が塞がっていました。 先程舞い上がった風が雪も運び。穴を塞いだようです。 全員呆然。 因みに、その布、替えはなく、受注してから作る一点ものです。 「ほっくりかえすわよーーー!!」 天南はもう、決死の覚悟です。 くるっと、振り向いた天南はこう言いました。 「サボったら依頼料出さないように苦情言うから」 「ひっでーーーー!!」 開拓者の気持ちは一つになりました。 |
■参加者一覧
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
鷹来 雪(ia0736)
21歳・女・巫
椿 幻之条(ia3498)
22歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
セフィール・アズブラウ(ib6196)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 「まっちろです」 ぽかんと、呟いたのは珠々(ia5322)でした。 他の皆も同じ様子です。 白い白い雪面はまるで、墨を落としていないまっさらな紙のようです。 「またよりにもよってなところに落ちたね」 天南の隣で呆れた声を出したのは輝血(ia5431)です。 鳥を落としたのは天南でした。慌てて雪球を作って鳥に投げつけて落とさせたようです。 「とんだオチよねぇ」 葛切カズラ(ia0725)は簡単な依頼だと信じていたもようで、こんな事になるとは思いもよらなかったらしいです。 「て、布、どこにあるんだろーーー!」 呆けたままで少し遅れて意識を取り戻した和紗彼方(ia9767)がばたばたと大騒ぎをはじめました。 「まぁまぁ、落ち着いて」 のんびりと笑いかけるのは椿幻之条(ia3498)です。 艶麗とも言える優しい微笑みに慌てる彼方もぴたりと大人しくなります。 「まだ雪はさらっとかぶった位と思いますし。ローラー作戦で何とかなります」 両手に荒縄とタージェを持ったセフィール・アズブラウ(ib6196)がきっぱりと言います。 「冷えは女性の大敵です。早く終わらせましょう」 白野威雪(ia0736)が言えば、全員が頷きました。 ●まずは拠点を作ろう 「よっと!」 数人の開拓者が背負っていた物を一度雪の上に下ろしました。 沢山詰まっているはずなのに、重さを感じさせないのは志体の力なのです。 まず取り出したのは天幕。 「毛布とか、寝袋もあるからな。体力が落ちたら使ってくれ」 「非常食もあるからね」 てきぱきと天幕を立てて中を整理する劉天藍(ia0293)に彼方が更に食料用意してくれたようです。 「用意がいいねぇ‥‥」 「雪が多い所に行くんだろ。当然じゃないか?」 完璧すぎる用意に天南は感動で呆然としています。 そんな天南を見て天藍はきょとんとして首を傾げます。 天藍の言う通り、雪は恐ろしいもの。準備を万端にして非常時に備え、依頼人を守るのも開拓者の務めです。 「女性ばかりだからな。白野威さんの言う通り、冷えは女性の大敵だっていうしな」 どうやら天藍は幻之条を女性と勘違いしているようです。 元女形という経歴を持つ幻之条の艶やかさは女性的であり、間違えるのは仕方ないかもしれません。 「天にぃ、ボクも頑張るよ!」 ‥‥彼方も間違えているようです。 「それに、天南さんは沙桐兄様と架蓮さんの幼馴染だし、何かあったらきっと沙桐兄様達悲しむよ」 くるっと、振り向いて天南に言う彼方に雪も同じく頷きます。 「大切な幼馴染様の為にこんな苦労を買って出るのですもの。無事に帰すのが私達の役目です」 「友人を大事にする事は良い事です」 セフィールが言えば、天南はにこっと「ありがとう」と言いました。 「皆、荷物入れてもいいぞ」 天藍が言うと、皆は荷物を中に入れます。 「で、天南、落ちた方向はあっちでいいんだよね」 輝血が確認を取ると、天南は輝血が指差した方向を確認し、頷きます。 珠々、天藍、彼方、セフィールがそれぞれ長い木の枝や荒縄、ロープを持ってその方向へ歩いていきます。 大体の四隅辺りに枝を雪面に刺し、更に縄をつけて端を別の枝に括りつけました。 探す領域が出来たら、次は幻之条が前に出ます。 「今は晴れているし、さっさとおっ始めましょうか。召・炎獣」 幻之条が呼び出したのは紅蓮の狼です。 雪原に現れると、まるで雪の中に咲き誇る紅の寒椿のようであり、ひときわ紅の艶やかさを引き出している美しい狼です。 「綺麗ねー」 暢気に感動している天南に幻之条がくすりと笑います。 「綺麗だけじゃないよ」 意味深に微笑む幻之条は手を振りかざしました。 はっと気付いたのは同じ陰陽師のカズラと天藍です。 幻之条の炎獣は縄で区切られた場所以外の左右両脇の雪を炎で一気に融かしてしまいました。 「随分手っ取り早いね」 真っ青になりかけた天南を両脇で支えているのは輝血と珠々です。 「この手の事は二度手間になりやすいからね」 「それには同感よ陰陽師の人、手伝って」 カズラが人魂をで式神を形成していきます。出来上がった姿は犬の姿です。 「肉体労働は必要な時にするものよ」 天藍、幻之条も犬の式神を形成し、ローラー作戦で行くようです。 「人の手は必要と思いますので私は行きます」 セフィールが言えば、雪も頷きます。 「では、暖を作りましょう」 雪が祈ると空中に赤く小さな火種が点りました。 さぁ、布探しです。 ●探しても探しても まずは人魂に縄で括られた場所を踏みしめてもらいます。 その後に人間達が更に探していく作戦となりました。 セフィールは装備していたタージェを鋤代わりにして掘り進めて行きます。布を傷つけないようにゆっくりと丁寧に。 それを見た珠々も真似をして狐の面を鋤代わりにして雪を掻き分けていきます。 「ん?」 ぴくりと反応したのは輝血です。輝血は超越聴覚を使用して雪と布がこすり合っていないか音を確かめていました。 「いかがしましたか?」 雪が尋ねると、輝血は顔を顰め空を見上げた。 「降ってきたみたい」 ちらちらと雪が降ってきました。雪が降る地方は天候が読みにくく、いつ雪が降るが分からない事が多くあります。 「吹雪く前には見つけたいものだね」 更に式神に探させていた幻之条も空を見上げます。 そう言っていたら、いきなり風が吹き、雪が生み出した火種が消えてしまいます。 「吹雪いてきたね、一旦退避よ」 雪から顔を守るように腕をかざすカズラが言うと、珠々は一度、振り向いたが、そのまま探そうとします。 「ダメよ」 天南が珠々を小脇に抱えて天幕へと向かいます。 天幕は入口が向き合うように風から守るように立ててあり、松明を火種にして天藍がお湯を沸かします。 沸かそうとしている水の中に適度にちぎった芋幹縄を放り込み、沸くのを待ちますと、ふんわり温かい匂いが立ち込めると、彼方が干飯を入れます。 少し待ちますと、温かい味噌芋粥の出来上がりです。 皆でふうふう食べながら雪が止むのを待ちます。 「そういや、あの布は幼馴染に当たる方の結婚式に使われると聞きましたが」 「うん、綿帽子に使うのよ」 セフィールが声をかけると、天南はにこっと笑う。芋粥を食べて温まったのか、顔がほんのり赤くなってます。 「綿帽子‥‥?」 首を傾げると、彼方が形状を身振り手振りで教えると、セフィールはジルベリアで言う所のベールで言う事が分かり、納得します。 「実用的なのはよい事ですね。この時期ならばまだ寒いでしょうし」 「幼馴染の方の幸せ、そしてお嫁様の幸せをも願うお気持ち、とても素敵ですよね」 天南の優しさにほんわかと胸が温まる気持ちでいた雪が言いますと、天南は雪の方をじっと見ています。 「私の顔に何か‥‥」 きょとんとする雪に天南はくすくすと笑いながら「なんでもないよ」と言いました。 「幸せ者に決まってるよ。あたし達にこんな事に巻き込ませるんだから、未来永劫幸せにならないとね」 きっぱりと言い切る輝血が「幸せ」という事を理解しているのかはさておきましょう。 酒が平気な人には輝血より少しずつ酒を与えられました。 「寒い時の酒はありがたいね」 ふぅと、艶やかなため息をつくのは幻之条です。温かい格好をしていますが、酒は少量でも指先まで暖がいきわたります。 「どうぞ」 子供や酒が苦手の人にはセフィールよりチョコレートを渡されます。 「チョコレートだ」 ぱっと、顔を明るくする彼方と一緒に酒が苦手な雪も嬉しそうです。 「甘いのは嫌いじゃないです」 少しずつ、味覚というものを理解してきた珠々もチョコレートは嫌いじゃないという分類に入るらしい。 「チョコレートはお菓子だけではなく、こういう時に少量でも食事ともなります」 「そうなのですか」 セフィールの説明に珠々が真剣に聞いています。 「雪がやんできたね」 カズラが呟くと、少しずつ雪が止んでいきました。 また、捜索開始です。 ●開拓者の底力 吹雪いていたので随分と積もりましたが、幻之条の焼き払いなんかも効果があったようで目星のロープは残されていた。 「もう一回だね」 幻之条が言えば、陰陽師達がまた人魂で式神を形成し、再び雪を踏みしめて歩き出します。 シノビ達の火遁の協力もあり、どんどん進んでいきます。 ゆっくり慎重に雪を踏み、雪をかいて、融かしていきます。 珠々が冷たくなった手を見ると、真っ赤になっています。悴んでとても痛々しいです。ですが、仕事を疎かには出来ません。 天南を困らせるわけにはいきません。 また作業を開始しようとする珠々に天南がそっと手を握ります。 「ちょっと暖まらせて」 依頼人に言われては珠々は仕方なく立ち止まります。天南の手もとても冷たいのですが、なんだか温かく感じます。暖かいワケではないのに。 とても不思議というように珠々が顔を見上げると天南がにこっと笑う。 「ありがとう、付き合ってくれて、今、私が出来るのはこれしかないの」 それがどういう意味か珠々は判るような気がしましたが、記憶が思い出せません。最近の記憶だというのに忘れているようです。 雲行きがおかしくなった事に気づいた輝血が顔を上げると、陰陽師達の式神が雪以外のものを踏みしめる音をいち早く感じました。 「あれ」 踏みしめていたのは幻之条の式神です。視覚と聴覚を共有しているので、幻之条にも感じる事が出来たようです。 「もしかして」 珠々も彼方も音に気付きました。 走り出すシノビ達。 そこに何かの采配外の突風が吹きました。 かなり強い風に誰もが動きを止められ、式神達もころりとその場から転がってしまいます。 「シノビを‥‥」 風に負けず、一歩踏み出した輝血が呻きます。 「シノビをナメないでよ!」 叫びの数瞬後、時が止まりました。 何も聞こえない。誰も何も動かない。 まるで、誰もが寝静まった深夜の感覚。 横なぎに吹かれていた雪も止まり、先を走る輝血の肌を冷やすだけ。 無音の世界。 短い短い時間ではありますが、無とは人を不安にさせ、狂わせる材料です。 シノビは耐性をつけるように訓練を積む事もあります。 いかなる事態にもシノビは訓練を積まされているのです。 輝血は走り出して少しだけ顔を出した美しい刺繍に目掛けます。 手を伸ばし、指先が布に触れるか否かの時に再び時は進みだしました。 ヒュウウウウウウウ! 輝血は突風と一緒に運ばれた雪をかぶるハメになりました。 「輝血ちゃん!」 天南が輝血の方に走り出します。 「大丈夫ですか」 セフィールと珠々が輝血を傷つかないように優しく雪を掻き分けます。 輝血の黒い髪が見え、輝血は倒れこんだ身体を立ち上がらせます。 「っぷは!」 「夜を使ったのですね」 息をつく輝血に珠々が言えば、こっくりと頷きます。 その向こうでは天藍が丸めた毛布を幻之条に投げています。 「無茶したねぇ。首尾は?」 輝血に毛布をかけてやりつつ、幻之条が確認すると、輝血の腕の中には雪と見紛う美しい刺繍をされた布があります。 「確認して」 輝血が天南に布を渡すと、天南は刺繍をされた布袋の中より同じ刺繍の布を確認します。 布自体は元から厚手であり、袋は二枚の布を合わせた所為もあって布地は濡れてはいませんでした。 「よかった‥‥」 安堵の溜息をついて天南は布を優しくも確り握りしめました。その声は震えてます。 「もう手放してはなりませんよ」 「うん」 セフィールの言葉に天南は笑顔で頷きました。 ●飲めや暖めや そろそろ大きな街道に出る所で開拓者達はこちらに歩いてくる人影を見つけます。 「沙桐兄様!」 「架蓮様に橘様も」 彼方が名前を呼ぶと、向こうで沙桐と言われた青年が手を振ります。同じく雪も他の人影の名前を呼びました。 「もしかして、幼馴染達?」 幻之条が言えば、天南は笑顔で頷きます。 「迎えに来てくださったようですね」 セフィールが言えば、天藍が行ってこいよと、天南の背を押します。 天南が駆け出し、三人の前に立つと、怒った永和が天南の頭を拳固で殴ります。 それには年少組がぎゅっと目を瞑ります。 「心配をかけさせるな」 溜息混じりに言う永和の表情はとても沈み、心配していた事が窺がえます。 「いい幼馴染さんですね」 殴られた場所をさすっている天南にセフィールが言うと、天南は自然と笑みをこぼします。 「近くに宿を取ったんだ。天南の奢りだから、好きなだけ温まるといいよ」 「やった! ごちそうだ!」 沙桐の言葉に手放しで彼方が喜ぶと、沙桐は冷たくなった手に気付きます。 「お疲れ様。寒かっただろう」 彼方の頭を沙桐が撫でると、彼方は子ども扱いされて少し膨れますが、誉められるのは嬉しいので怒らない事にしました。 「天南さんは沙桐さんの幼馴染だったのか」 天藍が沙桐に言うと、そうだよと笑います。 「橘様の御結婚が近いとは聞いてましたが‥‥そうでしたか」 納得の繋がりに雪が微笑みを浮かべます。 「近くなれば祝言の後の宴会の招待とかも考えている。御一考願いたい」 永和が言うと、開拓者はそれぞれの笑顔で頷きました。 「とりあえず外で立ち話も何だし。早く宿に行こう。天南、期待してる」 輝血が天南に言えば、ちょっとだけ天南の顔が引きつります。 「こうなったら前祝よ! ついて来なさいよ!!」 太っ腹に自棄になった天南の言葉に全員が喜び、歩き出します。 「お嫁さん‥‥か」 少し遅れて歩き出した雪はぽつりと呟きました。 沙桐の隣を歩く永和に抱っこされて恥ずかしい思いをしていた珠々がきょとんと、雪を見つめます。 なんでそんな事を呟いたのか分からないようです。 「雪ちゃん?」 沙桐が振り向くと永和も振り向きます。 「殿は俺達が歩こう。雪殿は前を歩いてくだされ」 「分かりました」 そっと雪が微笑み、小走りで二人の前を歩きます。 何かを胸に秘めて‥‥‥‥ |