偽りの潤い
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/30 21:42



■オープニング本文

 理穴首都より一日歩いた所に三茶という街がある。
 その街は大きな流通経路の通り道なのと、首都に近いという事でとても賑やかな街だ。
 華やかな街な分だけ治安が低くなる。治安の低下を防止する為、この街では任侠一家‥‥雪原一家が護っている。

 その雪原一家、街ではとても人気がありつつも畏れられている。
 人気の一つである雪原一家の最少年の赤垂。
 家族をなくし、身寄りがないという事で雪原一家の一員となった。
 一家に来たのは半年前。
 来た時より成長し、料理もケンカも随分覚えた。
 顔も整っている事もあり、老若男女問わず人気者であるが、当人は自分磨きが今は楽しい模様。

 そんなある日、雪原一家に三人の女が押しかけた。
 数日前、当代緋束と家人数人と一緒に街外れにやってきた時の事。旅姿の女性が男達に襲われていた。当代達が蹴散らかすと、男達は逃げてしまい、女達は難を逃れた。
 女達は少し三茶に逗留するのとお礼も兼ねて雪原一家の家事をさせてくれと言いだした。
 実を言うと、現在料理が出来るのは赤垂だけであり、他に料理が出来る者は近隣の町に出かけて五日間は帰ってこない。
 緋束は丁重に断ろうとしたが、艶事日照りの雪原一家の男達は久々に女の手料理が食べられると大喜びだ。
「お前ら、ウチが色事厳禁って言うのを忘れたか」
「絶対に手を出しませんって!」
「いるだけでいいんですよ!」
 勢いで小言で進言する男達に加え、女達は涙目で役に立ちたいといい縋る。
 呆れる緋束はとうとう折れてしまった。
「じゃぁ、赤垂、ちょっくら案内してやれ」
「はい」
 赤垂は女達を連れて、部屋へと案内する。男達の部屋より遠い空き部屋の襖を開ける。
「ここを使ってください」
「ああ、わかったよ」
 当代たちのいる時とは全く違う様子の女達の態度に赤垂は目を丸くしてしまう。
「台所はどこだい」
「こっちです」
 頭の上に疑問符を浮かべつつ、赤垂は台所に案内する。
「ふーん、結構広いんだねぇ」
「人数が多いので、調理器具はこっちです」
 赤垂が説明しようとすると、女の一人が赤垂の襟首を掴みだした。
「え?!」
 驚く赤垂をよそに女は勝手口より顔を出し、辺りをうかがう。
「騒がれたら面倒よ」
 他の女が手ぬぐいを広げ、赤垂の口に挟ませ、猿轡を噛ませる。
「んー!」
「静かにおし」
 ばしっと、赤垂の頬に女の平手が飛び、呆然としていると、あれよあれよと納戸に連れて行かれ、荒縄で縛られる。
「んー!」
 もう一度叫ぶとまた平手が飛んできた。
「殴られたくなかったら大人しくしてるんだよ」
 そう言って女は赤垂の上に藁やら茣蓙をかけてから納戸の戸を閉めた。


 男ばかりの家に女というものがいるとどうしてこうも華やかなのだろうかとは思う。
「浮かれすぎだろう‥‥」
 触れるわけでもなく、酒を注がれるまま注がれて、煽てられては杯を空ける。
「おい、睦助、調子に乗りすぎだぞ」
「いやいあやいあ! 美しい女性のお酌なんてこれくらぁい、とぉーぜんでしょーぉ?!」
 ベロベロに酔っている睦助に呆れながら緋束は赤垂の姿を探した。さっきから見当たらないのだ。
「以下がしました?」
 女の一人‥‥乃美といったかが言うと、緋束は赤垂は?と尋ねる。
「ああ、あの子なら、疲れて寝ると言ってましたわ」
 艶笑を浮かべたのは野津という女だ。
「昼も外に遊びに出ていましたからね。きっと疲れたんでしょう。子供は寝るのも仕事。大人はゆっくり飲みましょうよ」
 一番年上と思われる津路という女が緋束の杯に酒を注ぐ。
「そうか」
 緋束はそう言って焦燥を胸に酒を空けた。

 それから程なく、席を立った緋束はそれとなく赤垂を探した。
 雑用を放り投げて遊びに出るような奴ではない。
 一番小さくても誰よりも雪原一家を思いやっているのは明白。
 たった数刻で心が変わるような奴なんかじゃない。
 台所に出ると、外からごそごそ音がする。
「誰だ?」
 緋束が勝手口を出ると、誰もいないがごそごそまだ音がする。引きずるような音が。
 納戸の中だ!
 よく見れば、納戸の戸には棒がつっかえてある。まさかと思い、棒を外し、戸を開ける。
 暗闇の中で何かが蠢いている。
「んー」
「赤垂?」
 駆け寄って赤垂を抱き上げると、緋束は猿轡を外す時に赤垂の頬が腫れている事に気づいた。
「くそ、あの女どもだな」
 こくんと、赤垂が頷く。縄を解いてやり、緋束が赤垂の肩を掴む。
「赤垂、お前はこれから北の街外れへ行って来い。もしかしたら、よくない連中がいるかもしれん」
「北の町外れって、あの女の人達が襲われた場所?」
「ああ、あの女どもは盗賊の一味かもしれない」
 赤垂が言うと、緋束は頷き、自身の考えを口にすると、赤垂は言葉を詰まらせる。
「俺達は女共に監視されているだろう。お前が見に行って来い。見つかるなよ。見つけたらすぐにギルドに行って開拓者を呼べ。今夜はギルド近くの居酒屋に泊まれ。あの親父なら分かってくれるだろう」
 懐から財布を出して赤垂の預ける。
「頼むぞ。もし、奴らの仕事を成功する事があれば、雪原の名折れだ。俺は女達の監視をしている」
 赤垂を抱え、塀の上に上げさせ、赤垂に言い聞かせる。
「はいっ」
 しっかりと赤垂が頷くと、緋束の手を離れて塀を降りた。

 北の街外れにこっそり向かった珠々は荒れ果てた一軒の家に灯りが微かに灯っている事を赤垂は気付いた。
 自分が確認できるのはそれまでと思ったが、ふと、思い出したのは符だ。
 最近、自分に志体がある事に気付き、最近は陰陽師の技術も学んでいる。
 不安定に赤垂の手から放たれたのは雪の様に真っ白な鳥だ。ふわふわと小鳥が拾った言葉は聞き取りづらかった。

「女どもはうまくいったか」
「帰ってこないという事はそういうことだ」
「今のうちに仕事済ませようぜ。こっちは女がいねぇから酒瓶でも抱いて寝るしかねぇ」

 がくがく震えながら、赤垂はギルドへと向かった。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
弖志峰 直羽(ia1884
23歳・男・巫
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
ソウェル ノイラート(ib5397
24歳・女・砲


■リプレイ本文

 赤垂がいる居酒屋へ行くと、お爺さんが笑顔で迎えてくれた。
「ああ、開拓者の皆さんですか、どうぞ」
「いらっしゃい!」
 赤垂は見た顔を見つけ、嬉しそうに笑う。その顔を見たレティシア(ib4475)がお爺さんに断りを入れてハンカチを水に濡らす。
「大丈夫ですか?」
 女に叩かれた頬にハンカチを当てると、少し痛いのか赤垂は顔を顰める。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「レティシアといいます」
 礼を言う赤垂にレティシアが笑う。
「赤垂、大変だったな」
 劉天藍(ia0293)が赤垂に目線を合わせて労うと首を振る。
「あの女の人達を当代は今も監視してるんです。僕だけじゃないです。早く、盗賊を捕まえないと‥‥」
 言い切る前に赤垂の表情が曇る。珠々(ia5322)は赤垂の手を握ると、赤垂は驚いたように目を見開く。
「大丈夫だよ。私達がついてるから」
 ソウェルノイラート(ib5397)が諭すように言うと、滋藤御門(ia0167)も頷く。
「綺麗なお姉さんにデレちゃうのは男の悲しい性だよね‥‥」
 ふーっと、溜息をつくのは弖志峰直羽(ia1884)だ。
「心当たりでもあるのですか」
 ちろりと視線をよこしたのは御樹青嵐(ia1669)。
「や、やだな。そんな事ないよ!」
 びくっと肩を竦める直羽に更に輝血が溜息をつく。
「兎も角、盗賊の方に行く組は頼むよ。全く久々に会ってこれじゃ締まらないじゃないか。赤垂、奴らの頭、冷やしに行くよ」
「うん!」
 踵を返す輝血(ia5431)に赤垂はその背を追った。


●おばかさんだと思います
 ふと、天藍が瞳を開くと、戻ってきた人魂が蜃気楼のように揺らぎ、その姿を薄れて消えてしまった。
「どうだった?」
 直羽が尋ねる。
「今、珠々が詳しく中を見に行ってる。奴らはまだ中にいるようだ。待っているようでもあったな」
 天藍が言うと、レティシアは人影に気付く。
「戻ってきたようですよ」
 三人が影から窺がっていると、男が一人中に入ってきた。
 暫くすると、珠々が戻ってきた。
「今晩、動き出すようです」
「それでは」
 頷いたレティシアが中へと入り、珠々も補助で中へと入る。

 中では男達が時間つぶしに酒を飲んでいた。
 向こうの方で物音に誰かが気付いた。
「誰か入ってきたぞ」
「ん? あいつらか?」
 男達が首を傾げると別の声が聞こえる。

「え‥‥こんな所?」
 若い女の声で仲間の女たちの声ではない。
「誰も無いだろうけど‥‥や、はずかしい‥‥」

 恥らう女の声に男達は様子を考え、顔を見合わせてにやりと笑う。
「後でいいから分け前くれよ」
 残りの二人はのんべんだらりと酒を飲んでいる。
 ひたひた足音を隠して男達が今まさにコトに及んでいる男女を思い浮かべる。
「男は殺してしまえ! 女は縛っちまえ!」
 襖を踏み倒して男達が言えば、そこにいたのは金の髪の少女だけ。
 穏やかな歌声が響き、宝珠細工の髪飾りが淡く光る。
 甘く柔らかな歌声に男達はめまいと穏やかな眠気に誘われ、そのまま昏倒してしまう。
「ばかじゃないですか?」
「全くです」
 呆れ声のレティシアに珠々が賛同し、盗賊達を縛り上げた。
 その奥では直羽と天藍の乱入で残りの二人が慌てていた。
「はーい、大人しくしようね」
 小さい子供に言い聞かせるように直羽が刃物を振り上げる男達を月歩で回避し、連続で力の歪みを使って男の動きを拘束し、そのまま真っ逆さまに顔面から落とす。
「さて、何をしようかきりきり吐いて貰うぞ」
 もう片方は直羽が気絶してしまったので。天藍が捕まえた方を呪縛符で縛り上げ、刀を持っている事を誇示して男に告げる。
「では、私は先に行きます」
「珠々は雪原一家と顔が割れていただろ。気をつけろよ」
 天藍が気を使うと、珠々は大真面目に思いっきり言った。
「輝血さんから夜の手ほどきを受けました。負ける気はありません」
 吐きあげは三人に任せ、珠々は走って雪原家の方へと向かう。
 三人に妙な誤解を与えたまま‥‥


 もう一方は輝血がやる気を出していた。
「そういや、御門を化粧するのって初めてだね」
「いつも青嵐さんのばかりでしたからね」
 てきぱきと化粧をする輝血が言えば、御門がくすくす笑う。
「しかし、手馴れてるね」
 しみじみとソウェルが青嵐を見ていると、当人は視線を伏せて口元を袖口で隠している。
「‥‥何も言わないで下さい」
 その一言で今までもあったという事が窺い知れた。
 姉妹のようにも見える青嵐と御門とその友人のソウェルが一緒の旅人という設定で行く事にした。
「出来る限り、私の傍から離れない事。いいね」
 ソウェルが言うと、赤垂は頷く。
「輝血さんはどうするんですか?」
「あたしは影で女達の様子を窺がってる。しっかり落として来るんだよ」
 すでに目的が摩り替わってきている。

 雪原一家に着いた五人は閉じられた門に呆れた。
「門は意外と音がするからお勝手から入りましょう」
 赤垂が勝手口の方を案内すると、青嵐が赤垂を抱き上げて勝手口の鍵を開けさせる。
 中に入り、ドンちゃん騒ぎが起こっている部屋に輝血以外の四人が入ると、女達は目を見開く。
「赤垂、どうしたんだ」
「また美人連れてきたもんだなー」
 ゴキゲンな家人達をあしらいつつ、赤垂は上座の当代の前に座る。
「当代。戻りました」
 赤垂の様子にほっとしたような様子を見せた緋束だが、いつも通りの表情で迎える。
「帰ったか。そちらの御婦人達はどうした」
「旅をしている方々で、誰かに追われてました。どうか、逗留をお願いしたいです」
 頭を下げる赤垂を見てから、緋束はソウェルと青嵐を見て、最後に御門を見た。じっと、緋束を見つめる少女に何か引っかかりつつ、少し緋束は考えつつも、赤垂が連れてきたという事で了承した。

 その了承で全てがこちらの手に入った状況をソウェルが呆然と見ていた。
「なんつーか、凄いね」
「開拓者は凄いんだよ。ソウェルおねーさんもかっこいいよ」
 こっそり赤垂が耳打ちすると、言われた当人は困ったようにくつりと笑う。ちろりとソウェルの視線の先にいるのは新しい輝きに座が奪われそうに困惑し、赤垂に敵意を向けている女達。
「ランちゃん、美味しいねぇ」
「ミカちゃん、もう一杯〜」
 家人達が青嵐と御門に甘えている。
「ありがとうございます」
「仕方ないですね。二日酔いとかはみっともない事しないで下さいね」
 せっせと世話を焼く健気な御門に対し、まだ困ったような様子を見せるのは青嵐だ。
 酔っ払いをあしらいつつ、青嵐が部屋の外に出て、そそくさと台所へと向かう。
「青嵐」
 後ろから声をかけられた青嵐が振り向くと、輝血が青嵐を物陰の壁に連れ込み、細い両腕が青嵐の両脇につく。
「確かに酔っ払いは嫌だろうけど、身体が引いちゃダメなんだよ。言葉で引き、身体は寄り添う形じゃないと男は落ちないんだよ」
 くわっと、目を見開き、輝血が淡々と熱血指導。いや、青嵐は男だし。
 輝血は言うだけ言ってまた天井裏に戻る。
 一方、座敷の御門は料理が出来ない分、笑顔で世話をする事で家人の興味を持っていった。
「あら、私たちがやるわよ」
 どんと、女の一人が御門を押しのけるように酔いつぶれた家人の世話を引き受ける。
「‥‥あ」
 ふらりと儚く倒れそうになる御門を緋束が支える。
「大丈夫か」
「はい‥‥」
 しなを作り、緋束に凭れかかろうとするが、御門ははっと、身体を離れ、恥じらいながら謝る。
「旅の疲れもあるだろう。こちらで休め」
 優しい緋束の言葉に御門は甘える。
「御門は中々やるわね。陰陽師には勿体無いかも」
 天井裏から輝血が頷いている。
「当代、天藍さんや珠々さん達が盗賊達を捕縛しております」
「そうか、助かる」
 御門だと確信した緋束が報告を聞き、安堵の溜息をつくと、ひょっこり顔を出したのは付け毛をつけて着飾った珠々。
「遅かったね。厄介になる雪原一家だよ、挨拶しといで」
 にこりと笑顔で言うソウェルに珠々はにこっと笑って緋束の方へと珠々が挨拶をする。
「ああ、ゆっくりしろよ」
 珠々を見て、芝居の趣旨を理解した緋束は子供好きの家人をこっそり珠々に教える。狙いをつけた珠々はきゅぴーんと、一瞬目を光らせてとてとてと目的の男の前に立ち、にこっと笑う。
 家人もまた、にこっと笑い返すので、珠々は笑顔で男の膝に座る。
「お兄ちゃん、よろしくね」
「おー、よろしくなー」
 嬉しそうに笑う家人に珠々が一瞬だけにやりと笑う。
 それからは難なく家人の興味を奪っていく開拓者。
「いやぁ、ミカちゃんは健気だねぇ」
 睦助が御門の手を取ろうとしたその瞬間‥‥!
「ご機嫌だな。睦助」
 からりと障子が開き、天藍が立っていた。青白いオーラが見えるかもしれない。冷水のような声に睦助はびくっと、肩を竦ませて振り返る。
「‥‥! !  天藍の旦那!!!」
 睦助が叫んだ名前に家人達も振り返る。
「そろそろ夢から覚めるお時間ですよ〜」
 天藍の後ろからレティシアがひょっこり顔を出す。
 すくっと、珠々が立ち上がり、付け毛を取って夜春を終わらせる。
「その通りです」
 いつもの顔に戻った珠々を見た家人があっとなる。
「おお、綺麗なオネーさんだね☆ オネーさん達、知ってるよね。この盗賊達♪」
 にこっと、直羽が数珠繋がりで縛られた盗賊を見た女達は顔色を悪くするが、腐っても盗賊の女。虚勢は張っている。
「し、知らないわよ!」
「おっかしーなー。この人達のやり口って、基本的に役人とか自警団をオネーさん達で誑し込んでその隙に男達が仕事をするって聞いたんだけどなー」
「それに、皆さん、気付かないんですか? 赤垂君の動向。夕べからいなくなっていたの気付かなかったんですか?」
 珠々が言えば、誰かがはっと気付く。
「だって、姉さん達が、遊びに出かけて疲れて寝てるって‥‥!」
「赤垂の性格を考えろ」
 緋束の言葉に全員がはっとなる。
「ほ、本当の事だよ! う、嘘なんかじゃ‥‥!」
 女が叫びだすと、パァン!と頬を風が掠めていった。
「赤垂の頬に赤い爪痕があったよ。いい加減にしな、見苦しい」
 女の見苦しさに辟易したソウェルがマスケット銃を構え、空撃砲を発動させた。
 しんと静まるその場に女が呟く。
「ま、まさか‥‥か、開拓者」
「その通り」
 にまりと笑うソウェルに女達は自分達の危うさに気付く。
「本当なのか?」
 家人が女達の正体を怪しみだす。
「盗賊達が言ってた。お姉さん達を雪原一家に送り込んでいるって」
「ち、違‥‥っ」
 赤垂の証言を苦々しく思いつつも尚も縋ろうとする女達に家人が絆されようとした瞬間、更に障子が開く。
「あたし達の証言が信じられないと?」
 危険な程鋭い視線で家人を射抜く輝血が現れると家人は納得せざるを得なかった。
 前門の輝血、後門のソウェル。
「赤垂君を叩き、縛って納屋に放り込んでいた事は彼の着物の汚れがいい証拠。これもですね」
 青嵐がソウェルの隣に立つ赤垂の後ろに回りこんで、何かを摘む。赤垂が被されていた藁だ。
「その件は俺が見つけた。お前らを逗留させたのは証拠を赤垂と開拓者に託し、監視するためだ」
「あなた方も調査が足りませんでしたね。雪原一家がともだちの開拓者がいる事を調べるべきと思いますよ」
「赤垂君を傷つけた落とし前はつけてほしい所です」
 緋束の言葉と苦無を構える珠々、厳しい言葉を言う御門に女達はその場に座り込んだ。

 女達含める盗賊は全て役人に渡される事になった。
「めでたしめでたしとなる所ですが‥‥」
「反省会だね!」
 女装を解いた青嵐が言えば直羽が合いの手を入れる。
「ま、そうだろうね」
 マスケット銃を撫でるソウェルに家人達がばたばた正座しだす。
「ようやっと汚名が返上しきれそうという所で油断するからああいう女どもに付狙われるんだ」
「天藍の言う通りですね。以前の荒廃の爪跡というのは人の心に残りやすいのです。この街が栄えているのに治安がいいのは確かに皆さんの奔走のお陰です。ですが、それに漬け込んではいけません」
 天藍と青嵐の言葉はもっとも。
「大変な事をしても一歩引き、驕らない事がNIN−KYOですね! じぃじに聞いた事があります!」
 レティシアが目を輝かせる。
「でも、女っ気がない場で、美人なおねーさんに浮かれる気持ちとか、偶然から美女と懇意にとか、一度くらい俺も夢見るけど。
 同じ男としてよく分かる。よっっく分かるが‥‥」
「何が分かるんですか直羽」
 家人達を見る視線より数倍冷たい青嵐の視線に背中に脂汗と冷や汗と悪寒をだらだら流しつつ、直羽が正座する。
「青ちゃん、ごめんーー」
「‥‥お約束?」
 ぽつりとソウェルが呟く。
「‥‥前もこんな事があった気がします」
 その隣でレティシアが近い記憶を思い出す。
「そうそう、緋束さん。性悪女狐に騙されちゃうくらいの性根は叩き直しちゃった方がいいですよね」
 レティシアが緋束に許しを得る。
「構わん、だが、街の治安に関わるような脅しはダメだぞ。噂ってのはそれだけで全てを駄目にするからな」
「成程」
 ぽんと、両手を打つレティシアに輝血が頷く。
「それならあたしも手伝うよ」
「そろそろ説教もいいでしょ?」
 ソウェルが言うと、青嵐が仕方ないと溜息をつく。
「じゃ、町内走り込みーー! ついでに見回りです!」
 可愛らしくレティシアが言うと、ぶぅぶぅ文句を言う家人達。
「ほらほら、さっさと動く!」
 ソウェルが魔法の空気銃に空撃砲を詰め込んで家人達の足元近くを撃つ。足元で空気が鳴り、家人達が立ち上がり、バタバタ足を動かせる。
「うああ!」
「冗談キツ!」
「今出ます出ます!」
 ばたばたと走り出す家人達と何故か直羽。
「あまり動けなかったから一緒についていくよ」
 ひらりとソウェルも後ろから駆け出し、レティシアも付いて行く。
「では」
 最後に珠々も一緒に行ったようだ。
「元気だなー」
 ぼんやりと輝血が言えば、緋束も見回りで出かけるらしい。
「しっかし、いっそ緋束さんがお嫁さん貰えばいいのに。誰かいないのか?」
 赤垂に符を教えている天藍が赤垂に問う。
「うーん、よくわかんない」
 まだ色恋沙汰には興味は無いようだ。
「赤垂も大変だったね。今日の家事くらいは青嵐に任せなよ。食事は美味しいから」
 労う輝血に赤垂が嬉しそうに頷く。
「そういえば、赤垂君は陰陽師の素質があるんですね。今はどんな術を習ってますか?」
「今は人魂を使ってます。少しでも隠れている悪い奴らを探し出したいなって」
「それでは‥‥」
 御門が赤垂に人魂について抗議をする。
 台所では青嵐が美味しい物を作ろうと下ごしらえ中。そんな青嵐を見て、輝血がつつと近寄り、声をかける。
「禁欲生活って大変だよね。青嵐もやっぱ、大変?」
「さぁ、きちんと修行をすれば何とかなる事でもありますけどね」
 輝血の質問に青嵐はにこやかに答えつつも、人参の皮が妙な厚さになっている。

 街中では家人達と直羽を美少女と美女が追い掛け回すという面白い光景が見れたとか。