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■オープニング本文 この世には確率がある。 一番分かりやすく伝えるなら「当たるか」、「当たらないか」。 当たれば当たるほど良いとされているこの世。 それで誰かが困る事もある。 開拓者ギルド職員の北花真魚は仕事が休みであった。 いくら年中無休のギルドでも職員の休みはある。 この日は友人と一緒に買い物をしたり、お団子を食べに行っている。 「ね、真魚ちゃん。恋加護の巫女様って知ってる?」 「なぁにそれ?」 友達がふいに切り出した言葉に真魚は首を傾げる。 「結構有名になってきた話なのよ」 話によると、その巫女は神楽の都の少し外れにある神社の巫女さんで、その巫女さんがお守りに祈りを込めると素敵な人と出会えるという。 クチコミから始まり、今では巫女さんのお守り狙いで女の子が神社に殺到しているとか。 「本当に効果あるの?」 そもそも、巫女である真魚がそういうスキルがない事はよく知っている。友人の話を疑いたくは無いが、下手すれば、役人騒ぎになるだろう。 「あるわよ。この向こうの紙問屋で働いている子が、提携先のカッコいい人と恋人同士になったんだって」 「えー、そうなんだ」 「この時間ならまだ間に合うし、行ってみない?」 立ち上がる友達の提案に真魚は頷く。真魚にだって興味はあるのだ。 目的の場所に着くと、女の子達が多く見られた。 何か、神社に対して抗議をしているようだ。 「どうして巫女様いないんですか?」 「お守りほしかったのに」 女の子達が言っているのは巫女の不在の事。 「すみません、今日はもう巫女が何も出来ないんです。お帰りください」 神主らしき男が言えば、女の子達はぞろぞろと帰ってしまう。 「何があったのかな」 「話し聞きに行こ」 首を傾げる友達に真魚は男の方へと向かう。 「すみません、巫女様に何があったのですか?」 「ああ、いえ‥‥その‥‥」 困り果てて言いよどむ男の後ろ‥‥社務所の方では何やらバタバタしている。 「私、開拓者ギルドの職員なんです。もし、困っていたら依頼してみませんか?」 ギルドの名前を出すと、男ははっとなり、顔を俯かせる。 「‥‥ウチの娘‥‥かすみが皆さんが言われる恋加護の巫女なんです。かすみは気が利く優しい子でして、神社に来る迷った人の相談を受けてました」 「娘さんは志体はお持ちで?」 「はい‥‥ある日の事、恋に傷つき、消沈していた娘さんの話を聞いていて、あの子はウチのお守りに「素敵な人と出会えますように」とお祈りをしてその娘さんに渡したんです。 そしたら、その十日後に娘さんに素敵な人と出会い、恋人となったようです。その他にも似たようなことがあって、以降、あの子にお祈りしてほしいという娘さんが増えまして‥‥あの子はもう耐えられないと裏の蔵に隠れてしまいました」 「でも、当たるのって、イイコトじゃないですか?」 首を傾げる友達に真魚も確かにと思う。 「それがかすみにとって重圧だったかもしれません‥‥お守りがどうのより、娘には早く出てきてほしいのです‥‥すみませんが、娘が出てくるように説得してくれる人を募集して下さいませんか?」 「分かりました開拓者を募ってみます」 確り頷く真魚に父親はほっとした笑顔を見せた。 帰り際、真魚と友達にかすみの母親が声をかけてきた。 「かすみの様子がおかしくなったのは、ある娘さんが恋人を連れてお礼に参った日の事でした」 「何かあったのですか?」 「いえ、普通通りにお礼を言われたようですが、お二人が帰った後、ひどく寂しい顔をしてました。それから、あの子はやたらと何かを買い込んでました」 「え?」 買い込んだというのはなんだろうかと聞けば、干飯なんかの保存食、日持ちするお菓子なんかを良く買っていたらしい。 かすみがいなくなった途端にそれもなくなっていた模様。 「‥‥計画的ひきこもり‥‥」 何が何でも引きずり出そうと真魚は色々と念を込めて依頼書を書いた。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
イクス・マギワークス(ib3887)
17歳・女・魔
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●まさかの後ろ向き かすみの方へ向かった開拓者達は目的の蔵の前に立つ。 御樹青嵐(ia1669)が声をかけていたが、全く反応していない。 「やはり、忍び込められるところはなさそうですね」 蔵を一周した珠々(ia5322)がそう言うと、ぴたりと蔵の戸に耳をつける。 物音は微かにしているらしく、ぱらりと、紙擦れの音が確かにした。 「何か本を読んでるようです」 ふむと考えるイクス・マギワークス(ib3887) 「やはり、反応してもらえないようだな」 「作戦の決行ですね」 イクスの言葉に青嵐が言うと、三人は準備へと歩いていった。 「作戦はたのしいとおもいます」 珠々が呟いた言葉は二人には届かなかったが、珠々の黒曜石の瞳はきらりと青嵐に標準を当てた。 三人は気付いていなかったが、少しだけ気持ちが浮上した柚乃(ia0638)だけが蔵の前に残った。 戸の前に立ち、じっと見ていたが、柚乃は戸の近くに背を向けて座り込む。 「‥‥柚乃も引篭りに混ぜて欲しいです」 原因究明を考えていた柚乃だが、考えているとなんだか悲しくなってしまい、しょんぼりと言う柚乃。 「サクランボを持ってきたんです。ヤケ食いはいけない事だけど、でも、食べてしまいそうです」 ぎゅっと胸の前で抱えている籠を抱えなおす。 かたん‥‥と音がした。 「‥‥おいしい干錦玉もあるよ」 そっと可愛らしい声が柚乃に聞こえた。 柚乃がかすみに声をかけられた時より時間は巻き戻り、輝血(ia5431)、楊夏蝶(ia5341)、レティシア(ib4475)、弖志峰直羽(ia1884)の四人はかすみの両親に友達が誰か教えてもらっていた。 その一人が菓子屋の子。美少女集団と爽やかイケメンの呼び出しに戸惑うばかり。 「かすみちゃんが?」 休憩中の友達はかすみの現状を知らなく、ただ驚き、顔を俯かせた。 「様子がおかしいと思ったんです。どうしたのか聞いたら、気分を変えてみようと思ったのって‥‥」 「その時点で引き篭もる気満々だったんだね」 溜息をつく輝血。 「最近、悩みを打ち明けられたりしてませんか?」 「悩みというか、最後にお店に来た時、恋って一方通行じゃ辛いんだねって‥‥」 俯く友達にレティシアと夏蝶と直羽が顔を悲しそうな表情となる。 「一人でする本気の恋愛って辛いと思うわ‥‥」 ミーハーにすれ違った人なんかをカッコイイと思うだけなら楽しいが、一人の相手に恋をするという事は応えてくれないから尚辛い。 「かすみちゃん、和紙工房の職人さんが好きだったと思うんです」 「和紙工房?」 直羽が言い直すと、友達は頷く。思い当たるのは紙問屋の娘の話。 提携先の若い男と結ばれ、その礼を受けた際に一緒に来た男女‥‥ はっと開拓者四人が顔を見合わせる。 「神社で使う和紙を作って貰ってる工房なんですって、いつもはお丁稚さんが納めに来るみたいだけど、その日はかすみちゃんが走って行ったそうです」 「そこで一目惚れでもしたの?」 一般人用に可愛らしく表情を作る輝血に友達はこくんと頷く。 「あまりはっきりとは言っていなかったのですが、時折話に出てくるんです。好きなの?って聞いたら、慌てて違うって言うんです」 「それはもう好きですね。お話は分かりました。今、仲間がかすみちゃんに話かけていますが、だめった場合はおびき出し作戦をするんです。一緒に行きましょう!」 レティシアが言えば、友達はきょとんと首を傾げる。 「隠れてしまった女神を自分から出るようにするんだよ☆」 器用に片目を瞑って直羽が悪戯っぽく笑う。 珠々が振り向いた。 「いかがしました、珠々さん」 青嵐がお手伝いしていた珠々の手が止まっている事に気付き、声をかける。 「今、蔵の方で音がした気がしました」 「何、見てこよう。ついでに置いてくる」 即席で竈を作るので、それ用の薪をイクスが持って蔵の方へと向かう。 蔵の前の宴会の旨は神主であるかすみの父親は快諾してくれた。このまま作戦が成功すればいいのだがなとイクスが思いながら蔵の前に出ると誰もいない。中にかすみがいるんだろう。 「どうかしたか?」 薪を置いて、イクスがそっと尋ねる。 「そっとして下さい‥‥」 意外な答えの声は柚乃の声。 「!」 まさかの展開にイクスが絶句する。 「柚乃?! どうしたんだ!」 中の様子は静まってしまった。 神社に向かっている最中、柚乃は随分と静かだった。大人しい性分だとは思っていたが、一緒に引き篭もっているとは。 「何があったんだ、柚乃」 「どうかしましたか?」 シノビ特有の素早さで珠々が到着した。 「いや、柚乃が中にいるようなんだ」 「は?」 まだ成人前の子供なのに表情筋が死滅しているのではと思われる珠々が夜春も発動させずに目を丸くした。 「‥‥なにかあったの?」 戻ってきた夏蝶達が二人の慌てる様を見て呆然と呟いた。 ●女神が増えました 引篭りが増えるとは思ってもみなく、残りの人員で作戦を決行。 夏蝶に誘われた真魚も参加しつつ、準備は進められる。 「え! 引き篭りが増えたんですか!」 驚く真魚に夏蝶が肩を竦める。 「中で話でも聞いてあげてたらいいんだけど‥‥」 蔵の中 「もふら様みたいって? 可愛い事は可愛いけど‥‥」 「ですよね‥‥もふら様は大好きなのですが‥‥」 もはや癖付けられたのか、かすみは柚乃の話を聞いていた。 「柚乃ちゃんとして見てもらいたいんだね」 かすみの言葉に柚乃はこくりと頷く。 どうやら、柚乃は悩みを抱えていたようだ。 粗方の下拵えが終わり、珠々はこの時を待っていた! 今回は楽しい事で人を笑顔にさせる事。輝血も夏蝶も直羽もいる。 依頼人に楽しいを感じてほしい為、自分が楽しくなくては誰かを楽しい思いをさせる事が出来ないとどこぞの老婦人に言われていた事を学習している。 「青嵐さん、覚悟して下さい」 「は」 くるりと青嵐が振り向くと、珠々の危険に孕んだ瞳。 その数十分後、そこには割烹着の良く似合う佳人がいた。 「‥‥正直、違和感無いな‥‥」 呆れるように呟いたのはイクスだ。 「きゃー! 御樹さん、すっごくお似合いですー!」 テンションがあがったのは真魚だ。 「そ、そうですか」 意外な所からの絶賛の声に青嵐も戸惑ってしまう。 「ごめんなさい‥‥私ったら浮かれて‥‥」 「綺麗と思うことはいいことですよ」 頬を染め恥らう真魚にレティシアが微笑む。 「そうそ、青ちゃんの美しさにはどんな男も気を引かざるを得ないよ☆」 にこっと微笑む直羽に真魚も絆されるように微笑んだ。 「気を取り直していきましょうか」 きゅっと、組紐で髪を結いなおした青嵐が熱した鉄板に油を敷く。程よく油が鉄板と馴染んだ所に出てきたのは分厚い肉。 じゅわわわわわわっ! 鉄板から響く肉の焼ける音と油がはねる音! もう一台の網焼きではイクスが串に刺した肉や野菜を焼き始める。 串に刺した野菜の中に人参が入っているのだが、扉の近くに配置されている珠々は中の行動が気になってイクスの網の上には気付いていない。 「それでは一曲♪」 レティシアがさっと取り出したのはバイオリン「サンクトペトロ」。 本来は彼女の春風の如く愛らしくも優しい声音に良く似合う音色を奏でるバイオリンであるが、今はかすみの心を誘う為の明るい曲を弾いており、軽い音色は鞠のように軽やかに跳ねて人の心をくすぐり、更に口笛も吹き、暖かい春の風を体現しているようだ。 「女神を誘い出すには踊りが必要だよ」 直羽が夏蝶を誘うと、夏蝶はかすみをお洒落させる準備があると言って辞退する。 「直羽が踊ったら?」 「服がシワになるよ」 輝血が言えば、直羽が首を振る。輝血がむぅと悩む。 「真魚、踊ったら?」 「はい?!」 素っ頓狂な声を出す真魚。 「これをどうぞです♪」 さっとレティシアより渡されたのは応援用ポンポン。 「えええ!」 ポンポンを渡すだけ渡してレティシアは再び演奏に戻る。 「ええい、ままよ!」 レティシアの演奏に合わせて真魚がテンポに合わせて軽やかに踊りだす。 外の騒がしい音にかすみはなんだろうと意識を向けている。 先ほどまで話を聞いてもらっていた柚乃がはっと思い出した。外でレティシアのバイオリンの音色が聞こえているという事は作戦が実行されてしまったという事。 どうするべきか柚乃が悩んだ瞬間、とんと、戸の音がした。 「かすみ、聞こえてる?」 輝血の声だ。 「出たくないなら無理に出なくてもいよ。話ならいくらでも聞くよ。柚乃の話も聞くよ」 自分が隠れている事を気付かれて、柚乃が恥ずかしさで顔を赤らめてしまう。 かすみはきゅっと、唇をかみ締める。 「どう言ったらいいか分かんなかったら泣いたっていい、単語を口にするだけでもいいよ」 「‥‥かすみちゃん。辛いから中に閉じこもったんですよね。辛くて、自分の外に出してしまいそうだから‥‥」 三人に沈黙が起きた瞬間、しゅわわわわ!と、鉄板が水分を弾く音がした。 イクスが蒸しているアサリの酒蒸しの音だ。手早くかき混ぜる音がするのは青嵐が作る焼きうどんの音だ。 きゅるぅ 慌てて腹を押さえるかすみ。 水と乾き物しか食べていない為、香ばしい匂いを嗅げば腹が欲するだろう。 「青嵐の料理、凄く美味しいって皆誉めるよ」 呟く輝血の言葉はどこか素っ気無くであるが、その中に優しい声音が混ざっていた。 輝血が戸から少し離れた時、全員の視線が戸の方に向かった。 初めて見たかすみは小柄であるがとても可愛らしい顔立ちをしていた。 かすみの前に立ったのは執事服を纏った直羽だ。袖にはカフスをつけて、清潔な白手袋を嵌めており、髪もきれいに撫で付けられている。 「今日一日は貴女の為の僕でいさせて下さい」 ふわりと微笑む直羽にかすみが驚いて目を見張る。 「落ち込んでいるときはぱーっと、お洒落して、美味しいお菓子を食べながらお喋りするのが一番よ」 どこか影を落として微笑むのは夏蝶だ。 「あなたもですか」 「似合いそうな服を用意してるわ」 本心を隠すようににっこり笑う夏蝶が出したのはジルベリアの洋服。明るい色合いの布地に肩はレースをあしらい、ふわりとスカートの裾が揺れる。 「え‥‥これですか‥‥」 その服が何なのか分かってはいるが、着物に馴染んだ自分にとっては縁のないものだとばかりにかすみは怖気づく。 「絶対に似合うと思います」 「折角の機会だから着てみるのも手だとは思うが」 レティシアが更に推すと、イクスが助言を与える。 「でも、こんな高価そうなの、汚したら‥‥」 尚も怖気ついているかすみがいえば、輝血がきっぱりと言う。 「洗ってくれるよ。直羽が」 「俺なの?! 輝血ちゃん!」 「今日一日、かすみの為の直羽じゃないの?」 「ほんとうですか‥‥」 どこか、儚げに見つめるかすみの瞳に直羽ははっと、思い出して笑う。 「勿論だよ」 「嬉しいです‥‥」 目を伏せるかすみは嬉しそうだ。 夏蝶と輝血が着替えを手伝い、ジルベリアの装いに準じた姿で綺麗になったかすみが開拓者や両親や友達に誉められつつ、嬉しくなったところで、青嵐とイクスが作った料理を皆で堪能する事になる。 ふわりといい匂いがする温かい食事はきちんと食べてもやはり食欲をそそるもの。 「焼きうどんも串焼きも凄く美味しいです!」 ぱくりと、イクスの焼いた串焼きを食べるかすみを見た珠々が硬直した。 「どうしたの?」 きょとんとなる柚乃に珠々は黙って首を振って海老を食べている。 「珠々、好き嫌いはダメって言ってるでしょ」 輝血が厳しく言うと、珠々は肩を竦めて聞かないフリ。 「人参か」 「ち、ちちちちがいます!」 輝血と一緒に酒を飲んでいるイクスがぽつりと呟くと、珠々はどもって否定するが、あまりにもアヤシイ様子に全員が納得。 「綺麗な人にお酌してもらうのって、何だか不思議です」 くすっと笑うかすみがいうのはお酌役の青嵐の事だ。 「たまにはこういうのも楽しいと思いますよ」 微笑む青嵐にかすみの頬は酒と楽しさで上気し、ほんのり赤い。 「宴会って、前にどんな事があっても皆とこうして飲むから明日の活力になるんだって」 「楽しい気持ちは絶対に来るのよ」 輝血が人事に言えば、夏蝶が頷く。 「そうなんですかね」 ぽつりと、かすみが声音を落とす。 「吐き出していないなら、吐き出すべきですっ」 レティシアがかすみの右手をそっと自身の手と重ねる。 「先は私だって思ってた。でも結果は違ってた」 「そうですか」 柚乃がかすみの左手を握り締める。 「どうして後なんだろう‥‥何で手伝ったのが私なんだろう‥‥」 ころりと、かすみから涙が零れ落ちる。 ようやっと落ちた辛い気持ちを出したかすみを両脇にいる二人が抱きしめる。 「かすみちゃん、今は運命の時じゃないんです。あんなに人の為に頑張ったかすみちゃんならきっと、運命の時を迎える時が来ます」 柚乃が呟けば、かすみがこくりと頷く。 ふと、かすみの頬に触れたのは細い珠々の指。柔らかなかすみの頬を抓み、むにむにとする。 「笑顔になるおまじないです。かすみさんのお守りのようによく効きます」 「‥‥負けられないね」 涙を滲ませてかすみが笑う。 「効果覿面です」 満足そうに珠々が言う。 「かすみの言う通りだ!」 卓をばんと勢いよく叩いたのはイクスだ。 「私だって恋人はほしい、だがな、いいなと思ったいい男は大抵相手がいる事だ!」 「え、ちょっと、イクスちゃ‥‥」 「それわかる!!」 酒に酔ってしまったイクスが叫びだしてしまい、直羽が静止しようとするが、がたんと、夏蝶が言葉と共に立ち上がる。こっちは飲んでいない模様。 「独り身は本当に寂しいものだな、夏蝶!」 「夏になれば暑苦しいし、冬になれば心に寒いし」 酔っ払いと素面でつり合うというのも不思議な話だが、直羽が宥めようとすると、イクスが酒を注げと言い出す。 「えええ! ああ、もうお嬢様方お世話させていただきますよー!」 ヤケになってしまった直羽が叫ぶ。 「これ、好きなんですよね。お友達から聞きました」 「え」 柚乃と一緒にサクランボを食べていたかすみにレティシアが出したのはかすみが好きな和菓子。かすみの前の席に座る友達がちょっと拗ねた感じで微笑む。 「かすみちゃん、辛くなったら蔵に駆け込まないで私に駆け込んで」 「‥‥ありがとう」 くしゃっと泣き笑うかすみを見た柚乃は愛器の琵琶を手にしてレティシアに声をかける。 「一緒に演奏しましょ」 「はい♪」 二人が演奏を始めると、人参を珠々に食べさせようとしていた輝血が手を止め、かすみの方を向く。 「やっぱり引きこもったらダメだよ。可愛い顔が勿体無い。またいつでも友達と一緒に話聞いてやるからさ」 「私も聞くわよ!」 くるっと、夏蝶が振り向くと、かすみは改心の笑顔で頷いた。 かすみの恋加護の巫女はまだやっているが、少しだけ一日の配布や相談を減らして自分の時間を作るようになった。 |