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■オープニング本文 夏の時期に入り、神楽の都も暑い日が始まっていた。 いつもにぎやかな町ではあるが、流石に夜になれば静まってしまう。 とある甘味屋に働いている娘はその日、遅い家路を小走りで駆けていた。開拓者の町と言われている神楽の町ではあるが、やはり夜は怖いもの。 娘は早く帰りたい一心で足を速める。 後ろの方から足音が聞こえた。 殆ど人気ない道なので、娘は足を止めてしまう。 恐る恐る振り向くと、誰もいなかった。 「なんだ‥‥」 ほっと息をついてまた歩き出そうとすると、そこには褌一本つけた男が立ちはだかっていた。 暑いのだろうかと少々怖気づくと、男は娘に近づく。 娘は気付いた、男が締めている褌は普通の綿のものではなく、女物の帯‥‥ もしやと思ってももう遅かった! 「きゃぁああーーーー!!」 静かな夜に娘の悲鳴が響いた。 「面妖な事件ね‥‥」 煎茶を啜るのは神楽の都の開拓者ギルド職員の真魚だ。 行きがけに買った瓦版を読んでいる。 「最近増えてるようよ」 同僚が教えてくれると、真魚はいやだなとため息をつく。 その事件とは、人気ない所を歩いている娘さんの帯だけを奪う変質者の話。 金品も娘さん自体も無事。ただ、帯だけ奪う。 値打ちがあるものからそうでないものも分け隔てなく。 そろそろ開拓者の出番かという話もあるようだ。 今日の真魚は日勤であり、夕方になれば帰宅となった。 長屋に戻ると、忙しい時に洗濯をお願いしている近所のおばさんにお礼にとお菓子を買っていこうと水饅頭を買った。 「喜んでくれるかなー♪」 贈り物をする時は少しだけ緊張してしまうが、なんだか嬉しくなってしまう。ご機嫌な真魚が長屋へ戻ると、おばさんが真っ青な顔で真魚に飛びついた。 「まままままま、まなちゃん!」 「どうしたの? おばさん」 慌てふためくおばさんを宥めながら真魚が話を聞こうとする。 「変な男の人が帯をとっていったんだよ!」 「帯? あ、噂の!? おばさん、大丈夫?!」 はっと気付く真魚が言うと、おばさんは頷く。 「金目のものも他の着物も全部無事だったんだよ、ただ、帯だけ盗られて、こんなものをギルドに渡して下さいって、そりゃぁ物腰穏やかな男の人が、褌一丁で言うもんだから、あたしゃ驚いて!」 一息で言い切ると、おばさんはその場にへたれこんでしまう。 確かに、褌一丁でそんな事言われたら驚くと思う。 真魚が手紙を確認するとこう書いてあった。 「開拓者ギルド御中 私は帯愛好会の一員にございます。 陰より帯を愛でる事を重きに置いてまして、同士を集めてきました。 帯というものは着物の備え付けという印象がありますが、あの細く長い帯の中に埋め尽くされた柄は何とも一つの世界が出来ており、私には拙い文でしか表現できません。 私達はひっそり帯を愛でておりましたが、ある者が娘さんの帯を奪って来ました。 ひっそりと愛でる事を指針としてきた私達の中では愛好会自体を揺るがす事になります。 反対する者もいれば賛同するものもいます。 今では愛好会が二分されております。 奪ってまで帯を愛でるものとひっそり帯を愛でるもの。 どちらが正しいか勝負で決しようと思います。 貴女様がお持ちの牡丹の帯を半日ずつつけたり干したりして頂きたいのです。 私たちがその間に拝借いたします。開拓者に護衛をつけて頂き、私達と攻防し、各四名がそちらに窺がわせて頂きます。 あの牡丹の帯は本当に素晴らしく、会員全員の憧れです。 貴女様の牡丹の帯を再び拝見できる事を心待ちにさせて頂きます。 帯愛好会の一員より」 読み終えて、牡丹の帯を思い出す。 多分、母親から貰ったお下がりの帯だ。自分にとってとっておきの時にしかつけないお気に入りの一つだ。 「て、ゆーか、つけまわされてたのーーー!?」 大きな独り言を叫び、真魚は呆然となった。 |
■参加者一覧
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
長渡 昴(ib0310)
18歳・女・砲
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●漢は男でも女でもあると思います まさかの挑戦状と何で自分が受けているのだろうかと呆れているのは輝血(ia5431)。 「好事家にも色々といるものですね。ジルベリアではフェティシズムと聞きましたが」 「ふぇてい‥‥何なんだ?」 長渡昴(ib0310)の呟きに首を傾げる叢雲怜(ib5488)に昴が説明する。 「物心崇拝とか、拝物愛のようなものですね」 「壷を買ったら幸せになれるという感じかな?」 「似ていると思います。よく知ってますね。そういうの」 似たような例えを言う怜に昴が感心すると、怜は誉められたのが嬉しくて、はにかんでしまう。 「へへ。さっき、そう呼び込みするおにーさんがいたんだぜ」 にこにこ笑顔の怜に数人がぴたりと止まる。 「水臭いですよ、真魚さん」 肩を叩かれる真魚の後ろにはレティシア(ib4475)がいた。 いつもは可憐な微笑みを浮かべているレティシアだが、今の笑みはまるで、死地に赴く戦友に向ける微笑みを浮かべてている騎士のよう。 共に戦う事を宣言するように甘刀をスタイリッシュに掲げた! 開拓者という者はいつだって先頭に立ち、後からつづく者が歩みやすくするものだ。 「その通りです。実害のあるへんたいは滅せねばなりません」 レティシアに習うように珠々(ia5322)が寄り添う。 「ええ、生かしてはいけません」 決意を露にする二人についていけず、真魚が途方にくれる。 「えっと、とにかく、真魚姉様を怖がらせている人を捕まえるからね! そうだよね、珠姉様、レティシア姉様」 状況にまだついていけなく、真魚を励まそうとしつつ、年の近い二人の姉様ズに確認を取るのはフレス(ib6696)。 「頑張りましょうね」 にこりと微笑むレティシアに対し、ぴたりと止まる珠々。 あまり自分より年下に会う事があまりなく、一番年下の事が多かったレティシアは年上として接せられる事は頼られているという事でとてもやりがいを感じてしまう。 一方、普段から一番年下で依頼でも一部の依頼人にちびっ子扱いされていた珠々は、年上として慕われるのは初めてと思われる。何でも上手くこなせる珠々の年下の扱いはまだまだのよう。 「なんだか、面白いんだよ♪」 珍しい珠々の姿を見ている怜にこっそりとフレスが耳打ちすると、怜もくすくす笑って頷く。 ●実害ある変態は痴漢です 真魚の案内で彼女が住んでいる長屋へ向かった開拓者達は真魚の住んでいる部屋に戻って真魚は牡丹の帯を取り出した。 「これがへんたいがほしがってる帯ですね」 じっと珠々が帯を見つめる。 「母の祖父が着物絵師で、母の誕生の時に作った帯だそうなの」 「見事な帯ですね」 うっとりとレティシアが帯を見つめている。数十年は確実に経っている帯ではあるが、綺麗に保存されていたらしく。色褪せもなく、綺麗に牡丹が咲き誇っている。 「この染めは‥‥朱藩のものですよね」 ふと、昴が思い出したのは懐かしき故郷の染物。 「私、出身が朱藩なの。着物に詳しいのですか?」 「そうなのですか。私も同じ出身なんです」 真魚が答えると、昴がぱっと明るくなる。 「ならば、尚更ですね」 ふと微笑む昴は意を更に改める。 真魚が帯を付け替えて街を歩く。 街の人達が釘付けになるという事はないが、意外にもこの帯は人目を引く。 「やっぱり、真魚姉様の帯は素敵なんですね。何だか、自慢しちゃいたくなります」 耳がピコピコ動き、しっぽも振り振りしているフレスは何だか上機嫌だ。 「とりあえず危険なのです」 警戒しながら珠々が歩いている。 美形美女がぞろっと揃っている神楽の都。美少女ぞろいはそうそうは心を動かされない。 「では、曲がります」 小声でレティシアが言えば、四人はそのまま人気ない方へと向かう。 賑やかな大通りを曲がると、人気が途端になくなってしまう。 ぴたりと珠々が止まる。 その様子に他の三人にも緊張が走る。 ふと、フレスが後ろを向けば、自分達に気にせず道を行く人々。 こくりと生唾を飲み込み、押し殺すように息を吐く。 瞬時に影が走る。 四人が警戒の頂点に達した時、想像通りの姿があった! 褌 褌 褌 褌 そこにいたのは女物の帯を褌代わりに巻いている男達。 一人、やたら帯が膨れている奴がいるが気にしてはいけない。 確かに、話通りの男達だ。 気を張っていたレティシアはやはり女の子なのだ。 「遠い所にきました‥‥」 物理的なのか経験値的になのかはさておいて、遠い目をする。 「レティシア姉様、しっかりー!」 呆然振りに気付いたフレスが声をかけると、はっとレティシアが我に返る。 そんな場合ではないのだ。今目の前に変態を捕まえなくては依頼人の平和は訪れない。 「間近で見るとやはり美しい‥‥」 うっとりする男達。 熱い視線を送っているのは真魚の帯だ。 「その帯、私達流の愛を貫く為、頂きます‥‥!」 男の一人が言うと、一人が走る。 フレスとレティシアに脇を任せ、珠々が迎撃に出た。 懐から出したのは人参‥‥を模した銃だ。 引き金を引くと、男はひらりと身軽にかわした。 「志体持ち!」 はっと真魚が叫ぶと、レティシアは手加減など無用と判断し、甘く優しい歌を歌いだす。 くらりと男の一人が倒れた。珠々と交戦している男は引っかかっていない。 珠々と交戦しているのを見て、開拓者と確認した残りの二人が真魚に襲い掛かる。 「真魚姉様に指一本触れさせないんだよ!」 一組の胡蝶刀を手にし、フレスが立ちはだかる。 フレスの臨戦態勢を見たレティシアが奴隷戦士の葛藤を歌い上げる。隷属となる事を拒み、支配しようとする者達への罵りを。 「うぐ‥‥」 動きが悪くなった所でフレスは威嚇として相手を斬りつけようとするが、男はなんとか避けたが、肌に一筋赤い線が引かれた。 男は尚も真魚の帯を執拗に狙う。 「いい加減にして!」 いくら開拓者とはいえ、小さな娘さんのフレスに迫る褌男に真魚の怒りの沸点に達する。 「ぐわ!」 べしゃっと虚しく男がひっくりかえって地面に叩きつけられてしまう。 「へ?」 きょとんとするフレスが周りを見ると二人は交戦中。 「大丈夫?」 「大丈夫なんだよ〜」 にこっと笑うフレスに真魚は安心したように微笑む。 男をひっくり返したのは真魚の力の歪みだ。 最後の一人はレティシアが更に前に出て迎え撃つ。 「褌姿で少女に迫る感想をぜひ」 たんっと、左足を軸にしてレティシアが囮となる。 「帯というものはただあるだけに非ず。結われてこその帯」 「ならば何故、娘さんから奪うのですか」 優雅に問答しあう二人はさながら舞踏会でダンスを踊っているようにも見えるが、片方が淑女でも片方は褌姿な事を忘れずに。 「結わえを解かれるからこそ、諸行無常を侘び寂を感じられるのです」 レティシアの手練れに危険を察したのか、男はひらりと間合いを取る。 「残念ですが、今回はここまでですね」 男が宣言すると、珠々と交戦していた男もさっと身を翻す。 「逃しません」 逃げ出す男達に珠々が追う。こちらはシノビとして変態に負けてはならないのだ。 二手に分かれたが、珠々は自分と交戦していた相手を追った。 珠々の追尾に気付いた男が振り向いた。決して逃がすわけには行かない。もう一度交戦しようとした時、男は褌に手をかけた! 身構える珠々だったが、男が結びを解くとそこにはもう一段階褌が締めてあった。 その柄は人参柄。 「‥‥え」 なにそれといわんばかりに珠々が固まってしまうが、男は気にしていないというかそのまま襲ってきた! 「人参に、人参に負ける訳にはいきません!!」 叫ぶ珠々に男は手加減なしと言ったように力を緩めたりはしない。 食べるわけではないが、数々のトラウマが脳裏をよぎった瞬間、男は珠々を投げ飛ばし、珠々は上手く受身を取ると、男はもう消えてしまった。 「人参め‥‥」 ぐっと、珠々が悔しそうに呻いた。 奪う派の相手をしている時、盗む派は長屋近辺でちょっとした罠や見張られていないかの確認をしていた。 昴が干し場を確認していると、それが共用である事を確認。 「難しいな‥‥」 ふむと考え込む昴に近所に住んでいるだろうおばさんに声をかけられる。 「あんた、開拓者だね。真魚ちゃんの依頼かい?」 「ええ」 神楽の都在住の一般人も開拓者を知らないものはいない。同じ神楽の都に住んでいるのだから、気兼ねなく声をかけてくる。 「ここに住んでいるんだから、変な人も少なからずいるんだけどね、実害があるのはダメだねぇ」 「全くその通りです」 「干し場は好きに使いなよ。なんだったら仕掛けもやっていいから」 気前よく言うおばさんがちょっと心強く感じつつ、微笑ましくも思える。 「仕掛けをする場合はその場所を教えます」 「助かるよ。今日は暑いでしょ、もう少ししたら西瓜冷えるからあんたもお食べな」 「ありがとうございます」 協力的な長屋の人達の言葉にほっこりしつつ、昴は狙った所に撒菱を巻く。 「昴、干場の確認はした?」 輝血が声をかけると、昴はしたと答える。 「潜入経路の後があまり見当たりませんでした。何らかの後があると思ったのですが」 「歩いて侵入したってワケじゃなさそうだね」 「となれば‥‥」 ある答えを導いた昴に輝血は頷く。 「受付嬢とはいえ、真魚だって志体持ち。挑戦状を叩きつけられるまで尾行されていたんだ。相手は志体持ち」 「‥‥開拓者じゃない事を祈るばかりですね」 思い切り溜息をついた昴だったが、おばさんの声で遮られた。 「スイカが冷えたよー!」 井戸端でおばさん達が西瓜を切り分けている。 「あまーい♪」 怜と長屋の子供達が幸せそうに食べている。それを横目に輝血は昴の陰に隠れるように西瓜を食べている。 三人で確認しあっていると、対奪う派班と真魚が戻ってきた。 「タマ?」 珠々の様子に気付いた輝血が声をかける。 「人参に逃げられました」 悔しさを滲ませつつ、珠々が言う。 「‥‥人参が食べたいのですか?」 ぽつりと昴が言うと、珠々ははっと正気に戻る。 「ち、ちがいます!!」 慌てて首を振るが、輝血の中では食わせる事が確定した模様。 「敵の中に志体持ちがいたんだよ!」 フレスがいうと、三人の調査が裏付けられた。 「わかったんだぜ。三人はお疲れ様なんだぜ。真魚も休んでて」 怜が労うと、三人は長屋のおばさん達から西瓜を貰った。 そろそろ日が沈む頃から対盗む派との戦いが始まる。 何も干されていない干場に真魚の帯だけが吊るされている。 怜は夜になると眠くなるが、きちんとお昼寝をしていたようでしっかり見張っている。 日が完全に暮れて、どこかで犬の遠吠えが聞こえてきた。巡回中の昴がふと、顔を上げるがすぐに干場へと戻る。 隠れている輝血が超越聴覚で音を拾っている。巡回をしている昴の足音は記憶している。そろそろ戻ってくる。だが、他にも足音が聞こえた。 「怜」 輝血が言うと、怜が頷くが、はっと人影に気付く。構えていたマスケット銃を使って空撃砲を発動させる。 空気が破裂するような音がして影達が散開する。だが、その着地地点には輝血が早駆を使って迎撃準備をしていた。相手の足首を掴んで輝血が投げ下ろす。 地に叩きつける音はしたが、致命傷になっていないことを輝血は分かっている。 その姿は間違いなく褌姿。褌が帯になっている。 「大人しくお縄につきなさい」 昴が長脇差を抜き、細身の美しい刀身を月の光に反射させている。 「そうは参りません。私達の存在意義の為、なんとしても貴方達を出し抜き、あの牡丹の帯を手に入れなければ」 「こちらも依頼人の平和を守るのが仕事ですので」 手加減しつつ、昴が男と対峙している。 「貴方達のお仲間の腕前は影より拝見させていただきました」 「奪う派を監視してたのか」 輝血と男が交戦している、輝血や昴を出し抜こうとする残りの二人が狙う。 「真魚の帯は渡さないんだぜ」 ターゲットスコープを使用しつつ、的確に帯に近寄らせないように空撃砲を使用し、威嚇射撃を行う。 「それぞれの戦いを見守る必要がありますからね」 ちらりと輝血が見れば影に隠れて何かが窺がっている気配と微かな音が聞こえる。 多分、奪う派がいるのだ。捕まった二人は番屋にいる。 「タマ」 ぽつりと輝血が呟き、間合いを取る。 見合っている間に風が走り、影に突っ込んだ。 少し離れた所から歌が聞こえると、盗む派から一人、影から一人が崩れ落ちた。 「夜は寝るものと決まっております」 「早く寝るんだよ!」 レティシアとフレスが姿を現し、帯を守る。 影に突っ込んだ風は珠々だ。現在、昼間の人参の男と交戦中。 「人数が増えましたが、あの帯を手に入れた方が勝ちとしましょうか」 昴と交戦していた男が言う。 「そうは参りません」 くるりと肩を返し、昴がブラインドアタックを発動させ、峰で薙いで男のわき腹を叩いた。 「うぐ‥‥」 ずるずると男は膝をついた。 残るは輝血と交戦している男。 「大体ね、帯って言うのは男を魅了させる為なもんなんだよ。結んで解かれて喜ばすもの。それを無視して一流の帯ラーを名乗るなんて許されない!」 「その通りです! 帯はお代官がくるくる解くものです!」 レティシアが力強く頷く。 「‥‥それも違うと思います」 呆れたように昴が呟く。 「真魚だって住所バレして怖がっているんだよ! それが変態帯愛好家紳士のするべき事じゃない!」 輝血の一喝で男達ははっと動きを止める。 「誰かを怖がらせるのは私達の本意ではありません。真魚さんを怖がらせたい訳ではありません」 もうしわけないと男達が真魚に謝る。 「貴女の言う通りです。私達は更に帯愛好家として磨かねばなりません。派閥を越えて」 男達がそれだけを残して消えてしまった。 見事に倒れた仲間を持ち帰って。 「‥‥‥あたし、余計な事言った?」 ぽつりと輝血が呟くが、誰も何も答えなかった。 ●鞄に詰めれないものは甘味ではないです 捕まえられなかったとはいえ、後日、長屋には帯が帰ってきたらしく、長屋のおばさん達は大喜びだった。 「あんみつ、あんみつおいしーんだよ☆」 フレスが嬉しそうにレティシアと餡蜜を食べている。 「怜君、お口に黒蜜がはねてるわよ。本当にありがとう。助かったわ」 真魚が怜の口元を拭きつつ、真魚が褒めちぎっている。お姉さんに誉められて怜は上機嫌。 「被害が収まって何よりです」 ほっとしながら昴が冷たい麦茶を飲んでいる。 珠々はじっと見目涼やかな『錦玉羹』を眺めている。透明な寒天の中に浮かんでいる色とりどりは飽きさせない。 「ねぇ、あれの中に中に人参とか入れれないの?」 店員に聞いているのは輝血だ。 「そ、そんなのは粋じゃないんです!」 珠々が否定の声を叫ぶ。ぎゃいのぎゃいの叫ぶ珠々の声を遠くに感じつつ、輝血の挙動を見守る気配に輝血は溜息をついた。 暫くその気配は続いたとか。 |