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■オープニング本文 理穴首都奏生。儀弐王の膝元には理穴を機能させる為の機関が多く存在する。 その中に理穴監察方という部署がある。 主に理穴内で不正や謀反を行っている者の調査、摘発を主とした部署である。国民に不安を与えないように表舞台には出ないのが常だ。 いくつかの組に別れ、その中の一つ、四組には三人の新人括りの役人がいる。 遊軍である四組は手が足りなかったり、影で調べ、事を表沙汰にしたくない為の調査役としてよく他の部署に借り出されている。 新米三人組も四組の仕事に倣い、よく他の部署に赴いている。 他部署の仕事を手伝うというのには色々と意味があるが、今はおいておく。 新米組の一人に入江欅という少女がいる。 少々人見知りな所はあるが、愛嬌があり、とても可愛らしいとこっそり評判だったりする。 「え、えーーー!」 素っ頓狂な悲鳴を上げたのは欅だ。 「女の子がそんな声をあげてはなりません」 やんわりと厳しく注意するのは欅の母親。欅は母親に似たのか、母親はとても可愛らしい顔立ちをしている。 「す、すみません」 しゅんとする欅に母親は仕方ないですわねと苦笑する。 「でも、私にはまだ‥‥」 「そんな事はありません。欅はもう十五歳になるのですよ。お見合いくらいあったっていいじゃありませんか」 欅が家に帰ると、母親に見合いを勧められたのだ。 「私は監察方のお仕事があります」 「お父様も困ったものです。欅の礼儀見習いと人見知りを直す為とはいえ、監察方に入れさせるだなんて」 溜息混じりに母親が呟く。 「私はお父様の考えはいいと思います。監察方の皆さんはちょっと厳しいけど、いい人ばっかりだし」 「羽柴家や上原家のご子息がいらっしゃる部署ですが、欅は女性なのですから」 「上原主幹は平等に私なら乗り越えられる仕事を与えてくれるのだから」 「それでも、危ない事に変わりはありません」 反論している欅だが、母親の言葉もわかる。 監察方は基本、調査が主な仕事。状況に寄れば、四面楚歌の状態だってあるのだ。 以前、現主幹である上原柊真は敵の懐に潜り込んで正体が判明されてしまい、大怪我を負ったのだから。 「欅、貴女は巫女の力があるから負った怪我は治せる。でも、怪我を負うという恐れは自身だけじゃないのですよ。私達家族にも心が傷つくのです」 それは一番理解しなくてはならない事だと監察方の中で必ず言われる。副主幹の檜崎が陰陽術の回復の術も使える為、それは入って一番先に肝に銘じられた。 「母は、貴女に怪我をして欲しくないの。だから‥‥」 「それでも、お見合いは間違ってます。私は好きな人と結婚したいです!」 きっぱり言う欅に母親も困り果てている。 「だって、由槻のお友達が欅を気に入っているっていうから」 ぴくりと、欅の眉が反応する。 「お母様、お見合いの相手って‥‥」 「その方よ。とてもいい方だし、欅の旦那様にいいかなって‥‥」 「もーーー! お兄様ったらーーー!」 立ち上がった欅がとたぱたと部屋を出て、兄の由槻がいる部署へと家を出た。 歩いていると、外に出ていた柊真と監察方副主席である梢一と顔を合わせた。 「どうした、血相を変えて」 心配そうに柊真が尋ねると、怒りしかなかったのに柊真の優しい声音で張り詰めていた欅の涙腺が緩んでくる。 「何かあったのか? 近くにいい甘味屋がある。話を聞こう」 こくんと、欅が頷くと、梢一がエスコートしてくれた。 「麻貴お兄様みたいです」 本来滅多に合う事のない主幹より上の人物である梢一に欅が言うと、梢一は優しく微笑む。 「麻貴の兄に当たるからな」 梢一は麻貴の義姉である葉桜の夫になり、幼少の頃から麻貴に剣術を教えた人物だ。一緒に居れば物腰が似てくるものだ。 三人で甘味を食べつつ、話を聞くと、男二人は困ったような顔をした。 「私、まったく監察方に貢献できてません。まだまだ覚える事が一杯あるのに」 「貢献はしているぞ。お前がたまに女性の護衛をした時は護衛する人から感謝されるからな」 「お前は良くやっている。お前にしか頼めない援軍の仕事だってある」 上司から励まされ、欅はやっぱり見合いしたくない、監察方の仕事がしたいとさくらんぼのような唇をかみ締める。 「すまないが、見合いだけはして欲しいのだが‥‥」 「なんでですか!」 困ったように柊真が言うと、珍しく欅が噛み付く。 「お前さんが言っていた見合いする場所な、今度、捕り物をする場所なんだよ‥‥」 「え?」 「決して、他の客には悟られてはならない。もし、混乱が起きた場合、お前は非難を誘導して欲しい」 小声で命じられる任務に欅はぎゅっと拳を握り締める。 「‥‥わかりました」 見合いは嫌だが、仕事が入れば頷くしかない。 とりあえず、会うだけというのを条件に見合いをするという事を欅は梢一と柊真に言われ、それを兄に伝えた。 母親も喜んでいたが、父親は心配そうでも可愛い娘が見合いをするという事に嫌そうな顔をした。 その夜、柊真は開拓者ギルドに赴いていた。 元同僚の白雪が担当してくれた。 「欅ちゃんって、あの新人の?」 「ああ、当人も仕事が好きなようでな。見合いをぶち壊してやってほしい。相手の奴も椎那の話に寄れば悪い奴じゃないからな」 「でも、椎名君や樫伊君は欅ちゃんが嫌がっているからぶち壊しに行きそうだけど」 「それも牽制してほしい。人員の調整でどうしても必要なんだ」 分かったわと白雪がくすくす笑う。 「でも、麻貴ちゃん、悔しがるわよね」 柊真もきっと、麻貴が聞いたなら悔しがるに違いないと笑った。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
劉 天藍(ia0293)
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669)
23歳・男・陰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
輝血(ia5431)
18歳・女・シ
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
アリアス・サーレク(ib0270)
20歳・男・砂
溟霆(ib0504)
24歳・男・シ |
■リプレイ本文 久々に理穴監察方の役宅に入った劉天藍(ia0293)は久々の四組の大部屋を眺めた。 「あまり変わってないようだな」 辺りを見回すと、見知った組員から声をかけられ、天藍は覚えてもらっていたようだ。 「あまり変わられても困るんだがな」 書類片手に現れたのは四組副主幹の檜崎だ。その隣には主幹である柊真がいるが、天藍はあれっと遠い記憶の中にいる人物に驚く。 「カタナシ? なんだバイトか?」 きょとんとする天藍に柊真ががっくりと肩を落とし、その後ろで椎那と樫伊がこっそり噴いている。 「冗談だよ。確か、本来の四組主幹なんだっけ?」 真面目な天藍だから本当だと思われてしまい、柊真は溜息をつく。 「まぁな」 「それで、欅君はそこでうずくまっているのかい?」 冥霆(ib0504)が隅で丸まっている欅を見つけ、欅にお菓子を与えている。 紫陽花の花を模した葛饅頭だ。 「わ、ここの葛饅頭好きです」 「少しでも心慰めにどうぞ」 冥霆がにこっと微笑むと、欅が嬉しそうにお礼を言う。 「しかし、そこまで毛嫌いするような物でもないんだがなぁ」 ふーっと、欅の方を見て溜息をついたのはアリアス・サーレク(ib0270)だ。 「見合いねぇ、やった事ないからピンと来ないな」 潜入や誑し込みの方が多い輝血(ia5431)にとって、今回の件は珍しいというか、勉強になるかもと勤勉さが見え隠れしている。 「見合いの裏で違法取引やなんて、なんつータイミングや。片方が嫌がっているならどっちもおじゃんになった方が何かと平和の為やろうな」 肩を竦めるのは天津疾也(ia0019)だ。 「お見合いは有耶無耶にしても、不正だけはきっちり正すべきですね」 きっぱり、御樹青嵐(ia1669)が言うと、欅は少し顔を俯かせる。 「お仕事とはいえ、私事でお見合いって‥‥」 しゅーんとする欅に和紗彼方(ia9767)がふむと見つめる。 「お仕事絡みなら尚更確り相手を見極めて話して気持ちを伝えた方がいいと思うよ」 諭す彼方は自分で記憶と引っかかり妙な顔をする。欅はまだ踏ん切りがついていないようで、珠々(ia5322)が欅の近くに屈む。 「大丈夫です。一緒についてあげます。お洒落もしっかりやります」 「珠々ちゃん‥‥」 「今回は違法取引の捕り物があります。お見合いを自分達で潰そうだなんて考えないようにしてくださいね。フッ飛ばしますよ」 珠々がぎろっと、椎那と樫伊を睨みつけると、二人の様子に珠々はきょとんとなる。 「‥‥そりゃ、欅が嫌なら俺達で潰したい‥‥」 「任務が絡んでいるなら優先しなくてはならないのは任務だ」 珍しくしおらしい二人に青嵐も助言を控えてしまう。彼らは理穴監察方に属している事を理解しているからだ。 「当たり前の事じゃないですか。任務は遂行するものです何に勝るものはありません」 覇気のない二人に首を傾げつつ、珠々が言い放つ。 「はい、そこまで」 柊真が珠々を抱き上げ、自分と同じ視線にあわせる。 「確かに、任務は大事だ。何をとるべきか考えるという事も必要だ。成長にはな」 「任務以外とるものがあるのですか?」 「あるさ。色々と見聞き出来るんだから、色々と勉強しておけ。そういう決断をせねばならない豊かな人間になれ」 柊真が諭すと、珠々はこっくりと頷いた。 「任務優先‥‥か」 ぽつりと、アリアスが呟くと、ふと、脳裏によぎったのは走馬灯の如くに駆け巡る故郷にいる姉妹達。 「‥‥婚期逃すぞ」 はっと、言ってしまった時にはもう遅しと、身体が覚えている反射神経が女性陣へと向くが、女性陣にはあまりピンと来てない模様。 「人の恋を追っかけるのが楽しいの分かるし」 両手を頭の後ろで組んであっけらかんと言うのは彼方だ。アリアスがほっとした瞬間、呟いたのは柊真だ。 「俺の妹に言ってくれ」 溜息混じりの言葉の後、柊真の頭にどこからか飛んで来たのか、表紙裏表紙を硬く厚い紙綴じた本が柊真の頭に命中した。 「欅が自力でする気がないから葉桜と輝血に任せようと思う。ついでにお前も着飾れ」 「にゃ!?」 という事で、珠々と欅は輝血に引きずられ、別室で待ち構えている葉桜に着飾られる。 残った男性陣と彼方は下調べを始めている。 「あれ、冥霆さんは?」 「下調べで情報収集やって」 きょろきょろする彼方に疾也が振り向く。 「檜崎さん、取引がある部屋の周囲を監察方で抑えられるか? 無駄に人が予約を抑えられては状況によっては不利になるからな」 「やってみる」 「見合い部屋と取引部屋が中の廊下と部屋一つ挟んでいるんだな。この部屋はなんとしても抑えたいな」 アリアスが言えば、柊真が監察方で押さえる部屋を確認し、交渉に出向いた。 「いつもの威勢の良さはいかがしましたか?」 青嵐が静かに打ち合わせを聴いている椎那と樫伊に声をかける。 「いつも通りですよ」 ぷいっと、そっぽを向いたのは椎那だ。 「欅さんのお見合いを知った時、どんな気持ちでしたか?」 「寂しいと思いましたよ。仲間が減りますから」 問いかけに答えたのは樫伊だ。 「でも、任務は大事ですから」 「そんな深刻にならなくてもいいさ」 天藍の明るい声に二人がきょとんとなる。 「せやせや、人生とは金と一緒で回るもの。なるようになるんや」 続けて疾也も笑う。 「ところで、どっちが欅ちゃんの恋人なんだ?」 その場にいた全員ががっくりと肩を落とした。 その一方、冥霆は秋楡がいる部署に赴いていたのだが、捕まってしまったのだ。 欅の見合い相手に。 怪しい人ではなく、困り果てていた秋楡に見慣れない冥霆を見て、話を聞いて欲しいと言って来たのだ。 「一目惚れかい」 「‥‥最初は普通の可愛い女の子だったんですが、ここの所随分と可愛くなって‥‥」 確かに、楽しいと思うものがあると、人は輝きを増すは確かだと冥霆は思う。 「ほほう」 「本当はただ話したいだけですのに、勢い余って、見合いをしたいと彼女の兄に話してしまったのです‥‥」 「結婚は考えてないと?」 「滅相もない! 彼女も私の事をよく知らないでしょうし、いくら武家の娘とはいえ、そんな事はさせれません!」 はっきり言い切る秋楡の瞳には一切の迷いも嘘もないと冥霆は判断した。 それから少し話を聞くと、ばったりととある人物に出くわした。どうやら、秋楡の護衛を受けた事があるらしく、とても礼儀正しく、仲間内からも信頼されている好青年だとか。曲者が出ても、無闇に傷をつける人物ではないようだった。 葉桜と輝血のオモチャになった二人はとても可愛らしく変身していた。 「可愛いね、珠々ちゃん」 「タマ、仮初忘れないように」 「はい」 欅の誉め言葉をどう貰っていいか分からず、珠々はとりあえず仮初を発動させる。 現場の料亭に入ると、長刃物はダメだと柊真に咎められてしまった。 「しゃーないな」 溜息をつく疾也が木刀を手にする。 「壊したら弁償は確実だからな‥‥」 同じくアリアスが懐に刀を仕込ませる。 「いい所の店であるのは確からしい。部屋を押さえるのが大変だったようだ」 部屋に通されて、天藍が周囲の様子を窺がう為、人魂を召喚する。 「人気ですから仕方ありませんね」 青嵐もまた、人魂を呼び出して周囲を確認する。 「見合い組が入ったようだね」 冥霆が超越能力で判断すると、疾也がそっと、障子をあける。 見合い組の部屋には、お友達の珠々を連れて欅が相手と見合っていた。 相手の青年はカチコチで兄はお友達の珠々が気になるようだ。こんな場で自分が初めて会う人間を連れてくるだろうかと、じーっと珠々を見ている。 「失礼だが、欅とは付き合いが長いのかい?」 「え」 「いや、当人がいる前で悪いが、欅は人見知りする子だ。欅にとってこのような席で私に初めて会う友人を連れてくる子が私と初見であるのだから、相当欅と仲がいいのだろうなと思ってな」 ぎくりと珠々が強張らせると、がらっと、閉めていた障子が開いた。 「あ、すまへん。部屋を間違えた」 「気にせず」 兄がにこやかに言えば、疾也はもう一度謝って障子を閉めた。 「ここ、ちょっと入り組んだ所にありますからね。珠々ちゃんはお仕事で知り合った子で、とても仲良しなんです」 にこっと、欅が言えば、そうかと兄は頷いた。 「間一髪やったな」 「助かった」 皆が拠点にいる部屋ではない所に疾也と柊真が客として食事を取っていた。 「向こうはどうなんや?」 「今、入ってきたようだな」 超越聴覚を使っている柊真が疾也に状況を伝えていた。 取引をする片方の役人を案内したのは女給の姿をした彼方で、一度部屋に案内し、障子を閉めて小声で伝えた。 予定通りの部屋に通された輝血は屋根裏から見合いの様子と取引の様子を窺がっていた。 (「ふぅん、見合いってああなんだ‥‥」) 珍しいものを見て、輝血が興味深そうに見ていると、異常聴覚で取引部屋に人が増える音がする事に気付く。 「ああ、これはこれは」 「先に飲んでいても構わなかったのだぞ」 「いえいえ。貴方様を差し置いて飲めません」 社交辞令が行われており、青嵐の人魂であるもふもふな鼠が物陰より窺がっている。 天藍は対角線上に自分達の部屋、取引部屋、開拓者拠点部屋、見合い部屋となっているので、樫伊と椎那を連れて待機している。 アリアスは中庭から向こうの部屋に檜崎と共にいる。バダドサイトを使って、役人と用心棒の顔を檜崎に伝えている。更に輝血が屋根裏部屋を伝って伝えると、檜崎がどこか勝気そうに頷いた。 「情報通りの人物だ。帳簿の押さえ、頼む」 輝血は言われるまでもないといわんばかりに屋根裏部屋へ戻った。 「‥‥見合いが目を離せないのだろうか」 ぽつりと、アリアスが呟くと、檜崎は「両方じゃないのか」と、くつりと笑う。 ●だんざーい せんりゃくー! 見合い部屋では、お約束へと向かっている。 (「これが噂の『後は若い人で』か!」) 取引部屋を監視しながら超越聴覚で輝血が見合い部屋も聞いている。 見合い部屋では兄の由槻が珠々を連れて、「二人で話してろ」と言って部屋を出た。 「それで、売り上げの方はどうだ?」 「上々です。ですが、少々働き手が‥‥」 「いくらでも替えはきく」 ニヤニヤと笑いながら地方に役人が帳簿を取り出した‥‥ 「何奴!」 用心棒達が立ち上がると同時に障子を破り越えて黒猫が走り出した! 「失礼する!」 がらっと、入ってきたのは椎那と樫伊と天藍。黒猫は更に奥へと進み、襖を押し倒して奥へと向かう。開拓者の拠点部屋へと更に走った! 「冥霆さん、用心棒の制圧を! 天津さん、上原さん、壁となってくれ! 彼方さんは退路を断て! 御樹さんは役人の捕縛を! 輝血さんは帳簿を抑えて!」 一目散に走り、庭を駆け抜けてアリアスが戦陣「砂狼」を使って布陣を完成させる。 戸を開いていた開拓者部屋を猫はスルーですり抜ける。 用心棒達が天藍達を追いかけると、一人は忍んでいた冥霆に組み手で見事に制圧され、天藍達が開拓者拠点部屋に入ると入れ違いに用心棒達の前に疾也と柊真が入ってくる。 「帳簿をそないな事に使こたらアカン」 木刀を構える疾也が言えば、用心棒達が隠していた小脇差を抜いた。 「よく隠せたもんだねぇ」 冥霆が呆れると、一人が冥霆の目をめがけて刀を薙ぐと、冥霆は軽やかに抑えていた用心棒を離し、飛び退いた。 「全くやな」 同じく疾也が虚心を使って素早く刃から回避し、後ろへ引いた。 猫はそのまま見合い部屋にも突き進み、秋楡が欅を守ろうと卓に膝を立てたが、その次の行動は疾也が用心棒を巻き込んで見合い部屋に入ってきた事で猫が更に奥へと走り去ってしまう。 「え!」 欅が驚くと、疾也が欅の腕をとって引っ張ると、向こうの障子が開き、珠々が出てきた! 「大丈夫ですよっ!」 「何奴か!」 珠々が欅を庇うと、その前を由槻が壁となる。 「二人とも、丸腰じゃ怪我するで!」 疾也が叫ぶと二人は心配無用と言う。秋楡が用心棒の懐に飛び込むと小手を狙い、手刀で用心棒の刀を落とす。 「無茶やんなぁ!」 苦笑した疾也ががら空きになった用心棒の腹に横から叩くと、用心棒はずるりと倒れた。 取引部屋では一度冥霆が離した用心棒が冥霆に斬りかかる。冥霆は回避して、用心棒の視界から外れる。代わりにアリアスが男の前に立ちはだかり、用心棒の意識はアリアスへと向かわれた。 冥霆はその隙を逃さず、背後を取り、一気に空中に飛び上がった! 間接を決められた用心棒は逃げる術はなく、そのまま座敷を越え、庭に落とされた。 最後の用心棒は柊真がさっくり気絶させたので問題はない。 「その帳簿、頂きますよ」 青嵐が符を地方役人に投げつけると、呪縛符が発動されて役人が動きが取れなくなった! 役人の手から零れ落ちる帳簿はしっかりと輝血の手に渡る。 「逃げたか」 静かに輝血が言えば、そのまま走り出した! 奏生の役人が騒ぎに乗じて逃げ出していた。 「お客様、そのように走られては他のお客様の迷惑となります」 「ええいどけ!」 彼方が立ち塞がり、役人はどかどか足音を立てながら彼方を押し避けようとするが、彼方は自身の繊手を役人の腕にかけ、役人の力を利用し、そのまま投げ倒した。 「迷惑行為はダメだよ」 ぽかんとする役人に彼方が可愛らしく怒る。 「これで全員だね」 「うん」 輝血が追って来て、器用に役人を立たせて勝手口へと向かう。犯罪者を正面から出させてはならないからだ。 「ねぇ、お見合いってどうなったの」 「噂の「後は若い人に任せて」が見れた」 「えーっ、本当にあるんだ!」 彼方が欅を心配して言うと、輝血は記憶を甦らせて呟けば、彼方の琴線に触れたようだ。 見合い部屋では乱入してきた事を天藍が由槻や秋楡に素直に謝っていた。 「欅さんの仕事仲間でしたか。仕事の時間を割いて私と会って下さっていたのですね」 秋楡は怒った風でもなく、穏やかに受け止めていた。 「欅さんはちょっと人見知りだし、話していけばきっと、仲良くなれると思う。そこからどうなるかはそちら次第だけど」 お節介上等で天藍が言うと、秋楡は頷き、天藍の助言を受け止めた。 天藍が人魂に壊させた襖や障子は人生勉強になったと感銘を受けた秋楡が修理代を出す事にしたそうだ。 「ね、青嵐ちょっと付き合って」 「はい?」 料亭のとある部屋で輝血と青嵐が見合っていた。 いつの間にかに輝血は振袖を着ていて、青嵐が以前贈った豪奢な簪を挿していた。 青嵐は青嵐で輝血が綺麗に着飾って、更に女神のようだと見惚れたり、目が合って照れて目を背けたり、背けてしまった事にしょんぼりしたりして青嵐は一人忙しい。 そんな青嵐の様子を見て、輝血はお見合いの雰囲気を肌で感じようとしている。 「御樹さん、目を背けたらだめだよ」 「ガン見されてるよ‥‥」 アリアスや彼方達がこっそり覗いていたのを輝血はしっかり確認していた。 白を切るようにししおどしの竹の音が響いた。 |